量子暗号 【quantum cryptography】

概要

量子暗号(quantum cryptography)とは、量子力学の不確定性原理を応用した暗号方式通信に用いる物理現象や物理的実体(光子など)の量子論的な性質や振る舞いを利用して情報を伝達することにより、伝送経路上での盗聴を確実に検知することができる。

量子論の原理に基づく暗号は様々な手法が研究されているが、一般によく知られている手法は、共有鍵暗号秘密鍵暗号)の暗号鍵の配送(共有)に光ファイバーを用い、その際に光子の量子的な振る舞いを利用して第三者による盗聴やすり替えを防ぐ量子鍵配送」と呼ばれる方式である。

計算量的安全性と計算理論的安全性

現代の一般的な暗号方式のほとんどは、解読のための計算が現実的な時間で終わらないほど計算量が多いことを安全性の根拠としている(計算量的安全性)が、原理的には長い時間をかけて大量の計算をするか、量子コンピュータのような新しい原理に基づく計算手法により解読することは可能である。

一方、暗号理論では、平文と同じ長さの暗号鍵を事前に共有し、暗号化復号に一度だけ用いて毎回使い捨てにすれば、どれだけ計算をっても原理的に解読が不可能であるという原理(計算理論的安全性)が古くから知られていた。ただし、これまでは毎回平文と同じ長さの鍵を安全に伝達する現実的な手段が存在しなかった。

量子鍵配送 (QKD:Quantum Key Distribution)

量子鍵配送と呼ばれる代表的な量子暗号方式では、暗号通信う二者間に光ファイバーによる伝送路を用意し、平文と同じ長さの暗号鍵を生成して光通信により送信する。鍵データは光子の量子的性質を用いて符号化されるため、途中で攻撃者が観測をうと、量子的な性質が壊れ、受信側に正しくデータが届かないようになる。受信側でチェックをデータが壊れていれば、盗聴が疑われるため破棄して新たに鍵の配送をやり直す。

暗号文は従来の暗号方式と同じように信用できない通信経路を介して相手方に伝送し、受信側は量子暗号で受け取った暗号鍵を用いて平文復号する。

量子暗号の理論は1970年代には提唱されていたが、光子を安定的に発生、伝送する装置や媒体開発がなかなか進まなかった。2000年代に入ると実証実験の成功例が報じられ始め、現在では数百キロメートルの距離を伝送することが可能となっている。

(2018.7.8更新)

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この記事の著者 : (株)インセプト IT用語辞典 e-Words 編集部
1997年8月より「IT用語辞典 e-Words」を執筆・編集しています。累計公開記事数は1万ページ以上、累計サイト訪問者数は1億人以上です。学術論文や官公庁の資料などへも多数の記事が引用・参照されています。
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