TRON 【The Real-time Operating system Nucleus】 トロン
概要
TRON(The Real-time Operating system Nucleus)とは、あらゆる機器、施設、設備にコンピュータが内蔵され、それらが相互に通信して連携動作する社会の到来を想定し、その中核となるコンピュータやソフトウェアのアーキテクチャ(基本設計)を構築することを目指すプロジェクト。1984年に当時東京大学助手だった坂村健氏が開始した。人間を取り巻く様々なモノにICチップやコンピュータシステムが組み込まれ、それらがネットワークで接続され協調動作することで社会インフラとして機能するシステムを「HFDS」(Highly Functionally Distributed System:超機能分散システム)と呼び、その実現に向けて各種技術のオープンな仕様の策定を推進した。特に、電子機器に組み込まれてその制御を司るリアルタイムOSの共通仕様の策定・普及で大きな役割を果たした。
TRONでは主にデータ形式やインターフェース仕様、利用者の操作体系(HMI:Human Machine Interface)などの仕様を策定し、ソフトウェアやハードウェアそのものの仕様や実装はほとんど規定していない。これは、システムを構成する要素間の互換性や接続性が確保されていれば、個々の製品の仕様は開発者が自由に決定すべきとする基本方針による。
TRONプロジェクト全体はいくつかのサブプロジェクトに分かれており、
- CPU仕様を策定する「TRONCHIP」(TRON仕様チップ)
- 組込み機器用リアルタイムOSの仕様を策定する「ITRON」(Industrial TRON)
- パソコンなどの人間が直接操作するコンピュータの装置やOSの仕様を策定する「BTRON」(Business TRON)
- 通信機器のOSやネットワークシステムの技術基盤を確立する「CTRON」(Communication and Central TRON)
- HFDSの構成要素を有機的に結びつけ連携させるOSの実現を目指す「MTRON」(Macro TRON)
などの研究・開発プロジェクトが置かれた。最も広く産業応用が進んだのはITRONで、後にITRONを核として「μITRON」や「JTRON」「eTRON」「T-Engine」などの派生プロジェクトが誕生した。
μITRON (micro ITRON)
TRONプロジェクトが策定している、産業機器などへの組み込みシステムに搭載するリアルタイムOSの標準仕様をμITRON(マイクロアイトロン)という。同仕様を策定するTRONプロジェクトのサブプロジェクトの名称でもある。
産業機器や輸送機械、家電製品、情報・通信機器などに組み込むコンピュータシステムを制御するためのOSの標準仕様を定めたもので、この仕様に準拠したOSを企業などが開発している。μITRON準拠のOSは様々な機器・プロセッサ向けに数十種類が存在すると言われる。
組み込みシステムの事情に即し、詳細で厳密な標準化やハードウェアの抽象化を避け、個々のOSの実装によりハードウェアの性能や機能を発揮できるようになっているが、μITRON準拠OS間の互換性が低く、ソフトウェアの移植性や再利用性が低いという問題もある。
最初のITRON仕様は1987年に発表され、1989年に後継のフルセット規格ITRON2と、小規模システム向けに仕様を絞り込んだμITRON2が発表された。その後、μITRONの方が広く普及したため、バージョン3.0からはμITRONが規格名称となり、仕様の縮小に関する規約も仕様本体に取り込まれた