集積回路 【IC】 Integrated Circuit / ICチップ / マイクロチップ / 半導体チップ
概要
集積回路(IC)とは、電子部品の一つで、トランジスタや抵抗、コンデンサ、ダイオードなど、多数の微細な素子を半導体基板の上に形成し、全体として複雑な処理を行ったり、大量のデータの記憶を行ったりできるもの。数mm~数cm角程度の小片であるため「ICチップ」「半導体チップ」あるいは略して「チップ」(chip)とも呼ばれる。マイクロプロセッサ(MPU/CPU)やマイクロコントローラ(MCU)、メモリ、センサー、電源回路など様々な種類があり、電子機器の中枢部品として広く利用されている。
かつては回路の集積度(素子の実装密度)の高いものを「LSI」(Large Scale Integration)、「VLSI」(Very Large Scale Integration)、「ULSI」(Ultra-Large Scale Integration)などと分類していた時代もあったが、現代ではこうした区別は行われなくなり、「LSI」以外の呼称もほぼ廃れている。
一般的な集積回路はシリコン(Si:ケイ素)などの半導体でできた数mmから数cm角のチップの表面に、数十万個から多いもので10億個以上の微細な半導体素子と、それらを結ぶ金属配線が実装されている。素子や配線は印刷や写真の手法に由来する光学的な焼付処理(フォトリソグラフィ)によっていっぺんにまとめて形成されるため大量生産に適している。
チップは樹脂などでできた外殻(ICパッケージ)に封入され、その周囲や裏面などに規則正しく並んだ金属端子で外部と接続される。用途に応じて電子基板(プリント基板)の所定の位置に組み付け、あるいははんだ付けされ、電子機器の一部として機能する。
主なICの種類
集積回路には大きく分けてデジタル信号を扱うデジタルICとアナログ信号を扱うアナログICがあり、デジタルICにはデータや信号の処理を行うためのロジック系ICと、データの記録に用いられるメモリICがある。
アナログICには各種のセンサーや変換回路、増幅器、無線信号処理といったアナログ信号処理用のICと、電源・電力制御を行うための電源ICなどがある。デジタルとアナログの両方の信号用の回路を内蔵したミックスドシグナルICもある。
ロジックとメモリ、デジタルとアナログなど複数の異なる種類の回路を混載し、単体でひとまとまりの大きな機能(機器の制御など)を提供するよう設計されたICを「システムLSI」あるいは「SoC」(System-on-a-Chip)などという。
また、汎用品(汎用IC)か特注品(カスタムIC)かによる分類、一枚のチップで完結した構造(モノリシックIC)か複数のチップや電子部品の複合構造(ハイブリッドIC)かによる分類など、いくつかの分類法がある。
ロジックIC
ロジック系のICは主にデータの演算や変換、処理、伝送、別の装置の制御などの機能を論理回路として実装したIC製品である。MPUやASSP(特定用途向け標準品)のようにメーカーが機能や仕様を決めて設計する汎用品(既製品)と、用途や組み込み対象ごとに個別に設計されるASIC(特定用途向けIC)に分かれる。
コンピュータの心臓部に当たるマイクロプロセッサ(MPU:Micro-Processing Unit)やデジタル機器の制御装置であるマイクロコントローラ(MCU:Micro-Control Unit)、デジタル信号処理に特化したDSP(Digital Signal Processor)、コンピュータグラフィックス関連の演算処理に特化したGPU(Graphics Processing Unit)などの種類がある。
MPUやMCUなどは内部に一時的なデータ保管のための記憶素子を内蔵した構成が一般的で、I/O制御といった従来は別のチップに分かれていた様々な機能や役割が統合されるようになってきているため、単純なロジック系ではなくシステムLSI/SoCに分類されることもある。
チップ製造時には特定の機能は与えられておらず、開発者が内部の論理回路の構成をデータとして与えることで機能するようになる「プログラマブル」(programmable)なICもある。方式や回路規模によってPLD(Programmable Logic Device)、CPLD(Complexed PLD)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などの種類がある。
ちなみに、「汎用ロジックIC」といった場合は、MPUなど規格や設計があらかじめ決まっている汎用製品という意味ではなく、NANDゲート、フリップフロップ回路といった単機能の論理回路を単体のICチップとして実装した製品のことを指す。
メモリIC
メモリ系のICは主にデータの記録に用いられるもので、コンピュータやデジタル機器の主記憶装置(メインメモリ)や内蔵プログラム(ファームウェアなど)の記録、永続的なデータ記憶装置(ストレージ)などとして用いられる。
大きく分けて、任意に読み書きが可能な「RAM」(Random Access Memory)と、使用時には記録済みデータの読み出ししかできない「ROM」(Read Only Memory)に分かれる。前者は電源を落とすと内容が失われる「揮発性メモリ」、後者は通電状態に左右されず常に記録内容が維持され続ける「不揮発性メモリ」である。
RAMは記憶素子の内容を維持するために一定間隔で再書き込み動作(リフレッシュ)を行う必要がある「DRAM」(Dynamic RAM)と、リフレッシュしなくても記憶が失われない「SRAM」(Static RAM)に分類される。前者は消費電力は大きいが低コストで高密度化(大容量化)しやすいためコンピュータのメインメモリに使われる。後者は高速性や省電力性が必要な組み込み用途などで使われる。
ROMは製造時に内部の回路に固定的に信号を記録し、以降は内容を変更することができない(現在ではこれをマスクROMと呼ぶ)。しかし、技術の進展でチップ製造時にはデータを記録せず、開発者が特殊な装置でデータを記録する「PROM」(Programmable ROM)が発明された。PROMがさらに発展し、内容の消去と再書き込みを繰り返し行うことができる「EPROM」(Erasable Programmable ROM)が生まれた。
さらに、すべての処理をコンピュータなど(読み出しを行う)機器に装着した状態のまま実行できる「EEPROM」(Electrically Erasable Programmable ROM)に改良され、さらに制御方式や書き換え性能などを向上させた「フラッシュメモリ」となった。フラッシュメモリはUSBメモリやメモリーカード、SSDなどの形で、従来の磁気ディスクや光学ディスクに代わって主流のストレージ装置として急速に普及している。