シンギュラリティ 【technological singularity】 技術的特異点
概要
シンギュラリティ(technological singularity)とは、人工知能(AI)の能力が人間の知性を超える歴史的転換点。コンピュータや人工知能の改良が現在のペースで続いていくと、数十年以内という近い将来に起きると予想する論者がいる。何をもってシンギュラリティとするか、そのような事態が起きうるか、起きた後の世界はどうなるかについては百家争鳴の状態で、広く合意された予測や学説などは存在しないが、現在一般に論じられているシンギュラリティとは、人工知能が自らを改良する手段を獲得し、加速度的に進化した結果、人間の知性を大きく凌駕する知性体が誕生するというものである。
汎用AI
人間のような知性や知能と、意識や意志(に相当する自律的に行動する仕組み)を持つ人工知能は「強いAI」(strong AI)あるいは「汎用人工知能」(AGI:Artificial General Intelligence)と呼ばれる。
現在は存在しうるかどうかすら明らかになっていないが、もしそのような存在が生み出されると、人間の力に頼らず自らを改良するための研究や発明を行うことができるようになり、いずれ人間の理解できない方法で人間を大きく超える知性を獲得するというのがシンギュラリティの基本的な考え方である。
予想と批判
シンギュラリティによって生じる事態には様々な予想があり、全人類が労働から解放され裕福に暮らせるようになるといった楽観的なものから、映画「ターミネーター」のように人類に敵対して滅ぼそうとするのではないかといった悲観的なものまである。
実現可能性についても様々な考え方があり、そもそも現在のAI研究の延長線上に自らを人間の思いつかない方法で改良する自律的なAIが誕生すると想定するのは無理があるとする意見や、AIが依り代とする半導体チップの素子や配線の微細化が物理限界に近づいており、物理的な制約が足かせとなって近い将来の実現は無理ではないかといった意見などがある。
歴史
シンギュラリティの概念を最初に提唱したのはアメリカの数学者でSF作家のヴァーナー・ヴィンジ(Vernor Steffen Vinge)氏であると言われており、1980年代に発表されたSF作品の中で遠い未来の架空の概念として提示している。
これを現実に起きうるものとして紹介したのはアメリカの発明家で未来学者のレイ・カーツワイル(Ray Kurzweil)氏で、2005年の著書「The Singularity Is Near: When Humans Transcend Biology」(邦題:ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき)の中で、シンギュラリティの定義を「1000ドルのコンピュータが全人類の計算能力を足し合わせたより強力になる時点」として、それは2045年であると予想している。
2012年に人工知能の実装方式の一つである「ディープラーニング」(deep learning)の驚異的な性能が実証されて以降、人工知能の進歩と社会への普及が大きく進展しており、2010年代後半頃から、そう遠くない将来起こりうる事態としてシンギュラリティへの関心が高まっている。