TeX

概要

TeXとは、アメリカのコンピュータ科学者、ドナルド・クヌース(Donald E. Knuth)氏が開発した組版システム。また、同システムで文書を作成する際に用いられる、レイアウトや書式などを指定するマークアップ言語

テキスト(文字)形式の本文の中に特殊な記法を用いて見出しや段落、引用、注記といった文書の構造、および、各要素の配置や見栄えなどを記述する。例えば、「¥title{タイトル名}」(¥は日本以外ではバックスラッシュ「\」)で文書の表題を設定することができる。テキストデータは標準では「.tex」拡張子ファイルに保存する。

これを専用のソフトウェアが解釈して、実際にページごとに要素を割り付けた組版済みの中間形式に変換する。このデータDVI(device independent)形式と呼ばれ、標準では「.dvi拡張子ファイルに保存される。最後に、DVI形式に対応したソフトウェアによって表示や印刷、他の形式への変換などがわれる。

商業出版にも利用可能な強力な組版機能を持ち、特に、ワープロソフトなど一般的な文書作成ソフトの多くが苦手とする複雑な数式の記述に関する機能が充実しているため、科学技術系の論文や専門書の組版によく用いられる。

もともと仕様として用意されている命令文だけでなく、複数の命令文を組み合わせて新たな命令を定義するマクロ機能もあり、特定の分野や種類の文書に必要な命令をまとめたパッケージが多数公開されている。汎用的な機能拡張LaTeXや、日本語組版用の機能を追加するpTeX、数学向けの機能を強化するAMS-TeXなどがよく知られる。

歴史

TeXは1976年にクヌース氏が著書を美しく印刷するために開発を始めたもので、1978年に初版が公開された。1989年のバージョン3で機能の追加は終了し、以降は不具合の修正のみがわれている。バージョン番号は修正される度に「3.1」「3.14」「3.141」「3.1415」…と円周率(π)に近づいていき、同氏の死をもってバージョンπとなりそれ以降の修正はわれないと宣言されている。

TeXの仕様や処理系ソースコードは公開されており、誰でも自由に入手や利用が可能だが、改変や再配布はオリジナルとの差分を公開する(改変版自体の配布はできない)という特殊な利用許諾(ライセンス)が適用される。有志によって様々な追加ソフトや機能強化版が公開されている。

名称

TeXの名称はギリシャ語で美術や工芸を意味する「τέχνη」(テクネ)に由来し、「T」は正しくはギリシャ文字のタウ(Τ)、同じく「E」はイプシロン(Ε)、「X」はカイ(Χ)である。正確にはTEXとEを下に半分下げて表記するが、それができないときはTeXとEを小文字にすることと定められている。

ギリシャ語の「~X」の発音はドイツ語 の “ch” 音に近い音(日本語では「フ」に近い)とされるが、英語圏では馴染みの薄い音であるため、“k” 音(日本語では「ク」に近い)で代用されることが多い。日本では本来の音に近い「テフ」と呼ぶ人と英語圏での読みに近い「テック」と呼ぶ人が混在している。

(2021.7.11更新)

他の辞典による解説 (外部サイト)

この記事の著者 : (株)インセプト IT用語辞典 e-Words 編集部
1997年8月より「IT用語辞典 e-Words」を執筆・編集しています。累計公開記事数は1万ページ以上、累計サイト訪問者数は1億人以上です。学術論文や官公庁の資料などへも多数の記事が引用・参照されています。
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