ゲーム理論 【game theory】

概要

ゲーム理論(game theory)とは、複数の主体(個人、組織、生物など)が互いに影響し合う状況で下す意思決定過程を数理モデルを用いて分析する理論。経済学と応用数学から派生した理論だが、政治学や社会学、生物学、工学など様々な分野で応用されている。

ある意思決定主体の行動が自分だけでなく周囲の他の主体にも影響を及ぼし、また、他の主体の行動からも影響を受ける状況を「ゲーム」(game)と呼び、各主体のことを「プレーヤー」(player)と言う。プレーヤーは個人や企業、国家などの場合もあれば、植物や進化論における生物種のような、それ自体は意志を示さない存在である場合もある。

プレーヤーが取り得る行動の選択肢を「戦略」(strategy)と呼び、各プレーヤーは自らの利得を最大化するために行動を選択する。確定的に一つの行動を選択することを「純粋戦略」あるいは「純戦略」(pure strategy)、ある確率分布に従って確率的に行動を選択することを「混合戦略」(mixed strategy)という。

ゲームの種類

プレーヤー間で交渉して拘束力のある合意を結び、プレーヤー間の提携に対して利得が与えられるゲームを「協力ゲーム」、そのような合意が不可能で、各プレーヤーが自分の利得を最大化するために行動するゲームを「非協力ゲーム」という。実際に分析の対象となるのはほとんどが非協力ゲームであるとされる。

将棋やチェスのように、それまでに取られた行動や過去の状態に関する情報がすべてプレーヤーに与えられているゲームを「完全情報ゲーム」、麻雀やポーカーのように他のプレーヤーの過去の行動や状態が隠されていて分からないゲームを「不完全情報ゲーム」という。

ゲームのルールや構成要素についての情報をすべてのプレーヤーが共有しており、どの行動がどんな結果を生むが全員が分かっているゲームを「完備情報ゲーム」、プレーヤーの少なくとも一者が一部の情報を知らないまま行われるゲームを「不完備情報ゲーム」という。ボードゲームのようなルールが決まった遊戯は完備情報だが、現実の企業競争などは不完備情報となることが多い。

自分が利得を得ると他のプレーヤーの利得が同じだけ減るゲームを「零和ゲーム」(全員の利得の和が常にゼロ)、自分の利得の増減と他のプレーヤーの増減が必ずしも連動しないものを「非零和ゲーム」という。他に、プレーヤーの数(2人/多数)、終わりがあるか(有限/無限)、ランダムな要素があるか(確定/非確定)などでも分類される。

支配と均衡

他のプレーヤーがどんな行動を取ろうと、常に最も利得が高くなるような特定の行動が存在するとき、これを「支配戦略」という。すべてのプレーヤーに支配戦略が存在し、誰も他の選択肢に変更する動機を持たない状態を「支配戦略均衡」という。

また、各プレーヤーが他のプレーヤーの行動を考慮して自らの行動を選択するとき、どのプレーヤーもそれ以上高い利得を得ることができない行動が存在する状態を「ナッシュ均衡」という。支配戦略が存在しない場合でもナッシュ均衡に至る場合がある。

囚人のジレンマ

A:黙秘A:自白
B:黙秘A:2年 B:2年A:1年 B:8年
B:自白A:8年 B:1年A:5年 B:5年
▲ 囚人のジレンマ

ゲーム理論が明らかにする最も有名なパラドクス的な状況に「囚人のジレンマ」がある。これは互いに協力することが最も利得が大きいと分かっていても、相手の行動が確定しない状況で最適な行動を選ぶと結果的に悪い選択をしてしまうというジレンマである。

共犯と目される容疑者A、Bに検察官が司法取引を持ちかける。「両者とも自白すれば両者とも懲役5年だが、両者とも黙秘すれば両者とも懲役2年となる。ただし、片方だけが自白すれば自白した者は懲役1年、黙秘を続けた方は懲役8年となる」。

2人で相談できる状況であれば、合計の刑期が最も短い「両者とも黙秘」を選択することが合理的な選択となる。これを「パレート最適」という。しかし、両者は拘束され共謀することができない状況であるため、相手がどんな選択を取るか分からないまま自分の行動を決めなければならない。

容疑者Aにとっては、Bが黙秘した場合、自分が黙秘なら2年、自白なら1年となり、自白が得となる。Bが自白した場合、自分が黙秘なら8年、自白なら5年となり、やはり自白が得となる。Bがどちらを選択するかに関わらず、自白した方が利得が大きいと判断する。

これはBにとっても同じであるため、最も合計の刑期の長い「両者とも自白」を選択してしまうことになる。ここで重要なのは「相手が裏切るかもしれないという恐怖や不信感」などが無くても、両者が最も合理的に判断したつもりで自白を選択してしまう点である。

(2024.7.10更新)

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この記事の著者 : (株)インセプト IT用語辞典 e-Words 編集部
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