ブラウン管 【Braun tube】 CRT / Cathode Ray Tube / 陰極線管
概要
ブラウン管(Braun tube)とは、蛍光物質に電子線を照射すると発光する現象を利用して、ガラスの面に光の像を映し出す装置。また、そのような原理を応用したテレビ受像機(ブラウン管テレビ)やコンピュータのディスプレイ装置(CRTディスプレイ)のこと。構造と動作原理
大きな真空管の奥に備え付けた電子銃から電子ビームを発射し、これを側面の偏光ヨークと呼ばれる電磁石から生じる磁界(電界を用いる装置もある)で曲げて、装置前面の蛍光幕に衝突させて発光させる。初期には単色(白黒/明暗)の表示しかできなかったが、後に光の三原色(赤・緑・青)を組み合わせてカラー表示できるよう改良された。
ビームはまず左上に照射され、右に平行に移動し、右端に達すると一段下がってまた左から右へ照射される。これを最下段まで繰り返し、左上から同様の走査を繰り返す。左上から右下まで達するのに要する時間は1/60~1/30秒であるため、蛍光幕の残光と視覚の残像により、画面全体で像を結ぶことができる。
特徴
表示内容を連続的に書き換えることができるため、静的な内容だけでなく映像のような動きのある内容を表示することができる。また、コンピュータなど外部の機器の出力装置として用いる場合、処理内容などをリアルタイムに利用者に提示することができ、対話的な操作を実現することができる。
後に開発された液晶パネルなどと比較すると、画面の発色や明るさでは優れているが、原理上、重量や消費電力は大きく、軽量化や薄型化、完全な平面化は難しい。機器の奥から電子を照射するという構造上、ある程度の奥行きが必要なうえ、電子の移動距離をなるべく均等にするには手前に凸の丸みを帯びた表示面が必要なためである。動作に高電圧や真空を利用するため修理や解体に危険が伴うという難点もある。
周囲に磁石や電磁ノイズを発する電子機器などがあると電子ビームの軌道が曲げられて像や発色が歪む現象が発生する。内部の金属フレームなどが磁化して恒常的に歪みが生じることがあるため、起動時などに金属部品の磁界を消去する消磁(デガウス)という操作が行われることがあった。消磁が行われると「ブーン」という特徴的な音を発する。
同じ像を長時間表示し続けると表示面の蛍光体に表示内容の跡が残ったままになり、表示内容が切り替わった後も残像が薄っすらと表示され続けてしまう「焼き付き」という現象が発生した。内容が切り替わり続けるテレビではあまり起きないが、コンピュータディスプレイや業務用の電子機器の表示端末などでは起きがちな現象で、一定時間操作が行われないと自動的に動画やアニメーションが表示される「スクリーンセーバー」機能が用いられた。
歴史
1897年にドイツのカール・フェルディナント・ブラウン(Karl Ferdinand Braun)が原理を発明し、初期にはオシロスコープとして実用化された。1920年代にはブラウン管を用いたテレビ受像機と無線による映像信号の遠隔伝送システムが発明され、第二次大戦を挟んで各国で次々白黒テレビ放送が開始された。1960年頃には多色表示のブラウン管が本格的に生産され始め、カラー放送、カラーテレビが普及した。
1970年代にはコンピュータ(当時の大型コンピュータ)の出力装置としてブラウン管に出力内容をリアルタイムに投影する「CRTディスプレイ」が開発され、それまでの印字装置やパンチカードに代わって普及していった。パソコンなどの小型コンピュータでも標準的な出力装置として広まった。
1990年代後半になるとプラズマディスプレイ(PDP)や液晶パネル、有機ELパネルなど薄型の表示装置の本格的な実用化が始まり、ブラウン管も薄型化や平面化を進めこれに対抗したが、液晶技術の急激な発達とコストダウンには敵わず、2010年頃までには市場からほぼ姿を消した。
現代では歴史的な展示など特殊な状況を除いてCRTディスプレイやブラウン管テレビを目にすることはなくなったが、真空管の「管」に由来する “tube” が英語の口語でテレビを表す用法があり、現代でもインターネット上の映像関連のサービスなどの名称として「~Tube」という表現が残っている。