プロトコル階層 【protocol hierarchy】 ネットワーク階層
概要
プロトコル階層(protocol hierarchy)とは、通信ネットワークで用いられる通信規約(プロトコル)を、機能・役割によって分類し、階層型のモデルに整理したもの。機械に近い側から人間に近い側に順に積み重ねた構造で表される。人間同士が意思疎通を行う場合に、どの言語を使うか(日本語か英語か)、どんな媒体を使って伝達するか(電話か手紙か)、というように伝達の仕方をいくつかの異なる階層に分けて考えることができるが、コンピュータ通信においても、プロトコルの役割を複数の階層に分けて考えることができる。
階層化することによって、上位のプロトコル(を実装したソフトウェア)は自分のすぐ下のプロトコルの使い方(インターフェース)さえ知っていれば、それより下で何が起きているかを気にせずに通信を行うことができる。電話機の操作法さえ知っていれば、地中の通信ケーブルや通信会社の施設で何が起きているか知らなくても通話できるのに似ている。
一般に、物理的な装置や伝送媒体に近い側を下位層(低レイヤー)、人間が操作するアプリケーションソフトなどに近い側を上位層(高レイヤー)とする。通信規格によって階層の分け方、各階層の役割は異なっているが、いくつかの有力なモデルが用いられることが多い。
TCP/IP階層モデル (DARPAモデル)
現在広く普及しているのはインターネット通信などで一般的な「TCP/IP階層モデル」(DARPAモデル)で、物理的な装置や伝送媒体に近い側から順に「リンク層」(またはネットワークインターフェース層)「インターネット層」「トランスポート層」「アプリケーション層」の4階層に分類している。
リンク層は物理的な伝送媒体・装置に対する中継ぎ(インターフェース)として機能する層で、EthernetやWi-Fi、PPP、MAC(Media Access Layer)、ARPなどが該当する。物理層の仕様自体は階層モデルに含まないとすることが多いが、リンク層が包含していると考えることもある。
インターネット層はTCP/IPの中核となる層で、IP(Internet Protocol)が機能する層である。IP(IPv4およびIPv6)自体に加え、その働きを補助するICMPやIGMP、IPsec、一部のルーティングプロトコルなどが含まれる。
トランスポート層はIPを利用して各アプリケーションが利用するデータを末端の機器間で送り届ける方法を定義する層で、通常は高信頼性のTCP(Transmission Control Protocol)か低遅延のUDP(User Datagram Protocol)のいずれかが用いられる。近年でははQUICやSCTPなどの選択肢も提供されている。
アプリケーション層は具体的な機能を定義した標準プロトコル、あるいは個別のアプリケーション固有のプロトコルが含まれる。Web通信のためのHTTP、ドメイン名とIPアドレスの対応関係を解決するDNS、電子メール送受信に用いられるSMTP、POP3、IMAP4などが該当する。
OSI参照モデル
1980年代にデータ通信の標準規格として制定された「OSI参照モデル」では、プロトコルを下位層から順に「物理層」「データリンク層」「ネットワーク層」「トランスポート層」「セッション層」「プレゼンテーション層」「アプリケーション層」の7階層に分類する。
このモデルに基づいて、OSI(Open Systems Interconnection)と総称される標準プロトコル規格群が策定されたが、1990年代のインターネットの普及によりTCP/IPモデルが事実上の標準となったため、OSIおよびOSI参照モデルが用いられることはほとんどなくなった。
OSIとTCP/IPは互いに仕様を参照せず独立に考案されたため、階層の分け方や役割に対応関係は存在しないが、概ね、OSIの物理層とデータリンク層がTCP/IPのリンク層に、ネットワーク層がインターネット層に対応し、トランスポート層の役割もほぼ同様となる。
一方、OSIではセッション層からアプリケーション層に分かれていた役割はTCP/IPではアプリケーション層にまとめられ、セッション管理やデータ表現などの機能は必要に応じてアプリケーションごとに個別に策定すればよいとされる。
現在でもOSI参照モデルはネットワーク技術の初学者への教育などで登場するほか、ネットワーク機器の分類でネットワークスイッチなどを「L2」(Layer 2:第2層)、ルータなどを「L3」(Layer 3:第3層)、プロキシなどを「L7」(Layer 7:第7層)などとするのはOSIモデルの階層に基づいている。