クラウド 【cloud】
概要
クラウド(cloud)とは、雲、大群、集団などの意味を持つ英単語。全体像の不明確なもやもやした塊・集まりを比喩的に表すことが多い。IT分野では、まとまった計算資源を通信ネットワークを介して遠隔から利用するシステム形態のことをクラウドという。従来は手元のコンピュータに導入して利用していたようなソフトウェアやデータ、あるいはそれらを提供するための機器や回線といった技術的な基盤を、インターネットなどのネットワークを通じて必要に応じて利用者に提供する方式を意味する。
IT業界ではシステム構成図などを描く際に通信回線の向う側にある外部のネットワークやコンピュータ、情報システムなどをまとめて雲の形の絵記号で記す慣例があることから、このように呼ぶようになった。クラウドと対比して、従来型の自前施設内に設置した機器やシステムを指す場合は「オンプレミス」(on-premises)という。
提供方式
サービスの提供者は大規模なデータセンターなどに多数のサーバコンピュータや通信機器などを用意し、遠隔からインターネットなどの広域回線網(WAN)を経由して契約者にシステムを操作させる。利用者は登録後すぐに用意されたシステムの提供する機能や資源にアクセスして使用することができる。
利用者は機器やソフトウェアの「買い切り」をせず、通信回線のように利用期間や利用実績に応じて料金を支払いサービスを利用する。オープンなサービスの場合はネット環境さえあればどのような場所や端末からでも自分用の操作画面やデータにアクセスできる。
課金体系
一般消費者向けサービスの場合は、登録や基本機能の使用を無料として、追加機能や容量に毎月一定額を課金するフリーミアムモデルを取るものが多い。
法人向けサービスの場合は、月額基本料金に使用実績(外部へのデータ転送量など)に応じた従量課金を組み合わせた料金体系のサービスが多い。
企業などで情報システムを運用する場合、自社内設置(オンプレミス)だと固定的に設備(その多くは税法上の資産)や人員を抱えることになるが、金額が同水準でもサービス料の形で支払う方が財務・会計の都合上好ましい場合も多い。
パブリッククラウドとプライベートクラウド
クラウドを運用するシステムのうち、広く一般の利用に供され、インターネットを通じてオープンにアクセスできるようになっているものを「パブリッククラウド」(public cloud)という。
契約者はインターネットを通じて事業者のサーバにアクセスして設定や管理などを行い、自らの業務のため、あるいは自らの製品やサービスの顧客のためにシステムを運用する。一般消費者向けサービスや、Webサイトやネットサービスの公開・提供のために用いられるクラウドサービスなどはこの形態を取る。
一方、特定のネットワークや登録利用者からのアクセスのみを受け付け、インターネットや公衆網からは切り離されて運用されているものを「プライベートクラウド」(private cloud)という。
企業や官公庁などが内部的に使用する情報システムの運用などに適した形態で、オンプレミス型の従来システム同様、組織内の施設や設備を用いて内部ネットワーク上に構築される。クラウド事業者が専用回線やVPNを経由して外部から切り離されたクラウド環境を提供する場合もあり、「仮想プライベートクラウド」(virtual private cloud)等と呼ばれる。
SaaS/PaaS/IaaS
クラウドは提供する機能や資源の種類により、大きく分けて「SaaS」「PaaS」「IaaS」の三つに分類することが多い。
「SaaS」(Software as a Service:サービスとしてのソフトウェア)は特定の機能を持つアプリケーションソフトをWebブラウザなどを通じて遠隔から操作できるようにしたサービスを指す。従来、オペレーティングシステム(OS)の一部として実装されてきた機能や、パッケージソフトなどの形で販売・公開されていたものをインターネットを通じてサービスとして提供する。オンラインストレージやWebブラウザで使用できるオフィスソフトなどが該当する。
「PaaS」(Platform as a Service:サービスとしてのプラットフォーム)はソフトウェアの実行環境を遠隔から操作できるようにしたサービスを指す。コンピュータにOSやミドルウェア、プログラミング言語処理系などを導入済みの環境を契約者に遠隔から操作させるサービスで、利用者は必要なアプリケーションを導入して使用する。従来のホスティングサービス(レンタルサービス)に近く、ネットサービス運用などのために用いられることが多い。
「IaaS」(Infrastructure as a Service:サービスとしてのインフラ)は仮想化されたコンピュータ自体を遠隔から操作できるようにしたもので、利用者はOSなどのソフトウェアをすべて自前で用意して導入・運用する。ハードウェアに近い階層から自由に操作・設定できるようにしたサービスで、企業などの情報システム運用などに適している。
“cloud” と “crowd”
日本語のカタカナ表記では同音異義語になる単語として “crowd” があり、こちらは群衆、大衆、観衆、人混み、押し寄せる、群がる、などの意味がある。Webサイトやネットワークサービスなどにおける「不特定多数の利用者の集団」などといった意味合いで用いられることが多い。
相互に繋がりのない(または薄い)利用者が少しずつ情報を出し合って全体として有益な知見を生み出したり、労力や資金を出し合って大きなプロジェクトを形成するといった文脈で用いられるが多い。「クラウドソーシング」(crowd sourcing)や「クラウドファンディング」(crowd funding)などの「クラウド」はこの “crowd” である。
関連用語
クラウド用語辞典
他の辞典による解説 (外部サイト)
この記事を参照している文書など (外部サイト)
- 独立行政法人日本芸術文化振興会委託事業 PwCコンサルティング「文化芸術活動におけるデジタル技術の活用による表現活動等の先行事例調査 調査報告書」(PDFファイル)にて引用 (2023年5月)
- 葛飾区 基本構想・基本計画策定委員会「今後の技術革新の動向について」(PDFファイル)にて引用 (2020年1月)
- 日立製作所「情報セキュリティ報告書 2018」(PDFファイル)にて引用 (2018年9月)