基本情報技術者単語帳 - 企業活動
CSR 【Corporate Social Responsibility】
企業が社会に与える影響について責任を持ち、社会の持続的発展のために貢献すべきとする考え方。また、そのような考え方に基づいて実践される諸活動。
企業が株主に対する責任を果たして利潤を追求するだけでなく、社会の一員として従業員や取引先、消費者、地域住民、行政、社会全体といった様々な利害関係者(ステークホルダー)を尊重し、自らの影響に対する責任を果たすための自発的な取り組みを指す。
具体的には、環境保護、人権尊重(途上国の委託工場の労働環境の監督など)、顧客や消費者への積極的な情報開示(原材量の調達元の公表など)、公正な取引(下請け企業との取引条件の開示・改善や、いわゆるフェアトレードなど)などの活動を行う企業が多い。
ヨーロッパでは業務や事業のあり方を規定する指針の一つとしてCSRに取り組む企業が多いのに対し、アメリカでは寄付や慈善事業、ボランティア活動、地域貢献など、利潤を社会に還元したり地域の一員として貢献するのがCSRであるといった考え方の企業が多い。
日本もアメリカ型に近く、エネルギー企業が植林を行なったり、金融機関が学校に投資家教育を提供したりと、事業分野と関連はあるが本業とは別に社会貢献活動を行うのがCSR活動であると考える企業が多い。日本独特の考え方として法令遵守(コンプライアンス)をCSRに含めることがある。
ISO(国際標準化機構)ではCSR(正確には企業に限らない様々な主体の社会的責任)のガイドラインとして2010年にISO 26000を策定した。この中では7つの原則として
- 説明責任 (Accountability)
- 透明性 (Transparency)
- 倫理的な行動 (Ethical behavior)
- ステークホルダーの利害の尊重 (Respect for stakeholder interests)
- 法の支配の尊重 (Respect for the rule of law)
- 国際行動規範の尊重 (Respect for international norms of behavior)
- 人権の尊重 (Respect for human rights)
を挙げている。
グリーンIT 【green IT】
省電力化など、地球環境への負荷を低減できるIT関連機器やITシステムなどの総称。また、ITを活用することで地球環境への負荷を低減する取り組み(および両者の総称)を指す場合もある。
ITのグリーン化
半導体技術の高度化や社会のコンピュータ利用の広まりと共に、コンピュータシステムの電力消費や発熱の増大が問題視されるようになり、これらを低減することでコスト削減と環境対策の両立を目指す取り組みとして、グリーンITという用語が使われるようになった。
具体的には、消費電力を抑えた半導体製品の活用や、サーバ統合や仮想化、クラウド化などを活用した機器の台数削減や利用効率の向上などが含まれる。
ITによるグリーン化
また、業務のIT化による効率向上やITシステムによる機器や設備の高度な電力制御などにより、従前よりも環境への負荷を低減する取り組みのことをグリーンITと呼ぶ場合もある。
これには、文書の作成・管理にIT機器を導入して紙の使用量を減らすペーパーレス化や、テレビ会議などの活用による出張の削減やテレワーク化、通信ネットワークで遠隔地を結んで行う遠隔授業や遠隔医療、住宅やオフィスのエネルギー利用の最適化(HEMS/BEMS等)などの取り組みが含まれる。
コーポレートガバナンス 【企業統治】
企業活動を健全に保ち、規律を維持するための統制や監視の仕組み。不正や非倫理的な振る舞いを防ぎ、企業の株主価値や社会的価値を向上させることを目指す。
正式な定義などはなく、文脈によって意味が異なるが、狭義には、主に株主が経営者を監視し、不正や暴走、会社の私物化などを防いで企業価値の最大化に集中させるための仕組みや制度を意味することが多い。
広義には、企業活動全般について、組織ぐるみの不正や違法行為、非倫理的な振る舞いを抑え、株主だけでなく従業員や取引先など企業を取り巻くすべての利害関係者(ステークホルダー)にとって、また、社会全体にとって企業活動が害を及ぼさないようにするための仕組みを意味することが多い。
具体的な仕組みには、従来より法律や株式市場のルールなどによって規定された制度(株主総会、株主代表訴訟、監査制度、上場企業の財務情報開示制度など)もあるが、各企業が独自に取り組むものとして、社外取締役や社外監査役の任命、取締役と執行役の分離、指名委員会や報酬委員会の設置、内部通報制度の整備、役員や従業員の行動準則や行動規範の策定などがある。
IR 【Investor Relations】
上場企業が株主や一般投資家、証券市場関係者に向けて行う広報活動。株主や投資家が経営状態を正しく把握できるよう、財務状況や業績、経営に関する重大事項、経営戦略などについて発表や説明を行う業務である。
IRの目的は株主や投資家と良好な関係を継続的に築き、株価が市場で公正に評価され、市場から円滑に資金調達できる環境を整えることにある。取り扱う情報は役員の異動や組織変更、増資や社債発行などの資金調達、決算(四半期・半期・通期)、業績予想や予想修正、他社の(あるいは他社による)合併や買収、その他経営や業績に大きく影響する事柄などである。
主な活動として、年次報告書(アニュアルレポート)や有価証券報告書など各種の資料や報告書の定期的な発行、財務や経営に関する重大事項の発表、投資家向けの説明会の開催、投資家からの問い合わせ窓口などがある。法律や市場規則で義務付けられた情報開示や公告についてもIR部門が担当することが多い。
BCP 【Business Continuity Plan】
企業や官公庁などで、通常業務の遂行が困難になる事態が発生した際に事業の継続や復旧を速やかに遂行するために策定される計画。
BCPを策定するにはまず、大災害や大事故、疫病、テロ、犯罪被害、社会的混乱など、自社の業務継続に致命的な影響を及ぼす緊急事態を洗い出し、それぞれについて具体的な影響を分析する。
そして、中核事業や中枢的な業務を継続あるいは早期に復旧するために優先的に維持・復旧すべき拠点や機能を定め、目標復旧時間(RTO:)や最低限のサービスレベルを定める。これに基づき各人員や部署が取るべき行動をマニュアル化したり、代替設備などを用意する。
作成されたBCPは危機管理部門だけでなく全社的に周知・共有し、定期的にテストや訓練を行ない、いざという時に滞りなく実践できるようにしておくことが必要となる。このようなBCP策定や改訂、日常からの備えなどを含む活動全体を「BCM」(Business Continuity Management:事業継続マネジメント)と呼ぶこともある。
コーポレートブランド
企業そのものを表すブランド。個別の製品やサービス、事業などではなく、企業やその事業全体を表すブランドで、企業のイメージや信用を象徴する。
企業は個別の製品や製品系列、事業部門などに対して名称やシンボルマークなどを与え、顧客や消費者に一定のイメージを訴求することがある。これをブランドというが、コーポレートブランドはその企業の製品全体に展開されるブランドを指す。
コーポレートブランドを定めることで製品やサービスに共通のイメージを想起させることができ、その認知度や信頼度を高めることで競合優位を築くのに役立つ。新規事業や新製品を展開する際にも、それまでのブランド訴求の蓄積により速やかに市場に浸透を図ることができるようになる。
典型的な例は企業名をコーポレートブランドとする場合で、自動車メーカーなどの中には製品のモデル名を社名から始める事例がよくみられる。旧松下電器産業の「ナショナル」のように企業名とは別にコーポレートブランドを展開する例や、松下が海外向けに展開していた「Panasonic」のように国によって異なるコーポレートブランドを展開する例(いずれも現在は社名に統一)などもある。
PDCAサイクル 【Plan-Do-Check-Act cycle】
業務プロセスなどを管理・改善する手法の一つで、計画→実行→評価→改善という4段階の活動を繰り返し行なうことで、継続的にプロセスを改善・最適化していく手法。
PDCAは4つのステップから成る。“Plan” (計画)では、目標を設定してそれを達成するための行動計画を作成する。“Do” (実行)では、策定した計画に沿って実際に業務を遂行する。“Check” (評価)では、実施した結果についての情報を集めて整理し、当初の目標や以前のサイクルの結果などと比較するなどして評価を行う。
“Act” (「行動」「処置」の意だが改善と訳されることが多い)は “Adjust” (調整)とも呼ばれ、評価を受けて問題点の洗い出しや成功・失敗の要因を分析し、プロセスや計画の調整、実施体制の見直しなどの処置を行なう。
“Act” まで一通りの活動が終わると、その結果を反映して再び “Plan” から一連の活動を行う。このP→D→C→Aの流れを継続的に繰り返すことを「PDCAを回す」などと言い、螺旋を描くようにプロセスの改善が行われることが期待される。
PDSサイクル (Plan-Do-See cycle)
循環的なプロセスの改善手法として、“Plan” (計画)→ “Do” (実行)→ “See” (評価)の3段階とする場合もあり、PDSサイクルという。
HRM 【Human Resource Management】
企業などの組織における従業員を経営上の戦略的資源の一つと捉え、人に関連する情報や活動などを統合的に管理する経営手法。そのための業務や組織、情報システムなどを指すこともある。
主に人事・労務部門が担う、従業員の募集・採用や教育・研修、選抜・配属、評価、勤怠管理、給与、社会保険、福利厚生などに関する業務や制度、プログラムやプロジェクト、関連するデータや情報システムなどの総体を表している。
単に従来の人事・労務管理と同じ概念を表す場合もあるが、殊更にヒューマンリソースマネジメントという用語を用いる場合には、組織体を構成する人材を、施設や設備(モノ)、資金(カネ)と同じく、経営資源、利益を生み出す財産とみなし、人材に関わる業務や情報、仕組みを統一的に管理・運用することで、より高い意欲や能力を引き出して最大限活用するという意味合いが込められていることが多い。
人事管理や給与計算は扱うデータが多いことから古くからシステム化の対象となっており、現代でもある程度以上の規模の企業では専用の情報システム(HRMシステム)を導入して情報の管理や操作を行うことが多い。大企業では統合型の経営情報システム(ERPパッケージ)の機能の一つとして提供されるヒューマンリソースマネジメントシステムを利用することも多い。
OJT 【On-the-Job Training】
企業などでの社員の教育・訓練法の一つで、現場で上司や先輩が指導役となり、実際の業務を行なう中で必要な知識や技能を身につけさせていく方式。新人教育の最終段階などで行われることが多い。
企業などの初任者研修などでよく用いられる方式で、実際の現場、実際の業務において、実際の業務遂行者が指導を行う。単に新人に業務を手伝わせる、やらせてみるといった曖昧なものではなく、研修プログラムの一環として意図的・計画的・継続的に行われるものを指す。
マニュアル化や集合研修での教育が難しいが実務上必要となる、職場や業務に固有の知識やノウハウ、慣習、実践的な業務の進め方などの習得が期待できるが、体系的な知識やスキルの習得には向かない。指導役の従業員は教育・研修を専門の職務としているわけではないため、指導者としての意識や力量にはバラつきがあり、十分に指導的な役割を果たせない場合もある。
組織側にとっては新人にも早い段階で業務の一端を担わせることにより教育コストを削減する効果も期待できるが、現場任せにして十分な体制作りやサポート、評価などを怠れば現場の疲弊、士気の低下を招き、業績も教育効果も上がらないという結果に繋がる。
目標による管理 【MBO】
組織や人員の管理手法の一つで、上司と部下(個人あるいはグループ)が相談して業務上達成すべき目標を設定し、方法や進捗の管理などは本人(たち)の自主的な取り組みに任せる方式。
目標の設定に本人が関与する点や、仕事の進め方などを本人が自主的に考えて行動する点など、適切に運用されれば責任感やモチベーションを高めやすい手法であるとされる。反面、全社的な方針や目標を反映させにくく、達成しやすい目標ばかり選好するなどの形骸化が起きやすい点が問題とされる。
eラーニング 【CBT】
コンピュータなどのデジタル機器、通信ネットワークを利用して教育、学習、研修などの活動を行うこと。遠隔地にも教育を提供でき、コンピュータならではの教材が利用できる。
コンピュータ上で閲覧、操作できる学習教材と、カリキュラムや成績、到達度などを把握、管理するシステムを組み合わせたものが一般的で、学習者が自習する形式のものと、教師が講座を運営する前提のものがある。
紙の教科書やプリントなどを中心とする従来の教材に比べ、音声や映像を組み合わせたり、利用者の操作に応じて展開や選択ができる双方向性を活用したり、関連する項目をすぐに参照できるハイパーリンクの仕組みなど、コンピュータならではの機能を利用することができる。
また、自習形式のシステムの場合、学習者が決まった場所や時間に集まって受講する必要がなく、インターネットなどを通じていつでもどこからでも教材にアクセスし、習熟度に応じて自分のペースで学習を進めることができる。
一方、様々な情報や仕組みを組み合わせた教材の開発は難しくコストがかかり、特定のシステムやサービスでしか利用できない問題がある。また、一斉講義ではない方式だと教師と学習者の接触機会が限られ、その場で質問して疑問を解消するといった活動が難しいほか、実技や実習が中心の内容は扱いづらい。学校のような長期的な学習活動の場合は学習者の意欲や自己管理の維持が課題となることもある。
企業研修や資格試験の講座などで広く活用されているほか、通信教育過程を中心に教育機関での利用も広がっている。大学などの高等教育機関では「OCW」(オープンコースウェア)あるいは「MOOC」(Massive Open Online Course)と総称される公開講座形式のオンライン教材の無償公開が活発になっており、世界のトップクラスの大学の講座を誰でも聴講することができるようになりつつある。
アダプティブラーニング
コンピュータシステムを応用した学習方法の一つで、一人ひとりの学習者の能力や特性に合わせて進捗や教材を調整する手法。
個々人の学習の進捗状況や理解度、過去のテストの結果などを専用の学習管理システムに蓄積する。記録を解析して能力や特性、得手不得手などを分析し、個人ごとに適した学習プランを策定したり、教材やテスト、課題を選択する。
同じ教材を用いて同じ進度で一斉に学習を進める従来の学習方法に比べ、個々の学習者に合わせたオーダーメイドの学習プロセスを構築することができ、効率的に学習を進めることができる。苦手な課題を繰り返し復習するなど、きめ細やかで取りこぼしの少ない学習が可能となり、指導者の質や癖、学習者との相性などにも左右されにくい。
アダプティブラーニングを実施するには、専用の学習管理システムに教材やカリキュラムを組み込み、学習者が常に利用できる環境を整備する必要がある。これには大きなコストと長い準備期間が必要となるため、企業の研修プログラムなどでは採用が進みつつあるものの、学校教育、とりわけ公教育への導入は将来的な課題となっている。
リテンション
保持、保有、記憶、維持、滞留などの意味を持つ英単語。何かを繋ぎ止めたり保持し続けることを指し、日本語の外来語としては主に人事分野やマーケティング分野でそれぞれ異なる意味で用いられる。
人事分野のリテンション
人事や人材活用などの文脈でリテンションという場合は、従業員の離職、流出を防ぎ定着を図るための施策を指す。新卒社員や他社からの転職者などが早期離職するのを防ぎ、採用や教育にかかるコストを削減したり、優秀な人材が転職しないよう社内に繋ぎ止める。
働きやすい環境を整えて従業員満足度を高め、長期的な見通しを立てやすくすることが重要で、給与体系や福利厚生などの充実、新人が速やかに業務や組織に馴染めるようにするためのオンボーディング、多様な生き方やライフステージに合わせた就業時間や休暇制度、志願制を取り入れた異動・配属制度などが該当する。
マーケティング分野のリテンション
マーケティングの文脈でリテンションという場合は、既存顧客と良好な関係を築いてこれを維持し、低コストで収益の向上を図る施策を指す。
一般に、新規顧客の獲得よりも既存顧客に取引を促す方がコストが低いことが多く、既存顧客の満足度や印象を良好に保ち、関連製品の購入(クロスセル)、新製品や上位モデルへの買い替え(アップセル)といった新たな取引機会を創出する活動をリテンション(・マーケティング)という。
CRM(Customer Relationship Management)システムなどで各顧客の情報や購買履歴、接触履歴などを統合的に管理し、満足度を向上させることが重要とされる。具体的な施策としては、丁寧で充実したカスタマーサポート、優待プログラムやポイント制度などのロイヤルティプログラム、関心を持続するための定期的な案内やメールマガジンの配信などが挙げられる。
HRテック 【HR Tech】
企業などの人事・人材関連の業務を効率化したり革新をもたらしたりする新しい技術やサービス。従来システムを超える効率化や省力化を実現したり、従来にない人材戦略を打ち出すことを可能にする。
人事を意味する「HR」(Human Resources)と、技術を意味する「Technology」を組み合わせた造語である。AI、ビッグデータ、クラウド、IoT、ソーシャルメディアなど、最先端あるいは流行の情報技術やその応用製品・サービスを組織の人材管理に取り込むことを指す。
対象となる領域は従来の人事管理システムでも扱われる勤怠管理や給与計算、経費精算などに加え、人材の採用、研修や育成、職能管理や配置(タレントマネジメント)、評価、従業員満足(ES)、定着率向上(エンゲージメント)などが含まれる。
HRテックを謳う製品には様々なものがあり、従来の人事管理システムのような人材業務全体を対象とした総合的の製品よりも、特定の業務に変革をもたらす特化型の製品が多い。新興企業の製品を中心に、SaaSやクラウドの形でサービス化された製品が多い。
企業活動や社会的な活動へのITの導入・普及は従来から見られたが、2010年代以降、先進的なITシステムやネットサービスを取り込んで非IT分野を変革する動きが活発になり、分野名を冠して「◯◯テック」と呼ぶようになった。金融分野の「フィンテック」(FinTech)、農業分野の「アグリテック」(AgriTech)、教育分野の「エドテック」(EdTech)といった具合で、これを人事・人材分野に適用した用語が「HRテック」である。
ワークシェアリング 【ワークシェア】
雇用を維持あるいは創出するため、労働者間で雇用を分かち合うこと。働く人の数を増減させる代わりに一人あたりの労働時間を増減させるようにしたり、一人が長時間働いてこなしていた仕事を複数人が短時間ずつ働くことで代替するような施策や政策を指す。
従来、企業は景気や業績の上下に対して従業員の増減(採用・解雇)で対応してきたが、一部の先進国では失業率の高止まりや失業者の固定化(失業の長期化)が起きる一方、一部の正規労働者に負荷が集中して心身の健康を損なうという問題が同時に起きていた。この両極端の状態を緩和するため、決まった仕事量をなるべく多くの従業員あるいは国民で分かち合うというワークシェアリングの概念が注目されるようになった。
厚生労働省ではワークシェアリングの4つの類型を示している。「雇用維持型(緊急避難型)」は、一時的あるいは急激な景気や業績の悪化を乗り越えるため、従業員一人あたりの労働時間を削減し、雇用を維持(人員整理を回避)する方式である。「雇用維持型(中高年対策型)」は中高年層の雇用を維持するために専用の就労制度を用意する取り組みで、現役時代より待遇を切り下げて定年を延長したり定年退職者を再雇用する制度などが該当する。
「雇用創出型」は従業員の労働時間を削減することで新たな雇用を創出する施策で、フランスの厳しい労働時間抑制策などが挙げられる。「多様就業促進型」は同じ職場や業務で様々な勤務形態を許容する手法で、育児や介護に従事する労働者のための短時間勤務、副業や兼業を前提とした勤務制度、在宅勤務などが該当する。
テレワーク 【リモートワーク】
コンピュータや通信回線などを利用して、勤務先のオフィス以外の場所で仕事をすること。広義には、出勤すべき決まった事業所がなく常に自宅や外出先で仕事をすることを含む。
企業などの従業員についてテレワークという場合は、出勤すべき事務所などの施設とは異なる場所で働くことを指す。自宅で働く「在宅勤務」、外出先や移動中に働く「モバイルワーク」、小規模な出先施設(サテライトオフィス)に出勤する「サテライト勤務」などの類型がある。自営業者(個人事業主)などについては、決まったオフィスなどを持たずに自宅や外出先などで働くことをテレワークということが多い。英語では “telecommuting” (テレコミューティング)と呼ぶのが一般的。
場所に縛られず働けるようにすることで、育児や介護など様々な事情を抱える従業員が自分に合った柔軟な働き方を選択できる。企業側でもオフィスの規模を縮小したり統廃合するなどしてコストを節減することができる。遠隔でも業務が可能な環境を整えることで出張や転勤を減らす効果が見込める場合もある。
社会的にも、大都市都心部の人口過密や交通混雑の緩和、働き方の多様化による多様な人の社会参加、労働力化の促進などが期待される。パソコンやスマートフォンなどの高性能化、インターネットや高速な通信回線の普及により、技術的には以前よりもテレワークを実現しやすい環境が整っている。
一方、管理職による仕事の割り振りや進捗管理、適正な人事評価が対面の場合より難しい点や、技術が進んだとはいえ同じ空間にいるのと同じ密度で連携やコミュニケーションを取ることは困難なことなどが長年に渡って未解決の課題となっており、全面的にテレワークに切り替える事例は少数に留まる。
ネゴシエーション 【ネゴシエート】
交渉、折衝という意味の英単語で、通信の分野では二者間で接続を開始する際にどのような設定で通信を行うかについて情報を交換し、決定する過程を指す。
通信規格には様々な設定項目や付加的な機能(オプション)が用意されており、同じ通信方式を用いて通信する場合でも実際のデータのやり取りを開始する前に同じ設定に調整する必要がある。
ネゴシエーションは機器の接続開始時に自動的に行われるもので、互いに自らが対応している項目の種類や設定値の上限や下限などの情報を通知しあい、両者が対応できる最も水準の高い設定が採用され、通信が開始される。
具体的な交渉内容は機器やソフトウェア、通信規約(プロトコル)、通信方式の種類に応じて様々だが、例えば物理層やリンク層では通信速度や誤り訂正の有無や方式、全二重・半二重といった通信モードなどが、ネットワーク層やトランスポート層では、使用するプロトコルの種類やバージョン、認証方式、暗号化の有無や方式、パケットやデータグラムなどの送受信単位のサイズなどが設定されることが多い。
ブレインストーミング 【ブレスト】
集団で行うアイデアの発想法の一つで、参加者が集まって会合を開き、思いつくまま次々自由にアイデアを発言し、互いに刺激し合ってより豊かな発想を促していく手法。
一人では考えつかないようなアイデアを導き出すために行われる会議で、結論を得たり決定を行うことは目的ではない。出た意見やアイデアは会議後に整理したり分析したりして、その後の過程に役立てる。
アイデアをより豊かで創造的なものにするための原則がある。「他の参加者の意見を否定・批判しない」「突飛・奇抜・乱雑・常識外れな意見も歓迎する」「質より量を重視する」「他の参加者の意見から連想したり自分の意見を加えて発展させる」の4つである。
1942年に大手広告代理店グループBBDO創業者の一人として知られるアレックス・オズボーン(Alex Faickney Osborn)氏が著書 “How to Think Up” で提唱したのが始まりとされる。ブレーンストーミングのように集団で創発的な活動を行う技法としては他にKJ法やバズセッションがよく知られる。
リスクマネジメント 【リスク管理】
企業などの事業活動に伴って想定される有害な事象への備えや対処を、業務として組織的に取り組むこと。様々なリスクへの対処方針の策定、実際に生じたリスクへの対処を継続的に行う。
リスク(risk)とは将来起こりうる悪い出来事、および、その確率や損害の程度のことを指す。特に、全く偶発的に外部からもたらされる災禍ではなく、組織や個人の何らかの行動や意思決定、あるいはその欠如によって起こり得るものを指すことが多い。
リスクマネジメントとは、将来のリスクを考えうる限り想定し、それぞれについて事前に対処方針を定め、実際にリスクが顕在化した際に方針に則って対処するという一連の行動を、組織内の仕組みとして明確なプロセスの元に実施することを意味する。
一般的な流れとしては、まずリスク特定、リスク分析、リスク評価からなる「リスクアセスメント」(risk assessment)を実施してリスクの洗い出しと対処方針の策定を行う。その後、事業を遂行する中で実際に遭遇した事象に対してリスク対応を行う。一定の期間が経過したら、記録を元に振り返り(レビュー)を行い、対処方針の改善などを行う。これを一つのサイクルとして、事業年度ごとなどの単位で繰り返し実施する。
BCP 【Business Continuity Plan】
企業や官公庁などで、通常業務の遂行が困難になる事態が発生した際に事業の継続や復旧を速やかに遂行するために策定される計画。
BCPを策定するにはまず、大災害や大事故、疫病、テロ、犯罪被害、社会的混乱など、自社の業務継続に致命的な影響を及ぼす緊急事態を洗い出し、それぞれについて具体的な影響を分析する。
そして、中核事業や中枢的な業務を継続あるいは早期に復旧するために優先的に維持・復旧すべき拠点や機能を定め、目標復旧時間(RTO:)や最低限のサービスレベルを定める。これに基づき各人員や部署が取るべき行動をマニュアル化したり、代替設備などを用意する。
作成されたBCPは危機管理部門だけでなく全社的に周知・共有し、定期的にテストや訓練を行ない、いざという時に滞りなく実践できるようにしておくことが必要となる。このようなBCP策定や改訂、日常からの備えなどを含む活動全体を「BCM」(Business Continuity Management:事業継続マネジメント)と呼ぶこともある。
BCM 【Business Continuity Management】
企業などの経営管理の一分野で、企業や事業の存続を脅かす事態の発生に備え、事業の継続計画を策定したり、計画を的確に実施できるよう定期的な計画の改定や教育・訓練などを行うこと。
大規模な災害の発生など、通常の事業の継続が困難になる事態へ備えるための業務や活動の総体であり、重要な業務の継続や代替手段への切り替え、業務の停止・中断期間の最小化などを目的とする。
BCMの中心となるのは有事に備えて策定された計画である「BCP」(Business Continuity Plan:事業継続計画)である。BCPに沿って必要な資金や資機材の手当て、業務マニュアルなどへの反映、従業員への教育・訓練などが実施される。BCPは業務実態や時代状況の変化などに合わせて定期的に見直し、改訂が行われる。
BCMのガイドラインを定めた標準規格として、英国規格協会(BSI)が2006年に定めた「BS25999」がよく知られる。これを元に、2012年にISO(国際標準化機構)が事業継続マネジメントシステム(BCMS)の国際規格「ISO 22301」を策定した。
ビジネスインパクト分析 【BIA】
事業を構成する個々の業務が災害など不測の事態によって停止・中断した際の影響を分析すること。
災害や事故、システム障害などで特定の業務が停止したり遂行不能に陥った場合に、組織や事業全体が被る損害の大きさ(金銭的損失、機会損失など)や、影響する範囲の広さ(事業上の影響、関連先への影響、従業員への影響、社会への影響)などを評価する。
事業継続計画(BCP)やディザスタリカバリ(DR)計画などを策定する際の最初の段階として行われ、想定される脅威や起こり得る事態を洗い出し、それぞれについて影響度合いを検討していく。得られた評価は復旧の優先順位や目標とする復旧時間などの策定に役立てる。
階層型組織 【ピラミッド型組織】
企業などの組織形態の一つで、トップを頂点にピラミッド型に管理者と組織を編成したもの。部長、課長、係長といったように各階層の責任者が自部門の責任と権限を持つ。
従来からよく見られる典型的な組織形態で、経営者をトップにピラミッド型に組織を編成し、大きな組織単位を率いる上級管理者から小さな組織単位を率いる下級管理者、末端の職員まで序列に基づいて管理と指揮命令が行われる。
指揮系統が明快で、経営者が安定的に組織全体を統治できる。組織の規模が大きくなると経営と現場の距離が遠くなり、意思決定や指示の伝達に時間がかかったり、経営層が現実を把握できずに見当違いな指示を出したり、現場が指示待ちとなり主体性を失うといった弊害も生じる。
現代でも企業や官公庁、軍など多くの組織がこの統治形態で運用されている。企業では組織単位として事業部、部、課、係などを置くことが多く、官庁では局、課、係などが置かれることが多い。企業の場合、どのような基準や機能に基づいて部門を編成するかによって、職能別組織、事業部制組織、カンパニー制組織などのバリエーションが見られる。
職能別組織 【ファンクショナル組織】
企業などの組織形態の一つで、職能や機能ごとに組織を編成したもの。営業、生産、人事、総務、財務など職能ごとに組織があり、それらの中に個々の事業や製品を担当する部門が設けられる。事業や製品の少ない中小企業や中堅企業に多い組織形態。
業務や組織の重複や無駄が生じにくいが、どの組織も事業や製品(の業績や収益)全体には責任を負わないため、同じ事業を担当する部署や人員の間で意識や目的の共有が難しくなったり、部署間の利害の対立や局所最適化が発生しやすい傾向がある。
これに対し、事業や製品、製品分野(カテゴリー)ごとに組織を編成し、その中に職能別の組織を置く形態を事業部制組織という。主な事業・業務について事業部制を採用している企業でも、人事、総務、財務、法務など、間接部門(管理部門)の一部の業務については事業部から独立した職能別の組織を編成する場合が多い。
ラインアンドスタッフ組織 【ライン&スタッフ組織】
企業などの組織形態の類型の一つで、主たる業務に直接携わる「ライン」(line)部門と、ラインの業務を補佐する間接的な業務を取り扱う「スタッフ」(staff)部門のニ系統で組織を構成したもの。
ライン部門は企業の本業、主事業の根幹となる業務を推進する組織で、経営層から末端まで階層型(ピラミッド型)の一元的な指揮命令系統を持つ。一般的な企業の場合は製品開発、購買・調達、生産・製造、営業・販売などの部門がこれに該当する。会社によってはラインが事業部制となっており、製品・事業分野ごとに独立した組織が構成されていることもある。
スタッフ部門は専門的な機能や職能で間接的に主事業を支え、ライン部門からは独立した部署として経営層の元に設置される。一般的な企業の場合には総務、人事、財務・経理、法務、広報・宣伝、情報システム、研究などの部門が該当することが多い。
事業部制組織
企業などの組織形態の一つで、事業や製品分野ごとに組織を編成したもの。独立性の高い事業ごとの組織のそれぞれに、職能・機能別の組織(営業、生産、購買など)が設けられる。事業や組織の規模が大きい大企業に多い。
一つの事業に必要な機能を一つの組織にまとめた形態で、一つの事業部がさらに複数の事業や製品ごとの組織で構成されることもある。人事や財務、法務、基礎研究など、専門性の高い業務や全社横断的な業務、どの事業にも直接は関係しない業務などに関する組織は本社部門とし、各事業の中心となる製品開発や製造、販売などで事業部を構成することが多い。
各事業の収支や責任が明確になり、現場や市場に即した迅速な意思決定が行えるというメリットがあるが、事業部間で機能や人員、業務の重複が生じるため非効率な面がある。また、他の事業部との一体感が希薄になり、全社の利益より自らの事業部の利益を優先したり、全体最適な資源配分が阻害されることがある。事業部の独立性をさらに高め、仮想的な企業のように完結した機能を持たせた組織形態は「カンパニー制組織」という。
マトリックス組織 【マトリクス組織】
企業などの組織・部門編成の手法の一つで、二つの異なる基準で組織を設置し、一人の従業員が同時に二つの組織に所属するようにしたもの。
各従業員は、ある地域を統括する支社に所属しながら、会計部門の所属でもあるというように、職能と事業分野、職能と所管地域など、異なる分類に基づく複数の組織に所属し、それぞれの上司や指揮系統に同時に服することになる。
機能別組織とプロジェクト型組織の特徴を併せ持つ組織形態で、うまく機能すれば一般的な縦割り、ピラミッド型の組織よりも機能の重複が少なく、職能の専門性を維持しつつ対象の市場や製品に集中できる。ただし、指揮系統が複数あるため、どちらの指示・目標を優先すべきかを巡って混乱や摩擦が生じることもあり、利害の対立や権限の競合を調整する仕組み作りが肝要となる。
カンパニー制組織 【社内カンパニー制】
企業などの組織形態の一つで、企業内に事業や製品分野ごとに仮想的な企業を設け、その内部に必要な機能・職能をすべて持たせたもの。
独立性の高い仮想的な企業内企業を「社内カンパニー」という。子会社のように別の法人にはなっておらず、法的・制度的には社内の一部門であるが、一つの独立したグループ企業のように責任や権限、予算、機能、人員などを抱え、社内の他部門に頼らず単独で事業を遂行していく。
社内を事業部門別に分割する組織形態は「事業部制組織」というが、カンパニー制組織という場合には事業部制よりもさらに独立性を高め、高度な権限移譲が行われたり、独立採算が求められることが多い。企業の持つ資本、資産も会計上は各カンパニーに分配し、各年度の損益だけでなく資産の効率やバランスについても責任を負うよう運営されることが多い。
プロジェクト型組織 【プロジェクト組織】
企業などの組織形態の一つで、ある目的や事業、業務のために人員を集めてチームを作り、事業が終了したら解散する方式。
社内に設けられたプロジェクトごとに必要な技能を持った人員を集めてチームを編成し、一つの業務を集中的に遂行する。そのプロジェクトの業務に関する責任と権限はプロジェクトマネージャ(PM:Project Manager)に集中し、迅速に意思決定できる体制を取る。プロジェクトが終了するとチームは解散し、メンバーは他の組織に移っていく。
チーム内の一体感や状況の変化に対応する柔軟性や機敏さを持たせやすい一方、全社的な調整が難しく部分最適に陥りやすく、プロジェクトが終了するごとに人材が流動するため経験やノウハウの蓄積や継承がしにくいとも言われる。
新製品開発や映像作品制作のように期限やゴールがはっきり定まっている業務について編成されるもので、社内のすべてがプロジェクト組織であることは少なく、職能別組織などベースとなる組織形態が別に存在することが多い。
CEO 【Chief Executive Officer】
アメリカ合衆国の(各州の)法律に基づき設置された法人において、業務の執行に最終的な責任を負う役員。また、米国外の法人で、同様の職務を担う役職の社内的な称号。
米国の法人制度では理事・取締役(director)と執行役員・執行役(officer)が分離しており(兼務してもよい)、理事会・取締役会で選任される執行役の長がCEOである。CEOを置かない会社では “president” (プレジデント)に当たる。日本では執行役員制度を導入している会社では「代表執行役」が最も近く、伝統的な会社組織では「社長」に最も近い。
CEOと president が両方存在する企業も多いが、その場合、執行上の最高責任者がCEOであることは変わらず、CEOが president を兼ねるパターン、取締役会長(chair of the board)がCEOを兼ねて執行役の長を president とするパターン、全社を統括するのがCEOで各事業領域の部門長を president とするパターンのいずれかが多い。
COO (Chief Operating Officer/最高執行責任者)
米国の法人制度で、CEOの下で法人の業務の執行全般に責任を負う役員を「COO」(シーオーオーと読む)という。日本では「最高執行責任者」と訳される。
COOが置かれるのは主にCEOが取締役会長を兼ねる企業で、CEOが監督側の長を兼ねているため執行責任を一元的に統括する役職としてCOOが置かれる。その場合にはCOOが president を兼ねる(あるいは president を置かない)ことが多い。
他に、事業部門の長がCOOで間接部門・管理部門を含む全社の総括責任者がCEOという場合や、CEOの下に事業部門ごとにそれぞれCOOを任命する場合もある。
CFO (Chief Financial Officer/最高財務責任者)
米国の法人制度で、法人の財務に関する業務の執行に責任を負う執行役員を「CFO」(シーエフオーと読む)という。日本では「最高財務責任者」と訳される。理事会・取締役会により専任され、CEOあるいはCOOの下で法人の財務を統括する。
会計、出納、予算管理、資金管理、税務、投資、資本政策など企業の財務に関する業務の責任者である。CEO、COOに次ぐ上席役員とみなされることが多く、これらトップが欠いた場合の職務の代理などを行うことがある。
CIO 【Chief Information Officer】
組織内の情報戦略のトップとして情報の取り扱いや情報システム、情報技術(IT)について統括する役員や責任者のこと。
企業の場合は取締役や執行役員、他の法人では理事などの役員、官公庁ではトップを補佐する職位として設置されることが多いが、部門長クラスをCIOとしている場合もある。情報戦略の策定や執行、IT投資の意思決定などを行い、組織内のIT部門を監督する。情報システム部門や情報システム子会社のトップを兼ねる場合もある。
CTOとの違い
企業によってはCTO(Chief Technology Officer:最高技術責任者)と呼ばれる役員を置き、CIOに相当する情報戦略を統括する業務を担当する場合があるが、一般的にはCTOは研究開発や製品の技術的側面を担当する場合が多く、組織内の情報技術活用を管掌するCIOとは別に置かれる。
CISOとの違い
相次ぐ秘密情報の漏洩やサイバー攻撃などを受け、CIOとは別に情報セキュリティ戦略を管掌する独立の役員としてCISO(Chief Information Security Officer:最高情報セキュリティ責任者)を置く企業も増えている。情報システムそのものの管轄はCIOであるため、権限や業務の切り分け、利害の衝突などが課題となる場合もある。
CDOとの違い
近年では、企業活動の全面的なデジタル化(デジタルトランスフォーメーション)の必要性が叫ばれるようになり、従来の情報化の枠を超えて全社的なデジタル化を推進する役員としてCDO(Chief Digital Officer:最高デジタル責任者)を置く企業も増えている。CIOからCDOに移行する場合と、CIOとは独立にCDOを置く場合の両方がある。
政府CIO
日本政府では、2000年に各府省ごとにCIOに相当する情報化統括責任者と情報化統括責任者補佐官(CIO補佐官)が設置された。
また、政府全体の情報戦略を統括するため、2012年に政府情報化統括責任者が置かれたが、2013年に内閣法が改正され、内閣官房の特別職公務員である内閣情報通信政策監に改められた。これを政府CIOと通称し、分野ごとに担当の異なる数十人の政府CIO補佐官が置かれている。
CISO 【Chief Information Security Officer】
企業などの組織に置かれる役員クラスの役職の一つで、情報セキュリティを管掌する責任者。情報システムや通信ネットワークへの内外からの攻撃に備え、システムの運用指針や対策基準の策定、機器やソフトウェアへの安全対策や監視、有事の際の対応などを統括する。
組織が取り扱う情報やデータおよびコンピュータシステムを安全に保つセキュリティ対策の担当役員である。狭義のいわゆるサイバーセキュリティだけでなく、書類の取り扱い、施設や部屋への入退室管理など、情報の保護や管理に関連する物理的な対策も統括する。
個人情報やプライバシーデータの保護や取り扱い、機密情報の管理などについても担当するが、会員制の消費者向け事業を行う企業などでは個人情報の安全について「CPO」(Chief Privacy Officer:最高プライバシー責任者)など専任の役職を別に設ける場合もある。
CIO (最高情報責任者) との違い
組織によっては情報統括役員である「CIO」(Chief Information Officer)職を設置する場合もある。CIOは主に情報システムの企画、導入、運用、更新などを管掌する役員で、CISOが置かれていない組織ではCIOが情報セキュリティ関連の業務・部署も統括する。
両役職とも置かれている場合は情報セキュリティ関連のみをCISOが担当することになるが、情報システムやその管理するデータなどの管轄はCIOであるため、権限や業務の切り分け、利害の衝突などが課題となる場合もある。
CSO (最高セキュリティ責任者) との違い
また、組織によっては保安・防犯(security)を統括する「CSO」(Chief Security Officer)が置かれる場合もある。日本では「セキュリティ」という外来語がほぼ情報セキュリティ、コンピュータセキュリティのみを指すため、CISOと同義とすることが多い。
一方、英語圏でも当初は情報セキュリティ担当役員を指してCSOという呼称が用いられ始めたが、次第に情報セキュリティのみを担当する役職をCISOと呼び、CSOは情報関連に限らず施設・設備や財産、従業員などを含む全社的な保安・防犯対策を担当する役職を表すようになった。
CPO 【Cost Per Order】
一件の注文を獲得するのに費やしたコストのこと。広告宣伝費や販売促進費など受注のために費やした総費用を、同じ期間内に獲得した注文件数で割って算出する。
CPOが高いほど注文獲得に高額を費やしていることになり、低いほど少ない費用で効率よく受注できていることになる。CPOにおける注文とは新規顧客のものだけでなく既存顧客のものも含まれ、また、既存顧客への販売促進施策などに要した費用などもコストとして計上する。
ECサイトなどの場合はある期間に投じた広告費を同じ期間中に獲得した受注件数で割った値をCPOとすることが多い。一般に既存顧客からの繰り返し購入が増えるほど下がっていく。
類義語として、新規顧客を一人(あるいは一社)獲得するのに要した平均費用のことは「CPA」(Cost Per Acquisition)、見込み顧客から何らかの反応(資料請求など)を一件得るのに要した平均費用のことは「CPR」(Cost Per Response)という。
CEO 【Chief Executive Officer】
アメリカ合衆国の(各州の)法律に基づき設置された法人において、業務の執行に最終的な責任を負う役員。また、米国外の法人で、同様の職務を担う役職の社内的な称号。
米国の法人制度では理事・取締役(director)と執行役員・執行役(officer)が分離しており(兼務してもよい)、理事会・取締役会で選任される執行役の長がCFOである。CFOを置かない会社では “president” (プレジデント)に当たる。日本では執行役員制度を導入している会社では「代表執行役」が最も近く、伝統的な会社組織では「社長」に最も近い。
CFOと president が両方存在する企業も多いが、その場合、執行上の最高責任者がCFOであることは変わらず、CFOが president を兼ねるパターン、取締役会長(chair of the board)がCFOを兼ねて執行役の長を president とするパターン、全社を統括するのがCFOで各事業領域の部門長を president とするパターンのいずれかが多い。
COO (Chief Operating Officer/最高執行責任者)
米国の法人制度で、CEOの下で法人の業務の執行全般に責任を負う役員を「COO」(シーオーオーと読む)という。日本では「最高執行責任者」と訳される。
COOが置かれるのは主にCEOが取締役会長を兼ねる企業で、CEOが監督側の長を兼ねているため執行責任を一元的に統括する役職としてCOOが置かれる。その場合にはCOOが president を兼ねる(あるいは president を置かない)ことが多い。
他に、事業部門の長がCOOで間接部門・管理部門を含む全社の総括責任者がCEOという場合や、CEOの下に事業部門ごとにそれぞれCOOを任命する場合もある。
CFO (Chief Financial Officer/最高財務責任者)
米国の法人制度で、法人の財務に関する業務の執行に責任を負う執行役員を「CFO」(シーエフオーと読む)という。日本では「最高財務責任者」と訳される。理事会・取締役会により専任され、CEOあるいはCOOの下で法人の財務を統括する。
会計、出納、予算管理、資金管理、税務、投資、資本政策など企業の財務に関する業務の責任者である。CEO、COOに次ぐ上席役員とみなされることが多く、これらトップが欠いた場合の職務の代理などを行うことがある。
CEO 【Chief Executive Officer】
アメリカ合衆国の(各州の)法律に基づき設置された法人において、業務の執行に最終的な責任を負う役員。また、米国外の法人で、同様の職務を担う役職の社内的な称号。
米国の法人制度では理事・取締役(director)と執行役員・執行役(officer)が分離しており(兼務してもよい)、理事会・取締役会で選任される執行役の長がCOOである。COOを置かない会社では “president” (プレジデント)に当たる。日本では執行役員制度を導入している会社では「代表執行役」が最も近く、伝統的な会社組織では「社長」に最も近い。
COOと president が両方存在する企業も多いが、その場合、執行上の最高責任者がCOOであることは変わらず、COOが president を兼ねるパターン、取締役会長(chair of the board)がCOOを兼ねて執行役の長を president とするパターン、全社を統括するのがCOOで各事業領域の部門長を president とするパターンのいずれかが多い。
COO (Chief Operating Officer/最高執行責任者)
米国の法人制度で、CEOの下で法人の業務の執行全般に責任を負う役員を「COO」(シーオーオーと読む)という。日本では「最高執行責任者」と訳される。
COOが置かれるのは主にCEOが取締役会長を兼ねる企業で、CEOが監督側の長を兼ねているため執行責任を一元的に統括する役職としてCOOが置かれる。その場合にはCOOが president を兼ねる(あるいは president を置かない)ことが多い。
他に、事業部門の長がCOOで間接部門・管理部門を含む全社の総括責任者がCEOという場合や、CEOの下に事業部門ごとにそれぞれCOOを任命する場合もある。
CFO (Chief Financial Officer/最高財務責任者)
米国の法人制度で、法人の財務に関する業務の執行に責任を負う執行役員を「CFO」(シーエフオーと読む)という。日本では「最高財務責任者」と訳される。理事会・取締役会により専任され、CEOあるいはCOOの下で法人の財務を統括する。
会計、出納、予算管理、資金管理、税務、投資、資本政策など企業の財務に関する業務の責任者である。CEO、COOに次ぐ上席役員とみなされることが多く、これらトップが欠いた場合の職務の代理などを行うことがある。
CSR 【Corporate Social Responsibility】
企業が社会に与える影響について責任を持ち、社会の持続的発展のために貢献すべきとする考え方。また、そのような考え方に基づいて実践される諸活動。
企業が株主に対する責任を果たして利潤を追求するだけでなく、社会の一員として従業員や取引先、消費者、地域住民、行政、社会全体といった様々な利害関係者(ステークホルダー)を尊重し、自らの影響に対する責任を果たすための自発的な取り組みを指す。
具体的には、環境保護、人権尊重(途上国の委託工場の労働環境の監督など)、顧客や消費者への積極的な情報開示(原材量の調達元の公表など)、公正な取引(下請け企業との取引条件の開示・改善や、いわゆるフェアトレードなど)などの活動を行う企業が多い。
ヨーロッパでは業務や事業のあり方を規定する指針の一つとしてCSRに取り組む企業が多いのに対し、アメリカでは寄付や慈善事業、ボランティア活動、地域貢献など、利潤を社会に還元したり地域の一員として貢献するのがCSRであるといった考え方の企業が多い。
日本もアメリカ型に近く、エネルギー企業が植林を行なったり、金融機関が学校に投資家教育を提供したりと、事業分野と関連はあるが本業とは別に社会貢献活動を行うのがCSR活動であると考える企業が多い。日本独特の考え方として法令遵守(コンプライアンス)をCSRに含めることがある。
ISO(国際標準化機構)ではCSR(正確には企業に限らない様々な主体の社会的責任)のガイドラインとして2010年にISO 26000を策定した。この中では7つの原則として
- 説明責任 (Accountability)
- 透明性 (Transparency)
- 倫理的な行動 (Ethical behavior)
- ステークホルダーの利害の尊重 (Respect for stakeholder interests)
- 法の支配の尊重 (Respect for the rule of law)
- 国際行動規範の尊重 (Respect for international norms of behavior)
- 人権の尊重 (Respect for human rights)
を挙げている。
レピュテーション
(世間の)評判、風評、評価、信用などの意味を持つ英単語。ビジネス分野では企業や製品などの世間における評判や信用などを指し、IT分野では通信相手などが危険でないか判定するために蓄積された過去の行動履歴などを指す。
レピュテーションリスク
一般のビジネス分野では、企業などの組織や従業員、事業、製品、サービスなどについて世間に流布する評判や評価、風評、悪評などをレピュテーションリスクと呼ぶことがある。不祥事や悪い噂、製品に対する低評価により信用やブランド価値が毀損し、売上や収益に損害が生じる危険性を「レピュテーションリスク」(reputation risk)という。
情報セキュリティのレピュテーション
情報セキュリティの分野では、データの送信元やデータそのものについて、過去の情報を収集・解析し、安全性を評価することをレピュテーションリスクという。
例えば、ある電子メール送信元のIPアドレスやドメイン名について、ネット上の様々な場所でそこから発信されたメールを受信して解析すると、コンピュータウイルスやスパムメールばかりで正規の内容や用途のものがほとんど無いと分かった場合、その送信元は攻撃や宣伝の発信源とみなして受信を拒否することができるようになる。
このような「評判」を蓄積して判断する手法を「IPレピュテーション」(IPアドレス単位の場合)や「ドメインレピュテーション」(ドメイン単位の場合)などという。メール自体の内容を対象とする場合は「メールレピュテーション」とも言う。
このような手法はメールに限らず有効で、WebサイトやWebページにフィッシングやウイルス感染の危険があるという情報をドメイン単位やURL単位で蓄積し、利用者が気づかずにアクセスしようとするのをシステム側で検知して警告する「Webレピュテーション」などの応用例がある。
社会的責任投資 【SRI】
企業への投資を検討する際、経済的な側面だけでなく企業の社会的責任(CSR:Corporate Social Resposibility)を勘案すること。
従来の投資判断は企業が生み出す利益に着目し、売上高や経常利益、利益率、キャッシュフローといった金銭的な指標(財務指標)によって企業価値や投資可否を検討するのが一般的だった。
SRIではこれらの指標に加えて、環境保護や省資源、公正な雇用・取引慣行、地域社会への貢献といったCSRへの取組状況を考慮して投資先の選定を行う。広義には、CSRに限らず何らかの社会的な価値観に基いて銘柄選択を行う投資手法全般を指すこともある。
CSRや社会的・倫理的な側面は財務指標のように定量化して評価することが難しい。「兵器、アルコール、タバコ、ギャンブル、アダルト関連はNG」等といった特定の基準を設けて業種や銘柄を排除する「ネガティブスクリーニング」、再生可能エネルギーなど社会の持続性に貢献する事業やCSRへの取り組みが秀でている企業を選定して積極的に投資先に加える「ポジティブスクリーニング」などの評価手法が用いられることが多い。
SRIは20世紀初頭にキリスト教会が資産運用する際に教義にそぐわない業種を排除したのが始まりとされ、宗教的価値観に限らず何らかの社会的価値観を投資に持ち込むことを広く指すようになった。近年では、環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)の3つの要素を判断材料として用いる「ESG投資」という概念も現れ、SRIとほぼ同義として用いられる。
在宅勤務 【WFH】
テレワークの形態の一つで、企業などの組織に雇用されながら事業所に出勤せず自宅でコンピュータや通信回線を通して業務を行うこと。
会社員などがオフィス以外の場所から遠隔で働くことを「テレワーク」(telecommuting)あるいは「リモートワーク」(remote work)という。在宅勤務はこのうち、従業員が自宅で働くことを指す。フリーランスや自営業者、小規模事業者などが自宅を拠点に事業を行っている場合(work at home)や、住み込み従業員のように事業所の一部に居住している場合は含まない。
育児や介護などで自宅を離れることに困難を伴う状況にある従業員も在宅のまま就業を継続でき、柔軟な働き方を選択できる。雇用先にとっても離職率の低下が期待でき、一定の人数を常に在宅とすることでオフィスの規模を縮小してコストを削減することができる。
一方、他のテレワーク形態と同様、遠隔でのコミュニケーションやチーム内の連携、勤怠の管理などに困難や課題がある。常に自宅に居続けながら私生活と仕事を行き来する生活になるため、気持ちの切り替えや時間の管理、同居家族との軋轢など独特の難しさもある。
コロナ禍による急激な普及
2020年からの新型コロナウイルス禍で出勤が物理的に困難になったため、全世界的に在宅勤務が急速に普及した。「Zoom」「Microsoft Teams」に代表されるインターネット上のテレビ会議サービスやコラボレーションツールを導入し、在勤・在宅を問わずミーティングや業務が行える環境を整える職場が急増した。
2023年頃になると外出制限なども行われなくなったため、多くの企業は出勤を基本とする勤務体制に戻し、在宅勤務は育児中の従業員などに特例的に認める制度となった。一方で、IT系業種やベンチャーなどを中心に、全員在宅を基本とする企業や、恒久的に一定の割合を在宅勤務とすることに定めてオフィス規模を縮減し、全員が同時に出勤することはできない体制に移行する企業も現れている。
SOHO 【Small Office/Home Office】
自宅や小さな事務所を拠点に、個人あるいは少人数で運営される小規模な事業体。また、そのような働き方や、そのような事業者向けの賃貸オフィスや住居兼用オフィス物件のこと。
事業者や働き方について「SOHO」という場合は、個人や家族が住居を兼ねた職場で働く形態(home office)と、小さな物件で少人数の集団で働く形態(small office)の総称となる。大きな組織の勤務形態の一種である在宅勤務やサテライトオフィスなどは含めないことが多い。
不動産物件について「SOHO」という場合は、事業との兼用が可能な居住用賃貸物件のことを指す場合と、一般的なオフィス向け賃貸物件を小さく分割し、デスク一つなどの極めて小さな単位で借りられるようにした格安のレンタルオフィスやシェアオフィス、コワーキングスペースなどを指す場合、両者を含む個人事業主や小規模事業者向け賃貸物件の総称とする場合がある。
インダストリー4.0 【Industry 4.0】
製造業における生産や流通のデジタル化、自動化が大きく進むことで産業にもたらされる、人類史的な巨大な変革。ドイツ政府の産業振興政策の名称が一般に広まったもの。
第4次産業革命では高度に自動化、効率化が進んだ工場および生産システムである「スマートファクトリー」を普及させ、従来の大量生産と同じ規模、コスト、スピードで多品種少量生産を行う「マスカスタマイゼーション」をあらゆる業種、品目で展開することを目指す。
そのためには、生産設備やサプライチェーンといった物理世界の情報をコンピュータシステムに集約して分析や処理を行い、制御や管理などの形で物理世界にフィードバックする「サイバーフィジカルシステム」(CPS:Cyber-Physical System)の構築が必要となる。
CPSの要素技術として無線センサネットワーク(WSN:Wireless Sensor Network)やIoT(Internet of Things:モノのインターネット)、ビッグデータ解析、機械学習、クラウドコンピューティング、オートメーション(自動化)、ロボティクス(機械制御)などが含まれ、これらを緊密に統合することが求められる。
「第4次産業革命」という用語は2012年にドイツ政府の産官学連携プロジェクトで提唱された概念で、産業の発展を1800年前後の第1次産業革命(蒸気機関と機械、工場)、1900年前後の第2次産業革命(石油や電気、重工業)、2000年前後の第3次産業革命(コンピュータとデータ通信)の各段階に区分し、物理的な生産手段の本格的なデジタル化、自動化が第4次産業革命に相当するという認識に基づいている。
Society 5.0 【ソサエティ5.0】
日本政府の科学技術政策の中で提唱された未来社会の構想。ITの高度化と社会への浸透によりサイバー空間と物理空間を高度に融合し、経済の発展と社会課題の解決を図るとされる。
2016年度に始まった第5期科学技術基本計画の中で提唱されたコンセプトで、これまでの人類社会の変遷について、狩猟社会を「Society 1.0」、農耕社会を「2.0」、工業社会を「3.0」、現在の情報社会を「4.0」と位置付け、その次に訪れる段階という意味で「Society 5.0」を提唱している。
サイバーフィジカルシステム(CPS:Cyber-Physical System)を念頭に、ITシステム上に築かれたサイバー空間(仮想空間)と、我々が実際に暮らす現実世界(物理空間)を高度に連携、融合させる。産業や社会、人々の生活に革新(イノベーション)をもたらし、経済発展と社会の諸課題の解決を両立させた人間中心の社会を目指すとされる。
こうした社会を実現するための鍵となる技術として、クラウドコンピューティング、IoT(Internet of Things)およびセンシング技術、機械学習システムなどの人工知能(AI)技術、ビッグデータやデータ解析・シミュレーション技術、ロボットや自動運転車などの自動化技術などが挙げられている。
Society 5.0 【ソサエティ5.0】
日本政府の科学技術政策の中で提唱された未来社会の構想。ITの高度化と社会への浸透によりサイバー空間と物理空間を高度に融合し、経済の発展と社会課題の解決を図るとされる。
2016年度に始まった第5期科学技術基本計画の中で提唱されたコンセプトで、これまでの人類社会の変遷について、狩猟社会を「Society 1.0」、農耕社会を「2.0」、工業社会を「3.0」、現在の情報社会を「4.0」と位置付け、その次に訪れる段階という意味で「超スマート社会」を提唱している。
サイバーフィジカルシステム(CPS:Cyber-Physical System)を念頭に、ITシステム上に築かれたサイバー空間(仮想空間)と、我々が実際に暮らす現実世界(物理空間)を高度に連携、融合させる。産業や社会、人々の生活に革新(イノベーション)をもたらし、経済発展と社会の諸課題の解決を両立させた人間中心の社会を目指すとされる。
こうした社会を実現するための鍵となる技術として、クラウドコンピューティング、IoT(Internet of Things)およびセンシング技術、機械学習システムなどの人工知能(AI)技術、ビッグデータやデータ解析・シミュレーション技術、ロボットや自動運転車などの自動化技術などが挙げられている。
デジタルトランスフォーメーション 【DX】
企業や行政などの組織や活動、あるいは社会の仕組みや在り方、人々の暮らしなどがデジタル技術の導入と浸透により根本的に変革すること。従来型の「デジタル化」と違い、デジタルを前提として既存の仕組みを根本的に作り変えることを指す。
1950年代の商用コンピュータの発売以来、情報の蓄積や処理、伝送のデジタル化(digitization)が進められ、さらに1990年代以降の個人用コンピュータやインターネットの普及を通じて経済や社会、暮らしのデジタル化(digitalization)が進んできた。
こうした従前のデジタル化は既存の組織や仕組み、やり方といったものを前提に、コンピュータや通信ネットワークを導入してより効率的に物事を行うのが主眼であった。例えば、企業が会計業務にコンピュータを導入し、より少人数で短期間に会計事務を遂行するといった具合である。
デジタルトランスフォーメーションはこれを更に推し進め、デジタル技術の存在を前提として、既存の組織や仕組み、手順、モノや情報の流れといったものを根本的に変革することを意味する。例えば、企業であれば業務の効率化や省力化を超えて、事業や商流の在り方そのもの、また、業務の流れ、組織や人材などを「デジタルに合わせて」根本的に組み替える改革をデジタルトランスフォーメーションという。
ビジネスの文脈で取り上げられることが多いが、デジタルを前提とする根本的な変革は企業や経済活動だけでなく、公的機関や法制度、個人の行動や生活、社会全体の様々な側面に及び得る。
“digital transformation” という用語は2004年にスウェーデン・ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授(当時)らが発表した “Information Technology and the Good Life” という短い論文が初出とされる。“transformation” を “X” と略すのは日本人には馴染みにくいが、英語では接頭辞の “trans-” と “cross-” は多くの場合に可換であると考えられており、“trans-” の略字として “x-” を用いることがある(例:transfer→xfer)。
オペレーションズリサーチ 【OR】
数理的な解析手法やアルゴリズムを駆使して、現実の問題をモデル化し、計画や意思決定を最適化する方法論を研究する分野。第2次世界大戦中のイギリス軍の作戦研究から発展した分野で、現代では企業の経営管理や生産管理などに応用が広がっている。
人間社会で実際に起きる現象や活動、問題は様々な要素や要素間の関係、制約条件からなる複雑なシステムとなっている。ORではこれを数理モデルとして抽象化、定式化し、科学的な技法を用いて何らかの目的に照らして最も望ましい解や計画などを求める。
主な分野や手法として、線形計画法、動的計画法、ネットワーク計画法、待ち行列理論、ゲーム理論、組合せ最適化、シミュレーション、在庫管理、日程計画、PERT、包絡分析法(DEA)、階層分析法(AHP)、マルコフ連鎖などが挙げられる。
インダストリアルエンジニアリング 【IE】
工学の分野の一つで、企業などが様々な資源を効率的に利用して、製品の生産やサービスの提供などを行なうための科学的方法論の体系。
組織が人材、物資、設備、資金、情報、時間などの資源を有効に活用し、より素早く、より少ない資源で事業の遂行ができるよう、科学的な方法によって分析や改善を行う技術や知識のことを意味する。
広義には、経営や企業活動全般についての科学的管理手法(経営工学や管理工学)を含むが、狭義には、製造業の工場などの現場における生産活動などの効率化・合理化を進めるための方法論(生産工学)を意味し、一般的にはこちらの意味で用いられることが多い。
線形計画法 【LP】
様々な制約条件のもとで目的関数を最適化(最大化あるいは最小化)する解を求める数理計画法のうち、制約も目的関数もすべて一次式(一次不等式、一次等式)で表されるもの。
複数の変数の関係について、不等式で表される制約条件が複数与えられ、等式で与えられる目的関数があるとき、目的関数の値が最大あるいは最小となるような変数の値の組み合わせを求める。
制約条件は、例えば「x+2y<12」「2x+y<12」といった形で一次不等式の形で与えられ、目的関数は「x+y」のようにやはり一次式として表される。この例の場合、制約条件を満たすxとyの値の組み合わせの中で「x=4,y=4」という組み合わせの場合に目的関数の値が最大値である8を取る。
解が存在するような問題設定の場合、2変数ならば制約条件を満たす値が含まれる領域を平面に図示すると多角形(多変数の場合は凸多面体)となり、そのうちの頂点のいずれかが解となる。多変数や多条件の場合に効率良く解を探索する計算手順(アルゴリズム)にはシンプレックス法や内点法などがある。
線形計画法のうち、解を整数に限定したものを「整数計画法」という。条件や目的関数に線形(一次式)ではないものを含む手法は「非線形計画法」(NLP:Non-Linear Programming)という。現実世界では様々な制約の下で最大の効用を得る問題は多くあり、生産や輸送、人員配置の計画などに広く応用されている。
定量発注方式 【FOQ】
在庫の発注方式の一つで、手元の在庫の量があらかじめ設定した水準を下回ったら一定量を注文する方式。下限の在庫量のことを「発注点」という。注文時期や間隔は在庫の減少具合に応じてまちまちとなる。
在庫管理では在庫の払底、欠品を防ぎつつ、過剰在庫による資金効率の低下や保管コストの増大も避けなければならず、なるべく一定量の在庫を維持する必要がある。
定量発注方式は在庫の発注を管理する手法の一つで、あらかじめて設定した在庫量を下回ったら、一定の数量の商品を発注する。発注量が毎回同じで、在庫の減少ペースが同じなら周期も一定となるため、発注の手間が少ない手法である。
定量発注方式では発注のトリガーとなる下限量である発注点と毎回の発注量を設定する必要がある。発注点は納品までのリードタイムを考慮して、発注から納品までの平均的な使用量に安全在庫を加えたものとする。発注量は発注費用と在庫管理費用の和が最小となる経済的発注量を算出する。
定量発注方式は時期や季節などによる需要や供給の変動が少なく、安定的に取引される製品に向いているとされる。また、安価な製品や重要度が低い製品、短納期の製品にも向いているとされる。在庫量ではなく時期に着目して注文を管理する手法は「定期発注方式」という。
PERT 【Program Evaluation and Review Technique】
プロジェクトの工程管理を定量的、科学的に行う手法の一つで、各工程の依存関係を図示して所要期間を見積もったり、重要な工程を見極めたりする手法。1950年代に米海軍で弾道ミサイル開発プロジェクトのために考案された手法である。
PERTでは各工程を「前の工程が終わらないと次の工程が始められない」という依存関係に従って矢印で繋いでいき、それぞれの工程には所要時間を記入していく。
出来上がったネットワーク図(アローダイアグラム、PERT図とも呼ばれる)にはプロジェクト開始から終了まで通常いくつかの経路が現れる。経路をたどって各工程の所要時間を足し合わせていくとその経路の所要時間が求められ、その中で最大のものがプロジェクト全体の工期の見積りとなる。
クリティカルパス
所要時間が最大となる経路に存在する工程はどれか一つでも遅れると全体が遅延するため、重要な工程のみが集まった「クリティカルパス」(critical path)と呼ばれる。
全体の工期を短縮するにはクリティカルパスを短縮しなければならないため、スケジュールや人員配置の変更、資源の集中投下などの判断を行うことが必要となる。
その際、ある工程の所要時間が変化すると、これまでとは別の経路がクリティカルパスになる場合があるため、PERT図の作成と分析はプロジェクト進行中に何度も繰り返し行なうことが重要となる。
クリティカルパス 【最長経路】
プロジェクトの各工程を、プロジェクト開始から終了まで「前の工程が終わらないと次の工程が始められない」という依存関係に従って結んでいったときに、所要時間が最長となるような経路のこと。その長さがプロジェクトの期間を表している。
プロジェクトを構成する工程をすべて列挙し、それぞれの所要時間を見積もって、各工程の前後関係(依存関係)に従って連結していくと、必ずしも一直線に繋がるとは限らず、開始から終了までの間に複数の経路(工程の組み合わせ)が現れることがある。
このうち、経路内の工程の見積もられた所要時間の合計が最も大きいものがCPMであり、プロジェクト全体の所要時間を決定付けている。なぜなら、他の経路上の工程をいくら短縮しても、最長であるCPM上の工程がすべて終わるまでプロジェクトは終了しないからである。
プロジェクトの期間を短縮したり遅れを取り戻したければ、まずはCPMの工程の改善を考える必要がある。また、CPM内の工程が遅れればプロジェクト全体の遅延に直結するため、十分な資源を投じて遅延が生じないよう重視すべきとされる。
CPMを見つけるには、プロジェクトの工程をガントチャートやPERT図などに図示し、それぞれの工程の所要時間と依存関係を書き入れて最長となる経路を見つけ出す。現代ではプロジェクト管理を支援するソフトウェアを用いて算出を行うのが一般的である。CPMに基づいてスケジュールの策定やプロジェクト管理を行う手法を「CPM法」(CPM:Critical Path Method)という。
なお、プロジェクトが進行するとCPM上の工程が短縮されて必要な期間が短くなることがあるが、別の経路が新たにCPMとなる場合がある。工程の進行具合が当初の予定と異なっている場合は、CPMが元の経路から変わっていないか随時確かめる必要がある。
アローダイアグラム 【PERT図】
複数の要素の間を、それらの関係を意味する矢印で結んだ図。特に、複数の工程や手順の間の前後関係を矢印の向きによって表した図。
プロジェクトマネジメントではプロジェクトを構成する工程の前後関係を一覧して把握するために作成される。このような図を用いて計画や管理を行う手法を「PERT」(Program Evaluation and Review Technique)ということから、「PERT図」(パート図)とも呼ばれる。
複数の工程からなるプロジェクトでは、工程間に「前の工程が終わらないと次の工程が始められない」という依存関係が存在する場合がある。一方で、どちらを先に行っても良い、並列に進めても良いという関係になっているものもある。
アローダイアグラムでは矢印が個々の工程を表しており、内容と所要時間を付記する。工程間に依存関係がある場合、間に丸印(◯)で表される「結合点」を挟んで矢印同士を連結する。プロジェクトの開始と終了も結合点として表す。すべての工程を配置すると、開始から終了までどの順序で工程を進めればよいか、どの工程を並列に進められるかを一覧できるようになる。
開始から終了までの間には、いくつかの経路が現れることがあるが、経路上の工程の所要時間を足し合わせていくと、それぞれの経路全体の所要時間を求めることができる。その中で最も所要時間が長い経路は、プロジェクト全体の最短工期を表しており、これを「クリティカルパス」(critical path)という。
クリティカルパスに現れない工程をどんなに急いでも工期は短縮しないため、遅延を防止したり工期を短縮するにはクリティカルパス上の工程に注力する必要がある。このようにクリティカルパスに着目してマネジメント活動を行う手法を「クリティカルパス法」(CPM:Critical Path Method)という。
クリティカルパス 【最長経路】
プロジェクトの各工程を、プロジェクト開始から終了まで「前の工程が終わらないと次の工程が始められない」という依存関係に従って結んでいったときに、所要時間が最長となるような経路のこと。その長さがプロジェクトの期間を表している。
プロジェクトを構成する工程をすべて列挙し、それぞれの所要時間を見積もって、各工程の前後関係(依存関係)に従って連結していくと、必ずしも一直線に繋がるとは限らず、開始から終了までの間に複数の経路(工程の組み合わせ)が現れることがある。
このうち、経路内の工程の見積もられた所要時間の合計が最も大きいものがクリティカルパスであり、プロジェクト全体の所要時間を決定付けている。なぜなら、他の経路上の工程をいくら短縮しても、最長であるクリティカルパス上の工程がすべて終わるまでプロジェクトは終了しないからである。
プロジェクトの期間を短縮したり遅れを取り戻したければ、まずはクリティカルパスの工程の改善を考える必要がある。また、クリティカルパス内の工程が遅れればプロジェクト全体の遅延に直結するため、十分な資源を投じて遅延が生じないよう重視すべきとされる。
クリティカルパスを見つけるには、プロジェクトの工程をガントチャートやPERT図などに図示し、それぞれの工程の所要時間と依存関係を書き入れて最長となる経路を見つけ出す。現代ではプロジェクト管理を支援するソフトウェアを用いて算出を行うのが一般的である。クリティカルパスに基づいてスケジュールの策定やプロジェクト管理を行う手法を「クリティカルパス法」(CPM:Critical Path Method)という。
なお、プロジェクトが進行するとクリティカルパス上の工程が短縮されて必要な期間が短くなることがあるが、別の経路が新たにクリティカルパスとなる場合がある。工程の進行具合が当初の予定と異なっている場合は、クリティカルパスが元の経路から変わっていないか随時確かめる必要がある。
ゲーム理論
複数の主体(個人、組織、生物など)が互いに影響し合う状況で下す意思決定過程を数理モデルを用いて分析する理論。経済学と応用数学から派生した理論だが、政治学や社会学、生物学、工学など様々な分野で応用されている。
ある意思決定主体の行動が自分だけでなく周囲の他の主体にも影響を及ぼし、また、他の主体の行動からも影響を受ける状況を「ゲーム」(game)と呼び、各主体のことを「プレーヤー」(player)と言う。プレーヤーは個人や企業、国家などの場合もあれば、植物や進化論における生物種のような、それ自体は意志を示さない存在である場合もある。
プレーヤーが取り得る行動の選択肢を「戦略」(strategy)と呼び、各プレーヤーは自らの利得を最大化するために行動を選択する。確定的に一つの行動を選択することを「純粋戦略」あるいは「純戦略」(pure strategy)、ある確率分布に従って確率的に行動を選択することを「混合戦略」(mixed strategy)という。
ゲームの種類
プレーヤー間で交渉して拘束力のある合意を結び、プレーヤー間の提携に対して利得が与えられるゲームを「協力ゲーム」、そのような合意が不可能で、各プレーヤーが自分の利得を最大化するために行動するゲームを「非協力ゲーム」という。実際に分析の対象となるのはほとんどが非協力ゲームであるとされる。
将棋やチェスのように、それまでに取られた行動や過去の状態に関する情報がすべてプレーヤーに与えられているゲームを「完全情報ゲーム」、麻雀やポーカーのように他のプレーヤーの過去の行動や状態が隠されていて分からないゲームを「不完全情報ゲーム」という。
ゲームのルールや構成要素についての情報をすべてのプレーヤーが共有しており、どの行動がどんな結果を生むが全員が分かっているゲームを「完備情報ゲーム」、プレーヤーの少なくとも一者が一部の情報を知らないまま行われるゲームを「不完備情報ゲーム」という。ボードゲームのようなルールが決まった遊戯は完備情報だが、現実の企業競争などは不完備情報となることが多い。
自分が利得を得ると他のプレーヤーの利得が同じだけ減るゲームを「零和ゲーム」(全員の利得の和が常にゼロ)、自分の利得の増減と他のプレーヤーの増減が必ずしも連動しないものを「非零和ゲーム」という。他に、プレーヤーの数(2人/多数)、終わりがあるか(有限/無限)、ランダムな要素があるか(確定/非確定)などでも分類される。
支配と均衡
他のプレーヤーがどんな行動を取ろうと、常に最も利得が高くなるような特定の行動が存在するとき、これを「支配戦略」という。すべてのプレーヤーに支配戦略が存在し、誰も他の選択肢に変更する動機を持たない状態を「支配戦略均衡」という。
また、各プレーヤーが他のプレーヤーの行動を考慮して自らの行動を選択するとき、どのプレーヤーもそれ以上高い利得を得ることができない行動が存在する状態を「ナッシュ均衡」という。支配戦略が存在しない場合でもナッシュ均衡に至る場合がある。
囚人のジレンマ
<$Fig:prisonersdilemma|right|true>ゲーム理論が明らかにする最も有名なパラドクス的な状況に「囚人のジレンマ」がある。これは互いに協力することが最も利得が大きいと分かっていても、相手の行動が確定しない状況で最適な行動を選ぶと結果的に悪い選択をしてしまうというジレンマである。
共犯と目される容疑者A、Bに検察官が司法取引を持ちかける。「両者とも自白すれば両者とも懲役5年だが、両者とも黙秘すれば両者とも懲役2年となる。ただし、片方だけが自白すれば自白した者は懲役1年、黙秘を続けた方は懲役8年となる」。
2人で相談できる状況であれば、合計の刑期が最も短い「両者とも黙秘」を選択することが合理的な選択となる。これを「パレート最適」という。しかし、両者は拘束され共謀することができない状況であるため、相手がどんな選択を取るか分からないまま自分の行動を決めなければならない。
容疑者Aにとっては、Bが黙秘した場合、自分が黙秘なら2年、自白なら1年となり、自白が得となる。Bが自白した場合、自分が黙秘なら8年、自白なら5年となり、やはり自白が得となる。Bがどちらを選択するかに関わらず、自白した方が利得が大きいと判断する。
これはBにとっても同じであるため、最も合計の刑期の長い「両者とも自白」を選択してしまうことになる。ここで重要なのは「相手が裏切るかもしれないという恐怖や不信感」などが無くても、両者が最も合理的に判断したつもりで自白を選択してしまう点である。
マクシミン原理 【マクシミン戦略】
行動を選択する基準の一つで、各選択肢から得られる利得を考え、最悪の場合の利得が最も大きくなる選択肢を選ぶこと。ゲーム理論で用いられる概念。
複数の行動の選択肢からどれか一つを選ばなければならない場合に採用される戦略の一種で、それぞれの行動の結果想定される最悪の場合の利得を比較し、これが最大になるような選択肢を選ぶ。
例えば、行動Aと行動Bの二つの選択肢があり、行動Aの最大利得が100、最小利得が10、行動Bの最大利得が50、最小利得が20であるとする。マクシミン原理では両者の最小利得である10と20を比較し、より大きい20が得られる行動Bが選択される。
これとは逆に、最大利得が最大となるような選択肢(先の例では最大利得が100の行動A)を選ぶような基準を「マクシマックス原理」(maximax principle)という。
決定木 【デシジョンツリー】
意思決定や分類、判別、予測などのために作られる、木構造(ツリー構造)のデータや図などのこと。各ノード(枝分かれ)に書かれた条件に従って分岐を辿っていくことにより、末端の葉(リーフノード)に書かれた結論が得られる。
一つの根(ルートノード)から段階的に枝分かれしていく木構造に従って条件が整理されている。途中のそれぞれ枝分かれ(ノード)には一つの条件が書き入れられており、条件を評価してどの枝に進むかを判断する。末端(葉/リーフノード)には最終的な結果や結論が用意されている。
分類を行うものを「分類木」(classification tree)、関数の近似により推論や予測を行うものを「回帰木」(regression tree)という。扱うモデルが単純な場合は人力で木を構成することもでき、「診断チャート」「分類チャート」などの形で日常的にも馴染み深い。データ分析の分野では、学習データを元に機械学習により(巨大な)デシジョンツリーを自動生成する「決定木学習」(decision tree learning)が研究されている。
決定木学習は、非線形のデータや説明変数の多い(次元の高い)データ、様々な尺度(質的変数か量的変数かなど)が混在しているデータでも扱いやすい、外れ値の影響が小さい、なぜその結論に至ったのか説明しやすいといった利点がある。ただし、分類性能は他の手法より劣ることが多く、線形データが苦手、過学習を起こしやすいといった難点もある。
ワークサンプリング法
作業時間や機械の稼働率などを見積もる手法の一つで、無作為抽出(ランダムサンプリング)などで決めたタイミングで現場の状況を一定回数だけ繰り返し観察・観測し、得られた結果を統計的に処理して全体の状況を推測する方式。
観察者は一定間隔あるいはランダムな間隔で現場に赴き、その瞬間に作業者が何をしているかや機械の稼働状況などを記録する。この作業を推計に必要な回数だけ繰り返し、蓄積された記録を分類して各状態の構成比率などを計算する。
例えば、A・B・Cの3工程からなる作業の様子をランダムに100回観察したとき、作業者がAに従事していたのが20回、Bが30回、Cが50回だった場合、全工程にかかる時間のうちA工程に2割、Bに3割、Cに5割の時間がかかっていると見積もることができる。
一方、ある期間の状況をすべて観察、記録して、必要な値を直に算出する手法を「連続観測法」という。ワークサンプリング法は連続法に精度では敵わないものの、観測にかかる人員や手間、コストを大きく削減することができる。また、標本の抽出をランダムではなく一定周期や毎日決まった時刻など規則的に行う手法のことは「一定時刻法」と呼ぶこともある。
OC曲線 【Operating Characteristic curve】
製品の製造過程などで抜き取り検査を行う際に、製造ロットの不良率と検査合格率の関係を表したグラフのこと。検査の方式や基準によって異なる曲線となり、どのような検査方式にすべきかを検討する際などに利用される。
工業製品を大量生産する場合、製品を一定の数ごとにまとめた「ロット」という単位で管理し、ロットごとにいくつかのサンプルを抽出して検査する抜き取り検査が行われる。サンプルに含まれる不良品の割合が基準を満たせばロット全体を合格とする。
OC曲線は抜き取り検査における不良率と合格率の関係を図示したものである。縦軸にはロットの合格率を、横軸には製品の不良率を取る。不良率が低ければ合格率は高まり、不良率が高ければ合格率は下がるため、グラフは左上から右下へ緩やかなカーブを描く。
本来合格すべきロットが検査によって不合格になってしまう確率を「生産者危険」(producers' risk)、本来不合格にすべきロットが合格してしまう確率を「消費者危険」(consumers' risk)という。OC曲線は両者のバランスが取れる検査条件(ロットの大きさやサンプル数など)を探るために活用される。
サンプリング 【標本化】
対象全体の中から何らかの基準や規則に基いて一部を取り出すこと。統計調査などで少数の調査対象を選び出すことや、信号のデジタル化などで一定周期で強度を測定することなどを指す。
アナログ信号のサンプリング
信号処理の手法の一つで、アナログ信号などの連続量の強度を一定の時間間隔で測定し、観測された値(標本値)の列として離散的に記録することをサンプリングということが多い。デジタルデータとして記録したい場合は、値を整数などの離散値で表す「量子化」(quantization)処理が連続して行われる。
測定の間隔を「サンプリング周期」(sampling cycle:標本化周期)、その逆数である測定の頻度(単位時間あたりの回数)を「サンプリング周波数」(sampling frequency:標本化周波数)という。頻度の多寡は通常サンプリング周波数で表現され、単位として1秒あたりの回数を表す「Hz」(ヘルツ)が用いられる。
例えば、音声を44.1kHz(キロヘルツ:Hzの1000倍)でサンプリングする場合、音声信号の強度を毎秒4万4100回記録し、音声データを1秒あたり4万4100個の数値の列として表現する。44.1kHzは人間の可聴音をほぼカバーする周波数とされ、CD(コンパクトディスク)などの音声記録に用いられている。
統計・調査におけるサンプリング
統計や調査などの分野では、調査したい母集団全体を対象とすることが困難な場合に、集団を代表する少数の標本を抽出して対象とし、その結果から統計的に母集団の性質を推計する手法をサンプリングという。製品の出荷時検査や社会調査などで広く用いられ、標本から母集団の推定値を算出する方法や偏りのない標本の抽出方法などについて様々な手法が提唱されている。
音楽におけるサンプリング
音楽の分野では、楽曲の制作手法の一つで、既存の楽曲や何らかの音源からメロディや歌詞、あるいは音声そのものの断片を抽出し、引用したり繋ぎ合わせる技法をサンプリングという。また、録音した楽器の音や環境音、人や動物の声などを短い単位に分解し、再構成して楽曲に仕上げる手法のことをサンプリングということもある。
シミュレーション 【シミュレート】
現実の対象や現象から特徴的な要素を抽出してモデル化し、模擬的に実践・再現すること。科学技術の分野では現象の理解や予測、人工物の開発や改良などによく応用される。
「顧客の反応をシミュレーションする」といったように日常の場面でも模擬的な予測や再現をシミュレーションということがあるが、一般的にはコンピュータによる数値計算や情報処理を用いて複雑な物理現象や人工物の振る舞いなどを再現する「コンピュータシミュレーション」(computer simulation)を指すことが多い。綴りから分かるように「シュミレーション」は誤記である。
シミュレーションは実物による実験が様々な理由により不可能・困難な場合、あるいは長い期間や多くの費用を要する場合などに、これを簡易に代替する手法として実施される。対象の振る舞いや生じる現象への理解を深めたり、対象を扱う技能の教育・訓練を行なったり、対象が人工物の場合は結果を元に修正や改良を行ったりする。
対象にまつわるありとあらゆる要素を正確に模倣することは不可能で、多くの場合は無意味でもあるため、対象の性質や挙動を代表する要素を絞り込んで単純化したモデルを用いて計算などを行なう。モデルがよく対象を表していれば正確なシミュレーションができるが、誤りや粗さがあれば精度の低いシミュレーションにしかならない。
ある対象のシミュレーションを行うことに特化した機器やソフトウェア、システムなどを「シミュレータ」(simulator)という。特に乗り物や機械の挙動を再現するシミュレータがよく知られ、自動車を模倣する「ドライブシミュレータ」や航空機を模倣する「フライトシミュレータ」は運転・操縦の訓練にも用いられる。
故障率曲線 【バスタブ曲線】
機器や装置などの稼働開始からの時間経過と故障の発生率の関係を図に表したもの。曲線の形状が浴槽を横から見た時の形に似ていることから「バスタブ曲線」とも呼ばれる。
横軸に時間、縦軸に故障率を取り、原点を稼働開始、故障率0として時間の経過に伴う故障率の増減を曲線で図示する。
稼働開始すぐは初期不良の顕在化などから故障率が高い水準からスタートし、その後急激に減少する「初期故障期」と呼ばれる。この段階での故障は設計ミスや製造不良によるものが多い。
ある程度時間が経過すると、故障率が低い一定の水準で推移する、安定した「偶発故障期」に移行する。この期間における故障は偶発的な要因によるものが多い。
稼働開始から長い時間が経過すると、次第に故障率が上がり始め、時間とともに上昇率も増大していく「摩耗故障期」を迎え、やがて製品寿命を迎える。長期間使用したことによる摩耗や劣化、損耗などが蓄積し、故障に繋がる期間である。
ソフトウェア品質特性
ソフトウェアの品質を評価する尺度として用いられる特性。ソフトウェアが期待されるニーズを満たすことができるか評価する際に参照される。
2011年に策定された国際標準のISO/IEC 25010では、ソフトウェアの品質を「明示された状況下で使用されたとき、明示的ニーズ及び暗黙のニーズをソフトウェア製品が満足させる度合い」と定義し、これを評価するための8つの特性、さらに細分化された31の副特性を挙げている。
8つの特性は「機能適合性」(functional suitability)、「性能効率性」(performance efficiency)、「互換性」(compatibility)、「使用性」(usability)、「信頼性」(reliability)、「セキュリティ」(security)、「保守性」(maintainability)、「移植性」(portability)で構成される。
回帰分析
何かの結果を表す数値があるとき、原因と考えられる数値がどのような形で影響を与えているのか規則性を明らかにすること。因果関係の推定や事象の予測、シミュレーションなどのためによく行われる。
調査などで得られた様々な数値の組み合わせのうち、着目している数値(従属変数)が、他の数値(説明変数)からどのように影響を受けているかを関数の形で明らかにする。説明変数が一つの場合を「単回帰分析」、複数の場合を「重回帰分析」という。
例えば、ある飲食店のビールの売上(y)とその日の最高気温(x)についての記録を単回帰分析したところ、y=ax+c という1次関数の形で表されたとする。この関係が分かれば、天気予報を元に仕入れ量を調整することができる。降水量(z)との関係も合わせて重回帰分析することで、y=ax+bz+c という関係が明らかになれば、より精度の高い予測が可能となる。
この例では説明変数と従属変数が直線的な比例関係で表されることを仮定しており、これを「線形回帰」あるいは「直線回帰」という。物事の関係性は単純な比例関係で表されるとは限らず、x2 のような高次の項を含む多項式、指数関数、対数関数、三角関数などが含まれる場合がある。これを「非線形回帰」という。
統計値などから回帰分析を行う場合、各標本は誤差を含んで一定の範囲にばらついているため、数値計算を繰り返して関数のパラメータ(係数)を推定する。代表的な手法として「最小二乗法」がよく知られ、回帰式から得られる値と各標本の実際の値の誤差を二乗して足し合わせた値が最小になるよう係数を決定する。
最小二乗法
調査や測定から得られたデータ系列を関数でモデル化する際、関数による理論値と実際の値の誤差の2乗の和が最小となるように関数の係数を決定する手法。
2つのデータ系列 があるとき、両者の関係をモデル関数 で表したいとする。最小二乗法は を構成する係数を決定する手法である。
におけるモデル関数の値は である一方、実際の値は であるため、両者の誤差(残差という)は となる。これは他の についても同様である。この残差が全体でなるべく小さくなるようにするため、最小二乗法では各点の残差の2乗をすべて足し合わせ(残差平方和)、理論値と実測値の誤差の分散の推定値を求める。得られた合計値 はモデル関数の係数を変数とする関数の形となるため、これを代数的に解いて各係数の値を決定していく。
具体的な解き方はモデル関数に選択した関数の種類によって異なるが、最も単純に直線的な関係を想定して一次関数 で表した場合、 と の平均 と 、標準偏差 と 、相関係数 を用いて、 、 として表すことができる。
相関係数
2つのデータ系列どの程度強く連動しているかを表す値。-1から1の間の実数で表され、両者の値の変化が正比例の関係に近いほど絶対値が大きくなり、まったく連動していなければ0に近い値となる。
2つの事象に関わりがあり、一方が変化するともう一方も変化するような関係を「相関」という。一方が増えるともう一方が増える関係を「正の相関」、一方が増えるともう一方は減る関係を「負の相関」という。
相関係数は同じ数の2つのデータ系列から算出される統計量の一つで、-1から1の間の実数を取る。値が0ならば両者に相関はなく、1なら完全な正の相関、-1なら完全な負の相関がある。1または-1のときは両者の関係を という形の一次関数として記述することができる。
相関係数は、同数のデータ系列 と から算出した共分散 とそれぞれの標準偏差 および を用いて として求められる。これは平均 と を用いて下記の式のように表される。
<$Fig:correlation-coefficient|center|false>移動平均法
過去のデータから将来の値を予測する手法の一つで、直近の幾つかの値を平均し、これを予測値とする方式。経済指標の予測や企業の需要予測、生産計画の策定などに用いられる。
例えば、先月までの販売実績がわかっている時に、先月、先々月、3ヶ月前の値の算術平均を算出し、これを今月の販売量の予測値とする。どのくらい過去に遡って平均を算出するか定まった方法はなく、データの特性などから区間を決定する必要がある。
また、会計の分野では、仕入れた品物(棚卸資産)の単価などを算出する際に、当該物品を購入するたびにその時点の購入金額の合計を購入数量の合計で割って平均単価とする方式を移動平均法という。購入機会ごとに単価が変動する相場商品などの単価を決定する際によく用いられる。
一定期間ごとに平均額を算出する総平均法とは異なり、仕入れごとに平均単価を算出し直すため、計算の手間は増すが常に最新の評価額を把握することが可能となる。会計システムや在庫管理システムなどには移動平均法を適用する機能があらかじめ内蔵されていることが多く、金額と数量を適切に入力・記録していれば自動的に算出される。
ABC分析 【ABC analysis】
膨大な要素数がある場合にどれを重視するかを判断するための分析手法で、全体に占める構成比が多い順に要素を上位、中位、下位の3グループに分割する方式。
まず要素を大きい順に並べ、順に累積構成比を算出する。要素数が膨大な場合、大抵は上位の少数の項目が累積構成比の多くを占め、下位の多数の項目を足し合わせても少ない構成比にしかならない(パレートの法則)。
このため、これを構成比の大きな順に、最上位の少数(Aクラス)、中位の少数(Bクラス)、下位の多数(Cクラス)に分類し、それぞれを重要度に応じた異なる扱いにする。具体的に何割ずつで分割するか決まった方法はなくケースバイケースだが、例えばAが60%、Bが30%、Cが10%といった値になることが多い。
データマイニング
蓄積された大量のデータを統計学や数理解析などの技法を用いて分析し、これまで知られていなかった規則性や傾向など、何らかの未知の有用な知見を得ること。
「マイニング」(mining)とは「採掘」の意味で、膨大なデータの集積を鉱山に、そこから有用な知見を見出すことを資源の採掘になぞらえている。適用分野や目的、対象となるデータの種類は多種多様だが、ビジネスの分野では企業が業務に関連して記録したデータ(過去の取引記録、行動履歴など)を元に、意思決定や計画立案、販売促進などに有効な知見を得るために行われることが多い。
例えば、小売店の商品の売上データの履歴は、それ自体は会計上の手続きや監査などの業務にしか使われないが、データマイニングの手法で統計的に処理することで、これまで知られていなかった「商品Aと商品Bを一緒に購入する顧客が多い」といった傾向が分かる場合がある。これにより、AとBの売り場を統合するといった販売促進施策を行うことが可能となる。
商業分野だけでなく、自然言語処理やパターン認識、人工知能などの研究などでも利用される。分析・解析の手法も様々だが、代表的な手法としては、頻度の高いパターンの抽出や、相関関係にある項目の組の発見、データの特徴や共通点に基づく分類、過去の傾向に基づく将来の予測などがある。
近年では、一般的なシステムやソフトウェアでの解析が困難な巨大なデータセットである「ビッグデータ」を対象とした解析手法や、人工知能の一分野である機械学習、特に先進的な手法である「ディープラーニング」を応用したマイニング手法などが活発に研究・開発されている。
ブレインストーミング 【ブレスト】
集団で行うアイデアの発想法の一つで、参加者が集まって会合を開き、思いつくまま次々自由にアイデアを発言し、互いに刺激し合ってより豊かな発想を促していく手法。
一人では考えつかないようなアイデアを導き出すために行われる会議で、結論を得たり決定を行うことは目的ではない。出た意見やアイデアは会議後に整理したり分析したりして、その後の過程に役立てる。
アイデアをより豊かで創造的なものにするための原則がある。「他の参加者の意見を否定・批判しない」「突飛・奇抜・乱雑・常識外れな意見も歓迎する」「質より量を重視する」「他の参加者の意見から連想したり自分の意見を加えて発展させる」の4つである。
1942年に大手広告代理店グループBBDO創業者の一人として知られるアレックス・オズボーン(Alex Faickney Osborn)氏が著書 “How to Think Up” で提唱したのが始まりとされる。ブレーンストーミングのように集団で創発的な活動を行う技法としては他にKJ法やバズセッションがよく知られる。
レーダーチャート 【クモの巣グラフ】
グラフの種類の一つで、複数の項目の大きさを中心点からの距離で表したもの。各項目の大きさを同じ尺度で一覧し、項目間のバランスや全体的な傾向を図形の形状や大小で把握できる。
各項目の軸を図の中心を原点として放射状に伸ばし、それぞれの軸上に各項目の値をプロットする。隣接する項目同士を線分で結んでできた多角形が、対象の各項目の傾向を表している。
突出して高い項目や低い項目があると対応する角に大きな凹凸ができ、多角形のいびつさでバランスの良し悪しを視覚的に表現できる。また、値が全体的に高ければ多角形の面積が広く、低ければ狭くなる。
各軸は隣の軸となす角度がすべて等しくなるように配置し、最大値同士を線で結ぶと正多角形になる。途中の目盛りを結んだ線はクモの巣のような形になるため、「クモの巣グラフ」(spider chart)とも呼ばれる。
クラスター分析 【データクラスタリング】
データ解析手法の一つで、多数のデータ群を似た特徴を持つ集団に分類する手法。あらかじめ基準を与えずに分類させる「教師なし分類法」の一種である。
分類の仕方により、分類した集団の内部をさらに小さな集団に段階的に分類していく階層的手法と、全体をいくつかの集団に分類する非階層的手法がある。
対象間には何らかの基準に基づいて距離を定義する。距離が近い対象同士は似ているとみなして同じ集団に分類する。空間内の単純な直線距離であるユークリッド距離を用いることが多いが、他にも市街地距離(マンハッタン距離)やマハラノビス距離、コサイン類似度など様々な尺度が提唱されている。
具体的な分類アルゴリズムにもいくつかの種類があり、階層的手法としては最短距離法や最長距離法、ウォード法、群平均法などが、非階層的手法としてはk平均法(k-means法)がよく知られている。
デルファイ法
集団の意見や知見を集約し、統一的な見解を得る手法の一つ。メンバーに個別に回答を求め、得られた結果を全員に見せ、再び個別に回答を求める、という過程を何回か繰り返す方式。
あるテーマや設問について参加者(例えば、その分野の専門家集団)に個別に回答してもらい、得られた結果をフィードバックして他の参加者の意見を見てもらった後、再度同じテーマについて回答してもらう。この過程を何度か繰り返すことにより、ある程度収束した組織的な見解を得ることを目指す。
回答のフィードバックに際しては個別の意見は回答者を伏せて匿名で掲載するのが原則で、意見の分布を統計的な図や表で示し、集団の中で自分の意見がどのような位置にあるか知らせる場合もある。
会議などで参加者が一堂に会して議論をすると参加者間の人間関係や権威者への配慮、討論テクニックの巧拙、場の雰囲気(少数派へのプレッシャー等)などが議論の内容に影響することがあるが、デルファイ法はテーマと直接関係ないそれらの要因が極力働かないよう設計されている。
デルファイ法は複数の専門家にその分野の将来予測や未知の事柄の推計などをしてもらうための技法として考案されたが、現在では企業活動にも多く取り入れられている。ITの分野ではシステム開発プロジェクトの規模や工数の見積り、リスクの想定などに用いられることがある。
モンテカルロ法 【Monte Carlo method】
数値計算手法の一つで、乱数を用いた試行を繰り返すことにより近似解を求める手法。確率論的な事象についての推定値を得る場合を特に「モンテカルロシミュレーション」と呼ぶ。名称の由来はカジノで有名なモナコ公国のモンテカルロ地区である。
ある事象をモデル化した数式や関数があるとき、その定義域に含まれる値をランダムにたくさん生成して実際に計算を行い、得られた結果を統計的に処理することで推定値を得ることができる。数式を解析的に解くのが困難あるいは不可能な場合でも数値的に近似解を求めることができる。
例えば、円周率を求める場合、-1から1までの間に含まれるランダムな値を2つ生成し、これを平面上の点の座標に見立てて原点(0,0)からの距離を計算する。距離が1以下ならその点は原点を中心とする半径1の円に含まれ、1を超えていれば点は円の外にある。
この計算を何度も繰り返し行い、n回試行した結果k個の点が円に含まれていたら、円に接する正方形の面積2×2=4を用いて円周率(この円の面積に等しい)は 4k/n と推定できる。確率論の大数の法則により、試行を増やせば増やすほど解の精度は高まり、試行回数を無限大に向かって増やしていけば真の値からの誤差は0に収束していく。
コンピュータでモンテカルロ法の計算を行う場合、値が毎回異なり分布が完全にランダムな真の乱数列を得るには専用のハードウェア乱数生成器が必要になるため、規則性の無さは乱数とほぼ変わらないが、一定の計算手順によって確定論的に算出される疑似乱数を用いることが多い。疑似乱数は再現可能なため第三者による検証などがしやすいという利点がある。
歴史
第二次大戦中、米ロスアラモス国立研究所で原子爆弾開発計画に従事していた核物理学者のスタニスワフ・ウラム(Stanislaw Ulam)がこの手法の原型を考案し、同僚の数学者ジョン・フォン・ノイマン(John von Neumann)が戦後、自らが開発したばかりの最初期の電子式コンピュータ「ENIAC」で実際に計算を行い、その有効性を実証した。
この計算手法は軍事機密としてコードネームが与えられることになったが、二人の同僚の物理学者ニコラス・メトロポリス(Nicholas Metropolis)が、ウラムの叔父がモナコのモンテカルロにあるカジノで借金を抱えた話に着想を得てモンテカルロ法という名称を考案し、これが採用されたと伝わる。賭け事にまつわる何かから考案された手法というわけではない。
決定木 【デシジョンツリー】
意思決定や分類、判別、予測などのために作られる、木構造(ツリー構造)のデータや図などのこと。各ノード(枝分かれ)に書かれた条件に従って分岐を辿っていくことにより、末端の葉(リーフノード)に書かれた結論が得られる。
一つの根(ルートノード)から段階的に枝分かれしていく木構造に従って条件が整理されている。途中のそれぞれ枝分かれ(ノード)には一つの条件が書き入れられており、条件を評価してどの枝に進むかを判断する。末端(葉/リーフノード)には最終的な結果や結論が用意されている。
分類を行うものを「分類木」(classification tree)、関数の近似により推論や予測を行うものを「回帰木」(regression tree)という。扱うモデルが単純な場合は人力で木を構成することもでき、「診断チャート」「分類チャート」などの形で日常的にも馴染み深い。データ分析の分野では、学習データを元に機械学習により(巨大な)決定木を自動生成する「決定木学習」(decision tree learning)が研究されている。
決定木学習は、非線形のデータや説明変数の多い(次元の高い)データ、様々な尺度(質的変数か量的変数かなど)が混在しているデータでも扱いやすい、外れ値の影響が小さい、なぜその結論に至ったのか説明しやすいといった利点がある。ただし、分類性能は他の手法より劣ることが多く、線形データが苦手、過学習を起こしやすいといった難点もある。
モデリング 【モデル化】
ある物体や事象について、着目している特徴や同種の複数の対象に共通する重要な性質を抽出し、些末な細部は省略あるいは簡略化した抽象的な模型を作成すること。
科学や工学、ビジネス、IT関連では特にシステム設計やシミュレーションなどの分野において、取り扱う対象から目的に照らして不要な側面を捨象して、その構造や構成要素、対象間の関係や互いに及ぼす作用などを模式的に表した模型(モデル)を作り、図表や数式、データ集合、データ構造、人工言語(モデリング言語)などを用いて定義することをモデル化という。
モデルを作成することで、対象をデータや情報の集合としてコンピュータシステム内で取り扱ったり、シミュレーションなどを通じてその振る舞いや状態を解析し、現実に起きている現象を説明したり、特定の条件下での振る舞いを予測することができるようになる。様々な分野で一般的に行われる営みであり、具体的な手法や手順なども分野ごとに異なる。
3DCGにおけるモデリング
3次元コンピュータグラフィックス(3DCG)の制作・編集過程の一つで、点や線、平面や曲面、単純な形の立体(の全体や一部分)などを組み合わせ、望みの立体物の外形(3Dモデル)を形作る工程をモデリングという。
立体物の表現方式として最も一般的な「サーフェスモデル」では、空間上に定義した点と点を結ぶ線分を組み合わせて多角形(ポリゴン)を構成し、これを貼り合わせて立体を構成する。外から見える表面だけを整える「ハリボテ」のような構成法で、ゲームなどでは内部の質量などの情報が不要であるため多用される。
一方、3次元CADなどでは、このような直線的な図形に加えて、球や楕円体、円柱、円錐、特定の方程式で表される曲面などを組み合わせ、表面の一部が滑らかな曲面の立体を定義できるものもある。工業製品の設計やシミュレーションなどに用いるシステムでは、立体を中身の詰まった物体のように扱う「ソリッドモデル」が用いられることもある。
ログ
起こった出来事についての情報などを一定の形式で時系列に記録・蓄積したデータのこと。原義は船の航海記録(日誌)。機器やソフトウェアがその機能の一部として自動的に記録するものを指すことが多い。
ある機器やソフトウェア、システムについて、その起動や停止、エラーや障害の発生、利用者による操作や設定の変更、外部との通信など、稼働中に起こった出来事の内容を日時などとともに時系列に記録したものをログデータという。稼働状況の確認や集計、不具合の原因調査などのためによく参照される。
「システムログ」「エラーログ」「通信ログ」「操作ログ」「アクセスログ」といったように、何を対象にどのような出来事を記録するのかによって様々な種類に分かれる。データ形式は対象や目的により多種多様だが、自動処理しやすいよう各項目をカンマやスペース文字などで区切り、各件を改行文字で区切ったテキスト形式がよく用いられる。WebサーバのW3C形式のように、システムによっては標準形式が存在する場合もある。
ログデータは個別のシステムやソフトウェアが自身で記録することが多いが、Windowsのイベントログのようにオペレーティングシステム(OS)に付属する記録システムを通じて一元的に蓄積・管理される場合もある。また、UNIX系OSのsyslogのように、ネットワークを通じてコンピュータ間でログデータを送受信して管理システムに集約する手法が用いられることもある。
システム上の出来事を記録したもの以外にも、コンピュータやネットワークを介して複数の人の間で交わされたメッセージの内容を時系列に記録したものをログデータということがある。電子掲示板(BBS)やSNSへの書き込みや、メッセンジャーなどによる利用者間のメッセージのやり取りなどを記録したデータやファイルがこれに相当する。
対数
数学では対数(logarithm)のことを「ログ」(英語でも“log”)と呼ぶため、プログラミングなどの分野ではこれにならって対数の計算を行う関数や機能などの名称として “log” が用いられることがある。“logarithm” の省略形であり、時系列の記録を意味する “log” とは同音同綴異義語で直接の関係はない。
量的データ 【量的変数】
調査や観測などで得られたデータのうち、物事の量的な側面を表す数値データのこと。長さ、重さ、人数、金額など大小や高低の程度を反映したデータである。
数で表され、数の大きさが量の多寡や性質の強さ、度合いを反映しているようなデータをこのように呼ぶ。物事の質的な側面を表す「質的データ」(質的変数)と対比される。
量的データを測る尺度のうち、数の間隔に意味があるものを「間隔尺度」という。数の間隔が量の大きさを反映している尺度で、温度の摂氏(℃)や年号などが当てはまる。原点が量的な「0」を表さないため値同士の比率には意味がない。
一方、間隔だけでなく値そのものの比に意味があるような尺度を「比例尺度」という。数がそのまま量の大きさを反映しているような尺度で、長さ、面積、体積、重さ、時間、速度、絶対温度、人数、金額など多くの量的データは比例尺度で表される。数で表されていても、数が順序や順位しか表さない、ランキングや段階評価、段位のような「順序尺度」のデータは含まない。
質的データ 【質的変数】
調査や観測などで得られたデータのうち、物事の質的な側面を表すデータのこと。数で表されないような記録や、数値の場合は値自体や値同士の差の比率には意味がないようなデータである。
性別や血液型、「はい」「いいえ」を選択するアンケート項目、色、形状など、結果を数値で表すことができないデータや、数字で表されていても自動車ナンバーや電話番号のように大小に意味がない「名義尺度」のデータが含まれる。物事の量的な側面を表す「量的データ」(量的変数)と対比される。
また、数の大小が順位や順序を表していても、間隔や比には意味がない「順序尺度」の数値データも質的データに分類される。例えば、競技の順位、成績やアンケートなどの段階評価、検定制度の段位や級などは、上位と下位の区別はできても度合いを数量比較することはできないため質的データに分類される。
メタデータ 【メタ情報】
データについてのデータ。あるデータそのものではなく、そのデータを表す属性や関連する情報を記述したデータのこと。データを効率的に管理したり検索したりするためには、メタデータの適切な付与と維持が重要となる。
例えば、文書データであればタイトルや著者名、作成日などが、楽曲を収めた音声データであれば曲名や収録媒体、作曲家、作詞家、実演家、発表(発売)日時などが考えられる。どのような属性がメタデータとして適切あるいは必要かはデータの種類によって異なり、また、データの作成方法、利用目的などによっても異なる。
文書や画像、音声、動画など多くのファイル形式では、ファイルの先頭などにメタデータを格納する領域が用意されており、あらかじめ決められた形式で、データと一緒にメタデータを保管できるようになっている。ファイル自体もまた、ファイルシステムによって作成者、作成日時、最終更新日時、アクセス権などのメタデータと共に管理されている。
構造化データ
項目の形式や順序など、明確に定義された構造に従って記述、配置されたデータ集合のこと。プログラムによって自動処理するために用いられることが多い。
リレーショナルデータベースのテーブルやCSVファイルのように、一件のレコードの構成、各項目のデータ型や形式、項目の並び順、項目やレコードの区切り文字などが事前に決まっており、同じ構成のレコードの繰り返しとしてデータを列挙したものを指すことが多い。
ソフトウェアによって容易に読み込んで内容を認識させることができ、大量のデータを集計したり分析するのに適している。人間がそのまま眺めて読みやすい形式とは限らず、ソフトウェアによって抽出や集計を行ったり、見やすいよう整形したり、レポートなど別の形式へ変換してから人間に供されることが多い。
一方、Webページや電子メール等のメッセージ、ワープロソフトやプレゼンテーションソフトなどで作成した(見栄え重視の)文書ファイル、画像や音声、動画などのメディアデータといった、決まった形式や配置に従ってデータが並んでいるわけではない不定形なデータ群のことを「非構造化データ」(unstructured data)という。
Webページの構造化データ
WebページのHTMLコードは、Webブラウザにその文書の構造やレイアウトを伝達するという意味では構造化されているが、書かれている情報をサイト横断的に同じ形式に従って自動収集・処理できるような構造にはなっていない。
そこで、ソフトウェアが自動処理しやすいようページ内に書かれている内容を特定の規約に則って構造化データとして記述する手法が提唱されている。同じ情報を人間向けと機械向けに同じページに埋め込んでおき、ブラウザは人間向けのデータを表示し、Webロボットなどの自動処理プログラムは機械向けのデータを収集する。
様々な手法が提唱されているが、現在有力な方式はHTMLのヘッダ領域などにJSON-LD形式でスクリプトの形で情報を埋め込む手法で、Schema.orgという業界団体が情報の種類ごとにデータの記述形式(スキーマ)の標準を提案している。
例えば、ある行事の開催案内のWebページに、Schema.orgの定義する「Event」(行事)のスキーマで構造化データを埋め込むことで、巡回してきたロボットに行事名や主催、出演者、開催日時などを伝達することができる。
非構造化データ
項目の形式や順序などについて明確に定義された構造を持たない不定形なデータ集合のこと。主に人間が情報を把握するために作成されるデータ群で、コンピュータによる内容の自動処理には適さない。
コンピュータが扱うデータの多くは何らかの形式や構造に従って記録されているものが大半だが、非構造化データといった場合はリレーショナルデータベース(RDB)の表(テーブル)のように構成要素を分割、配列した構造を持たず、コンピュータプログラムによって要素を個別に把握して処理するような利用方法が難しいようなものを指す。
よく挙げられる例として、(人間が閲覧するための)Webページ、電子メールやメッセンジャーなどのメッセージ、ワープロソフトやプレゼンテーションソフトなどで作成した(見栄え重視の)文書ファイル、画像や音声、動画などのメディアデータなどがある。
これらのデータはそれぞれ特定のデータ形式で記録されてはいるものの、主に人間が見聞きするために視聴覚的な構成を整えることを主眼に作成・編集されており、内部の構成要素をプログラムが自動認識できるような形になっていない。データベースのような検索性や再利用性は乏しく、情報として後から活用することが難しい。
一方、データベースのテーブルやCSVファイルのように、一件のレコードの構成、各項目のデータ型や形式、項目の並び順、項目やレコードの区切り文字などが事前に決まっており、同じ構成のレコードの繰り返しとしてデータを列挙したものを「構造化データ」(structured data)という。
スクレイピング
削り、こすり、ひっかき、削屑などの意味を持つ英単語。ITの分野ではデータの整形や抽出を行うデータスクレイピングを単にスクレイピングということが多い。
入手したひとまとまりのデータを解析し、不要な部分を削ったり、必要な部分だけを取り出したり、一部を置き換えたり、並べ替えたりして、目的に適う形式に整形することをスクレイピングという。
特に、人間が閲覧するために作成された文書ファイルなどから必要なデータなどを抜き出し、ソフトウェアでの自動処理に適したデータ形式で保存し直すことを指すことが多い。
Webスクレイピング (ウェブスクレイピング)
WebページやWeb上で公開されているデータについて、ソフトウェアで処理しやすい形に整形したり必要な部分を抽出することをWebスクレイピングという。
必要なWebサイトやページを選んで巡回し、収集したWebページを解析して必要なデータを抽出、CSVファイルなど汎用的なデータ形式に整形・変換して保存する。
この過程の多くはソフトウェアによって自動化されるが、Webページの記述形式はサイトごとの個別性が高いため、対象や目的に合わせて個別にプログラムを開発しなければならないことも多い。
データレイク
データの解析や活用を行うために、形式や規模によらず雑多なデータを一元的に保管しておくためのデータ管理システム。
これまでデータ解析のために管理されるデータの置き場としてデータウェアハウスなどが用いられてきたが、これは業務システムなどがリレーショナルデータベース(RDB)のテーブルなどの形で定型的に整然と記録した構造化データに限られる傾向があった。
データレイクではこうしたデータ源だけに限らず、人間の作成した文書ファイル群や外部から収集したオープンデータ、Webサイトのログデータ、ソーシャルメディアの書き込み、IoTデバイスが記録したデータなど、様々な種類のデータを単一のシステムで管理する。
事前に決められた特定の構造や形式へのデータの変換や整形は不要で、非構造化データもそのままの形で格納することができる。分析などで後で実際に読み出す際に必要な前処理が行われる(スキーマオンリード)。データの記録には安価なストレージ装置を用い、コストに縛られずにとにかく大量のデータを収集、保管することを主眼とする。
集めたデータはビッグデータ解析システムや全文検索システム、機械学習システムなどを用いて事業や業務に有用な洞察や知見、予測などを得るために活用される。
どんなデータも蓄積できるといっても、高度な活用のためにはどこに何がどのように記録されているかといったメタデータが適切に付与され、データカタログなどの形で整理されている必要がある。野放図にデータを記録した結果、データの意味や所在が不明になってしまった混沌とした状態は「データスワンプ」(swamp:沼)と呼ばれる。
サイロ 【サイロ化】
飼料や穀物、化学原料などを格納する巨大なタンクを並べた貯蔵庫のこと。ITの分野では、組織内の複数の情報システムがそれぞれ孤立しており、連携が取れなくなっている状態を「サイロ化」「サイロ型」のように呼ぶ。
農場などにある一般的なサイロ化には塔のような高いタンクが隣接して立ち並んでいるが、通常は内部が繋がっておらず、それぞれ独立に内容物の出し入れを行う構造になっている。
企業などの組織では部署や業務に応じて複数の情報システムを開発・運用することがあるが、それぞれが単体での利用しか考慮しておらず連携が取れない状態を、内部が繋がっていないタンク群に見立てて「システムのサイロ化」「サイロ型システム」のように呼ぶことがある。
システムがサイロ化すると、同じ機能や同じデータが様々なシステムで重複・散在したり、同じデータをシステムごとに何度も入力し直したり、他業務のデータ参照や複数部門の情報を横断的に集計・分析することが困難になるなど、全社的に見たITやデータの利用効率が低下する。
システムやデータのサイロ化は縦割り組織のセクショナリズムの結果として起きるが、背景にはトップマネジメントの情報システムやデータ活用への関心やリテラシーの低さ、全社的なIT戦略の欠如が見られることが多い。全体最適なシステム導入を進めるべく、トップが深くITへコミットする姿勢を示す必要がある。
モジュール結合度
ソフトウェアを構成するプログラムのモジュール(部品)の性質を表す用語の一つで、複数のモジュールの間の結びつきの強さのこと。ソフトウェアの設計はモジュール間の結合度が可能な限り低いほうが良いとされる。
内容結合
最も結合度が強いのが「内容結合」(content coupling)で、他のモジュールの内部動作に直接影響を受けたり、他のモジュールの内部の状態を直接参照しているような場合を指す。
共通結合
2番目に結合度が強いのは「共通結合」(common coupling)で、プログラム全体に渡って有効なグローバル変数などの資源を共有している状態を指す。
外部結合
3番目に結合度が強いのは「外部結合」(external coupling)で、プログラムの外部で定義されたデータ形式や通信プロトコルなどを共有している状態を指す。
制御結合
4番目に結合度が強いのは「制御結合」(control coupling)で、他のモジュールにその処理内容を指示するためのデータ(フラグなど)などを渡して内部の処理を制御する関係にある場合を指す。
スタンプ結合
5番目に結合度が強いのは「スタンプ結合」(stamp coupling)で、モジュール間で複数のデータを連結した複合的なデータ構造を受け渡すが、そのすべてを使用するわけではない状況を指す。
データ結合
6番目に結合度が強いのは「データ結合」(data coupling)で、引数や返り値など単純な型のデータを受け渡す場合を指す。一般的な関数やメソッドの結合はこれに当たるものが多い。
メッセージ結合/無結合
一般的にはスタンプ結合あるいはデータ結合が最も弱い結合度とされるが、さらにその下に、単に呼び出しを行えるだけでデータの受け渡しなどは行わない「メッセージ結合」(message coupling)や、まったく何の結びつきもない「無結合」(no coupling)が定義される場合もある。
名寄せ
複数のシステムやデータベースに分かれて記録されている同一主体に関するデータを統合して一元的に管理できるようにすること。ある顧客についての様々な情報を集めて一元化するといった操作を指す。
主に金融機関で行われる手続きおよびデータ処理で、同じ個人や法人が複数の口座などを開設している場合に、これらをシステム上で紐付けて同一主体による口座であることが分かるようにする。顧客の利便性や情報管理の効率が高まるほか、一人あたりの限度額などを規定した制度などへの対応上も必要となる。
転じて、金融機関以外でも、同一主体による情報が複数の場所に分かれて記録されている場合に、共通の識別番号などを導入して同じ主体の情報をすぐに集約できるようにする作業を名寄せと呼ぶことがある。例えば、企業が顧客の情報を記録した複数のデータベースに共通の顧客IDを導入する作業などを指す。
近年では、インターネット上で公開されている特定の個人や法人に関する断片的な情報を第三者が収集し、一つに統合する「名寄せ」行為が行われることもある。ある企業の公開情報や評判などを一覧できるサービスなど有用な使い方もあるが、個人のプライバシー侵害やサイバー攻撃の下準備などに悪用されることもある。
外れ値
調査や測定、観測などで同種のデータをいくつも取得したとき、全体のデータの傾向から大きく外れた値のこと。統計処理などの際に一定の基準を設けて除外することがある。
収集したデータ全体の分布が何らかの傾向を示すとき、この傾向から大きく外れた値のことを外れ値という。このうち、測定機器の不具合や記入ミスなど、何らかの誤りによっておかしな値になってしまったものは「異常値」という。対象や方法によって、異常値と異常値以外の外れ値を区別できる場合とできない場合がある。
外れ値を含んだデータをそのまま分析すると、平均値や相関係数などの統計量に大きな影響を与え、歪んだ結果が導き出されることがある。このため、一定の基準を設けて外れ値を取り除く操作を行うことがある。
よく用いられる手法として、箱ひげ図を描いて「第1四分位数-箱の幅×1.5以下」「第3四分位数+箱の幅×1.5以上」のデータを外れ値と判定する方法がある。また、平均値や標準偏差などから特定の統計量を算出し、基準値を設けて判定する方法もある。こうした検定にはスミルノフ・グラブス検定やトンプソン検定などが知られている。
なお、用意した結論に都合のよいデータのみを残してそれ以外を外れ値として排除することはデータの改竄とみなされる可能性があるため値の削除は慎重に行う必要がある。どんな調査や観測でも、現実の対象を調べれば全体の傾向から外れたサンプルが存在するのは普通のことであるため、異常値として理由が説明できる値以外は恣意的に取り除くべきではないとする考え方もある。
異常値
調査や測定、観測などで同種のデータをいくつも取得したとき、ミスなどで混入した誤った値のこと。また、単に傾向から大きく外れた値(外れ値)や、何らかの基準を超えて異状を示す値を指すこともある。
収集したデータ全体の分布が何らかの傾向を示すとき、この傾向から大きく外れた値のことを「外れ値」という。このうち、測定機器の不具合や故障、測定ミス、記入ミスなど、何らかの明確な原因によっておかしな値になってしまったものを異常値という。
ミスなどの不手際に限らず、人間の身長を示す値が「10m」になるなど、理論的に絶対に起こり得ない値を含むこともある。データを取る対象や方法によって、外れ値から異常値と他の外れ値を区別できる場合と、区別がつかない場合がある。文脈によっては外れ値のことを異常値と呼ぶ(両者を特に区別しない)場合もある。
また、医療における検査や、システムや機械の監視など、正常な状態と異常な状態を区別するために測定などを行う場合には、異常な状態を示す値のことを異常値と呼ぶことがある。この場合には値そのものは正しく得ることができており、「正しく捉えられなかった値」という意味合いはない。
欠損値 【欠測値】
調査や測定、観測などでデータを収集した際、あるデータの記録場所を参照してもデータが記録されておらずに欠けていること。一定周期で観測値を記録するシステムでデータが欠けた時刻がある場合などが該当する。
観測において、装置の不具合や操作ミスなどで測定値が得られなかった状態や、調査において特定の記入項目が空欄で記載されていない状態などを指す。値は存在するが傾向から大きく外れている「外れ値」や、装置故障やミスなどでおかしな値になってしまった「異常値」とは異なる。
観測における欠測などは機械的に取り除いて分析することが多いが、調査では記入が任意の項目が複数ある場合などに完全にデータが揃っているサンプルが十分な数揃わないこともある。そのような場合には欠損の多い項目を解析から外したり、平均値などの代表値で穴埋めしたり、他の項目の値が似ているサンプルのデータで補完するといった操作を行うことがある。
標準化
工業製品の仕様などについて関係者が議論を交わし、統一された取り決めを設けること。定められた決まりは「標準」「規格」「標準規格」等と呼ばれ、皆がこれに従って生産や事業活動を行うことで経済全体の効率が高まる。
例えば、ネジの標準化が行われる前の時代は、メーカーや製品、部品ごとにばらばらな寸法・形状のネジが使われ、機能やサイズに違いがないのに細部が微妙に異なる多品種のネジを個別に少量ずつ製造していた。
メーカーは自社製品専用のネジを少量ずつ自社生産しなければならず、大量生産してコスト削減や効率化を図ったり、専業の生産者から安く買い付けたりすることは難しい。購入者も割高なネジが使われた高価な製品しか選択肢がなく、修理などの際も必ず製造元から特注品を取り寄せなければならない。
ネジの仕様が公的機関や業界団体の主導により標準化されると、各メーカーは同じ寸法・形状のネジを使うようになり、製品間で同じネジを採用して大量生産による効率化を図ったり、外部への販売や外部からの購入も自由にできるようになった。他の汎用部品についても標準化が進められると、完成品メーカーと部品メーカーの役割分担が進み、産業全体の効率が高まった。
標準化は度量衡などの単位や送電網の電圧などの社会インフラ、ネジのような工業製品、部品などモノの仕様から始まったが、現代ではデータ形式などの無体物、圧縮符号化方式や通信プロトコルといった情報処理の手順、製造プロセスなどの仕組みや業務手順、組織体制などについても行われるようになっている。
標準の種類
産業における標準は主導者や成立過程によりいくつかの類型に分かれる。このうち、公的な標準化団体などが定められた手続きや法制度に則って正式に策定するものを「デジュールスタンダード」(de jure standard/「デジュリスタンダード」とも)という。ISOなどの国際機関が定めた規格、日本国内のJIS規格などが該当する。
一方、公的機関の手続きなどに依らず、特定の企業が仕様を定めて製品を市場で普及させた結果、広く受け入れられて事実上の標準となったものを「デファクトスタンダード」(de facto standard)という。変化の速いIT分野はデファクト標準が多く、標準化機関が後追いでデジュール標準化する例も見られる。
両者の中間的な方式として、複数の企業や専門家集団が業界団体(フォーラム)を形成し、共同で仕様を策定する「フォーラム標準」(forum standard)がある。DVDフォーラムが策定したDVD規格などの例が見られる。フォーラム標準は市場で定着してデファクト標準化し、その後に公的機関がデジュール標準化することが多いが、デファクトの地位を得られず撤退することもある。
標準化団体
標準化を推進する組織を標準化団体という。各国の代表が参画して運営される国際機関としてはISO(国際標準化機構)、IEC(国際電気標準会議)、ITU(国際電気通信連合)などがよく知られる。IEEEのように国際的な専門家団体が標準化団体を兼ねている例、3GPPのように国家と企業が関与する例などもある。
各国には法的に定められた公的規格があり、これを策定する標準化団体がある。日本の場合、JIS規格を発行する日本規格協会(JSA)および審議機関の日本産業標準調査会(JISC)、電波産業会(ARIB)、情報通信技術委員会(TTC)などが該当する。欧州域内の標準化を推進するCEN(欧州標準化委員会)やETSI(欧州電気通信標準化機構)のように国家連合が主導する機関もある。
IT分野では、フォーラム標準を策定する業界団体、企業連合も有力な標準化団体である。DVDフォーラム(DVD)、Blu-ray Discアソシエーション(Blu-ray Disc)、SDアソシエーション(SDメモリーカード)、Unicodeコンソーシアム(Unicode)、Wi-Fiアライアンス(Wi-Fi)、JEDEC(各種メモリ規格)、The Open Group(UNIX)などがよく知られる。
インターネット分野では、伝統的に専門家や開発者が個人の資格で参画する、企業連合的でないコミュニティ型の標準化団体が有力となっている。IETF(インターネット技術全般)やW3C(Web技術)、WHATWG(Web技術)などである。
アノテーション 【アノテート】
「注釈」という意味の英単語で、ITの分野ではデータやプログラムの中に特殊な記法を用いて埋め込まれた付加情報のことをこのように呼ぶことが多い。
プログラミングでは、ソースコード中に登場する要素(クラスやメソッドなど)に対して、処理系に伝達したい付加的な情報(メタデータ)を注記する仕組みのことをアノテーションという。
「このメソッドはテスト用である」「ここでコンパイラは警告を出してはならない」「このメソッドはオーバーライドである」などの情報を付記し、コンパイル時や実行時に参照させることができる。
アノテーション自体は実行コードの一部とはならず、コンパイラなどの言語処理系に指示を与えるためだけに用いられる。アノテーションにアノテーションを加える「メタアノテーション」(meta-annotation)の記法が用意されている言語もある。
ソースコード中に注釈を記入する仕組みにはコメント(comment)もあるが、これは主に他の開発者など人間に情報を伝えるために自然言語で書かれるもので、コンパイルなどの過程で削除され、処理系の動作には影響を及ぼさない。
移動平均
時系列に並んだ数値データを平滑化する手法の一つで、ある時点の値を、その値を含む一定期間の平均値で置き換える方式。長期的な推移を分かりやすく表示できるようになる。
例えば、月次データを3か月移動平均で表す場合、4月のデータは2月、3月、4月の3か月分のデータの平均値とし、5月は3~5月の、6月は4~6月の平均といった具合に、枠を移動しながらそれぞれ直近の一定期間の平均を取っていく。
これにより、短期的に生じる大きな変動やノイズ、外れ値などの影響を均し、データの長期的な推移や傾向を明らかにすることができる。これを応用し、直近の過去のデータの平均から将来値の予測を行う手法を「移動平均法」という。
単純/加重/指数
単に移動平均という場合は各データの単純平均を取る「単純移動平均」(simple moving average)を指すが、時間の経過に応じて過去のデータの影響を割り引くように係数を掛け合わせて平均する手法を「加重移動平均」(weighted moving average)という。さらに、係数が経過時間に対して指数関数的に減少していくよう調整する手法を「指数移動平均」(exponential moving average)という。
後方/中央/前方
平均を取る区間について、当該データを先頭に過去のデータのみを組み合わせる手法を「後方移動平均」、当該データを中心に過去と未来を同じ期間ずつ組み合わせる手法を「中央移動平均」、当該データを末尾に未来のデータのみを組み合わせる手法を「前方移動平均」という。
現在(直近)のデータを扱う場合は未来のデータが未定のため後方移動平均を用いるのが一般的だが、過去のデータの分析などでは中央移動平均や前方移動平均を用いたり、これらを併用したり比較することもある。
BI 【Business Intelligence】
企業の情報システムなどで蓄積される様々なデータを、利用者が自らの必要に応じて分析・加工し、業務や経営の意思決定に活用する手法。そのためのソフトウェアや情報システムをBIツールあるいはBIシステムという。
従来の情報システムではデータを蓄積・保管していても、単に記録として残すためで活用などはせずに死蔵するか、会計事務などのために情報システム部門の人員が専門的な技術や技能、システムなどを用いて定型的な帳票や報告書などを作成するのが一般的だった。
BIでは、経営層や部門長などの意思決定者や、個別の業務を担う現場のスタッフが自らソフトウェアを操作してデータを抽出・分析し、自らの業務や意思決定にとって有用な情報に加工する。属人的な経験や勘に頼らず、実際の業務から得たデータに基づいて分析や予測、改善などを進めることができる。
BIツール
BIの実践には、専用に作られた「BIツール」というソフトウェアを用いることが多い。これはオフィスソフトのようにコンピュータの専門家ではない一般の利用者が使用することを想定したシステムで、グラフィック表示・操作(GUI)でデータの操作や分析を行うことができる。
データが蓄積された社内のデータベースシステムと連携して必要なデータを検索・抽出したり、多次元分析など多様な視点から解析・分析したり、データや分析結果を表やグラフなどにまとめ、分かりやすく可視化する機能を提供する。狭義には、このようなBIツールを導入して業務部門や経営層が活用できるようにすることを指してBIと呼ぶことが多い。
より広義には、様々なシステムに分散したデータを一元化する「データウェアハウス」(DWH)やデータ抽出を行う「ETLツール」、部門ごとに必要な形式に変換する「データマート」、必要なデータを抽出・分析する「データマイニング」や「OLAP」など、併用されることが多い関連技術・システムの全体を含める場合もある。
歴史
19世紀の商業に関する文書や、1950年代のコンピュータ黎明期の研究などで “business intelligence” という概念が登場するが、コンピュータシステムによるデータ活用という今日的な意味でのBIの概念は、1990年代頃から普及したものとされる。
これは1960~70年代に見られた、経営層の意思決定に情報システムを活用しようとする「MIS」「DSS」「EIS」などの試みを踏まえたもので、1989年に当時の米DEC(Digital Equipment Corporation)社のハワード・ドレスナー(Howard Dresner)氏が提唱したものが起源とされている。
データマイニング
蓄積された大量のデータを統計学や数理解析などの技法を用いて分析し、これまで知られていなかった規則性や傾向など、何らかの未知の有用な知見を得ること。
「マイニング」(mining)とは「採掘」の意味で、膨大なデータの集積を鉱山に、そこから有用な知見を見出すことを資源の採掘になぞらえている。適用分野や目的、対象となるデータの種類は多種多様だが、ビジネスの分野では企業が業務に関連して記録したデータ(過去の取引記録、行動履歴など)を元に、意思決定や計画立案、販売促進などに有効な知見を得るために行われることが多い。
例えば、小売店の商品の売上データの履歴は、それ自体は会計上の手続きや監査などの業務にしか使われないが、データマイニングの手法で統計的に処理することで、これまで知られていなかった「商品Aと商品Bを一緒に購入する顧客が多い」といった傾向が分かる場合がある。これにより、AとBの売り場を統合するといった販売促進施策を行うことが可能となる。
商業分野だけでなく、自然言語処理やパターン認識、人工知能などの研究などでも利用される。分析・解析の手法も様々だが、代表的な手法としては、頻度の高いパターンの抽出や、相関関係にある項目の組の発見、データの特徴や共通点に基づく分類、過去の傾向に基づく将来の予測などがある。
近年では、一般的なシステムやソフトウェアでの解析が困難な巨大なデータセットである「ビッグデータ」を対象とした解析手法や、人工知能の一分野である機械学習、特に先進的な手法である「ディープラーニング」を応用したマイニング手法などが活発に研究・開発されている。
テキストマイニング
定型化されていない文字情報(テキストデータ)の集まりを自然言語解析などの手法を用いて解析し、何らかの未知の有用な知見を見つけ出すこと。
「データマイニング」(data mining)の手法を非定型のテキストデータに応用したもので、自然言語の文の蓄積として集められたデータを分析し、鉱山から鉱石などを掘り出す(mining)ように、業務や製品に役立つ情報を探し出す。
目的や具体的な技術は様々だが、多くの場合、文章に形態素解析を行ってテキストを単語やフレーズに分解し、特定の表現の出現頻度やその増減、複数の表現の関連性や時系列の変化などを調べる。
これにより、知られていなかった問題点を見出したり、様々な要素や要因の間の結びつきを可視化したり(共起ネットワーク分析)、顧客や消費者の評判(肯定的か否定的か)や時系列の推移を把握したりする(センチメント分析)ことができる。
対象となるデータの例として、アンケートや報告書などに含まれる自由記述の文章、電子掲示板(BBS)やSNSの書き込み、ニュース記事、OCRでスキャンしてテキストデータ化した過去の書籍、雑誌、新聞の記事などが挙げられる。
ビッグデータ
従来のデータベース管理システムなどでは記録や保管、解析が難しいような巨大なデータ群。明確な定義があるわけではなく、企業向け情報システムメーカーのマーケティング用語として多用されている。
多くの場合、ビッグデータとは単に量が多いだけでなく、様々な種類・形式が含まれる非構造化データ・非定型的データであり、さらに、日々膨大に生成・記録される時系列性・リアルタイム性のあるようなものを指すことが多い。
今までは管理しきれないため見過ごされてきたそのようなデータ群を記録・保管して即座に解析することで、ビジネスや社会に有用な知見を得たり、これまでにないような新たな仕組みやシステムを産み出す可能性が高まるとされている。
米大手IT調査会社ガートナー(Gartner)社では、ビッグデータを特徴づける要素として、データの大きさ(Volume)、入出力や処理の速度(Verocity)、データの種類や情報源の多様性(Variety)を挙げ、これら3つの「V」のいずれか、あるいは複数が極めて高いものがビッグデータであるとしている。これに価値(Value)や正確性(Veracity)を加える提案もある。
コンピュータやソフトウェアの技術の進歩は速く、具体的にどのような量や速度、多様さであればビッグデータと言えるかは時代により異なる。ビッグデータという用語がビジネスの文脈で広まった2010年代前半にはデータ量が数テラバイト程度のものも含まれたが、2010年代後半になるとペタバイト(1000テラバイト)級やそれ以上のものがこのように呼ばれることが多い。
近年ではスマートフォンやSNS、電子決済、オンライン通販の浸透により人間が日々の活動で生み出す情報のデータ化が進み、また、IoT(Internet of Things)やM2M、機器の制御の自動化などの進展により人工物から収集されるデータも爆発的に増大している。
また、人工知能(AI)の構築・運用手法として、膨大なデータから規則性やルールなどを見出し、予測や推論、分類、人間の作業の自動化などを行う機械学習(ML:Machine Learning)、中でも、多階層のニューラルネットワークで機械学習を行う深層学習(ディープラーニング)と呼ばれる手法が台頭している。
このような背景から、膨大なデータを的確、効率的に扱う技術上の要請はますます高まっており、統計やデータ分析、大容量データを扱う手法やアルゴリズムなどに精通した「データサイエンティスト」(data scientist)と呼ばれる専門職の育成が急務とされている。
オープンデータ
誰でも自由に入手や使用、加工、再配布などができるよう広く一般に公開されているデータ。特に、ソフトウェアなどによる自動処理に適した一定のデータ形式に整理・整形された機械可読(マシンリーダブル)なもの。
データの中には著作権などによって保護されていたり、所有者によって入手や利用に制限が課せられ、手続きや対価が必要なものが多くある。オープンデータはこのような制約から解放され、営利・非営利を問わず誰でも自由に使用や再配布が可能なデータを指す。
こうしたデータ公開が期待され、また積極的に行われているのは主に学術・科学分野や公共分野である。大学や研究機関の持つ科学的な資料や、政府や自治体などの公的機関の持つ公共的な情報や、事業などで調査・収集した統計データなどの公開が進められている。
行政などのデータ公開・提供はこれまでも白書やWebサイトなどの形で行われてきたが、これはもっぱら人間が閲覧するための文書として発行されたものであり、ソフトウェアで解析・加工するには人間の手で整形しなければならなかった。オープンデータではコンピュータ上での自動処理を前提としたデータ形式が求められ、XMLやCSVファイル、Excelファイル(XLSXファイル)などの形で提供される。
ある完結したひとまとまりのデータ集合を「データセット」と呼び、これを一つのファイルなどに(複雑・大規模な場合はいくつかに分割して)記録してWebサイトなどで公開する。複数のデータセットを公開する機関やサイトでは、どこにどんなデータセットがどのような形式で公開されているかをまとめた「データカタログ」が作成されることが多い。
2000年代後半頃から、米連邦政府の「Data.gov」や日本政府の「データカタログサイト」(DATA.GO.JP)など、政府機関が提供している様々なオープンデータをまとめたデータカタログや専用のWebサイトを公開する国が増えている。
パーソナルデータ
ある個人に関連し、あるいは個人の活動から生み出されるデータ全般のこと。個人を識別できる情報や、個人の属性や性質に関する情報、個人の活動などから生み出された記録などの総称。
ある個人の属性や履歴、本人の作成した情報などを記録したデータの総体を指す。この中には、氏名や住所、電話番号、生年月日など個人を特定できる情報、個人の識別に用いられる符号(マイナンバー、パスポート番号など)、他の情報と照合することで個人の特定に繋がる情報(顔写真、所属先のメールアドレス等)が含まれ、これらは法律上の保護の対象となる個人情報(PII:Personally Identifiable Information)となる。
パーソナルデータにはこうした個人情報だけでなく、識別や特定には直接は結びつきにくいが個人に属するデータが含まれる。例えば、携帯端末で取得した位置情報や移動履歴、交通機関の乗降履歴、商品の購入履歴、検索エンジンの検索履歴、Webサイトなどの閲覧履歴、SNSなどへの投稿、本人が撮影や録音した画像や動画、音声、IPアドレスやCookieなど機器の識別情報、体重や血圧といった身体や健康の状態を表す測定データ、医療機関の利用履歴などである。
これらの中には特定の分野の事業者にとって顧客サービスや製品開発などに利用価値のある有用な情報が含まれる一方、プライバシーに属するとみなされるセンシティブな情報も含まれるため、情報機器やオンラインサービスを通じた個人からのデータの取得や保管、解析、外部への提供などについて各国や業界でルールの整備が進められている。
個人情報保護法ではパーソナルデータの扱いについて、2017年の改定で特定の個人を識別する情報を復元できないよう改変・削除した「匿名加工情報」の概念を導入し、一定の要件を満たせば明示的な本人の同意がなくても第三者への提供などが行えるようになった。
また、2020年の改定では一連のデータが一人の個人に紐付いている状態は維持しつつ、氏名等の識別情報は別の符号に置き換えて本人を特定できないようにする「仮名加工情報」の枠組みが設けられ、事業者内での高度なパーソナルデータ活用に用いられている(外部提供は大きく制限)。
データサイエンス
統計解析や数理解析、コンピュータによる処理などを駆使して大量のデータを解析・分析し、有用な知見を導く手法を研究する学問領域。
現代ではコンピュータや通信技術の発達で大量のデータの記録や蓄積、伝送が可能となった。これを様々な手法を駆使して処理、解析し、学術研究やビジネスなど人間の社会的な活動にとって有用な知見を導き出す方法論を研究するのがデータサイエンスである。
人間の知的活動と機械によるデータ処理を橋渡しするという性質上、様々な既存の学問や技術を横断的に活用する学際的な側面を持っている。統計や数理解析、線形代数、機械学習、データモデリングなどの数理科学やコンピュータ科学の知見、データベース操作やデータ形式の理解、プログラミング、データ加工・変換・処理といったエンジニアリング領域の技法が総合的に求められる。
データサイエンスを修め、あるいは研究する人材を「データサイエンティスト」(data scientist)という。日本では2011年頃からビッグデータ活用の重要性が叫ばれるようになるなか、データ活用を推進する具体的な人材像として2013年頃からデータサイエンティストという職種が認識され始めた。十分な技能を持ったデータサイエンティストは常に人材不足であるとされ、今後もそのニーズは高まっていくと予想されている。
シミュレーション 【シミュレート】
現実の対象や現象から特徴的な要素を抽出してモデル化し、模擬的に実践・再現すること。科学技術の分野では現象の理解や予測、人工物の開発や改良などによく応用される。
「顧客の反応をシミュレーションする」といったように日常の場面でも模擬的な予測や再現をシミュレーションということがあるが、一般的にはコンピュータによる数値計算や情報処理を用いて複雑な物理現象や人工物の振る舞いなどを再現する「コンピュータシミュレーション」(computer simulation)を指すことが多い。綴りから分かるように「シュミレーション」は誤記である。
シミュレーションは実物による実験が様々な理由により不可能・困難な場合、あるいは長い期間や多くの費用を要する場合などに、これを簡易に代替する手法として実施される。対象の振る舞いや生じる現象への理解を深めたり、対象を扱う技能の教育・訓練を行なったり、対象が人工物の場合は結果を元に修正や改良を行ったりする。
対象にまつわるありとあらゆる要素を正確に模倣することは不可能で、多くの場合は無意味でもあるため、対象の性質や挙動を代表する要素を絞り込んで単純化したモデルを用いて計算などを行なう。モデルがよく対象を表していれば正確なシミュレーションができるが、誤りや粗さがあれば精度の低いシミュレーションにしかならない。
ある対象のシミュレーションを行うことに特化した機器やソフトウェア、システムなどを「シミュレータ」(simulator)という。特に乗り物や機械の挙動を再現するシミュレータがよく知られ、自動車を模倣する「ドライブシミュレータ」や航空機を模倣する「フライトシミュレータ」は運転・操縦の訓練にも用いられる。
最適化 【オプティマイズ】
対象の実質は維持したまま、設定や内部の構造などを調整し、より好ましい状態に組み替えること。基準となる値を決め、その値が最も望ましい状態(最大値や最小値など)となるように調整する。
例えば、コンピュータプログラムの場合、同じ機能のプログラムであれば「より高速に」「より小さいメモリ占有量で」動作する方が望ましい。このような効率のよいプログラムを作成するために、一通りの機能が実装された後に、仕様を変えずに細かな見直しを行うのが最適化である。
人間が読み書きできるソースコードを解釈し、コンピュータに適した形式(機械語コードなど)に翻訳するコンパイラやインタプリタなどのソフトウェアは、より効率的なコードを生成するために、自動的に最適化を行う「オプティマイザ」(optimizer)機能を内蔵している場合がある。
数理最適化
コンピュータ科学の分野では、ある関数を特定の条件下で最大あるいは最小とする解を求める問題を「最適化問題」という。現実の問題には数式を解析的に解くことができない問題がたくさんあり、コンピュータによって計算を繰り返して最適な入力値を探索する手法が広く応用されている。
マーケティングにおける最適化
Webマーケティングなどの分野では、広告やWebサイトなどの制作物を目的に照らして最も効果が高まるよう編集する工程を最適化ということがある。例えば、Web検索エンジンで特定のキーワードを検索した際に上位にリストされるようWebサイトを編集することを「サーチエンジン最適化」(SEO:Search Engine Optimization)という。
データサイエンティスト
統計解析や数理解析、機械学習、プログラミングなどを駆使して大量のデータを解析し、有用な知見を得る職業あるいは職種。
企業の事業活動の電子化、コンピュータ化が進み、取得可能なデータや実際に蓄積されるデータの種類や量は飛躍的に増大したが、IT部門はデータの記録や管理のみ、ビジネス部門は表計算ソフトでの集計など定型的な利用のみの場合が多く、十分な利活用がされないまま死蔵される例が多かった。
データサイエンティストは様々な意思決定上の局面やビジネス上の課題を認識し、データによって立証可能な仮説やモデルを組み立て、蓄積された実際のデータ群に対して様々な処理手法や解析手法を適用することで、現実の課題解決に資する有用な知見を提供する。
具体的なスキルとして、対象領域への基本的な理解やビジネス部門との折衝、解析結果のドキュメンテーションやプレゼンテーションといったビジネス領域のスキル、統計や数理解析、線形代数、機械学習、データモデリングなどの数理科学やコンピュータ科学の知識、データベース操作やデータ形式の理解、プログラミング、データ加工・変換・処理の技法といったエンジニアリング領域の技能が総合的に求められる。
日本では2011年頃からビッグデータ活用の重要性が叫ばれるようになるなか、データ活用を推進する具体的な人材像として2013年頃から「データサイエンティスト」という職種が認識され始めた。十分な技能を持ったデータサイエンティストは常に人材不足であるとされ、今後もそのニーズは高まっていくと予想されている。
大学などが専門のコースやカリキュラムを編成する事例が見られるほか、日本数学検定協会の「データサイエンス数学ストラテジスト」やデータサイエンティスト協会の「データサイエンティスト検定」、統計質保証推進協会の「統計検定 データサイエンス基礎」など民間資格の認定制度も相次いで開始されている。
全数調査 【悉皆調査】
統計的な調査を行う際に、対象となる母集団全体を調査対象とする方式。国勢調査のように、標本の抽出などを行わずに対象すべてを虱潰しに調べる調査。
調査の対象となる母集団に含まれるすべての要素を一つ一つ調べる調査方式をこのように呼ぶ。一方、母集団の中から一定の基準や方法で少数の標本(サンプル)を抽出して調査する方式を「標本調査」という。
全数調査はすべての対象についてのデータを揃えることができるため、抽出調査で生じる標準誤差などの不確かさに影響されない。対象の総数が少ない場合は容易に実施できるが、日本人全体など母集団が巨大な場合には大きなコストや長い期間を要したり、そもそも不可能なこともある。
社会調査の多くは標本調査だが、国が5年ごとに実施する、国内の全居住者を対象とした「国勢調査」や、国内の全法人を対象に行われ企業の国勢調査とも言われる「経済センサス」は全数調査として行われている。これらは統計としての意義と共に他の標本調査の基礎となるデータを提供する意義がある。
棒グラフ 【バーチャート】
数値データを図示するグラフの一つで、各項目の大きさに対応する長さの棒を縦または横に並べたもの。片方の端の位置が揃っており、棒の長さで各項目の大きさを一目で比較できる。
同じ幅の細長い棒(長方形)を並べた図で、棒の長さが各項目の大きさを表している。垂直に伸びる棒を横に並べた「縦棒グラフ」と、水平に伸びる棒を縦に並べた「横棒グラフ」がある。縦棒の場合は下端を、横棒の場合は左端を揃えて並べる。
項目の並び順は図で示したい内容に応じて決められるが、左端や上端から値の大きい順に並べる場合や、年齢のように項目の順序や大きさに従って並べる場合がある。項目が時系列の場合は過去から順に並べることが多い。
バリエーションとして、棒を区切って内訳を示す「積み上げ棒グラフ」、棒の長さを揃えて内訳の比率の比較や変化を示す「100%積み上げ棒グラフ」、一つの項目に複数の細い棒を並べて時系列の変化などを表す「集合棒グラフ」などがある。折れ線グラフなどと組み合わせて複合グラフとする場合もある。ソフトウェアによっては棒の並びを3次元的に描画する「3D棒グラフ」の機能が利用できる場合もあるが、3D化すると棒の長さの比が歪むため好ましくないとする考え方もある。
折れ線グラフ
数値データを図示するグラフの一つで、各項目を点で表し、隣接する項目同士を線分で結んで推移を折れ線で表したもの。時系列の変化などを表すのに適している。
縦軸に量、横軸に時間を取り、各時点における量の大きさを点で示す。隣接する点同士を端から順に線分で繋いでいくことで、すべての点を一つの折れ線で結びつける。線分が右上がりの箇所は増加、右下がりの箇所は減少を表し、折れ線の上下で量の時系列の変化を視覚的に把握することができる。
同じグラフに複数の異なる系列を表す折れ線を重ねて描画したり、折れ線グラフと棒グラフを重ねて描画することもあり、複数の項目の変化を直感的に把握することができる。複数の系列を重ねる場合は実線と折れ線、破線を使い分けたり、線を色分けしたり、点を表す図形(●▲■など)を変えるなどして見分けやすいようにする。
箱ひげ図 【箱髭図】
数値データを図示するグラフの一つで、長方形の上下に線分を付け加えた図形で一つのデータ系列の分布を要約するもの。箱の上下の線分を「ひげ」になぞらえた名称である。
縦軸に量を取り、横軸方向に系列を箱ひげとして並べていく。各箱ひげは、上のひげの上端が分布の最大値、箱の上端が第3四分位数、箱の中に引かれた仕切り線が第2四分位数(中央値)、箱の下端が第1四分位数、下のひげの下端が最小値となっている。最大値や最小値は外れ値の場合もあるため、ひげの端は最大・最小から1~10%程度の値を用いる場合もある。
一つの箱ひげで一つのデータ系列の分布を直感的に把握することができる。これを系列の数だけ横に並べていくことで、系列間の分布の違いを視覚的に比較することができる。複数の異なる対象の分布を比べるために作成する場合もあれば、同じ対象の時系列の分布の変化を知るために作成することもある。
ヒートマップ
データの可視化手法の一つで、映像を被写体の表面温度で色分けするサーモグラフィのように、表や画像を各点や領域の値の高低に応じて連続的な色調の変化で塗り分けたもの。
一般的なデータ解析で用いる場合、値を2次元の表(行列)などに並べ、各領域を値に応じた色(単色の濃淡や明暗で表す場合もある)で着色する。色は最上位20%は赤、次の20%は橙、次の20%は黄…といった具合に閾値を定めて段階的に決めておく。
単に数字が並んだ表に比べ、各色の領域の分布や変化、繋がり具合が視覚的に表現されるため、全体の傾向を素早く把握することができる。数字だけでは気が付かなかった法則性などを発見できる場合もある。地理情報システムなどでは、地図や建物の間取り図などを各領域の統計量や測定値などで色分けしたヒートマップが用いられることもある。
Webページのヒートマップ
Webサイトのアクセス解析では、閲覧者がWebページ内のどの領域にどれくらい注目したかを調べ、実際のページに被せるように連続的な色合いの変化で塗り分けた画像をヒートマップという。
一般的な手法では、ページがWebブラウザに表示された際の利用者の操作を記録し、スクロール中に留まっていた時間の長さ、クリックしたリンクの位置、マウスポインタの動き(パソコンからのアクセスのみ)などから長く注目していた領域とそうでない領域を段階的に色分けする。
詳細に調べる場合はユーザーテストを実施し、被験者の視線を記録できる特殊な機材を用いて実際にWebサイトを閲覧してもらう。視線の集まり具合や留まり具合によってページを段階的に色分けする。スクロールの記録からは分からない左右の違いまで詳細に明らかにすることができる。
レーダーチャート 【クモの巣グラフ】
グラフの種類の一つで、複数の項目の大きさを中心点からの距離で表したもの。各項目の大きさを同じ尺度で一覧し、項目間のバランスや全体的な傾向を図形の形状や大小で把握できる。
各項目の軸を図の中心を原点として放射状に伸ばし、それぞれの軸上に各項目の値をプロットする。隣接する項目同士を線分で結んでできた多角形が、対象の各項目の傾向を表している。
突出して高い項目や低い項目があると対応する角に大きな凹凸ができ、多角形のいびつさでバランスの良し悪しを視覚的に表現できる。また、値が全体的に高ければ多角形の面積が広く、低ければ狭くなる。
各軸は隣の軸となす角度がすべて等しくなるように配置し、最大値同士を線で結ぶと正多角形になる。途中の目盛りを結んだ線はクモの巣のような形になるため、「クモの巣グラフ」(spider chart)とも呼ばれる。
ロジックツリー
論理的思考のために用いられる作図法の一つで、対象を段階的に構成要素に分解していく様子を枝分かれしていく樹形図の形で示したもの。
物事の内訳や分類、問題の原因などを図示する技法の一つである。左端に大本の事象を書き入れ、そこから構成要素を右側に枝分かれさせる。各要素を細分化した要素をさらに右側に枝分かれさせ、この手順を繰り返して段階的に詳細化していく。
ある要素を構成要素へ分解する際には、細分化された要素をすべて足し合わせると左側の元になった要素全体を表すように心がける。このような分解法は「漏れなく、重複なく」という英語表現の頭文字をとって「MECE」(Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive)と呼ばれる。
ロジックツリーは様々な場面や対象に適用できる汎用的な技法で、構成要素に分解するものを「要素分解ツリー」(Whatツリー)、事象の原因を探求するものを「原因追求ツリー」(Whyツリー)、問題の解決策を探求するものを「問題解決ツリー」(Howツリー)と呼ぶことがある。組織の目標管理などでは「KPIツリー」もよく用いられる。
固定費
事業などにかかる費用のうち、生産量や販売数、操業度などに依らず固定的にかかる一定額の費用のこと。
設備のリース料や減価償却費、事業所の地代家賃、正社員の給与などが含まれる。生産量などが増えると単位生産量あたりの固定費は下がっていく。これに対し、原材料費や運搬費のように生産量などに応じて増減する費用を「変動費」という。
事業が全体として利益を生むためには、製品一単位あたりの変動費よりも高い価格で販売するだけでは不十分で、売上から変動費の総額を差し引いた粗利益で固定費を賄うことができる必要がある。固定費と変動費の合計が売上と等しくなる点を「損益分岐点」という。
なお、固定費が一定なのは年度や半期、四半期といった会計上の単位となる短い期間の中での話である。事業規模が大きくなれば相応に社員が増えたり事業所が増えるなどして固定費も増大し、規模が縮減すればリストラなどで固定費の削減を迫られることになる。
変動費
事業などにかかる費用のうち、生産量や販売数、操業度などに比例して増減するもの。一単位の製品の製造やサービスの提供ごとに決まってかかる費用である。
原材料費のように生産数などに正比例して必要となる費用のことで、運搬費、販売手数料、現場のパートタイム社員の給与、外注先への委託料などが該当する。これに対し、設備の減価償却費や事業所の地代家賃のように生産量などに依らず固定的にかかる費用を「固定費」という。
事業が全体として利益を生むためには、製品一単位あたりの変動費よりも高い価格で販売するだけでは不十分で、売上から変動費の総額を差し引いた粗利益で固定費を賄うことができる必要がある。固定費と変動費の合計が売上と等しくなる点を「損益分岐点」という。
損益分岐点 【BEP】
企業や事業の損益がちょうどゼロである状態。また、そうなるときの売上高や販売数量などのこと。売上と費用がちょうど均衡して損失も利益も出ていない状態であり、一般的な事業ではこれより売上が多ければ利益が上がり、少なければ損失が出る。
事業にかかる費用には、売上や販売数に応じて増減する「変動費」と、直接的には連動せず決まった額がかかる「固定費」がある。売上が少ない段階では固定費を賄えず赤字となるが、売上が増えていくと売上から変動費を差し引いた粗利が固定費に等しくなる点が現れる。
この状態になる売上や数量を損益分岐点と呼び、これを超えると利益を計上することができるようになる。損益分岐点の売上が現在の実際の売上に対してどのくらいの割合であるかを表す比を「損益分岐点比率」という。この値が1未満ならば収益が出ていることを表し、小さいほど収益性が高いことを意味する。
損益分岐点 【BEP】
企業や事業の損益がちょうどゼロである状態。また、そうなるときの売上高や販売数量などのこと。売上と費用がちょうど均衡して損失も利益も出ていない状態であり、一般的な事業ではこれより売上が多ければ利益が上がり、少なければ損失が出る。
事業にかかる費用には、売上や販売数に応じて増減する「変動費」と、直接的には連動せず決まった額がかかる「固定費」がある。売上が少ない段階では固定費を賄えず赤字となるが、売上が増えていくと売上から変動費を差し引いた粗利が固定費に等しくなる点が現れる。
この状態になる売上や数量を損益分岐点と呼び、これを超えると利益を計上することができるようになる。損益分岐点の売上が現在の実際の売上に対してどのくらいの割合であるかを表す比を「損益分岐点比率」という。この値が1未満ならば収益が出ていることを表し、小さいほど収益性が高いことを意味する。
IFRS 【International Financial Reporting Standards】
国際会計基準審議会(IASB)が策定した会計および財務諸表の作成・公表に関する基準。国ごとに異なる会計基準の収斂を目指したもので、2001年にIASB発足に伴い策定された。
IASB前身の国際会計基準委員会(IASC)が1970年代から策定・公表していた「国際会計基準」(IAS:International Accounting Standards)をベースとしており、世界のどの企業にも適用することができる国際的な会計基準を目指している。
EUが2005年に域内上場企業に対してIFRSの適用を求めたことを契機に、多くの国で00年代後半にIFRSの適用を要求あるいは容認する動きが広がった。国によって、それまでの自国の会計基準を破棄してIFRSを全面的に採用する「アドプション」(adoption)を実施する国と、日米のように国内基準を改正してIFRSに近づける「コンバージェンス」(convergence)を行なう国に分かれている。
従来の日本会計基準との主な違いとして、日本基準が様々な具体的な数値基準や詳細規則を定める細則主義なのに対して、IFRSは原理・原則を示して具体的な解釈は企業に任せる(解釈も公表させる)原則主義を取る点、日本基準が損益計算書を重視するのに対してIFRSは貸借対照表を重視する点などがある。収益認識基準やのれん代の償却、研究開発費の費用処理など具体的な項目についてもいくつか大きな違いが見られる。
売上総利益 【粗利】
企業などのある会計期間における利益額の算出法の一つで、売上高から売上原価を差し引いた額。企業や事業、製品の収益性を計る指標として重視される。
製品やサービスを販売して得た収入である「売上高」から、製品やサービスを提供するのにかかった直接的な費用である「売上原価」を差し引いたもの。売上高に占める割合は「売上総利益率」または「粗利益率」(粗利率)という。
ここで言う「原価」とは実際に売り上げた商品などにかかった原材料費や製造費などを合わせた費用で、これには間接的な経費や売れ残り商品にかかった費用は勘案されない。なお、売上総利益から経費(販売費や管理費)を差し引いた残りが会計上の「利益」(営業利益)となる。
営業利益
企業などのある会計期間における利益額の算出法の一つで、本業の営業活動による売上から、かかった費用を差し引いた残額のこと。
本業の営業活動で得た売上から、原材料費や製造費など直接的にかかった原価を差し引いた利益を「売上総利益」(粗利)というが、営業利益はそこから給与や家賃、光熱費、通信費、広告宣伝費など企業活動全体にかかる経費を差し引いたものを指す。ある期間に本業でどのくらい儲けが出たかを表している。
営業利益に本業以外に経常的に得られる収入や支払う支出(金利や保有資産の運用損益など)を反映した利益を「経常利益」という。経常利益に一回限りの一時的な収入や支出(資産の売買など)を反映したものを「(当期)純利益」という。
販売費及び一般管理費 【SGA】
会計の勘定科目の一つで、営業活動に費やした費用のうち、売上原価に参入されないもの。損益計算書などで費用の部に計上される。間接的、固定的な費用の総体。
販売費は製品の販売やサービス提供にかかった費用で、販売員の人件費や販売活動に要した交通費などの費用、広告宣伝費、販売促進費、販売手数料、商品の発送費用などが含まれる。
一般管理費は企業の運営自体に要した費用で、財務や総務、人事など間接部門の人件費や、企業活動全般かかる費用、すなわち、全社的な福利厚生費、採用費、旅費交通費、通信費、消耗品費、水道光熱費、地代家賃、リース料などが該当する。
企業の損益計算では、売上高から売上原価を差し引いた額を売上総利益(粗利益)というが、ここから販売費及び一般管理費を差し引くと営業利益、すなわち本業の利益となる。
ROA 【Return On Assets】
企業などの利益率の指標の一つで、ある年度の純利益の、総資産に対する割合。その企業の所有する資産と比較して、その年の利益がどれくらいの大きさかを示す値である。この値が高いほど、資産を効率よく活用できていることを表す。
総資産は株主資本や負債の合計で、その企業が所有する現金や不動産、生産設備などが含まれる。同じ資産額なら利益額が多いほどROAは高くなり、同じ利益額なら資産額が少ないほどROAが高くなる。ROAが高い企業は、より少ない資産で、より多額の利益を上げていることになる。
ROE 【Return Of Equity】
企業などの利益率の指標の一つで、ある年度の純利益の、自己資本に対する割合。株主が投資した金額と比較してその年の利益がどれくらいの大きさかを示す値で、この値が高いほど資本を効率よく活用できていることを表す。
「自己資本」とは、企業が使えるお金のうち、株主が投資した(払込済)資本金や過去の利益の蓄えである内部留保(利益剰余金)などから成るもので、返済の義務などがなく自由度の高い資金のことを指す。
同じ自己資本額なら利益額が多いほどROEは高くなり、同じ利益額なら自己資本額が少ないほどROEは高くなる。ROEには負債の多寡は影響しないため、ROEが高くても、少ない自己資本を過剰な借入などで補って利益を上げている場合もある。
FIFO 【First-In First-Out】
複数の対象を取り扱う順序を表した用語で、最初に入れたものを最初に取り出す(先に入れたものを先に出す)方式のこと。
複数の対象を列を作って待機させ順番に処理する際に、列に入った順番通りに列から取り出すような構造や手順のことを意味する。窓口などで人々が行列に並んで待ち、早く来た順に呼び出されるのと同じ方式である。
コンピュータ上でデータ群を一定の形式やルールで格納するデータ構造のうち、データを一列に並べて先入先出法で出し入れするものを「キュー」(queue)という。先入先出法方式でデータなどを取り扱うことを「キューイング」(queueing)ということがある。
これに対し、積み上げられた座布団のように、最初に入れたものを最後に出す(先に入れたものを後に出す)方式のことは「LIFO」(Last-In First-Out)「FILO」(First-In Last-Out)、あるいは「先入れ後出し」などという。
移動平均法
過去のデータから将来の値を予測する手法の一つで、直近の幾つかの値を平均し、これを予測値とする方式。経済指標の予測や企業の需要予測、生産計画の策定などに用いられる。
例えば、先月までの販売実績がわかっている時に、先月、先々月、3ヶ月前の値の算術平均を算出し、これを今月の販売量の予測値とする。どのくらい過去に遡って平均を算出するか定まった方法はなく、データの特性などから区間を決定する必要がある。
また、会計の分野では、仕入れた品物(棚卸資産)の単価などを算出する際に、当該物品を購入するたびにその時点の購入金額の合計を購入数量の合計で割って平均単価とする方式を移動平均法という。購入機会ごとに単価が変動する相場商品などの単価を決定する際によく用いられる。
一定期間ごとに平均額を算出する総平均法とは異なり、仕入れごとに平均単価を算出し直すため、計算の手間は増すが常に最新の評価額を把握することが可能となる。会計システムや在庫管理システムなどには移動平均法を適用する機能があらかじめ内蔵されていることが多く、金額と数量を適切に入力・記録していれば自動的に算出される。