ITパスポート単語帳 - ネットワーク
ネットワーク 【ネット】
「網」という意味の英単語。網そのものを指す用法の他に、複数の要素が互いに接続された網状の構造のことを比喩的にネットワークという。
ネットワーク状の構造を構成する各要素のことを「ノード」(node)、ノード間の繋がりのことを「リンク」(link)あるいは「エッジ」(edge)と言う。
ITの分野では、複数のコンピュータや電子機器などを繋いで信号やデータ、情報をやりとりすることができるコンピュータネットワークあるいは通信ネットワークのことを意味することが多い。
一般の外来語としては、人間関係の広がりのことや、組織や集団、拠点などの間の繋がりや体系、交通機関や道路などの地理的な構造(交通網)などをネットワークと呼ぶ。
LAN 【Local Area Network】 ⭐⭐⭐
限られた範囲内にあるコンピュータや通信機器、情報機器などをケーブルや無線電波などで接続し、相互にデータ通信できるようにしたネットワークのこと。概ね室内あるいは建物内程度の広さで構築されるものを指す。
銅線や光ファイバーなどを用いた通信ケーブルで機器間を接続するものを「有線LAN」(wired LAN)、電波などを用いた無線通信で接続するものを「無線LAN」(wireless LAN)という。
有線LANの通信方式としては「イーサネット」(Ethernet/IEEE 802.3)系諸規格が、無線LANの通信方式としては「Wi-Fi」(ワイファイ/IEEE 802.11)系諸規格がそれぞれ標準として普及しており、単にLANといった場合はこれらの方式を用いたネットワークを指すことが多い。他にも建物内に電気を供給するために張り巡らされた電力線を流用して通信する方式などがある。
主な用途
1980年代頃から企業や公的機関、大学、研究機関などで普及し始め、施設内にあるコンピュータを相互に接続し、高機能・高性能なサーバコンピュータでファイルなどの情報資源を一元的に管理したり、プリンタなどの機器を複数のコンピュータで共有するのに用いられてきた。
インターネットの一般への普及が始まると、構内の機器を外部への回線に接続する中継手段としても広く用いられるようになった。近年では一般家庭でもパソコンやスマートフォン、デジタル家電などを相互に接続したり、インターネットに接続するための通信ネットワークとして「家庭内LAN」が普及している。
他の分類
これに対し、通信事業者の回線網などを通じて地理的に離れた機器や施設間を広域的に結ぶネットワークを「WAN」(Wide Area Network:広域通信網、ワイドエリアネットワーク)と呼び、LANの対義語として用いられる。
LANとWANの中間規模のネットワークとして、一都市内などに収まる範囲の「MAN」(Metropolitan Area Network:メトロポリタンエリアネットワーク)や、大学のキャンパスや工場などで敷地内の複数の建物のLANを一つのネットワークに結んだ「CAN」(Campus Area Network:キャンパスエリアネットワーク)などの概念を用いることもある。
また、LANに似た概念として、個人の所有・利用するコンピュータや携帯機器、周辺機器などを無線通信などで相互に結ぶネットワークを「PAN」(Personal Area Network:パーソナルエリアネットワーク)、自動車などの(大型の)機器の内部で装置間を結ぶネットワークを「CAN」(Controller Area Network:コントローラエリアネットワーク)、これらをLANの一種に分類することもある。
WAN 【Wide Area Network】 ⭐⭐⭐
地理的に離れた地点間を結ぶ広域的な通信ネットワーク。建物内や敷地内を構内ネットワークと対比される用語で、通信事業者が設置・運用する回線網のことを指すことが多い。
また、通信事業者の回線網を通じて複数の拠点間のLANを相互に結び、全体として一つの大きなネットワークとした企業内ネットワークのことをWANと呼ぶこともある。
文脈によっては、世界の通信事業者、企業、各種組織などのネットワークを相互に結んだものという意味合いから、インターネットのことをWANと呼ぶ場合もある。
MAN (Metropolitan Area Network)
広域的な回線網のうち、一つの都市や市街地の内部を繋ぐ高速・高密度な回線網をMAN(マン/Metropolitan Area Network:メトロポリタンエリアネットワーク)と呼ぶことがある。
WANとLANの中間規模のネットワークの類型の一つで、通信拠点や施設間を光ファイバー回線などで結ぶ中長距離の高速な通信ネットワークと、建物内で末端のコンピュータや通信機器を結ぶLANを組み合わせて構築される。前者の拠点間ネットワークのみを指す場合もある。
CAN (Campus Area Network)
企業の大規模拠点や工場、大学、基地などで、広大な敷地内の建物や施設をまたいで敷設される構内ネットワークをCAN(キャン/Campus Area Network:キャンパスエリアネットワーク)と呼ぶことがある。
WANとLANの中間規模のネットワークの類型の一つで、複数の施設内のLANを地中などに敷設した高速な光ファイバー回線などで相互接続し、一体的に運用したものを指す。
概ね、単一の主体が所有・管理する地理的に連続した用地に敷設されたコンピュータネットワークをこのように呼ぶが、MANとの区別は必ずしも明確ではない。一つの街のように広大なアメリカの総合大学や大企業本社などでは構内ネットワークをMANと呼ぶ例も見られる。
NIC 【Network Interface Card】 ⭐
コンピュータなどの機器を構内ネットワーク(LAN)に接続するためのカード型の拡張装置。筐体背面や側面などに用意された拡張スロットなどに挿入して使用する。本体内蔵の装置を指す場合もある。
接続するネットワークの種類によって仕様やコネクタ形状などが異なるが、単にネットワークインタフェースカードといった場合は最も普及している「イーサネット」(Ethernet)に接続するためのコネクタ(RJ45端子)や通信用ICなどを内蔵した拡張カードのことを指す。
イーサネット規格は様々な世代や仕様に分かれており、同じRJ45ポートを備えていても対応している規格や通信速度は製品ごとに異なる。現在は100Mbpsで通信可能な100BASE-TXと1Gbpsで通信可能な1000BASE-Tに両対応した製品が主流となっている。
拡張カード以外にもUSBアダプタ型の製品などもあり、これらを総称して「ネットワークアダプタ」「LANアダプタ」「Ethernetアダプタ」などという。「ネットワークインタフェースカード」をこの総称の意味で用いることもある。さらに、コンピュータの設定画面などでは無線LAN(Wi-Fi)に接続するための「Wi-Fiアダプタ」や、内蔵Wi-Fi接続機能も総称してネットワークインタフェースカードと呼ぶ場合がある。
かつてはコンピュータ本体にネットワーク機能が用意されておらず、拡張スロットなどにネットワークインタフェースカードを差し込んで機能を追加するのが一般的だったが、現代では有線あるいは無線(あるいは両方)のネットワーク通信機能が内蔵されている機種がほとんどで、単体のネットワークインタフェースカード製品を用いることは少ない。
本体内蔵型も含めたネットワーク機能の総称として用いる場合は、「NIC」を「Network Interface Controller」の略とする場合もある。また、物理コンピュータ内部にソフトウェアにより仮想的に構築した仮想マシン(VM)では、ソフトウェアで再現されたネットワーク接続機能を「仮想NIC」(vNIC)と呼ぶことがある。
ハブ ⭐⭐⭐
車輪やプロペラなどの中心にある部品や構造のこと。転じて、中心地、結節点、集線装置などの意味で用いられる。IT分野では構内ネットワークなどで用いられる集線装置を指すことが多い。
電気通信や光通信では、機器間をケーブルで結んで通信する際に、複数のケーブルを接続して相互に通信できるようにする集線装置、中継装置のことをハブという。用途や通信方式の違いにより「イーサネットハブ」「USBハブ」など様々な種類がある。
ネットワークハブ
有線LAN(構内ネットワーク)の標準であるイーサネット(Ethernet)では、各機器からケーブルをハブに接続し、ハブが信号の中継・転送を行うことによって機器間の通信を行う。このような接続形態を「スター型ネットワーク」という。
ハブには銅線ケーブル(UTPケーブル)を差し込むためのRJ45ポートや光ファイバーケーブルを差し込むための光ポートが並んでおり、各機器から通じるケーブルを接続する。あるケーブルから流れてきた信号を他のケーブルに流すことで相互に通信できるようにする。
単純に受信したすべての信号を増幅してすべてのケーブルに再送出するハブを「リピータハブ」(repeater hub)、信号からイーサネットフレームを復元し、宛先のMACアドレスを解析して関係するケーブルにだけ選択的に転送するハブを「スイッチングハブ」(switching hub)という。
現在ではスイッチングハブが一般的になったため、ハブと呼ばずに「ネットワークスイッチ」(network switch)「イーサネットスイッチ」(Ethernet switch)「LANスイッチ」(LAN switch)「L2スイッチ」(Layer 2 switch)あるいは単にスイッチと呼ぶことが多い。
USBハブ
コンピュータと周辺機器や携帯機器の接続に用いられるUSBでは、複数の機器からの接続を受け入れてコンピュータ側に一つのUSBケーブルで接続する集線装置を「USBハブ」という。コンピュータ側は一つのUSBポートで複数の機器を接続することができる。
コンピュータ側のUSBポートに接続するためのUSBケーブルと、数個のUSBポートを備えた小型の機器で、ポートの数だけUSB機器を接続し、コンピュータへ信号を中継する。液晶ディスプレイなどにUSBハブの機能が埋め込まれて提供される場合もある。
データハブ
情報システムやソフトウェアの分野では、システム間でやり取りするデータを集積・中継する専門のシステムを「データハブ」あるいは単にハブと呼ぶことがある。SOA(サービス指向アーキテクチャ)などで用いられるミドルウェアで、データの出し手からデータを受け取って保管し、そのデータを必要とする受け手へ引き渡す役割を果たす。
ルータ ⭐⭐⭐
コンピュータネットワークの中継・転送機器の一つで、データの転送経路を選択・制御する機能を持ち、複数の異なるネットワーク間の接続・中継に用いられるもの。
ルータはプロトコル階層のうちネットワーク層(インターネット層、第3層)の情報を解析してデータの転送の可否や転送先の決定などを行う機器で、主にインターネットなどのTCP/IPネットワークにおける主要な中継機器として用いられる。
接続先から受信したデータ(パケット)を解析し、IP(Internet Protocol)の制御情報を元に様々な転送制御を行う。中でも最も重要な処理は「ルーティング」(routing)で、パケットの宛先IPアドレスから適切な転送経路を選択し、隣接する機器の中から次に転送すべき相手を決定してパケットを送信する。
インターネットなど大規模なネットワークでは、ルータ間でこのような転送をバケツリレー式に繰り返し、送信元から宛先へ複数のネットワークを通過してパケットが運ばれていく。
ルータが経路選択を行う際には一般に、「ルーティングテーブル」(routing table、経路表)と呼ばれるデータ集合が参照される。宛先のネットワーク(のアドレス)ごとにどの機器に中継を依頼すべきかが列挙されており、宛先アドレスに対応する転送先を見つけてその機器にパケットを転送する。
静的ルーティングと動的ルーティング
小規模なネットワークでは、ルータのルーティングテーブルを管理者などが固定的に入力・設定する「スタティックルーティング」(static routing:静的ルーティング)が用いられることが多い。
一方、異なる管理主体のネットワーク間の接続や、大規模なネットワーク、頻繁に構成が変更されるネットワークなどでは、ルータ間で定期的に経路情報を交換してルーティングテーブルを作成・更新する「ダイナミックルーティング」(dynamic routing:動的ルーティング)が用いられる。
ルーティングプロトコル
ルータ間の経路情報の交換には専用の通信規約(プロトコル)が用いられ、これを「ルーティングプロトコル」(routing protocol)という。
同一の管理主体の運営するネットワーク(AS:Autonomous System、自律システム)内で用いられるルーティングプロトコルをIGP(Interior Gateway Protocol)と呼び、RIPやOSPF、IGRP、EIGRPなどが用いられる。一方、異なるAS間の接続ではEGP(Exterior Gateway Protocol)と呼ばれるルーティングプロトコルが用いられ、インターネット上では一般にBGPが用いられる。
他の機能
ルータは経路制御だけでなく、アドレス体系の異なるネットワーク間(WANとLAN、プライベートネットワークとインターネットなど)でアドレス変換を行って相互に通信できるようにするNAT/NAPT機能や、ネットワークに新たに接続した機器にDHCPなどで自動的にIPアドレスを割り当てる機能、指定されたルールに従って接続や中継の許可や拒否を行うパケットフィルタリング機能、通信の種類ごとに転送の優先度に差をつけたり、上限の帯域幅を超えないよう制御するQoS制御機能など、様々な機能を持っていることが多い。
他の中継機器
プロトコル階層のうちデータリンク層(リンク層、第2層)の情報を元に転送制御を行う機器にはブリッジ(bridge)やネットワークスイッチ(network switch、単にスイッチとも)、スイッチングハブ(switching hub)などがあり、ルータはこれらの機能も内包している。
また、転送制御を行わず物理層(第1層)の単純な中継のみを行う機器にはリピータ(repeater)やリピータハブ(repeater hub)などがある。こうした様々な機器をルータと組み合わせてネットワークが構築される。
コアルータとエッジルータ
ルータの役割や製品分類で、主に通信事業者などの基幹ネットワークの中心部で用いられるものを「コアルータ」(core router)という。
広域回線網の主要拠点間を繋ぐコアネットワーク(バックボーンネットワーク)などの大規模ネットワーク内部の転送・中継に用いられるルータ製品で、高い性能や信頼性、多数の回線を収容する拡張性、筐体や回線の高密度化が容易なデザインなどが求められる。
一方、基幹ネットワーク末端で外部の回線やネットワークとの接続に用いられるルータは「エッジルータ」(edge router)と呼ばれる。広域回線網の終端などに設置され、大規模ネットワークの末端部と小規模でローカルなネットワーク(特定の拠点の構内ネットワークなど)の接続・中継に用いられる。
遠距離回線を挟んで中心側と末端側の両方の装置をエッジルータと呼ぶ場合と、中心側を「センタールータ」(center router)と呼び、末端側のみをエッジルータと呼ぶ場合がある。また、VPNサービスなどで中心側が通信事業者、末端側が加入者の場合には、中心側を「PEルータ」(Provider Edge router)、末端側を「CEルータ」(Customer Edge router)と呼ぶ場合がある。
ネットワークスイッチ
コンピュータネットワークの集線装置の一種で、受信したデータの宛先を見て、接続された各機器への転送の可否を判断する機能を内蔵したもの。
ネットワークスイッチには複数の機器がケーブルなどを介して接続され、これらの間でデータの中継・転送を行い、機器間で通信ができるようにする。このとき、受け取ったデータを解析して、関連する相手先にのみデータを再送信し、それ以外の機器には転送しない。
単純にすべての電気信号をすべての機器に向けて再送信するような中継装置に比べ、通信回線を不要なデータが流れることを防ぎ、ネットワーク全体の性能を向上させることができるが、受信したデータをすべて解析する必要があるため高度なデータ処理機能が必要となる。単に「スイッチ」とも呼ばれる。
プロトコル階層による分類
プロトコル階層のどの段階の情報を解析して中継の可否を判断するかによっていくつかの種類がある。最も一般的なのは、MACアドレスなどデータリンク層(リンク層、第2層)の情報を元に転送を行う「L2スイッチ」(Layer 2 switch)で、単にスイッチと言えば通常はこれを指す。
IP(Internet Protocol)などネットワーク層(インターネット層/第3層)の情報を用いるものを「L3スイッチ」(Layer 3 switch)、UDPやTCPなどトランスポート層の情報を用いるものを「L4スイッチ」(Layer 4 switch)などという。
二つのネットワークセグメントを接続する中継装置のうち、ネットワークスイッチのような選別機能を持った機器は「ネットワークブリッジ」(network bridge)あるいは単に「ブリッジ」(bridge)と呼ばれる。ネットワークスイッチをブリッジの一種とする場合もある。
回線 【通信回線】
ある機器から離れた場所にある別の機器まで信号やデータを伝達する物理的な媒体や経路のこと。
狭義には、ある装置と別の装置を結ぶ一本の通信ケーブルのことや、ケーブルと中継機や増幅器、集線装置、交換装置などを組み合わせて離れた二地点間を結ぶ通信線路を意味する。広義には、より抽象的に、様々な伝送媒体や通信方式、変換機器などを組み合わせ、二地点間で相互に通信することが可能な伝送経路を意味することもある。
多数の機器やケーブルなどを網状に張り巡らせ、多地点間を結ぶことができるものを「回線網」(通信回線網)あるいは「ネットワーク」(通信ネットワーク)という。また、物理的な回線網上に論理的に構築した二地点間の直結回線を「仮想回線」という。
単に通信回線といった場合はケーブルに光や電気を流して信号を伝達する有線通信の線路・経路を意味することが多いが、電波や赤外線、可視光線などを空中に発して信号を伝達する無線通信技術を用い、二地点間を繋ぐよう設定された伝達経路のことを「無線回線」ということもある。
有線LAN 【wired LAN】
室内や建物内、敷地内の機器を結ぶ構内ネットワークのうち、信号の伝送媒体として通信ケーブルを用いるもの。ケーブルの敷設や取り回しが必須だが、伝送速度が高速でセキュリティを高めやすい。
構内に通信ケーブルを配線し、コンピュータや通信機器、電子機器などを繋いで相互に通信を行う。大きく分けて、銅線などでできたメタルケーブルに電気信号を流す方式と、ガラスや透明なプラスチックでできた光ファイバーに光信号を流す方式がある。
1980年代頃までは様々な方式が開発され機種や用途により使い分けられていたが、現在では概ね「イーサネット」(Ethernet)と総称される規格が事実上の標準として広く普及している。
中でもRJ45コネクタのUTPケーブル(非シールドより対線ケーブル)を用いて100Mbps(メガビット毎秒)で通信できる100BASE-TX(Fast Ethernet)や1Gbps(ギガビット毎秒)で通信できる1000BASE-T(Gigabit Ethernet)などの規格が有名で、単に有線LANと言えばこれらの方式を指すことが多い。
一方、電波による無線通信でネットワークを構築する方式は「無線LAN」(wireless LAN)という。有線LANは配線の手間がかかり機器の配置や移動の自由度は低いが、機密性を確保しやすく同一空間内での機器や回線の密度を高めやすいという特徴があり、同じ世代の技術で比較すると通信速度が高速である。
パソコンやスマートフォンなどにWi-Fi接続が広く浸透した現在でも、施設内に固定的に設置されるサーバコンピュータや通信機器などは有線LANで接続するのが一般的である。
無線LAN 【wireless Local Area Network】 ⭐⭐⭐
電波による無線通信により複数の機器間でデータの送受信を行なう構内ネットワークのこと。狭義にはIEEE 802.11規格に準拠した方式を指し、「Wi-Fi」(ワイファイ)の愛称で親しまれる。
LAN(Local Area Network)は室内や建物内、あるいはそれに準じる屋外の比較的狭い範囲内の機器を相互に接続するコンピュータネットワークで、機器間を通信ケーブルで繋いで電気信号や光信号を伝送するものを「有線LAN」(wired LAN)、直接繋がっていない機器間で電波などをやり取りするものを無線LANという。
通信ケーブルの取り回しがないことが最大のメリットで、同世代の技術や製品で比較すると有線LANに比べ通信速度や安定性、機密性などで劣ることが多いが、オフィスや家庭での日常的なネットワーク利用には十分な性能があるため、急速に普及が進んでいる。
単に無線LANと言えばほとんどの場合にIEEE 802.11シリーズの標準規格に準拠した機器で構成されるネットワークを指し、業界団体の推進する「Wi-Fi」の名称で普及している。広義にはBluetoothやZigBeeなど他方式によるネットワークを含むが、これらはWi-Fiよりも狭い範囲の通信が主な用途であるため無線PAN(Wireless Personal Area Network)と呼ばれることもある。
一方、同じ無線通信網でも通信事業者などが運用する広域的なネットワークは無線WAN(Wide Area Network)という。携帯電話網やそれを応用した移動体データ通信網などが該当する。スマートフォンは無線LANと無線WANの両方に対応しているのが一般的で、環境に応じて切り替えたり、両ネットワーク間を中継(テザリング/モバイルルータ)することができる。
WiMAX 【Worldwide Interoperability for Microwave Access】
広域的な無線データ通信の標準規格の一つ。当初は固定系の仕様だったが移動体向けに改良され、現在は移動体通信サービスに用いられている。日本ではKDDI系の「UQ WiMAX」サービスでよく知られている。
2003年に策定された最初のWiMAX規格(IEEE 802.16)は、同じ場所に固定的に設置された機器間を結ぶ固定系無線通信方式で、1台のアンテナで半径30マイル(約50km)をカバーし、最大で70Mbpsの速度で通信できる。使用する電波周波数帯はIEEE 802.16では10~66GHz帯、改良版のIEEE 802.16aでは2~11GHzとなっている。
屋内など近距離の通信に用いることを想定したWi-Fi(無線LAN)などとは異なり、通信事業者の基地局と加入者宅を結ぶ、加入者系通信網の末端部分、いわゆる「ラストワンマイル」での利用を想定していた。
このような無線による加入者系アクセス網を「無線WAN」(WWAN:Wireless Wide Area Network)あるいは「無線MAN」(WMAN:Wireless Metropolitan Access Network)という。一軒ずつ通信ケーブルを敷設するのは高コストな人口密度の低い地域での利用が期待された。
後継規格の「モバイルWiMAX」(IEEE 802.16e)や「WiMAX 2」(IEEE 802.16m)では想定用途を移動体通信に変更し、現在では「WiMAX」は高速な移動体データ通信規格と認識されている。実際の通信サービスでも接続対象はスマートフォンなどであり、移動体通信サービスとして提供されている。
「Wi-Fi」と「IEEE 802.11」の関係と同じように、「WiMAX」(World Interoperability for Microwave Access)は「IEEE 802.16」通信規格に対する業界団体WiMAX Forumによるブランド名である。同規格に対応した各社の通信機器の互換性と相互運用性をテストし、認証を与えている。「WiMAX準拠」の機器同士はメーカーが違っても組み合わせて使用できることが保証される。
VLAN 【Virtual LAN】
一つの構内ネットワーク(LAN)内に、物理的な接続形態とは独立に機器の仮想的なグループを設定し、それぞれをあたかも一つのLANであるかのように運用する技術。
LANスイッチ(スイッチングハブ)の機能の一つで、接続された機器を管理者の設定した任意の数のグループに分け、ネットワークを分割することができる。これにより、各機器はそれぞれのグループの範囲内でのみ直接通信できるようになり、ブロードキャストフレーム(宛先に全機器を指定したデータ)による回線の混雑を緩和することができる。
また、複数のスイッチにまたがる大規模なネットワークをVLANに分割することもでき、多数の機器を一つのフラットなネットワークに繋いで管理することができる。端末を使用する従業員の所属先に応じて参加するネットワークを切り替えるなど、物理的な配線に縛られずに柔軟にネットワークを構成・変更することができる。
人員の異動や機器の入れ替え、移転の際にも機器の配置や配線を気にすることなくVLANの設定を確認・変更するだけで済む。利用者は組織内の自分に無関係なネットワークへは直接接続できないようなるためセキュリティを向上させる効果もある。
ポートVLANとタグVLAN
最も単純な方式として、一台のLANスイッチのケーブル接続口(ポート)毎に、どのVLANに所属するか設定する「ポートVLAN」(ポートベースVLAN)がある。同じVLAN IDに設定されたポート同士が接続可能となる。
これに対し、イーサネットフレームの一部にVLANの識別番号(VLAN ID)を書き込み、同じVLAN IDを持つポート間に流通させるのが「タグVLAN」である。複数のスイッチ間でVLAN設定を共有することで、スイッチをまたいだ大規模なネットワークでVLANを構成することができる。フレームにタグを追加する方式はIEEE 802.1Qとして標準化され、ほとんどのメーカーの製品が対応している。
スタティックVLANとダイナミックVLAN
ポートごとに所属VLANが固定されている方式を「スタティックVLAN」と呼び、ポートに接続された機器の情報を元にVLANを決定する方式を「ダイナミックVLAN」という。
後者は機器が移動して接続先のポートが変わった場合でも、特に設定を変更すること無く適切な接続先に自動的に導いてくれる。接続した機器のMACアドレスによって識別する「MACベースVLAN」、IPアドレスによって識別する「サブネットベースVLAN」、利用者の認証情報によって識別する「ユーザベースVLAN」あるいは「認証VLAN」などの種類がある。
Wi-Fi ⭐
電波を用いた無線通信により近くにある機器間を相互に接続し、構内ネットワーク(LAN)を構築する技術。本来は無線LAN規格のIEEE 802.11シリーズの認証プログラムの名称だが、「無線LAN」の同義語のように扱われることが多い。
LAN(Local Area Network)は室内や建物内、あるいは屋外でそれに準じる数十メートル程度までの比較的狭い範囲内の機器を相互に接続するコンピュータネットワークで、屋内のコンピュータとインターネットの接続、オフィス内のコンピュータ間の接続、家庭内のデジタル機器間の接続などで広く普及している。
従来は集線装置を介して各機器を通信ケーブルで接続するイーサネット(Ethernet)などの有線LANが主流だったが、同じ機能を無線通信で実現する無縁LANが登場し、ケーブルを取り回す必要のない手軽さから広く受け入れられた。また、スマートフォンやタブレット端末など携帯型の情報機器のネットワーク接続手段の一つとしても標準的に用いられている。
無線LANの標準規格としてIEEE 802.11および後継の諸規格が発行されているが、機器の相互運用性を確保・保証するため、業界団体の「Wi-Fi Alliance」が接続試験を行い、認定された機器に「Wi-Fi」ブランドの利用を許可している。「Wi-Fi CERTIFIED」マークのある機器はメーカーが異なっても相互に通信することができる。
接続形態
<$Img:Wi-Fi-Access-Point.png|right|>Wi-Fiの通信は「アクセスポイント」(AP:Access Point)と呼ばれる据え置き型の中継装置を中心に各機器が接続され、機器間の通信はAPを介して行う接続形態が一般的となっている。これを「インフラストラクチャーモード」という。
無線はケーブル接続と異なり送受信対象を物理的に指定したり制限することが難しいため、周囲の機器は各APに設定されたSSIDと呼ばれる固有の識別名を用いてAPを識別する。利用者は近隣にあるAPのSSIDの一覧の中から適切なものを選択して(あるいはSSIDを直接入力・指定して)接続を申請する。
また、APが無くても少数の機器(通常は二台)間であれば相対で通信することができる「アドホックモード」および、改良版の「Wi-Fi Direct」も用意されており、携帯機器と周辺機器の接続などで用いられることがある。
屋内設置用のAPはWi-Fi通信機能の他にイーサネットケーブルの差込口(ポート)を持っているものもあり、インターネットなどに有線で接続することができる。APにルータ機能を統合した「Wi-Fiルータ」もあり、家庭用やモバイル回線中継用(モバイルルータ)としてよく用いられる。
伝送規格
<$Fig:wi-fi|right|true>無線によるデータ伝送の方式を規定した伝送規格には、標準化団体IEEEの802.11委員会が策定した規格が用いられている。これまで数年おきにより高速な新しい規格が発表されてきた。
1997年に発表された最初のIEEE 802.11標準は、2.4GHz(ギガヘルツ)帯の電波で2Mbps(メガビット毎秒)をデータ通信が可能だったが、本格的な普及が始まったのは1999年に発表されたIEEE 802.11a(5GHz/54Mbps)およびIEEE 802.11b(2.4GHz/11Mbps)からである。
2003年にはIEEE 802.11g(2.4GHz/54Mbps)、2009年にはIEEE 802.11n(2.4および5GHz/600Mbps)、2014年にはIEEE 802.11ac(5GHz/6.93Gbps)、2019年にはIEEE 802.11ax(2.4および5GHz/9.6Gbps)が策定され、近年は急激に通信速度が向上している。
実際の機器はこれらのうち前後数世代に対応しているものが主流で、製品パッケージの「Wi-Fi CERTIFIED」ロゴに「a/b」「b/g」「a/b/g/n」のように対応規格が記載されている。「ac」規格からは番号が導入され、「ac」が「Wi-Fi 5」、一世代前の「n」が「Wi-Fi 4」、一世代後の「ax」が「Wi-Fi 6」などとなっている。
セキュリティ
<$Img:Wi-Fi-Security.png|right|>機器や回線に物理的に接触する必要がある有線通信と異なり、無線では電波が壁を透過するなどして利用場所の外にまで広がり、それを誰が受信しているか直接知る手段は無いため、一般的な使用法でも傍受や不正接続への備えが不可欠となる。
Wi-Fiでは利用者の認証や通信の暗号化についての技術仕様として「WPA」(Wi-Fi Protected Access)および後継の「WPA2」「WPA3」を定めており、多くの機器が標準で対応している。家庭など小規模環境向けの「WPA-Personal」と、企業や学校など大規模環境向けの「WPA-Enterprise」がある。
接続時の認証方式としては、事前にAPと機器の間で同じパスフレーズ(長いパスワード)を設定して照合する「WPA-PSK」(Pre-Shared Key)方式がよく用いられるが、WPA-EnterpriseではIEEE 802.1X標準に基づくRADIUS認証サーバを利用する方式なども選択できる。通信の暗号化には共通鍵暗号の有力な標準規格である「AES」(Advanced Encryption Standard)を採用し、一定の通信量ごとに暗号鍵を切り替えるなどして盗聴を防止する。
「無線LAN」と「Wi-Fi」
一般に利用されている無線LANのほとんどはWi-Fiだが、本来「無線LAN」とは無線通信を用いて構築されたLANの総称であり、Wi-Fi以外にもBluetoothやZigBeeなど他方式により構築されたネットワークも形式的には含まれると考えることもできる。
また、本来「Wi-Fi」は無線LAN機器がIEEE 802.11シリーズ規格に準拠していることを示すブランド名で、Wi-Fi Allianceの登録商標だが、一般には「無線LAN」「IEEE 802.11シリーズ規格」「Wi-Fi」はほとんど同義語のように捉えられている。
なお、IEEE 802.11シリーズの仕様を採用していてもWi-Fi Allianceによる認定を受けていない機器もあり、規格の完全な準拠や他メーカー製品との相互接続などは保証されない。著名な例では任天堂の携帯ゲーム機「ニンテンドーDS」などが知られる。
IEEE 802.11n 【Wi-Fi 4】 ⭐
無線LAN(Wi-Fi)の標準規格の一つで、2.4GHz(ギガヘルツ)帯または5GHz帯の無線で最高600Mbps(メガビット毎秒)の通信できる仕様。2009年にIEEEが定めた標準の一つで、第4世代のWi-Fi規格となる。
2.4GHz帯あるいは5GHz帯のいずれかの周波数帯域に20MHz(メガヘルツ)幅のチャネルを設けて通信を行う。互いに隣り合う周波数帯の二つのチャネルを連結して40MHzの連続した帯域を占有するチャネルボンディング(channel bonding)に対応している。変調方式には64QAMが採用され、一つの信号で6ビットの情報を伝送することができる。
複数のアンテナを組み合わせてデータ送受信の帯域を広げるMIMO(Multiple Input Multiple Output)が採用され、製品によって1本から最大4本(4×4 MIMO)まで同時に通信するアンテナ数を選択できる。
これらの仕様の組み合わせにより、最も低速な20MHz幅チャネル、MIMO不使用の状態で約72Mbps、最も高速な40MHz幅(チャネルボンディング)、4×4 MIMO有効の状態で600Mbpsでの伝送が可能となる。無線アクセスポイント(AP)などは600Mbpsまで対応していることも多いが、簡易なアダプタ製品などではあまり高速なオプション仕様には対応していない場合もある。
2009年に第4世代のWi-Fi規格の一つとして仕様が標準化され、第3世代の54Mbps(IEEE 802.11gなど)から大幅に通信速度が向上した。業界団体Wi-Fi AllianceではWi-Fi 4規格に適合した機器の認証を行っており、接続試験にパスすると「Wi-Fi CERTIFIED 802.11n」の認定が与えられる。
IEEE 802.11ac 【Wi-Fi 5】
無線LAN(Wi-Fi)の標準規格の一つで、5GHz(ギガヘルツ)帯の電波を用いて433Mbps(メガビット毎秒)~6.93Gbps(ギガビット毎秒)で通信できる仕様。2014年にIEEEが策定した規格で、第5世代のWi-Fi規格(Wi-Fi 5)となる。
複数のアンテナを組み合わせてデータ送受信の帯域を広げる「MIMO」(Multiple Input Multiple Output)に対応し、最高8本までのアンテナを同時に使用する。さらに、同一周波数で同時に複数の端末と通信できる「マルチユーザーMIMO」(MU-MIMO)に対応し、電波の利用効率が向上している。
一つのチャンネルに用いる周波数の帯域幅は80MHz幅と160MHz幅が用意され、変調方式には256QAMが採用されている。通信速度は帯域幅(80/160MHz)やMIMOのアンテナ数の組み合わせによって異なり、高速な仕様を使いたい場合は通信する機器の双方が対応している必要がある。
最も基本的な1アンテナ/80MHz幅の仕様では433Mbpsとなる。第1世代(Wave1)の製品では80MHz/3×3 MIMOの1.3Gbpsが最高で、第2世代(Wave2)の製品では160MHz/8×8 MIMOの6.93Gbpsまで速度を引き上げることができる。
IEEE 802.11ax 【Wi-Fi 6】
無線LAN(Wi-Fi)の標準規格の一つで、2.4GHz(ギガヘルツ)帯あるいは5GHz帯の電波を用いて最高9.6Gbps(ギガビット毎秒)で通信できる仕様。IEEEが2021年に標準化した規格で、第6世代の「Wi-Fi 6」として知られる。
前世代のIEEE 802.11acに引き続いて複数のアンテナを組み合わせてデータ送受信の帯域を広げる「MIMO」(Multiple Input Multiple Output)に対応し、最高8本までのアンテナを同時に使用しデータを8並列(8ストリーム)で伝送できる。
同一周波数で同時に複数の端末と通信できる「マルチユーザーMIMO」(MU-MIMO)は11acの4端末から8端末に拡張されている。11acではアクセスポイント→端末方向(ダウンリンク)の通信のみMIMOが用いられたが、逆方向(アップリンク)もMIMO化されている。
一つのチャンネルに用いる周波数の帯域幅は20MHz(メガヘルツ)幅、40MHz幅、80MHz幅、160MHz幅が用意され、それぞれ異なる変調方式が用いられる。変調方式には11acの256QAM(一回の変調で8ビット)からシンボル数を4倍に増やした1024QAM(同10ビット)が追加されている。
複数の端末と同時に通信する多元接続方式にはOFDMA(Orthogonal Frequency Division Multiple Access)が採用され、時間と周波数の両方で伝送帯域を細かく分割し、各端末に割り当てる。大量の端末が密集した環境でも性能劣化を抑えることができる。
従来の省電力技術に加えて、端末ごとに起動するタイミングを指定できるTWT(Target Wake Time)方式が追加され、各端末が自分に必要な時間だけ通信し、あとはスリープ状態で電力消費を抑えることができる。20MHz幅のみの対応などと組み合わせればIoT機器での利用も十分実用になると見込まれている。
理論上の最高伝送速度は9.6Gbpsだが、通信速度は周波数や帯域幅、MIMOのアンテナ数の組み合わせなどによって異なる。高速な仕様を使いたい場合は通信する機器の双方が対応している必要がある。
Wi-Fi 6E 【Wi-Fi 6 Extended】
Wi-Fi 6(IEEE 802.11ax)の拡張仕様で、6GHz帯の電波を利用できるようにしたもの。2021年に策定された規格で、伝送方式など他の仕様はWi-Fi 6と変わらない。
Wi-Fi 6は2019年に策定された第6世代のWi-Fi伝送規格で、従来のWi-Fi規格群と同じ2.4GHz帯や5GHz帯の電波を用いて、最長数十メートル程度の距離を最大9.6Gbps(ギガビット毎秒)までの伝送速度で通信することができる。
Wi-Fi 6Eは2.4GHz帯や5GHz帯に加えて新たに6GHz帯での通信を可能にする規格で、日本では2022年に総務省が6GHz帯(5,925~6,425MHz)の利用を認可したことにより正式に使用可能になった。変調方式などの仕様はWi-Fi 6と同じであり、最大通信速度や同時接続数なども変わりない。
2.4GHz帯や5GHz帯は既存のWi-Fi規格を含む様々な無線システムによって利用されており、一部は電子レンジなど通信以外の用途にも用いられているため、利用環境によっては混雑や干渉により十分な性能が得られないこともあるが、Wi-Fi 6Eでは他の機器やシステムとの競合が起きにくいとされる。ただし、電波の特性により低い周波数帯より到達可能距離が短く障害物に弱いと言われる。
Wi-Fi Direct 【Wi-Fiダイレクト】
Wi-Fi(無線LAN)の通信モードの一つで、固定的な無線アクセスポイントを介さずに端末同士が直に接続しあって通信するモード。多くの対応機器は一対一の接続のみ対応するが、仕様上は3台以上のグループ内の相互接続もできるようになっている。
Wi-Fi端末を即席のアクセスポイントとして振る舞わせる機能で、伝送方式や暗号化、認証などの仕様は既存のWi-Fi諸規格を踏襲する。接続するいずれかの機器がWi-Fi Directに対応していれば、残りの機器は通常のWi-Fi通信に対応していればよい。
例えば、Wi-FiアクセスポイントやWi-Fiルータのない場所にWi-Fi対応のプリンタとスマートフォンがある場合、従来ならば両者をWi-Fiで接続することはできなかったが、いずれかがWi-Fi Directに対応していれば、もう一方を接続してスマートフォンに保存された写真をプリンタで印刷することができる。
通常のアクセスポイントへの接続と同様、SSIDとパスワードを用いた認証により接続できるほか、WPS等の専用のプッシュボタン、NFC(近距離無線通信)、PIN(暗証番号)などによる認証に対応した機器もある。接続確立後はWPA2等、通常のWi-Fiの暗号化方式で通信が保護される。
通信方式そのものは通常のWi-Fi接続と変わらないため、Bluetoothなど類似の技術に比べ通信速度が高速で接続可能な範囲も広い。業界団体のWi-Fi AllianceではWi-Fi Direct対応機器の認定を行っており、相互接続試験にパスした端末には「Wi-Fi CERTIFIED Wi-Fi Direct®」ロゴマークの掲示が許可される。
メッシュWi-Fi 【mesh Wi-Fi】
Wi-Fiルータやアクセスポイントを複数設置し、協調して一つのネットワークを運用する機能。一台では電波が届きにくい場所のある施設などで接続状況を安定させることができる。
インターネットなど外部の回線に接続されたメインのWi-Fiルータに対して、「サテライト」と呼ばれるルータを複数設置することができる。メインルータとサテライトルータは無線で接続され、制御情報を交換してメインルータから自動的に設定などが行われる。
メインとサテライトは同一のSSIDで協調的に動作し、端末は電波感度が最も良好な最寄りのルータに自動的に接続される。他のルータの受信範囲に移動した際には自動的に繋ぎ替えが行われる。各ルータはメインルータの分身として様々な処理を引き受けるため、多数の機器がWi-Fiネットワークに参加しても混雑しにくくなる。
従来からWi-Fi中継機は存在するが、これはメインルータとは別のSSIDと無線チャンネルを用いてメインルータとの通信を単純に中継する機器で、処理はメインルータに集中するため負荷分散の効果はなく、移動の際に自動でつなぎ替えるといった処理も行われない。
メッシュWi-Fiの標準規格としては業界団体のWi-Fiアライアンス(Wi-Fi Alliance)が策定した「Wi-Fi EasyMesh」(イージーメッシュ)方式があり、これに対応していれば異なるメーカーのルータが混在したメッシュネットワークを構成することもできる。
WPS 【Wi-Fi Protected Setup】
無線LAN(Wi-Fi)機器の接続先や暗号化、認証などについての設定を簡単な操作で行えるようにする機能。特定のボタンを押すなどの操作によって、親機の持つ設定情報を子機へ転送して自動的に設定を完了する。
有線通信の場合にはケーブルを接続するだけで通信相手の特定や外部からのある程度の通信内容の秘匿が可能だが、無線LANは電波が広範囲に広がるため、通信を開始する前に接続先アクセスポイントの識別符号(SSID)や暗号化キーなどの入力が必要となる。これが初心者や専門家以外の人が無線機器を使用するのを困難にしていた。
WPSでは、親機(無線アクセスポイント/無線ルータ)に設定されたこれらの項目を、簡易な操作で子機に転送して自動的に設定を行うことができる。親機自体の設定は必要となるが、家庭で使用するような機種には工場出荷時にすぐ使用できるよう最低限必要な内容が設定済みになっていることが多い。
具体的な方法はいくつか用意されており、それぞれの機器にある専用のボタンを押すプッシュボタン方式、親機の発行する数桁の数字を子機に入力するPINコード方式、近距離無線通信のNFCを使って設定情報を送信するNFC方式、USBメモリに設定情報を記録して子機に転送するUSBメモリ方式などがある。
このうち最もよく用いられるのはプッシュボタン方式で、まず設定したい子機のWPS用ボタン(「SET」などと書かれていることが多い)を押し、すぐ(通常は2分以内)に親機側の同じボタンを押す。親機から子機に設定情報が送信され、通信できるようになる。外部の攻撃者が設定情報を盗み取るにはボタンが押される正確なタイミングが分からなければならないため、管理者や利用者に知られずに攻撃することは難しい。
簡単に設定する機能は、バッファローの「AOSS」やNECの「らくらく無線スタート」など従来から各メーカーが提供してきたが、メーカー独自の方式のため他メーカーの製品では使えないなどの問題があった。2007年にWi-Fi Allianceが標準規格としてWPSを定めたことにより、各社は製品のWPS対応を進めており、WPS対応機器ならメーカーの区別無く使えるようになってきている。
デフォルトゲートウェイ 【ラストリゾートゲートウェイ】 ⭐⭐⭐
あるネットワークと外部を接続する唯一の、あるいは通常使用するルータなどの転送機器。その機器が持つIPアドレスを「ゲートウェイアドレス」と呼び、外部と通信する必要があるネットワーク内の機器に設定する。
ゲートウェイとはネットワークの境界に置かれ、ネットワーク間のデータの流れを中継するルータなどの装置のこと。デフォルトゲートウェイは内部ネットワークの機器が外部と通信する際に、宛先までの転送経路が分からなくても、とりあえず中継を依頼すれば転送してくれる機器を指す。
インターネット上のルータなどの機器は自らの持つ経路情報を元に経路選択を行い、隣接する他の機器から次の中継先を選んで転送するが、末端のパソコンなどの機器は外部ネットワークとの間に一台しかルータがない(家庭内LANのブロードバンドルータなど)ことが多いため、デフォルトゲートウェイに設定したルータに常に転送を依頼する。
パソコンやスマートフォンなどのオペレーティングシステム(OS)のネットワーク設定画面には自らのIPアドレスなどとともにデフォルトゲートウェイのアドレスを指定する項目があり、そのネットワークのゲートウェイを指定する。通常はDHCPなどで自動設定されることが多く、利用者が直接入力することは少ない。
なお、自ら経路選択を行うルータなどの場合でも、自分では宛先までの経路を見出だせない場合に、経路を知っている可能性が高いルータ(上位プロバイダのルータなど)をデフォルトゲートウェイに設定して経路選択を任せる場合がある。このようなルーティング方式を「デフォルトルーティング」(default routing)という。外部への経路が一つしかない末端の小規模なネットワークで用いられる。
プロキシ 【HTTPプロキシ】 ⭐⭐
二つのネットワークの境界で、一方のコンピュータの「代理」としてもう一方のネットワーク上のコンピュータへの接続を取り次ぐシステムのこと。企業などの内部ネットワークとインターネットの境界に置かれることが多い。
プロキシサーバは内部のコンピュータから外部へのアクセス要求を受信すると、自らが接続元となって目的のシステムへ要求を行う。先方から応答が返ってきたら、これをアクセス元に転送する。接続先から見るとプロキシ自身が通信しているように見え、内部のコンピュータの存在やそのIPアドレスなどをある程度秘匿することができる。
プロキシは設置するだけでは利用できず、原則としてWebブラウザなどにプロキシを経由する設定を明示的に行わなければならない。しかし、ネットワーク内の通信機器の設定などにより、すべてのアクセスを自動的(強制的)にプロキシ経由とする方法もあり、「透過プロキシ」(transparent proxy)と呼ばれる。
付加機能
プロキシの中には、一度取得した外部サーバのデータを自らのストレージ(外部記憶装置)内に保存しておく「キャッシュサーバ」の機能を持つものもあり、再び同じデータの取得要求があったとき、自らが保管しているデータをサーバの代理として送信する。外部サーバの負荷が軽減されるほか、内外を結ぶ通信回線の混雑を緩和することができる。
また、内外を流通するデータをアプリケーションレベルで把握することができ、アクセス履歴を記録・収集することができる。望ましくない接続先を設定して内部からの中継を拒否するフィルタリング機能や、外部から不正アクセスの試みやマルウェアなどが流入することを検知・抑止するファイアウォールやIDS/IPSのような機能を持つ製品もある。
内部ネットワークがインターネットなどとは独立したアドレス体系(プライベートIPアドレス)で運用されている場合には、NATやNAPT(IPマスカレード)などのように内外のポート番号、IPアドレスの自動変換を同時に行う機能を持ったものもある。
フォワードプロキシとリバースプロキシ
通常、単にプロキシといった場合はクライアント側のネットワークに置かれ、クライアントの代理としてサーバへの接続を中継するシステムを指す。これを「フォワードプロキシ」(forward proxy)という。
一方、サーバ側のネットワークに置かれ、サーバの代理としてクライアントからの接続を受け付け、ファイルの代理送信(キャッシング)や暗号化などの処理の肩代わり(オフローディング)、負荷分散(ロードバランシング)などの機能を提供するシステムもある。これは「リバースプロキシ」(reverse proxy/逆プロキシ)と呼ばれる。
MACアドレス 【Media Access Control address】 ⭐
通信ネットワーク上で各通信主体を一意に識別するために物理的に割り当てられた、48ビットの識別番号。装置に物理的に紐づけられるため「物理アドレス」(phycial address)とも呼ばれる。
リンク層(データリンク層)の通信規約(プロトコル)である「MAC」(Media Access Control:メディアアクセス制御)で用いられる識別番号で、ネットワークカードや無線LANチップなどのネットワーク接続装置・部品ごとに割り当てられる。
通信ポート(接続口)や通信インターフェースが一つの機器ではMACアドレスも一つだが、複数のポートがある機器や、有線LANポート(Ethernetポート)と無線LAN(Wi-Fi)機能の両方を内蔵した機器などの場合、それぞれのポートや通信装置に対して固有の(別の)MACアドレスが割り当てられている。
MACアドレスの形式
前半24ビットは「OUI」(Organizationally Unique Identifier)と呼ばれる製造者(メーカー)の識別番号で、IEEEが一元管理し全世界の通信装置メーカーなどへ割り当てを行っている。後半24ビットは各メーカーが装置一台ごとに重複しないよう割り当てた番号となっている。
先頭から16進数2桁(1バイト)ずつハイフン(-)またはコロン(:)で繋ぎ、「12-34-56-78-9a-bc」あるいは「12:34:56:78:9a:bc」のように表記することが多い。「1234.5678.9abc」のように4桁(2バイト)ずつピリオド(.)区切りで表記する場合もある。
固定アドレスとランダム化
元来、MACアドレスは製品の製造時に製造元によって割り当てられ、利用者側で任意に変更する使い方は想定されていなかった。同じ装置は常にMACアドレスで動作し続けるため、ネットワーク上での利用者の識別や認証(MACアドレス認証)、アクセス制御(MACアドレスフィルタリング)などにも利用された。
ところが、IPv6でIPアドレスの一部にMACアドレスが組み込まれたり、Wi-Fiの普及によって様々な場所で携帯機器をネットワークに接続するようになると、利用者が必ずしも信頼していない接続先へもMACアドレスが伝わるようになり、個人の識別や追跡に悪用される懸念が広まった。
そこで、近年の機器ではWi-Fiインタフェースに製造時に割り当てられたMACアドレスとは別に、接続先ごとにソフトウェアが自動生成したランダムなMACアドレスを用いる「MACアドレスのランダム化」が可能になっている。WindowsやmacOS、iOS、Androidなど主要なオペレーティングシステム(OS)に実装されており、ネットワーク設定で本来の固定MACアドレスを利用するかランダム化するかを選択することができる。
ESSID 【Extended Service Set Identifier】 ⭐⭐⭐
無線LAN(Wi-Fi)における無線アクセスポイント(AP/親機)および無線ネットワークの識別名。32文字(バイト)までの英数字で構成され、ネットワーク管理者が任意に設定することができる。複数のAPが同じESSIDを名乗り、同一のネットワークを構成することもできる。
無線電波は届く範囲を任意に設定することができないため、複数の電波が届く範囲に端末(子機)がある場合にどれが自分の所属するネットワークか分からなくなる場合がある。このため、無線LANではAPが識別名を発信し、端末が接続先を選択できるようにしている。
識別名にはAPのMACアドレスをそのまま流用した48ビットのBSSID(小規模ネットワーク向け)と、管理者が任意に指定できるESSIDは(中規模以上のネットワーク向け)がある。現在では規模に関わらずESSIDを設定して運用するのが一般的であるため、単にSSIDといえばESSIDを指すようになっている。
ESSIDには任意のネットワークを表す「ANY」という特殊な識別名があり、端末がANYへの接続をリクエストするとどのAPにも接続することができる。この機能は第三者が不正に接続するのに悪用されることがあるため、現在ではANY指定による接続を受け付けない「ANY接続拒否」機能を搭載するAP製品が増えている。
LTE 【Long Term Evolution】 ⭐
携帯電話・移動体データ通信の技術規格の一つで、3G(第3世代)の技術を高度化し、音声通話のデータへの統合やデータ通信の高速化を図ったもの。当初は3Gと4G(第4世代)の中間の世代とされていたが、現在ではLTE-Advancedと共に4Gの一つとされる。
第3世代のW-CDMA、CDMA2000などの方式を置き換えるべく開発された方式で、主にパケット通信が高速化されている。通信事業者の設備や通信端末の仕様、電波の利用可能帯域や混雑具合などにより異なるが、下り(基地局→端末方向)が10~300Mbps(メガビット毎秒)、上り(端末→基地局)が5~75Mbpsでの通信が可能となっている。
主な技術仕様
一つの通信路を複数の加入者で共有する多元接続(multiple access)の手法として、下り方向はOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交波周波数分割多重)を応用したOFDMAを、上り方向はFDM(Frequency Division Multiplexing:周波数分割多重)を応用したSC-FDMA(シングルキャリアFDMA)を採用している。
使用する周波数の帯域幅は1.4MHz幅から20MHz幅まで何段階か用意されており、帯域幅が広いほど高速に通信できる。各国・地域の規制当局が通信事業者に具体的な周波数帯域を割り当てているが、概ね、700MHz~3.5GHzまでの間で3G向けに割り当てられたものから順次切り替えられている。
搬送波に信号を乗せたり取り出したりする変調方式はQPSK(Quadrature Phase Shift Keying:四位相偏移変調)、16QAM(16-state Quadrature Amplitude Modulation)、64QAM(64-state Quadrature Amplitude Modulation)のいずれかを選択して使用する。
独立した複数の周波数帯域を束ねて一体的に運用することで通信を高速化する「キャリアアグリゲーション」(CA:Carrier Aggregation)の仕組みが定められており、2つの周波数帯を束ねれば2倍、3つ束ねれば3倍の速度で通信できる。
FDD-LTEとTD-LTE(LTE TDD)
基地局と端末の間の上り方向と下り方向の通信路の分割方式として、当初は割り当てられた周波数帯域を上り用と下り用に分割するFDD(Frequency Division Multiplexing:周波数分割多重)方式が採用された。これを「FDD-LTE」という。
一方、上りと下りが同じ周波数帯域を使い、極めて短い時間毎に通信方向を反転させるTDD(Time Division Multiplexing:時分割多重)を利用する方式を「TD-LTE」あるいは「LTE TDD」という。
分割した単位時間をどの方向にどのくらいの割り当てるかを変更することで、上りをある程度犠牲にして下りを高速化するといった対応を柔軟に行うことができる。ただし、タイミングのズレが起きないように各単位の間に無通信の隙間時間を挟む必要があるため、その分通信効率が下がる。
単にLTEといった場合はFDD-LTEを指すことが多く、TD-LTEは採用を強く主張した中国の通信事業者を中心に使われている。日本ではソフトバンクの「SoftBank 4G」が実質的にTD-LTEと同一のAXGPを採用している。
音声とデータの統合
3Gまでの仕様では音声通話用の通信方式とパケット通信(データ通信)の仕様が別々に定められていたが、LTEでは音声信号をデジタル化してパケット通信で伝送するVoLTE(ボルテ:Voice over LTE)が標準となり、音声のみの通信仕様は廃止された。
LTEサービス導入当初はVoLTEが使用できない状況に対応するため、3G仕様による音声通話モードに自動的に切り替えるCSFB(回線交換フォールバック)と呼ばれる仕組みが用いられた。
標準化
LTEの仕様は主要各国・地域の通信関連の標準化団体が集まる3GPP(3rd Generation Partnership Project)が策定した国際標準で、対応機器や端末は国をまたいで同じものが使用できる。
LTE規格は2009年に3GPP Release 8として発行され、追加仕様が2010年に3GPP Release 9として規格化された(Release 10以降はLTE-Advanced)。各国での商用サービスは2010年末頃から順次開始されている。
使用可能な周波数帯域が国ごとに異なるため、端末が対応している帯域で契約事業者や提携事業者のサービスが提供されていることを確認する必要がある。また、FDD-LTEとTD-LTEは通信方式が異なるため、利用したいサービスが採用している方式に対応した端末を用意する必要がある(両対応の機種もある)。
「4G」の呼称
もともと、3Gのデータ通信を高速化した拡張仕様のHSPA(HSDPA/HSUPA)やHSPA+が「3.5G」(第3.5世代)と呼ばれており、第4世代はLTEを高度化した「LTE-Advanced」であると位置付けられていたため、LTEは両者の間を埋める「繋ぎ」の方式として「3.9G」「Super 3G」のように呼ばれていた。
ところが、LTEの商用化が近づくと一部のメーカーや通信事業者がHSPA+やLTEを4G方式と宣伝し始めたため、国際電気通信連合・無線通信部門(ITU-R)が混乱を避けるためこれを追認し、2010年12月に高度化3G規格も4Gと呼称してよいとする声明を発表した。以後、なし崩し的に次々にLTEを4Gと呼ぶ事業者が相次ぎ、現在ではLTEが4G、LTE-Advancedが4Gと5Gの間を埋める「繋ぎ」のような位置付けになってしまった。
日本ではNTTドコモが他事業者に先駆けて2010年末にLTE方式の「Xi」(クロッシィ)サービスを開始し、「3.9G」「Super 3G」と位置付けていた。一方、au(KDDI/沖縄セルラー)はLTEサービスを「au 4G LTE」の名称で、ソフトバンク(当時はソフトバンクモバイル)は「SoftBank 4G LTE」の名称で、2012年9月に相次いで開始した。
ドコモは2015年にLTE-Advanced方式の「PREMIUM 4G」を開始し、あくまでLTE-Advancedを4Gに位置付けていたが、翌2016年にはXiを「4G」、PREMIUM 4Gを「4G+」と表記するよう改め、事実上LTEを4Gとすることを認める形となった。
5G 【5th Generation】 ⭐
2020年代に導入・普及が進んでいる、第5世代のデジタル携帯電話・移動体データ通信の技術規格。スマートフォンやIoTデバイスなどが屋外や移動中に通信事業者などのネットワークにアクセスして通信する方式を定めている。
2000年代に普及した第3世代(3G)、2010年代に普及が進んだ第4世代(4G)の後継にあたる通信方式である。3GのW-CDMAとCDMA2000、4GのLTEとWiMAX 2のように、これまでは当該世代の技術要件を満たす複数の規格が併存していたが、第5世代では完全に標準規格が一本化され、「5G」が世代名かつ規格名として扱われる。
主な特徴として、高速に大量のデータを送受信できる「高速大容量」(eMBB:enhanced Mobile Broadband)、途切れにくく遅延が短い「高信頼低遅延」(Ultra-Reliable and Low Latency Communications)、単一の基地局が大量の端末を収容できる「多数端末接続」(mMTC:massive Machine Type Communication)が挙げられる。
eMBB (enhanced Mobile Broadband)
前世代の4Gでは無線区間の通信速度が下り(基地局→端末)数百Mbps(メガビット毎秒)、上り(端末→基地局)数十Mbps程度が一般的だったが、5Gでは下り2Gbps(ギガビット毎秒)以上、上り100Mbps以上と大幅に高速化される。
これは光ファイバーによる加入者回線網(FTTH)に匹敵するか凌駕するほどの大容量であり、4Kクラスに及ぶ高精細な動画のリアルタイム伝送やこれを応用した各種のサービス(テレビ会議やクラウドゲーミングなど)を場所を選ばずに利用できる可能性を秘めている。
URLLC (Ultra-Reliable and Low Latency Communications)
5Gでは従来の移動体無線通信の大きな弱点であった伝送遅延(発信したデータが相手先に到達するのにかかる伝送時間)の大幅な短縮を目指している。
具体的には、無線区間(端末-基地局間)の遅延を1ミリ秒以下に短縮し、伝送符号やアンテナに冗長性を持たせることにより99.999%以上のパケット受信成功率を可能にしている。信頼性が向上し欠落したデータの再送が不要になる効果も合わせ、通信のリアルタイム性が大幅に向上した。
遠隔地間で遅延なく大容量の通信が可能になることで、自動運転や機械の遠隔操作、遠隔手術、クラウドゲーミング、テレイグジスタンスといった従来の移動体通信では遅延が大きく難しかった用途への展望が開けると考えられている。
mMTC (massive Machine Type Communication)
5Gでは、機器やセンサーなどをネットワークに大量に接続して遠隔からの制御や計測の自動化を図るIoT(Internet of Things:モノのインターネット)での利用を想定し、基地局が同時に接続可能な機器数を飛躍的に増加させ、機器側の消費電力を削減する仕様が盛り込まれる。
同じ周波数帯で複数の端末が同時に通信できるようにするマルチアクセス(多元接続)技術を高度化し、単一の基地局が数千や数万に及ぶ多数の機器を同時にカバーすることを目指している。スマートフォンのような人間の操作する端末だけでなく機器の遠隔制御装置や監視装置など多種多様な装置を5G通信網に収容できる。
周波数帯
5Gでは特性の異なる二種類の電波を利用する。一つは「サブ6」と通称される従来の移動体通信に近い6GHz以下の周波数帯で、主に3.5GHz帯や4.5GHz帯が用いられる。もう一つは「ミリ波」に近い極めて高周波の28GHz帯で、これまで通信に本格的には用いられてこなかった周波数帯である。
サブ6は従来の無線通信用の電波と特性が近いが、4G携帯電話などで主流の2GHz前後よりも高い周波数帯を使用する。伝送速度を高速化しやすいが端末の消費電力は増大しやすく、基地局のカバーする範囲も狭い。従来よりも高い密度で基地局を設置する必要がある。
一方、28GHz帯は性質が可視光に近く、直進性が強く減衰が大きいため基地局が直接見通せるくらいの近距離でなければ安定した通信は難しい。サブ6に比べ極めて高速な通信が可能で、一つの基地局が多数の端末と同時に通信することも可能なため、駅や繁華街、イベント会場といった多くの人が集まる場所で局所的に用いることが想定されている。
4Gからの移行
5Gでは既存の4G基地局に5Gの無線通信方式(5G NR:5G New Radio)を追加し、通信制御やバックボーンに4G用の資源を流用するNSA(non-standalone)方式と、新たに単体の5G基地局を導入するSA(standalone)方式がある。
当面の導入期には端末が4G/5G両対応であり、通信事業者が保有する既存の4Gネットワーク資源を活用して徐々にエリアを拡大するためNSA方式での展開が基本となる。いずれ5Gへの完全移行を見越してSAでの展開が進むと見られている。
ローカル5G
5Gは広域に展開する移動体通信事業者(携帯キャリア)による公衆網の他に、大学のキャンパス内や工場の敷地内といった狭い範囲で施設の管理者などが展開することができる「ローカル5G」の仕組みが提供される。
現在のWi-Fi通信網のように、施設の所有者などが施設内での通信のために5G基地局を敷設し、内部ネットワークでの相互の通信やインターネットへの接続などに利用することができる。5Gに割り当てられた周波数帯は無線免許が必要なため、専門の通信事業者以外が取得しやすい免許の枠組みが整備されている。
歴史と展望
5Gの技術規格の標準化は国際的な標準化団体の3GPPが担当しており、段階的に標準仕様を発行している。第1段階の5G Phase 1(フェーズ1)は2017年末に主要な仕様が策定され(標準化完了は2018年6月)、対応機器の開発や通信事業者による導入の準備が活発化した。
Phase 1はeMBBの実現を主眼としており、URLLCやmMTCの実現は2020年策定のPhase 2や2020年標準化開始のPhase 3で詳細に検討される予定となっている。
2018年末に米ベライゾン(Verizon)社や韓国の複数の大手通信会社(KTなど)が限定的な5Gサービスを開始したと発表し、2019年春にはこれらの事業者が相次いで一般向けサービスの開始を宣言した。日本では2020年3月末に携帯大手3社(NTTドコモ/KDDI・沖縄セルラー/ソフトバンク)がほぼ同時に5Gサービスを開始した。
bps 【ビット毎秒】 ⭐
通信回線などのデータ伝送速度の単位で、1秒間に伝送できるデータのビット数のこと。1bpsは毎秒1ビットのデータを伝送できることを表す。
コンピュータなどのデジタル機器では、ありとあらゆる情報を2進数の「0」と「1」の羅列であるデジタルデータとして表現し、2進数の1桁にあたる「0」または「1」で表される情報量を「ビット」(bit)と呼ぶ。デジタル信号を送受信できる伝送路で、1秒間に送ることができるビット数をbpsという単位で表す。
大きな値を表す場合には1000倍ごとに接頭辞を付加し、1000bpsを「1kbps」(キロbps)、100万bpsを「1Mbps」(メガbps)、10億bpsを「1Gbps」(ギガbps)、1兆bpsを「1Tbps」(テラbps)といったように表記する。
1kbpsを1024bps、1Mbpsを1024kbps…のように1024(2の10乗)倍ごとに区切る場合や、「k」と小文字で書いた場合は1000倍、「K」と大文字で書いた場合は1024倍などとする場合もあったが、IEC(国際電気標準会議)は1024倍を表す場合は「Ki」(キビ)、「Mi」(メビ、ミービ)など専用の接頭辞を用いて表記するよう勧告しており、このような混乱や使い分けは収束しつつある。
同じデジタル回線の伝送速度の単位に「Bytes/s」(B/s、バイト毎秒)があるが、1バイトは8ビットなので、1Byte/sは8bpsに相当する。厳密な使い分けの基準があるわけではないが、主にネットワーク回線など機器間を結ぶ比較的距離の長い通信ではbpsが、機器内部の回路間や装置間、コンピュータと周辺機器間など短距離の伝送路ではバイト毎秒がよく用いられる。
SDN 【Software-Defined Networking】
コンピュータネットワークを構成する通信機器の設定や挙動をソフトウェアによって集中的に制御し、ネットワークの構造や構成、設定などを柔軟に、動的に変更することを可能とする技術の総称。
機器に組み込まれたソフトウェアと管理用のソフトウェアを連携させ、ネットワーク上の装置の配置や配線などの物理的構成とはある程度独立に、目的に応じて複数の仮想的なネットワークを構築することができる。そのように構築されたネットワークを指すこともある。
物理的な構成に縛られず論理的なネットワークを構成することは「ネットワーク仮想化」(network virtualization)とも呼ばれ、厳密にはSDNの応用の一つである。SDNによらず別の技術によって実現する手法(VLANやVPNなど)もあるため、SDNそのものとは区別する場合もある。
従来のコンピュータネットワークでは、通信機器の一台ずつが独立した制御ソフトウェアや機能を持っており、設定や構成などは個別の機器ごとに、あるいは機器の種類(ルータやネットワークスイッチなど)ごとに行なう必要があり、ネットワークの構成は固定的だった。
SDNでは、ネットワーク機器の制御機能(コントロールプレーン)とデータ転送機能(データプレーン)を分離し、制御機能を管理システム上のソフトウェアで集中管理する。各機器の動作は柔軟かつ動的に変更することができ、ネットワークの状態や利用方法が変わっても物理的な配線や各機器の個別の設定などを直接変更する必要が減る。
SDNを実現する制御システムやプロトコル(通信手順)は大手の通信機器メーカーが自社製品向けに独自に開発しているものも多いが、有力な標準規格として業界団体のONF(Open Networking Foundation)が策定している「OpenFlow」がよく知られる。
ビーコン
標識、灯台、のろし、かがり火、無線標識、航空標識などの意味を持つ英単語。定期的に周囲に向けて光や電波などを発する装置を指すことが多く、その光を見た人や信号を受信した電子機器などが現在地や方角、進行方向などを知ることができる。
無線標識
交通や航空、船舶などの分野では、地上に固定的に設置される無線局の一種で、定期的に特定の周波数や信号形式の電波を発する設備をビーコンという。また、航空機や船舶に備えられた、非常時に遭難信号や現在位置を知らせる発信機をビーコンということもある。
ITの分野でも、赤外線や近距離無線通信の電波などを発して、周囲に機器の現在位置や識別情報などを知らせる小型の発信機のことをビーコンということがある。主に屋内の位置や距離の測位、物体の識別や関連情報の送受信などに用いられる。
無線LAN
無線LAN(Wi-Fi)では、アクセスポイントが自らの存在を知らせるために発する無線信号のことをビーコンという。周囲のWi-Fi対応機器はこれを受信することにより、その場所で利用可能なWi-Fiネットワークを探し出すことができる。
Webビーコン
Webの分野では、WebページやHTMLメールなどの内部に、見た目には分からないように埋め込まれた情報収集用の画像ファイルなどのことをWebビーコンという。
閲覧者がページを開くと、同時にそのファイルもダウンロードされるため、その際にアクセス日時やアクセス元の情報などを収集することができる。
LPWA 【Low Power, Wide Area】 ⭐⭐⭐
IoT(Internet of Things)用途に適した、低消費電力の広域無線通信技術の総称。センサー機器のような小型の機器でも遠距離通信を長期間続けられるように設計されている。
世の中に存在する様々な物体(モノ)に通信機能を持たせ、インターネットに接続したり相互に通信することにより、自動認識や自動制御、遠隔計測などを行うことを「IoT」(モノのインターネット)という。
環境中に大量のセンサー装置を配置したり、自動車などの移動機械をネットワーク化する用途では給電や通信に有線方式を用いることはできないため、電力面では環境中から微小なエネルギーを取り出すエナジーハーベスティング技術や高密度の二次電池、通信面では省電力で長距離を通信できるLPWA技術が求められている。そのような通信方式で構築されたネットワークを指す場合は「LPWAN」(Low Power Wide Area Network)とも言う。
LPWAは従来の携帯電話網などとは異なり、十~数十kmといった遠距離や広い範囲をカバーでき、乾電池などの乏しい電源でも数か月から数年は稼働できることが求められる。一方、人間がスマートフォンなどの通信機器に求めるような高速なデータ伝送能力は必ずしも必要なく、数十~数百kbps(キロビット毎秒)程度あれば実用に供することができる。
このような特性を備えた新しい無線通信規格として「Sigfox」「LoRa」「Wi-Fi HaLow」「Wi-SUN」「LTE-M」「NB-IoT」「RPMA」などの方式が提唱されている。これらは無線局免許不要で私的なネットワークを構築・運用できるアンライセンス型と、免許を取得する必要があるライセンス型に分類される。後者は通信事業者が基地局を設置して広域の通信サービスとしてLPWANを顧客に提供している。
エッジコンピューティング ⭐⭐
ネットワークに多数の端末が接続されたシステムにおける処理形態の分類の一つで、端末自身あるいは端末に近い場所にあるサーバが情報の集約や処理などを行う方式。遠隔地のサーバで集中的に処理を行うクラウドコンピューティングと対比される。
主にIoTシステムの実装方式として注目される方式で、制御対象の機器やセンサーなどがネットワークを通じて近隣のサーバに情報を送信し、サーバは処理を行って結果や指示を機器に送り返す。
クラウド方式との違いはサーバの設置場所で、インターネットを通じて遠隔地のデータセンターに繋ぐのではなく、地理的、ネットワーク的に近い施設や設備でサーバを運用する。自動車やスマートフォン、ドローンなど末端が移動体であるシステムでは、端末自身に処理能力を持たせる場合も含まれる。
クラウド方式では端末の数が多い場合にインターネットを通過するトラフィック(通信量)が増加しコスト要因となるが、エッジコンピューティングでは局所的な通信のみで処理を完結させることができる。リアルタイム性が重視される用途では遠隔地との通信に伴う遅延(待ち時間)を抑えられることも利点となる。
一か所の施設や設備に処理を集中させると、そこがシステム障害や災害などで停止するとシステム全体が停止してしまう危険があるが、サーバが分散していれば影響を局所化することができる。サーバやネットワークを私的に敷設した設備の範囲に留めることができれば、インターネットやパブリッククラウドなどの公衆サービスを利用することによるセキュリティリスクも低減される。
BLE 【Bluetooth Low Energy】 ⭐⭐
近距離無線通信技術Bluetoothの拡張仕様の一つで、極低電力で通信が可能なもの。2009年にBluetooth 4.0規格の一部として策定された。
Bluetoothはモバイル機器と周辺機器の接続などに用いられる近距離無線通信方式で、微弱な電波で数メートル程度までの範囲にある機器と交信することができる。データ伝送速度は控えめだが、低コストで様々な装置に内蔵でき、低消費電力で長期間通信し続けられることを重視している。
BLEはBluetoothの消費電力をさらに抑えた仕様で、免許なく使える2.4GHz帯(ISMバンド)の電波を用いる。Bluetooth 5.0場合、仕様上は2Mbpsで100m程度、125kbpsなら400m程度まで通信可能だが、到達距離と通信速度を抑えれば消費電力を抑えられるため、実用上は数十kbs、数mでの運用が多いとされる。
対応チップはフル機能のBluetoothの1/3程度の電力で動作することができ、ボタン電池一つで数年稼働することも可能とされる。通常のBLEはパソコンやスマートフォンなどと周囲にある入出力装置(イヤフォンやキーボード、マウスなど)の接続が主用途だが、BLEは各種のセンサーや体に身につける小型の電子機器、周囲に特定の信号を発信するビーコンなどでの利用が想定されている。
Bluetooth Smart/Smart Ready
当初、BLEに対応していることを示すブランド名として「Bluetooth Smart」(BLEのみ対応)「Bluetooth Smart Ready」(通常のBluetoothとBLEに対応)が用意されていた。筐体などに掲示するロゴが決められており、「Smart」はセンサー装置などで、「Smart Ready」はコンピュータなどでの利用が想定されていたが、2016年に廃止された。
IoTエリアネットワーク 【IoTANW】 ⭐
モノのインターネット(IoT:Internet of Things)において、IoTデバイスとIoTゲートウェイを結ぶネットワーク。通常のインターネット向けの接続方式以外にも多様な技術が動員される。
IoTでは様々な人工物をインターネットに接続し、遠隔からの監視や操作、機器同士の連携などを行う。コンピュータが参加する通常のインターネットに機器を直に接続する方式以外に、中継・変換機器の「IoTゲートウェイ」を介して接続する構成が有力となっている。
IoTに参加する装置(IoTデバイス)とIoTゲートウェイを結ぶネットワークをIoTエリアネットワークという。IoTでは通信速度が遅くても低消費電力であることが重視されるため、コンピュータ間の接続では使用しない独自の通信方式で構築することが多い。管理サーバやクラウドサービスなどとの通信はIoTゲートウェイが仲介し、接続方式やプロトコルの相互変換を行う。
コンピュータの構内ネットワークを構成する有線LAN(Ethernet)や無線LAN(Wi-Fi)を利用することもあるが、低電力無線のWi-SUNやZigBee、Bluetooth Low Energy(BLE)、低電力の広域無線網(LPWA:Low Energy, Wide Area)、給電網にデータ通信を重畳するPLC(電力線通信)など装置の種類や用途に適した通信方式が用いられる。
マルチホップ ⭐
複数の無線機器が連携して他の端末のデータをバケツリレー式に次々に中継し、長い距離を通信できるようにする方式。
単純な構成の無線ネットワークでは、単一の基地局が周囲の端末と交信してネットワークを形成し、端末間の通信の中継や有線ネットワークへの通信の取次を行う。これを「シングルホップ」(single-hop)と呼び、通常のWi-Fi(無線LAN)やBluetooth、移動体通信などがこの方式である。
一方、マルチホップ方式では中継機能のある無線機器が複数連携して広域的なネットワークを形成し、ある中継機が端末から受信したデータを他の中継機に無線で転送することができる。別の端末や有線ネットワークへのゲートウェイなどの目的地まで、何回も中継(ホップ)を繰り返すことからマルチホップという。
IoT(モノのインターネット)におけるセンサネットワークなどで、920MHz帯のマルチホップ無線が実用化されている。また、Wi-Fiでも有線LANに接続されたアクセスポイントの他に中継用のアクセスポイントを設置し、通信可能な範囲の拡張や端末の電波の受信感度の向上を図るマルチホップ技術が用いられている。
プロトコル 【通信規約】 ⭐⭐⭐
手順、手続き、外交儀礼、議定書、協定などの意味を持つ英単語。IT分野では、複数の主体が滞りなく信号やデータ、情報を相互に伝送できるように定められた約束事や手順である「通信プロトコル」を指すことが多い。他分野や一般の外来語としては「規定の手順」などの意味で用いられることもある。
コンピュータ内部で回路や装置の間で信号を送受信する際や、通信回線やネットワークを介してコンピュータや通信機器がデータを送受信する際に、それぞれの分野で定められたプロトコルを用いて通信を行う。英語しか使えない人と日本語しか使えない人では会話ができないように、対応しているプロトコルが異なると通信することができない。
機器やソフトウェアの開発元が独自に仕様を策定し、自社製品のみで使用されるクローズドなプロトコルと、業界団体や標準化機関などが仕様を標準化して公開し、異なる開発主体の製品間で横断的に使用できるオープンなプロトコルがある。インターネットなどで用いられるプロトコルの多くは、IETF(Internet Engineering Task Force)などが公開している標準プロトコルである。
プロトコルの階層化
<$Img:TCP-IP-Layer-Model.png|right|TCP/IP階層モデル[PD]>人間同士が意思疎通を行う場合に、どの言語を使うか(日本語か英語か)、どんな媒体を使って伝達するか(電話か手紙か)、というように伝達の仕方をいくつかの異なる階層に分けて考えることができるが、コンピュータ通信においても、プロトコルの役割を複数の階層に分けて考える。
階層化することによって、上位のプロトコル(を実装したソフトウェア)は自分のすぐ下のプロトコルの使い方(インターフェース)さえ知っていれば、それより下で何が起きているかを気にせずに通信を行うことができる。電話機の操作法さえ知っていれば、地中の通信ケーブルや通信会社の施設で何が起きているか知らなくても通話できるのに似ている。
各階層のプロトコル群の機能や役割の範囲はモデル化して整理することがある。現在広く普及しているのはインターネット通信などで一般的な「TCP/IP階層モデル」(DARPAモデル)で、物理的な装置や伝送媒体に近い側から順に「リンク層」「インターネット層」「トランスポート層」「アプリケーション層」の4階層に分類している。
OSI参照モデル 【OSI reference model】
コンピュータネットワークで様々な種類のデータ通信を行うために機器やソフトウェア、通信規約(プロトコル)などが持つべき機能や仕様を複数の階層に分割・整理したモデルの一つ。1980年代にCCITT(現在のITU-T)が策定した標準規格。
異機種間のデータ通信を実現するためのネットワーク構造の設計方針「OSI」(Open Systems Interconnection)に基づき、通信機能を7階層に分けて各層ごとに標準的な機能モジュールを定義している。
1984年にISO(国際標準化機構)と当時のCCITT(国際電信電話諮問委員会/現在のITU-T)が共同で策定した規格で、ISO側ではISO 7498として、CCITT側ではX.200として発行された。現代ではOSIを参照しないTCP/IPが事実上の標準として広く普及しているため、OSI基本参照モデルはほぼ有名無実化している。
第1層(L1:Layer 1)は「物理層」(physical layer)とも呼ばれ、データを通信回線に送出するための物理的な変換や機械的な作業を受け持つ。ピンの形状やケーブルの特性、電気信号や光信号、無線電波の形式などの仕様が含まれる。
第2層(L2:Layer 2)は「データリンク層」(data link layer)とも呼ばれ、回線やネットワークで物理的に繋がれた二台の機器の間でデータの受け渡しを行う。通信相手の識別や認識、伝送路上の信号の衝突の検知や回避、データの送受信単位(フレーム)への分割や組み立て、伝送途上での誤り検知・訂正などの仕様が含まれる。
第3層(L3:Layer 3)は「ネットワーク層」(network layer)とも呼ばれ、物理的な複数のネットワークを接続し、全体を一つのネットワークとして相互に通信可能な状態にする。ネットワーク内のアドレス(識別符号)の形式や割当の方式、ネットワークをまたいで相手方までデータを届けるための伝送経路の選択などの仕様が含まれる。
第4層(L4:Layer 4)は「トランスポート層」(transport layer)とも呼ばれ、データの送信元と送信先の間での制御や通知、交渉などを担う。相手方まで確実に効率よくデータを届けるためのコネクション(仮想的な専用伝送路)の確立や切断、データ圧縮、誤り検出・訂正、再送制御などの仕様が含まれる。
第5層(L5:Layer 5)は「セッション層」(session layer)とも呼ばれ、連続する対話的な通信の開始や終了、同一性の維持などを行う。アプリケーション間が連携して状態を共有し、一連の処理を一つのまとまり(セッション)として管理する機能を実現するもので、利用者の認証やログイン、ログアウトなどの状態管理を行う。
第6層(L6:Layer 6)は「プレゼンテーション層」(presentation layer)とも呼ばれ、アプリケーション間でやり取りされるデータの表現形式を定義する。通信に用いられるデータのファイル形式やデータ形式、暗号化や圧縮、文字コードの定義や形式間の変換などの仕様が含まれる。
第7層(L7:Layer 7)は「アプリケーション層」(application layer)とも呼ばれ、具体的なシステムやサービスに必要な機能を実装する。最上位の階層で、利用者が操作するソフトウェアが提供する具体的な機能や通信手順、データ形式などの仕様が含まれる。
物理層 【PHY】
通信ネットワークの階層モデルの最下層で、装置や伝送媒体の物理的な形状や仕様、信号形式などを定めた規約。
一対の機器間で電気信号や光信号、無線(電波・赤外線・可視光線)信号などを用いてビット単位のデジタル信号の送信・受信ができるようにする。具体的には、ケーブルやアンテナ、端子(コネクタ)の形状や仕様、データと信号の変換方式、信号の変復調方式などが定義される。
物理層によって送受信されるビットの連なりの取り扱い方を規定し、伝送制御や伝送したいデータ(ペイロード)の埋め込み・取り出しなどを行うのは、OSI参照モデルではデータリンク層(第2層)の役割となる。TCP/IP階層モデル(DARPAモデル)では物理層とデータリンク層の役割を合わせたものをリンク層と呼ぶ。
データリンク層 【リンク層】
プロトコルの機能階層の一つで、回線やネットワークで物理的に繋がれた二台の機器の間でデータの受け渡しを行うもの。OSI参照モデルでは第2層、TCP/IP階層モデルでは第1層にあたり、イーサネット(Ethernet)やWi-Fiがよく知られる。
ネットワークにおけるデータの伝送手順や形式を定めた通信規約を「プロトコル」(protocol)という。一つのプロトコルは通常ある一つの特定の役割を持っており、人間やアプリケーションに近い側から物理的な装置に近いものまで何種類かを階層型に組み合わせて用いる。
プロトコルの役割を階層構造で整理したモデルとして「OSI参照モデル」と「TCP/IP階層モデル」(DARPAモデル)がよく用いられるが、データリンク層はいずれにも含まれ、OSIでは2番目の層で物理層とネットワーク層の間、TCP/IPでは最下層で物理的な機能を含む概念である。
この層の主な役割は、直に接続されて信号の送受信が可能な別の機器(二地点間の回線の場合は相手方)へ上位のプロトコルから依頼されたデータを確実に伝送することである。具体的には、通信相手の識別や認識、伝送路上の信号の衝突の検知や回避、データの送受信単位(フレーム)への分割や組み立て、伝送途上での誤り検知・訂正などである。
プロトコルの例
データリンク層のプロトコルおよび通信規格の例としては、有線LANの標準である「イーサネット」(Ethernet)および関連仕様を定めたIEEE 802.3シリーズや、無線LANの標準である「Wi-Fi」および関連仕様を定めたIEEE 802.11シリーズなどがよく知られる。
過去にはATM(非同期転送モード)やフレームリレー、FDDI、トークンリングなど様々な伝送規格が用いられた。様々な物理回線やネットワークを通じて二地点間を結びつける「PPP」(Point-to-Point Protocol)や、派生仕様のPPPoE、PPTPなどもこの層のプロトコルに含まれる。
両モデル間の違いと「第2層」という表記
TCP/IPはOSIモデルとは無関係に設計されたため、OSIのデータリンク層とTCP/IPのリンク層は似た概念であるが同一のものではない。OSIモデルでは物理層の上に位置するため「第2層」と呼ばれるが、TCP/IPでは物理層については関知しないか、リンク層の仕様の一部とみなされるため、リンク層が最下層となっている。
歴史的経緯で、TCP/IPのプロトコル階層をOSIモデルに従って分類・解釈する方法が広まったため、現在でもイーサネットやWi-Fi、PPPなどを指して「レイヤ2」「L2」と分類したり、イーサネットの仕様に基づいて中継を行うネットワークスイッチを「L2スイッチ」と呼ぶことが多い。
MAC副層とLLC副層
IEEE 802規格群では、データリンク層を物理層側の「MAC副層」(Media Access Control:メディアアクセス制御)とネットワーク層側の「LLC」(Logical Link Control:論理リンク制御、IEEE 802.2)副層に分割している。
MACは物理層の各方式の媒体や通信方式の違いに応じて最適なものを定める一方、LLCはこれらの違いを吸収してネットワーク層側から統一的な方法でアクセスできるようなっている。有線LAN標準がイーサネットに事実上統一されたためこの区分自体は無意味になったが、現在でもデータリンク層のことをMAC(層)と呼んだり、「MACアドレス」などの名称にその名を残している。
ネットワーク層 【インターネット層】
プロトコルの機能階層の一つで、単一の、あるいは相互接続された複合的なネットワークの上で末端から末端までデータを送り届ける役割を担うもの。OSI参照モデルでは第3層、TCP/IP階層モデルでは第2層で、IP(Internet Protocol)が該当する。
ネットワークにおけるデータの伝送手順や形式を定めた通信規約を「プロトコル」(protocol)という。一つのプロトコルは通常ある一つの特定の役割を持っており、人間やアプリケーションに近い側から物理的な装置に近いものまで何種類かを階層型に組み合わせて用いる。
プロトコルの役割を階層構造で整理したモデルとして「OSI参照モデル」と「TCP/IP階層モデル」(DARPAモデル)がよく用いられるが、OSIでは第3層を「ネットワーク層」、TCP/IPでは第2層を「インターネット層」と呼び、いずれもデータリンク層(リンク層)とトランスポート層の中間に位置する。
この階層の主な役割は、物理ネットワーク同士を結びつけ、全体を一つの論理的なネットワークとして相互に通信可能な状態にすることである。具体的には、ネットワーク全体を通して整合的で体系的なアドレス(識別番号)の割り当て、データの伝送経路の管理や選択(ルーティング)、データの送受信単位の変換や調整、優先制御などである。
現代のコンピュータネットワークでは一部の特殊な用途を除いてこの階層のプロトコルに「IP」(インターネットプロトコル)を用いるのが標準となっており、IPにより各組織のネットワークを世界規模で相互接続した巨大なネットワークを「インターネット」という。現在はIPのバージョン4(IPv4)が標準的に用いられているが、アドレス長や機能を拡張した「IPv6」(IPバージョン6)への移行が進んでいる。
第3層/ネットワーク層という表記
TCP/IPはOSIモデルとは無関係に設計されたため、厳密には両モデルの機能・役割は似ているだけで同じではない。また、TCP/IPでは本来「インターネット層」(Internet layer)と呼ばれるが、OSIの用語にならって慣習的に「ネットワーク層」と呼ばれている。
TCP/IPではOSIモデルの物理層に相当する階層がなく、IPは最下層のリンク層から数えて第2階層のプロトコルとなるが、歴史的経緯でTCP/IPのプロトコル階層をOSIモデルにあてはめて分類・解釈する方法が広まったため、現在でもIPを指して「レイヤ3」「L3」のように表記することが多い。
トランスポート層 【第4層】
プロトコルの機能階層の一つで、データの送信元と送信先の間での制御や通知、交渉などを行い、二者間のデータの運搬に責任を追うもの。OSI参照モデルでは第4層、TCP/IP階層モデルでは第3層にあたり、TCP(Transmission Control Protocol)やUDP(User Datagram Protocol)がよく知られる。
ネットワークにおけるデータの伝送手順や形式を定めた通信規約を「プロトコル」(protocol)という。一つのプロトコルは通常ある一つの特定の役割を持っており、人間やアプリケーションに近い側から物理的な装置に近いものまで何種類かを階層型に組み合わせて用いる。
プロトコルの役割を階層構造で整理したモデルとして「OSI参照モデル」と「TCP/IP階層モデル」がよく用いられるが、トランスポート層はいずれにも含まれ、OSIでは4番目の層でネットワーク層とセッション層の間、TCP/IPでは3番目の層でインターネット層とアプリケーション層の間に位置する。
トランスポート層のプロトコルは上位層から送信データを受け付けて制御情報などと共に下位層へ引き渡し、下位層から受信データを受け取って制御情報などを取り去って上位層へ引き渡す。この階層の制御情報は原則として発信元と送信先しか必要としないため、伝送途上で参照・改変されることは稀である。
この階層の主な役割としては、エラー検出・訂正と再送制御、コネクション(仮想的な専用通信路)の確立、データの並び順の整列(順序制御)、フロー制御、輻輳制御、アプリケーションの識別(OSIではセッション層の役割)などである。UDPのように、これらの一部をあえて実装しないことによって伝送速度の向上を図っているプロトコルもある。
プロトコルの例
インターネットを始め現代の通信システムの多くはTCP/IPモデルを採用しているため、インターネット層のIP(Internet Protocol)の上位層として機能するものがトランスポート層のプロトコルである。
最もよく用いられるのはコネクションや再送制御などで高い信頼性を実現する「TCP」(Transmission Control Protocol)で、信頼性よりも速度を重視する用途では最低限の制御しか行わない「UDP」(User Datagram Protocol)が用いられる。両者の中間的な特徴を併せ持つ「DCCP」(Datagram Congestion Control Protocol)や、ストリーミング通信向けの「SCTP」(Stream Control Transmission Protocol)なども用いられる。
第4層/レイヤ4という表記
TCP/IPはOSIモデルとは無関係に設計されたため、厳密には両モデルのトランスポート層の機能・役割は似ているだけで同じではない。また、TCP/IPにおいてトランスポート層は第3階層(インターネット層の上)に位置するが、TCP/IPのプロトコル階層をOSIモデルに従って分類・解釈する方法が広まったため、現在でもUDPやTCPなどを指して「レイヤ4」「L4」のように表記することが多い。
セッション層 【第5層】
プロトコルの機能階層の一つで、連続する対話的な通信の開始や終了、同一性の維持などの管理を行うためのもの。OSI参照モデルの第5層(レイヤ5/L5)に位置する。
ネットワークにおけるデータの伝送手順や形式を定めた通信規約を「プロトコル」(protocol)という。一つのプロトコルは通常ある一つの特定の役割を持っており、人間やアプリケーションに近い側から物理的な装置に近いものまで何種類かを階層型に組み合わせて用いる。
プロトコルの役割を階層構造で整理したモデルとして「OSI参照モデル」と「TCP/IP階層モデル」(DARPAモデル)がよく用いられるが、セション層はOSIモデルの第5層として定義され、トランスポート層とプレゼンテーション層に間に位置する。TCP/IPでは階層としては存在せず、必要に応じてアプリケーション層に実装される機能の一つとなっている。
利用者の操作する末端のアプリケーション間を結びつけて状態を共有し、対話的な処理を行う一連の通信を「セッション」(session)という。セション層のプロトコルは認証やログインなどセッションの開始・確立、ログアウトなどのセッション終了・切断、また、中断されたセッションの再確立などの手続きやデータ形式を定めている。
TCP/IPにおけるセッション管理
現代ではOSIモデルに準拠したプロトコルやアプリケーションはほとんど消滅しているため、現実にセション層のプロトコルが使用される場面はほとんどない。TCP/IPでは個々のアプリケーション層のプロトコルが必要に応じて独自のセッション管理機能を提供しており、OSIモデルのような統一・標準化された機能階層としてのセッション管理は提供されていない。
プレゼンテーション層 【第6層】
プロトコルの機能階層の一つで、データの表現形式を規定したもの。OSI参照モデルの第6層(レイヤ6/L6)に位置する。
ネットワークにおけるデータの伝送手順や形式を定めた通信規約を「プロトコル」(protocol)という。一つのプロトコルは通常ある一つの特定の役割を持っており、人間やアプリケーションに近い側から物理的な装置に近いものまで何種類かを階層型に組み合わせて用いる。
プロトコルの役割を階層構造で整理したモデルとして「OSI参照モデル」と「TCP/IP階層モデル」(DARPAモデル)がよく用いられるが、プレゼンテーション層はOSIモデルの第6層として定義され、下位のセッション層と上位のアプリケーション層の橋渡しを行う。TCP/IPでは階層としては存在せず、必要に応じてアプリケーション層に実装される機能の一つとなっている。
プレゼンテーション層は上位のアプリケーション層(第7層/レイヤ7)からデータを受け取り、適切な形式のデータに変換して下位のセッション層(第5層/L5)へ渡す。また、セッション層から受け取ったデータを解釈し、適切な形式でアプリケーション層へ渡す。通信に用いられるデータの暗号化や圧縮、ファイル形式やデータ形式、文字コードの定義や形式間の変換などの役割を果たす。
TCP/IPにおけるデータ形式の扱い
現代ではOSIモデルに準拠したプロトコルやアプリケーションはほとんど消滅しているため、現実にプレゼンテーション層のプロトコルが使用される場面はほとんどない。TCP/IPでは個々のアプリケーション層のプロトコルが必要に応じてデータ形式の規定や変換方法などを定義している。
また、SSL/TLSやIPsecのようなトランスポート層やネットワーク層(インターネット層)のプロトコルが、アプリケーション層に対して透過的に暗号化・復号などのデータ変換機能を提供する場合もある。
アプリケーション層 【第7層】
プロトコルの機能階層の一つで、特定の具体的なシステムやサービスに必要な機能を実装するための層。OSI参照モデルでは第7層、TCP/IP階層モデルでは第4層に位置する。HTTPやFTP、SMTP、POP3など用途に応じて多種多様なプロトコルが存在する。
ネットワークにおけるデータの伝送手順や形式を定めた通信規約を「プロトコル」(protocol)という。一つのプロトコルは通常ある一つの特定の役割を持っており、人間やアプリケーションに近い側から物理的な装置に近いものまで何種類かを階層型に組み合わせて用いる。
プロトコルの役割を階層構造で整理したモデルとして「OSI参照モデル」と「TCP/IP階層モデル」(DARPAモデル)がよく用いられるが、アプリケーション層はいずれにも含まれる。OSIでは第7層(レイヤ7/L7)、TCP/IPでは第4層に位置し、いずれも最上位の階層である。
利用者が操作するソフトウェアが提供する具体的な機能についての仕様や通信手順、データ形式などを定めている。OSIモデルではプレゼンテーション層以下のデータ処理および伝送システムと利用者の橋渡しを行う階層で、ユーザーインターフェースの提供が主な役割となる。
TCP/IPではトランスポート層のTCPやUDPなどを利用して通信を行うプロトコルはすべてアプリケーション層であり、電子メール、Web、ファイル共有、ディレクトリサービス、ターミナルなど、システムやサービスごとに個別に必要な機能を実装したプロトコルが定義されている。
両モデル間の違いと「第7層」という表記
よくOSIモデルのセッション層(第5層)、プレゼンテーション層(第6層)、アプリケーション層(第7層)の機能がTCP/IPにおけるアプリケーション層に相当すると説明されるが、TCP/IPはOSIモデルとは無関係に設計されたため、この3層の機能が集約されているわけではない。
また、TCP/IPにおいてアプリケーション層は第4階層目(トランスポート層の上)に位置するが、TCP/IPのプロトコル階層をOSIモデルに従って分類・解釈する方法が広まったため、現在でも「L7スイッチ」のようにHTTPなどのアプリケーションプロトコルを指して「レイヤ7」「L7」のように表記することがある。
TCP/IP階層モデル 【DoDモデル】
インターネットなどで広く普及しているIP(Internet Protocol)を中心とする、いわゆるTCP/IPプロトコル群の役割を階層構造で整理したモデル。シンプルな4階層となっている。
通信ネットワークにおける伝送規格やプロトコル(通信規約)の役割を階層(レイヤー)を積み上げた形に整理したモデルの一つである。IPを中核に、IP「が」利用する低い階層(ハードウェア寄り)、IP「を」利用する高い階層(アプリケーション寄り)に分かれる。
初期のインターネットの研究・開発を推進していた米国防総省(DoD)や米国防高等研究計画局(DARPA)の名を冠して「DoDモデル」あるいは「DARPAモデル」と呼ばれることもある。国際電気通信連合(ITU-T)が策定した7階層のOSI階層モデルとは異なり、各プロトコルや規格の仕様や機能は階層ごとに厳密に分割・整理されているわけではない。
リンク層
最下層には、OSIモデルの物理層とデータリンク層を合わせたものにほぼ相当する「リンク層」(link layer)が置かれ、イーサネット(Ethernet)や無線LAN(Wi-Fi)、PPP(Point-to-Point Protocol)などが含まれる。「ネットワークインターフェース層」「ネットワークアクセス層」などと呼ばれることもある。
インターネット層
第2階層はOSIでネットワーク層に相当する「インターネット層」(internet layer)で、IPが該当する。ICMPやIGMP、一部のルーティングプロトコルもこの階層に含める場合がある。リンク層アドレスとIPアドレスを対応付けるARPは両者の中間とされる。
トランスポート層
第3階層はOSIと同名、ほぼ同機能の「トランスポート層」(transport layer)で、通常は高信頼性のTCP(Transmission Control Protocol)か低遅延のUDP(User Datagram Protocol)のいずれかが用いられる。用途によってはQUICやSCTPも用いられる。
アプリケーション層
最上位の第4階層はOSIにおける第5層以上を含んだ「アプリケーション層」(application layer)となる。HTTPやDNS、FTP、SMTP、POP3、IMAP4、SSL/TLSなど、具体的な機能を定義したプロトコル群、あるいは個別のアプリケーション固有のプロトコルが該当する。
ネットワーク層 【インターネット層】
プロトコルの機能階層の一つで、単一の、あるいは相互接続された複合的なネットワークの上で末端から末端までデータを送り届ける役割を担うもの。OSI参照モデルでは第3層、TCP/IP階層モデルでは第2層で、IP(Internet Protocol)が該当する。
ネットワークにおけるデータの伝送手順や形式を定めた通信規約を「プロトコル」(protocol)という。一つのプロトコルは通常ある一つの特定の役割を持っており、人間やアプリケーションに近い側から物理的な装置に近いものまで何種類かを階層型に組み合わせて用いる。
プロトコルの役割を階層構造で整理したモデルとして「OSI参照モデル」と「TCP/IP階層モデル」(DARPAモデル)がよく用いられるが、OSIでは第3層を「ネットワーク層」、TCP/IPでは第2層を「インターネット層」と呼び、いずれもデータリンク層(リンク層)とトランスポート層の中間に位置する。
この階層の主な役割は、物理ネットワーク同士を結びつけ、全体を一つの論理的なネットワークとして相互に通信可能な状態にすることである。具体的には、ネットワーク全体を通して整合的で体系的なアドレス(識別番号)の割り当て、データの伝送経路の管理や選択(ルーティング)、データの送受信単位の変換や調整、優先制御などである。
現代のコンピュータネットワークでは一部の特殊な用途を除いてこの階層のプロトコルに「IP」(インターネットプロトコル)を用いるのが標準となっており、IPにより各組織のネットワークを世界規模で相互接続した巨大なネットワークを「インターネット」という。現在はIPのバージョン4(IPv4)が標準的に用いられているが、アドレス長や機能を拡張した「IPv6」(IPバージョン6)への移行が進んでいる。
第3層/ネットワーク層という表記
TCP/IPはOSIモデルとは無関係に設計されたため、厳密には両モデルの機能・役割は似ているだけで同じではない。また、TCP/IPでは本来「インターネット層」(Internet layer)と呼ばれるが、OSIの用語にならって慣習的に「ネットワーク層」と呼ばれている。
TCP/IPではOSIモデルの物理層に相当する階層がなく、IPは最下層のリンク層から数えて第2階層のプロトコルとなるが、歴史的経緯でTCP/IPのプロトコル階層をOSIモデルにあてはめて分類・解釈する方法が広まったため、現在でもIPを指して「レイヤ3」「L3」のように表記することが多い。
TCP/IP 【Transmission Control Protocol/Internet Protocol】 ⭐
インターネットなどで標準的に用いられる通信プロトコル(通信手順)で、TCP(Transmission Control Protocol)とIP(Internet Protocol)を組み合わせたもの。また、TCPとIPを含む、インターネット標準のプロトコル群全体の総称。
IPは複数のネットワークを繋ぎ合わせて同じ識別番号の体系(IPアドレス)により相互に通信可能にするプロトコルで、これを用いて世界的に様々な組織の管理するネットワークを相互接続してできたオープンなネットワークを「インターネット」(Internet)と呼んでいる。
プロトコル階層
IPではプロトコル群を役割に応じて階層化して整理しており、下位プロトコルのデータ送受信単位(パケットやフレーム、データグラムなど)の中に上位プロトコルの送受信単位を入れ子状に埋め込んで運ぶ仕組み(カプセル化という)になっている。
例えば、HTTPメッセージはTCPセグメントに格納されて運搬され、TCPセグメントはIPデータグラムに格納されて運搬され、IPデータグラムはイーサネットフレームやPPPフレームなどに格納されて運搬される。上位プロトコルは下位プロトコルに運搬を依頼するだけでよく、下層で何が起きているか詳細を知る必要がない。
階層は物理的な装置や回線に近い側からリンク層、インターネット層、トランスポート層、アプリケーション層となっており、IPはインターネット層、TCPはトランスポート層のプロトコルである。リンク層はIPの関連規格群では規定せず、イーサネットやWi-Fiなど各機器が対応している通信手段を利用する。
アプリケーション層は用途やシステムの種類ごとに多種多様なプロトコルが定義されている。例えば、Webコンテンツの伝送にはHTTP(Hypertext Transfer Protocol)、電子メールの送受信にはSMTP(Simple Mail Transfer Protocol)やPOP3(Post Office Protocol)、IMAP4(Internet Mail Access Protocol)などが用いられる。
総称としての「TCP/IP」
IPネットワーク上ではIPと組み合わせてTCPではなくUDP(User Datagram Protocol)や他のプロトコルを用いることもあるが、「TCP/IP」という呼称はTCPとそれ以外を区別するという意味合いは薄く(UDPを使う場合を「UDP/IP」とはあまり呼ばない)、「IPを中心とする標準的な通信プロトコルの総称」を表すことが多い。
歴史的な経緯からそのような意味合いが定着しているが、今日ではそのような総称的な意味は「インターネットプロトコルスイート」(Internet Protocol Suite)のような用語で表すか、「IP接続」「IPネットワーク」のように単に「IP」一語で代表させるようになってきている。
UDP 【User Datagram Protocol】
インターネットなどのIPネットワークで、IP(Internet Protocol)の上位層であるトランスポート層のプロトコル(通信規約)として標準的に使われるものの一つ。シンプルで低遅延だが信頼性は低い。
ネットワーク層のIPと、DHCPなど各用途ごとに固有のアプリケーション層のプロトコルとの橋渡しをするもので、「ポート番号」という識別番号を用いて、各IPデータグラムが運んでいるデータがどの上位プロトコルのものであるかを識別し、担当のソフトウェアに振り分ける。
UDPは仮想的な伝送路の確立(ハンドシェイク)を行わないコネクションレス型のプロトコルで、送信先が確実にデータを受領したかを確認したり、データの欠落を検知して再送したり、受信データを送信順に組み立て直すといった制御を行わず、データを「送りっぱなし」にする。
このため、UDP自体はデータの配達に関して特に信頼性を保証しないが、このような制御を行わない分だけ転送効率が高く、遅延が発生しにくい。データに多少の損失が生じても高速性や即時性(リアルタイム性)を重視する用途(通話、放送など)、信頼性はアプリケーション層で確保するためとにかくシンプルにデータを伝送してほしい用途などで用いられる。
UDPでのデータの送信単位は「データグラム」(UDPデータグラム)で、前半8バイトが制御情報を記したヘッダ、残りの後半部分が伝送するデータ本体(アプリケーション層から伝送を依頼されたデータ)であるペイロードとなる。ヘッダ構造は極めてシンプルで、先頭から2バイトずつ送信元ポート番号、宛先ポート番号、(データグラム全体の)データ長、チェックサム(誤り検出符号)となっている。
UDPはインターネット開発の初期に考案され、1980年にRFC 768として標準化された。高信頼性のTCP(Transmission Control Protocol)と共に主要なトランスポート層プロトコルとして広く普及している。標準的なアプリケーション層プロトコルはTCPを利用するものが多いが、DNSやSNMP、DHCP、NTPなどがUDPを利用することでよく知られる。動画や音声のストリーミング配信などはUDPを用いることが多い。
HTTP 【Hypertext Transfer Protocol】 ⭐
WebサーバとWebクライアントの間でデータの送受信を行うために用いられるプロトコル(通信規約)。Webページを構成するHTMLファイルや、ページに関連付けられたスタイルシート、スクリプト、画像、音声、動画などのファイルを、データ形式などのメタ情報を含めてやり取りすることができる。
HTTPはクライアントから要求(HTTPリクエスト)を送り、サーバが応答(HTTPレスポンス)を返すプル型(リクエスト/レスポンス型)の通信を基本としており、WebブラウザやWebクローラなどのクライアントから送信する要求の形式や、Webサーバからの応答の形式などを定めている。
HTTPリクエストおよびレスポンスは要求や返答の内容、資源の種類や形式などの情報、および関連する情報を記述した「ヘッダ部」(header)と、送受信する資源(ファイルなど)の本体である「ボディ部」(body)で構成される。ボディは基本的にはレスポンスに存在するが、クライアント側からデータを送信する際にはリクエストにも付加される。
HTTPは下位(トランスポート層)のプロトコルとして標準ではTCPを利用することが多いが、SSL/TLSを用いて暗号化されて伝送されることもある。この通信手順は「HTTP over SSL/TLS」と呼ばれ、URL/URIのスキーム名として通常の「http:」に代えて「https:」を用いる。
Cookieによるセッション管理
HTTPそのものは複数回の通信をまたぐ状態の保存・管理を行わないステートレス型のシンプルなプロトコルだが、「Cookie」(クッキー)と呼ばれる拡張仕様により状態管理ができるようになっている。
Cookieはサーバがレスポンスヘッダの一部としてクライアントに送付する短い文字データで、クライアントはこれをストレージなどに恒久的(ただし有効期限が切れると消滅する)に保存する。次回サーバへリクエストを送付する際にはヘッダに前回受信したCookieの内容を書き入れて送信する。
サーバはCookieを参照することで個々のクライアントを識別・同定することができる。サーバとクライアントの間で何往復も繰り返しやり取りが必要な複雑な処理(セッション)を容易に実装することができ、間が空いてから再アクセスしてもサーバは相手がどのクライアントなのか見分けることができる。
認証方式
HTTPではクライアントを用いてアクセスしてきた利用者を識別・認証し、アクセス権限に応じたサービスを提供するため、認証手順(HTTP認証)についても定めている。当初規定されたのは単純にユーザー名とパスワードをやり取りする「基本認証」(BASIC認証)だが、パスワードが通信途上で盗聴される危険性に対処するためにチャレンジ/レスポンス認証の一種である「ダイジェスト認証」(Digest認証)が追加された。
現在では利用者の認証が必要な用途ではHTTP通信自体を丸ごと暗号化するSSL/TLSを用いるのが一般的となっており、認証機能もアプリケーション側で実装するようになったため、HTTP自体の認証機能はあまり使われなくなっている。
歴史
HTTPの最初のバージョン(HTTP/0.9)は、Webを考案したティム・バーナーズ・リー(Timothy J. Berners-Lee)氏らによって1991年に公表された。その後、インターネット関連技術の標準化を推進するIETF(Internet Engineering Task Force)によって標準化が進められ、1996年にHTTP/1.0(RFC 1945)が、1997年に改良版のHTTP/1.1(RFC 2068)が発行された。
現在最も普及しているのはこのHTTP/1.1で、2014年にRFC 7230~7235として改訂された。2015年には互換性を維持しつつ大幅な機能強化を図ったHTTP/2が、2022年にはトランスポート層にQUICを統合したHTTP/3が標準化され、一部の仕様が大きく変更されている。
HTTPS 【HTTP over SSL/TLS】 ⭐⭐⭐
通信方式の種別などを表すURIスキームの一つで、Webのデータ転送に用いられるHTTPが、SSLやTLSで暗号化されている状態を表したもの。WebサーバとWebブラウザの間の通信が暗号化されていることを意味し、通信経路上での盗聴や改竄、第三者によるなりすましを防止する。
インターネット上での情報資源を指し示すのに「http://www.example.com/」といった形式の「URL」(Uniform Resource Locator)あるいは「URI」と呼ばれる書式が用いられる。先頭部分の「http://」は資源の種類や通信方式、プロトコル(通信手順)などを表すスキームと呼ばれる要素で、通常のWeb通信ではHTTPによる通信を表す「http://」を用いる。
HTTPには通信の暗号化についての仕様が無いため、環境によっては通信内容を伝送途上で盗み見られたり途中で内容をすり替えられる危険がある。このため、暗号化プロトコルの「SSL」(Secure Socket Layer)あるいは後継の「TLS」(Transport Layer Security)で暗号化されたデータ伝送路を確立し、その中でHTTPによる通信を行うという方式が用いられる。
この通信方式を「HTTP over SSL/TLS」と呼び、スキームとして「https://」を用いる。アクセスしたいWebサイトのアドレス(URL)や、Webブラウザに表示されたWebページのアドレス欄などが「https://」で始まっていることを確認すれば、そのページのデータ伝送がSSL/TLSによって保護されていることが確認できる。
暗号化にはデジタル証明書が用いられ、Webブラウザのアドレス欄の近くにあるアイコンなどをクリック/タップすることなどにより、証明書の発行元(認証局)や、暗号方式の詳細、発行元に登録されたWebサーバ運営者の身元情報などを知ることができる。
HTTPは標準でTCPの80番ポートを使用して通信するが、HTTPS向けには標準でTCPの443番ポートが使われる。「https://www.example.com:8080/」のように特定のポートを指定することもできる。SSL/TLSを組み合わせて暗号化するプロトコルは他にもあり、SMTPを暗号化したSMTPS、POP3を暗号化したPOP3S、IMAP4を暗号化したIMAPSなどがよく知られる。
SMTP 【Simple Mail Transfer Protocol】 ⭐⭐⭐
インターネットなどのIPネットワークで標準的に用いられる、電子メール(eメール)を伝送するための通信手順(プロトコル)の一つ。メッセージの発信やサーバ間の転送に用いられる。
利用者の操作するメールソフト(メールクライアント)からメールサーバにメッセージの送信を依頼する際や、メールサーバ間でメッセージを転送する際にシステム間で交わされる要求や応答のデータ形式、伝送手順などを定めている。
SMTPでメッセージを転送するソフトウェアを「MTA」(Mail Transfer Agent)あるいは「SMTPサーバ」(SMTP server)という。一方、受信側でクライアントへメッセージを配送するソフトウェアは「MRA」(Mail Retrieval Agent)と呼ばれ、受信プロトコルの違いによりPOP3サーバ、IMAP4サーバなどに分かれる。
SMTPは1980年代から使われている古いプロトコルで、最初の仕様はIETFによって1982年にRFC 821として規格化された。幾度かの改訂を経て2008年に最新版のRFC 5321が発行されている。1994年に追加された拡張機能やコマンド群は「ESMTP」(SMTP Service Extensions)と呼ばれることもある。
認証や暗号化の拡張
SMTPの当初の仕様には利用者の認証などセキュリティ機能が欠けていたため、SMTPコマンドを拡張して認証を行う「SMTP認証」(SMTP-AUTH)や、POP3の認証機能を借用してPOP3で認証した相手に一定時間SMTPによる接続を許可する「POP before SMTP」(PbS)などの仕様が策定された。
また、SMTP自体には送受信データの暗号化の機能は用意されていないため、一階層下のトランスポート層でSSL/TLS接続を行い、SMTP通信全体を暗号化する「SMTPS」(SMTP over SSL/TLS)が用意されている。通常のSMTP接続を区別するため専用のポート番号(標準ではTCPの465番ポート)で運用する。
インターネットでメールの利用が広まると迷惑メールやウイルスメール、フィッシング詐欺などの問題が生じたため、送信元のチェックなどを行う「SPF」(Sender Policy Framework)や「DKIM」(DomainKeys Identified Mail)、「DMARC」(Domain-based Message Authentication, Reporting, and Conformance)などの仕様が整備され、SMTPと併用されている。
サブミッションポートの分離
SMTPサーバは標準ではTCPの25番ポートで接続を待ち受けるが、利用者からの送信依頼とサーバ間のメッセージ転送に同じポートを使うと同じポートで両者の通信が混在し、通信経路の暗号化や迷惑メール対策などを行うのに不都合だった。
現在では、サーバ間の転送にのみ25番を用い、送信依頼はTCPの587番ポート、SSL/TLSを併用したSMTPS接続による送信依頼には465番ポートを用いるのが標準となっている。この2つのポートを「サブミッションポート」(submission port)ともいう。
POP 【Post Office Protocol】 ⭐⭐⭐
インターネットなどのTCP/IPネットワークで標準的に用いられる、電子メール(eメール)を受信するための通信規約(プロトコル)の一つ。受信サーバから利用者側へのメッセージの転送に用いられる。
利用者が自分宛ての電子メールを保管しているメールサーバにアクセスし、新しいメールが届いているか調べたり、手元のメールソフトに受信する通信手順やデータ形式を定めている。送信やサーバ間の配達にはSMTP(Simple Mail Transfer Protocol)という別のプロトコルを用いる。
POP3を利用する場合は原則として、サーバに届いたメールはすべてクライアント(メールソフト)側にダウンロードしてから閲覧や未既読の管理、フォルダ分けなどを行い、受信済みのメールはサーバから削除される。
この方式はネットに接続しなくても過去の受信メールを見ることができ、サーバの受信メール保管容量も少なくて済むが、複数の端末で同じメールアドレスを利用したい場合には向いていない。そのような場合はサーバ上で既読管理や分類などを行うことができる「IMAP4」を使ったり、Webメールシステムを使う。
初版は標準化団体のIETFによってRFC 918として1984年に、広く利用されている第3版(POP3)は1988年にRFC 1081として標準化された。POP3は数次の改訂を経て1996年のRFC 1939が最新の仕様となっている。古くから電子メール受信の標準プロトコルとして広く利用され、現在も対応ソフトウェアが多く存在する。
インターネットが広く一般に公開される前に仕様が策定されたため、利用者認証のためのユーザー名やパスワードの送受信を平文(暗号化されていない状態)で送受信する仕組みとなっており、認証情報を暗号化する「APOP」(Authenticated POP)という拡張仕様が導入された。
APOPにも問題が見つかっており、WebにおけるHTTPS通信のように、POP3による通信全体をSSL/TLSで暗号化する「POP3 over SSL/TLS」(POP3S/POPS)の利用が推奨されている。標準のポート番号はPOP2がTCPの109番ポート、POP3が110番ポート、POP3Sが995番ポートとなっている。POP1はほとんど普及せず決まったポート番号はない。
IMAP 【Internet Message Access Protocol】 ⭐⭐⭐
インターネットなどのIPネットワークで標準的に用いられる、電子メール(eメール)を受信するための通信規約(プロトコル)の一つ。利用者が自分宛ての電子メールを保管しているメール受信サーバにアクセスし、新着を確認したり一覧から必要なものを選んで手元に受信する手順を定めている。
IMAP4では原則として、届いたメールをメールサーバ上にメールアドレス(アカウント)ごとに設けられた専用の保存領域(メールボックス)で管理する。利用者はサーバからメールの一覧を取得して必要な物を選択し、手元のコンピュータにダウンロードして閲覧する。
サーバ上で各メールの既読状態の管理、フォルダを用いた分類などを行なうこともでき、添付ファイルなどで容量が大きい場合などにメールの一部だけ(ヘッダ部分だけ、本文だけなど)受信する機能もある。メールをサーバ側で管理するため、一つのアドレスを複数のコンピュータから利用することも容易である。
POPとの比較
メール受信プロトコルとしてよく用いられるものには「POP」(POP3:Post Office Protocol)もあるが、POPではサーバにアクセスする度に届いているメールをすべて手元にダウンロードし、クライアント側でメールの保管や分類などの管理を行う。
IMAP4はサーバ側でメールを保管するため、クライアント起動後に素早く新着や一覧を確認することができる。常に決まった端末を使うとは限らない場合(学校のコンピュータルームなど)や、一人で複数のコンピュータから利用する場合などにも適している。
ただし、サーバ側にメールの保管領域が大量に必要となるため、システムによっては受信容量の上限が厳しく制限され、古いメールを頻繁に削除しなければすぐに制限を超過して受信できなくなってしまう場合もある。
IMAPSによる暗号化
IMAP4自体にはデータの暗号化やパスワードの秘匿といったセキュリティ保護機能がないため、暗号化プロトコルのSSL/TLSと併用してIMAP4による通信全体を暗号化する「IMAPS」(IMAP4 over SSL/TLS、「IMAP44S」とも)と呼ばれる通信方式が用いられることがある。通常のIMAP4はTCPの143番ポートを利用することが多いが、IMAPSは993番を利用することが多い。
歴史
最も初期のバージョンはIETFが1988年にRFC 1064として策定したIMAP42だが、正式名称は現在と異なり “Interactive Mail Access Protocol” だった。1994年にIMAP44がRFC 1730として策定され、このとき現在の名称に改められた。IMAP44は最も普及したバージョンであり、単にIMAP4といった場合はIMAP44を指すことが多い。IMAP44には様々な拡張仕様が追加され、2003年にはRFC 3501として改訂されている。
FTP 【File Transfer Protocol】 ⭐⭐
インターネットなどのTCP/IPネットワークでファイル転送を行うことができるプロトコル(通信規約)の一つ。ファイルを集積したサーバと、送受信を行うクライアントの間の通信手順を定めている。
FTPサーバ、FTPクライアントの二種類のソフトウェアを用い、両者の間で接続を確立し、クライアントからの要求に基づいてファイルを送受信することができる。サーバ側ではアカウント名とパスワードによる利用者の認証を行い、それぞれの利用者に許可された権限や領域(ディレクトリ)で送受信が行われる。
コマンドや応答など制御データの送受信用と、ファイルの一覧やファイルの内容などデータ本体の送受信用に二つの伝送路(コネクション)を確立する。特に指定がない場合、サーバ側では制御用にTCPの21番ポート、データ用にTCPの20番ポートを用いる。
制御用コネクションはクライアント側からサーバ側へ接続を開始して確立し、利用者認証、現在位置(カレントディレクトリ)のファイル一覧の要求や別の位置への移動、ファイルの指定や送受信の開始の指示などに使われる。
アクティブモードとパッシブモード
データ本体のコネクションはサーバ側からクライアントの指定したポートへ接続を開始する「アクティブモード」(ポートモード)と、制御用と同様にクライアント側から接続を開始する「パッシブモード」(PASVモード)がある。
サーバもクライアントも同じネットワークに接続され直接双方向に通信可能な状況ではアクティブモードを用いるが、家庭や企業の内部ネットワークでプライベートIPアドレスを使用している機器がインターネット上のサーバにアクセスする場合など、クライアントに外部から接続を確立することができない場合はパッシブモードを用いる。
セキュリティの確保
FTPは設計が古く、認証時にパスワードを平文(クリアテキスト)のまま送受信してしまったり、伝送内容を暗号化する機能が用意されていないなど、現在ではインターネット上でそのまま用いるのは危険であるされる。
このため、FTPによるファイル転送を利用したい場合は、トランスポート層の暗号化を行うSSL/TLSと組み合わせてFTPによる通信全体を暗号化するFTPS(FTP over SSL/TLS)を利用したり、SSH上でFTPに似たファイル転送を行えるSFTPを用いることが多い。
anonymous FTP
FTPサイトでは、不特定多数の利用者にファイルを配布するなどの目的のため、サーバ側に利用者登録を行っていない者でも自由に接続できる「anonymous」(匿名)と呼ばれる特殊なアカウントが用意されていることがある。
このような利用形態を「anonymous FTP」と呼び、誰でも任意のパスワード(空欄でもよい)で接続して(管理者がanonymousアカウントに設定した権限に応じて)ファイルの送受信を行うことができる。20世紀にはインターネット上のフリーソフトウェアの配布などでよく利用された。
NTP 【Network Time Protocol】 ⭐⭐
TCP/IPネットワークを通じて現在時刻の情報を送受信するプロトコル(通信規約)の一つ。時刻情報を配信するサーバと時刻合わせを行うクライアント間、およびサーバ間の通信方法を定めている。
NTPはコンピュータ間で時刻情報をやり取りする方式を定めており、通信時の遅延を計測して補正する仕組みも提供する。標準のポート番号としてUDPの123番を使用する。
インターネット上には時報のように現在時刻を配信するNTPサーバ(タイムサーバ)がいくつも公開・運用されている。パソコンなどで動作するNTPクライアントはサーバから時刻情報を取得し、コンピュータ内部の時計(RTC)を正しい時刻に調整することができる。
NTPにはこのようなクライアント-サーバ間の通信の他に、時刻サーバ間で時刻情報を調整したり、上位サーバから下位サーバへの階層構造を構成・管理する機能なども定義している。
クライアントからの時刻の問い合わせには、この用途に機能を限定したサブセットである「SNTP」(Simple NTP)が主に利用されてきたが、2010年のNTPv4でNTP本体に統合され、独立したプロトコルとしては廃止された。
NTPサーバの階層構造
NTPサーバは「Stratum」(ストラタム)と呼ばれる階層構造を形成しており、最上位から順に「Stratum 1」「Stratum 2」のように呼ぶ。
最上位のStratum 1は原子時計や電波時計、特殊なGPS受信機など時刻源(「Stratum 0」とも呼ばれる)となる機器に直結されている。安定的に運用するため一般には公開せず、限られた下位サーバからのみ参照できるようにしていることが多い。
Stratum 2以下のサーバは自らは時刻源を持たず、上位階層のサーバからNTPで時刻データを受信して自らの時刻を正確に維持する。Stratum 3や4などより下位のサーバへ時刻を提供し、クライアントからの問い合わせにも応答する。
インターネット上には数多くの公開NTPサーバがあり誰でも自由に時刻合わせができるほか、こうしたサーバを上位サーバとして、組織内の機器の時刻合わせのために独自にNTPサーバを構築・運用している例もある。
DHCP 【Dynamic Host Configuration Protocol】 ⭐⭐
インターネットなどのIPネットワークに新たに接続した機器に、IPアドレスなど通信に必要な設定情報を自動的に割り当てるための通信規約(プロトコル)。
機器の利用者がネットワーク設定を手動で行わなくても、ネットワーク管理者の側で適切な設定を自動的に適用することができ、技術に詳しくない利用者でも簡単に接続できる。管理者は多くの機器の設定を容易に一元管理することができ、不適切な設定に起因するトラブルを減らすことができる。
スマートフォンなど持ち運ぶ機器の場合、接続先ごとに詳細な設定を管理者から入手して手動で入力しなくても、DHCPを利用するよう設定しておくだけでネットワークごとに接続開始時に適切な設定情報を入手して適用することができる。
DHCPによって通知される設定情報には、問い合わせを行った機器が名乗るべきIPアドレス、アドレスのサブネットマスク、当該ネットワークで利用可能なDNSサーバのIPアドレス、外部ネットワークとの出入り口であるデフォルトゲートウェイのIPアドレス、アドレスのリース期間(使用期限)などがある。追加で時刻同期サーバ(NTPサーバ)のアドレスなど他の情報を通知することもできる(が、あまり一般的ではない)。
DHCPの仕様は前身の「BOOTP」(Bootstrap Protocol)を拡張したもので、1993年にIETFによってRFC 1541として標準化され、1997年にRFC 2131として更新された。2018年にはIPv6対応版である「DHCPv6」(RFC 8415)も標準化されたが、IPv6自体に自動的にアドレス設定をメカニズムが組み込まれており、特殊な目的以外ではあまり利用されない。従来のIPv4向けのDHCPをIPv6向けと明確に区別したい時は「DHCPv4」と呼ぶこともある。
DHCPサーバとDHCPクライアント
DHCPで設定情報を提供する機能を持ったコンピュータやネットワーク機器を「DHCPサーバ」(DHCP server)、サーバへ問い合わせを行って設定情報を受け取る機器やソフトウェアを「DHCPクライアント」(DHCP client)という。
企業のネットワークなどでは専用のサーバコンピュータが他のネットワーク管理機能などと共にDHCPサーバとして稼動している場合が多く、家庭のインターネット接続環境ではブロードバンドルータやWi-FiルータなどがDHCPサーバ機能を内蔵している場合が多い。
DHCPクライアントはネットワーク接続を利用する機器に必要なもので、単体の装置やソフトウェアとして提供されるものではなく、機器を制御するオペレーティングシステム(OS)などの中に組み込まれている。パソコンやスマートフォン、デジタル家電、家庭用ゲーム機など、およそインターネット接続に対応した機器のほとんどはDHCPクライアントとして機能するようにできている。
家庭用のルータ製品などの中には、インターネットサービスプロバイダ(ISP)からグローバルIPアドレスなどの設定情報を受信するためのDHCPクライアント機能と、屋内のパソコンやスマートフォンなどにプライベートIPアドレスを払い出すためのDHCPサーバ機能を内蔵し、両方同時に使用する例もある。
なお、DHCPは標準では下位のトランスポート層のプロトコルとしてUDP(User Datagram Protocol)を利用し、サーバがクライアントからの通信を待ち受けるのはUDPの67番ポート、クライアントがサーバからの返信を待ち受けるのはUDPの68番ポートと定められている。
IPアドレス割り当ての手順
クライアントがネットワークに接続すると、同じネットワークのすべての機器へ同報送信(ブロードキャスト)でDHCPサーバに応答を求める問い合わせ(DHCPディスカバー)を送信する。DHCPサーバが存在する場合、これに呼応して使用すべきIPアドレスを提案する応答(DHCPオファー)をブロードキャストする。
クライアントが提案されたIPアドレスを使用することを決めると、追加の設定情報を求める要求(DHCPリクエスト)を再びブロードキャストする。DHCPサーバが複数ある場合、自らの提案が「落選」したDHCPサーバはこのブロードキャストによってそれを知り、アドレスの割り当てを解除して待機状態に戻る。
最後に、アドレス提案が採用されたサーバがクライアントに向けてデフォルトゲートウェイなどの追加情報を記載した承認通知(DHCPアック/Acknowledgement)をユニキャスト(アドレス指定送信)で送信し、手続き完了となる。
DHCPサーバにはあらかじめ、クライアントに払い出して良いIPアドレスの範囲(IPアドレスプール)が管理者によって設定されており、その中から現在使われていないアドレスを提案する。接続が途絶えたクライアントや使用期限が来たアドレスは回収して空き状態としておき、次に接続したクライアントに払い出す。
ポート番号 ⭐⭐⭐
IPで通信する際、同じコンピュータ内で動作する複数のソフトウェアのどれが通信するかを指定するための番号。一台のコンピュータで複数の異なるソフトウェアが並行して通信できるようにする。
IP(Internet Protocol)はインターネットなどで標準的に用いられるプロトコル(通信規約)で、ネットワーク上で機器を識別する「IPアドレス」という番号の体系を用意している。ネットワーク上では送信元や宛先の機器を特定するためにこのアドレスを指定する。
IP上では様々なアプリケーションやプロトコルが取り扱われるが、IPアドレスだけでは機器上で動作するどのソフトウェアによる通信なのかを識別することができない。そこで、0番から65535番まで(16ビット符号なし整数)のポート番号を指定することにより、どのソフトウェアが送信元あるいは宛先なのかを特定する。
IPの働きを補助するトランスポート層のプロトコルとして「TCP」(Transmission Control Protocol)や「UDP」(User Datagram Protocol)などがあり、ポート番号が同じでもこれらのプロトコルの種類が異なれば違う機能を指しているとみなされる。このため、実用上は「TCP/80」「UDP/53」といったようにポート番号だけでなくトランスポート層プロトコルの種類も明示する。
Web通信ではURLの一部としてポート番号を指定することができ、「https://www.example.jp:443/」のようにホスト名やIPアドレスの末尾にコロン(:)を付して追記する。ポート番号の指定を省略した場合、「http://」ならTCP80番に、SSL/TLSによる暗号化が有効な「https://」ならTCP443番にアクセスする。
用途の登録
どのポート番号を何に利用するかは、通信する二者の交渉と合意により任意に設定・変更できるが、インターネットで用いられる識別番号や識別名の登録・管理を行っているIANA(ICANN)では、一部のポート番号について推奨される用途を登録・公開している。
0番から1023番を「ウェルノウンポート」(well-known port numbers)というが、近年これは「システムポート」(system port numbers)に改名された。1024番から49151番までは「レジスタードポート」(registered port numbers:登録済みポート)あるいは「ユーザーポート」(user port numbers)という。
49152番以降はどのように用いても自由な番号で、クライアントがサーバに接続する送信元ポートなど一時的な通信のために用いることが多いため「エフェメラルポート」(ephemeral:一時的な)あるいは「動的ポート」(dynamic port numbers)とも呼ばれる。
著名なポート番号のうち、特に2桁や3桁の番号のいくつかは、広く普及しているプロトコルの標準ポート番号として用いられている。例えば、TCP/20~21はFTP、TCP/22はSSH、TCP/23はTelnet、TCP/25はSMTP、UDP/53はDNS、UDP/67~68はDHCP、TCP/80はHTTP、TCP/110はPOP3、TCP/123はNTP、UDP/137~138とTCP/139はNetBIOS、TCP/143はIMAP4、TCP/443はHTTPS、TCP/587はSMTPサブミッションポートなどとなっている。
インターネット 【Internet】
共通の通信仕様を用いて全世界の膨大な数のコンピュータや通信機器を相互に繋いだ、巨大なコンピュータネットワーク。
通信規約(プロトコル)の「IP」(Internet Protocol)と関連技術を用いて、様々な組織の運用するネットワークや機器を互いに接続した地球規模のネットワークシステムである。個人や企業、公的機関など様々な主体が利用する、国の枠を超えた人類共通の通信インフラ・情報インフラとして広く普及している。
機能
インターネット上では様々な機能、サービス、システムが構築、提供されている。膨大な文書を相互に関連付けたWeb(ウェブ)や、手紙のように利用者間でメッセージを送受信できる電子メール(e-mail)、利用者間の交流を促進するSNS、テレビのように映像を流す動画配信サービスなどはその一例である。
今日ではインターネットにおける情報やサービスの多くはWebを通じて提供されるため、日常的にはWebのことを指してインターネットあるいはネットと呼ぶことも多いが、厳密にはWebはインターネット上の機能・サービスの一つに過ぎない。モバイルアプリのようにソフトウェアやサービスの運用基盤としてインターネットが用いられることも多く、人々は意識せずに様々な場面でインターネットの恩恵を受けている。
構成・運用
インターネット全体を管理・運営する単一の主体というものはなく、様々な組織の運営するネットワークが相互に接続された分散型のネットワークとなっている。ただし、IPアドレスやドメイン名、ポート番号、通信プロトコルの仕様など、インターネット全体で共有される識別情報や技術規格などについては、管理・統括する国際的な民間非営利団体(ICANN、IETF、W3Cなど)が存在する。
組織内の構内ネットワーク(LAN)などをインターネットに接続するには、すでにインターネットに参加しているネットワークへ接続する必要がある。通信事業者の光ファイバー回線などを敷設・契約して、通信事業者自身や他の主体(企業や官公庁、大学など)が運営する既存のネットワークへ接続する。
個人や家庭などでインターネットを利用するには、接続を仲介する専門の事業者「インターネットサービスプロバイダ」(ISP:Internet Service Provider)と契約し、通信会社の回線を経由して接続することが多い。モバイル回線では移動体通信事業者(携帯キャリア)がISPの機能も兼ねており、回線が開通すればすぐに端末からインターネットに接続できる。
歴史
インターネットの起源は1969年に米国防総省が中心となってアメリカの大学や研究所などを通信回線で相互に結んだ「ARPANET」とされ、学術機関を結ぶ情報ネットワークとして発展した。1986年に大学間の相互接続ネットワークは全米科学財団が主催する「NSFNet」に移り、初期のインターネットのバックボーンネットワークとなった。
1989年に米国でNSFNetと民間事業者ネットワークの相互接続が始まり、商用インターネット利用が開始された。日本では1984年の「JUNET」が起源となって大学や研究機関からNSFNetに接続できるようになり、1992年に当時のAT&T JensとIIJが一般向けISP事業を開始した。
当初は電話回線でISPの通信拠点(アクセスポイント)に接続し、データを電話の音声信号に変換して送受信する「ダイヤルアップ接続」が用いられたが、1999年には電話回線に音声と異なる周波数でデジタル信号を流す「ADSL」方式で常時接続サービスが開始され、2000年代以降は光ファイバー回線に置き換わっていった。
日本で広く一般にインターネットが認知され普及し始めたのはWindows 95が発売された1995年頃で、WindowsパソコンやMacintosh(現在のMac)でWeb(当時はWWW:World Wide Webと呼ばれた)を閲覧したり電子メールを送受信するという使い方が主流だった。
同時期に携帯電話の爆発的な普及が始まり、1990年代末には携帯電話端末からのインターネット電子メールの送受信、NTTドコモの「iモード」などネット技術を利用した情報サービスなどが普及した。2007年に「iPhone」「Android」が登場するとスマートフォンやタブレット端末が普及し、個人のネット利用の主流はパソコンからこれらの携帯端末に移っていった。
IPアドレス 【Internet Protocol Address】 ⭐⭐⭐
インターネットなどのIPネットワークに接続された、個別のネットワークや機器を識別するための識別番号。インターネット上で通信するには重複した番号を使うことはできないため、管理団体に申請して割り当てを受ける必要がある。
インターネットなどのネットワークでは機器間の通信をIP(Internet Protocol)と呼ばれる共通のプロトコル(通信規約)によって行う。IPアドレスはこのIPネットワークにおける個々の機器を識別するための番号で、データの宛先の指定や送信元の特定などに用いられる。
現在インターネットなどで広く普及しているIPは「IPv4」(IPバージョン4)で、アドレスを32ビットの値として表す。書き表す場合には先頭から順に8ビットごとに区切り、それぞれを十進数の値として「.」(ピリオド/ドット)で区切って表記する。例えば、「11000110 00110011 01100100 00000001」というアドレスは「198.51.100.1」のように表記する。
IPアドレスとドメイン名
IPアドレス自体は数字の羅列で人間には覚えたり書き表したりしにくく、読み間違いや入力ミスも起こりやすいため、「www.example.com」のようにアルファベットや記号を組み合わせた分かりやすい識別名をつけられる仕組みが考案された。
これをDNS(Domain Name System)と呼び、IPアドレスの代わりとしてネットワーク上で用いることができる識別名をドメイン名という。ドメイン名には特定のIPアドレスに対応し、個別の機器を指し示す完全修飾ドメイン名(FQDN:Fully Qualified Domain Name)あるいはホスト名(host name)と、複数の機器や領域を包含する領域の識別名がある。
IPアドレスとドメイン名の対応関係は各組織が設置・運用するDNSサーバによって管理・提供される。人間が指定したドメイン名の指し示す機器に接続するにはDNSサーバへ問い合わせて対応するIPアドレスを得る必要があり、通常はソフトウェアが内部的にこの処理を行う。
機器が通信処理を行うのに必須なのはIPアドレスのみであるため、すべてのIPアドレスに対応するドメイン名が設定されているわけではない。通常必要なのはドメイン名からIPアドレスへの変換(正引き)であるため、逆にIPアドレスから対応するドメイン名を割り出す変換(逆引き)は常に可能とは限らない。また、IPアドレスとドメイン名は常に一対一に対応している必要はなく、一つのIPアドレスに複数(場合によっては多数)のドメイン名が対応付けられていることもある。
グローバルIPアドレス
インターネット上で使用するアドレスをグローバルIPアドレス(global IP address)、特定の組織内ネットワークのみで通用するアドレスをプライベートIPアドレス(private IP address)あるいはローカルIPアドレス(local IP address)という。
グローバルアドレスはインターネット全体で一意に特定できなければならず、複数の組織や端末で重複があってはならないため、勝手に設定して名乗ることはできず、アドレス発行組織に申請を行って割り当てを受けなければならない。
インターネット上のIPアドレスについて全世界で一元的に割り当ての調整を行う機関としてICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)が設置されている。そこから世界を5つに分けた各地域を管轄するRIR(Regional Internet Registry)に大きなアドレスブロック単位で割り当てが行われ、RIRから域内の各国・地域をそれぞれ管轄するNIR(National Internet Registry)へ小さなブロック単位で割り当て行われる。
インターネットへの接続を希望する各組織・個人からの申請を受けてアドレスを割り当てるのはNIRの担当となる。日本を管轄するRIRはAPNIC(Asia Pacific Network Information Centre)、NIRはJPNIC(Japan Network Information Center)である。
プライベートIPアドレス
プライベートアドレスは各組織ごとに設置・運用されているLAN(構内ネットワーク)などのネットワーク上で用いられるアドレスで、申請などは不要で自由に機器に設定して使用してよい。ただし、各アドレスがそのネットワークの内部で重複してはならない点はグローバルアドレスと変わらない。
プライベートアドレスしか持たない機器はインターネットに直接接続して通信することはできないため、ネットワーク境界にゲートウェイやルータ、プロキシサーバなどを設置してアドレス変換やデータの中継などを行い、一定の制約(インターネット側から接続を開始できないなど)の元で通信できるようにすることが多い。
IPv4アドレスではプライベートアドレス用の領域として、10.0.0.0~10.255.255.255(最大約1677万台)、172.16.0.0~172.31.255.255(最大65535台)、192.168.0.0~192.168.255.255(最大255台×256ネットワーク)の3つが予約されており、ネットワークの規模に応じていずれかを使用することができる。これらはグローバルアドレスとしては割り当てられないことが決まっている。
IPv4アドレスの枯渇
現在インターネットで用いられるIPv4アドレスは32ビットの値であるため、2の32乗の42億9496万7296個のアドレスしか使用することができず、インターネットの爆発的に普及に伴い2000年代後半頃からは逼迫するようになった。
これは、IPv4が設計された1980年頃にはインターネットに限られた機関しか接続されておらず、現在のような爆発的な普及を想定していなかったためこのアドレス数で十分であると考えられていたのと、当時の通信回線が低速で伝送容量が限られており、少しでも通信制御用のデータを短くしたかったという事情がある。
2015年までには各地域のRIRおよび各国のNIRが確保・用意しているIPv4アドレスブロックの「在庫」は枯渇してしまい、既存の割り当て先から接続廃止で返却されてくる分以外には、まとまった数のアドレスを新規に発行することはできなくなってしまっている。
IPv6アドレス
IPv4の後継として設計されたIPv6(IPバージョン6)では、IPアドレスが128ビットの値となり、2の128乗=約3.40×1038、すなわち、340澗2823溝6692穣0938𥝱4634垓6337京4607兆4317億6821万1456個の広大なアドレス空間を使用できるようになった。
IPv4と同じ表記法だと長過ぎるため、16ビットずつ「:」(コロン)で区切って16進数で表記し、0が連続する区間は省略するという記法を採用している。例えば、「2001 : 0db8 : 0000 : 0000 : 0000 : 0123 : 0000 : 00ab」は「2001 : db8 :: 123 : 0 : ab」のように表記する。
IPv6アドレスのグローバルでの割り当ても始まっており、一部の通信事業者やインターネットサービスプロバイダ(ISP)などがIPv6によるインターネット接続に対応しているが、既存のIPv4と共存しつつ移行するのは様々な事情が重なって難しく、なかなかIPv6の普及が進まない状況が10年以上続いている。
IPv4アドレス 【IPv4 address】
インターネットなどで用いられるIPのバージョン4(IPv4)における機器の識別番号。32ビットの値で、約42億台の機器を識別することができる。現在インターネットで最も一般的に用いられている。
全体で32ビットのデータだが、表記する際には「198.51.100.1」のように8ビットずつ4つの値に区切って「.」(ドット/ピリオド)を挟んでそれぞれ十進数の値として書き記す。「0.0.0.0」から「255.255.255.255」まで42億9496万7296(232)個のアドレスが利用できる。
ネットワーク部とホスト部
IPは複数のネットワークを連結して大きなネットワークを構成することができるため、IPv4アドレスもネットワークを識別するためのネットワーク部(ネットワークアドレス)と個々の機器を識別するためのホスト部(ホストアドレス)に分かれる。IPv4アドレスをビット列で表したとき、先頭側(上位ビット)がネットワーク部、末尾側(下位ビット)ホスト部となっている。
かつては32ビットのうち何ビットをネットワーク部とするかはアドレス領域(クラスA~クラスE)ごとに固定的に決まっていたが、アドレスが空いていた時代に多く割り当てを受けた組織が未使用のアドレスを余らせる一方、インターネットの急拡大でアドレスの逼迫が問題となりだしたため、ネットワーク部の長さを1ビット単位で可変に制御できるようにし、正確に必要な数だけ割り当てるよう変更された。
<$Fig:ipaddressclass|center|false>ネットワーク部を可変長とする方式を「CIDR」(Classless Inter-Domain Routing)と呼び、ネットワークごとにネットワーク部を識別するための「サブネットマスク」(subnet mask)を設定する。
これはネットワーク部が「1」、ホスト部が「0」になっている32ビットの値で、アドレスと同じように4つの十進数で表記する。例えば、「255.255.255.192」(11111111.11111111.11111111.11000000)であれば、アドレスの先頭から26ビットがネットワーク部、残り6ビットがホスト部となる。
グローバルIPアドレス
インターネット上で使用するアドレスを「グローバルIPアドレス」(global IP address)あるいは「パブリックIPアドレス」(public IP address)という。インターネット全体で一意に特定できなければならず、複数の組織や端末で重複があってはならないため、勝手に設定して名乗ることはできず、アドレス発行組織に申請を行って割り当てを受けなければならない。
全世界で一元的に割り当ての調整を行う機関としてICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)が設置されている。そこから世界を5つに分けた各地域を管轄するRIR(Regional Internet Registry)に大きなアドレスブロック単位で割り当てが行われ、RIRから域内の各国・地域をそれぞれ管轄するNIR(National Internet Registry)へ小さなブロック単位で割り当て行われる。
インターネットへの接続を希望する各組織・個人からの申請を受けてアドレスを割り当てるのはNIRの担当となる。日本を管轄するRIRはAPNIC(Asia Pacific Network Information Centre)、NIRは一般社団法人日本ネットワークインフォーメーションセンター(JPNIC:Japan Network Information Center)である。
プライベートIPアドレス
企業など各組織ごとに設置・運用されている構内ネットワーク(LAN)などで用いられるアドレスを「プライベートIPアドレス」(private IP address)あるいは「ローカルIPアドレス」(local IP address)という。
直接通信できる範囲が組織内ネットワークに限定されるアドレスで、申請などは不要で自由に機器に設定して使用してよい。ただし、そのネットワークの内部ではアドレスが重複してはならない点はグローバルアドレスと変わらない。
プライベートアドレスしか持たない機器でもインターネットへ接続できるようにするため、ネットワーク境界にゲートウェイやルータ、プロキシサーバなどを設置してアドレス変換やデータの中継などを行い、一定の制約(インターネット側から接続を開始できないなど)の元で通信できるようにすることが多い。
プライベートアドレス用の領域として、10.0.0.0~10.255.255.255(最大約1677万台)、172.16.0.0~172.31.255.255(最大6万5535台)、192.168.0.0~192.168.255.255(最大255台×256ネットワーク)の3つが予約されており、ネットワークの規模に応じていずれかを使用することができる。これらはグローバルアドレスとしては使用しないことが保証されている。
ローカルループバックアドレス
IPv4アドレスのうち、「127.0.0.0~127.0.0.255」の256個のアドレスは、機器自身を表す「ローカルループバックアドレス」用に予約されている。実用上は慣習的に「127.0.0.1」というアドレスが自身を表すよう設定されていることが多い。対応するホスト名は慣習的に「localhost」に設定されている。
IPv4アドレス枯渇問題
IPv4の仕様は1980年頃に策定されたが、当時は計算資源や通信容量が限られていたため、なるべく短いアドレスで済ませたいという事情があり、IPが研究用の小規模ネットワークでしか使われていなかった当時としては十分すぎるほど広大なアドレス空間を持つ32ビットという長さに決まった。
ところが、1990年代後半にインターネットが一般に開放されると予想を超えて爆発的に普及し、2000年代後半には次第に未使用のアドレス空間が逼迫するようになってきた。2011年にはICANNが各地域のRIRに割り当てる「在庫」が枯渇し、2012年から2019年にかけて各RIRの未使用アドレスも使い果たしてしまった。以降は既存の割り当て先から接続廃止で返却されてくる分以外には、まとまった数のアドレスを新規に発行することはできなくなってしまっている。
IPv6アドレス 【IPv6 address】 ⭐
インターネットなどで用いられるIPのバージョン6(IPv6)における機器の識別番号。128ビットの値で、約340澗(1000京の3400京倍)台の機器を識別することができる。
現在のインターネットで一般的に用いられているIPv4アドレスの後継として設計されたもので、アドレス割り当ての逼迫を解消して様々な用途に使用できるよう、2128=340澗2823溝6692穣938𥝱4634垓6337京4607兆4317億6821万1456個の広大なアドレス空間を使用できる。
表記法
IPv4では「198.51.100.1」のように8ビットずつ区切って十進数を4つ並べて表記したが、同じ記法だと長くなりすぎるため、16ビットずつ「:」(コロン)で区切って16進数で表記し、0が連続する区間は省略するという記法を採用している。例えば、「2001 : 0db8 : 0000 : 0000 : 0000 : 0123 : 0000 : 00ab」は「2001 : db8 :: 123 : 0 : ab」のように表記する。
種類と形式
一般的な一対一の通信に用いられる「ユニキャストアドレス」は128ビットを前半64ビットと後半64ビットに分け、前半はルーティングなどでネットワークの識別に用いる「ネットワークプレフィックス」、後半は単一ネットワーク内での機器(厳密には機器内のネットワークインターフェース)の識別に用いる「インターフェースID」となっている。
ネットワークプレフィックスのうち上位側48ビット以上はインターネット内でネットワークを識別する「(グローバル)ルーティングプレフィックス」、下位側16ビット以下は単一組織内の管理する複数のネットワークを識別する「サブネットID」となっている。どちらに何ビット割り当てるかは運用組織ごとに決める。
複数の機器が同じユニキャストアドレスを共有することができ、送信者からネットワーク的に最も近いノードに誘導される「エニーキャスト」という仕組みが組み込まれている。DNSルートサーバやCDN(コンテンツデリバリネットワーク)のように全世界に同じ役割のサーバを分散配置する必要がある用途で使用する。
インターネットには接続せず(できず)、当該ネットワーク内でのみ有効な「リンクローカルアドレス」は、先頭10ビットが「1111111010」、続く54ビットが「0」、後半64ビットが機器ごとのインターフェースIDとなる(fe80::/64)。機器自らを固定的に指し示すループバックアドレスは末尾が「1」で残りすべてが「0」の「0:0:0:0:0:0:0:1」(::1)が用いられる。
複数の機器への一斉送信に用いられる「マルチキャストアドレス」は、先頭8ビットが「11111111」で、続く4ビットが通信方式などを指定する「フラグ」、続く4ビットが有効範囲を示す「スコープ」、残り112ビットが送信対象の集団を識別する「グループID」となっている。
歴史と運用
IPv6の最初の標準規格は1995年にRFC 1883として発行され、その後改訂や詳細仕様、拡張仕様の策定が行われてきた。ちょうどインターネットが一般に開放される頃だったが、インターネットの普及はIPv4をベースに進められ、2010年代にはIPv4アドレスが逼迫する事態を招いた。
アドレス逼迫問題への対応やネットワーク運用の効率化などを目的にIPv6への移行が模索されたが、IPv4とは直接の互換性がないためインターネット全体でプロトコルの置き換えを進めるのは容易ではなく、なかなか普及が進まない状況が続いた。
2010年代後半には大手ネットサービスがサーバをIPv6対応にしたり、一般のインターネットサービスプロバイダ(ISP)も契約者へのIPv6アドレスの払い出しやIPv4ネットワークとの中継サービスなどを展開するようになり、2020年時点でインターネットの通信流量(トラフィック)全体の数割がIPv6へ移行したと見られている。
グローバルIPアドレス 【global IP address】 ⭐⭐
インターネット上で通信可能なIPアドレス。全世界で重複が起きないようネット上の資源を管理する団体が申請に基づいて割り当てており、勝手に使用することはできない。
IPアドレスはIP(Internet Protocol)で通信する機器が一つずつ持っている識別番号で、インターネット上で機器やネットワークを識別・同定するのに用いられるものをグローバルIPアドレスという。企業や個人が利用する場合は、契約しているプロバイダなどが運用しているアドレス群の中から割り当てを受けることが多い。
個々のIPアドレスはネットワーク内で一意でなければならない(複数の異なる機器が同じアドレスを名乗ることはできない)が、インターネットは様々な組織のネットワークが相互に接続されて成り立っているため、アドレスの重複を避けるため統一的にアドレス割り当ての管理・調整を行う国際的な仕組みが存在する。
グローバルIPアドレスの管理
グローバルIPアドレス全体の管理は「ICANN」(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)と呼ばれる非営利組織の中の「IANA」(Internet Assigned Number Authority)という機関が行っており、世界の各大陸を統括する「RIR」(Regional Internet Registry)と呼ばれる調整機関に大きなブロックごとに割り当てている。
RIRは域内の国・地域ごとに置かれた「NIC」(Network Information Center)にブロックを分割して割り当てる。各国のNICは国内の個々の組織やインターネット接続事業者(ISP:インターネットサービスプロバイダ)などからの要請に基づきアドレスを発行する。
日本で利用されるグローバルIPアドレスは、ICANNがアジア・太平洋地域を管轄する「APNIC」(Asia Pacific Network Information Centre)に、APNICが日本を管轄する「JPNIC」(Japan Network Information Center)に割り当てたアドレスブロックの中から割り当てられる。
ローカルIPアドレス/プライベートIPアドレス
これに対し、組織内などで運営する閉じられたネットワークの内部でのみ利用されるIPアドレスのことは「プライベートIPアドレス」(private IP address)あるいは「ローカルIPアドレス」(local IP address)という。
IPアドレス空間全体の中でローカルアドレス用に使用できる範囲が決まっており、各組織は自由に機器に割り当てて使用することができる。インターネットと直接通信することはできないため、組織間で同じアドレスを重複して割り当てても問題ない。
現在インターネットで主に利用されているIPv4アドレスは設計上の制約から世界全体で約42億個しか使うことができないため、大きな組織などは組織内ネットワークをプライベートアドレスで運用し、インターネットとの境界に置かれたルータやゲートウェイでアドレス変換(NAT/NAPT)を行ったり、プロキシサーバなどを設置して内部の機器の代理としてアクセスさせるといった方式で多数の機器をインターネットに接続している。
ローカルIPアドレス 【local IP address】 ⭐⭐⭐
ある特定のネットワーク内でのみ通信可能なIPアドレス。主に構内ネットワーク(LAN)で用いられ、インターネットで直接通信することはできない。
組織内に設けられた私的なネットワークでのみ有効なIPアドレスで、その組織のネットワーク管理者が任意に各機器に割り当てることができる。当該ネットワーク内の機器間でのみ接続・通信が可能で、インターネットなど外部と直に通信することはできない。
一方、インターネット上で通信可能なIPアドレスは「グローバルIPアドレス」(グローバルアドレス)あるいは「パブリックIPアドレス」(パブリックアドレス)と呼ばれ、契約先の通信事業者(ISP)から一時的に貸与を受けるか、各国に設置されている管理組織(インターネットレジストリ)に申請して割り当てを受けなければならない。
アドレスの範囲
IPアドレスにはプライベートIPアドレス用の範囲が予約されており、その中から使用するよう定められている。IPv4の場合、
- 10.0.0.0~10.255.255.255 (アドレス数は1677万7216個)
- 172.16.0.0~172.31.255.255 (104万8576個)
- 192.168.0.0~192.168.255.255 (6万5536個)
が確保されており、ネットワークの規模(機器の台数)や管理上の都合に応じて使い分ける。最後の「192.168.~」が最もよく用いられている。IPv6でも「fc00::/7」がユニークローカルアドレスと規定されている。
リンクローカルアドレス
機器ごとに固定のアドレスが設定されておらず、DHCPなどが機能していないネットワークでも最低限の通信ができるようにするため、自動的に設定される「リンクローカルアドレス」という仕組みもある。
IPv4では「169.254.0.0~169.254.255.255」、IPv6では「fe80::/10」の範囲が予約されており、この中から他の機器と衝突しないように一つが自動選択される。物理的に信号が届く範囲にある機器とのみ通信可能な制約があり、ルータなどを超えて別のネットワークと通信することはできない。
ローカルとプライベート
「ローカルIPアドレス」と「プライベートIPアドレス」という用語は一般的にはほぼ同義語として区別されずに用いられているが、「ローカルIPアドレス」には「リモートIPアドレス」の対義語として、ある機器やネットワーク自身のアドレスを指す用法もある。
また、組織内で設置・運用される私的なネットワークは本来「プライベートネットワーク」と呼ばれるため、そこで用いられるIPアドレスも「プライベートIPアドレス」とするのが正式であると言える。実際、RFCなどの規格書や技術文書などでも “private address” が用いられている。
ドメイン名 【ドメインネーム】 ⭐⭐
インターネット上に存在するコンピュータやネットワークを識別し、階層的に管理するために登録された名前のこと。インターネット上の機器やネットワークの識別名で、URLやメールアドレスなど他の識別情報の一部としても用いられる。
インターネット上の機器やネットワークを一意に識別するため、重複が生じないよう全世界的に一元的に発行する体制が構築されている。登録される識別名はアルファベットと数字、ハイフン「-」の組み合わせだが、近年では、日本語など各国独自の言語・文字でドメイン名を登録できる「国際化ドメイン名」(IDN:Internationalized Domain Name)も利用できるようになっている。
IPアドレスとDNS(Domain Name System)
インターネットなどIP(Internet Protocol)で接続されたネットワークでは機器同士は「IPアドレス」という番号によってお互いを識別し、相手方の所在を知ることができる。数字の羅列であるIPアドレスは人間にとっては扱いにくいため、別名としてドメイン名を運用するようになった。
ドメイン名とIPアドレスを対応させるシステムは「DNS」(Domain Name System:ドメインネームシステム)と呼ばれ、全世界のDNSサーバが連携して運用されている。一つのドメイン名に複数のIPアドレスを対応させたり、一つのIPアドレスに複数のドメイン名を対応させることもできる。
ドメインの階層構造
ドメイン名は実世界の住所表示のように広い領域を指す名前から順に範囲を狭めていく階層構造になっており、「www.example.com」のように各階層のラベルを「.」で区切って表記する。あるドメインの配下に設けられた下位のドメイン名を「サブドメイン」(subdomain)という。
一番右のラベルが最上位階層の「トップレベルドメイン」(TLD)で、以下、左に向かって「セカンドレベルドメイン」(SLD:Second Level Domain)、「サードレベルドメイン」(3LD:Third Level Domain)…と指し示す範囲が狭くなっていく。
左端で個別の機器を指し示すラベルのことを「ホスト名」という。トップレベルからホスト名まで省略せずにすべて書き下したドメイン名表記のことを「FQDN」(Fully Qualified Domain Name:完全修飾ドメイン名)と呼ぶことがある。
トップレベルドメインには、日本を表す「.jp」のように世界の国・地域ごとに割り当てられる「ccTLD」(country code TLD)と、商用を表す「.com」のように地理的範囲とは無関係に全世界から登録を受け付ける「gTLD」(generic TLD)、国際機関向けの「.int」など他の特殊なTLDがある。
ドメイン名の衝突を防ぐため、「ICANN」(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)という国際機関がTLDを一元管理しており、ICANNから委任を受けた各TLDの管理団体(「レジストリ」と呼ばれる)が、そのTLDにおける識別名のデータベースの管理、登録の受付を行っている。例えば、日本のccTLDである.jpドメインはJPRS(日本レジストリサービス)が管理している。
DNS 【Domain Name System】 ⭐⭐⭐
インターネットなどのIPネットワーク上でドメイン名(ホスト名)とIPアドレスの対応関係を管理するシステム。利用者が単なる番号列であるIPアドレスではなく、日常使っている言語の文字を組み合わせた認識しやすいドメイン名でネットワーク上の資源にアクセスできるようにする。
IPネットワークでは「IPアドレス」と呼ばれる数値列で個々のコンピュータやネットワークを識別するが、DNSを使えば人間にとって親しみやすい文字や記号を組み合わせて「ドメイン名」(domain name)と呼ばれる別名をつけることができる。ドメイン名が単一の機器を指し示す場合は「ホスト名」(host name)とも呼ばれる。
各ドメイン名について、ホスト名とIPアドレスの対応関係や管理情報などを記録し、一定の通信手順に基づいてどこからでも容易に参照できるようにした世界規模の分散型データベースがDNSである。そのための通信規約(プロトコル)や交換データ形式などの仕様を定めた標準規格のこともDNSという。
IPアドレスとドメイン名
例えば、ある企業が「198.51.100.1」というIPアドレスの割り当てを受けてWebサーバと電子メールサーバを運用する場合、WebサイトのURLは「https://198.51.100.1/」のように、代表メールアドレスは「info@198.51.100.1」のような表記になる。
これは人間にとっては覚えたり伝達したり入力したりしにくく、接続事業者を切り替えるなどしてIPアドレスが替わるとこれらのアドレスもすべて変更となり、記録物を書き直したり関係者に改めて通知・告知しなおさなければならなくなってしまう。
そこで、「example.co.jp」というドメイン名を取得し、ホスト名として「www.example.co.jp」を「198.51.100.1」に、「~@example.co.jp」のメールアドレスを管理するメールサーバのアドレスを「198.51.100.1」に対応付けておけば、Webサイトを「https://www.example.co.jp/」のように、メールアドレスを「info@example.co.jp」のように表記することができるようになる。
DNSサーバとクライアント
ドメイン名の情報を管理し、外部からの問い合わせに応答するコンピュータやソフトウェアのことを「DNSサーバ」(DNS server)、サーバへの問い合わせを行いDNS情報を参照・利用する側のコンピュータやソフトウェアを「DNSクライアント」(DNS client)あるいは「DNSリゾルバ」(DNS resolver)という。
ドメイン名とIPアドレスの対応関係をサーバへの問い合わせによって明らかにすることを「名前解決」(name resolution)と呼び、ドメイン名から対応するIPアドレスを求めることを「正引き」(forward lookup)、逆にIPアドレスからドメイン名を割り出すことを「逆引き」(reverse lookup)という。
ドメイン名の階層構造
ドメイン名は実世界の住所表示のように広い領域を指す名前から順に範囲を狭めていく階層構造になっており、「www.example.co.jp」のように各階層の識別名を「.」(ドット)で区切って表記する。あるドメイン名の配下に設けられた下位のドメイン名を「サブドメイン」(subdomain)という。
上の例の「jp」のように一番右が最上位階層の「トップレベルドメイン」(TLD)で、以下、左に向かって「co」を「セカンドレベルドメイン」(SLD:Second Level Domain)、「example」を「サードレベルドメイン」(3LD:Third Level Domain)のように呼び、順に指し示す範囲が狭くなっていく。
権威DNSサーバと権限委譲
あるドメイン名についての情報を管理するDNSサーバを「権威DNSサーバ」あるいは「DNSコンテンツサーバ」という。権威サーバはそのドメイン名についての情報の発信元で、外部からの問い合わせに応答してホスト名に対応するIPアドレスなどを回答する。
上位ドメインの権威サーバは配下のすべてのドメイン名の情報を一元管理しているわけではなく、下位ドメインの権威サーバに管理権限を委譲し、自身はその所在(IPアドレス)のみを把握している。下位ドメインについての問い合わせには「このアドレスのサーバに聞くように」という回答を返す。
再帰問い合わせによる名前解決
「www.example.co.jp」の名前解決を行うためには、まず全世界に十数か所あるDNS全体を統括する「ルートサーバ」(root server)に「jp」ドメインの権威サーバの所在を訪ね、そのサーバに「co.jp」ドメインの権威サーバの所在を訪ね、そのサーバに「example.co.jp」の権威サーバの所在を…という具合に左端のホスト名が解決されるまで問い合わせを再帰的に繰り返す必要がある。
この問い合わせ手順を末端のDNSクライアントが毎回行っていたのではサーバとクライアント、途中のネットワークの負荷や無駄が大きすぎるため、通常はインターネット接続事業者(ISP)などが用意した「DNSキャッシュサーバ」が各クライアントからの問い合わせを代行し、結果を一定期間保存して同じ問い合わせに代理で応答するという運用が行われる。
一般の利用者がコンピュータのネットワーク設定などで指定する「DNSサーバ」(プライマリDNSサーバ、セカンダリDNSサーバ)は、各ドメイン名を管理している権威サーバではなく、このDNSキャッシュサーバである。なお、キャッシュサーバに頼らずクライアントソフトが自ら再帰問い合わせを行って名前解決することも差し支えなく、ネットワーク管理者などが調査のために行うことがある。
URL 【Uniform Resource Locator】 ⭐⭐⭐
インターネット上に存在するデータやサービスなどの情報資源の位置を記述する標準的な記法の一つ。Webページの所在を書き表す方式として広く普及している。
様々な資源の所在地にあたる情報の記述の仕方を定めたもので、資源の取得方法(種類)や、ネット上での当該資源の存在するコンピュータの識別名や識別番号、コンピュータ内部での資源の位置などで構成される。
先頭には「http:」「ftp:」のように必ず資源の取得方法を記述する決まりで、これを「スキーム名」という。スキーム名はデータの送受信を行うプロトコル(通信規約)名であることが多いが、ローカルファイルの所在を記述する「file:」のようなスキーム名もある。
スキーム名に続く識別情報の記述形式はスキーム毎に異なるが、プロトコル系のスキームではサーバのドメイン名(ホスト名)やIPアドレス、ポート番号、ディレクトリ名、ファイル名を区切り記号を挟んで順番に記述する形式が一般的である。
Web上の資源を表すhttpスキームでは「http://e-words.jp:80/w/URL.html」のような構成となり、「http:」がスキーム名、「e-words.jp」がコンピュータのドメイン名、「:80」が通信に用いるポート番号、「/w/」がWebサーバ上での目的のディレクトリ、「URL.html」が取得したいファイル名である。
URLの標準規格は1994年にIETFによってRFC 1738として策定された。その後、1998年に資源の(所在から独立した)識別名の記法である「URN」(Universal Resource Name)を含む、より汎用的な規格として「URI」(Universal Resource Identifier)が策定された。現在は正式にはURLはURI仕様の一部となっている。
電子メール 【eメール】 ⭐⭐⭐
通信ネットワークを介してコンピュータなどの機器の間で文字を中心とするメッセージを送受信するシステム。郵便に似た仕組みを電子的な手段で実現したものであることからこのように呼ばれる。
広義には、電子的な手段でメッセージを交換するシステムやサービス、ソフトウェア全般を指し、携帯電話のSMSや、各種のネットサービスやアプリ内で提供される利用者間のメッセージ交換機能などを含む。
狭義には、SMTPやPOP3、IMAP4、MIMEなどインターネット標準の様々なプロトコル(通信規約)やデータ形式を組み合わせて構築されたメッセージ交換システムを指し、現代では単に電子メールといえば一般にこちらを表すことが多い。
メールアドレス
電子メールの送信元や宛先は住所や氏名の代わりに「メールアドレス」(email address)と呼ばれる統一された書式の文字列が用いられる。これは「JohnDoe@example.com」のように「アカウント名@ドメイン名」の形式で表され、ドメイン名の部分が利用者が所属・加入している組織の管理するネットワークの識別名を表し、アカウント名がその中での個人の識別名となる。
企業や行政機関、大学などがメールサーバを運用して所属者にメールアドレスを発行しているほか、インターネットサービスプロバイダ(ISP)や携帯電話事業者などがインターネット接続サービスの一環として加入者にメールアドレスを発行している。
また、ネットサービス事業者などが誰でも自由に無料でメールアドレスを取得して利用できる「フリーメール」(free email)サービスを提供している。一人の人物が立場ごとに複数のアドレスを使い分けたり、企業の代表アドレスのように特定の個人に紐付けられず組織や集団などで共有されるアドレスもある。
メールサーバとメールクライアント
インターネットに接続されたネットワークには「メールサーバ」(mail server)と呼ばれるコンピュータが設置され、利用者からの要請により外部のネットワークに向けてメールを送信したり、外部から利用者に宛てて送られてきたメールを受信し、本人の使うコンピュータに送り届ける。利用者や他のサーバに対する窓口であり、郵便制度における郵便局のような役割を果たす。
メールサーバ内には利用者ごとに私書箱に相当する受信メールの保管領域(メールボックス)が用意され、外部から着信したメールを一時的に保管する。利用者が手元で操作するメールソフト(メールクライアント、メーラーなどと呼ばれる)は通信回線を介してメールサーバに問い合わせ、メールボックス内のメールを受信して画面に表示する。
Webメール
利用者の操作画面をWebアプリケーションとして実装し、Webブラウザからアクセスしてメールの作成や送信、受信、閲覧、添付ファイルのダウンロードなどをできるようにしたシステムを「Webメール」(webmail)という。
フリーメールサービスの多くは標準の操作画面をWebメールの形で提供しており、メールクライアントなどを導入・設定しなくてもWebブラウザのみでメールの送受信を行うことができるようになっている。企業などの組織で運用されるメールシステムでもWebメールを提供する場合があり、自宅や出先のコンピュータなどからアクセスできるようになっている。
メッセージの形式
電子メールには原則として文字(テキスト)データのみを記載することができる。特別な記法や書式を用いずに素の状態の文字データのみが記されたメールを「テキストメール」という。WebページのようにHTMLやCSSなどの言語を用いて書式や装飾、レイアウトなどの指定が埋め込まれたものは「HTMLメール」という。
また、画像や音声、動画、データファイル、プログラムファイルなどテキスト形式ではないデータ(バイナリデータ)を一定の手順でテキストデータに変換して文字メッセージと一緒に送ることができる。こうしたデータをメッセージ中に埋め込む方式の標準として「MIME」(Multipurpose Internet Mail Extension/マイム)が規定されており、これを利用してメールに埋め込んだファイルを「添付ファイル」(attachment file)という。
電子メールの普及と応用
電子メールはWeb(WWW)と共にインターネットの主要な応用サービスとして広く普及し、情報機器間でメッセージを伝達する社会インフラとして機能している。現在ではパソコンやスマートフォン、タブレット端末などのオペレーティングシステム(OS)の多くは標準でメールクライアントを内蔵しており、誰でもすぐに利用できるようになっている。
電子メールシステムでは一通のメールを複数の宛先へ同時に送信する同報送信・一斉配信も容易なため、グループ共通のアドレスを用意してメンバー間の連絡や議論などに用いる「メーリングリスト」(mailing list)や、発行者が購読者に定期的にメールで情報を届ける「メールマガジン」(mail magazine)などの応用システムも活発に利用されている。
一方、広告メールを多数のメールアドレスに宛て無差別に送信する「スパムメール」(spam mail)や、添付ファイルの仕組みをコンピュータウイルスの感染経路に悪用する「ウイルスメール」(virus mail)、送信元を偽って受信者を騙し秘密の情報を詐取する「フィッシング」(phishing)など、電子メールを悪用した迷惑行為や犯罪なども起きており、社会問題ともなっている。
Web 【ウェブ】
インターネット上で標準的に用いられている文書の公開・閲覧システム。文字や図表、画像、動画などを組み合わせた文書を配布することができる。現代では様々なサービスやアプリケーションの運用基盤としても広く用いられる。
文書内の要素に別の文書を指し示す参照情報(ハイパーリンク)を埋め込むことができる「ハイパーテキスト」(hypertext)と呼ばれるシステムの一種である。“web” (ウェブ)とは「蜘蛛の巣」を意味する英単語で、多数の文書が互いにリンクを介して複雑に繋がり合っている様子を蜘蛛の巣の網目状の構造になぞらえている。
WebサーバとWebブラウザ
Webで情報を提供するコンピュータやソフトウェアを「Webサーバ」(web server)、利用者の操作によりサーバから情報を受信して表示や処理を行うコンピュータやソフトウェアを「Webクライアント」(web client)という。
Webクライアントのうち、受信したページの内容を整形して画面に表示し、人間が閲覧するために用いるものを特に「Webブラウザ」(web browser:ウェブブラウザ)という。サーバとクライアントの間の通信には「HTTP」(Hypertext Transfer Protocol)と呼ばれる通信規約(プロトコル)が標準的に用いられる。
Web上の情報資源の所在の指定には、「https://www.example.co.jp/index.html」といった形式の「URL」(Uniform Resource Locator)という表記法が用いられる。Webサーバを表すドメイン名(ホスト名)と、Webサーバ上での資源の位置を指し示すパス(階層的なディレクトリ名とファイル名の組み合わせ)を繋げた形式になっている。
WebページとWebサイト
Webにおける情報の基礎的な単位は「Webページ」(web page)で、見出しや文章などの文字情報をもとにHTML(Hypertext Markup Language)やCSS(Cascading Style Sheet)などのコンピュータ言語で構造や体裁、見栄えを記述する。
HTMLは記述された文字情報の中にソフトウェアへの制御情報を埋め込むことができる「マークアップ言語」(markup language)と呼ばれる言語で、「この部分が見出し」「本文はここからここまで」「段落の区切りはここ」といった指示を文書中に埋め込む形で記述することができる。
Webブラウザはこの制御情報に基づいて、タイトルを中央揃えにしたり、小見出しを太い大きな文字で表示したり、段落の間に空白を差し込むなど指定された整形や装飾を行い、閲覧者が文書の構造を把握しやすいように表示してくれる。
ページ内には文章だけでなく箇条書き(リスト)や表(テーブル)、図形、画像、動画、入力要素(フォーム)などを掲載することができる。画像や動画など文字で書き表せない要素は外部のファイルをURLで指定して埋め込むことができる。
要素のページ内での配置や大きさ、枠線や罫線、文字の字形(フォント)や色といった具体的な見栄えに関する指定項目(スタイルという)は、当初はHTMLで構造とともに記述していたが、CSSという専用の言語で構造とは別に指定する方式が主流となっている。
ページ内の要素には外部の他の資源(多くの場合は他のWebページ)のURLを指し示すリンクを設定することができ、ブラウザ画面に表示されたリンクを指定して開くよう指示(クリックやタップなど)すると、表示がリンク中のURLで指定されたページに切り替わる。簡単な操作でリンクをたどって次々に文書から文書へ表示を切り替えていくことができる。
このリンク機能を利用して、書籍のように複数のページ群をまとめた単位を「Webサイト」(web site)という。サイト内のページからは外部のサイトのページへリンクを張ることもでき、Web全体がリンクを介して連結された巨大な地球規模の文書データベースとなっている。
Webアプリケーション・Webサービス
Webサーバには静的なファイルの送信だけでなく、ブラウザからの要求に基づいて動的にコンピュータプログラムを実行し、何らかのデータ処理を行って結果をブラウザに応答することもできる。
また、Webブラウザにはページ上に記述された簡易なプログラム(スクリプトという)を実行し、サーバと任意のタイミングで通信したり、利用者の操作に応じて表示内容を変化させたりすることができる。
このような動的な仕組みを組み合わせ、サーバとブラウザが連携して利用者が対話的に操作することができるアプリケーションソフトを構築することができ、これを「Webアプリケーション」(web application)あるいは「Webサービス」(web service)という。著名な応用例として、ブラウザで買い物ができるオンラインショップ(ECサイト)や、利用者同士がコミュニケーションできるSNSなどのネットサービスがある。
歴史と名称
Webはインターネットがまだ学術機関を中心に利用されていた頃、1989年に欧州核物理学研究所(CERN)のティム・バーナーズ・リー(Tim Berners-Lee)氏が所内の論文公開・閲覧システムとして考案したものが基礎となっている。
1990年代にインターネットが一般に開放され普及していく過程で、電子メールなどと共にネットの代表的な応用システムとして広く利用されるようになった。2000年代中頃には主に日本を含む先進国で欠かすことのできない重要な情報インフラの一つに成長している。
もとは “World Wide Web”、略して “WWW” が正式名称で、現在も「https://www.example.jp/」のようにWebサーバのホスト名などにこの名が残っているもの。英語では次第に “the Web” (固有名詞のWeb)のように略されるようになり、さらに進んで現在では一般名詞の “web” がインターネットのWebを指すことが増えている。日本では当初「ホームページ」の名称で紹介され、現在も初心者向けの説明などで多用されるが、「ウェブ」「Web」の呼称が浸透しつつある。
一斉送信 【同報送信】
ファクシミリ(FAX)や電子メールなどのメッセージシステムで、同じ内容を指定した複数の相手に自動的に送ること。また、機器やソフトウェア、サービスなどが持つそのような機能。
メールの場合には同報メールのための宛先指定方式が用意されており、通常の宛先(「To:」欄)に複数のメールアドレスを記入することができるほか、同時に複製を送りたいアドレスを「CC:」(Carbon Copy:カーボンコピー)欄に指定することができる。
ToやCCに記載されたアドレスはすべての受信メールに同じように記載されているが、複製を送っていることや送信先を受信者側に知られたくない場合のために「BCC:」(Blind Carbon Copy:ブラインドカーボンコピー)欄が用意されている。この欄に記載されたアドレスにはCCと同じようにメッセージの複製が届くが、そのアドレスは他の受信者に届けられるメッセージからは削除される。
また、メールサーバ側で特定のグループを表すメールアドレスを用意し、そこに宛ててメールを送ると登録者全員に自動的に配信されるシステムもあり、「メーリングリスト」(ML:Mailing List)と呼ばれる。通常は登録者間相互の連絡に用いられるため同報メールとは区別されるが、告知や広報、宣伝など一方向的な配信のために用いられることもあるため、これを指して同報メールと呼ぶ用例も見られる。
メーリングリスト 【ML】 ⭐⭐
あらかじめ登録された特定の複数のメールアドレスに一斉に電子メールを配信する仕組み。代表のメールアドレスに宛ててメールを送信すると、登録されたアドレスに一斉に転送される。
通常のメール送信では宛先として指定したアドレスに向けてメッセージが送られ、複数の相手に送りたい場合は複数のアドレスを送信者が指定する必要がある。メーリングリストではメールサーバ側に受信者リストが登録されており、そのアドレス宛てに送れば登録者全員にメッセージが複製されて配達される。
管理者がアドレスを登録する方式と、参加を希望する本人が特定の形式のメッセージを送ることで参加を許可される方式がある。集団内の連絡や情報共有のために開設されるものは管理者の許可したアドレスのみ登録できるよう運用されるが、誰でも自由に参加できるよう公開されているものもある。
登録者間の連絡や主催者からの告知などのために利用する場合、メーリングリストへの送信(投稿)はリスト登録者のみ可能とする(外部からの送信は拒否する)設定で運用することが多いが、外部からの連絡窓口などとして運用する場合は登録アドレス以外からの「投げ込み」投稿を許可する場合もある。
メーリングリストはメールサーバの管理者によって開設されるが、専門的な設備や技術を持たない人でも手軽に利用できるよう、インターネットを通じて誰でもメーリングリストを開設・運用できるネットサービスがある。その多くは無料で利用でき、投稿されたメールの一部に自動的に広告が挿入されて配信される仕組みになっている。
メールボックス
郵便受けという意味の英単語で、電子メールシステムにおいては受信したメールを保管する場所を意味する。メールサーバ側に設けられるものとメールクライアント(メールソフト/メーラー)側に設けられるものがある。
電子メールサーバは外部から自らの管理するメールアドレス向けのメールを受信すると、対応するストレージ(外部記憶装置)上の領域にこれを書き込んで保存する。利用者はメールクライアントを用いてサーバにアクセスし、自分宛てに届いたメールをダウンロードして手元のコンピュータに受信することができる。
このとき、利用する通信手順(プロトコル)の違いにより、単純にサーバからクライアントにメールを配送してサーバ上のものは消去する方式(POP3など)と、サーバ上に保管したままクライアント上で選択したものだけを受信・閲覧する方式(IMAP4など)に分かれる。また、Webメール型やクラウド型のメールサービスも、サーバ上に保管したものを必要に応じて閲覧する方式を取る。
サーバ上のメールボックスはストレージを際限なく消費するのを防ぐため、利用者一人あたりに割り当てられた上限容量や件数が決まっている場合が多く、これを超えると外部から新規の受信を拒否したり、古いものから順番に消去したりといった対応を取る。利用者側では重要なメッセージをクライアント側で保存し、必要性の薄いのものを選択して消去するといった対応を行うのが良いとされる。
メールボックスは通常、サーバ上のメールアカウントと一対一に対応しており、一つ以上のメールアドレスに紐付けられる。(転送のみで)メールボックスが存在しないアドレスもあるため、メールアドレスとは一対一に対応するとは限らない。
インボックス (inbox/受信トレイ)
利用者の操作するメールクライアントにあるメールボックスのうち、受信したメールを保存しておく領域をインボックスあるいは受信トレイという。サーバから受信したメールのうち、自動的に分類や削除などが行われなかったものがインボックスに集められる。利用者があとでメッセージを他のフォルダや迷惑メールフォルダなどに移すこともできる。
アウトボックス (outbox/送信トレイ)
利用者の操作するメールクライアントにあるメールボックスのうち、送信したいメールを一時的に保存しておく領域をアウトボックスあるいは送信トレイという。指定した日時や条件に従ってあとで送信したり、回線がオフラインですぐに送信できないような場合に、メッセージを送信時まで一時保管しておく。
CC 【Carbon Copy】 ⭐⭐⭐
電子メールの宛先を表す設定情報の一つで、複製を送信するメールアドレスを指定することができるもの。本来の宛先以外に一つまたは複数のメールアドレスを指定することができる。
通常、主な宛先を指定するのは「To」(「~へ」の意味)と呼ばれる項目だが、「Cc」という項目にアドレスを記載すると、メールサーバ側で同じ内容を複製してそちらへも届けてくれる。CCに指定されたアドレスは受信者全員が見ることができる。
“carbon copy” とは帳票の作成などで利用される「カーボン複写」のことで、台紙にカーボン紙を重ねて上から硬い筆記具で書き込むと、台紙側に同じ内容が転写される仕組みのことを指す。同じメールが自動的に複製されて配信される様子をこれに例えている。
一方、同じように複製を送信するアドレス指定には「BCC」(Blind Carbon Copy)もあり、こちらはアドレスが他の受信者には分からないように配送途中で削除される。互いに知らない相手に同じ告知内容を一斉送信したい場合などに用いるが、CCとBCCを取り違えて他の受信者のアドレスを知らせてしまう事故があとを絶たない。
BCC 【Blind Carbon Copy】 ⭐⭐⭐
電子メールの宛先指定の一種で、他の受信者に知らせずに複製を送信する先を指定できるもの。送信者がメールの作成・送信時に指定し、複数のアドレスを指定することもできる。
通常、電子メールで宛先を指定するには「To」(「~へ」の意味)と呼ばれる項目に相手のメールアドレスを記載するが、BCC欄にもアドレスを記入することができ、同じメッセージが複製されてそちらにも届けられる。
CCとの違い
複製が送信されるという意味では「CC」(Carbon Copy)欄も同じ機能だが、CC欄に記載したアドレスがすべての受信メッセージにそのまま掲載されるのに対し、BCC欄の内容は受信直前にメールサーバ側で削除され、受信者側には誰をBCCに指定したかは分からないようになる。
主な用途と難点
BCCによるアドレスの指定は、複数の受信者が互いに無関係な場合など、受信者に他の受信者のアドレスを知らせたくない場合や、顧客への返信を上司に報告する場合など、複製を別のアドレスに送っていることを相手が知る必要がない、または知られたくない場合に用いられる。
名称や操作画面上での記入欄の近さなどから、CC欄と取り違える記入ミスが起こりやすく、同じ文面を複数の関係者に送ろうとして誤ってアドレスをCCに指定してしまいメールアドレスを漏洩させてしまう事故が後を絶たない。
また、受信者は送信者が告げない限りBCCで第三者に複製が送られていること自体に気付かない。個人的な内容のやり取りや対話的な内容の場合は後で第三者にも送信されていたことが露見すると人間関係上のトラブルに発展することがあるため、事前に断っておくなどの配慮が必要になることがある。
語源
“Blind Carbon Copy” とは「目に見えないカーボン複写」を意味する。カーボン複写とは、記入用紙の裏がカーボン紙になっており、ペン先を強く押し当てるように書き入れることで下に重ねられたもう一枚の用紙に複写される仕組みを指す。このような自動的な複写を、受信者に見えないよう行うという意味でこのように呼ばれる。
Cookie 【クッキー】 ⭐⭐⭐
WebサーバがWebブラウザに送信する制御情報の一種で、ブラウザが動作しているコンピュータに永続的に記録・保管されるもの。閲覧者の識別などに利用される。
CookieはWebサーバがWebブラウザにコンテンツを送信する際に制御情報の一部として一緒に送信する短いデータで、ブラウザは次にサーバにリクエストを送る際に前回受け取ったCookieの内容を申告する。ブラウザは受信したCookieを所定の期限までストレージ上で永続的に保管する。
Cookieには任意の文字列が記録でき、利用者の識別や属性に関する情報や、最後にサイトを訪れた日時などを記録しておくことが多い。ネットサービスなどで利用者のIDなどを保存しておけば、次にアクセスしたときに自動的に利用者を識別・同定することができ、前回の続きからサービスを提供することができる。
1つのCookieには4096バイトまでのデータを記録でき、1台のサーバが同じコンピュータに対して発行できるCookieの数は20個に制限されている。Cookieの総数は300個までで、これを超えると古い方から削除される。個々のCookieには有効期限が設定されており、期限を過ぎたものは破棄される。
Cookieの送受信
Cookieの送受信はWebコンテンツの送受信に標準的に用いられるプロトコル(通信規約)であるHTTPにより行われる。コンテンツ本体とは異なり、通信や送受信データに関する制御情報を記載する「HTTPヘッダ」と呼ばれる領域に記載されるため、閲覧者が直に目にする機会はほとんどない。
WebサーバからWebブラウザへのCookieの送信はHTTPレスポンスヘッダ中の「Set-Cookie」フィールドを利用し、「Set-Cookie: クッキー名1=値1; クッキー名2=値2; …」という形式で複数の属性値の指定を一行に連結して送信する。ブラウザからサーバへは、HTTPリクエストヘッダ中の「Cookie」フィールドを用い、同じ書式で送信する。
Set-CookieフィールドにはPath属性(例:path=/example/;)やDomain属性(例:domain=www.example.com;)を用いてそのCookieを参照・書き換えできる範囲を指定したり、Max-Age属性(例:max-age=3600;)やExpire属性(例:expire=Tue, 19 Jan 2038 03:14:07 UTC;)で有効期限を指定することもできる。
Secure属性を指定するとSSL/TLSで暗号化されたHTTPS通信時にしか読み取れないよう制限することができる。通常のCookieはWebページ上で動作するJavaScriptなどから読み書きすることもできるが、HttpOnly属性を指定するとスクリプトによるアクセスを禁止できる。
ファーストパーティCookieとサードパーティCookie
WebページにはHTMLのimg要素やiframeHTTPなどを用いてページ本体(HTMLファイル)を送信したサーバとは異なる外部のWebサーバからコンテンツを呼び出して埋め込み表示する機能がある。その際、埋め込みコンテンツに付随して外部サーバからCookieが送られてくることがある。
その場合、ページ本体に付随して送られてくるCookieを「ファーストパーティCookie」(first-party Cookie)、埋め込みコンテンツに付随して外部サーバから送られてくるCookieを「サードパーティCookie」(third-party Cookie)という。
サードパーティCookieは「トラッキングCookie」とも呼ばれ、アクセス解析サービスなどにページ閲覧が行われたことを報告・記録するために用いられたり、広告配信サービスでサイトを横断して閲覧者を追跡・同定し、個々人に最適な広告を配信するために利用されることがある。
サードパーティCookieは個人のインターネット上での活動を本人の意志によらず継続的に追跡することができるため、プライバシーの侵害であるとの批判が根強くある。米アップル(Apple)社のWebブラウザ「Safari」では利用者が明示的に許可しない限り無効となっており、今後はGoogle Chromeなど他のブラウザでもデフォルト設定では無効に切り替えていく予定となっている。
MIME 【Multipurpose Internet Mail Extensions】 ⭐
TCP/IPネットワーク上でやり取りする電子メールで、当初の規格で唯一記載することができたASCII英数字以外のデータ(各国語の文字、添付ファイルなど)を取り扱うことができるようにする拡張仕様。
初期のメール規格では7ビットのオリジナルのASCII文字コード(US-ASCII)の範囲内の文字(飾りなしラテンアルファベット、数字、一部の記号、空白文字)しか本文に記載することができなかった。MIMEにより、欧州各国のアルファベットや非アルファベット文字で本文を記述することができる。よく用いられるのは非ASCII文字を記号を用いた特殊な記法でASCII文字の組み合わせとして表現する手法で、quoted-printableやBase64のいずれかの変換方式を指定できる。
また、画像や音声、動画、コンピュータプログラムの実行ファイル、HTML文書、オフィスソフトの文書ファイルなど、テキスト(文字)以外のバイナリデータを含む様々な形式のデータを、非ASCII文字と同様にBase64などでASCII文字の集合に変換してメールに含めることができる。
複数の異なるデータを含むメールを取り扱うためにMIMEマルチパート(MIME multipart)と呼ばれる拡張仕様も定められた。メール本文を任意の数の領域に分割し、それぞれについてデータ型や変換方式を指定して任意の形式のデータを記載することができる。本文と共にファイルを送付する添付ファイルの仕組みはこの仕様を用いて実現している。
MIMEではメールヘッダ中で内容のデータ型を指定するための標準形式であるMIMEタイプ(メディアタイプ)を定めており、“Content-Type:” ヘッダの中で「type/subtype」の形式でデータ形式を指定する。例えば、プレーンテキストは「text/plain」、HTML文書は「text/html」、JPEG画像は「image/jpeg」などと定められている。この仕組みはHTTPなどにも流用され、伝送内容のメディアの種類やデータ形式を指定する標準として広く用いられている。
MIMEの最初の標準仕様は1992年にIETFによりRFC 1341として勧告され、1996年のRFC 2045~2047によって置き換えられた。RFC 2633(S/MIME)やRFC 4288~4289など数多くの関連仕様が勧告されている。
RSS 【RDF Site Summary】 ⭐⭐⭐
Webサイトの更新情報を配布するためのデータ形式の一つ。XMLベースのマークアップ言語で、更新された記事のタイトルやURL、更新日時、要約などを記述することができる。
Webサイトの運営者はサイト内で最近追加・更新されたページについての情報をRSS形式のファイルとしてサイト上の特定の位置(URL)で公開することにより、閲覧者側のソフトウェアに常に最新の情報を配信することができる。このような更新情報の配信データを「RSSフィード」(RSS feed)あるいは単にフィードという。
閲覧者側では「RSSリーダー」(RSS reader)などと呼ばれる巡回ソフトが登録したサイトのフィードを定期的に取得し、ニュースのように時系列やサイトごとに一覧表示してくれる。利用者はわざわざWebブラウザで各サイトを回らなくても、購読しているサイトの最新記事や更新情報をリアルタイムにチェックすることができる。
2000年代にはブログやニュースサイトなど、最新記事を時系列に提供するサイトの多くが閲覧者のリピート利用を促すためRSSフィードの配信を標準的に行うようになったが、RSSリーダーの普及が当初予想されたように一般層まで広まらない中、2010年代には無料のリーダーサービスの閉鎖などが相次ぐようになり、フィードの提供を打ち切るサイトも増えている。
歴史
1999年に当時のWebブラウザ大手、米ネットスケープ・コミュニケーションズ(Netscape Communications)社が、汎用のメタデータ記述方式RDF(Resource Description Framework)の構文を利用する最初のバージョン、「RDF Site Summary 0.9」を発表した。同社はすぐにRDFを利用する方針を転換し、非RDF構文のXMLベースの形式である「Rich Site Summary 0.91」を同年に発表した。
その後同社はRSSの開発から撤退したが、RDF版のRSS 0.9を支持する開発者グループはこれを拡張・整理した「RDF Site Summary 1.0」を2000年に発表した。一方、非RDF版のRSS 0.91を支持する米ユーザーランド・ソフトウェア(UserLand Software)社などは、0.91を改良して0.92、0.93などと発展させていき、2002年に「Really Simple Syndication 2.0」を発表した。
このように歴史的な経緯からRSSの仕様はRDF版(0.9→1.0系)と非RDF(0.9x→2.0系)の互換性のない二系統に分断されており、RSSの正式名称も「RDF Site Summary」「Rich Site Summary」「Really Simple Syndication」の3つが並立している。
こうした混乱を嫌気した開発者グループが過去のしがらみのない形式を求め、まったく新しいフィードの配信形式として「Atom Syndication Format」を開発した。
オンラインストレージ 【クラウドストレージ】 ⭐⭐⭐
利用者にファイルを保管するためのストレージ(外部記憶装置)容量を貸し出すネットサービス。ファイルの作成や保存を一定の容量まで受け付け、いつでもどこからでも受信や閲覧を行うことができる。
利用者登録すると専用のファイル保管スペースが提供され、Webブラウザなどでアクセスしてファイルの送受信、保管しているファイルの一覧、フォルダやタグなどによる分類・整理などを行うことができる。登録と一定容量までの利用は無料で、保存容量を増大させたい利用者に容量に応じた月額料金を課すサービスが多い。
専用のソフトウェアをOSに導入(インストール)することにより、Windowsエクスプローラなどのファイル管理ソフトからドライブやフォルダの一つのように表示・操作できるようにしているサービスもある。また、コンピュータ内部の特定のフォルダやドライブなどを指定して、オンライン上のスペースと自動的に同期(互いに変更を反映)させることができる機能を提供している場合もある。
コンピュータのストレージ(外部記憶装置)の延長として、個人が自分のファイルの保管のために利用することを想定したサービスが多いが、複数人や組織でのファイルの共有を意図したサービスや、ネットを通じて他の人へファイルを送信することを主眼とするサービスもある。後者は「ファイル転送サービス」「ファイル送信サービス」とも呼ばれる。
2000年代初頭から様々なサービスが存在するが、先進国で高速な常時接続インターネット回線やスマートフォンが浸透した2000年代後半頃から一般に広く普及し始めた。一時は代名詞的な存在となった「Dropbox」や、企業向け、ビジネス向け用途に特化した「Box」などの新興の独立系サービスがよく知られている。
オンラインストレージの普及が進むと、米マイクロソフト(Microsoft)社の「OneDrive」、米グーグル(Google)社の「Googleドライブ」、米アップル(Apple)社の「iCloud」、米アマゾンドットコム(Amazon.com)社の「Amazon Drive」などIT大手も参入し、それぞれ自社ソフトウェアやサービス、機器などとの連携を売りに利用者を拡大している。
クローラ 【スパイダー】 ⭐
様々なWebサイトを自動的に巡回し、公開されている文書や画像などのデータを収集していくソフトウェアやシステム。目的に応じて収集するサイトの範囲やデータの種類、巡回頻度などは異なる。
単にクローラといった場合はWeb検索エンジンが運用するものを指すことが多いが、Web上の情報を対象とした研究や調査などのために運用されているものや、スパム業者が公開メールアドレスを収集するために運用しているものもある。
検索クローラはWeb上で公開されている情報を網羅的に取得してデータベース化し、索引付けして高速に全文検索できるようにするもので、世界中の公開Webページを巡回して定期的にデータを取得する。ページの内容は解析され、見出しや文章を元に索引が作成される他、検索結果に内容の要約や抜粋が表示されることもある。ページ内でリンクとして設定されているURLなどをたどってサイト内の別のページや他のWebサイトを芋づる式に発見していく。
クローラはHTTPヘッダのユーザーエージェント(UA)文字列で「○○bot」「×× Crawler」などと名乗り、運用しているサイトのURLやドメイン名、連絡先アドレスなどを併記していることが多いが、一般的なWebブラウザのUA名を名乗ってなりしましているものもある。
Webサイト管理者はサイトの最上位階層(ルート)のディレクトリに「robots.txt」という名前のファイルを作成し、クローラがアクセス可能な範囲やアクセスを禁止するファイルやディレクトリなどを指定することができる。クローラすべてを対象とすることも、特定のクローラのみを名指しで指定することもできるが、クローラ側が従うかどうかは開発者や運用者次第であり強制力はない。
回線事業者
通信回線を物理的に提供する通信事業者。通信ケーブルや交換設備、無線基地局といった設備を敷設、運用し、顧客に物理的な信号伝送手段を提供する。
伝統的な電話サービスなどは回線事業者と通信サービスの提供者(プロバイダ)が一致している。例えば、NTT東日本の電話回線を契約して電話サービスを申し込めば、NTT東日本が物理的な回線を宅内へ引き込み、NTT東日本が電話サービスを提供する。
一方、インターネット接続サービスなどでは回線を提供する事業者とサービスを提供する事業者が異なる場合がある。例えば、データ通信回線としてNTT東日本のフレッツを申し込み、インターネット接続サービスにNTTコミュニケーションズのOCNを契約すれば、NTT東日本が引き込んだ光ファイバー回線を通じてOCNのネットワークに接続し、インターネットへの通信が可能となる。
このとき、物理的な回線を提供する事業者を回線事業者、インターネット接続サービスを提供する事業者を「ISP」(Internet Service Provider:インターネットサービスプロバイダ)という。歴史的な経緯で固定回線ではケーブルインターネットなどを除いて回線事業者とプロバイダが分離しているが、モバイル回線(携帯電話/移動体通信)では回線事業者とプロバイダが一致しているのが一般的である。
MVNO 【Mobile Virtual Network Operator】 ⭐⭐
移動体通信ネットワークの回線や設備を他社から借り受けて携帯電話・移動体データ通信サービスを提供する事業者のこと。様々な業種の企業が格安な料金、自社の製品やサービス、ブランドとの連携など特色ある通信サービスを提供している。
一般的な移動体通信事業者(キャリア)は自社で基地局やバックボーン回線、拠点施設などを敷設・運用して通信サービスを提供しているが、MVNO事業者はこうした自前設備を持つ大手キャリアから設備を借り受け、自前のブランドや料金体系でサービスを提供する。
移動体通信サービスのための無線周波数帯を占有するための免許が交付されるのは国ごとに3~4社程度しかないが、免許を受けた事業者の設備を利用することで、免許のない事業者も移動体通信サービスを提供することが可能になる。電波は公共財であり、多くの国ではキャリア設備を一定の条件でMVNOに開放することを義務付ける制度が整えられている。
多くのMVNO事業者は大手事業者より通信料金が安いことを売りにしているが、法人向けに料金の公私区分サービスを提供したり、大手事業者にはない料金プランや課金方式を用意したり、すでに事業を行っている企業(ISPやネットサービス事業者など)が自社サービスとの連携や割引などを行ったりと、なんらかの独自サービスを付加して再販している事業者が多い。
日本ではNTTドコモ、au(KDDI/沖縄セルラー)、ソフトバンクの三大キャリアから回線を借り受けてサービスを提供しており、2013年頃から様々な事業者が参入して大きく契約者数を伸ばした。多くのMVNOは大手キャリアのいずれか一社のインフラを利用しているが、二社のキャリアと契約して利用者が選択したり切り替えたりできるサービスもある。
なお、固定回線で同様に回線設備を借り受けて通信サービスを提供する事業者を「FVNO」(Fixed Virtual Network Operator)と呼び、MVNOと合わせて「VNO」(Virtual Network Operator)と総称する場合もある。また、通信事業のノウハウのない事業者に対してMVNO事業への参入や事業運営を支援する事業者を「MVNE」(Mobile Virtual Network Enabler)という。
ISP 【Internet Services Provider】 ⭐
公衆通信回線などを経由して契約者にインターネットへの接続を提供する事業者。インターネットを利用するには物理的な通信回線とは別に契約を結ぶ必要があるが、一部の通信サービスでは回線事業者が兼ねている場合もある。
大容量の通信回線でインターネットに接続された拠点施設を運用しており、サービス地域内の個人・法人と契約を結んでインターネットへの接続を請け負う。顧客との間の通信には通信会社が敷設・運用する光ファイバー回線や無線基地局などを利用する。
通信会社系や電機メーカー系などの全国をカバーする大手事業者と、特定の地域でのみ営業している地域系ISP(専業の小規模事業者やケーブルテレビ局、電力系通信会社など)がある。サービス提供は有償の場合がほとんどであり、月額固定料金制を採用している事業者が多い。
回線事業者との役割分担
ISP専業の事業者の場合、加入者宅への接続回線(アクセス回線)にはNTT東日本・西日本の「フレッツ」光ファイバー回線など、通信会社の通信サービスを利用する。契約者は通信会社との回線契約とISPとのインターネット接続契約をそれぞれ別に結ぶ必要がある。
これに対し、携帯電話事業者(移動体通信事業者)やケーブルテレビ事業者のように、回線事業者とISPを兼ね、音声通話(電話)や映像配信などと組み合わせた総合的な通信サービスの一環としてインターネット接続を提供している事業者もある。
付加サービス
多くのISP事業者は接続サービス以外にも会員向けに様々な付加サービスを提供している。例えば、専用の電子メールアドレス、Webサイトを開設できるサーバ上の専用スペース、コンピュータウイルスや迷惑メールの防除、映像や音楽などの配信サービス、オンライン決済サービス、ドメイン名の登録受付、法人向けの拠点間接続(VPN)、パソコンの接続設定などの出張代行サービス、独自のポータルサイトなどである。
こうした付加サービスには、電子メールのように接続サービスとセットで契約者全員に提供されるものと、申込制で追加料金を徴収するものがある。ポータルサイトなどはインターネットを通じて会員以外にも開放している事業者が多い。
パケット通信 【パケット交換方式】 ⭐⭐
通信ネットワークにおけるデータの伝送方式の一つで、データを小さな単位に分割して個別に送受信する方式。通信を行う二者が伝送経路を占有せずに通信できる。
一定の大きさに分割されたデータのことを「パケット」(packet:小包)という。パケットには送りたいデータ本体(ペイロード)の他に、送信元や宛先の所在を表すアドレスなどの制御情報が付加される。
送信側の機器は送りたいデータを通信規格などで定められた長さごとに分割し、制御情報を付加して順番に送信する。通信経路上の中継機器は受け取ったパケットをいったん自身の記憶装置に格納し、次の中継装置へ順次送り出す。
これを繰り返して受信側の機器までパケット群を届け、受信側ではパケットからデータ取り出して順番に連結し、元のデータに復元する。このような伝送方式は「蓄積交換」(store and forward:ストアアンドフォワード)とも呼ばれる。
一方、回線網上の二地点間を結ぶ経路を交換機で中継し、両端の機器が通信中はこれを独占的に利用する通信方式を「回線交換方式」(circuit switching)という。歴史的には通信システムはアナログ電話回線など回線交換方式から発展したが、コンピュータネットワークやデータ通信の普及とともにパケット通信が一般的になっている。
主な特徴
パケット通信は回線交換のように通信中に伝送経路上の資源を占有しないため、中継機器などの設備、通信回線・電波などの伝送媒体を効率よく利用できる。中継時にデータを通信機器内に蓄積してから送り出すため、異なる通信速度や通信方式の機器間を接続しやすい。
制御情報に誤り検出符号や誤り訂正符号を付加して、伝送途上で生じたデータの破損・欠落を受信側で検知して修復したり、送信側へ再送要求を送ることもできる。制御情報で優先度を指定して、音声通話などリアルタイム性の高いデータを優先的に転送するといった制御もできる。
複数の経路から一つを選択したり別の経路に変更することも容易で、障害発生時に問題箇所を迂回して通信を続行するといった制御を行いやすい。経路の途中で混雑する機器や回線があると通信が遅延したり中断することがあり、通信速度や遅延時間の保証などは行いにくい。
応用
1960年代にインターネットの原型となる研究用コンピュータネットワークの通信方式として考案された。1990年代に構内ネットワーク(LAN)やインターネットが普及すると、コンピュータを始めとするデジタル機器の通信方式として浸透した。
一方、電話網などは伝統的に回線交換方式で運用されてきており、携帯電話では同じ無線ネットワークを用いて音声通話を回線交換、データ通信を蓄積交換で提供していた。このため、携帯電話では「パケット通信」という用語を(音声通話と対比して)データ通信を指す用語として用いる。
現代では、回線交換方式の通信網や通信方式は徐々に廃止され、音声通話などもパケット通信で実現するようになっている。例えば、メタル回線によるアナログ電話は光ファイバー回線によるIP電話(光電話)に、スマートフォンの通話機能は回線交換からVoLTEのようなパケット通信方式に移行が進んでいる。
移動体通信 【モバイル通信】
電波などを用いる無線通信のうち、端末の一方あるいは両方を、特定の固定局の通信範囲を越える広い範囲で移動することができるもの。
無線通信でも無線LAN(Wi-Fi)やFWA(固定無線アクセス)、コードレス電話のように端末の位置が狭い範囲で固定的な(広域的な移動を前提とした仕組みのない)ものは含まれない。
広義には、警察無線やタクシー無線のような業務用無線、トランシーバーやワイヤレスマイク/インカムなどの特定小電力無線、アマチュア無線などを含むが、狭義には、通信事業者が加入者に提供する公衆無線通信サービス、すなわち携帯電話や移動体データ通信、衛星電話などを指す。
日本では1968年に当時の日本電信電話公社(電電公社)がページャ(サービス名は「ポケットベル」)を開始したのが始まりで、1979年に自動車電話、1982年に衛星電話(インマルサット)、1985年に携帯電話(サービス自体は自動車電話と同一だが初の非車載端末が登場)がそれぞれ開始された。2010年代には携帯電話の人口普及率が9割を超え、国民的な通信インフラとして浸透した。
基地局 【ベースステーション】
移動する無線通信機の中継拠点として地上に固定的に設置された通信設備のこと。一般的には、携帯電話サービス・移動体データ通信サービスのために通信事業者(携帯電話キャリア)が設置している通信施設のことを指す。
基地局は携帯電話回線網の末端で加入者の端末と無線により交信を行う設備で、基幹回線網へ繋がる通信回線(一般的には有線だが衛星回線や指向性の無線回線の場合もある)と、端末と電波で通信するためのアンテナが設置されている。各端末は電波の届く範囲にある最寄りの基地局と無線で通信し、他の端末や通信網などへの通信を中継してもらう。
一つの基地局が無線で通信できる範囲を「セル」(cell)あるいは「セルラー」(cellular)と呼び、遮蔽物のない平地では円形となる。一般的な携帯電話規格では半径数キロメートルの「マクロセル」(macro cell)が用いられるが、小出力の設備で半径数メートル~数百メートルをカバーする「スモールセル」(small cell)を用いる方式もある。
端末との間が地形や人工物で遮られると電波が届きにくくなるため、アンテナ部は鉄塔や電柱の上や建物の屋上など見通しのきく場所に設置される。大きなビルの奥や地下、トンネルなどは地上の基地局からの電波が届かないことがあるため、特に人の多い場所では内部の天井などに小出力の特殊な基地局が設置されている場合もある。
各基地局のカバーする範囲を繋ぎ合わせた領域がその無線通信サービスを受けられる範囲となり、「通話エリア」「サービスエリア」などと呼ばれる。どの基地局の電波も届かない場所は通話・通信ができない「圏外」と呼ばれる。人口の多い場所や人の活動が盛んな場所では、通話エリアに切れ目が生じないように一定の距離毎に基地局が設置されている。
アクセスポイント 【AP】 ⭐
通信ネットワークの末端でコンピュータなどからの接続要求を受け付け、ネットワークへの通信を仲介する施設や機器のこと。現代では無線LANの中継機器を指すことが多い。
無線LANアクセスポイント
無線LAN(Wi-Fi)を構成する機器の一種で、ネットワーク内の機器間の通信を中継したり、有線ネットワークや有線通信の機器へ接続するための装置を無線LANアクセスポイント(無線アクセスポイント/Wi-Fiアクセスポイント)という。現代では単にアクセスポイントといった場合はこれを指すことが多い。
Wi-Fiの通常の通信モードでは、ネットワーク内の各機器はアクセスポイントと一対一で通信し、他の機器への通信はアクセスポイントが中継・転送する形で行われる。また、アクセスポイントにはイーサネット(Ethernet)や光ファイバーなどの通信ケーブルの接続口があり、これを通じて他のネットワークやインターネットなどに通信を中継することができる。
通信サービスのアクセスポイント
通信サービス事業者などが運用する施設や設備で、契約者が公衆回線などを通じて事業者のネットワークへ接続するための中継拠点のことをアクセスポイントという。00年代前半頃まではアクセスポイントといえばこれを指していた。
特に、インターネットサービスプロバイダ(ISP)やパソコン通信ネットワークに電話回線やISDN回線を通じてダイヤルアップ接続を行なう際、ダイヤル先の通信拠点のことをこのように呼んだ。
アクセスポイントにはパソコン通信のホストコンピュータやインターネットと常時接続された回線が用意されており、利用者からの接続を受け付けて通信サービスを提供する窓口となっていた。常時接続が一般的になった今日では利用者が機器に最寄りのアクセスポイントの設定などをする必要がなくなり、意識されることもなくなった。
プラチナバンド 【ゴールデンバンド】
無線通信・放送に用いられる電波の周波数帯のうち、UHF(極超短波)帯の一部として知られる700~900MHz帯のこと。「プレミアムバンド」(premium band)「ゴールデンバンド」(golden band)とも呼ばれる。
プラチナバンドの電波は1GHzを超える周波数の電波に比べ、空気中の水分などによる減衰が少なく、コンクリート壁を透過しやすく、回折によって障害物を回りこむ性質が強いという特徴がある。これにより、遠い場所やビルの内部、建物や地形の凹凸によって陰になっている場所にもよく届く。
移動体通信の搬送波として適した特性があり、価値が高い周波数帯という意味でこのように呼ばれている。この帯域は日本では携帯電話やテレビ放送に使われており、2011年7月に停波したアナログテレビ放送用の周波数帯の一部が携帯電話用として再割当てされている。
携帯電話会社では従来から一部のプラチナバンド帯の周波数を3G(W-CDMA/CDMA2000)方式などで利用していたが、4G(LTE)への移行に伴い順次LTEへの転用(プラチナバンドLTE)が進められている。5Gサービスに転用している事業者もあるが、5Gは本来3.7~4.5GHz程度の高い周波数(Sub6)での利用を想定した技術であるため、プラチナバンドでは十分な通信速度が見込めないとの指摘もある。
ハンドオーバー 【ハンドオフ】
移動しながら携帯電話などの無線端末で通信する際に、交信する基地局を切り替える動作のこと。自動的に瞬時に行われ、利用者が意識することはほとんどないが、通信方式や電波状態などによっては接続が切れる原因となることもある。
携帯電話の基地局が電波で端末と交信できる範囲(セル)はせいぜい半径数キロメートル程度(方式や基地局の種類によってはさらに狭い)であるため、乗り物で移動しながら通話やデータ通信を行うとセルの端へ移動するに連れ受信電波の強度が次第に弱くなり、最後は通信範囲から外れ届かなくなる。
そのような場合に、進行方向にある隣の基地局に交信先を切り替え、通信が途切れないようにする処理をハンドオーバーという。1秒以下の短時間で自動的に行われるが、状況によっては通話中に音声が一瞬途切れたり、データ通信の接続がリセットされたりといった影響が出ることもある。
第3世代携帯電話(3G:W-CDMA/CDMA2000)以降では、セルの境界付近では複数の基地局と同時に交信するレイク受信などの技術を利用し、徐々に電波強度の強い基地局に乗り換えていく「ソフトハンドオーバー」方式が広まっており、瞬断などが起きないようになっている。
ローミング 【ローミングサービス】
契約している通信事業者のサービスを、その事業者のサービス提供範囲外でも、提携している他の事業者の設備を利用して受けられるようにすること。また、そのようなサービス。海外で提携先の現地事業者のサービスを受けられることを「国際ローミング」(international roaming)という。
インターネット接続サービスや携帯電話サービス、移動体データ通信サービスなどで提供されているもので、単にローミングといった場合は携帯電話のローミングサービスを指すことが多い。
事業者間の提携に基いて提供されるもので、利用者は特に手続きをしなくても、契約先事業者の設備が利用できず提携先事業者に接続可能な状況になると自動的に切り替えが行われる。
通話やデータ通信など、契約しているサービス内容をそのまま同じように利用できることが多いが、機器の仕様の違いなどにより、ローミング時はサービス品目や品質が一部異なる場合もある。
また、追加料金が必要な場合と不要な場合があり、特に国際ローミングの場合は従量制(通話時間や送受信データ量に応じて課金される)で割高な追加料金が必要なことが多く、思わぬ高額請求に繋がりやすいため注意が必要である。料金などが割に合わないと思う場合は端末の設定であえてオフにする利用者もいる。
国際ローミング (海外ローミング/グローバルローミング)
契約している通信事業者のサービスを、国外でもその国・地域の事業者の設備を利用して受けられるようにすることや、そのようなサービスを「国際ローミング」(international roaming)「海外ローミング」「グローバルローミング」などという。通常は携帯電話・移動体データ通信のローミングサービスのことを意味する。
加入している事業者と提携している事業者が滞在国・地域に存在する場合に利用できるもので、受けられるサービスや料金等は接続先の事業者によって異なる。音声通話のみ対応する場合と、インターネットなどのデータ通信も利用できる場合(データローミング)がある
国内で普段使っている端末を持ち込んでそのまま利用できる場合と、相手国側の通信方式などに対応した端末をレンタルするなどして利用する場合がある。
データローミング (国際データローミング/海外データローミング)
携帯電話網による提供される移動体データ通信サービスを、その事業者のサービス範囲外でも提携事業者の設備を利用して受けられるようにすることや、そのようなサービスを「データローミング」(data roaming)という。特に、国外でも普段と同じようにインターネット接続などを利用できるようにする国際データローミングを指すことが多い。
加入している事業者と提携している事業者が滞在国・地域に存在する場合に利用できるもので、受けられるサービスや料金等は接続先の事業者によって異なる。
時間により課金される通話とは異なりデータ通信は利用者が使用量を自覚しにくく、普段パケット定額制などを利用していてもローミング中は適用されず従量課金されることが多いため、気付かずに使っていて後で高額の料金を請求される事例もある。
プラスチックローミング
携帯電話端末の識別に使われるICカード(SIMカード)を取り外し、別の携帯電話事業者向けの端末に装着することで、電話番号などはそのままでその事業者の携帯電話サービスを利用することを「プラスチックローミング」という。
海外では第2世代(2G)携帯電話のGSMがSIMカードによる契約者識別に対応していたため、旅先に自分のSIMカードを持ち込んでレンタルした端末に差し込んで利用するプラスチックローミングが一般的に行われていた。
日本では第3世代(3G)のW-CDMA/CDMA2000からUIMカード(USIM/R-UIM)による識別が行われるようになったため、海外の事業者との間で容易にプラスチックローミングできるようになった。
MIMO 【Multiple Input Multiple Output】
無線通信を高速化する技術の一つで、送信側と受信側がそれぞれ複数のアンテナを用意し、同時刻に同じ周波数で複数の異なる信号を送受信できるようにするもの。無線LAN(Wi-Fi)などで実用化されている。
送信側の機器も受信側の機器も、数本のアンテナを少しずつ離して設置しておく。送信側からは各アンテナで異なる信号を送信するが、同時刻に同じ周波数で同時に送信するため、受信側の各アンテナにはそれらが合成された波形が届く。送信側と受信側の各アンテナ間の位置関係や距離はそれぞれの組み合わせごとにわずかずつズレているため、合成された送信波は受信側の各アンテナで同一ではなく、少しずつ異なった波形となって届く。
通信を行う機器間は通信開始前にあらかじめ各アンテナ間でどのように電波が届くかを測定し、アンテナの組み合わせごとに特性値を決定しておく。これは(送信アンテナ数)×(受信アンテナ数)の行列として表される。受信した合成信号の列に特性値の行列から求めた逆行列を乗算すれば、各送信アンテナが発した信号を取り出すことができる(実際にはこれ以外にも様々な復調方式がある)。
送信側と受信側が2本ずつアンテナを用意すれば、同じ周波数帯を用いて2本の異なる伝送経路を形成することができる。アンテナの本数を増やせばそれだけ多くの経路を作り出すことができ、限られた周波数帯で効率的に伝送速度を向上させることができる。
MIMOの構成は送信側と受信側のアンテナ数を組み合わせて「4×4 MIMO」「8×8 MIMO」のように表記する。通常は両者が同じ本数で運用されるが、携帯電話と基地局のように機器の資源や制約に大きな開きがある場合には「2×4 MIMO」のような非対称の構成が用いられることもある。その場合の伝送経路の数は少ない方のアンテナ数によって規定される。
信号の復調のための行列演算の計算量はアンテナの組み合わせの数に比例して増えるため、8本の場合(8×8)は2本の場合(2×2)に比べ伝送速度は4倍だが計算量は32倍に増大してしまう。あまり多いアンテナ本数のMIMOは信号処理の負荷が大きいため、実用上は8×8 MIMO程度が上限とされることが多い。
IP電話 【IP phone】 ⭐
インターネットなどのIPネットワーク上で提供される電話サービス。音声信号をデジタル化し、相手側の端末との間でデータ通信を行って通話する。
広義にはVoIPを利用する企業の内線電話のようにIPネットワーク上で音声通話が可能なシステムやサービス全般を指すが、狭義には従来の加入電話(PSTN/公衆交換電話網)と互換性を持ち、相互接続して発着信・通話が可能な音声通話システムを指す。特に、通信事業者が加入者にデータ通信回線を経由して提供する電話サービスを指す場合が多い。
IPはインターネットおよび家庭や事業所内のLAN(構内ネットワーク)のデータ通信を行うための標準の通信規約(プロトコル)として広く普及しており、Webや電子メールなどのデータの送受信のための基盤として用いられている。
IP電話はこれを利用して従来の電話のような通話を行うもので、SIP(Session Initiation Protocol)やRTP(Real-time Transport Protocol)など複数の規格を組み合わせ、相手先の識別や指定、発呼や切断などの制御、音声信号とデジタルデータの相互変換、音声データのリアルタイム伝送などを行う。
IP電話サービス
多くの電気通信事業者が加入電話網に接続されたIP電話サービスを一般加入者向けに提供している。ADSLやFTTH(光ファイバー)、CATV(ケーブルテレビ)回線などのいわゆるブロードバンド通信サービスの付加サービスとなっていることが多い。日本では電気通信役務の一部に位置づけられる。
従来型の固定電話サービスより料金が安く、アナログ電話回線を別途用意しなくてもインターネット接続用のデータ回線で電話サービスに加入できるため、転居や新規加入時に選択されることが多い。
加入者には固有の電話番号が割り当てられ、回線の終端装置に電話機を繋いで加入電話と同じように使用することができる。同じ事業者の別の加入者へは無料や割安で通話できる場合が多く、他サービスの加入者(アナログ電話やISDN、携帯電話、国際電話など)へも公衆網を介して接続できる。
IP電話専用の番号体系として「050」で始まる050番号が用意されているが、緊急通報やフリーダイヤルへかけられないなどの制約がある。アナログ電話と遜色ない通話品質や110番、119番などへの発呼が可能などの技術的な要件を満たしたサービスには加入電話と同じ0AB~J番号が割り当てられることになっており、光ファイバー回線を用いた光IP電話サービスなどで提供されている。
光通信 【光ファイバー通信】
信号の伝送媒体として光(可視光線)を利用する通信方式。一般的には、光ファイバーケーブルに光線を照射する光ファイバー通信のことを指す。
機器間をガラスや透明なプラスチックでできた通信ケーブルで結び、送信側の発光素子から信号を変調した光を照射する。受信側の受光素子で受けた光を復調し、元の信号を得る。
金属線に電気信号を通す方式に比べ、電磁的なノイズの影響を受けず、盗聴・傍受がしにくい。波長の異なる光が互いに干渉しない性質を利用するなどして信号を高密度化することができ、高速に通信することができる。レーザー光を使用すると長距離を安定的に伝送できる。
コンピュータや通信機器は内部の信号の伝送や処理を電気によって行うため、送受信装置内で電気信号と光信号の相互変換が必要で、装置が大掛かりで高コストになりやすい。光ケーブルは金属線ケーブル(メタルケーブル)のようにきつい角度に曲げることができず、(特に室内での)配線の自由度に制約がある。
現代では主に屋外・遠距離の高速デジタル通信に用いられ、通信事業者の拠点間や大陸間の通信は光通信が主流となっている。また、先進国では家庭や事業所などの固定通信回線(インターネット回線)としても広く普及しており、従来メタル回線(アナログ電話回線)で実現していた電話やファクシミリなども光回線によるデジタル通信で置き換える(光電話)動きが進んでいる。
光を利用した通信には光ファイバー通信以外にも、空中に光信号を照射し、アンテナで受光する光無線通信がある。相手のアンテナに向けてレーザー光を直に照射する方式は人工衛星間の通信などで用いられており、照明の光などに信号を重畳する可視光通信も研究・開発が進んでいる。
キャリアアグリゲーション ⭐
無線通信を高速化する手法の一つで、複数の搬送波による通信を一体的に運用する方式。携帯電話/携帯データ通信では「LTE」(4G)の追加仕様として導入され、その改良版である「LTE-Advanced」では当初から標準で利用できる。
複数の異なる周波数帯の電波を同時に使用し、仮想的に単一の通信回線として利用する。データを複数経路に分散して送受信することにより、通信の高速化や安定化を図ることができる。
例えば、2つの同じ帯域幅の周波数を同時に利用すれば通信速度を2倍に引き上げることができ、片方の通信状況が悪化しても、もう一方で通信を継続することができる。基地局が混雑しているときは自動的にオフにする(一つの周波数帯のみ利用する)よう運用すれば、収容能力に応じて効率的に電波を活用することができる。
帯域の組み合わせは「CA_1A-3A-42A」のように表記し、この例ではLTEバンド1、バンド3、バンド42からそれぞれ20MHz以下の帯域を一つずつ組み合わせている。バンド数の末尾の数字は「クラス」(class)と呼ばれ、Aは帯域幅20MHz以下の帯域を一つ、Bは連続する20MHz以下の帯域を2つ組み合わせて合計20MHz以下(例えば10MHz+10MHz)、Cは連続する20MHz以上の帯域を2つ組み合わせて合計40MHz以下(例えば20MHz+20MHz)を表している。
最も基本的な2波を組み合わせる「2CC CA」(2 Component Carrier CA)では2つのAクラスを、3波を組み合わせる「3CC CA」では3つのAクラスまたはAクラス+Cクラス、4波を組み合わせる「4CC CA」では2つのAクラス+1つのCクラスの組み合わせが一般的となっている。
テザリング 【Wi-Fiテザリング】 ⭐⭐
情報機器が自らをインターネットなどに接続するために内蔵する通信機能を、別の機器をネットワークに接続する中継に用いること。また、機器の持つそのような機能。
例えば、スマートフォンが移動体通信網に接続してインターネットを利用する機能を用いて、スマートフォンに繋いだノートパソコンやタブレット端末、携帯ゲーム機などをインターネットに接続して通信できるようにする。Wi-Fiなど無線接続を用いる場合は複数の機器を同時に接続できる。
テザリングに対応した機器が一台あれば、機器ごとに通信カードなどの装置を用意したり回線契約を個別に結ばなくてもインターネット接続を利用できる。出先などで一人で複数台の端末を使い分ける場合や、通信機能がWi-Fiしかない機器を外に持ち出して使用したい場合などに特に便利である。
ただし、一台で利用するよりもデータの送受信量は増えるため、一か月あたりのデータ通信量に制約がある場合は気をつける必要がある。機器によっては、テザリング接続の場合はシステムのアップデートなどの大容量通信を行わない設定が可能な場合もある。また、通信事業者やサービス品目によっては契約条件でテザリング利用を禁じていることもある。
テザリングの種類
テザリング対応機器と他の機器の接続にWi-Fi(無線LAN)を用いる方式は「Wi-Fiテザリング」(無線LANテザリング)、機器間をUSBケーブルで結ぶ方式は「USBテザリング」、近距離無線通信規格のBluetoothで結ぶ方式を「Bluetoothテザリング」という。
最も一般的なのは「Wi-Fiテザリングで、これを指して単にテザリングということも多い。複数台を同時に接続でき高速に通信できるが、インターネット接続を行う機器はWi-Fi機器を周囲のWi-Fi端末に対するアクセスポイントとして運用する形になるため、自らが外部のアクセスポイントにWi-Fi接続することはできなくなる。
USBテザリングはスマートフォンとノートパソコンなどのUSBポート同士をUSBケーブルで結んで通信する方式で、通信速度が高速でスマートフォンを充電しながら通信できる利点がある。ただし、USBケーブルを携帯しなければならず、両端末を近くに置かなければならない取り回し上の制約がある。
Bluetoothテザリングはコンピュータ本体と近くにある周辺機器などを無線接続するBluetoothをテザリングの無線回線に流用する方式で、Wi-Fiより電力消費が少ない利点があるが通信速度が低速で用途が制約される場合がある。Bluetooth自体には対応していてもテザリングには対応していない機器も多い。
SIMカード 【Subscriber Identity Module card】 ⭐⭐
携帯電話機や移動体データ通信端末に差し込んで利用する、加入者の識別情報などが記録されたICカード。携帯電話会社(携帯キャリア)が契約時に発行するもので、端末にカードを差し込むと、紐付けられた加入者名義および契約条件で通信できるようになる。
1990年代に日本以外の世界各国に普及した第2世代(2G)携帯電話システム「GSM」(Global System for Mobile Communications)規格で導入された仕組みで、不揮発性の半導体メモリを内蔵した数cm角の薄いプラスチックカードに電話番号、カードの識別番号(ICCID)、加入者の識別番号(IMSI)などを記録することにより、端末とは独立に加入者情報を管理することができる。
カードは端末の外装に設けられた専用の差込口(SIMカードスロット)に容易に着脱でき、複数の端末を切り替えて使用したり、一つの端末を複数の契約で共有することができる。新機種への買い替えや故障などによる交換の際も新しい端末にカードを入れ替えるだけでよい。
日本では第2世代のPDC方式が端末に契約情報を内蔵する方式だったため、キャリアごとに対応機種が分かれていたが、世界的にはキャリアが発行するのはSIMカードだけで、利用者は契約とは独立に販売店で好きな携帯電話端末を購入して利用することができた。
第3世代(3G)携帯電話でも同じ仕組みを実現するため、後継規格の「UIMカード」(User Identity Module)あるいは「USIMカード」(Universal SIM)と呼ばれるICカードの規格が策定されたが、一般的には「SIMカード」をこれらを含む総称として用いる(UIMカードもSIMカードと呼ぶ)ことが多い。日本でも3G以降のサービスではUIMカードによる契約情報の管理が導入されたが、2010年代になるまでキャリアによる対応機種の固定化(SIMロック)は続いた。
miniSIMカード (ミニSIM/2FF SIM:2nd Form Factor SIM)
オリジナルのSIMカード規格のサイズ・形状はクレジットカード大(8.6cm×5.4cm)で、1FF SIM(1st Form Factor SIM:第1世代形状のSIM)とも呼ばれるが、初期の自動車電話などで限定的に利用されただけである。現代では単にSIMカードと言った場合には、このカードからICチップ部分のみを切り出した、2.5cm×1.5cmサイズのminiSIM(ミニSIM)のことを指すのが一般的である。
microSIMカード (マイクロSIM/3FF SIM:3rd Form Factor SIM)
端末の小型化に伴い導入されたUIMカードの形状についての規格で、カードサイズが1.5cm×1.2cmに小型化されている。金属端子の形状や通信仕様、データの記録形式などは共通のため、サイズを補正するだけの簡易なアダプタにより通常のSIMカード(miniSIM)として利用することもできる。
nanoSIMカード (ナノSIM/4FF SIM:4th Form Factor SIM)
microSIMよりもさらに小さなサイズを求める機器向けに策定された極小のUIMカードの規格で、1.2cm×0.9cmのもの。表面の金属端子のサイズと同じであり、片面の全体が端子に覆われている。端子形状や通信仕様、データの記録形式などは共通のため、サイズを補正するだけの簡易なアダプタによりmicroSIMやminiSIMとして使用することができる。
携帯電話番号ポータビリティ 【MNP】
携帯電話(移動体通信)サービスで、加入者が契約先の通信事業者を切り替えても、切り替え前の電話番号を維持することができる仕組み。
携帯電話市場は固定電話とは異なり、1990年代末の本格的な普及の初期から複数のキャリア間で激しい競争が行われてきたが、電話番号が事業者(キャリア)に紐付いていることにより、既存の加入者がより有利な契約を求めて他社に乗り換えるのを阻害する状況が生じていた。
携帯電話の普及率が急上昇し新規加入者が減っていく中、より公正な競争環境を実現するため、2006年10月に番号ポータビリティ制度が開始され、同じ電話番号を維持したまま他のキャリアの契約に切り替えることができるようになった。
ただし、日本では携帯電話端末をキャリアに紐付ける「SIMロック」が行われていたため、端末は移行先で使える機種に買い直さねばならなかった。また、日本独自に広まった携帯電話端末による電子メール送受信サービス(いわゆるキャリアメール)も、キャリアが加入者に割り当てる電子メールアドレス(キャリアメール)のドメイン名部分がキャリア所有のものであるため、乗り換えると取り直しとなった。
このような日本固有の事情もあり、当初は同時期にMNPを開始した各国のようには事業者間の移動は進まなかった。しかし、2010年代に入るとSIMロックの解除やSIMロックフリー端末の普及、MVNO(仮想移動体通信事業者)の新規参入が進み、加入者の乗り換えが活発になった。
同時期に、旧来の携帯電話端末(いわゆるガラパゴス携帯電話)からスマートフォンへの切り替えが進み、キャリアメール以外の通信・連絡手段が広まったことや、2021年からはキャリアメールの切り替え先への持ち運び制度がスタートしたことにより、以前よりは気軽に乗り換えが行われる状況になっている。
eSIM 【embedded Subscriber Identity Module】
携帯電話の契約情報などが記録されたSIMカードを機器内部に固定的に組み込んだもの。カードを物理的に交換しなくても利用者の操作で契約情報を書き換えることができる。
スマートフォンなどの機器で移動体通信事業者(携帯電話キャリア)の無線ネットワークに接続して通話やデータ通信を行う場合、契約情報や電話番号などの識別情報(プロファイル)を記録したSIMカードと呼ばれる数ミリ角の小さなICカードを機器の専用のスロットに差し込む必要がある。
eSIMはこのSIMカードの機能を機器内部の電子基板などに直に実装された専用のICチップで代替する方式で、契約情報などのデータは利用者の操作によって事業者側からインターネットなどを通じてダウンロードし、記録したり書き換えることができる。
カードを内蔵型とすることで、機器の製造時にSIMカード機能を組み込んでおくことができ、電話機以外の多様な機器や使用環境へ対応しやすくなる。また、契約情報をデータとしてやり取りできるため、通信サービスの契約時や乗り換え時にカードの物理的な受け渡しや入れ替えが不要になり、手続きを円滑にすすめることができる。
端末や事業者の対応状況によっては、一つのeSIMに複数社の契約情報を記録して必要に応じて切り替えて使用(デュアルSIM/トリプルSIM)したり、逆に、一つの契約を複数のeSIMで有効にして複数の機器で同時に通信するといった、物理的なカードでは困難な柔軟な利用方法が可能な場合もある。
テレマティクス ⭐
自動車などの移動体に無線通信や情報システムを統合し、何らかの機能を実現したりサービスを提供すること。有料道路の無線料金支払いシステムや車両位置情報の集約による渋滞情報の配信サービスなどの総称。
車両内部の装置やセンサー、車載情報機器などとGPSなどの衛星測位システムや移動体無線データ通信(携帯電話サービスのデータ通信機能)を連動させ、事業者の情報システムなどとデータを送受信することにより実現する諸機能を指す。
“telecommunications” (遠隔通信)と “informatics” (情報科学)の造語で、概念的には船舶や航空機、鉄道車両、建設機械などに関連するものも含まれるが、現代ではもっぱら自動車に関する技術やサービスのみを指す用法が一般的となっている。
具体的には、GPSなどを利用した車両やコンテナの追跡・捕捉、走行中の車両にリアルタイムに現在地や目的地周辺の渋滞情報や交通情報、天気予報などを提供する無線通信システム(VICSなど)、音声による対話式のガイドやエージェントシステム、事故や急病の際に自動あるいは簡単な操作で即座に通報できる緊急通報装置、盗難の試みなど異常を検知するとオーナーに通知するセキュリティシステム、有料道路の自動料金収受システム(ETC)などが含まれる。
広義にはETCやVICS、路線バスの運行情報表示システムのような公共的なインフラとして機能するものを含むが、狭義には自動車メーカーなどが顧客に提供する自動車の安全や利便性に関する機能やサービス(テレマティクスサービス)を指すことがある。
従量制 【従量制課金】
サービスなどへの課金方式の一つで、利用したデータ量や時間などの実績に応じて料金を課す方式。サービスを使えば使うほど利用料を課金される。
ある期間(例えば1ヶ月)のサービスの使用量を記録し、これに単価を乗じてその期間の料金を算出する。電気や水道のように使わなくても課金される基本料金が設定されている場合と、完全に利用実績に応じて課金額が決まる(使用しなければ0円)場合があり、後者を「完全従量制」と呼ぶこともある。
一方、利用量に関わらず一定期間ごとに一定額の料金を課す方式を「定額制」「固定料金制」という。定額と従量を組み合わせ、一定の使用量に達するまで定額で以降は従量制(定額従量制)、一定の使用量に達するまでは従量制で以降は定額制(キャップ制)などの方式もある。
定額従量制
「30時間まで月額3000円、それ以降は3分10円」などのように、基本料金に一定時間分の利用料金を含み、超過した部分について従量で追加料金を請求する課金方式を「定額従量制」(定額従量課金)という。定額制と従量制を組み合わせた料金体系の一つで、インターネットサービスプロバイダの接続料金や、携帯電話の通話料などに採用例がある。
キャップ制 (従量課金上限制)
「30時間まで3分5円、それ以上いくら利用しても月額3000円」のように、基本は利用実績に応じた料金(従量制)だが、期間毎の請求額の上限があらかじめ決まっているような課金方式を「キャップ制」(従量課金上限制)という。定額制と従量制を組み合わせた料金体系の一つで、携帯電話のパケット通信料金などに採用例がある。
逓減課金方式
従量課金制の一種で、使用量が増えるほど単価が下がっていく方式を「逓減課金」(ていげんかきん)という。
法人向けの通信サービスやコンピュータシステムのレンタルなどで用いられる方式で、ある期間の(あるいは累計の)利用実績が増大すればするほど、新たに使用した分の単価が引き下げられていく。
算定基準となる使用量としては資源の占有時間や、伝送・処理・保存などしたデータ量を用いることが多いが、使用した機器の台数や利用者の数などが用いられることもある。
単価が使用量に完全に連動している場合、横軸に使用量、縦軸に料金を取ってグラフを描くと単調増加で左上に膨らんだ曲線となるが、実際には段階的に単価が逓減していく制度となっている場合が多く、次第に勾配が緩やかになっていく折れ線グラフとなる。また、最終的に単価が0になり料金に上限が設けられる場合と、単価に下限があり緩やかながら料金が青天井となる場合がある。
定額制 【固定料金制】
サービスなどへの課金方式の一つで、一定期間の利用に対し一定額の料金を課す方式。期間中はどれだけ使っても同じ料金となる。
通信サービスの場合は、通信時間や伝送データ量などによらず、一定期間(月単位のことが多い)あたりの料金が決まっているような課金体系を意味する。
1990年代までは電話の通話料金にならってデータ通信も従量制のサービスが多かったが、固定通信、移動体通信ともに、現在ではほとんどのサービスや料金体系で定額制が基本となっている。
サービス品目ごとに定額制を選択できる場合があり、通話料金を定額とする契約(通話定額制)、パケット通信を定額とする契約(パケット定額制)などがある。これらは実際には通信相手の制限や月間の使用量の上限などが課された条件付きの定額制であることが多い。定額であることを「無料」と称する事業者もいる。
近年では通信以外にも様々な業界で、一定の月額料金で音楽聴き放題の音楽配信サービス、動画見放題の動画配信サービスなど、定額制の課金モデルを採用する事業者やサービスが増えており「サブスクリプション制」(サブスク)とも呼ばれる。
2段階定額制 (二段階定額制)
携帯電話・移動体データ通信のパケット通信などで採用されている課金方式の一つで、二段階の定額料金とその間の従量制料金の三段階で料金が決定される方式。
利用者にはまず低い方の定額料金が適用され、上限まで通信し放題となる。上限を超えると従量制料金に切り替わり、利用実績に応じて課金される。従量制料金の上限に達すると再び定額制となり、いくら通信してもそれ以上は課金されない。
一律の定額制では利用の多い月も少ない月も同じ料金が課金されるため、申し込みの心理的ハードルが高かったり、利用の少ない月に「損をした」と感じてしまう傾向があったが、2段階定額制では利用の少ない月は安い料金となり、多く使いたいときも上限は決まっているため、料金に対する納得感が高まることが期待できる。