読み方:ちしきかくとくのボトルネック

知識獲得のボトルネック 【knowledge acquisition bottleneck】

概要

知識獲得のボトルネック(knowledge acquisition bottleneck)とは、人間は一つの知的判断を下す際に実際には膨大な背景知識を動員しており、そのすべてを明示的に記述してコンピュータに与えるには途方もない時間とコストがかかってしまうという問題。

1980年代前後の第2次AIブームでは、前の時代より向上したコンピュータの処理能力や記憶容量を背景に、人間の持つ知識を一定の形式で記述し、明示的に定義された推論ルールを適用して様々な知的な処理を行うアプローチが用いられた。

語彙や文法を定義して入力文に適用するルールベース機械翻訳や、専門家の知識の体系をデータベース化してその分野の質問に回答するエキスパートシステムなどの応用例が構想され、書籍や専門家への聞き取りなどを元に、一定のデータ形式で知識ベースを構築する活動が活発に行われた。

しかし、この方法では、多義的な意味を持つ単語のどの意味を選択するのが適切か、といった問題を解決することが難しい。例えば “This box was in the pen.” という文章は「この箱はペンの中にあった」ではなく「この箱は囲いの中にあった」という意味だが、これを正しく解釈できる知識ベースを構築するのは非常に難しい。

名詞の “pen” には、「ペン」「作家」「囲い」など複数の異なる意味があり、人間は文脈や常識を元に、「箱が入っている pen はペンや作家ではなく囲いのことだ」と判断している。このような判断のためには「通常、物が人に入っているという表現はしない」「通常、ペンは箱より小さい」といった常識が必要となる。

この2つの事実を形式的に記述して入力することは可能だが、このような常識に属する知識は無数にあり、列挙してデータとして入力するのには膨大な労力と記憶容量が必要となる。また、常識にせよ専門知識にせよ、人間には自覚せず暗黙的に用いる知識が大量にあり、明示的に列挙すること自体がそもそも困難である。こうした形式的な知識の獲得に関する限界を指して「知識獲得のボトルネック」と呼んでいる。

(2025.9.3更新)

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