PDC 【Personal Digital Cellular】
概要
PDC(Personal Digital Cellular)とは、日本国内でのみ利用された、第2世代(2G)デジタル携帯電話の通信方式の一つ。1980年代後半に旧NTT(ドコモ分離前)が開発し、当時の電波システム開発センター(現電波産業会)が標準化した規格。800MHz/1.5GHzの周波数帯で通信し、基地局→端末(下り)と逆方向(上り)の伝送路の分割には周波数分割多重(FDD)を、同じ周波数帯を複数の端末で共有する方式として時分割多重アクセス(TDMA)を、それぞれ利用する。
第1世代のアナログ伝送と異なり第2世代では音声信号もデジタルデータとして伝送するようになり、PDCでは誤り訂正符号を含めハーフレート5.6kbps(キロビット秒)、フルレート11.2kbpsで音声データを伝送する。後にフルレートの音声情報の割合を高め通話品質を向上させたエンハンストフルレート(サービス名はハイパートーク/クリスタルボイス)が追加され、対応端末間で使用できるようになった。
データ通信は回線交換方式で9600bps(9.6kbps)、パケット交換方式(NTTドコモのDoPaなど)では最高28.8kbpsでの通信が可能だった。
当時は簡易型携帯電話のPHSとPDC携帯電話がよく比較されたが、PHSは通信速度が速く通話品質やデータ通信速度で勝り、PDCは高速移動中の基地局の切り替え(ハンドオーバー)に対応するなど通信の安定性、および通信可能な国土面積の割合(カバー率)で勝っていた。
1993年に当時のNTT移動通信網グループ(NTTから分離直後のNTTドコモ)がmova(ムーバ)の名称でサービスを開始し、当時のツーカーおよびデジタルホン(後のJフォン/ボーダフォン/ソフトバンク)、DDIセルラーおよびIDO(後のau)の全携帯電話(非PHS)事業者グループが第2世代の通信方式として導入した。
2G携帯電話の通信法規は日本以外はほぼ全世界がGSM方式で統一されていたが、当時の郵政省の政策もあり国内はPDCで統一され、また、当時のNTT法の縛り(国外進出の原則禁止)などの関係でPDCが国外で採用されることもなかった。なお、1998年にDDIセルラー・IDOグループがcdmaOne方式の携帯電話サービスを開始したため、PDCは国内唯一の2G標準ではなくなった。
PDCの時代はちょうど日本における携帯電話の本格的な普及期に重なり、多くの国民にとって最初に手にしたのがPDC方式の携帯電話機となった。2000年代になると世界標準の第3世代(3G)携帯電話(W-CDMA、CDMA2000)によるサービス開始と利用者の移行が始まり、最大手のNTTドコモは2008年にmovaの新規受付を停止、2012年にサービスを終了(停波)した。