EVM 【Earned Value Management】 アーンドバリューマネジメント / EVMS / EVA / Earned Value Analysis / アーンドバリュー分析
概要
EVM(Earned Value Management)とは、プロジェクトマネジメントにおいて進捗状況の把握・管理を行う手法の一つ。作業の到達度を金銭などの価値に換算したEV(Earned Value:アーンドバリュー、出来高)という概念で把握する。プロジェクト全体をWBS(Work Breakdown Structure)などを用いて細かい工程に分割し、各工程にかかる予算コストを見積もる。これをスケジュールに沿って積算し、各時点での計画値(PV:Planned Value)を用意する。プロジェクト完了時のPV、すなわち計画上の総予算を「BAC」(Budget At Completion:完成時総予算)という。
プロジェクト開始後、ある時点までに完了した工程の予算額の合計が出来高(EV:Earned Value)である。EVMにおける最も基本的かつ重要な指標で、ある時点までに完了した工程の予算コストの合計である。作業の到達度を金銭的な価値に換算したものと考えることができる。定義上、EVがBACに達するとプロジェクト終了となる。
また、その時点までにかかった実際のコストの積算値を実コスト(AC:Actual Cost)という。ある時点におけるEVがPV(計画上消化済みのはずの予算額)と異なる場合、両者の差が計画と実際のスケジュール差異(SV:Schedule Variance)となる。一方、ACがEV(計画上かかるはずだったコスト)と異なる場合、両者の差が計画と実際のコスト差異(CV:Cost Variance)となる。
例
例えば、全体が3つの工程に分かれ、それぞれ工期1か月、予算100万円(全体では3か月、300万円)という見積りのプロジェクトがあり、2か月が過ぎた時点で150万円を支払って1つ目の工程が完了したとする。
この時点でのEVは1つ目の工程にかかるはずだったコストの100万円、PVは2か月で完了しているはずの2つの工程の予算である200万円、ACは実際に消費した150万円である。計画と実際のコスト差異(CV)は100-150で-50万円、スケジュール差異は100-200で-100万円である。
これを見て分かる通り、CVが正ならコストが予算に収まっており、負なら予算超過である。SVが正なら計画より早く進行しており、負なら遅延が生じている。スケジュールの進捗状況も金額に換算して表現される点が特徴的である。
グラフ
EVMでは進捗を積み上げ折れ線グラフに図示することで、状況の推移を視覚的に分かりやすく把握することができる。原点をプロジェクト開始時として、横軸を時間、縦軸を金額としてPV、EV、ACの3本の折れ線グラフを描画する。
プロジェクト開始時には原点から右上に伸びるPVのみが描画される。進行に伴って原点からEV、ACが徐々に右上に伸びていく。PVの線に対してEVが上方ならばスケジュールは順調で、下方ならば遅延している。また、EVに対してACが上方ならば予算超過で、下方ならば予算内に収まっている。
EVMの意義
EVを中心に考えることで、プロジェクトの進行中にコスト、スケジュール両面の進捗状況を統一的な尺度で把握することができる。それまでの計画とのズレの大きさから、完成までの総時間、総コストを予測することもできる。
EVMは1960年代に米軍で考案された手法で、アメリカ政府では一定額以上の入札に関して事業者にEVMに対応することを義務付けている。プロジェクトマネジメントの標準的な手法をまとめたPMBOKでも進捗管理の基本的な方法論として紹介されている。近年では日本でも情報システムの公共調達などで、EVMによる管理と進捗の報告を入札条件とする案件が多く見られる。
補助的な指標
EVMではEV、PV、AC、BAC、CV、SVといった主要な指標や値の他に、様々な分析や管理を行うために以下のような補助的な指標を算出して用いることがある。
- CPI(Cost Performance Index:コスト効率指数)は、ある時点までに投入した実コスト(AC)に対する出来高(EV)の比率である。実際のコストが予算に対してどの程度節約、あるいは超過したかを表す指標で、EV/AC という式で求められる。1を上回っていれば予算内、下回っていれば予算超過である。
- SPI(Schedule Performance Index:スケジュール効率指数)は、ある時点の計画値(PV)に対する出来高(EV)の比率である。現在の進捗が予定よりどの程度先行あるいは遅延しているかを表す指標で、EV/PV という式で求められる。1を上回っていれば進捗は計画より早く、下回っていれば計画より遅れている。
- EAC(Estimate At Completion:完成時総コスト見積り)は、ある時点における完成時の総コストの見積り額である。作業が現状のペースで推移したら最終的にどのくらいのコストがかかりそうかを推計したもので、AC+(BAC-EV)/CPI(あるいは、ETCを用いて AC+ETC)という式で算出される。
- ETC(Estimate To Completion:残作業コスト見積り)は、ある時点における完成までの残り作業量を、相当する予算コストの金額で表したものである。EVと同じように作業量をその過程で消化する予定の金額に換算して表したもので、(BAC-EV)/CPI(あるいは、EACを用いて EAC-AC)という式で算出される。
- VAC(Variance At Completion:完成時コスト差異)は、ある時点における完成時の総コストの見積り(EAC)と、計画上の総予算(BAC)との差異である。BACからEACを引いたもので、負の値であればEACの方が小さく、予算内でプロジェクトが完了しそうだが、正の値であればBACの方が小さく、総コストが予算を超過しそうであると分かる。
関連用語
他の辞典による解説 (外部サイト)
この記事を参照している文書など (外部サイト)
- 日本内部監査協会「全社的リスクマネジメント(ERM)を活用した内部監査手法の研究」(PDFファイル)にて引用 (2014年10月)