アップスケーリング 【upscaling】 アップコンバート / upconversion / アプコン
概要
アップスケーリング(upscaling)とは、映像を元の大きさよりも多い画素数に変換すること。映像を構成する画素自体を増大(拡大)する処理と、アスペクト比(縦横比)調整のために領域の付け足しや切り捨て、変形などを行う処理があり、両者を組み合わせることが多い。映像信号や映像データは走査線の数や縦横の画素数といった映像自体のサイズが記録時に決まっているが、これを再生時の環境(表示装置の画面サイズや操作画面上での表示領域の大きさなど)に合わせて引き伸ばす処理をアップスケーリングという。
例えば、縦横がそれぞれ2倍の領域に表示するには、画素数を縦横にそれぞれ2倍に増やせばよいが、単純に元の1画素の色情報を4画素(縦2画素×横2画素)に写しただけでは、正方形が連続したモザイク状の映像となってしまう。
このため、一定の演算手法により周囲の色情報と滑らかに連結するよう追加する画素の色を調整する処理が行われる。これによりモザイク状の表示自体は解消されるが、情報量が増えるわけではないため、全体に輪郭の不明瞭なぼんやりした映像となることは避けられない。文脈によっては、このような拡大時の色情報の補間処理のことを指してアップスケーリングと呼ぶ場合もある。
領域の増減・変形
また、拡大時に縦横比が元と異なる場合に、領域自体の増減や変形を行うこともある。例えば、アナログテレビ放送時代のSD映像(4:3)からDVDやデジタルテレビ放送などのHD映像(16:9)へ変換すると、元より横長の映像にしなければならないため、このような処理が必要となる。
よく行われるのは、元の映像の左右に縦長の帯状の領域(表示内容は黒一色とすることが多いが色を付けたり文字や画像などを置くこともある)を追加して横幅を広げる「サイドパネル」あるいは「ピラーボックス」、元の映像の上下をカットして横長にする「上下カット」、拡大時に各画素を正方形ではなく横長の長方形に引き伸ばす「アナモフィック」(アナモルフィック)などである。
アナモフィック変換はもともと横長の映像が潰されて縦長になっている場合(HD→SDへのスクイーズ変換など)には元の形状に復元できるが、元が4:3の映像を16:9に引き伸ばせば映像自体が横に引き伸ばされた歪んだ形になってしまう。
アナログテレビ放送時代に発売されたワイド型テレビの中には、受信したSD映像をワイド画面全体に表示するため、中央に近い領域はほとんどそのままで、画面の左右端に近づくほど画素を大きく横に引き伸ばす特殊なアナモフィック変換を標準の表示モードとするものもあった。視聴者の注意や主要な被写体は中央付近に集まっていることが多いため、左右端が大きく歪んでいてもあまり気にならないという心理的な特性を利用している。