基本情報技術者単語帳 - ビジネスインダストリ

XBRL 【eXtensible Business Reporting Language】

企業の財務諸表や財務報告などを記述するための標準的な形式を定めた規格の一つ。XMLを応用した言語の一つで、一度入力した財務情報を関係機関で共有し、ソフトウェアによる自動処理で伝達、保存、加工などすることができる。

企業などが財務状況の報告や申告、公表などを行う場合、電子文書などを用いることはこれまでもあったが、形式はまちまちであり、また、人間が読んで理解することしか前提としていないため、文書中の数値などを他の組織やシステムで利用しようとすると内容を人間が解釈して人力で再入力するしかなかった。

XBRLではXML標準に基づいて財務情報を記述する方法を定めており、例えば、ある企業のある会計年度の決算における貸借対照表といった文書を機械可読な形式で作ることができる。作成された文書内のどの項目が何を表しているのかをソフトウェアが自動的に把握して処理に活かすことができる。

企業など情報源となる機関が一度XBRL形式でデータを作成して提供・公表すれば、他の機関や関係者はこれをソフトウェアで読み込んで自らに必要な処理や手続き、計算や集計、文書作成などに流用することができる。

文書の構造

XBRLで作成される文書は、記述する財務文書の内容や構造、文書中に登場する項目や数値の意味や形式、相互の関連性などを定義したタクソノミ文書群(XBRL Taxonomy)と、特定のタクソノミに基づいて作成された実際の財務文書であるインスタンス文書(XBRL Instance)に分かれる。

タクソノミはXML規格の一種であるXML Schema(.xsdファイル)とXLink(.xmlファイル)を用いて作成され、インスタンス文書で使用するタグ(要素)やその属性などを定義し、勘定科目名や数値データ間の関係を表す式、項目の表示順などを指定することができる。

インスタンス文書(XBRLファイル)は標準で「.xbrl」の拡張子がついたテキストファイルとなっており、記述に使われたタクソノミを参照するURLなどが冒頭に記述されている。XBRLファイルを読み込むにはファイル自体の他にタクソノミファイルが必要になる。

タクソノミは各企業などが独自に定義してXBRL文書に添付する場合もあるが、何らかの機関への申告や報告に用いる場合は当該機関により指定されたタクソノミを入手して利用する。日本では金融庁のEDINETや日本取引所グループのTDnet、国税庁のe-Taxなどで用いる開示書類や報告書、申告書などのXBRLタクソノミがそれぞれの機関から公開されている。

歴史

XBRLは業界団体のXBRL Internationalが仕様を策定しており、1998年に初版(XBRL 1.0)が発行された。この仕様ではタクソノミの記述にDTD(Document Type Definition)を用いていたが、2001年のXBRL 2.0でXML SchemaとXLinkで記述するよう大幅に仕様が変更された。

2003年に小幅に改訂されたXBRL 2.1が発表され、その後は微修正が発表される程度で大幅な改訂は行われていない。日本ではバージョン2.1仕様を元に2005年にJIS X 7206として国内標準が策定された。

SFA 【Sales Force Automation】

企業で利用される情報システムやソフトウェアの一種で、営業活動を支援して効率化するもの。顧客や見込み客を登録し、それぞれについての情報や接触履歴を記録して営業活動に役立てる。

既存顧客や見込顧客のそれぞれについて、営業活動に関連する情報を記録・管理することができ、過去の商談の履歴や、現在進行中の案件の進捗状況、営業活動を通じて入手した重要な情報、アポイントメントや期限といったスケジュールなどを一覧したり編集することができる。

営業支援システムをチームで利用することによりチーム内で常に最新の状況を共有することができ、属人性を排して組織として効率的に営業業務を進めることができる。

既存顧客との関係を管理する情報システムやソフトウェアをCRM(Customer Relationship Management)というが、多くの企業では既存顧客への営業も重要な営業活動であるため、CRMが営業支援システムの機能を取り込んだり、営業支援システムにCRMとしての機能が追加される事例が増えており、両者の融合が進みつつある。

コンタクト管理 (contact management)

顧客の要望や取引相手との交渉内容などを整理し、データベース化して管理することをコンタクト管理(contact management)という。顧客ごとに詳細な情報を持つことで、それぞれに応じた最適のサービスを提供することを目的とする。

営業担当者の間では以前から個人レベルで行われていたことだが、これを一元的に管理して社内で共有することで、後のサポートや新製品のセールス、マーケティング分析などに応用することが可能になる。SFAの重要な一環として様々な企業で整備が進められており、専用のソフトウェアも販売されている。

チームセリング (team selling)

営業担当者が個々に営業活動を行うのではなく、営業部門全体として戦略的に活動を行うことをチームセリングという。グループ単位で一つの企業に売り込みをかける、などの行動を指す。

個々人の受注成績ではなく、営業部門全体の生産性を上げようという考え方に基づいた行動であり、顧客を企業全体の資産とする観点が背景にある。実現のために必要な要素として、スキルや情報を共有することによる営業プロセスの標準化や、営業活動の経過や結果の共有が挙げられる。SFAの一環と言うことができ、それを援助するソフトウェアも開発されている。

グループウェア

組織や集団の内部で情報共有やコミュニケーション、共同作業などを行うことができるソフトウェア。ネットワークを通じて一つのシステムに集団内の情報を集約し、連携して働けるようにする。

企業などの部署内で所属メンバーが効率的に連携して働くことができるように設計されたシステムで、複数の機能を組み合わせたものが一般的である。どのような機能があるかは製品などにより異なるが、

  • 電子メールやチャット、メッセンジャーなどのコミュニケーション機能
  • 離れた場所にいるメンバー同士が動画や音声で話し合うことができるビデオ会議やWeb会議
  • 特定のテーマや対象について情報を交換したり話し合う電子掲示板(BBS)
  • 業務に関連する文書ファイルなどを共有できるファイル共有(ドキュメント共有/ライブラリ)
  • メンバー間で日程の告知や調整を行うスケジュール管理
  • 決済や作業の進行状況を管理するワークフローシステム
  • メンバー間やチーム間で社内の設備利用の調整ができる会議室予約
  • 計画の進捗などを管理するプロジェクト管理システム

    などを備えていることが多い。

    クライアントサーバ型のシステムが一般的で、サーバが情報の管理やメッセージの交換などの機能を提供し、参加者は手元の端末に導入したクライアントからサーバにアクセスして機能を利用する。近年ではクライアントにWebブラウザを利用するシステムも一般的となり、端末や場所を選ばずどこからでも利用できる。

ワークフローシステム

組織内の特定の業務の流れを情報化し、コンピュータシステムで状態の管理を行えるようにしたもの。主に書類の作成や回覧など情報の流れを扱う業務で導入される。

従来は主に紙の書類を担当者間や部署間で回覧したり、決済者が押印するなどして行っていた起票、申請、決裁、稟議などの手続きを情報システム上にソフトウェアの機能として再現し、電子的な手段で実施できるようにする。

システム上に業務を構成する手順を定義し、これに沿ってそれぞれの担当者が必要な情報の入力を行うと、各工程で適切な管理者への回覧や手続きの要求が行われ、承認が入力されると次のプロセスへ自動的に進行する。

各段階の決裁権者への問い合わせ業務が自動化されるため業務の迅速化が見込めるほか、各業務に関与すべき役職や部署および役割の明確化、進捗や現況の可視化、検索性や保存性の向上、記録保全による法令遵守や内部統制の強化、ペーパーレス化によるコスト削減や省資源化などが期待できる。

Web会議 【Web conferencing】

Webブラウザで利用できるアプリケーションおよびネットサービスの一種で、離れた場所にいる人同士が資料やデータを共有して共同作業を行ったり、音声や動画をリアルタイムに交換して会議を開くことができるもの。

それぞれ離れた別の場所にいる人たちの間で文書などのファイルやソフトウェアの操作画面を共有し、共同で資料の編集などを進めることができる。カメラやマイクのあるコンピュータを使えば簡易なテレビ会議/ビデオ会議を開催することができる。

専用のテレビ会議システムなどに比べ音声や動画の品質では劣るが、専用の部屋や機材、回線が不要なため低コストで導入できる。WebブラウザやHTTPなどWeb関連のソフトウェアや技術の組み合わせで構築されているため導入や運用も容易である。パソコンやスマートフォン、タブレット端末など様々な端末に対応している製品も多い。

著名な製品およびサービスとしては、米ズーム・ビデオコミュニケーションズ(Zoom Video Communications)社の「Zoom Meetings」、米マイクロソフト(Microsoft)社の「Microsoft Teams」および「Skype for Business」、米シスコシステムズ(Cisco Systems)社の「Cisco Webex」、米グーグル(Google)社の「Google Meet」(旧Hangouts Meet)などがある。

パッケージソフト 【プログラムプロダクト】

既成品として販売されているソフトウェア製品。または、物理的な記憶媒体に記録され、箱などに梱包されて販売されるソフトウェア製品。

既成品という意味のパッケージ

既成品という意味のソフトウェアパッケージは、開発元が自ら設計・開発して完成品として流通事業者や顧客に販売しているソフトウェア製品を指し、利用者の要望に応じて個別に設計・開発されるオーダーメイドのソフトウェアと対比される。

個人が購入・利用するソフトウェアのほとんどはパッケージだが、企業などの情報システムでは構想時にパッケージと個別開発を比較検討してどちらにするか選択することがある。ソフトウェアパッケージの中には機能を改変したり追加できる仕組みを提供しているものもあり、これを利用して一部を自らの必要に応じて作り変える(カスタマイズ)場合もある。

ソフトウェアパッケージはすでに完成して販売されている製品であるため、利用者側にとっては設計や開発にかかる時間を省いてすぐに購入して利用することができる。他にも利用者がいるため、使用ノウハウなどの有益な情報を開発元から得るだけでなく利用者間で共有できる場合がある。多数の利用者が日々使用することで問題点なども早期に発見され、速やかに修正されることが期待される。コストも同規模、同機能、同性能で比較すればほとんどの場合既成品の方が安い。

ただし、仕様は開発元が策定し、潜在的利用者が共通して求めると想定される最大公約数的な内容であることが多いため、個々の利用者にとっては自らにとって必要な機能が不足していたり、不要な機能ばかり多く費用対効果が低かったりする場合もある。当然ながら自分(自社)しか使用しない特殊な機能などが標準で実装されることは期待できない。

物理的な梱包という意味のパッケージ

提供方式としてのソフトウェアパッケージは、プログラムやデータがCD-ROMやDVD-ROM、Blu-ray Discなどの物理的なメディアに記録され、マニュアルや保証書、利用許諾契約書(ライセンス)などと共に紙箱やプラスチックケースなどに梱包されて利用者に届けられるものを指す。店頭で販売され利用者が購入して持ち帰る場合と、オンラインで注文して宅配便などで配達される場合がある。

インターネットを通じてプログラムなどを配布するダウンロード販売(オンラインソフト)や、Webブラウザなどを介してインターネット上のサービスとしてソフトウェアの機能を提供するSaaS/クラウドサービスなどと対比される。

インターネット回線が低速だったりWebシステムの機能が貧弱な時代にはソフトウェア製品の標準的な提供手段だったが、現代ではスマホアプリのようにネットワークを通じた提供が一般的になり、パッケージ販売はパソコン向けの一部の製品で行われるのみとなっている。

CRM 【Customer Relationship Management】

顧客の属性や接触履歴を記録・管理し、それぞれの顧客に応じたきめ細かい対応を行うことで長期的に良好な関係を築き、顧客満足度の向上や取引関係の継続に繋げる取り組み。また、そのために利用される情報システム。

データベースなどを用いて各顧客の詳細な属性情報や購買履歴、問い合わせやクレームの内容などを記録・管理し、問い合わせに速やかに対応したり、買い替えやメンテナンスなどの提案を行なったり、その顧客に合った新製品を紹介したりといった活動が中心となる。

顧客と良好な関係を継続することで、次回の買い替えや追加購入、別の商品の購入などで他社よりも優先的に検討してもらうことが期待でき、また、顧客の周囲の人々や各種の調査などで自社(製品)の評価やイメージの向上を図ることができる。

広義には、見込み顧客に対する売り込み(セールス)活動の管理や支援も含まれる。個々の見込み顧客ごとに接触履歴(担当者との面会履歴、ダイレクトメール等の送付状況、セミナーなどの参加履歴など)や案件や商談の進捗などを記録・管理し、組織的・効率的に成約に向けた販売活動を展開する。そのための情報システムは「SFA」(Sales Force Automation/営業支援システム)とも呼ばれる。

顧客管理を展開するためのシステムは単体のパッケージソフトやネットサービスなどの形で提供されることもあるが、ERPパッケージの一部(SAP CRMやOracle CRM、Microsoft Dynamics 365 CRMなど)やSFAシステムの一部(Salesforce CRMなど)として提供されるものの市場シェアが高い。SugarCRMのようにオープンソースとして無償で利用可能なソフトウェアもある。

POSシステム 【Point Of Sales system】

小売店などで客に商品を販売する際に何がいくつ売れたかを単品ごとに端末に入力し、売上や在庫などの情報をリアルタイムに管理するシステム。

専用のキャッシュレジスター(POSレジ)を用いて商品パッケージのバーコードを読み取り、販売した日時や数量などと共にシステムに入力する。むき出しの生鮮品などバーコードを貼付できない商品は端末に設けられたボタンやタッチパネルで販売員が商品を指定する。

得られたデータはネットワークを通じてストアコンピュータ(ストアコントローラ)と呼ばれる管理用コンピュータに登録され、同じ企業が複数店舗を展開している場合やフランチャイズチェーンの場合は本部のITシステムに情報が集積される。

POSシステムを通じて得られた情報は、売上や利益、税金など各種の会計上の計算、在庫や発注の管理、売上動向の把握や解析、販売促進施策の計画や効果測定など、様々な用途や目的のために活用される。

商品に付けられるバーコードを、メーカーなどがあらかじめ包装などに印刷やシールで掲載した状態で納品する方式を「ソースマーキング」、店内で専用の端末からシールを印刷して貼付する方式を「インストアマーキング」という。

CDN 【Content Delivery Network】

Web上で送受信されるコンテンツを効率的に配送するため、インターネット内に単一の事業者が構築した広域的なネットワーク。また、これを利用して顧客企業のコンテンツを高速に配信するサービス。

CDN事業者はインターネットの様々な場所にコンテンツ配信用の「キャッシュサーバ」を設置しており、これらは大容量の回線で相互に接続されている。キャッシュサーバには配信元である顧客のWebサーバ(オリジンサーバ)から配信されるコンテンツの複製(キャッシュ)が保存され、全サーバがオリジン側の最新コンテンツと同じ内容になるよう常に同期している。

オリジンサーバへアクセス要求があると、アクセス元に地理的あるいはネットワーク的に近い位置にあるキャッシュサーバが代理応答し、キャッシュとして保存されている内容を送信する。多数のサーバで接続要求を負荷分散することができ、アクセス元とオリジンサーバが遠距離(別の大陸など)の場合に遅延時間を短縮することができる。

国際的に活動する企業や世界的なネットサービスでは世界中からアクセスがあるが、アクセス元の国にCDN事業者のキャッシュサーバがあれば、各端末が個別に遠距離の通信によってコンテンツを取り寄せる必要がなくなる。CDNの普及によりインターネット全体での重複トラフィックの削減や回線資源の利用効率の向上にも寄与している。

CDNの例

CDNサービスの先駆者として1998年創業の米アカマイ・テクノロジーズ(Akamai Technologies)社が有名だが、他にも専業の大手として米クラウドフレア(CloudFlare)社や米ファストリー(Fastly)社、韓シーディーネットワークス(CDNetworks)社などがよく知られる。

米アマゾンドットコム(Amazon.com)社の「Amazon CloudFront」、米グーグル(Google)社の「Cloud CDN」、米マイクロソフト(Microsoft)社の「Azure CDN」など、大手クラウド事業者などが手がけるサービスもある。グローバル展開する大手事業者は世界100か国以上に渡って数十万台に及ぶキャッシュサーバ群を擁し、インターネット全体の数%から10%以上に及ぶトラフィックを捌いている例もあると言われる。

ERPパッケージ 【Enterprise Resource Planning package】

企業の経営資源を有効に活用し経営を効率化するために、基幹業務を部門ごとではなく統合的に管理するためのソフトウェアパッケージ。典型的な企業活動全般をカバーする機能が揃っている。

各部門ごとに別々に構築されていたシステムを統合し、相互に参照・連携できるようにするもので、調達・購買、製造・生産、物流・在庫管理、販売・受発注管理、人事・給与、財務・会計などの機能が共通のシステム基盤のもとに提供される。

部門をまたぐ情報の流通や業務の連携などが容易になり、業務の迅速化に資する。パッケージの仕様や機能に合わせて業務プロセスやデータ形式などの標準化が必要になるため、業務効率の向上や属人化の排除が進む。

経営層にとっても各部門の状況をリアルタイムに把握しやすくなり、部門ごとの最適化による非効率を排して全体最適化を促したり、意思決定の精度向上などを期待できる。

全社のシステムを統一された基盤で運用できるため、設備や人材の集約・集中化による効率化、機材やソフトウェア、データ形式などの種類の削減による個別対応コストの低減などが期待できる場合もある。

ERPパッケージは仕様の決まった既成品であるため、導入時には原則として現場の業務手順をパッケージ側に合わせる形となるが、国や業界による商習慣の違いや企業ごとの事情に合わせて一部の動作を変更・修正したり、追加の機能(アドオン)を個別に開発して導入できるようになっている。

ただし、このような個別のカスタマイズを行いすぎると自社向けシステムをゼロから個別開発(スクラッチ開発)するのと変わらなくなり、ERPパッケージのメリットが損なわれてしまう。

ERPパッケージは1990年代から本格的な普及が始まり、当初は社内に個別システムが乱立しやすい大企業や中堅企業向けの大規模な製品が主流だったが、近年では中小企業の業務システムをパッケージ化してオンラインで提供するクラウド型のサービスなども登場している。

著名な製品としては独SAP社の「SAP S/4HANA」(旧SAP R/3)や「SAP Business One」(中小企業向け)、米オラクル(Oracle)社の「Oracle E-Business Suite」(Oracle EBS/旧Oracle Applications)や「NetSuite」(クラウド特化型)、米マイクロソフト(Microsoft)社の「Microsoft Dynamics AX」や「Dynamics NAV」などがある。日本ではワークスアプリケーションズの「COMPANY」や「HUE」の人気も高い。

ユビキタス

遍在する、至る所にある、どこにでもある、おなじみの、などの意味を持つ英単語。ITの分野では、世の中の至る所にコンピュータが埋め込まれ、通信ネットワークを介して互いに連携し、人々がコンピュータの存在を意識せずにその利便性を享受できるような社会や情報システムのあり方を表す。

1988年に米ゼロックス(Xerox)社のパロアルト研究所(PARC:Palo Alto Research Center)の主任研究員だったマーク・ワイザー(Mark Weiser)氏が、社会にコンピュータが溶け込み、いつでもどこでもその機能や能力を活用できるコンピュータの新しいあり方を提唱し、“ubiquitous computing” (ユビキタスコンピューティング)と名付けた。

日本では、1984年に東京大学助手(当時)の坂村健氏が新しいコンピュータの基本設計(アーキテクチャ)を構築するTRONプロジェクトを創始し、その目指す超分散型システムが実現する社会の姿を「どこでもコンピュータ」と表現した。概念的にはユビキタスコンピューティングとほぼ同様で、2000年頃からは氏も積極的にユビキタスコンピューティングの語を用いている。

2000年代前半には、携帯電話やインターネットの急激な普及、コンピュータ応用製品の小型軽量化・低価格化の進行などから、今後の社会の方向性としてユビキタスコンピューティングの概念が注目を浴びるようになった。

「ユビキタスネットワーク」(いつでもどこでもアクセス可能な通信ネットワーク)、「ユビキタス社会」(ユビキタスコンピューティングが実現した社会)などの派生語も用いられるようになった。2004年には日本政府内で「e-Japan戦略」の後継として、「ユビキタスネット社会の実現」を掲げる「u-Japan政策」が総務省の主導のもと開始された(2009年終了)。

もとより抽象的、総論的な概念なこともあり、ユビキタスコンピューティング的な製品やサービスが次々に実用化・普及していくのとは裏腹に、「ユビキタスコンピューティング」という語そのものは2010年代には次第に使われなくなっていった。

しかし、「コンピューティングが偏在し、生活や社会に溶け込む」というコンセプトは様々な分野で受け入れられ、スマートフォンをはじめ、「IoT」(Internet of Things:モノのインターネット)「センサネットワーク」「M2M」「ウェアラブルコンピュータ」「AR」(Augmented Reality:拡張現実感)「スマートハウス」「RFID」など、より具体的な技術や製品、サービスに形を変えて浸透している。

IoT 【Internet of Things】

コンピュータなどの情報・通信機器だけでなく、世の中に存在する様々な物体(モノ)に通信機能を持たせ、インターネットに接続したり相互に通信することにより、自動認識や自動制御、遠隔計測などを行うこと。

自動車の位置情報をリアルタイムに集約して渋滞情報を配信するシステムや、人間の検針員に代わって電力メーターが電力会社と通信して電力使用量を申告するスマートメーター、大型の機械などにセンサーと通信機能を内蔵して稼働状況や故障箇所、交換が必要な部品などを製造元がリアルタイムに把握できるシステムなどが考案されている。

これまでの情報システムとの違いとして、個々の機器の取り扱うデータ量や処理量、通信量は少ないが機器の数が桁違いに膨大であることや、従来のコンピュータ製品が人の周りや特定の場所(建物や部屋)に集中しているのに対しIoT機器は世の中の様々な場所に分散して配置される点などがある。

こうした特徴を反映し、低コストで生産でき低消費電力で稼働するICチップや、多数の機器からデータを集約して解析したり、同時に多数の機器を制御するソフトウェア技術、低消費電力で遠距離通信が可能な無線技術、環境中から微小なエネルギーを取り出す技術(エナジーハーベスティング)などの研究・開発が進められている。

LPWA (Low Power Wide Area)

IoTに必須の要素として、装置の消費電力が少なく、多数の機器を一つのネットワークに収容できる広域的な無線通信技術があり、これを「LPWA」(Low Power Wide Area)と総称する。そのような通信方式で構築されたネットワークは「LPWAN」(Low Power Wide Area Network)とも呼ばれる。

IoTを実現するには、携帯電話網など従来からある広域無線技術に比べ、十~数十kmといった遠距離や広い範囲をカバーでき、乾電池などの乏しい電源でも数か月から数年は稼働できることが求められる。一方、人間がスマートフォンなどの通信機器に求めるような高速なデータ伝送能力は必ずしも必要なく、数十~数百kbps(キロビット毎秒)程度あれば実用に供することができる。

このような特性を備えた新しい通信方式をLPWAと呼び、具体的な規格として「Sigfox」「LoRa」「Wi-Fi HaLow」「Wi-SUN」「LTE-M」「NB-IoT」「RPMA」などの方式が提唱されている。

M2M/センサネットワークとの違い

以前から、機器同士を直接繋いで自律的にシステムを運用する「M2M」(Machine to Machine)や、通信可能なセンサーを分散配置して高度な監視や制御を可能にする「センサネットワーク」(WSN:Wireless Sensor Network)などの概念が存在し、これらはかなりの部分がIoTと重複している。

ただし、IoTはインターネットへの接続を前提とするのに対し、これらの技術は閉じた専用ネットワークや独自プロトコル(通信規約)での運用を想定している場合が多い。また、M2Mやセンサネットワークは特定の目的のために機械同士が情報のやり取りすることで処理が完結する仕組みであることが多いのに対し、IoTは接続された機器と人や外部の情報システムとの相互関係がより重視される傾向がある。

IoE (Internet of Everything)

「ありとあらゆるものが接続されたインターネット」という意味で、モノのインターネットと、人やデータ、情報、ソフトウェアなどが中心の従来からあるインターネットが統合された姿を指す。

とはいえ、従来のインターネットとの違いは多数のモノが接続されている点であるため、実際上はIoTとほぼ同義として用いられることが多い。主に米シスコシステムズ(Cisco Systems)社が提唱している用語である。

デジタルツイン

シラバス:Ver.9.0 (2023年)

現実世界の対象から詳細にデータを収集し、コンピュータ上でモデルとして再現する手法。分析やシミュレーション、予測などを行い、得られた有用な成果を現実にフィードバックする。

ツイン(twin)は双子という意味で、物理空間上の対象物の状態をセンサーなどで詳細に調べ、デジタル空間上にそっくりそのまま再現する。デジタルの「双子」には現実の状況が常に反映され、シミュレーションなどを行い将来予測や工程の最適化などを行うことができる。

主な応用分野として期待されているのは製造業で、製品のデジタルツインに稼働開始後の現実の状況を反映させて効率的に保守や故障予測を行うシステムや、生産ラインの機械の配置や稼働状況をデジタルツイン化して効率化や管理・運用の自動化などを進めるシステムなどの事例が見られる。

また、建設業では建設現場の機材や人員の配置や稼働状況などをデジタルツインで監視して遠隔から施工状況を詳細に把握、管理できるシステムが、公共分野では社会インフラのデジタルツインによりメンテナンスや更新を効率化するシステム、都市のデジタルツインに現実に試すことができない様々なシミュレーションを行い政策立案に活用するシステムなどが提案されている。

サイバーフィジカルシステム 【CPS】

シラバス:Ver.9.0 (2023年)

現実世界からセンサーなどで収集した様々なデータをコンピュータシステム上で処理・解析し、結果を現実世界へ反映(フィードバック)する仕組み。高度な機械制御、自動化などの仕組みに応用されている。

コンピュータ上に現実世界の一部をモデル化したサイバー空間(cyberspace)を構築し、現実の物理世界(physical space)からセンサーなどで取り込んだデータを反映させる。モデルを利用して未来予測やシミュレーションなどの処理を行い、目的の結果が得られるよう機器を制御したり人間に働きかけて現実世界に結果をフィードバックする。

例えば、自動運転システムは目的地までの地図データや現在地のデータ、センサーが捉えた視界前方の観測データをリアルタイムに取得している。これを車体と前方空間をモデル化したシステムに反映させ、次の瞬間にどのような制御を行えば良いか判断し、アクセルやブレーキ、ハンドルなどを操作している。

自動運転車のように単体の機械単位のシステムだけでなく、仮想空間内でモデル化した工場でシミュレーションを繰り返して機械の配置や制御を最適化する施設単位のシステムや、電力消費量をリアルタイムに収集して送配電システムの制御に反映させる社会規模のシステムなどもある。

工場のシミュレーションのように、仮想空間内に現実世界の対象をモデル化して再現したものを「デジタルツイン」(digital twin)という。機器やシステムを連携させて構築する仕組みにはセンサーや制御システムがネットワークで結ばれていることが重要であり、「IoT」(Internet of Things:モノのインターネット)がその重要な構成要素となる。

ブロックチェーン

一定の形式や内容のデータの塊を改竄困難な形で時系列に連結していく技術。内容が随時追加されていくデータ群を複数の独立した対等な主体の間で安全に共有することができる。仮想通貨(暗号通貨/暗号資産)の開発を通じて誕生し、他の用途へも応用されている。

ブロックチェーンを用いて記録されたデータはインターネットなどを通じて参加者間で複製、共有されるが、途中の一部を改竄しても全体を整合性のある状態にすることは困難な性質があり、特定の管理者や管理システムが存在しなくても真正なデータを共有することができる。

この性質を応用し、ネットワークに参加する二者間の取引を記録した台帳データを参加者間で共有しつつ、取引の発生に応じて追記していく分散型台帳を実現することができる。この台帳によって値の移動を追跡、検証可能な方法で記録したものを一種の通貨として利用する試みを暗号通貨という。

ハッシュ値とPoW(Proof of Work)

各ブロックには記録されるデータと共に、一つ前のブロックのデータから算出したハッシュ値が添付される。ハッシュ値はデータの長さによらず固定長の短いデータで、元になるデータが少しでも変化すると規則性なくまったく異なる値になるという性質がある。

これにより、チェーンの途中にあるブロックの内容を改変すると、次のブロックに記録されたハッシュ値と一致しなくなる。これを整合するように改変しても、今度はその次のブロックのハッシュ値と一致しなくなるため、後続のすべてのブロックを連結し直さなければならない。

単にハッシュ計算をやり直して連結し直すだけならばデータ量によってはすぐにできる場合もあるが、多くのブロックチェーン技術ではハッシュ値が特定の条件を満たすようブロックに短いデータ(nonce:ナンスという)を追加する。適切なナンス値を発見するには多数の候補値を用意して条件を満たすまで何度も繰り返しハッシュ値を算出し直す膨大な総当り計算が必要となる。

あるブロックのハッシュ値が条件を満たすことができるナンス値が発見されると、ようやくブロックを閉じて連結することができる。この工程を「PoW」(Proof of Work)と呼び、ビットコインなどのシステムではナンス値を算出した利用者に報酬として新たに暗号通貨を発行する仕組みになっている(コインのマイニングと呼ばれる)。

算出に時間がかかるナンス値が各ブロック毎に用意されていることにより、攻撃者が途中のブロックを改竄しても、後続のすべてのブロックのナンス値の割り出しをやり直さなければ正しいチェーンを得ることができず、改竄を極めて困難にすることができる。システムによってはPoWの代わりにPoS(Proof of State)など別の仕組みを用いる場合もある。

歴史

2008年に「Satoshi Nakamoto」(サトシ・ナカモト)という日本人風の名を名乗る匿名の人物(身元が分からず個人なのか集団や機関なのかも不明)が暗号通貨ネットワークの「ビットコイン」(Bitcoin)を立ち上げ、同時に公開された論文の中でその原理をブロックチェーンの語で紹介したのが最初である。

その後、ビットコインを模した暗号通貨が数多く作られ、インターネット上の交換所を通じて現金との間で、あるいは暗号通貨間で活発に取引が行われている。現在は主に投資用の資産として売買されており、通貨としての機能、すなわちモノやサービスの売買の決済、支払い手段としてはほとんど普及していない。

台帳に取引記録以外の情報を載せることで様々な仕組みを構築することもでき、ある種のプログラムを搭載して条件に応じて自動的に実行する「スマートコントラクト」などが提唱されている。2015年頃からブロックチェーンを金融取引などへ適用する試験的な取り組みなどが活発になっているが、今のところ暗号通貨のように既存の技術や制度では実現できない、あるいは決定的に優位性のある用途は見つかっていない。

トレーサビリティ 【追跡可能性】

過程や来歴などが追跡可能である状態のこと。一般の外来語としては、消費財や食品などの生産・流通の過程を履歴として統一的に記録し、消費者などが後から確認できること、および、そのような制度やシステムを意味することが多い。

ITの分野では、システム開発などの各工程で制作される様々な文書やプログラムなどについて、対応関係や変更履歴などを記録し、追跡や検証ができる状態をトレーサビリティという。

例えば、要件定義と仕様書、仕様書とソースコード、仕様書とテスト仕様書などの間で、前工程で規定された項目が後工程の成果物に漏れなく反映されているかをチェックできるようにすることなどを指す。

Society 5.0 【ソサエティ5.0】

日本政府の科学技術政策の中で提唱された未来社会の構想。ITの高度化と社会への浸透によりサイバー空間と物理空間を高度に融合し、経済の発展と社会課題の解決を図るとされる。

2016年度に始まった第5期科学技術基本計画の中で提唱されたコンセプトで、これまでの人類社会の変遷について、狩猟社会を「Society 1.0」、農耕社会を「2.0」、工業社会を「3.0」、現在の情報社会を「4.0」と位置付け、その次に訪れる段階という意味で「超スマート社会」を提唱している。

サイバーフィジカルシステム(CPS:Cyber-Physical System)を念頭に、ITシステム上に築かれたサイバー空間(仮想空間)と、我々が実際に暮らす現実世界(物理空間)を高度に連携、融合させる。産業や社会、人々の生活に革新(イノベーション)をもたらし、経済発展と社会の諸課題の解決を両立させた人間中心の社会を目指すとされる。

こうした社会を実現するための鍵となる技術として、クラウドコンピューティング、IoT(Internet of Things)およびセンシング技術、機械学習システムなどの人工知能(AI)技術、ビッグデータやデータ解析・シミュレーション技術、ロボットや自動運転車などの自動化技術などが挙げられている。

Society 5.0 【ソサエティ5.0】

日本政府の科学技術政策の中で提唱された未来社会の構想。ITの高度化と社会への浸透によりサイバー空間と物理空間を高度に融合し、経済の発展と社会課題の解決を図るとされる。

2016年度に始まった第5期科学技術基本計画の中で提唱されたコンセプトで、これまでの人類社会の変遷について、狩猟社会を「Society 1.0」、農耕社会を「2.0」、工業社会を「3.0」、現在の情報社会を「4.0」と位置付け、その次に訪れる段階という意味で「Society 5.0」を提唱している。

サイバーフィジカルシステム(CPS:Cyber-Physical System)を念頭に、ITシステム上に築かれたサイバー空間(仮想空間)と、我々が実際に暮らす現実世界(物理空間)を高度に連携、融合させる。産業や社会、人々の生活に革新(イノベーション)をもたらし、経済発展と社会の諸課題の解決を両立させた人間中心の社会を目指すとされる。

こうした社会を実現するための鍵となる技術として、クラウドコンピューティング、IoT(Internet of Things)およびセンシング技術、機械学習システムなどの人工知能(AI)技術、ビッグデータやデータ解析・シミュレーション技術、ロボットや自動運転車などの自動化技術などが挙げられている。

e-Gov

総務省行政管理局の運営する総合的な行政ポータルサイト。電子政府の総合窓口。各国の電子政府施策を表す一般名詞(e-governmentの略)として用いられる場合もある。

日本政府の「e-Gov」は2001年に開設されたインターネット上のポータルサイトで、各府省の提供している情報やオンラインサービスを横断的に利用できるようまとめている。2015年にはソフトウェアから申請等を行うAPI機能の運用を開始した。

現在提供されている主なサービスとしては、各府省の行政サービスや施策に関する情報、各種手続きの「電子申請」、各種法律や政省令を検索・閲覧できる「法令検索」、各機関の施策に対する「パブリックコメント」、行政文書を検索できる「文書管理」、国が保管する個人情報の帳簿を検索できる「個人情報保護」、政策に関する企画・提案の投稿などがある。

電子政府 【e-Government】

行政府の業務や施策に情報システムやインターネットを活用すること。事務の効率化や手続きの簡素化、行政サービスの利便性の向上などが見込まれる。

主な取り組みとして、文書管理など庁内業務のIT化の推進、インターネットによる情報提供、申請や手続き、取引などの電子化やオンライン化、部署や分野をまたがる関連手続きのワンストップサービス化などが挙げられる。

日本では2000年のIT基本法の制定、IT戦略本部の設置、いわゆるe-Japan戦略の策定により、電子政府を推進することが定められた。2018年には「デジタル・ガバメント実行計画」が策定され、2020年にはデジタル庁設置、2021年にはIT基本法に代わってデジタル社会形成基本法が制定されている。

インターネット上では総務省が主導して「e-Gov」(イーガブ)の名称でポータルサイト(総合窓口)が開設されており、各種の電子申請や法令検索、パブリックコメント受付、手続検索、行政サービスに関する案内などのサービスを提供している。

LGWAN 【Local Government Wide Area Network】

都道府県や市区町村などの地方自治体のコンピュータネットワークを相互接続した広域ネットワーク。地方公共団体情報システム機構(J-LIS)が運営しており、中央省庁間の広域ネットワークである政府共通ネットワーク(霞ヶ関WAN)とも相互接続されている。

全国の地方公共団体の庁内LANと直結し、情報交換や共有、一部の情報システムの共用化などを行っている。インターネットからは切り離された閉域ネットワークであり、各庁舎内のコンピュータやネットワークもインターネットとは切り離された独立した区画となっている。

基本サービスとして電子掲示板やメーリングリスト、自治体向けドメイン名であるLG.JPドメインの発行、LGPKI(地方公共団体組織認証基盤)におけるデジタル証明書の発行などを行っているほか、霞ヶ関WANを通じて省庁の自治体向けサービスも利用できる。

電子申請や電子入札など、どの自治体でも同じような仕組みになるシステムについては、LGWAN-ASP(Application Service Provider)を通じて共通のアプリケーションを導入することができ、重複開発による無駄を削減している。

LGWANは2001年に運用を開始し、2002年に霞ヶ関WANと接続、2004年にほぼ全自治体の接続が完了した(噴火災害のため東京都三宅村のみ2007年接続)。

住基ネット 【住民基本台帳ネットワーク】

全国の市区町村体が管理する住民基本台帳を電子化し、コンピュータネットワークを介して情報を送受信できるようにしたシステム。住民の本人確認や自治体間の転居などの手続きで利用されている。

住民基本台帳のいわゆる「基本4情報」(氏名・性別・生年月日・住所)と住民票コード、マイナンバー(個人番号)、これらの変更履歴が登録され、手続き時の本人確認や転居などの際の自治体間の情報交換などに利用される。

市区町村と都道府県、全国センターが専用の閉域網(IP-VPN)で接続されており、全国センターは地方公共団体情報システム機構が運営している。各行政機関内のシステム上も住民基本台帳ネットワークの系統は他の業務系システムとは分離されており、ファイアウォールを介して限定的に通信できるようになっている。

付随する制度として「住民基本台帳カード」(住基カード)と呼ばれるICカードがが発行され、個人の身分証明や手続きの簡素化などのために利用された。現在はマイナンバー制度の開始に伴い「個人番号カード」(マイナンバーカード)へ移行している。

2002年に発足し、全国の自治体が接続されたが、いくつかの自治体はセキュリティ上の懸念などから参加を拒み、また住民ごとの選択制や参加後の離脱を選ぶ自治体も現れた。2015年の個人番号(マイナンバー)制度の開始に伴い、住民基本台帳ネットワークへの接続が法律上正式に業務の前提となったことから、すべての自治体の接続・参加が完了した。

スマートグリッド

電力の送配電網に情報システムを統合し、高度で自律分散的な需給調整機能を持たせたもの。発電所や配電網と需要家の状況をリアルタイムに集約し、高精度な送配電制御を行う。

発電所や変電所、企業や家庭の配電盤、電力計などにセンサーやコンピュータを導入して通信網で相互に接続・通信することにより、それらの情報を活用して従来より高度できめ細かな制御を行なうというコンセプトである。

電力会社では、検針や手続き、保守の手間やコストが削減できるほか、需要家の動向をリアルタイムに把握することで発送電計画の精度を高め、省エネや信頼性の向上を実現できるとされている。

電力の品質や供給体制は国によって大きく異なり、発送電の事業者が制度上分離している国や、電力網の安定性が低い国で特にスマートグリッドへの期待・関心が高い。

スマートメーター (smart meter)

電力計にデジタル計測機能や簡易なコンピュータ、通信機能を内蔵し、送配電網や建物内のシステムと通信・連携させることができるようにしたものをスマートメーターという。

電力会社では遠隔から自動で検針したり、電力の供給開始や中断、アンペア設定の変更などを行うことができるようになり、電力網の運用コストを低減できる。

また、契約者側では宅内のコンピュータなどと繋ぐことで、現在の電力消費量や電気料金、過去の履歴や将来の予測などの把握が容易になる。

電気料金の安い深夜に蓄電池や電気自動車などに充電して高額な時間帯の受電量を抑制したり、自家発電設備や太陽光発電パネルの余剰電力を電力会社や近隣の需要家に売却するといったことも可能になるとされる。

EMS 【Electronics Manufacturing Service】

電子機器の受託生産を専門に行う企業で、製品の設計から調達・購買、量産、試験、流通、販売後の修理などを総合的に請け負う能力を持つ事業者のこと。

主に大手メーカーなどの企画・販売する一般消費者向けの製品の大量生産を受託する業態で、規模の経済による生産設備や人員の稼働率向上や平準化、巨大な部品の購買力による低コストを武器に、設計やサポートなど付加価値の高い隣接領域を一括して受託することで収益性を高めている。

日本や米国など、もともとメーカーの自社工場が多く立地していた国では、伝統的な電子機器メーカー内で不振にあえぐ製造部門を工場や人員ごと買収し、売却元企業の製品に加え他社から受託した生産も行うことで収益性を回復するといった事例も相次いでいる。

1977年創業の米ソレクトロン社(Solectron)がシリコンバレーのコンピュータ関連企業からの受託生産で急成長したのがその魁と言われ、現在では台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業(Foxconnグループ)や、2007年に元祖のソレクトロンをも買収した米フレックス(Flex)社(シンガポールのフレクストロニクス社が本社移転・改称)が業界大手として知られる。

GPS 【Global Positioning System】

人工衛星を利用して自分が地球上のどこにいるのかを正確に割り出すシステム。米軍の軍事技術の一つで、地球周回軌道に30基程度配置された人工衛星が発信する電波を利用し、受信機の緯度・経度・高度を10m前後の誤差で割り出すことができる。

基本的な原理

GPS衛星には極めて高精度な原子時計が搭載されており、自らの軌道上での現在位置と現在時刻を定期的に電波で発信している。受信機がこの電波を受信すると、発信時刻と受信時刻の差から電波が届くのにかかった時間がわかり、光速(約30万km/s)を掛ければ衛星までの距離を知ることができる。

軌道上には多数のGPS衛星がおり、受信機は複数の衛星までの距離を知ることができる。3つの衛星までの距離が分かれば、それぞれの衛星から距離を半径とする球面が交わる点が現在位置ということになる。実際には受信機の時計が正確でないことが多いため、これを補正するために4つ目の衛星からの情報が必要となる。

主な用途

元来は米軍による軍事用の技術だが、民間や外国でも基本的には自由に利用できることから、航空機や船舶の航行システム、自動車のカーナビゲーションシステム、測量システム、登山用ナビゲーション機器、デジタルカメラの撮影位置記録などに応用されてきた。

近年では受信機の小型化、低価格化が進み、ほぼすべてのスマートフォンやタブレット端末などに標準でGPS機能が内蔵されている。アプリやネットサービスと組み合わせ、地図やナビゲーション、見守り、紛失物発見、オンラインゲーム、SNSなどのサービスに利用されている。

GPS衛星 (NAVSTAR衛星)

GPSに用いられる人工衛星は米国防総省が管理しており、正式には「NAVSTAR」(NAVigation Satellite Timing And Ranging)と呼ばれる。高度約2万kmの6つの軌道面にそれぞれ4つ以上、計24個以上が配置され、約12時間周期で地球を周回している。

約7年半で寿命を迎えるため、毎年のように新しい衛星を打ち上げて軌道に投入しており、概ね30個前後の衛星が常時運用されている。GPS衛星は高性能の原子時計を内蔵しており、1.2/1.5GHz帯の電波で時刻を含むデータを地上に送信している。

暗号化と精度

GPS衛星の発信する電波に含まれる信号には、軍事用に暗号化されたものと民間用に暗号化されていないものの2種類がある。暗号化されたデータは極めて高精度で、米軍しか利用することができない。誤差は数cmから数十cmと言われており、精密誘導兵器などに利用されている。

民生用に利用できるものは暗号化されていないデータで、誤差は10m程度となる。1990年代までは民生用のデータは故意に精度を落として誤差100m程度で運用されていたが、2000年以降は精度低下措置は有事の際に地域を限定して行う方針となった。2007年以降は恒久的に低下措置は行わない方針となっており、誤差10m程度の状態が定着している。

補助手段による精度向上

補助的な手段を加えることで精度向上や位置特定までの時間を短縮する技術がある。このうち、位置の分かっている固定の地上局からFM電波を発信し、GPS衛星の代用とする技術を「DGPS」(Differential GPS)という。日本では全国の沿岸に27局が整備されたが2019年に廃止された。

スマートフォンなどでは、移動体通信ネットワークの基地局が常時GPS衛星の情報を受け取り、端末の要求に応じて提供する仕組みがあり、「A-GPS」(Assisted GPS/補助GPS)という。端末が自前で受信するよりも素早く初回の測位を行うことができる。基地局からの電波を用いてGPSと同じ原理で端末の位置を割り出す仕組みもあり、GPSと併用されている。

国によっては、GPS衛星と互換性のある高精度の信号を発信する衛星を独自に打ち上げ、自国領や周辺地域に限って精度向上を図っている場合もある。インドでは静止衛星を利用した「NavIC」を、日本では準天頂衛星を利用した「QZSS」を運用している。QZSSは対応機器であればセンチメートル級の極めて高精度な信号を利用できる。

他の衛星測位システム

GPSおよびGPS衛星は米国政府が保有・運用しているため、各国政府は社会インフラや軍事インフラとしての位置情報の取得技術を米政府に依存する状態に危機感を覚え、同種の衛星測位システムの開発および運用に乗り出している。

ロシアでは1996年から「GLONASSグロナス」を、中国では2012年から「北斗ほくと/ベイドゥ」を、欧州連合(EU)では2016年から「Galileoガリレオ」を運用している。インドの「NavIC」や日本の「QZSS」のように運用地域を限定した衛星測位網を構築している国もある。これらすべてを総称して「GNSS」(Global Navigation Satellite System)と呼ぶこともある。

ITS 【Intelligent Transport Systems】

シラバス:Ver.9.0 (2023年)

道路交通に情報技術や通信技術を応用し、交通問題の軽減、交通の効率化や高度化などをはかる技術や製品、サービスなどの総称。自動車や道路、標識や信号機などの道路設備、駐車場、公共交通、歩行者などに関連する、情報システムを応用した機器やサービス、制度などが含まれる。

日本では1995年に当時の警察庁、運輸省、建設省、郵政省、通産省が共同で全体構想を策定した。この中ではITS全体を、ナビゲーションシステムの高度化、自動料金収受システム、安全運転の支援、交通管理の最適化、道路管理の効率化、公共交通の支援、商用車の効率化、歩行者等の支援、緊急車両の運行支援の9分野に整理している。

現在までに、VICS(道路交通情報通信システム)やETC(電子料金収受システム)、バスロケーションシステム、自動ブレーキシステム、車線維持支援システム、事故自動通報システムのように実用化や普及が進んでいるものが数多くある一方、トラックの自動隊列走行のように実験段階のものや、構想段階で足踏み状態の技術や施策もある。

マイナンバー 【個人番号】

日本政府が発行・管理する、個人を識別するための12桁の番号。自治体に住民票を持つすべての国民と特別永住者など国内に居住する一部の外国人に発行される。主に社会保障や納税、本人確認などの手続きに利用される。

通称マイナンバー法として知られる「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」によって定められた制度で、2015年10月に番号の通知が開始され、2016年1月以降の行政手続きに番号の通知が必要となる。

主に年金、医療、福祉、納税、災害対策などについて個人の識別のために用いられる番号で、給付の申請など手続きの際には自分のマイナンバーを申告しなければならない。法律に定められた業務のために行政機関や関連する民間の事業者が取り扱い、目的外の使用や、他者のマイナンバーを含む情報を誰かに提供することなどは禁じられている。

マイナンバーは誕生時(出生届時)や外国からの帰国時など、初めて国内で住民票を作成するタイミングで発行され、原則として生涯その番号を使用する。個人の希望で自由に変更することはできないが、マイナンバーを含む個人情報が不正に流通するなどした場合には変更される。

マイナンバーカード

番号の発行時にはすべての対象者に個人情報とマイナンバーが記された個人番号通知書が配られるほか、希望者には公的身分証明書として使える写真入りの通称「マイナンバーカード」(正式名称は個人番号カード)が提供される。

カードにはICチップが内蔵され、券面に記載されたマイナンバーと、氏名、住所、生年月日、性別のいわゆる基本4情報がデジタルデータとして記録されているほか、各種の手続き時にデジタル署名を行うための電子証明書が保管される。

取得や携帯の義務はないが、国ではカードの普及率向上を目指しており、自治体ごとの取得率を公表して競わせたり、取得時に民間の電子決済サービスで利用できる「マイナポイント」を付与したり、健康保険証を原則廃止してマイナンバーカードの「マイナ保険証」機能で置き換えるといった施策を推進している。

ユニバーサルデザイン 【UD】

すべての人が等しく使うことができる、あるいは使いやすいデザイン・設計のこと。より現実的には、なるべく多くの人が同じように使えることを目指すデザイン原則を表す。

言語や文化、人種、性別、年齢、体型、利き腕、障害の有無や程度といった違いによらず、できるだけ多くの人が同じものを同じように利用できるよう配慮されたデザインのことを意味する。

「バリアフリー」を始めとする従来の考え方では、「高齢者用」「左利き用」「車椅子用」のように特性に応じた専用のデザインを用意する発想が基本だったが、ユニバーサルデザインではこうした発想を極力排し、単一のデザインで万人が利用できることを目指している。

ユニバーサルデザインという用語は1985年に米ノースカロライナ州立大学のロナルド・メイス(Ronald Mace)教授によって提唱されたが、それ以前から実践されていた考え方を整理して名前をつけたものとされる。氏はユニバーサルデザインの7つの原則として「公平に使える」「柔軟性がある」「簡単で自明」「必要なことがすぐに理解できる」「間違いを許容する」「弱い力で使える」「十分な大きさと空間」を唱えている。

ユニバーサルデザインの具体例として、施設内の案内などを言葉ではなく絵文字で伝えるピクトグラム、様々な視覚特性を持つ人による調査・テストを経て開発された視認性の高いフォント、容器に刻まれた凹凸を触れば何が入っているか識別できるシャンプーやコンディショナー、手や指の状態によらず持ちやすく使いやすい文房具やカトラリーなどがある。

デジタルデバイド 【情報格差】

パソコンやスマートフォン、インターネットなどのデジタル技術に触れたり使いこなしたりできる人と、そうでない人の間に生じる、貧富や機会、社会的地位などの格差。個人や集団の間に生じる格差と、地域間や国家間で生じる格差がある。

コンピュータや通信ネットワークが職場や日常生活に深く入り込み、それを活用できる者はより豊かで便利な生活や、高い職業的、社会的地位を獲得できる一方、何らかの理由により情報技術の恩恵を受けられない人々は社会から阻害され、より困難な状況に追い込まれてしまう。こうした状況をデジタルディバイドという。

主な要因

デジタルディバイドは様々な要因により発生し、拡大する。例えば、子どもや若者は技術や知識を比較的容易に習得し、進んで習慣的に利用するようになることが多いが、中高年や高齢者が新たにコンピュータの操作法などを覚えるのは困難で、生活習慣に取り入れることにも抵抗感があることが少なくない。

また、貧困のために情報機器やソフトウェア、サービスなどの購入が困難だったり、身体機能の障害や発達特性などから機器の操作が困難で情報技術の恩恵を受けられない場合もある。元々存在した様々な格差がデジタルディバイドにより拡大したり固定化してしまうという側面がある。

地域間の格差

地域や国家の単位でデジタルディバイドが生じることもある。通信インフラの普及度合いや、所得水準と情報機器の価格の関係、技術の習得・利用の前提となる十分な教育が受けられるか、インフラ整備や技術・機器の導入・教育を担う技術者などの人材が十分にいるか、といった点により、地域や国家ごとに格差が生じる。

ここでも、元々豊かな先進国やインフラがいち早く整備され人材豊富な大都市などが情報技術でさらに発展し豊かになる一方、情報技術に十分アクセスできない発展途上国や農村部などがデジタル環境でも取り残されるという、格差の拡大・固定化の問題がある。

汎用人工知能 【AGI】

シラバス:Ver.9.0 (2023年)

人間の持つ知識や情報処理能力、認知能力などに加え、意識や意志、心に相当するような自律的に行動する仕組みを備えた人工知能(AI)。現在は存在しうるかどうかすら明らかになっていない。

現在AIとして研究・開発されているコンピュータシステムは「弱いAI」(weak AI)に分類され、特定の分野や対象、問題に特化した限定的な知的能力を有する。人間に代わって自動車を運転するAI、将棋や碁で人間と対戦するAIなどである。

これに対し、「強いAI」(strong AI)は人間のように広範で統合された世界認識、自意識や自律性などを持ち、人間の指示がない状況でも自発的に行動を起こしたり、未知の概念について学習して新たな知識や能力を獲得したり、長期的な目標や目的を見出したり、意思に基づく創造や創作、発明などを行うことができるとされる。

様々な分野を対象とする弱いAIをいくらたくさん繋ぎ合わせてもこのような振る舞いをするAIを作り出すことができないことは明らかで、何らかの新しいメカニズムが必要になると考えられている。それが可能か否か、現在のコンピュータやソフトウェアの延長線上にある人工物で実現可能かも含め、詳しいことは未だ分かっていない。

シンギュラリティ

もし汎用AIのような存在が生み出されると、人間の力に頼らず自らを改良するための研究や発明を行うことができるようになり、いずれ人間の理解できない方法で人間を大きく超える知性を獲得し、独自の文明や文化を築き始めるようになるとする予想もある。

そのような事態を「シンギュラリティ」(singularity)と呼び、映画「ターミネーター」シリーズの人工知能ネットワーク「スカイネット」のように、人間に敵対し、人類を大きく凌駕する科学力と工業力を身に付けて人類を滅ぼそうとするAIが生み出されるかもしれないと警鐘を鳴らす人もいる。

生成AI 【Generative Artificial Intelligence】

シラバス:Ver.9.0 (2023年)

機械学習技術を応用したAIシステムの一種で、文章や画像、音声、動画、プログラムコードなど、まとまった量の新しい情報を生み出すことができるもの。

機械学習(ML:Machine Learning)システムに大量の学習データを与え、データ中によく出現するパターンや規則性を学習させる。完成したモデルに対して人間が指示を与えると、学習したデータに似た特徴を持つ新たな情報を生成して出力する。

文字、画像、プログラムなど、学習および出力できるデータの種類はシステムごとに決まっている。一種類の情報の入力にのみ対応することを「ユニモーダル」(unimodal)、文字と画像など複数種類の情報の入力に対応することを「マルチモーダル」(multimodal)という。

種類

現在実用的な水準で広く受け入れられているのはテキスト(文字)生成AIと画像生成AIである。テキスト生成AIは米オープンAI(OpenAI)社が開発した大規模言語モデル(LLM:Large Language Model)の「GPT」(Generative Pre-trained Transformer)シリーズ、および、これを対話形式(チャット)で利用できるようにしたクラウドサービス「ChatGPTチャットジーピーティー」により一気に注目を集めるようになった。

画像生成AIは写真風やイラスト風、絵画風などの静止画像を人間の指示する文字列や元になる画像に基づいて生成するもので「AIアート」「生成的アート」などとも呼ばれる。OpenAIによる「DALL-Eダリ」、米ミッドジャーニー(Midjourney)研究所の「Midjourneyミッドジャーニー」、英スタビリティAI(Stability AI)社らの「Stable Diffusionステーブルディフュージョン」などがよく知られる。

他にも、動画、音楽、音声、コンピュータプログラム(のソースコード)、化学物質(分子構造)などを生成するAIシステムの研究・開発が進められており、一部は実用的なソフトウェアやサービスとして実装されている。ロボットの動作を生成AIに基づいて制御するなどの応用も研究されている。

法的な問題

学習データや出力データについて、著作権や肖像権など既存の法的権利との関係の整理が進む前に一気に実用レベルの技術が登場したため、どのような枠組みに基づいて法規制を行うかをまさに現在各国で議論している最中である。

現在の著作権関連法規には機械学習システムに学習データとして入力することについての規定は無いが、出力される文章や画像には学習した著作物の特徴などが反映されており、著作者の許諾や補償無しに利用することは「タダ乗り」であるとして何らかの規制を求める声が上がっている。

また、生成AIの出力結果の文章や画像などを著作物として著作権を認めるか、認める場合は誰が著作者となるのかについても議論となっている。画像や映像の出力結果に著名人にそっくりな人物が含まれる場合の肖像権との関係、生成結果を公開する際にAI生成物であることを明示させるべきか否か、などの論点もある。

マルチモーダルAI 【multimodal AI】

シラバス:Ver.9.0 (2023年)

テキスト(文字情報)と画像、動画と音声など、複数の異なる種類のデータを組み合わせて学習することができる機械学習システム。言葉による指示で画像を生成するといった動作が可能となる。

AI(人工知能)の主要な実現方式である機械学習(ML:Machine Learning)では、大量の学習データを処理して規則性などを学び、ニューラルネットワークとしてモデルを構築する。テキスト(文字情報)を学習させテキストの入力からテキストを出力するといったように、取り扱うデータの種類が一つの場合を「ユニモーダルAI」(unimodal AI)という。

一方、マルチモーダルAIは複数種類のデータを相互に関連付けて学習させることができる。例えば、テキストと画像に対応している場合、画像データに付与されたキャプションや分類タグなどの文字データを、その画像の特徴と関連付けてモデル化することができる。

これにより、単語やフレーズの組み合わせを入力して対応する画像を生成したり、画像を入力して写っているものを説明させるといった機能を実現することができるようになる。防犯システムに動画と音声を組み合わせて学習させ、カメラに写った映像とマイクで収録した音声を総合して異状を検知するシステムなども研究されている。

ハルシネーション

シラバス:Ver.9.0 (2023年)

幻覚、幻影などを意味する英単語で、生成AIが学習データからはおよそ想像も及ばないような出鱈目な内容を出力してしまう現象。大規模言語モデル(LLM)が荒唐無稽な作り話を回答する現象を指すことが多い。

大規模言語モデルで動作するチャットボットが、学習データの中に該当する知識が存在しないような質問を受けたときに、モデル内の関係がありそうな情報を繋ぎ合わせてもっともらしい回答を返すことがある。学習データに誤りがあるわけではなく、学習内容からは導き出せそうもないような応答を返すことをハルシネーションという。

例えば、数量などの事実関係を聞かれたときに「分からない」と答えずに出所不明な誤った内容を回答したり、前提が間違っている質問に対して「間違っている」と指摘せずに誤った前提に基づく作り話を始めたり、存在しない(質問者がでっち上げた)概念について尋ねると「存在しない」と答えずに、あたかも実在するかのようもっともらしい回答を創作したりする。

人間ならば自らが知っている知識体系に照らし合わせて、「知らない」「分からない」「質問が間違っている」「そんなものはない」と答えられるが、現在の生成AIは人間のように知識モデルを参照しているわけではないため、どういった場合に「回答らしい文章」ではなく「知らない」と答えるべきなのか判断できないものと考えられている。

しかし、巨大な機械学習モデルの内部でどのような推論が行われているのか、単語や知識をどのように組み合わせて回答を作成しているのかは複雑すぎて簡単には解析できないため、ハルシネーションが発生する詳しいメカニズムや、どのようにしたら防げるのかなどについて詳しいことは分かっていない。

ディープフェイク

シラバス:Ver.9.0 (2023年)

人工知能により画像や音声、動画などを生成あるいは編集し、本物そっくりの偽の情報を作り出すこと。生成AIの高性能化により人間にはにわかに真贋が判別できない動画なども作られ、詐欺への利用や政治的な偽情報の拡散が社会問題となっている。

人工知能の主要な方式の一つに、大量のデータからパターンを学習する機械学習がある。近年では深層学習(ディープラーニング)という高精度な手法が開発され、文字情報だけでなく画像や音声、動画などのメディアデータも極めて自然に生成、編集、合成できるようになってきた。

ディープフェイクはこの技術を用いて作られた悪意のある偽情報で、「ディープラーニング」の「ディープ」に「偽物」を意味する「フェイク」を組み合わせてこのように呼ばれる。人間には簡単に真贋が見極められないほど精巧な偽の写真や映像、誰かの声色を真似た偽の合成音声などが含まれる。

特定の政治勢力や敵対国の政府が報道や公式発表を装ったプロパガンダやフェイクニュースを作成して政治的な混乱や分断を煽ったり、犯罪組織などが企業や個人などを標的に詐欺やなりすまし、脅迫を行うために利用したり、精緻なフェイクポルノなど新しいタイプの人権侵害行為を引き起こしている。

実際に、政治家の架空の発言をでっちあげて報道を装ったフェイクニュースを流したり、投資詐欺グループが実在の著名人を模した合成音声で偽のメッセージを流したり、著名人の容姿から生成した精巧な偽のポルノ画像を作成したり、企業経営者の声色で電話をかけて送金の指示を行うなどの手口が確認されている。

ジャストインタイム生産方式 【かんばん方式】

工業製品の生産方式の一つで、必要なものを必要なとき必要なだけ生産する方式のこと。工程間に滞留する仕掛品や在庫を削減することで生産コストを削減して効率的に生産することが可能となる。

後工程が消費した分だけ前工程に生産・加工を要求することを原則とする方式で、工場内での工程間の部品や仕掛品の受発注のために「かんばん」(看板)と呼ばれる帳票を受け渡していたことから「かんばん方式」とも呼ばれる。

在庫や仕掛品を極力持たないようにするため、途中の工程や外部との部材の配送などにトラブルが起きるとすぐに全体の操業が停止してしまうリスクもあるが、これは工程上の問題があると早期に顕在化するということでもあるため、生産工程の改善・改良を進めやすいとも言われる。

1938年に当時のトヨタ自動車工業(現トヨタ自動車)創業者の豊田喜一郎氏が新工場操業に際して提唱した方式が起源とされ、現代では「見える化」「カイゼン活動」などと共にトヨタ生産方式を支える代表的な手法の一つとして広く知られている。

また、「必要なときに必要なだけ」という発想は工業製品の生産効率化という分野に留まらず、様々なビジネス手法に応用されており、1980年代に体系化された「リーン生産方式」のように「リーン」(lean:引き締まった、無駄のない)という用語で表されることが多い。

セル生産方式

工業製品の組立工程の一種で、同じ作業者(一人またはチーム)が一か所ですべての作業を行なって製品を完成させる方式。ベルトコンベアーなどで製品を移動させ、作業ごとに異なる作業者が分業するライン生産方式と対比される。

作業者ごとに異なる製品を担当させることができるため多品種少量生産に向いており、部品や仕掛品の在庫も少ない状態で生産することができる。誰が作った製品がはっきりしているため作業者のモチベーションや責任感を向上させやすいともされる。

ライン生産では生産量が少なくても全工程用のスペースと作業者を揃えなければならず、ライン全体の生産品目の切り替え労力も大きいが、セル生産では作業者の数を増減させることで生産量の変動に柔軟に対応でき、空いたスペースを他の製品用に転換することもできる。

一方、一人の作業者が覚えるべき内容が多いため、教育・訓練に時間とコストがかかり、作業者による製造効率や品質のバラつきも大きくなりがちである。また、工程の一部に高価な機械や調整が難しい機械が必要な場合、作業者の人数分だけ購入・維持しなければならないため負担が大きくなる。

家電や情報機器、大型機械の部品など比較的小さな製品では、部品や工具などを組み付けた、作業者をU字型に囲む屋台のような作業台が用いられるため「屋台生産方式」などと呼ばれることもある。

ジャストインタイム生産方式 【かんばん方式】

工業製品の生産方式の一つで、必要なものを必要なとき必要なだけ生産する方式のこと。工程間に滞留する仕掛品や在庫を削減することで生産コストを削減して効率的に生産することが可能となる。

後工程が消費した分だけ前工程に生産・加工を要求することを原則とする方式で、工場内での工程間の部品や仕掛品の受発注のために「かんばん」(看板)と呼ばれる帳票を受け渡していたことから「かんばん方式」とも呼ばれる。

在庫や仕掛品を極力持たないようにするため、途中の工程や外部との部材の配送などにトラブルが起きるとすぐに全体の操業が停止してしまうリスクもあるが、これは工程上の問題があると早期に顕在化するということでもあるため、生産工程の改善・改良を進めやすいとも言われる。

1938年に当時のトヨタ自動車工業(現トヨタ自動車)創業者の豊田喜一郎氏が新工場操業に際して提唱した方式が起源とされ、現代では「見える化」「カイゼン活動」などと共にトヨタ生産方式を支える代表的な手法の一つとして広く知られている。

また、「必要なときに必要なだけ」という発想は工業製品の生産効率化という分野に留まらず、様々なビジネス手法に応用されており、1980年代に体系化された「リーン生産方式」のように「リーン」(lean:引き締まった、無駄のない)という用語で表されることが多い。

数値制御 【NC】

工作機械などを数値データを与えて制御する方式のこと。人間による操作や機械的な仕掛けによる制御に代わる制御方式として普及している。NCで制御する機械を「NC工作機械」「NC装置」「NC旋盤」「NCフライス盤」のように呼ぶ。

機械の駆動部に対して移動距離などの数値を与えて動作を制御する仕組みを指し、指示を事前に入力して連続的に与えることで、同じ加工を繰り返し自動で行うことができるようになる。

特に、内部に制御用コンピュータを内蔵し、数値による指示をある種のコンピュータプログラム(NCプログラム)として与える方式を「コンピュータ数値制御」(CNC:Computer Numerical Control)という。現在はほとんどがこの方式で、単にNCといえばコンピュータNCを指すことが多い。

人間が機械を操作して加工するのに比べ、精度や作業時間のムラがない。一連の加工手順を登録して自動的に実行することができ、省力化や自動化、低コスト化が進められる。加工精度が熟練の職人には及ばない点が長年の課題とされてきたが、機械制御技術の向上により精度は年々向上している。

FA 【Factory Automation】

工場の様々な作業や工程を機械や情報システムを用いて自動化すること。加工や運搬、検査などの工程を自動化し、少ない人員で工場を運営できるようにする。

数値制御(NC)の工作機械や産業用ロボットなどを導入し、またそれらを通信ネットワークで相互に結んだり情報システムに接続して集中的に制御することにより、原料や資材、部品の運搬や加工、組み立て、検査などの工程を自動化あるいは省人化する。

機械を人が使用する機械化をさらに一歩進め、人による操作や判断が無くてもセンサーやコンピュータによる自動認識や自動処理によって人に代わって作業を完遂することを目指している。

FAにより工場全体あるいは一部の工程の無人化、省力化を進めることで、設備の稼働率向上、品質の向上や均一化、生産調整の容易化、作業員の安全性の向上、人間に由来するミス(ヒューマンエラー)の低減などが期待できる。

現状では自動化機械が高額で汎用性に乏しく、人間のような器用さや認知能力は期待できないことも多いため、人手による操業よりもコストを削減する目的で導入される事例は限定的となっている。今後は機械学習システムなどによる自動認識技術の高度化などにより、汎用性の向上や低コスト化が進むことが期待されている。

MRP 【Material Requirements Planning】

製造業などの生産管理手法の一つで、生産計画に基いて部品表と在庫情報から発注すべき資材の量と時期を決定する方式。1960年代に考案され、コンピュータシステムと共に広まった。

過去の使用分を補充するのではなく、予想される需要を事前に捉えることにより、在庫の過剰と不足の両方を解消することを目指している。資材の調達を顧客からの受注と需要予測に直結させた結果、生産計画作業は大きく改善された。

短いスパンで精度の高い計画を立てるには大量の計算が必要で、1970年代には大型コンピュータ(メインフレーム)やミニコンピュータ/オフィスコンピュータ向けの汎用ソフトウェアパッケージが開発され、こうしたコンピュータシステムを伴って導入されていった。

MRP II (Manufacturing Resource Planning)

1970年代に考案された生産管理手法で、MRPを発展させ、管理対象を資材の発注から人員の配置や資金計画などへ広げた方式。MRPのMRは “Material Requirements” (資材所要量)だったが、より総合的な手法であるという意味でMRP IIのMRは “Manufacturing Resource” (製造資源)へ改められている。

MRPの導入によって生産現場における資材の調達や在庫管理は最適化されていったが、MRP IIではこれに加えて人員や設備、資金など生産に必要な様々な要素を全体として計画・管理し、単一の情報システムで統合することを目指した。

1980年代に広まった概念で、1990年代には生産に留まらず企業活動の全体を対象に適正な資源配置を行う「ERP」(Enterprise Resource Planning)へと発展していった。

フレキシブル生産システム 【FMS】

工場の生産システムの一種で、一つの生産ラインで複数の品目を小ロットずつ柔軟に作り分けられる能力を持ったもの。大量生産によるコスト低減と多品種少量生産をある程度両立することができる。

従来のライン生産では一つのラインで一つの決まった品目を大量生産するが、FMSではロボットの導入や機器間の通信・連携により複数の品目に同時に対応する。需要の変動に応じて迅速に生産量の増減や生産品目の切り替えを行い、効率よく多品種少量生産を行うことができる。

各工程には自動制御の搬送機や加工機械、産業用ロボットなどが導入され、自動化、省力化を進める。全体を統合的に制御する情報システムにより各機器への指示や生産状況の把握をリアルタイムに行うことができる。人間が行う業務は計画や指示、監視などが中心で、作業に伴う人為的なミスも減らすことができる。

生産現場へのコンピュータや通信システムの導入に伴い1980年代頃から本格的に普及、発展してきた生産方式で、自動車工場の混流生産などの例でよく知られる。現代では電気機械、電子機器、住宅設備、衣料品、食品、医薬品など様々な分野の工場で導入が進んでいる。

CAD 【Computer-Aided Design】

工業製品や建築物などの設計や製図をコンピュータを用いて行うこと。また、そのためのソフトウェアや情報システム。図面作成を効率化でき、データからシミュレーションや完成予想図の作成などを行うことができるシステムもある。

専用の図形編集ソフトウェアによって、対象の外観や内部構造、部品・部材の配置、配線などを作成・編集し、設計図面を自動的に生成したりすることができる。

紙面上で製図する場合に比べ、各部の形状や大きさ、長さなどを後から変更・調整したり、形状や物体を簡単な操作で複製して別の箇所に流用したり、各部の寸法や面積などを自動的に算出したりできるといった利点がある。

また、製品によっては、画面上で形状を立体的に表示して確認したり、さらに、表面の色彩や質感、装飾などを入力して、完成予想図を3DCG(3次元コンピュータグラフィックス)として再現する機能を持っているものもあり、デザインの確認のために模型や試作品を作成する工程を省くことができる。

CADソフトウェアは機械、建築、土木、電気など、分野ごとに必要な機能などを実装した専用の製品が開発されているが、用途があらかじめ決まっていない汎用のCAD製品もある。平面上の作図のみ扱うものを「2D CAD」(2次元CAD)、立体モデルを表示・操作できるものを「3D CAD」(3次元CAD)という。

2D CAD (2次元CAD/2DCAD)

CADのうち、平面的な図の作成に特化したものを「2D CAD」(2-dimensional CAD)「2次元CAD」という。主に設計図面などの作図・製図をコンピュータ化するために用いられる。

初期のCADはすべて2D CADだったため、当初はこのように呼ばれることはなかったが、新たに3D CADが開発されたことにより、従来の平面上の作図のみを扱う製品を区別して2Dと呼ぶようになった。

従来、紙とペンで行なっていた物体の正面図や平面図、側面図などの作図をコンピュータ上で行うことができるようにしたもので、3D CADより機能は制約されるものの、ソフトウェアが安価(無償公開されているものも多い)で軽快に動作するという利点がある。

3D CAD (3次元CAD/3DCAD)

CADのうち、造形物を立体的なモデルを用いて作成・編集し、これを元に自動的に各種の図面を自動生成するものを「3D CAD」(3-dimensional CAD)「3次元CAD」という。

設計対象を3次元空間上の点や線、面などの組み合わせによって構成するもので、プリミティブと呼ばれる様々な基本的な立体図形(直方体、球、円柱、円錐、ドーナツ型など)を繋ぎ合わせたり、その形に削ったりして立体を形作っていく。

完成した3Dモデルを特定の視点・角度から投影した図を設計図面として利用する。従来の製図法のように図面から立体形状を想像するのではなく、最終的な立体形状を確認しながら編集できる。部品同士の干渉などを調べたり、体積や表面積などを算出することも容易である。

各部に属性情報を付与することができる製品もあり、質量を与えて重心を求めるといった、試作やシミュレーションに近い用途の一部までカバーすることができる。今日では工業製品の設計などに用いられるCADシステムの大半は3D CADとなっている。

CAE 【Computer Aided Engineering】

工業製品の設計や構造の解析、机上の試験などにコンピュータシステムを導入して効率的に行うこと。また、そのような工程を支援するソフトウェアやシステム(CAEツール、CAEシステム)を指すこともある。

従来の工業製品の設計・開発では、部品や製品全体の図面を作成したあと、性能や強度などを確かめたり、各部の構造や動作、機能などが正しく実装されているか確認するために試作と物理的な実験や計測を行い、結果を図面に反映させるという過程を繰り返していた。

CAEではCADなどで電子データとして作成された設計図面を取り込んでコンピュータ上で製品のモデルを再現し、有限要素法や境界要素法などによる構造や動作の分析や解析、様々な状況を模したシミュレーションなどを行うことで迅速に試験や修正を繰り返すことができる。

対象や試験の種類によって、構造解析、機構解析、音響解析、流体解析、電磁場解析、光学解析など多種多様なCAEツールが開発されており、各企業は開発する製品に合ったものを選択して導入する。

CAM 【Computer-Aided Manufacturing】

工業製品などの製造現場に情報システムを導入し、CADなどで作成した設計図面などを元に、工作機械を操作するためのプログラムの作成などを行う手法。また、そのためのシステムやソフトウェア。

CAMソフトウェアは数値データで表された設計図などを読み込み、NC(数値制御)/CNC(コンピュータ数値制御)工作機械を制御して図面に示された形状に加工する命令の並び(NCデータ/NCプログラム)を出力する。作成されたプログラムは工作機械に入力され、これに従って材料を自動的に加工していく。

対応する加工形状の違いにより、平面上の加工を行う「2D CAM」(2次元CAM)、自由曲面など3次元的な加工を行う「3D CAM」(3次元CAM)、両者の中間(立体形状を等高線を引くように層状に加工していく)の「2.5D CAM」(2.5次元CAM)などの種類がある。

ポストプロセッシング

同じ加工を行うのにも工作機械の機種や構成の違いによりそれぞれに適した異なるプログラムが必要となるため、実際にはCAMシステム本体は「カッターパス」あるいは「カッターロケーション」(CL:Cutter Location)と呼ばれる工具の移動経路データなどを生成することが多い。

これを使用する機種に対応した専用のソフトウェアによって実際のNCデータへ変換する。この変換工程を「ポストプロセッシング」(postprocessing)、変換ソフトウェアを「ポストプロセッサ」(postprocessor)という。広義のCAMにはポストプロセッサも含まれることがある。

PDM 【Product Data Management】

工業製品の開発工程において、設計や構成に関する情報を包括的に一元管理して部門間で共有することにより、コスト削減や工期の短縮を図る手法。また、そのために用いられるソフトウェアや情報システム(PDMシステム)。

製品の部品の構成をまとめた部品表(BOM)や、3次元CADなどで作成した図面データ、仕様や材質、コスト、製造法などについて記した関連文書(ドキュメント)などを一元的に管理する。工程やスケジュールを管理するワークフロー機能や、受発注や生産など他部門のシステムとの接続・連携などの機能を持つシステムもある。

集約したデータは常に最新の状態が参照でき、キーワードを指定して関連情報を検索したり、変更履歴を記録して後から遡ることもできる。これらのデータは設計部門内の各部品の担当間で共有し、さらに製造、生産技術、購買など後工程の各部門で共有することもできる。

これにより、設計業務のプロセスを標準化や、チーム間・スタッフ間の連携を強化することができる。また、工程の並列化(コンカレントエンジニアリング)や、一部の後工程の前倒し(フロントローディング)などをスムーズに行うことが可能となり、開発コストの削減や期間の短縮に貢献する。

CIM 【Computer Integrated Manufacturing】

製造業の生産工程で必要となる、あるいは発生する様々情報をコンピュータシステムで一元的に管理し、製造の最適化を推進する手法。また、そのためのソフトウェアや情報システム。主に1980年代に用いられた用語で、現代ではほとんど使われていない。

CAD(Computer Aided Design)やCAM(Computer Aided Manufacturing)などのシステムが取り扱う設計に関するデータや、原材料や部品、在庫などの状況、生産システムや工作機械の制御(FA:Factory Automation)に関する情報をコンピュータで統合する。

生産に関連する情報を各部門で共有することで、在庫の削減や納期の短縮など生産の効率化を図ることができる。より発展的なシステムでは、販売や流通、調達、開発など生産の前後の工程に関するシステムやデータも統合し、製造業の業務全般を最適化する機能を提供する場合もある。

1980年代、コンピュータが一部の単純な事務作業や会計処理だけでなく、企業の様々な業務や現場に本格的に導入され始めた時期に考案された概念・用語で、現代ではあまり用いられることはないが、ERP(Enterprise Resource Planning)やSCM(Supply Chain Management)などその後現れた手法やシステムにその考え方が反映されている。

EC 【Electronic Commerce】

データ通信やコンピュータなど電子的な手段を介して行う商取引の総称。狭義にはインターネットを通じて遠隔地間で行う商取引を指す。より狭義には、Webサイトなどを通じて企業が消費者に商品を販売するネット通販を指す場合もある。

取引主体の組み合わせにより、企業(法人)間のECを「B to B EC」(B2B/Business to Business)、企業と消費者のECを「B to C EC」(B2C/Business to Consumer)、消費者間のECを「C to C EC」(C2C/Consumer to Consumer)という。

最も一般的なB to C ECには、物品のオンラインショップ(電子商店)やオンラインモール(電子商店街)、交通機関や興行のオンラインチケット販売、宿泊施設や飲食店などのオンライン予約、動画・音声・ビデオゲーム・電子書籍などデジタルコンテンツのオンライン販売、金融商品のオンライントレード、オンラインバンキングなどが含まれる。

また、B to B ECには、eマーケットプレイス(電子市場)や電子調達(eプロキュアメント)、EDI(電子データ交換)、ネット広告(販売)などが含まれる。C to C ECとしてはネットオークションやフリマアプリ、フードデリバリー、民泊アプリ、ライドシェアなどがある。

実際の店舗を構える場合に比べ少ない費用や人員でビジネスを始めることができ、地理的な制約に縛られず離れた場所の顧客を相手に取引することができる。ただし、競合相手も同じ条件であるため、分野によっては実店舗より競争が激しく、全国や全世界といった大きな規模で寡占や「勝者総取り」現象が生じる場合がある。

電子発注システム 【EOS】

商品の流通などに用いられる情報システムの一種で、販売店などが仕入元に対してコンピュータと通信回線を介して電子的に発注情報を伝達するシステム。

1970年代末から主に小売業と卸売業の間で導入されたもので、それまで紙に手書きした伝票などを元に電話や対面で行っていた発注業務を、コンピュータと通信回線を組み合わせたシステムを用いて電子的に行う。店頭でハンディターミナルなどの端末を利用し、在庫管理と連動して不足している商品を自動発注するなどの仕組みが導入される場合もある。

複数の発注先にそれぞれ連絡を取らなくてもコンピュータが自動的に相手先に発注データを送信してくれるため、主に発注側の業務の省力化や時間の短縮を図ることができ、また、伝票の転記ミスや聞き間違いによるミスなどを減らすことができる。

当時はデータ形式やコード体系、データ交換手順などが標準化されておらず、企業ごとに独自のシステムを利用していたため、受注側は取引先ごとに異なるシステムや業務手順に対応しなければならず、負担が大きかった。このため、電子受発注システムを導入できるのは一社の取引量の多い量販店や大手小売チェーンなどが主であった。

電子受発注システムの適用範囲を拡大し、受発注だけなく出荷や納品、請求、支払いなどを一括して取り扱うことができるようにしたデータ交換システムのことを「EDI」(Electronic Data Interchange)と呼び、電子受発注システムに代わって1990年代頃から普及が進んだ。

オンラインモール 【ECモール】

インターネット上で商品を販売する電子商取引サイト(ECサイト)のうち、複数の異なる運営主体による電子商店(オンラインショップ)が出店しているもの。検索機能や決済などが共通化され、単体のショップと同じ利便性で様々な店舗を利用できる。

オンラインモールには複数のオンライン店舗がそれぞれ販売用のページやサイトを持って商品を販売している。モール側では店舗を横断する検索機能により取り扱い商品や価格を調べられるようにしたり、決済や配送などを共通化するなどして、単体のオンラインショップよりも利便性を高めている。

出品者は販売手数料などを負担するが、知名度が低くても著名なモールに出店することにより消費者に認知されやすくなり、自前で商品管理や決済などのシステムを導入・運用しなくてもモール側の用意したシステムで事業を始められるメリットがある。

オンラインモールを営む事業者には、モールの運営に特化した事業者と、自社で商品を販売するオンラインショップ上に外部の販売店による出品を受け入れる事業者がある。日本では前者の事業形態として「楽天市場」や「Yahoo!ショッピング」などが有名で、後者としてはAmazon.com内に統合されている「Amazonマーケットプレイス」がよく知られる。ファッション分野に特化した「ZOZOTOWN」(ゾゾタウン)のように特定のジャンルで出店を募るサイトもある。

eBayやYahoo!オークション、メルカリなど個人間で自由に物品を売買できるサービスは「オンラインオークション」(ネットオークション)あるいは「フリマアプリ」(スマートフォンアプリの場合)と呼ばれ、オンラインモールとは区別されることが多いが、これらを広義のオンラインモールの一種に含める場合もある。

オンラインショップ 【ECサイト】

インターネットを通じて商品を販売するWebサイトなどのこと。狭義には物品の販売を行う通販サイトを指すが、広義にはサービスや金融商品などを販売するサイトも含まれる。

取扱い製品の紹介ページや購入手続きのページなどで構成され、利用者はほしい商品を選択して配送先や決済情報などを入力・送信することにより、購入の申し込みを行なうことができる。商品は宅配便などで購入者の元に届けられる。決済方法としてはクレジットカードや銀行振込、電子マネーなどによる事前入金のほか、運送事業者の代金引換配達などを利用できる場合がある。

インターネット上には様々な事業者の開設する多種多様なオンラインショッピングがあり、一般の商店で販売している大抵のものはオンラインで購入できる状態となっている。当初は書籍やコンピュータ、家電製品、CD/DVD、ゲームソフトなどを取り扱うオンラインショッピングが成長したが、次第に様々な製品分野に広まり、日用品や加工食品、衣料品、旅行商品などでも普及が進んでいる。

一方、高額な商品や、複雑な手続き、打ち合わせなどが必要な商品ではその特性上オンラインショッピングはあまり利用されない。また、衛生管理の問題から生鮮食品を取り扱うオンラインショッピングの実現は難しかったが、近年では大手スーパーマーケットチェーンが実店舗の周囲に独自の配送網を築くなどの手法でオンラインショッピングを開設しており、「ネットスーパー」(オンラインスーパー)とも呼ばれる。

様々なオンラインショッピングを一つに集め、横断的に商品を検索・比較したり、共通の手続きや登録情報で購入できるようにするなどのサービスを提供するWebサイトもあり、現実世界のショッピングモールになぞらえて「オンラインモール」(電子商店街、サイバーモール)と呼ばれる。

キャッシュレス決済 【電子決済】

商品やサービスの代金支払いなどを、現金の受け渡しや金融機関での手続きなどではなく、電子的なデータ交換によって行うこと。

銀行口座やクレジットカードなどを利用する電子決済方式として、インターネット上でのクレジットカード決済(カード番号などをオンラインで送信する)やインターネットバンキングによる相手口座への送金、キャッシュカードで店頭での支払いを行うデビットカード決済などがある。

事前に決済事業者に入金した額の範囲で支払いを行うことができる決済方式を「電子マネー」あるいは「ストアドバリュー型電子決済」という。利用者はカード購入や入金端末操作、銀行振り込み、クレジットカード決済などで決済サービス上での貨幣価値を入手し、提携店舗やネットサービスでの支払いに充てることができる。

これには交通系ICカードなどのICカード型電子マネー、店舗でカードを購入するうプリペイドカード型電子マネー、オンラインで入金や決済を行うネットワーク型電子マネー、スマートフォンの短距離無線通信を利用するモバイル決済、QRコードで決済情報を伝達するQRコード決済などが含まれる。

2000年代初頭のインターネット普及や非接触ICカード技術の進歩により広まった決済方式で、ECサイトやネットサービスでの支払いにオンラインのクレジット決済やネットバンキングがよく利用される。店舗での支払いなど現金を代替する用途は日本では大都市圏での交通系ICカード以外なかなか普及しなかったが、2010年代後半頃からモバイル決済やQRコード決済が急激に浸透しつつある。

インターネットバンキング 【Internet banking】

パソコンやスマートフォンなどを用いてインターネット経由で銀行などの金融機関のサービスを利用すること。店舗や端末に出向くことなく振込などのサービスを利用できる。

預金の残高照会、入出金照会、口座振り込み、振り替えなど、ATMで対応しているサービスが利用可能なほか、複数口座の一括管理や電子メールによる相談の受付など、独自のサービスが利用可能な銀行もある。

振り込みなどの処理が実際に行われるのは営業時間中だが、手続き自体はいつでもどこからでも可能なため、平日の昼間に窓口やATMに赴くのが難しい人には特に便利なサービスである。

金融機関側でも手続きの電子化が進めば窓口やATMの削減が可能となるため、預金者に利用を促しており、紙の通帳を廃止したり、ネット経由の場合に手数料の優遇を行ったりしている。

サービスの利用方法で分類すると、Webブラウザを使うものと、専用のソフトウェアを使うものの2種類がある。パソコンから利用する場合はWebブラウザを用いる方式が、スマートフォンやタブレット端末から利用する場合は専用のアプリを導入する方式が主流となっている。

ネット銀行 (インターネット専業銀行)

インターネット上での営業活動に特化した銀行を「ネット銀行」と呼ぶことがある。一般的な店舗による対面の営業を実質的に行わず、すべての手続きやサービスをオンライン上で行う業態を指す。

自前の店舗網やATM網をほとんど持たず、紙の預金通帳も発行しないことで、通常の銀行などより預金金利を高めたり手数料を引き下げたりしている。

日本では2000年10月に当時のさくら銀行(現在の三井住友銀行)などが設立したジャパンネット銀行が先駆けで、ソニー銀行、住信SBIネット銀行などがよく知られる。

ICカード 【IC card】

プラスチック製カードに極めて薄い半導体集積回路を埋め込み、データの記録や処理、外部との入出力などをできるようにしたもの。外部との入出力方式の違いにより接触式と非接触式がある。

カード内に半導体メモリを内蔵し、数KB(キロバイト)から1MB(メガバイト)程度のデータを記録することができる。内蔵メモリ素子が読み出し専用のROMチップの場合は書き換えできないが、フラッシュメモリを採用したものは専用の装置で記憶内容の追加や上書き、消去ができる。簡易なCPU(処理装置)を内蔵して暗号化などの処理が可能なものもある。

記録や通信の暗号化、認証やアクセス制御によりデータの不正な読み取りや改ざんを防ぐことができるため、磁気ストライプ式などに比べ偽造や変造が困難で安全性が高いとされる。記憶容量が大きいため単純な識別番号などの他に様々な情報を記録・送受信することができ、一枚のカードに複数の機能を持たせる汎用カードを作ることもできる。

日本では「ICカード」の呼称が広く浸透しているが、英語圏では “IC card” という表記はほとんど用いられず、 “integrated circuit card” とICを略さずに記すか、“smart card” (スマートカード)あるいは “chip card” (チップカード)の呼称の方が一般的である。

接触式ICカード

接触式ICカードはカード表面に平たい金属端子を備え、読み取り装置側の端子に接触させることにより通電し、回路駆動用の電力供給と信号の送受信を行う。

端子の物理仕様などの基礎的な技術仕様はISO/IEC 7816として標準化されており、これに基づいて各業界がデータの記録や送受信などに関する個別の標準規格を定めている。主に従来の磁気ストライプカードに代わってクレジットカードやキャッシュカードなどに用いられるほか、携帯電話のSIMカード(UIMカード)や、日本ではETCカードやデジタル放送の受信者識別カード(B-CASカード)にも採用されている。

非接触ICカード

非接触ICカードはコイル状のアンテナを内蔵し、読み取り装置からの無線電波による電磁誘導で電力を発生させ、電波で無線通信を行う。

ソニーなどが推進する日本のFeliCa(フェリカ)、蘭フィリップス(Philips)社(現NXPセミコンダクターズ)などが推進する欧州のMifare(マイフェア)が早くから浸透しており、両者を併記したNFC(Near Field Communications)がISO/IEC 18092として標準化され、広く採用されている。

カードと機器を接触・固定する必要がないため、交通機関のICカード乗車券やカード型電子マネーなど、極めて短時間での処理や手続きが求められる用途でよく用いられる。日本では運転免許証(ICカード免許証)、個人番号カード(マイナンバーカード/接触式端子と併用)、パスポート(IC日本国旅券)などにも採用されている。

ICカード 【IC card】

プラスチック製カードに極めて薄い半導体集積回路を埋め込み、データの記録や処理、外部との入出力などをできるようにしたもの。外部との入出力方式の違いにより接触式と非接触式がある。

カード内に半導体メモリを内蔵し、数KB(キロバイト)から1MB(メガバイト)程度のデータを記録することができる。内蔵メモリ素子が読み出し専用のROMチップの場合は書き換えできないが、フラッシュメモリを採用したものは専用の装置で記憶内容の追加や上書き、消去ができる。簡易なCPU(処理装置)を内蔵して暗号化などの処理が可能なものもある。

記録や通信の暗号化、認証やアクセス制御によりデータの不正な読み取りや改ざんを防ぐことができるため、磁気ストライプ式などに比べ偽造や変造が困難で安全性が高いとされる。記憶容量が大きいため単純な識別番号などの他に様々な情報を記録・送受信することができ、一枚のカードに複数の機能を持たせる汎用カードを作ることもできる。

日本では「ICカード」の呼称が広く浸透しているが、英語圏では “IC card” という表記はほとんど用いられず、 “integrated circuit card” とICを略さずに記すか、“smart card” (スマートカード)あるいは “chip card” (チップカード)の呼称の方が一般的である。

接触式ICカード

接触式ICカードはカード表面に平たい金属端子を備え、読み取り装置側の端子に接触させることにより通電し、回路駆動用の電力供給と信号の送受信を行う。

端子の物理仕様などの基礎的な技術仕様はISO/IEC 7816として標準化されており、これに基づいて各業界がデータの記録や送受信などに関する個別の標準規格を定めている。主に従来の磁気ストライプカードに代わってクレジットカードやキャッシュカードなどに用いられるほか、携帯電話のSIMカード(UIMカード)や、日本ではETCカードやデジタル放送の受信者識別カード(B-CASカード)にも採用されている。

非接触ICカード

非接触ICカードはコイル状のアンテナを内蔵し、読み取り装置からの無線電波による電磁誘導で電力を発生させ、電波で無線通信を行う。

ソニーなどが推進する日本のFeliCa(フェリカ)、蘭フィリップス(Philips)社(現NXPセミコンダクターズ)などが推進する欧州のMifare(マイフェア)が早くから浸透しており、両者を併記したNFC(Near Field Communications)がISO/IEC 18092として標準化され、広く採用されている。

カードと機器を接触・固定する必要がないため、交通機関のICカード乗車券やカード型電子マネーなど、極めて短時間での処理や手続きが求められる用途でよく用いられる。日本では運転免許証(ICカード免許証)、個人番号カード(マイナンバーカード/接触式端子と併用)、パスポート(IC日本国旅券)などにも採用されている。

RFID 【Radio Frequency Identification】

識別番号などを記録した微細なICチップをタグなどに埋め込んで物品に添付し、検知器などと無線通信することにより個体識別や所在管理、移動追跡などを行う仕組み。

無線機能を備えるICチップを内蔵したタグを(無線)ICタグと呼び、これを商品などに貼り付けたり取り付けることにより、個体を識別して管理情報の取得や更新を行うことができるようにする。タグ内部のメモリ素子には原則として識別番号のみを記録するが、方式によっては外部からの通信により記録内容を書き換えることもでき、自身の状態などを記録する用途なども提唱されている。

チップの内部には無線通信のためのアンテナ回路があり、方式にもよるが数十cmから最長で数m程度の距離から専用の通信装置を用いてデータを読み取ることができる。近い場所に複数のタグがあってもそれぞれ個別に識別できる技術が開発されている。

ICタグの種類

単にRFIDといった場合は通常、パッシブ型ICタグを用いる方式を指すことが多い。これは最小で数mm角程度のタグで、電池や電源は不要で、外部からの無線通信用の電波からエネルギーを得て動作する。記録容量や通信可能距離などは貧弱だが、最も小型軽量かつ安価であり、壊れなければ半永久的に使うことができる。

一方、用途によっては電池を内蔵した大きめのアクティブ型ICタグを用いる場合もある。定期的に電池を換える必要はあるが、自らの電源で動作し続けるため、定期的に電波を発信したり、数十m以上の比較的長い距離からデータを送信することができる。

バーコードなどとの比較

RFIDの有力な応用として、従来のバーコードや二次元コードに代わる商品や荷物など個体識別や単品管理、所在や移動履歴の把握(トレーサビリティ)などがある。

バーコード等と比較すると、タグが箱の中などに隠れたり汚れたりしても装置を近づければ読み取ることができる点、読み取り速度が高速な点、近くにある複数のタグをまとめて読み取れる点など、効率向上や自動化に適した特徴がいくつかある。

ただし、タグ自体が電子機器であるため、印刷可能なバーコードに比べると高コストになってしまう点や、タグ自体への曲げや圧力、高温や湿り気などで破損しやすい点、金属や水分で電波が遮蔽されやすい点などのデメリットもある。

キャッシュレス決済 【電子決済】

商品やサービスの代金支払いなどを、現金の受け渡しや金融機関での手続きなどではなく、電子的なデータ交換によって行うこと。

銀行口座やクレジットカードなどを利用するキャッシュレス決済方式として、インターネット上でのクレジットカード決済(カード番号などをオンラインで送信する)やインターネットバンキングによる相手口座への送金、キャッシュカードで店頭での支払いを行うデビットカード決済などがある。

事前に決済事業者に入金した額の範囲で支払いを行うことができる決済方式を「電子マネー」あるいは「ストアドバリュー型電子決済」という。利用者はカード購入や入金端末操作、銀行振り込み、クレジットカード決済などで決済サービス上での貨幣価値を入手し、提携店舗やネットサービスでの支払いに充てることができる。

これには交通系ICカードなどのICカード型電子マネー、店舗でカードを購入するうプリペイドカード型電子マネー、オンラインで入金や決済を行うネットワーク型電子マネー、スマートフォンの短距離無線通信を利用するモバイル決済、QRコードで決済情報を伝達するQRコード決済などが含まれる。

2000年代初頭のインターネット普及や非接触ICカード技術の進歩により広まった決済方式で、ECサイトやネットサービスでの支払いにオンラインのクレジット決済やネットバンキングがよく利用される。店舗での支払いなど現金を代替する用途は日本では大都市圏での交通系ICカード以外なかなか普及しなかったが、2010年代後半頃からモバイル決済やQRコード決済が急激に浸透しつつある。

フィンテック 【Fintech】

金融と情報・通信技術を融合して産み出される、従来にない新しいサービスやシステムの総称。欧米では2000年代前半頃から使われていた言葉で、日本では2014年頃から本格的に注目されるようになった。

“Finance” (金融)と “Technology” (技術)を組み合わせた造語である。資金の貸し借りや決済・送金、企業などの財務・会計、個人や家庭の家計・財産管理などにコンピュータやインターネットを応用し、従来の手続きや管理を電子化、効率化したり、従来にない新しい手段やサービスを実現したものを指す。

広義には、金融機関が自らのサービスをインターネットなどを通じて利用できるようにしたオンラインバンキングやオンライントレードなどを含むこともあるが、狭義には、金融機関が提供してこなかったようなサービスや、金融機関自身が提供するのは難しいシステムやサービス(複数の企業や業界を横断するものなど)を指すことが多い。

事例

具体的な事例としては、各金融機関のネットサービスと横断的に連動して手続きや情報取得を自動化・効率化する資金管理システムや家計簿ソフト(アグリゲーションサービス)、QRコード決済などのキャッシュレス決済などが広く普及している。

また、SNSのIDなどを利用した個人間送金サービス、個人間の資金の貸し借りを仲介するソーシャルレンディング(P2P金融)、ネットを通じて広く個人から投融資資金を募るクラウドファンディングなども注目されている。仮想通貨(暗号通貨)など、ブロックチェーン技術を応用したシステムやサービスをフィンテックの一種とする場合もある。

2000年代初頭から特に日本で広く普及している、ICカードや携帯電話、プリペイドカードを利用した電子マネーおよび電子決済サービスや、マイルやポイントの交換サービスなども概念上はフィンテックに含まれるが、フィンテックという単語が注目される以前からすでに広く普及していたことや、日本特有のサービスやシステムは欧米では馴染みがないことなどから、フィンテックの文脈で取り上げられることは少ない。

暗号資産

暗号技術を用いて、コンピュータネットワーク上で単一の管理主体を置かなくても利用者間で安全に値を移転できる仕組みを構築し、この値に財産的な価値を見出したもの。通貨のように取引できる「暗号通貨」を指すことが多いが、他の応用例もある。

所有者の端末に、その暗号資産の取引履歴などを記録した分散台帳(ブロックチェーン)の複製が保管される。ブロックチェーンは暗号技術で保護されており、所有者が自分に有利なように記録を改竄しようとしても、他の所有者が保管する台帳と整合性が取れず、書き換えは棄却される。

この仕組みにより、現実の通貨のような中央集権的な発行主体や管理主体を置かなくても、個々の所有者によるデータ保管、所有者相互のデータのやり取りのみで安全に取引を完結させることができる。各所有者の保有高を改竄不可能な形でネットワーク上に保管し続けることができる。

ブロックチェーン上での値の移動を通貨の支払いとみなし、代金の決済などに利用できるようにしたものを「暗号通貨」(cryptocurrency)という。ビットコイン(Bitcoin)やイーサリアム(Ethereum)などがよく知られ、支払いや蓄財、投資などで通貨の代わりに用いられている。

為替取引のようにネット上の交換所で現実の通貨や他の暗号通貨と交換することもできる。中央銀行のような発行主体が存在しないため財産的な裏付けは無いが、企業などが発行し、法定通貨やコモディティに価値が連動するよう設計された「ステーブルコイン」も存在する。

一方、株式や債券、会員券、引換券などに類似する、通貨以外の何らかの財産的な権利の所有や移転をブロックチェーン上に記録するシステムもあり、広義の暗号資産に含まれる。セキュリティトークン(デジタル証券)、ユーティリティトークン、NFT(非代替性トークン)などが該当する。

日本では2016年の資金決済法改正により「仮想通貨」の名称で規定が追加されたが、2020年の金融商品取引法および資金決済法の改正で呼称が「暗号資産」に統一された。日本の法制度上の「暗号資産」は通貨性のあるもの(暗号通貨)に限定され、NFTなどは該当しないとされるため、一般的な概念の “crypto asset” に含まれる範囲とは必ずしも一致しない。

eビジネス

企業などの事業活動全般に渡ってインターネットや関連する情報・通信技術を導入し、業務工程を全面的に電子化すること。また、そのような変革を経て生まれた深く電子化された企業活動や商取引。

製品などの売買をインターネット上で電子化した、いわゆる電子商取引(EC:eコマース)の次の段階として提唱された概念で、企業の業務過程に全面的にインターネット由来の技術を導入し、ビジネス全体が電子化された状態を指す。

1997年にIBM社がインターネット時代の事業構想を発表する中で企業が目指すべき方向性として提唱した標語で、同社が新産業の興隆を願ってあえて商標登録しなかったこともあり、他社やメディアも盛んに用いるようになった。

2000年代後半になり企業活動でのコンピュータやインターネットの利用が当たり前になると、企業や人々の関心は電子化そのものから新しい技術やシステムの具体的なあり方などに移っていき、eビジネスという用語もあまり使われなくなっていった。

B to B 【Business-to-Business】

企業間の商取引、あるいは、企業が企業向けに行う事業のこと。企業間の物品の売買やサービスの提供、企業と金融機関との取引などがこれに含まれる。企業向け事業が主体の企業のことをBtoB企業ということがある。

産業全体ではBtoB取引の規模の方が対消費者向け(B to C:Business-to-Consumer)よりも何倍も大きいとされる。企業の分類としてBtoBという場合には、素材メーカーのように取り扱う商品自体が企業向けの場合を指すことが多いが、一般にB to C企業に分類される場合でも、例えば消費者向け加工食品メーカーが直接取引するのは消費者ではなく食品卸や大手小売チェーンなどの卸売・小売企業であり、事業や取引の形態そのものはBtoBとなる。

企業向け事業の特徴として、一回の取引金額や数量が大きく、逆に取引頻度は少ない。意思決定に複数の人や組織が関わることが多く、検討や決定に多くの時間や手続きを要する。また、購買部門が購入した備品を社員が使うといったように、購入者や意思決定者と、使用者や対象者が一致しないことが多いのもBtoB取引の大きな特徴である。

これに対し、企業と一般消費者の商取引、または、企業が一般消費者向けに行う事業のことを「B to C」(Business-to-Consumer、B2C)、企業と公的機関の商取引、または、企業が公的機関向けに行う事業のことを「B to G」(Business-to-Government、B2G)、企業内の従業員向けサービスなどのことは「B to E」(Business-to-Employee)という。

B to C 【Business-to-Consumer】

企業と個人(消費者)間の商取引、あるいは、企業が個人向けに行う事業のこと。一般消費者向けの製品の製造・販売や、消費者向けサービスの提供、個人と金融機関の取引などがこれに含まれる。消費者向け事業が主体の企業のことをBtoC企業ということがある。

一般消費者にとって日常的に接する商取引のほとんどはBtoCだが、産業全体では企業間の取引規模のほうが大きいと言われる。企業の分類としてBtoC企業という場合には、小売業や消費者向け製品のメーカー、個人客を対象とするサービス事業者などを指す。

ただし、一般にBtoC企業とみなされる企業でも、例えば消費者向け加工食品メーカーが直接取引するのは消費者ではなく食品卸や大手小売チェーンなどの卸売・小売企業であり、事業や取引の形態そのものは企業間・事業者間が中心となる。

個人向け事業の特徴として、一回の取引金額や数量が小さく、逆に取引頻度は多い。一回の取引について購入者と使用者、意思決定者が一致するか関与する者が少数(家族など)であることがほとんどだが、一方で取引相手は不特定多数に分散する。ネット販売などを除き取引先の身元がほとんど分からない点も事業者間取引などにはない性質である。

これに対し、企業間の商取引、または、企業が企業向けに行う事業のことを「B to B」(Business to Business/B2B)、フリーマーケットのような個人間・消費者間の商取引を「C to C」(Consumer to Consumer/C2C)、企業と公的機関の商取引、または、企業が公的機関向けに行う事業のことを「B to G」(Business to Government/B2G)という。

C to C 【Consumer-to-Consumer】

商取引の分類を表す用語の一つで、個人間、とりわけ一般消費者同士の間で行われる商取引のこと。また、個人間の取引を仲介する事業やサービスなどのこと。

電子商取引やネットサービスの事業分類によく用いられる概念で、個人間で物品の売買やサービス提供を行う取引や、その仲介や紹介などを行う事業などを指すことが多い。具体的にはネットオークション(Yahoo!オークションなど)やフリマアプリ(メルカリなど)、個人で開業できるオンラインショップ(の開設・運用支援サービス)などが該当する。

近年では、物品の売買に限らず個人間の財産の貸し借りやサービス提供を仲介するネットサービスが興隆している。例えば、個人宅の空き部屋の宿泊提供(AirBnBなど)、自動車による送迎(Uberなど)、駐車場の時間貸し(Akippaなど)、飲食店からの宅配(Ubereatsなど)などである。ネットを介した資産の貸し借りで生まれる新たな経済を「シェアリングエコノミー」という。

これに対し、企業と消費者の商取引を「B to C」(Business-to-Consumer)、企業間の商取引を「B to B」(Business-to-Business)という。また、公的機関(G:Government)との商取引や行政サービスの提供などについて、「B to G」(企業→公的機関)、「G to B」(公的機関→企業)、「G to C」(公的機関→住民・国民)のように類型化することもある。

D2C 【Direct to Consumer】

シラバス:Ver.9.0 (2023年)

製品の製造元やサービスの提供元が、仲介事業者や販売代理店などを介さずインターネットを通じて顧客に直接販売を行うこと。インターネット直販。

顧客がWebサイトなどを通じて商品の選択や発注、決済などの手続きを行い、製品の場合は宅配便などで、ソフトウェアやデジタルコンテンツの場合はデータを送信することにより、それぞれ顧客の元に届けられる。サービス販売の場合は証書や引換券などを郵送したり、メールなどで購入完了の通知を送信することでサービスを受けられるようにすることが多い。

販売代理店や卸売業者、小売店などを通じて販売する場合に比べ、これらの流通事業者を介することで発生するコストや工数、時間などを削減することができる。ただし、メーカー自身が自前で販売や流通、顧客対応などのための人員や設備、業務を抱えることになるため、専門の事業者に販売委託する場合より全体としてコスト削減や効率化が進むとは限らない。

流通事業者のマージンが削減される分だけ販売価格も割安となる場合もあるが、定価販売となるため価格面でのお得感はアピールしないことも多い。電子機器のように共に使用する関連製品が多い分野では、小売店などと異なり他社製品の合わせ買いができない点に顧客が不便を感じることもある。

現実の店舗よりもECサイトは開設が簡単なため、インターネット普及期には各業界で直販モデルによる流通事業者の「中抜き」が進むと予想されたが、実際に直販を行ってみると事業者側・顧客側の双方にとって必ずしも利点ばかりではないことが明らかになり、現在でもオンラインモールを始めとするオンラインの流通事業者が数多く存在する。

G to B 【Government-to-Business】

政府や自治体などの公的機関が企業を相手に行う公的手続きや行政サービスなどを電子化し、利便性や効率性を高めること。また、そのような公共サービスのこと。

狭義には、公的機関が利用する物品や資材の電子調達や、公共工事や事業の電子入札・受発注などの商取引のことを指すが、広義には、企業の業務に関連する申請や届出、登録、文書や情報の問い合わせといった手続きの電子化やオンライン化、ワンストップ化などを含める場合もある。

(電子)商取引の類型を表す「B to B」(企業間)、「B to C」(企業体消費者)などの略語に倣ってこのように呼ばれる。公的機関が住民などに提供するサービスや手続きを電子化することは「G to C」(G2C/Government-to-Citizen)、企業側から見て公的機関と(電子的に)取引を行うことは「B to G」(B2G/Business-to-Government)という。

G to C 【Government-to-Citizen】

行政など公的機関のサービスや手続きなどを電子化し、住民・国民がインターネットなどを通じて利用できるようにすること。また、そのような公共サービスのこと。

「B to B」(企業間)「B to C」(企業対消費者)など(電子)商取引の類型を表す略語に倣ってこのように呼ばれるが、GtoCは商取引を表すものではなく、官公庁や自治体などと住民間で行われる申請や届出、手続き、情報提供などのやり取りを電子化・ネット化したものを意味するのが一般的である。

「C」は市民を意味する “Citizen” の略とする場合と、電子商取引の例に倣って “Consumer”(消費者)とする場合、あるいは “Community”(住民コミュニティ)とする場合がある。

これに対し、電子調達や電子入札など行政と企業のやり取りや取引を電子化することを「G to B」(G2B/Government-to-Business)、国の機関と地方自治体の間など、公的機関同士のやり取りを電子化することを「G to G」(G2G/Government-to-Government)という。

O2O 【Online to Offline】

インターネットを利用した企業のマーケティング施策の一つで、実店舗への来店や店頭での購入などオフラインでの行動を促すことを目的とするオンラインでの活動のこと。

小売店や飲食店など消費者との物理的な接点となる拠点を持つ事業者がネット上で行う施策で、消費者や顧客へ来店を促したり、実店舗での購買行動の利便性や魅力を高めるようなサービスを提供することを指す。

例えば、スマートフォンアプリなどを通じて割引クーポンを配布して顧客の来店頻度を高めたり、飲食店が席の予約や商品の注文をオンラインで受け付けて来店時に待たずに着席や商品の受領ができるようにしたり、利用者の携帯端末の位置情報を元に近隣の店舗の紹介やクーポン発行を行ったりする事例が知られている。

近年では逆に、実店舗の来店客にネット通販サイトやオンラインサービスの利用を促す “Offline to Online” 型の施策も行われるようになってきている。例えば、店頭の商品にQRコードなどを掲示してスマートフォンで商品の詳しい情報やECサイトの在庫を参照できるようにしたり、来店客がスマートフォンに公式アプリをインストールすると割引やキャッシュバックを提供するといった事例が見られる。

OMO 【Online Merges with Offline】

小売業などのマーケティング戦略の一つで、実店舗など顧客との物理的な接点(オフライン)を、オンライン戦略の一部として融合させること。顧客に対してオンラインとオフラインの両面からアプローチする。

ECサイト、モバイルアプリ、メール会員、SNSやメッセンジャーの公式アカウントといったオンラインの接点と、実店舗などのオフラインの接点の垣根をなくし、情報や施策を一元的に管理することで、顧客一人ひとりに最適化された総合的なアプローチを可能になる。

例えば、ECサイトやアプリで事前にオーダーした商品を実店舗で受け取る、事前にオンラインで登録した利用者のみが入店できる無人店舗、実店舗で購入した商品の関連商品をオンラインで提案、店舗スタッフがコミュニケーションツールで常連客と接触するといった施策が該当する。

O2O・オムニチャネルとの違い

似た概念に「O2O」(Online to Offline)があるが、これはネットから店舗へ集客するという一方向のアプローチである。OMOはネットと店舗を行き来して総合的に顧客へアプローチする手法であり、O2Oの施策を包含すると考えられる。

また、「オムニチャネル」(omni-channel retailing)も複数の顧客接点を活用する戦略だが、ECサイト、SNS、店舗といった個別のチャネルを併用する手法であり、OMOのようなチャネル間の連携や融合、統合された顧客行動の捕捉などには踏み込まない。

eマーケットプレイス 【電子市場】

インターネットを介して売り手と買い手を結びつける取引所や市場のこと。多くはWebサイトの形で開設され、登録した売り手の販売する商品を、買い手がオンラインで発注して購入する。

運営元はECサイトとしての基本的な仕組み(商品の登録や表示、決済、物流など)を整え、売り手の企業などの参加を募る。サイト上には様々な売り手が販売する商品が陳列され、訪れた買い手は商品や売り手を選択して購入する。売り手を横断してサイト全体から商品を検索・一覧する仕組みや、決済や配送を運営元が仲介することで売り手の信用を補完する仕組みなど、単純に複数の電子商店を寄せ集めただけではない利便性を備えていることが多い。

2000年前後のインターネット普及期には主に企業間の電子商取引(B to B EC)の担い手としてeマーケットプレイスに期待する声が大きく、実際、中国のAlibaba(アリババ)など成功例もいくつか見られたが、企業間の取引ではオープンなスポット取引は限定的で、信用調査や取引条件の交渉などの手順が複雑であることなどから、当初予想されたほどには広まっていない。

一方、消費者向けの電子商店が集まったいわゆる電子モール(オンラインモール)や、個人間(C to C)で商品を売買するオンラインオークションやフリマアプリなどは順調に発展・普及しており、eマーケットプレイスという用語で連想されるものとしては現在はこちらが中心となっている。

ロングテール

インターネット上での現象は生起頻度の低い要素の合計が全体に対して無視できない割合を占めるという法則。縦軸を頻度として横軸に頻度の高い順に項目を並べたグラフを描くと、右側に低頻度の項目が大量に並び、長く伸びた動物の尻尾のように見えることからこのように呼ばれる。

経済現象や社会現象では、上位の少数の要素が全体の数量の大半を占める法則や経験則が様々な分野や対象で見られ、「冪乗則」(べき乗則)「パレートの法則」「80:20の法則」(売上の80%は上位20%の顧客/商品がもたらす)などの形で古くから知られていた。

このような傾向自体はインターネット上での経済活動でも見られるが、現実の店舗などが売り場面積や人員などの物理的な制約から、ある程度上位の「売れ筋」に集中せざるを得ない一方、オンラインショップなどでは制約が小さいため、従来は「死に筋」と見られていた下位の商品も低コストで取り扱うことができ、合算すると大きな収益を産む場合がある。

米ワイアード(WIRED)誌の編集長だったクリス・アンダーソン(Chris Anderson)氏は2004年10月に発表した記事 “The Long Tail” の中で、このような従来の現実世界の経験則が通用しないインターネット特有の構成比率が見られる事例を紹介し、グラフに描画した際の右下に長く伸びる低頻度の領域を恐竜の長い尻尾になぞらえて「ロングテール」(long tail)と呼んだ。

この傾向はECサイトの売上構成比だけでなく、ネット上の様々な経済・社会現象で観察される。例えば、Webサイトを構成する各ページの閲覧回数、検索エンジンにおける各検索語の検索頻度などである。また、個別の事業やサービスなどの中だけでなく、市場全体にもこのような傾向が見られ、ある市場のロングテール部分に特化した事業を展開するビジネスなども興隆している。

クラウドソーシング

インターネットを利用して不特定多数の人に業務を発注したり、受注者の募集を行うこと。また、そのような受発注ができるネットサービス。

発注元の事業者はクラウドソーシングサイトで業務の内容や発注条件などを告知し、サイトの加入者の中で希望する人が応募する。発注元は最も適任と思われる応募者に業務を発注する。納品後、発注者はサイト側に一定の料率や料金の仲介料を、受注者に委託料を支払う。

デザインや制作物の依頼などでは希望者が作品を投稿し、発注者が気に入ったもの(だけ)を選んで買い取る、いわゆるコンペ形式(コンペティション型)の発注形態が取られることもある。

発注側にとってはこれまで取引のなかった個人などに低コストで業務や制作を発注することができ、受注側も最も困難で手間のかかる取引先の開拓をサイト側に任せることができる。フルタイムで業務に専従することが難しい副業や在宅などの働き方でも受注側として参加できる利点もある。

なお、「クラウドソーシング」の名称は、“crowd” (群衆)と “sourcing” (調達) を繋げた造語である。「クラウド」は「クラウドファンディング」(crowdfunding)などと共通で群衆などの意味がある。「クラウドコンピューティング」などの “cloud” は同音異義語であり関係ない。

NFT 【Non-Fungible Token】

シラバス:Ver.9.0 (2023年)

ブロックチェーン上に記録されるデータ単位(トークン)のうち、個体識別の仕組みを持ち他のトークンと代替不可能なもの。特定のデジタル資産と利用者(チェーン参加者)を紐付けることができる。

ブロックチェーンは中央集権的な管理システムを用いずに時系列のデータを蓄積する仕組みで、参加者のコンピュータに分散して台帳データを作成し、改竄困難な形で履歴データを追加していくことができる。

代表的な応用例である仮想通貨では、各参加者の持つ数値の所有、譲渡、増減をチェーンに記録していき、これを通貨に見立てて参加者間での取引、支払いに用いる。各参加者の保有する仮想通貨は入れ替え可能であり、ある参加者の持つ通貨1単位と他の参加者の持つ1単位は等価で区別はない。

一方、NFTはブロックチェーン上に固有性を持つデータを記録する技術で、作成されたトークンは識別番号などで他のトークンと区別される。トークンには現在の所有者や、何らかのデジタル資産を指し示すデータが含まれ、仮想通貨と同じように移転履歴が改竄不可能な形でチェーン上に記録される。

デジタル資産のNFT

NFTの典型的な用途として、Web上で公開されている画像や動画、その他の何らかのデジタル資産とトークン所有者の紐付けがある。トークンに対象となるデジタル資産が置かれたURLなどを記録し、そのトークンの現在の所有者と対応付ける。デジタル資産は複製可能だが、トークンに記録された所有者の情報は譲渡するまで書き換えできない。

インターネット上には様々なNFT取引所があり、デジタル化された写真や絵画、イラスト、動画、ゲーム内アイテムなどを参加者の間で売買できる。参加者は仮想通貨あるいは現実の通貨を支払って現在の所有者からNFTを購入すると、取引所内で表示される所有者が自分の名前に書き換わる。引き続き出品して他の参加者に転売することもできる。

誤解と問題点

NFT取引所などではこの仕組みを画廊での絵画作品の販売やオークションでの取引などになぞらえ、「デジタル資産の所有権を売買できる」と表現することがあるが、これはいくつかの点で不正確である。

まず、NFTに記録される「所有者」は「NFT(トークン)自体の所有者」で、紐付けられた画像等の所有者を意味しない。著作権も原著作者から譲渡されないのが普通で、「所有者」の法的な権利は不明瞭である。

また、通常はデジタル資産のデータ本体はトークン内に記録されず(記録するNFTも存在するが一般的ではない)、資産が所在するURLなどが記録されるため、資産との紐付けが有効か否かはURLで指し示されたWebサーバ(NFT取引所など)の管理主体に依存する。

資産自体はNFTとは無関係にデジタルデータとしてWeb上などに存在し、NFTによって複製や伝送を防止できるわけでもない。他人の公開している画像から勝手にNFTを作成して販売するといった問題も起こっている。

アカウントアグリゲーション

シラバス:Ver.9.0 (2023年)

利用者が所有する複数の金融機関の口座(アカウント)情報を取得し、まとめて処理・表示できるようにする仕組み。資産運用や家計簿などのアプリやネットサービスで用いられる。

アカウントアグリゲーションに対応したシステムは利用者が預金口座などを持つ金融機関のインターネットバンキングサービスなどを利用して預金残高や入出金明細などの情報を取得し、全体を集約・通算して一つの画面で一覧できるようにする。

初期に用いられた手法は「スクレイピング」を応用した方式で、利用者からIDとパスワードを預かり、利用者に成り代わってネットバンキングサービスにログインして画面を操作し、表示画面のWebページの内容を解析して必要な情報を抽出する。

この方式は人間向けのネットサービスを提供している金融機関であればアグリゲーション事業者による対応のみで利用できる汎用性の高さがあるが、利用者が金融機関のログイン情報という重要な情報を事業者に預ける形となるためセキュリティ上のリスクが高い。

近年スクレイピングに代わって徐々に普及しているのは「API連携」(オープンAPI)を応用した方式である。金融機関側は外部からアクセス可能なプログラム向けの窓口(API:Application Programming Interface)を用意し、利用者の認証と承認を経てプログラム上のやり取りで情報を取得する。金融機関側の対応が必要だが安全性が高い。

アカウントアグリゲーションは以前から資産管理アプリなどで用いられてきたが、2018年からは銀行法などの改正により「電子決済等代行業者」として金融庁への登録が必要となった。金融庁ではAPI連携によるアカウントアグリゲーションが望ましいとして全国の金融機関にAPI問い合わせを受け付ける環境を整備するよう要請している。

eKYC 【electronic Know Your Customer】

シラバス:Ver.9.0 (2023年)

事業者が顧客との契約時に行う本人確認手続きを電子的な手段で行うこと。インターネットやスマートフォンなどを用いた確認手続きで、窓口に出向いたり書類を郵送する手間を省いてすべての手続きを遠隔からオンラインで即時に済ませることができる。

事業者が顧客などの身元や実在性、連絡先などを確認する手続きを「KYC」(Know Your Customer)という。従来は戸籍謄本や住民票などの書類、運転免許証やパスポート、マイナンバーカードなどの身分証を使い、窓口や郵送など物理的な方法で確認するのが一般的だった。

この確認手続きをスマートフォンやインターネットを通じて電子的に手続きを行うことをeKYCという。日本では2018年に金融庁が「犯罪による収益の移転防止に関する法律」(犯罪収益移転防止法)の施行規則を改正したことにより、金融機関や資金移動サービスを手掛けるネット事業者などによるKYC手続きの電子化が可能となった。

同規則ではいくつかの手続き方法を定義しているが、例えば、本人確認書類の写真をスマートフォンのカメラなどで撮影した画像と、本人の写真やビデオ通話による容貌の確認などを組み合わせることで本人確認手続きとすることができる。

EDI 【Electronic Data Interchange】

商取引に関する情報を標準的な形式に統一して、企業間で電子的に交換する仕組み。受発注や見積もり、決済、出入荷などに関わるデータを、あらかじめ定められた形式にしたがって電子化し、インターネットや専用の通信回線網など通じて送受信する。

紙の伝票をやり取りしていた従来の方式に比べ、情報伝達のスピードが大幅にアップし、事務工数や人員の削減、販売機会の拡大などにつながる。データ形式やコンピュータ間の接続方式などは国ごと、業界ごとに標準が定められていることが多いが、国際的な規格や業種横断的な規格もある。

国際標準としては国連機関が定めたUN/EDIFACT(United Nations rules for Electronic Data Interchange For Administration, Commerce and Transport)やebXMLが知られる。日本の国内規格は基盤的なものとして情報処理開発協会(JIPDEC)内の産業情報化推進センター(CII:Center for the Informatization of Industry)が定めたCII標準があるが、多くは各業界が個別に定めた標準が用いられている。

例えば、金融機関は全銀協手順(全銀ベーシック手順、全銀TCP/IP手順など)、流通業界は流通BMS(流通ビジネスメッセージ標準)、小売チェーン店はJCA手順、食品業界は日食協標準EDIフォーマット、鉄鋼業界は鉄鋼EDI標準といった具合に業界ごとにメッセージや伝送手順の標準を定めている。

自動車部品業界のJNX(Japan automotive Network eXchange)のように企業間を繋ぐ信頼できる取引情報交換ネットワークを構築している業界や、放送CM業界の広告EDIセンターのように売り手と買い手を結びつける取引所を設置している業界もある。

EDIシステムの多くはNTT地域会社などの電話回線やISDN回線などの公衆交換電話網(加入電話網)を利用して取引先に接続するよう設計されているが、近年ではインターネット上にVPN(Virtual Private Network)を構築して安全に接続する手法も広まっている。また、ソフトウェアも専用のものを導入するのが一般的だったが、これに代えてWebブラウザを用いて取引先のWebサーバ上に構築されたEDIシステムを利用するWeb-EDIが台頭している。

Web-EDI 【Web Electronic Data Interchange】

企業間で受発注等の情報を電子的に交換するEDI(Electronic Data Interchange)システムのうち、インターネットを通じてデータの送受信を行なうもの。

特に、Webサーバ上にシステムを構築し、利用者がWebブラウザによってデータの閲覧や送受信、システムの操作を行なうことができるもののことをこのように呼ぶ。

従来のEDIは通信経路として専用線やVAN、電話回線、ISDN回線などを用い、ソフトウェアは専用のものをコンピュータに導入して利用するのが一般的で、通信費用が高く、取引先毎にソフトウェアを用意して使い分けるなど取り扱いも煩雑だった。

Web EDIでは通信経路にインターネットを用い、Webブラウザでシステムの操作画面を呼び出してデータの送受信や情報の閲覧を行なう。小規模な事業者も手軽に低コストで導入・利用することができ、通信速度が高速で効率的に操作やデータ伝送を行うことができる。

一方、従来のEDIからの問題点であった、標準規格の不統一や各社毎に用意されたシステムにより取引先ごとにシステムや操作方法を使い分けなければならない煩雑さや、Webブラウザが手動操作を前提としているため自動化が進みにくい点などはそのまま残されている。

全銀協手順 【全銀協標準通信プロトコル】

全国銀行協会(全銀協)が1983年に制定した、金融機関のシステム間を広域通信網を通じて接続し、データ交換を行うための通信手順(プロトコル)。日本独自の規格で、国内の金融機関同士、および金融機関と顧客のシステム間を接続するのに用いられる。

日本銀行と市中銀行などの民間金融機関、金融機関同士、金融機関と顧客企業などの間でオンラインデータ交換を行う通信仕様を定めている。一般の企業間のEDI(電子データ交換)システムでも利用されている。

全銀ベーシック手順 (Z手順)

1983年に最初に制定された規格は「ベーシック手順」と呼ばれ、専用端末と公衆交換電話網(電話回線)を利用する。アナログ電話回線ではモデムを通じて最高2400bpsで通信でき、ISDN回線を用いると64kbpsで通信できる。電話網のIP化に伴い2023年末でサポートが打ち切られる予定。

全銀TCP/IP手順 (拡張Z手順)

インターネットの普及に伴い1997年に「TCP/IP手順」が策定された。ベーシック手順では通信制御にBSC手順が用いられていたが、これをTCP/IPに置き換え、IP通信に対応した様々な機器やソフトウェアを利用できる。物理的な回線基盤としてはベーシック手順と同様に公衆交換電話網を前提としているため、2023年末で利用できなくなる。

これに代わって2017年に策定されたのが「TCP/IP手順・広域IP網」で、TCP/IP手順を電話回線ではなくインターネットやIP-VPNなど広域IP網を経由して利用できるようになった。金融サービスに求められる高いセキュリティ水準に配慮し、インターネットではなく通信事業者の閉域網を経由するVPNサービス等を利用することが推奨されている。

XBRL 【eXtensible Business Reporting Language】

企業の財務諸表や財務報告などを記述するための標準的な形式を定めた規格の一つ。XMLを応用した言語の一つで、一度入力した財務情報を関係機関で共有し、ソフトウェアによる自動処理で伝達、保存、加工などすることができる。

企業などが財務状況の報告や申告、公表などを行う場合、電子文書などを用いることはこれまでもあったが、形式はまちまちであり、また、人間が読んで理解することしか前提としていないため、文書中の数値などを他の組織やシステムで利用しようとすると内容を人間が解釈して人力で再入力するしかなかった。

XBRLではXML標準に基づいて財務情報を記述する方法を定めており、例えば、ある企業のある会計年度の決算における貸借対照表といった文書を機械可読な形式で作ることができる。作成された文書内のどの項目が何を表しているのかをソフトウェアが自動的に把握して処理に活かすことができる。

企業など情報源となる機関が一度XBRL形式でデータを作成して提供・公表すれば、他の機関や関係者はこれをソフトウェアで読み込んで自らに必要な処理や手続き、計算や集計、文書作成などに流用することができる。

文書の構造

XBRLで作成される文書は、記述する財務文書の内容や構造、文書中に登場する項目や数値の意味や形式、相互の関連性などを定義したタクソノミ文書群(XBRL Taxonomy)と、特定のタクソノミに基づいて作成された実際の財務文書であるインスタンス文書(XBRL Instance)に分かれる。

タクソノミはXML規格の一種であるXML Schema(.xsdファイル)とXLink(.xmlファイル)を用いて作成され、インスタンス文書で使用するタグ(要素)やその属性などを定義し、勘定科目名や数値データ間の関係を表す式、項目の表示順などを指定することができる。

インスタンス文書(XBRLファイル)は標準で「.xbrl」の拡張子がついたテキストファイルとなっており、記述に使われたタクソノミを参照するURLなどが冒頭に記述されている。XBRLファイルを読み込むにはファイル自体の他にタクソノミファイルが必要になる。

タクソノミは各企業などが独自に定義してXBRL文書に添付する場合もあるが、何らかの機関への申告や報告に用いる場合は当該機関により指定されたタクソノミを入手して利用する。日本では金融庁のEDINETや日本取引所グループのTDnet、国税庁のe-Taxなどで用いる開示書類や報告書、申告書などのXBRLタクソノミがそれぞれの機関から公開されている。

歴史

XBRLは業界団体のXBRL Internationalが仕様を策定しており、1998年に初版(XBRL 1.0)が発行された。この仕様ではタクソノミの記述にDTD(Document Type Definition)を用いていたが、2001年のXBRL 2.0でXML SchemaとXLinkで記述するよう大幅に仕様が変更された。

2003年に小幅に改訂されたXBRL 2.1が発表され、その後は微修正が発表される程度で大幅な改訂は行われていない。日本ではバージョン2.1仕様を元に2005年にJIS X 7206として国内標準が策定された。

ソーシャルメディア

インターネット上で展開される情報メディアのあり方で、個人による情報発信や個人間のコミュニケーション、人の結びつきを利用した情報流通などといった社会的な要素を含んだメディアのこと。狭義にはいわゆる「SNS」(ソーシャルネットワーキングサービス)を指す。

利用者の発信した情報や利用者間の繋がりによってコンテンツを作り出す要素を持ったWebサイトやネットサービスなどを総称する用語である。電子掲示板(BBS)やブログ、ミニブログ、Wiki、SNS、動画共有サービス、動画配信サービス、ポッドキャスト、ソーシャルニュースサイト、ソーシャルブックマークサービス、レシピ共有サイト、各種レビューサイト、Q&Aサイトなどが含まれる。

メッセンジャーアプリやビデオ会議アプリなどのコミュニケーションツールもソーシャルメディアの一種とする場合がある。サイトやサービス自体はソーシャル的でない場合も、オンラインショップのレビュー投稿欄、フリマアプリの購入者評価欄などのようにソーシャルメディア的な要素が含まれる例がある。

従来のマスメディアは情報の発信に巨大な設備や組織、巨額の資金が必要だったため、情報の送り手の地位は少数の特権的な職業人によって占められていたが、ソーシャルメディアではメディアの閲覧者が同時に発信者としての資格を持ち、他の利用者に自身の責任で自由に情報を発信することができる。

また、大衆に画一的に同じ情報を複製して配信してきたマスメディアに対し、ソーシャルメディアでは多様な発信主体から閲覧者自身が必要とする情報源を選択したり、友人や同僚、同好の士などといった人間関係を利用して情報の流通を制御したりする仕組みが用意されていることが多い。

SNS 【Social Networking Service】

人と人との社会的な繋がりを維持・促進する様々な機能を提供する、会員制のオンラインサービス。友人・知人間のコミュニケーションを円滑にする手段や場を提供したり、趣味や嗜好、居住地域、出身校、あるいは「友人の友人」といった共通点や繋がりを通じて新たな人間関係を構築する場を提供するサービスで、Webサイトや専用のスマートフォンアプリなどで閲覧・利用することができる。

主な特徴

サービスにより機能や特徴が大きく異なるが、多くのサービスに見られる典型的な機能としては、別の会員を「友人」や「購読者」「被購読者」などに登録する機能、自分のプロフィールや写真を公開する機能、同じサービス上の別の会員にメッセージを送る機能、自らのスペースに文章や写真、動画などを投稿して友人などに見せる機能がある。

サービスによっては、複数の会員でメッセージ交換や情報共有ができるコミュニティ機能、イベントの予定や友人の誕生日などを共有したり当日に知らせたりしてくれるカレンダーあるいはスケジュール機能などがある。

多くの商用サービスではサイト内に広告を掲載するなどして、登録や基本的なサービスの利用を無料としているが、一部の機能を有料で提供しているサービスもある。

SNSの種類

多くのサービスはメールアドレスなどがあれば誰でも登録できるが、普及し始めた当初は人の繋がりを重視して「既存の参加者からの招待がないと参加できない」というシステムになっているサービスが多かった。

現在でも、何らかの形で参加資格を限定し、登録時に紹介や審査などが必要なサービスがある。また、参加自体が自由でも、テーマや分野などがあらかじめ設定され、関係や関心のある人の参加を募っているサービスなどもある。

企業などが従業員を対象に運用する「社内SNS」や、大学が教職員や在学生、卒業生を対象に運用する「学内SNS」もあり、業務上の連絡や情報共有に使われたり、業務とは切り離して参加者間の交流の促進のために利用されたりする。「OpenPNE」や「Mastodon」など自らSNSを開設・運用することができるサーバ向けソフトウェアもあり、これを利用したプライベートな集団内のサービスも存在する。

歴史と著名なサービス

2003年頃アメリカを中心に相次いで誕生し、国内事業者によるサービスも2004年頃から普及し始めた。世界的には、初期に登録資格を有名大の学生に絞って人気を博し、後に世界最大のソーシャルネットワークに成長した「Facebook」(フェイスブック)や、短いつぶやきを投稿・共有するマイクロブログ型の「Twitter」(ツイッター:現X)、写真の投稿・共有を中心とする「Instagram」(インスタグラム)、ビジネス・職業上の繋がりに絞った「LinkedIn」(リンクトイン)などが有名である。

日本独自のサービスとしては一時会員数1000万人を超え社会現象ともなった「mixi」(ミクシィ)などが有名だが、近年ではFacebookなど海外事業者に押され利用が低迷しており、オンラインゲーム運営・提供に業態転換するなどしている。

SNS的なサービスの広がり

近年では様々なWebサイトやネットサービス、スマートフォンアプリなどに「ソーシャルな」機能が組み込まれる事例が増えており、何がSNSで何がそうでないか明確に区別することは難しくなりつつある。

例えば、料理レシピ投稿サイトの「クックパッド」(Cookpad)や、スマートフォン利用者間でチャットや音声通話などを提供する「LINE」(ライン)などにも、集団の形成を支援するコミュニティ機能や日記の投稿・共有機能などがあり、これらのサービスをSNSの一種に含める場合もある。

SNSの功罪

SNSによって、一度繋がりの途絶えた古い友人と交流を再開したり、現実に頻繁に会うことは難しい多人数と日常的な繋がりを保ったり、身の回りに同好の士がいなくてもSNSで発見してコミュニティを形成できるなど、SNSのおかげで人間関係が充実した利用者は数多くいる。

一方で、不用意に個人情報や顔写真などを公開してしまい悪意に晒されたり、素性のよくわからない人と交流を持ちトラブルに巻き込まれたり、自分の周囲では特に問題視されなかった話がネット上で拡散されるうちに非難の書き込みが殺到してしまう(「炎上」と呼ばれる現象)など、SNSによって新たに引き起こされる問題もある。

また、SNSが様々な人の間に普及し、継続して利用する期間が長くなるに連れ、上司や家族など「望まれざる」相手とのSNS上での関係や対応に苦慮したり、知り合いの(大抵は良いことしか書かれていない)書き込みを読んで自分の身上と比較してしまったり、興味が湧かない話題でも毎回反応を迫られているように感じて精神的に疲弊する「SNS疲れ」といった問題に直面し、SNSの利用を断って離れる人も増えている。

BBS 【Bulletin Board System】

ネットワーク上で運用されるシステムの一つで、閲覧者が文字メッセージなどを書き込んだり、他の閲覧者の投稿を読むことができるシステム。現代ではWebサイト上で構築・運用されることが多い。

主な機能

Web上の掲示板は、Webサイトに動的に実行可能なプログラム(スクリプト)を設置し、訪問者がこれを起動して記事の投稿や表示を行う。単純なテキスト(文字)のみが投稿可能なものと、画像ファイルなどを添付できるもの、アバターやアイコン、顔文字、絵文字、文字飾りなどが利用できるものなどの種類がある。

投稿の一覧は新しいものから順に時系列に表示されることが多いが、記事間に参照関係を設定して、互いに関連する記事同士をまとめて表示できるようにしたものもある。一つの掲示板の中に作成された複数の投稿の流れを「スレッド」(thread)、「トピック」(topic)などという。

各投稿には投稿者名やタイトル、本文、投稿日時などが表示され、これに加えて投稿者のIPアドレスやホスト名などが表示されたり、投稿者のなりすましを防ぐ固有の符号などが表示されることもある。簡易なシステムではタイトル欄がなく本文のみの場合もある。

実名と匿名

企業内の情報システムやイントラネット上のWebサイトなどに構築されたものはアクセス可能な参加者が限られており、身分や氏名を明かして連絡や情報交換などが行われる。一方、インターネット上に開設する場合はパスワードなどでアクセス制限などを設けて同じように特定の集団内で利用する場合と、誰でも投稿や閲覧が可能なオープンな形で運営される場合がある。

オープンな掲示板ではプライバシー保護などのため実名を名乗らず、代わりに投稿者が自分で決めたあだ名のような名前を名乗ることが多く、これを「ハンドル」(handle)あるいはハンドルネームなどという。ハンドルを設定する必要がなく、また、実際にほとんどの投稿者が特定のハンドルを名乗らず「名無し」状態で投稿するのが慣習となっている掲示板サイトもあり、「匿名掲示板」と呼ばれる。

歴史

電子掲示板はインターネットの一般への本格的な普及が始まる以前の1980年代から、パソコン通信の主要な機能として一部の人々の間で利用されていた。掲示板以外の電子メールやチャット、ファイルライブラリなどの機能を含め、「草の根BBS」などのようにパソコン通信サービス自体のことを「BBS」と呼ぶこともあった。

ブログ

投稿された記事を時系列に表示する日記的なWebサイトの総称。もとは個人や数人のグループが私的に運営するものが主だったが、現在では企業などの組織が事業や業務の一環として運営するものも多く見られる。

個人の私的な行動記録や身辺雑記などの日記的な内容を掲載する場合と、自らの社会的地位や専門分野などに根ざして時事の事柄などについてコメントしたり分析したりする内容を掲載する場合がある。

企業や公的機関などが情報の告知手段として利用することもあり(公式ブログ)、その場合はその機関が広く周知したい情報や公式見解などが掲載内容となる。「ブログ」という名称は “web” と “log” (日誌)を一語に綴った“weblog” (ウェブログ)を略したもので、運営者のことは「ブロガー」(blogger)という。

主な機能

開設・運営は専門のソフトウェアやネットサービス(ブログサービス)によって行なうことが多い。記事を執筆・編集・投稿するための機能や、投稿された文章や画像などを雛形(テンプレート)に流し込んでWebページとして生成・公開する機能、時系列や分類ごとに記事一覧を自動生成する機能、記事に一意の永続的なURL(パーマリンク)を割り当てる機能などを提供する。

また、多くのブログには読者が記事にコメントを投稿して掲載できる掲示板的な機能が用意されており、読者との対話や読者間の交流が可能となっている。別のブログの関連記事へリンクして相手の記事に自分の記事への逆リンクを掲載する「トラックバック」(trackback)という機能もあり、興味や話題ごとに著者同士や著者と読者によるコミュニティが形成されている。

主な内容

芸能人や著名人のブログは従来の日記のように個人の行動の記録や仕事に関する告知や宣伝、日々感じたことなどが掲載されることが多いが、無名の一般人が時事問題や専門的な話題に関して独自の情報や分析、議論などを掲載するブログもある。トラックバックなどの機能を利用してブログ間で特定の話題で議論や論争が生じることもある。

また、身の回りで見つけた珍しい物や、自身や周囲に起こった珍しいできごと、体験談を紹介するといった記事も多い。大きな事件や事故が起こった際に、地元の人や関係者、目撃者などが自分のブログに知っている情報を掲載することで、メディアを介さずに「生の」情報が流通するという事例も見られる。

派生システム

携帯電話などから利用するものを「モブログ」(moblog/mobile blog)、主に写真などの画像を投稿するものを「フォトログ」(photo blog)、主に動画を投稿するものを「ブイログ」(vlog/videolog)などと呼ぶこともあったが、現在ではこうした細かい区分はほとんど用いられていない。

また、X(旧Twitter)のように数十文字から百数十文字程度の短い文章を頻繁に投稿するスタイルのサービスを「ミニブログ」あるいは「マイクロブログ」(microblog)と呼んでいたが、こうしたサービスは現在ではSNSの一種に分類されるようになっている。

ミニブログ 【マイクロブログ】

一回の投稿につき書き込める文字数が数十から百数十字程度に制限されている文章投稿サービス。ブログから派生したサービスだが現在では「短文投稿SNS」といったようにSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)の一種に分類される。

入力フォームを通じて百文字前後に制限された文字数で短い文章を投稿するサービスで、投稿内容が時系列に並べて表示される。画像や短い動画などを添付して文章と一緒に表示できるようになっているサービスが多い。

個人的な覚え書きや独り言、あるいは会員間でのおしゃべり感覚の短い言葉のやり取りを想定したつくりになっている。自らの簡単なプロフィールやアイコンなどを登録したり、他の利用者との繋がり(「友達」「フォロワー」など)を設定する機能が提供されることが多い。

特定の利用者を指名してメッセージを送ったり、他の利用者の書き込みを転載(リポスト、リツイート)して自分の投稿を購読している人に知らせる機能など、メッセージの送受信や回覧などがしやすい機能が豊富である。ある程度まとまった長い記事の投稿を主とする従来のブログサービスとは利用形態がかなり異なっている。

世界的に最も普及しているのは2006年7月にサービスを開始した「Twitter」(ツイッター)で、2023年には「X」(エックス)に名称が変更された。「ツイート」「リツイート」「フォロー」「フォロワー」「ハッシュタグ」など、旧Twitterで普及した機能や用語は他のサービスにも取り入れられ広く知られている。

シェアリングエコノミー

インターネットを介して個人間で財産の貸し借りや共有、能力の提供などが容易になることで創出される新たな経済。狭義には個人間の財やサービスのやり取りを仲介するビジネスを指し、広義には(個人所有せず共同利用するという意味で)事業者の用意した物品などを貸与するビジネスも含まれる。

従来、個人間でのモノやサービスの融通は知り合いなどの狭い範囲で行われてきたが、インターネットの普及により低コストで不特定多数に呼びかけることができるようになり、金銭を介する経済活動として成立するようになってきた。

ネット上には分野や対象ごとに様々な仲介業者が存在し、個人の持つ物品や不動産、遊休時間、専門的な能力などを、それを必要とする他の個人に有償で販売、貸与、提供する橋渡し(マッチングサービス)をしている。

提供者は今までは遊ばせておくしかなかった資産を有効活用して副業的な報酬を得ることができ、利用者は固定的な所有(購入)や契約を行わなくても必要な時に必要なだけスポット利用できる利点がある。

やり取りする対象により、物品の売買や貸与など「モノ」のシェア、駐車場や会議室、空き部屋(民泊)などを貸し出す「空間」のシェア、人の移動や物品の配達、移動手段など「移動」のシェア、家事や育児、料理など「スキル」のシェア、少額の貸し借りや投資、寄付など「お金」のシェアに分類される。

個人間のやり取りでは信用や品質の担保が大きな課題で、不心得な提供者あるいは利用者によるトラブルがたびたび報告されており、仲介事業者側では利用者によるレビュー(評価)制度などの対策を講じている。また、日本では対価を取って客を自動車で輸送する行為は道路運送法の、所有施設に宿泊させる行為は旅館業法の規制対象となっており、既存の法律や規制などとの整合性を取ることも重要となる。

CGM 【Consumer Generated Media】

インターネットを通じて利用者からの情報提供や投稿を集めて内容が形成されるWebサイトやネットサービスなどのこと。SNSやブログ、Q&Aサイト、口コミサイト、レシピ投稿サイト、グルメサイト、写真共有サイト、動画共有サイト、イラスト投稿サイト、ウィキ(Wiki)などが該当する。

1990年代後半のWeb普及初期から電子掲示板(BBS)や個人運営の趣味的なWebサイトなどは存在したが、2000年代中頃になり、様々なテーマや形態で利用者の投稿を受け付け、主要なコンテンツとして提供するWebサイトが勃興した。これらを企業などから一方的に情報を配信する従来型のメディアと対比してCGMと総称する。

また、主要なコンテンツが企業などの制作・提供するものであっても、ページの一部に利用者から投稿された内容を表示する機能を備えたサイトも増え、CGMと合わせてUGC(User-Generated Content:ユーザー生成コンテンツ)という。追加的なUGCとしてはニュース記事などのコメント欄、オンラインショップなどのレビュー(購入者による評価)などがある。

組み込みシステム 【エンベデッドシステム】

家電製品や産業機器、乗り物などに内蔵される、特定の機能を実現するためのコンピュータシステム。機器内の各装置の制御や利用者からの操作の受け付けなどを行う。

パソコンなどの汎用のコンピュータシステムとは異なり、要求される機能や性能が極めて限定的かつ開発時にあらかじめ特定されており、厳しいコスト上の制限から利用可能な資源にも強い制約がある。

安価なCPU(マイクロプロセッサ)や少ないメインメモリ(RAM)、プログラムを内蔵するROM(読み込み専用メモリ)などで構成され、ストレージや外部入出力(I/O)は存在しないか限定された最低限の装置のみであることが多い。こうした機能を一枚のICチップに実装したマイクロコントローラ(MCU:Micro-Control Unit)などの専用の半導体製品が用いられることも多い。

組み込みソフトウェア

組み込みシステムを制御するオペレーティングシステム(OS)は「組み込みOS」(embedded OS)と呼ばれ、少ない資源で安定的に動作するよう汎用OSとは異なる設計の製品が用いられる。

機械の制御では処理の遅延が故障や事故に繋がる危険を伴う場合があるため、応答時間が一定の範囲に収まることを保証する特殊な「リアルタイムOS」(RTOS:Real-Time OS)が用いられることもある。

組み込みOS上で具体的な個別の機器の制御機能を実装したものを「組み込みソフトウェア」(embedded software)という。汎用コンピュータと違い基本的には利用者側で追加や変更を行う必要がないため、主基板などに備えられた書き換えできないメモリ装置(ROM)に固定的に記録し、それを使い続ける場合が多い。

家電や機械にも高度な通信機能や情報機能を搭載したものが増えているため、OSやソフトウェアをフラッシュメモリなど書き換え可能な記憶装置に記録しておき、出荷後にインターネットなどを通じて更新や機能追加などができるように構成されている製品もある。

歴史

1970年代初頭にマイクロプロッサが発明され実用化されるが、最初期の製品の一つである米インテル(Intel)社の「4004」を組み込んだ電卓が日本のビジコン社によって開発・発売された。小規模なコンピュータシステムにより制御される特定用途向けの電気製品という意味では組込みシステムの先駆けと言える。

1980~90年代にかけてマイクロプロセッサやメモリの高性能化や低価格化が進むと、複雑で高機能な電化製品を中心に、専用回路や機械式の制御機構から組込みシステムへの移行が進んでいった。

現代ではテレビやビデオレコーダー、デジタルカメラ、プリンタ、コピー機、携帯電話といった情報機器のみならず、洗濯機、炊飯器、自動車、自動販売機、券売機など、身の回りにあるほとんどの機械に何らかの組込みシステムが搭載されているといっても過言ではない。

スマートフォンのように限りなく汎用コンピュータに近い汎用性や機能性を獲得した製品分野や、自動車のように極めて高度かつ複雑な大規模組込みシステムが搭載される事例も見られるようになっている。

マイコン

マイクロコントローラあるいはマイクロコンピュータの略で、前者は組み込みシステム向けの統合型のICチップ、後者はパソコンの旧称を意味する。

マイクロコントローラ (MCU:Micro-Control Unit)

コンピュータの機能一式を一枚のICチップに実装した製品。家電製品や産業機械などの制御用コンピュータとして組み込まれる。

演算・制御装置(CPU)、メモリ装置(RAMやROM)、入出力回路(I/O)、タイマー回路などを一つの集積回路に実装した製品で、単体でコンピュータとしての一通りの機能を有する。マイクロコンピュータを含む制御システムを「マイコンシステム」あるいは「組み込みシステム」(エンベッドシステム:embedded system)という。

マイクロコンピュータは機器の制御という目的から、パソコンなどに内蔵されるマイクロプロセッサに比べ機能はシンプルで性能も低いが、安価で他に必要な部品も少なく、システム全体の基板面積や部品点数、消費電力を少なく抑えることができる。現在では家電からAV機器、携帯電話、産業機械、自動車などほとんどの電子・機械製品に何らかの形でマイクロコンピュータが組み込まれている。

マイクロコンピュータ

<$Img:Microcomputer.png|right|by sergeitokmakov from pixabay|https://pixabay.com/illustrations/old-computer-8bit-technology-retro-4962268/>

個人向けの小型で安価な汎用コンピュータの、1970~80年代における一般的な名称。現在では一般的に「パーソナルコンピュータ」(パソコン、PC:Personal Computer)と呼ばれる製品カテゴリの創成期の呼称。

コンピュータといえば企業などの大きな組織が利用する大型汎用機(メインフレーム)やミニコンピュータ、オフィスコンピュータなどしかなかった1970年代後半、安価なマイクロプロセッサの発明により個人が家庭で使える汎用コンピュータとしてマイクロコンピュータが登場した。

当初は限られた好事家が購入・利用するに過ぎなかったが、性能や機能の向上、低価格化、優れたオペレーティングシステム(OS)や業務に使えるソフトウェアの登場などにより、次第にオフィスや家庭に普及していった。1980年代後半頃から「パソコン」という呼称が広まり始め、現在では歴史的な文脈以外でマイクロコンピュータと呼ぶことはほとんどない。

エッジコンピューティング

シラバス:Ver.9.0 (2023年)

ネットワークに多数の端末が接続されたシステムにおける処理形態の分類の一つで、端末自身あるいは端末に近い場所にあるサーバが情報の集約や処理などを行う方式。遠隔地のサーバで集中的に処理を行うクラウドコンピューティングと対比される。

主にIoTシステムの実装方式として注目される方式で、制御対象の機器やセンサーなどがネットワークを通じて近隣のサーバに情報を送信し、サーバは処理を行って結果や指示を機器に送り返す。

クラウド方式との違いはサーバの設置場所で、インターネットを通じて遠隔地のデータセンターに繋ぐのではなく、地理的、ネットワーク的に近い施設や設備でサーバを運用する。自動車やスマートフォン、ドローンなど末端が移動体であるシステムでは、端末自身に処理能力を持たせる場合も含まれる。

クラウド方式では端末の数が多い場合にインターネットを通過するトラフィック(通信量)が増加しコスト要因となるが、エッジコンピューティングでは局所的な通信のみで処理を完結させることができる。リアルタイム性が重視される用途では遠隔地との通信に伴う遅延(待ち時間)を抑えられることも利点となる。

一か所の施設や設備に処理を集中させると、そこがシステム障害や災害などで停止するとシステム全体が停止してしまう危険があるが、サーバが分散していれば影響を局所化することができる。サーバやネットワークを私的に敷設した設備の範囲に留めることができれば、インターネットやパブリッククラウドなどの公衆サービスを利用することによるセキュリティリスクも低減される。

エッジAI 【edge AI】

シラバス:Ver.9.0 (2023年)

利用者の端末などネットワークの末端(エッジ)側に実装されたAIシステムのこと。クラウドサービス上に存在するクラウドAIと対比される。

利用者の操作するパソコンやスマートフォン、自動運転車、IoTデバイスなど、末端側の機器(エッジデバイス)にAIシステムを搭載して処理を行う形態である。機器に導入するソフトウェアに、事前に機械学習を行った学習済みモデルを搭載して分類や推論、パターン認識などのデータ処理を行う。

一方、クラウドサービス上に実装され、末端の機器からはインターネットや広域的な閉域網を通じてアクセスするAIシステムを「クラウドAI」という。端末はデータをクラウドに送ってAIによる処理を要求し、結果のみを受け取る形態である。

エッジAIはクラウドAIに比べ通信回線に繋がらない環境や接続状態が不安定な状況でも利用でき、通信に伴う遅延や通信コストなども削減することができる。インターネットや外部サービスにデータを送らなくて良いため、機密やプライバシーの保護、セキュリティの確保もしやすい。

一方、末端の機器は処理能力や記憶容量に限りがあるため、巨大な学習済みモデルを導入したり複雑な処理を行うことは難しく、機能や用途に制約がある。リアルタイム性が重視される用途や定型的なパターン認識などに向いており、自動運転車の障害物検知、工場の不良品検査などに導入事例が見られる。

組み込みOS 【embedded OS】

産業機器や家電製品など、マイクロコンピュータを中心としたいわゆる組み込みシステム(embedded system)を制御するオペレーティングシステム(OS)。

求められる要件がパソコン向けやサーバ向けとは大きく異なり、少ないメモリ容量やストレージ容量、貧弱な性能のプロセッサや周辺回路、低速な入出力(I/O)や通信機能といった限られた資源でも安定して動作することが求められる。

対象機器に固定的に内蔵・実行されるという性質上、必要な機能があらかじめ決まっており(出荷後に追加・拡張されることはない)、できる限り少ない記憶容量で動作することが好ましいため、ほとんどの機能がモジュール(部品)化され、開発者が不要な機能を極限まで削れるような設計になっている。

また、機械の制御などを行う場合は処理の遅延により不具合や事故が起きることを防ぐため、応答時間が一定の範囲内にあることを保証するリアルタイムOS(RTOS:Real-Time OS)と呼ばれる製品が用いられることが多い。

一方、パソコン向けで重視されるネットワーク機能やマルチメディア機能、ユーザーインターフェースなどは不要か最小限で良い場合が多く、グラフィックス表示などの機能を最初から用意していないシステムも多い。

組み込みOSの種類

よく知られる組み込み専用のOSとして、米アマゾン(Amazon.com)社の「FreeRTOS」や米ウィンドリバーシステムズ(Wind River Systems)社の「VxWorks」、米QNX(QNX Software Systems)社の「QNX」などがある。日本ではTRONプロジェクトから派生した「μITRON」や「T-Kernel」をベースとした製品のシェアが高い。

パソコンやサーバ向けとしておなじみの汎用のOSをベースとした組込みOSもあり、組み込みシステムの中では比較的性能の高いデジタル家電や車載機器、通信機器などでよく用いられる。例えば、米マイクロソフト(Microsoft)社はWindows CE/Windows EmbeddedシリーズやWindows 10 IoTといった組み込み向けの製品群を提供している。

ルータなどのネットワーク機器では伝統的にオープンソースのBSD系OS(FreeBSD/NetBSD/OpenBSD)がよく使われる。Linuxをカスタマイズして組み込みシステムに用いる「組み込みLinux」も人気が高まっており、スマートフォン向けのAndroid OSなど広く普及している分野もある。

リアルタイムOS 【RTOS】

オペレーティングシステム(OS)の種類の一つで、時間的な制約がある処理を実行するための機能や特性を備えたもの。輸送機械や産業用ロボットなど、いわゆる「リアルタイムシステム」の制御用としてよく用いられる。

機械制御などの分野では、移動する機械を停止させる処理のように、処理の完了に期限が定められていることがある。そのような制約のある制御プログラムの実行に適した環境を提供するのがリアルタイムOSの役割である。

RTOSの特徴

組み込みシステムはパソコンやサーバなどに比べの非力なCPUやマイクロコントローラ、容量の少ないメインメモリで構成されることが多いため、リアルタイムOSもそれに合わせてプログラムサイズが極めてコンパクトに抑えられており、処理も高速で応答性に優れる。

一般的な汎用OSに見られない特徴として、最悪の場合の応答時間を保証し、一つ一つの処理の実行時間を予測可能にしている。複数のプログラムのマルチタスク(並行処理)は可能だが、優先度ベースのスケジューリング機構を備え、優先度が高く設定された処理を遅延なく実行できるよう制御する。

一方、汎用OSの多くに見られる仮想メモリなど実時間性を損なう機能は提供されない。パソコン向けOSなどでは標準的なネットワーク通信やグラフィック表示(GUI)などの基本的な機能も、オプションやモジュールとして取捨選択できるようになっており、ターゲット機器に不要であれば削除してその分軽量にすることができる。

RTOSの種類

リアルタイムシステムは機器の種類や内部の構成、必要な機能や要求事項が極めて多様であるため、リアルタイムOSもターゲットや得意分野によって多くの製品が提供されている。

よく知られる製品としてはVxWorks、eCos、LynxOS、QNX、μC/OS、FreeRTOS、ThreadX、Nucleus RTOSなどがある。日本ではTRONプロジェクトから派生したμITRON、T-Kernel、TOPPERS系統の製品も人気が高い。LinuxカーネルをRTOS化したRTLinuxやART-Linux、Windowsから派生したWindows CEやWindows Embeddedなど、汎用OSをベースとした製品もある。

組み込みシステムに導入されるOSは「組み込みOS」と総称されるが、リアルタイムOSはその一部であり、組み込み機器全体ではリアルタイム性のない組み込みOSの方が一般的である。Windows系やLinux系、Androidなどが該当し、店頭の注文端末やキオスク端末、ATM、デジタルサイネージ、デジタル家電などに採用されている。

リアルタイム処理 【実時間処理】

データの処理要求が発生したときに、即座に処理を実行して結果を返す方式。コンピュータが利用者の指示や状況の変化に呼応してすぐに処理を実行する。

「即時」の意味合いはシステムの種類によって微妙に異なっており、業務システムなどではバッチ処理と対比して処理要求を受けたら即座にシステムに投入する(開始が実時間の)方式をリアルタイム制御というが、組み込みシステムなどでは処理ごとに設定された制限時間を超過しないよう制御する(終了が実時間の)方式をリアルタイム制御と呼ぶ。

業務システムなどのリアルタイム処理

企業の情報システムなどのデータ処理の方式の一つで、利用者の操作や外部からの処理要求などが届くと間を置かず即座に処理を実行する方式をリアルタイム制御という。

一定期間や一定量ごとにデータをまとめて一括して処理するバッチ処理と対比される方式で、システムの負荷の調整は難しいが利用者にとっては要求が即座に反映されるため利便性が高い。利用者の操作に基づいて行う場合を特に「インタラクティブ処理」(対話処理)という。

組み込みシステムなどのリアルタイム処理

機械の制御などを行うコンピュータシステムでは、処理を現実の世界に反映させるための終了期限が決まっている場合がある。例えば、自動車のブレーキアシストシステムが一回の障害物検知処理に何分もかけていたら、ブレーキ操作を行う前に障害物に激突してしまう。

このような場合に、反応を返すまでの遅延時間に許容範囲を設定して、それを超えないように命令の実行順序などを工夫する処理方式をリアルタイム制御という。一般的な汎用コンピュータ向けのオペレーティングシステム(OS)ではそのような処理は難しいため、専用に設計された「リアルタイムOS」(RTOS:real-time OS)が用いられる。

このうち、自動車のエアバッグ制御システムのように期限(デッドライン)までに処理が終了しないとシステム自体に致命的な問題が生じるものを「ハードリアルタイムシステム」(hard real-time system/immediate real-time system)という。

一方、座席予約システムのように遅延に応じて結果の価値が漸減するが致命的な結果は招かないものを「ソフトリアルタイムシステム」(soft real-time system)という。両者の中間で、期限を過ぎると処理の価値はゼロになるがシステム自体は致命的な影響を受けないものを「ファームリアルタイムシステム」(firm real-time system)と分類することもある。

イベント

出来事、行事、催し物、事象、事件などの意味を持つ英単語。一般の外来語としては催し物という意味が定着している。ITの分野では、コンピュータで実行中のあるプログラムの外部で発生した事象や、その事象を通知するメッセージなどのことをイベントということある。

例えば、プログラムの実行画面上のどこかを利用者がマウスで指定してクリックすると、OS側からプログラムに対して「マウスが押された」という通知が座標値などの関連情報と共に提供されることがある。このように、ソフトウェアにとって外部から通知される何らかの事象のことをイベントという。

開発時に想定されるイベントについて、対応する処理を記述して通知に呼応して呼び出せるようにしたプログラムを「イベントハンドラ」(event handler)あるいは「イベントリスナ」(event listener)という。ソフトウェアの主な制御は言語処理系やOS側に任せ、機能や動作を利用者の操作や外部からの入出力などに対するイベントハンドラの形で記述していく開発方式を「イベンドドリブン」(event-driven:イベント駆動型)プログラミングという。

センサー 【センサ】

自然現象や対象の物理状態の変化などを捉え、信号やデータに変換して出力する装置や機器。光や音、温度、湿度、気圧、接触、圧力、電気、磁気、距離、速度、加速度、角速度、物質の濃度など、様々な現象や対象に対応する装置が存在する。

コンピュータと関わりの深いセンサーとしては、音声を電気信号に変換するマイク(マイクロフォン)や、受光素子が受けた光を電気信号に変換するイメージセンサー、タッチパネルなどで画面への指先の接触を検知する接触センサー、家庭用ゲーム機のコントローラーなどで動きや回転を捉える加速度センサーやジャイロスコープなどがある。

小型のセンサー機器に外部との通信機能やICチップによる高度な情報処理機能を統合し、データの蓄積や変換など何らかの処理を行ったり、複数のセンサー素子の情報を統合したり、ITシステムや機器の制御システムと連携する機能を持ったものを「スマートセンサー」(smart sensor)という。

また、電源と無線通信機能を内蔵した小型のセンサー機器を分散して設置し、それら協調して動作させることで、施設や設備の監視・制御や、環境や空間の観測などを行なう通信ネットワークを「センサネットワーク」(WSN:Wireless Sensor Network)という。

ファームウェア

コンピュータや電子機器などに内蔵されるソフトウェアの一種で、本体内部の回路や装置などの基本的な制御を司る機能を持ったもの。ハードウェアに組み込まれて提供され、一体的に動作する。

機器内部に固定的に組み込まれ、内部のハードウェアと密接に結びついており、通常の使用や操作では原則として内容の変更を行わないことから、ハードウェアに性質が近いソフトウェアとして “firm” (堅い、固定の)という語が当てられている。「FW」「F/W」などの略号で示されたり、「ファーム」と略されることもある。

パソコンやサーバなどの汎用コンピュータのほか、スマートフォンやネットワーク機器、家庭用ゲーム機、デジタル家電などのコンピュータ応用製品(組み込み機器)にも搭載される。本体の主基板などに実装された読み出し専用メモリ(ROM:Read Only Memory)など、電源オフ時にも内容が維持される不揮発メモリに記録されることが多い。

パソコンやPCサーバ(IAサーバ)に搭載されるファームウェアはオペレーティングシステム(OS)との連携方法などが規格化されており、以前は「BIOS」(Basic Input/Output System)が、現在は「UEFI」(Unified Extensible Firmware Interface)が用いられる。UEFIは正確にはファームウェアとOSの通信規格だが、パソコンに内蔵されたUEFI対応ファームウェアを略してUEFIと呼んでいる。

ファームウェアアップデート

ファームウェアがROMに記録されて提供される場合は工場出荷後に内容の変更はしない(できない)が、構成が複雑・大規模な機器や本体発売後に機能や周辺機器が追加される機器などでは、ファームウェアをフラッシュメモリなど書き換え可能な装置に記録する場合がある。

こうした機器は発売後に開発元が新しいファームウェアを配布して内容を更新・修正する。この処理や作業を「ファームウェアアップデート」という。俗に「ファームアップ」と略すこともあるが、この略し方は和製英語である。家庭用ゲーム機などでは起動時に自動的にアップデート処理が行われるが、パソコンのマザーボードやネットワーク機器などでは利用者が案内に従って特定の操作を行う必要がある場合もある。

情報家電 【デジタル家電】

デジタルデータの処理や送受信に対応し、通信ネットワークやデジタル入出力端子、メモリーカードなどを介して外部の機器と通信や連携が可能な家庭用電気製品。

パソコンやスマートフォンなどのコンピュータ製品との間で、あるいは機器間が直に接続し、データや機能を呼び出したり、制御や操作を行うことができる。インターネットに接続して外部の情報やサービスなどを活用する製品もある。

狭義には、情報の処理や入出力、保存などを主な機能とするデジタルテレビやデジタルビデオレコーダー、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ、ファクシミリ、デジタル対応のコンポ/スピーカー、電子辞書、家庭用ゲーム機、デジタルオーディオプレーヤーなどが含まれる。

携帯電話については2000年代前半頃までは(固定)電話機の延長としてこの中に含まれることが多かったが、機能が複雑化し、よりコンピュータ的な側面が強まったスマートフォンはパソコンなどと同じコンピュータ製品に分類されることが多くなっている。

また、広義には、冷蔵庫やエアコン、電子レンジ、炊飯器といったいわゆる白物家電の中で、外部とのデータ通信を応用した何らかの機能や遠隔操作・制御などのネットワーク機能を内蔵したものを含める場合がある。

例えば、スマートフォンをリモコンとして使えるエアコンや、一人暮らしの高齢者などの見守り(安否確認)機能・サービスを内蔵した電気ポットなどが実用化されている。ただし、機器本来の機能や操作などにコンピュータシステムやデジタル制御を応用することを指してデジタル家電と呼ぶことは少ない。

ユビキタス

遍在する、至る所にある、どこにでもある、おなじみの、などの意味を持つ英単語。ITの分野では、世の中の至る所にコンピュータが埋め込まれ、通信ネットワークを介して互いに連携し、人々がコンピュータの存在を意識せずにその利便性を享受できるような社会や情報システムのあり方を表す。

1988年に米ゼロックス(Xerox)社のパロアルト研究所(PARC:Palo Alto Research Center)の主任研究員だったマーク・ワイザー(Mark Weiser)氏が、社会にコンピュータが溶け込み、いつでもどこでもその機能や能力を活用できるコンピュータの新しいあり方を提唱し、“ubiquitous computing” (ユビキタスコンピューティング)と名付けた。

日本では、1984年に東京大学助手(当時)の坂村健氏が新しいコンピュータの基本設計(アーキテクチャ)を構築するTRONプロジェクトを創始し、その目指す超分散型システムが実現する社会の姿を「どこでもコンピュータ」と表現した。概念的にはユビキタスコンピューティングとほぼ同様で、2000年頃からは氏も積極的にユビキタスコンピューティングの語を用いている。

2000年代前半には、携帯電話やインターネットの急激な普及、コンピュータ応用製品の小型軽量化・低価格化の進行などから、今後の社会の方向性としてユビキタスコンピューティングの概念が注目を浴びるようになった。

「ユビキタスネットワーク」(いつでもどこでもアクセス可能な通信ネットワーク)、「ユビキタス社会」(ユビキタスコンピューティングが実現した社会)などの派生語も用いられるようになった。2004年には日本政府内で「e-Japan戦略」の後継として、「ユビキタスネット社会の実現」を掲げる「u-Japan政策」が総務省の主導のもと開始された(2009年終了)。

もとより抽象的、総論的な概念なこともあり、ユビキタスコンピューティング的な製品やサービスが次々に実用化・普及していくのとは裏腹に、「ユビキタスコンピューティング」という語そのものは2010年代には次第に使われなくなっていった。

しかし、「コンピューティングが偏在し、生活や社会に溶け込む」というコンセプトは様々な分野で受け入れられ、スマートフォンをはじめ、「IoT」(Internet of Things:モノのインターネット)「センサネットワーク」「M2M」「ウェアラブルコンピュータ」「AR」(Augmented Reality:拡張現実感)「スマートハウス」「RFID」など、より具体的な技術や製品、サービスに形を変えて浸透している。

IoT 【Internet of Things】

コンピュータなどの情報・通信機器だけでなく、世の中に存在する様々な物体(モノ)に通信機能を持たせ、インターネットに接続したり相互に通信することにより、自動認識や自動制御、遠隔計測などを行うこと。

自動車の位置情報をリアルタイムに集約して渋滞情報を配信するシステムや、人間の検針員に代わって電力メーターが電力会社と通信して電力使用量を申告するスマートメーター、大型の機械などにセンサーと通信機能を内蔵して稼働状況や故障箇所、交換が必要な部品などを製造元がリアルタイムに把握できるシステムなどが考案されている。

これまでの情報システムとの違いとして、個々の機器の取り扱うデータ量や処理量、通信量は少ないが機器の数が桁違いに膨大であることや、従来のコンピュータ製品が人の周りや特定の場所(建物や部屋)に集中しているのに対しIoT機器は世の中の様々な場所に分散して配置される点などがある。

こうした特徴を反映し、低コストで生産でき低消費電力で稼働するICチップや、多数の機器からデータを集約して解析したり、同時に多数の機器を制御するソフトウェア技術、低消費電力で遠距離通信が可能な無線技術、環境中から微小なエネルギーを取り出す技術(エナジーハーベスティング)などの研究・開発が進められている。

LPWA (Low Power Wide Area)

IoTに必須の要素として、装置の消費電力が少なく、多数の機器を一つのネットワークに収容できる広域的な無線通信技術があり、これを「LPWA」(Low Power Wide Area)と総称する。そのような通信方式で構築されたネットワークは「LPWAN」(Low Power Wide Area Network)とも呼ばれる。

IoTを実現するには、携帯電話網など従来からある広域無線技術に比べ、十~数十kmといった遠距離や広い範囲をカバーでき、乾電池などの乏しい電源でも数か月から数年は稼働できることが求められる。一方、人間がスマートフォンなどの通信機器に求めるような高速なデータ伝送能力は必ずしも必要なく、数十~数百kbps(キロビット毎秒)程度あれば実用に供することができる。

このような特性を備えた新しい通信方式をLPWAと呼び、具体的な規格として「Sigfox」「LoRa」「Wi-Fi HaLow」「Wi-SUN」「LTE-M」「NB-IoT」「RPMA」などの方式が提唱されている。

M2M/センサネットワークとの違い

以前から、機器同士を直接繋いで自律的にシステムを運用する「M2M」(Machine to Machine)や、通信可能なセンサーを分散配置して高度な監視や制御を可能にする「センサネットワーク」(WSN:Wireless Sensor Network)などの概念が存在し、これらはかなりの部分がIoTと重複している。

ただし、IoTはインターネットへの接続を前提とするのに対し、これらの技術は閉じた専用ネットワークや独自プロトコル(通信規約)での運用を想定している場合が多い。また、M2Mやセンサネットワークは特定の目的のために機械同士が情報のやり取りすることで処理が完結する仕組みであることが多いのに対し、IoTは接続された機器と人や外部の情報システムとの相互関係がより重視される傾向がある。

IoE (Internet of Everything)

「ありとあらゆるものが接続されたインターネット」という意味で、モノのインターネットと、人やデータ、情報、ソフトウェアなどが中心の従来からあるインターネットが統合された姿を指す。

とはいえ、従来のインターネットとの違いは多数のモノが接続されている点であるため、実際上はIoTとほぼ同義として用いられることが多い。主に米シスコシステムズ(Cisco Systems)社が提唱している用語である。

AV 【Audio Visual】

「視聴覚(の)」という意味の英略語で、人間の視覚と聴覚に関連する機器や記録物、メディア技術などの総称。一般的には音響や映像を扱う電子・情報技術や製品を指す。

音声や映像の記録や再生に用いる技術や製品が含まれ、テレビやプロジェクタ、ビデオレコーダー、デジタルビデオカメラ、CD/DVD/Blu-rayプレーヤー、ボイスレコーダー、スピーカー、マイク、オーディオケーブルなどを「AV機器機器」という。また、コンピュータなどの持つ音声や映像の入出力に関連する機能を「AV機器機能」ということがある。

日本では “Audio/Video” の略と理解されることが多いが、英語では本来 “Audio/Visual” (あるいは “audiovisual” で一語)の略であり、広義には「視覚」は映像・動画に限定されず、スライド映写機やオーバーヘッドプロジェクタのような静止画像を扱う技術や製品が含まれる。

携帯電話 【ケータイ】

電波による無線通信により屋外や移動中でも通話・通信できる、移動体通信システムおよびサービス。また、そのようなシステムで利用者が通話・通信に用いる、持ち運び可能な小型の電話機。

当局の認可を受け無線免許を取得した通信事業者が提供する電気通信サービスの一つで、建物などに固定的に設置され、事業者の有線通信網に接続された無線基地局と、利用者が所持している端末の間で無線通信を行う。基地局と電波で交信可能な範囲なら、屋内外・移動中・停止中の区別なく、いつでもどこでも通話・通信することができる。

携帯電話網は基地局および事業者の通信拠点施設を介して一般の加入電話網と接続され、各端末には加入電話と同じ体系の電話番号が割り当てられている。携帯電話間だけでなく固定回線の加入電話(アナログ電話やIP電話)や公衆電話、国際電話などと発着信・通話することができる(フリーダイヤルなど一部利用できない通話先もある)。

データ通信の利用

現代の携帯電話システムでは音声通話だけでなくデータ通信も可能で、SMSなどの文字メッセージの送受信、Web閲覧や電子メールの送受信などのインターネット接続機能・サービスを利用できる。携帯電話端末は小型のコンピュータとなっており、パソコンのようにアプリを導入して使用することができる。

通話機能を持たずデータ通信に特化した通信システムや料金プラン、通信端末(データ通信カードやモバイルルータなど)もあり、携帯電話とこれらを含む総称として「移動体通信」(mobile communication:モバイルコミュニケーション、モバイル通信)の語が用いられる場合もある。

携帯電話端末

単に携帯電話といった場合は携帯電話サービスの加入者が通話・通信のために用いる小型の電話機のことを指すことが多く、日常会話では「携帯」と略されることが多く、俗に「ケータイ」と表記されることもある。手のひらサイズの薄型・軽量の無線通信機で、充電池を内蔵し、標準的には数日から数週間連続して使用(通信可能状態で待機)できる。

筐体前面に液晶画面を備え、通話相手など各種の情報が表示される。固定電話機のように数字や記号の記されたボタンを指で押して操作する端末と、液晶画面がタッチパネルになっており、指先などで触れて操作する端末がある。

内蔵の半導体メモリや外付けのメモリーカードなどに、よく使う通話相手の電話番号と名前、メールアドレスなどを記録しておく「電話帳」機能があり、毎回数字を打鍵しなくても画面上で相手を選択するだけで発信でき、また、着信相手を名前で表示することができる。

携帯電話端末は多機能化が進み、写真や動画を撮影して保存したり電子メールに添付して送る機能や、メモ帳やカレンダー、スケジュール管理、インターネット接続などの機能を備えたものが標準的になっている。

さらに、汎用のオペレーティングシステム(OS)で動作する小型の個人用コンピュータとして機能し、様々なアプリケーションソフトを導入して機能やサービスを追加することができる端末が一般的になっており、「スマートフォン」(smartphone)と呼ばれる。スマートフォンと対比した従来型の通話機能を中心とする電話機を「フィーチャーフォン」あるいは「ガラケー」(ガラパゴス携帯電話の略)などと呼ぶことがある。

携帯電話事業者

携帯電話サービスを提供する通信事業者を「携帯電話会社」「携帯電話事業者」「移動体通信事業者」「携帯電話キャリア」(携帯キャリア、モバイルキャリア、単にキャリアとも)「MNO」(Mobile Network Operator)などと呼ぶ。

日本では1979年に当時の電電公社(日本電信電話公社)が自動車電話を開始したのが始まりで、1980年代の通信自由化でいくつかの新規事業者が参入した。その後、事業の統合や売却が進み、現在ではNTTドコモ、au(KDDI・沖縄セルラー)、ソフトバンクの大手三陣営と傘下のグループ企業に集約された。

近年では、これら大手事業者の通信インフラを借り受けて独自の携帯電話・移動体データ通信サービスを提供する「MVNO」(Mobile Virtual Network Operator)と呼ばれる事業者の参入が相次ぎ、独自のブランドや付加価値を提供したり、割り切ったサービス内容で安さを売り物にするなど、大手にはない特色ある通信サービスや端末、契約プランなどを展開している。

携帯電話の通信方式

携帯電話の通信方式は世代により分類され、1980年前後に最初に実用化されたアナログ伝送方式を第1世代携帯電話(1G:1st Generation)という。いわゆるNTT方式(日本)やAMPS(米)/TACS(欧)、NMT(欧)などが含まれ、いずれも複数端末の同時接続に周波数分割多元接続(FDMA:Frequency Division Multiple Access)方式を利用している。

1990年代の第2世代携帯電話(2G:2nd Generation)では音声をデジタルデータに変換して送るデジタル伝送方式に移行し、日本では「PDC」(Personal Digital Cellular)が、日本以外のほぼ全世界では「GSM」(Global System for Mobile Communications)が普及した。複数端末の同時接続に時分割多元接続(TDMA:Time Division Multiple Access)が採用されたほか、デジタル化でデータ通信が可能となった。

1990年代後半には第3世代携帯電話(3G:3rd Generation)が導入され、日欧の「W-CDMA」やアメリカの「CDMA2000」など、符号分割多元接続(CDMA:Code Division Multiple Access)による高速なデータ通信が可能な方式が採用された。

2010年代には3Gの通信方式を高度化した「LTE」(Long Term Evolution)が導入され、当初は3.9G(第3.9世代)とされたが、後にこれが第4世代携帯電話(4G:4th Generation)とされるようになった。4GにはLTEを高度化した「LTE-Advanced」が含まれる。

2020年代には第5世代移動通信システム(5G:5th Generation)規格が策定され、サービス導入が進んでいる。この世代から正式に世界統一規格となり、規格名称も「5G」となった。光ファイバー回線に匹敵する高速なデータ通信が可能となっている。

スマートフォン 【スマホ】

個人用の携帯コンピュータの機能を併せ持った携帯電話。単に高機能というだけでなく、汎用のオペレーティングシステム(OS)を搭載し、利用者が後からソフトウェアなどを追加できるようになっている機種を指す。

「スマート」(smart)は「賢い」という意味で、アプリを導入して様々な用途に使用できることを表している。一般的なスマートフォンの持つ機能としては、パソコンと同じWebブラウザによるウェブ閲覧や、電子メールの送受信、文書ファイルの作成・閲覧、写真や音楽、ビデオの再生・閲覧、カレンダー機能、住所録、電卓、内蔵カメラによる写真や動画の撮影、テレビ電話などがある。

一般的な機種は、ほぼすべての操作を画面に指を触れるタッチパネルによって行う。筐体前面のほぼ全面が液晶(または有機EL)画面となっており、表示装置兼入力装置となっている。文字入力も画面に表示された文字盤(ソフトウェアキーボード)をタッチして行う。

通信機能としては無線LAN(Wi-Fi)と携帯電話事業者の移動体通信に対応し、屋内ではWi-Fi、屋外や移動中は移動体通信と使い分けることができる。Bluetoothブルートゥースに対応している機種ではイヤフォンなどを無線接続することができ、NFC(Near Field Communication)に対応している機種ではタッチ決済などを利用できる。

インターネットなどを通じて、その機種が搭載しているOSに対応したアプリケーションソフトを入手して追加することができる。スマートフォン向けのアプリケーションは「アプリ」(app)と略されることが多い。WebブラウザでWebアプリケーションを利用することもできる。

OSメーカーや通信キャリアなどが、自社の対応機種に追加できるアプリを探し出して入手することができるネット上の店舗「アプリストア」を運営している。SNSやメッセンジャー、ゲームソフト、オフィスソフトなど様々な追加ソフトが提供されている。販売されているものと無償配布されているものがある。

スマートフォン市場は米アップル社(Apple)社の「iOSアイオーエス」を搭載した「iPhoneアイフォン」と、米グーグル(Google)社が開発した「Androidアンドロイド」を搭載した機種にほぼ二分されている。Android対応のスマートフォンは様々なメーカーが販売している。世界的には単一機種ではiPhoneが最も人気だが、OSとしてはAndroidの方が普及している。日本市場は世界と傾向が異なり、iPhoneが単体で過半のシェアを獲得している。

周辺機器 【ペリフェラル】

コンピュータなど中心となる機器に繋いで使用する装置のこと。本体に何らかの機能を提供するために用いられ、単体では使用できないものが多い。

通常は機器本体の外部に設置してケーブルや無線などで接続・通信するものを指し、筐体内に据え付ける部品(パーツ)とは区別されるが、一部の記憶装置のように同じ機能でも内蔵型と外付型が両方存在する場合もあり、厳密に区別できるわけではない。

パソコンの主な周辺機器は入出力装置や外部記憶装置で、キーボードやマウス、ディスプレイ(モニター)、プリンタ、イメージスキャナ、スピーカー、ヘッドフォン、外付型のストレージやドライブ(ハードディスク、SSD、光学ドライブなど)、USBメモリなどがよく知られる。

ブロードバンドルータやWi-Fiアクセスポイント、NAS(Network Attached Storage)などのようにネットワーク上で複数の機器で共用するものや、デジタルカメラやデジタルオーディオプレーヤーのようにデータ管理はパソコンで行うが使用自体は単体で行うものも含める場合もある。

また、スマートフォンやタブレット端末、携帯ゲーム機、デジタルカメラなど携帯機器の場合はメモリーカードなどの電子機器だけでなくストラップやケース、液晶保護シート、タッチペンなどの器具も含まれるため、コンピュータ周辺機器と呼ばずに「アクセサリー」と呼称することが多い。

OA機器

オフィスの事務作業などを自動化、効率化する業務用の電化製品の総称。コピー機やファクシミリ、シュレッダーなどが含まれる。

1970年代後半に定型的な事務作業の自動化、省力化、効率化を機械の導入により推進する「オフィスオートメーション」(OA:Office Automation)が広まり、その際に導入される電気機械をOA機器と総称するようになった。

主に情報の記録や伝達、複製、破棄などの効率化を図る機器が該当し、初期にはコピー機やシュレッダー、ワープロ専用機、ファクシミリ(FAX)、内線機能付き電話機(ビジネスフォン)などの導入が進んだ。

時代が下ると、パソコンやオフコン、サーバ、プリンタ、複合機、プロジェクターなどのIT機器が導入されるようになったが、これらはOA機器の一部として扱われる場合と、情報システムの一部としてOA機器とは区別される場合がある。

ホームネットワーク 【家庭内LAN】

一般家庭の宅内で、複数のコンピュータやデジタル機器、携帯機器、周辺機器などを相互に結び、あるいはインターネットに接続するための構内ネットワーク(LAN)。

パソコンやスマートフォン、タブレット端末などのコンピュータ製品を接続してデータを相互にやり取りしたり、プリンタやNAS(ネットワーク接続ストレージ)などの周辺機器を接続して使用することができる。

また、ブロードバンドルータやモバイルルータ、スマートフォンのテザリング機能などを介して通信事業者の光ファイバー回線や移動体データ通信網と接続され、デジタル家電や家庭用ゲーム機などを含む宅内のデジタル機器をインターネットに接続するためにも用いられる。

かつては銅線ケーブルを用いる有線LANのイーサネット(Ethernet)で配線・接続するのが一般的だったが、近年では無線LAN(Wi-Fi)の普及が急速に進んでおり、ブロードバンドルータ内蔵の無線アクセスポイント機能や単体のWi-Fiルータなどを中心に無線ネットワークを構築する(あるいは有線・無線混在とする)ことが多い。

ウェアラブル端末 【ウェアラブルデバイス】

小型の携帯型コンピュータの一種で、体に身につけて持ち運び、身につけた状態で使用するもの。腕時計型(スマートウォッチ)や眼鏡型(スマートグラス)、指輪型などが提唱されている。

単に小さく軽いというだけでなく、身体や衣服など身につけるもののどこかに固定して使用することを前提とした装置を指し、携帯ゲーム機やスマートフォンのように手で持って操作するのが前提の機器は含まない。

具体的な形態としては、腕時計やリストバンドのように手首に固定するタイプ、眼鏡やゴーグルのように耳や鼻を使って眼前に固定するタイプ、半透過型ディスプレイで視界を覆って頭部で固定するヘッドギア型(携帯型のヘッドマウントディスプレイ)、靴や衣服に一体化して固定されているタイプ、首から下げるペンダント型、指輪型などがある。

主な機能

現在販売されている(あるいは研究・開発されている)製品は性能は低いながらコンピュータとしての体裁を整え、CPUやメモリ、ストレージ(内蔵フラッシュメモリなど)、外部入出力、通信機能、バッテリー(ボタン電池などで代替することもある)などを高密度に実装している。用途に応じてカメラやGPS、各種のセンサー類を内蔵していることもある。

利用者との入出力には様々な方式が提唱されており、時計の延長線上でボタンを用いるもの、スマートフォンなどと同じように小型の液晶画面とタッチ操作を用いるもの、マイクとスピーカーやイヤフォンで音声認識・音声合成を用いるもの、視線追跡による位置入力を利用するもの(眼鏡型)などが知られている。

歴史

1961年、アメリカでエドワード・ソープ(Edward O. Thorp)氏とクロード・シャノン(Claude Shannon)氏がルーレットゲームに勝つための身に付けられるアナログ計算機および通信装置を開発し、“wearable computer” と名付けた。1970年代頃まで同じ用途の似たような装置の研究・開発が行われていたことが知られている。

1980年代になると、デジタル表示の腕時計にコンピュータとの接続、データ送受信機能を内蔵した初期のスマートウォッチが登場する。1984年の「SEIKO RC-1000」(セイコー)や1985年の同「RC-20」、1994年の「TimeX Datalink」(Timex社)などである。1998年には利用者が開発したプログラムを導入できる汎用コンピュータとしての機能を持つ「Raputer」(SII)が発売され話題となった。

サイズや形態による性能・機能上の制約や操作性の悪さ、実用的な用途の開拓が進まなかったこともあり、ウェアラブル型装置の開発は一旦下火になるが、2010年代になると工場作業者向けの業務用スマートグラスの普及、「FitBit」などのセンサーと連動した運動記録や健康管理などの用途を売りにしたリストバンド端末などで再び注目されるようになった。

2015年には米アップル(Apple)社が腕時計型の「Apple Watch」を発売し、当初はキラーアプリケーションの不足などで苦戦したものの、内蔵センサー類による健康管理、スマートフォンと連動した通知やメッセージの確認、キャッシュレス決済などの用途で一定の普及に成功している。現在では「Google Pixel Watch」など他社製品も含め腕時計型のウェアラブルコンピュータが広く認知されている。

スマートスピーカー 【AIスピーカー】

音声認識・合成技術を利用し、声による対話的な操作が可能なコンピュータ製品。人間の質問に答えたり、ニュースの読み上げや音楽再生などの機能を利用することができる。

スマートフォンなどを声で操作できる音声アシスタント機能を単体の据え置き型の機器として実装したもので、小さな筐体にマイクとスピーカーのみを備えたシンプルな外観の製品が多い。小さな液晶ディスプレイで画面表示を行えるタイプの製品もある。

Wi-Fiなどを通じてインターネットに接続されており、声で質問を受け付けてWeb検索を行い結果を音声で読み上げたり、配信されているニュースを読み上げたり、音声ストリーミングサービスなどを用いて音楽を再生したりすることができる。

オンラインサービスのアカウントと紐付けることで、メールやメッセージの受信通知や内容の読み上げを行ったり、スケジュールの追加や変更、リマインドなどを音声による操作や案内で利用することができる。アラームや電卓などの機能を声で呼び出すこともできる。

ソフトウェアの選択などが必要な一般的なコンピュータの操作とは異なり、人間からの入力は人に話しかけるのと同じように指示や質問をするだけでよい。例えば、「24かける365は?」と尋ねれば「8760です」と応え、「明日の朝7時半にアラームをセットして」と指示すれば「明朝7時半にアラームをセットしました」と応える。

人の声すべてを入力であると認識してしまうと他の人との会話に割り込んでしまったりして不都合なため、冒頭に決まりのセリフを言うことでスマートスピーカーへの入力を開始することを明示する仕組みになっている製品が多い。Apple HomePodであれば “Hey Siri”(ヘイ!シリ!)、Google Homeであれば “OK, Google”(オーケー!グーグル!)といった具合である。

2014年頃から大手IT企業が実用的な製品を投入し普及が始まった製品カテゴリーで、米アマゾンドットコム(Amazon.com)社の「Amazon Echo」(アシスタント名はAlexa)、米グーグル(Google)社の「Google Home」(現Google Nest)、米アップル(Apple)社の「HomePod」(アシスタント名はSiri)などが世界的に有名である。Amazon.comやGoogleは機器メーカーにアシスタント機能を提供しており、音響機器メーカーなどが対応製品を製造・販売している。

センサネットワーク 【WSN】

電源と無線通信機能を内蔵した小型のセンサー機器を分散して設置し、それら協調して動作させることで、施設や設備の監視・制御や、環境や空間の観測などを行なう通信ネットワークのこと。

ネットワークを構成する小型の機器(センサノード)は、電池やセンサー装置、無線通信チップ、アンテナ、装置の制御やデータの記録・処理のための超小型コンピュータ(極小の電子基板や単体のICチップとして実装される)などで構成され、設置から電池切れまで長時間(長ければ数年間)自律的に動作し続けることが求められる。

無線通信システムは固定的な中継設備などを介さなくても複数の機器が協調してバケツリレー式にデータを運び、制御施設・設備から最寄りのノードを介してネットワーク内のデータを収集できるようになっていることが多い。センサーネットワークでの利用に適した、低速だが省電力で長距離を伝送できる通信規格(LPWA:Low Power Wide Area)も提唱されている。

もとは戦場での索敵や状況把握を有利に進める軍事技術として発展したものだが、民生用でも様々な分野で応用されている。工場やビルなどで構内の設備や機器の監視や制御を行ったり、公共インフラや交通システムで管理施設から離れた場所を監視したり、環境保護や気象予測、災害対策のため大気や海洋、地殻などの状態を観測・計測したりといった用途での普及が期待されている。

センサーネットワークの概念をさらに発展させ、世の中の様々なモノに通信機能を内蔵してインターネットで相互に結び、自動認識や自動制御、遠隔制御など様々な用途に応用することを「IoT」(Internet of Things:モノのインターネット)という。

HEMS 【Home Energy Management System】

家庭内の電気設備や家電製品の稼働状況や電力使用量を監視・記録し、また、設備を遠隔から制御することにより、電力使用量や電力料金の低減・最適化を図る情報システム。

家庭内の照明や家電製品、電気設備、電力配線を監視し、各機器の電力使用状況をリアルタイムに表示したり、遠隔から自動的に電源のオン・オフや給電量の調整などを行い、電力の浪費を減らすことができる。

また、家庭用燃料電池や太陽光発電パネル、家庭用蓄電池など発電・蓄電設備がある場合には、電力会社からの受電・送電設備と一括して管理し、電気料金の高い時間帯に積極的に発電・売電したり、安い時間に充電するといった制御を行い、電力使用の最適化を行う。

組み込みシステム 【エンベデッドシステム】

家電製品や産業機器、乗り物などに内蔵される、特定の機能を実現するためのコンピュータシステム。機器内の各装置の制御や利用者からの操作の受け付けなどを行う。

パソコンなどの汎用のコンピュータシステムとは異なり、要求される機能や性能が極めて限定的かつ開発時にあらかじめ特定されており、厳しいコスト上の制限から利用可能な資源にも強い制約がある。

安価なCPU(マイクロプロセッサ)や少ないメインメモリ(RAM)、プログラムを内蔵するROM(読み込み専用メモリ)などで構成され、ストレージや外部入出力(I/O)は存在しないか限定された最低限の装置のみであることが多い。こうした機能を一枚のICチップに実装したマイクロコントローラ(MCU:Micro-Control Unit)などの専用の半導体製品が用いられることも多い。

組み込みソフトウェア

組み込みシステムを制御するオペレーティングシステム(OS)は「組み込みOS」(embedded OS)と呼ばれ、少ない資源で安定的に動作するよう汎用OSとは異なる設計の製品が用いられる。

機械の制御では処理の遅延が故障や事故に繋がる危険を伴う場合があるため、応答時間が一定の範囲に収まることを保証する特殊な「リアルタイムOS」(RTOS:Real-Time OS)が用いられることもある。

組み込みOS上で具体的な個別の機器の制御機能を実装したものを「組み込みソフトウェア」(embedded software)という。汎用コンピュータと違い基本的には利用者側で追加や変更を行う必要がないため、主基板などに備えられた書き換えできないメモリ装置(ROM)に固定的に記録し、それを使い続ける場合が多い。

家電や機械にも高度な通信機能や情報機能を搭載したものが増えているため、OSやソフトウェアをフラッシュメモリなど書き換え可能な記憶装置に記録しておき、出荷後にインターネットなどを通じて更新や機能追加などができるように構成されている製品もある。

歴史

1970年代初頭にマイクロプロッサが発明され実用化されるが、最初期の製品の一つである米インテル(Intel)社の「4004」を組み込んだ電卓が日本のビジコン社によって開発・発売された。小規模なコンピュータシステムにより制御される特定用途向けの電気製品という意味では組込みシステムの先駆けと言える。

1980~90年代にかけてマイクロプロセッサやメモリの高性能化や低価格化が進むと、複雑で高機能な電化製品を中心に、専用回路や機械式の制御機構から組込みシステムへの移行が進んでいった。

現代ではテレビやビデオレコーダー、デジタルカメラ、プリンタ、コピー機、携帯電話といった情報機器のみならず、洗濯機、炊飯器、自動車、自動販売機、券売機など、身の回りにあるほとんどの機械に何らかの組込みシステムが搭載されているといっても過言ではない。

スマートフォンのように限りなく汎用コンピュータに近い汎用性や機能性を獲得した製品分野や、自動車のように極めて高度かつ複雑な大規模組込みシステムが搭載される事例も見られるようになっている。

M2M 【Machine to Machine】

機械と機械が通信ネットワークを介して互いに情報をやり取りすることにより、自律的に高度な制御や動作を行うこと。工場の自動化や電力網の効率化などに応用されている。

コンピュータや通信装置などの情報機器以外の機械に、センサーや処理装置、通信装置などを組み込んで、データ収集や遠隔監視・制御、自動制御、自律的な機器間の連携などを行う仕組みを意味する。

具体例として、工場内での工作機械の集中制御や、自動販売機の在庫状況の遠隔監視、様々な建物に設置されたエレベーターの稼働状況の監視、実際の自動車の走行状況を集約したリアルタイムの渋滞情報、電力網を構成する施設や設備を結んで細かな電力使用量の監視や供給制御を行なうスマートグリッドなどが挙げられる。

無線機能を内蔵した小型のセンサー装置を分散して設置し、それら協調して動作させることで施設や設備の監視・制御や、環境や空間の観測などを行なう通信網は「センサネットワーク」(sensor network)とも呼ばれる。

IoTとの違い

似た概念として、機械をはじめとする様々なモノに通信装置を組み込み、インターネットを通じて相互に、あるいは外部のシステムなどに接続して情報の伝達や監視・制御などを行う仕組みをIoT(Internet of Things)という。

IoTが通信基盤としてインターネットの利用や接続を前提とする一方、M2MはインターネットやTCP/IPネットワークに限らず独自仕様の有線・無線ネットワークを基盤とする場合があり、また、運用組織内で完結した閉域網とすることもある。

また、IoTは機器だけでなくクラウドシステムや人間など外部の主体との連携を重視するが、M2Mはネットワークに参加する機器相互の接続や連携に主眼を置くという違いもある。

ともあれ、IoTとM2Mがそこまで厳密に定義付けられて区別されているわけでもなく、「IoT/M2M」のような総称的な表記が用いられたり、同じ技術や製品でも文脈や開発元の意図などを反映して場面に応じて両者を使い分けるといった事例も見られる。

スマートシティ

シラバス:Ver.9.0 (2023年)

IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)などの最先端の情報・通信技術(ICT)を活用し、管理の効率化や行政サービスの向上、新たな価値の創出に取り組む都市や地域のこと。

行政が中心となり、企業や民間機関、市民などと共同でデジタル技術の広範な導入・活用を進めることにより、行政の効率化、市民生活の向上、地域内の諸課題の解決や緩和、ビジネス環境の競争力強化、省エネや再生エネルギー利用の促進などを推進する政策である。

具体的な事例として、カーシェアリングや乗り合いタクシー、レンタサイクルなどの整備やこれらを連携させたMaaS(Mobility as a Service)の構築、自動運転バスやドローン配達など新技術の社会実装、駐車場や駐輪場の空き状況のリアルタイム配信などが知られている。

日本では、政府が2016年に発表した第5期科学技術基本計画の中で提示した未来社会の構想「Society 5.0」の一環として提唱され、内閣府、総務省、経済産業省、国土交通省などがスマートシティ推進に取り組む自治体への支援施策などを推進している。

スマートファクトリー

工場にAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)などの先端的なデジタル技術を導入し、自動化や効率化、コストや期間の削減、品質向上などを図る試み。また、そのような高度に自動化された工場。

製造装置や搬送機などにセンサーや制御装置を取り付け(あるいは内蔵型の製品に切り替え)てネットワークに接続し、中央の管理システムにデータを収集・蓄積して、一括して監視・管理することができるようにする。

様々なデータを集めて解析することで現場の状態や問題点を可視化(見える化)し、事象間の因果関係の分析や事象のモデル化を行う。モデルに基づく将来予測や制御の最適化を行い、結果を再びデータとして観測し、さらなる工程の改善に繋げる。

スマートファクトリーはデジタル技術を前提とした製造工程の作り直しであり、生産におけるデジタルトランスフォーメーション(DX:Digital Transformation)とも呼ばれる。デジタル化された製造現場は計画や調達、更には販売や経営ともシステム接続されてリアルタイムに連動し、部門をまたいだ全体最適化を可能とする。

MaaS 【Mobility as a Service】

シラバス:Ver.9.0 (2023年)

ITを活用して様々な移動手段や交通機関を繋ぎ合わせ、ある地点から別の地点への人の移動をサービスとして一括提供すること。乗り物の種類や提供主体の垣根を取り払い、移動をサービスとして捉えたもの。

電車やバス、航空機、船舶、タクシーなど既存の交通機関、レンタカーやカーシェアリング、バイクシェアといった車両などの貸出・共有サービス、さらには自動運転車やライドシェアといった新世代の技術やサービスを緊密に連携し、利用者の移動ニーズに応じて一括提供するシステムやサービスを指す。“Mobility as a Serviceモビリティ・アズ・ア・サービス” を直訳すると「サービスとしての移動」という意味になる。

利用者はスマートフォンアプリなどを通じて目的地や条件などを指定して検索を行うと、システムが最適な経路や移動手段の組み合わせを提案し、予約や決済までを一括して済ませることができる。従来のように移動手段や運営主体ごとに個別に手配や手続きを行う必要はなく、「目的地までの最適な移動手段」をサービスとして提供する。

利用者にとっては手続きのワンストップ化による利便性向上のほか、人によっては自家用車が不要になり家計負担が軽減されたり、通勤の経費精算が簡素化されるといったメリットが考えられる。交通機関や事業者側でも膨大な移動履歴のデータを活用することができ、サービス提供を最適化・効率化したり、移動先の施設等と連携してサービス利用の活性化を進めることができる。

地域や行政などの視点から見ても、域内の交通が最適化されることで交通渋滞や大気汚染が軽減されたり、観光客など外来者の移動の活発化、高齢者など交通弱者の外出機会の増大などが期待でき、地域経済の活性化や住民の厚生の向上に資するとされる。鉄道やバスなどの公共交通機関は公営であることも多く、企業だけでなく国や自治体などでもMaaSに関する調査・研究が進められている。

ドローン

小型で無人の移動機械。無線による遠隔操縦あるいは自動操縦で飛行する無人の小型航空機を指すことが多く、クアッドコプター型のものがよく知られている。原義は(ミツバチの)「雄蜂」で、広義には無人の船や潜水艇なども含む。

ラジコンヘリや軍事用の無人機(UAV:Unmanned Aerial Vehicle)などは以前から存在するが、2010年代半ば頃から4つの回転翼を持つ小型の無人航空機(クアッドコプター)が広く実用に供されるようになり、これを指す言葉としてドローンという語が普及した。

広義には、回転翼・固定翼に関わらず以前から存在するものも含めた無人の航空機全般を総称し、さらに、軍事などの分野では無人の船舶(無人水上艇/USV)を「水上ドローン」、無人の潜水艇(無人水中機/UUV)を「水中ドローン」などように呼ぶ場合がある。

無人のクアッドコプターは近年急激に技術の発展や社会への応用が広がっている航空機で、映像や写真の空撮、観測や測量、農薬の散布、軽量貨物の配送、災害時の被害調査や捜索、緊急物資の輸送、警備や刑事捜査、照明を搭載したドローンを編隊飛行させるエンターテインメントなどに利用されている。

現金自動預払機 【ATM】

金融機関などが設置・運用している機械の一つで、顧客が通帳やカードなどを使い、現金の預け入れや引き出し、別の口座への送金などができるもの。

最も一般的なものは銀行が設置しているもので、自行の顧客や提携している他行の顧客が預金通帳やキャッシュカードなどを用いて、自分の預金口座への入出金や、他の口座や他行への振り込みや振り替え、残高照会、通帳記入などを行なうことができる。

対面の窓口で行う手続きの一部を機械で置き換えたもので、支店や出張所の店内の一角に並んでいるほか、都市部の駅前などにはATMのみが置かれた簡易な出張所が設置されることもある。提携している一般の店舗や商業施設に置かれたり、駅や公共施設に置かれているものもある。

証券会社や貸金業者、クレジットカード会社などが設置しているものもあり、口座への入出金、キャッシング、支払い、返済など、その金融機関に関連する現金の出し入れを行なうことができる。現金の払い出しのみが可能な機器は「キャッシュディスペンサー」(CD:Cash Dispenser)と呼ばれるが、これを含めてATMと総称されることもある。

CASE 【Computer Aided Software Engineering】

シラバス:Ver.9.0 (2023年)

ソフトウェアの開発や改修にソフトウェアを利用すること。また、そのためのソフトウェア(CASEツール)。主に1980~90年代に用いられた概念で、現代ではほとんど聞かれない。

CASEによるソフトウェア開発では、対象業務やソフトウェアの構造・設計などを図表などを用いて可視化して作業を進めやすくしたり、特定の形式で記述された設計データから対応するプログラムコードを自動生成するなど、開発工程の一部を専用のツールを用いて自動化することができる。

CASEによる開発を支援するCASEツールは、計画・設計など、ソフトウェア開発の初期段階(上流工程)を支援する「上流CASEツール」と、コーディング・テスト・保守など下流工程を支援する「下流CASEツール」に分類される。これらのプロセスすべてに一括して対応するものを「統合CASEツール」と呼ぶ。

コネクテッドカー

無線通信でインターネットなど外部と常時接続する機能を持ち、各種の情報サービスなどと連携して高度な機能を提供する自動車。

車内のセンサー類などが収集した情報を外部の提供したり、外部から情報を受信して様々な機能やサービスを実現することができる。車内のスマートフォンなどと連携してサービスを提供する仕組みも提供されている。

例えば、各車の走行状況から割り出したリアルタイムの渋滞情報や道路情報、衝突を検知して自動的に関係機関へ通報する自動緊急通報システム、動画配信などを楽しめる車載エンターテインメント、走行記録と連動するテレマティクス保険、位置情報を利用した盗難車両追跡システムなどが利用できる。

ホーム画面への追加方法
1.ブラウザの 共有ボタンのアイコン 共有ボタンをタップ
2.メニューの「ホーム画面に追加」をタップ
閉じる