読み方:シンボルグラウンディングもんだい

シンボルグラウンディング問題 【symbol grounding problem】

概要

シンボルグラウンディング問題(symbol grounding problem)とは、単語など人間が扱う記号が、それが指し示す現実の対象にどのような結びつけるのかという問題。AIなどの機械が人間のように言語を扱おうとする際に問題となる。

1990年に哲学者のスティーブン・ハーナッド(Steven Harnad)氏が提起した問題である。人間は単語や熟語などの記号を扱う際に、それが指し示す現実世界の対象や抽象的な概念を暗黙的に思い浮かべて理解しているが、単純な記号処理プログラムにはそれができない。

ハーナッド氏が示した例では、“horse”(馬)と“stripe”(縞模様)を知っている人間は、“zebra”(シマウマ)が何か知らなくても、「縞模様の馬だ」という説明を聞けば、初めて見たシマウマを「これがシマウマだ」と認識できるが、記号を記号としてしか処理しないプログラムは、馬の姿や縞模様を思い浮かべるわけではないため、このような理解はできない。

このように、記号が何を表しているか思い浮かべることなく、記号の操作だけで自然言語を扱うには限界がある。人間は記号が表す内容について暗黙的に様々な意味やイメージを想起しており、人工知能などの機械が言語を扱う際にも、記号が表す内容を処理する何らかの仕組みが必要となることを示唆している。

この問題に対して、人間が五感を通じて現実を認識する点に着目し、機械にもセンサーなどを通して得た感覚的な情報を記号と共に記録・処理するアプローチが考えられた。人間の「身体性」を機械でも再現しようとする方策だが、映像信号などから概念を抽出して表現する手法などに困難があり、あまりうまく行っていない。

一方、ディープラーニングでは大量の言語データを機械学習システムに投入することで、一つの言葉に別の言葉がどのように関わっているかというパターンをニューラルネットワークとして表現することが可能になった。現在実用化されている大規模言語モデルLLM)に「縞模様の馬」を尋ねれば「シマウマ」と答えることができ、記号の操作のみでシンボルグラウンディング問題をある程度解決することができている。

(2025.8.25更新)

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