イノベーター理論
革新的なアイデアや技術(イノベーション)が社会に普及していく過程では、最も初期に受け入れる人、最後まで頑なに受け入れようとしない人など個人によって態度や受け入れ時期に違いが生じるが、これを採用時期によって5段階に分類し、それぞれがどのような属性や性質を持つ社会集団であるかを定義付けている。
アメリカの社会学者、エベレット・ロジャース(Everett M. Rogers)氏が1962年に著した “Diffusion of Innovations” (イノベーション普及学)の中で論じた理論の一部で、氏は経済現象に限らず従来にない目新しいもの全般について適用可能な理論として提唱したが、現代では新製品や新技術のマーケティングに関する理論として受容されている。
5つの集団の人数は均等ではなく、先頭と末尾が少数で中間が多い分布となっている。このため、経過時間に対する普及率を図示すると、初期はなだらかに普及率が上昇していき、途中で急激に普及率が上昇し、普及が一定以上進むと減速し最終的に停滞する「S」字型の曲線を描く。
イノベーター (innovators)
イノベーターは最初にイノベーションを採用するグループで、全体に対する構成は2.5%。多くに共通する性質として、社会的地位が高く、裕福で社交的であり、年齢は若く、技術的な知識への造詣があり、進取の気性に富み、リスクを取ることを厭わず、イノベーター同士の横の繋がりが強い。
地元の繋がり、同窓生といった狭い人間関係から飛び出し、都会的なライフスタイルを好む。リスクや損失、失敗を恐れず周囲に先駆けて新しいものを試すため、この層が飛びついたものは普及せず失敗に終わるものも多い。
アーリーアダプター (early adopters)
アーリーアダプターはイノベーターに次いで2番目にイノベーションを受け入れるグループで構成比は13.5%。社会的な地位の高さや裕福さなどはイノベーター層に近いものの、大きな違いとして、地元社会や長年の付き合いといったローカルな人間関係や社会を重視する。周囲の人物から尊敬され、お手本として参照されるオピニオンリーダー的な存在であり、新しいアイデアや製品を取り入れて成功した体験を周囲に伝えて広める宣教師のような役割を果たす。
アーリーアダプター自身も新しい良いものをいち早く周囲に広めることが自身の集団内での地位の向上や維持に繋がることを心得ているため、イノベーターのように「自身の興味の赴くままに何でもすぐに試す」ことはせず、効果や価値、普及の見込みなどを吟味する傾向がある。
アーリーマジョリティ (early majority)
アーリーマジョリティは3番目にイノベーションを採用する集団で、構成比は34%。大衆的な人々の中で普及の前半の段階で採用する集団で、イノベーターからアーリーマジョリティまでを累積すると構成比(普及率)が50%となる。
この層の人々は近い立場の人々と頻繁に交流するが、先導的な立場に立つことは稀である。自らの意思で進んで新しいアイデアを採用するものの、周囲に対してリードすることは無い。初期の採用者達と平均より遅れて採用する残りの人々の間に挟まる形で存在し、階層間を結びつける役割を果たす。
レイトマジョリティ (late majority)
レイトマジョリティは4番目にイノベーションを採用する集団で、構成比は34%。大衆的な人々の中で普及の後半(普及率50%以降)になってから採用する集団である。基本的に新しいアイデアには懐疑的で、他の人々が採用するまで様子見する。社会的な立場や経済面などの余裕の無さから、不確実性が取り除かれ安全であると確信できるまで採用を見送る傾向が強く、経済的な必要性や周囲からの心理的な圧力などに後押しされる形で採用を決断する。
ラガード (laggards)
ラガードは最も最後にイノベーションを受け入れる集団で、構成比は16%。社会の残りの人々がほとんど採用しても頑なに新しいアイデアに背を向ける人々である。地元社会などの狭い付き合いの中で生きるか、ほとんど社会的に孤立している人が多く、周囲にオピニオンリーダー的な存在がいない。
経済的にも不安定な立場に追い込まれている人が多い。伝統や過去にこだわり、前の世代や(中高年や老人の場合は)若い頃の発想や習慣を変えたくないという思いが強い。新しいアイデアの存在を認識してからも採用するまでに長い時間がかかり、自身の中での合理的な判断として採用を拒絶している場合がある。