ITパスポート単語帳 - システム戦略
エンタープライズサーチ 【企業内検索】 ⭐
企業などで情報システム内に保管されている様々な情報を索引付けし、横断的に検索できるようにする技術。また、そのような検索を可能にするソフトウェアやシステム。
Web上の情報を収集してキーワードなどで検索できるWeb検索エンジンのような機能を社内ネットワーク上で実現するもので、共有ファイルや社内Webサイト、データベース、送受信した電子メール、グループウェア内の書き込みなどに分散したデータを集約し、様々な条件で検索できるようにする。
検索可能なデータは製品によって異なるが、NASや共有フォルダなどに格納されたオフィスソフトの文書ファイル、テキストファイル、PDFファイル、画像ファイル、動画ファイル、圧縮ファイルの内部のファイル、グループウェアやワークフローシステムに格納されたデータ、イントラネットサイトなどを対象とすることが多い。インターネット上のWeb検索を統合して提供する場合もある。
検索はキーワードによる全文検索のほか、データの所在(特定のフォルダのみ、特定のフォルダを除外等)や日付による絞り込み、関連キーワードの提案(サジェスト機能)などに対応している場合がある。検索結果はWeb検索のように表題と文章の抜粋、ファイル種別を示すアイコンなどを関連性順や日付順に並べて一覧できる。文書や画像のサムネイルを表示するなどして内容を確認しやすいよう工夫している製品もある。
オープンな検索エンジンと異なる重要な機能としてセキュリティ機能があり、利用者の認証と識別を行い、利用者ごとにシステム上設定された閲覧権限のあるデータのみを一覧にリストしたり、アクセス可能にしたりすることができる。
エンタープライズアーキテクチャ 【EA】 ⭐⭐⭐
大企業や政府機関などといった巨大な組織の資源配置や業務手順、情報システムなどの標準化、全体最適化を進め、効率よい組織を生み出すための設計手法。
組織を構成する人的資源、事業・業務、技術・システム、情報・データなどの要素を整理し、階層構造化することで、組織全体に対する組織の一部分の構成要素の関係、組織の一部分同士の相互関係を明確にする。その上で、業務プロセスや取り扱うデータの標準化を行う。
EAを導入することで、企業の持つ資源の重複や偏在を廃して全体最適の観点から配分することができる。例えば、特定の知識やスキルを持つ従業員を必要とする部署へ配置したり、部門や部署ごとにばらばらの基準や仕様で導入されているシステムを標準化して容易に接続・連携できるようにしたり、機能が重複しているシステムなどを統合して全社で一本化しコストを削減するといったことが可能になる。
1987年にIBM社のコンサルタント、ジョン・ザックマン(John A. Zachman)氏が提唱した情報システムを設計するための枠組み「ザックマンフレームワーク」が基礎となっており、1992年に情報システムだけでなく組織全体を対象とするよう拡張され、EAの概念に発展したとされる。
導入事例
最も有名なEAの導入事例としては、1999年に策定された米連邦政府のEAである「FEAF」(Federal Enterprise Architecture Framework)がある。このなかで、EAは次の4つの要素に分割され、定義されている。
すなわち、業務分析、業務パターンの認識を行う「政策・業務体系」(Business Architecture)、業務システムで用いるデータの標準化を進める「データ体系」(Data Architecture)、組織全体で用いられる業務モデルと実際の個別の業務との差を埋め、相互接続性を確立する「アプリケーション体系」(Application Architecture)、「技術体系」(Technology Architecture)の4つである。
日本政府でも、2003年の「電子政府構築計画」に基づき、各省庁の情報システム構築・運用に関する指針などを定めた「業務・システム最適化計画」が発行され、各省庁で政府CIOを中心に業務改革やシステム統合が行われている。
SoR 【System of Record】 ⭐
情報システムを主目的によって分類したとき、主にデータの記録を行うためのシステムのこと。会計システムなど企業などの組織内部で業務の遂行のために用いられるものの多くはこれに分類される。
人間の活動に伴って発生する大量のデータを正確かつ効率的に記録、蓄積し、用途に応じて計算や加工を行い、必要な形式で出力することを主な任務とする。1950年代のコンピュータシステムの商用化以降、企業や官公庁などが業務の遂行や効率化などのために構築・運用してきた情報システムの大半はこれに該当する。
一方、人間と他の人間、組織、物事などの間の結びつき、関与を作り出し、あるいは強化するために構築される情報システムは「SoE」(System of Engagement)と呼ばれ、1990年代頃から使われ始めた。近年では、蓄積された情報の加工や分析を通じて何らかの有用な洞察を得ることを主目的とする「SoI」(System of Insight)も用いられるようになっている。
SoE 【System of Engagement】 ⭐
情報システムを主目的によって分類したとき、主に人間と他の人間、組織、物事などの間の結びつき、関与を作り出し、あるいは強化するために構築されるもの。情報の記録は機能の一部として提供されるが主目的ではない。
携帯電話や電子メール、SNS、メッセンジャーなど人間の繋がりのサポートや共同作業、メッセージの伝達などを行うシステムが含まれる。企業内の業務システムでも、グループウェアやコラボレーションツールのように集団での業務や作業を促進するもの、顧客との接点を担うものなどは一種のSoEと考えることができる。
また、そのシステムに多くの人間が集まって関与することによって成り立つ仕組みを含める場合もある。例えば、Wikipediaのような利用者参加型のコンテンツ作成プロジェクト、オープンソースソフトウェアの開発、利用者間のモノやサービスの交換・提供を取り次ぐネットサービスなどがこれに該当する。
1950年代にコンピュータが現れた当初は、事務作業の効率化などのために大量のデータを記録・処理することが主目的の「SoR」(System of Record)しか存在しなかったが、1990年代頃から新たな情報システムの利用法としてSoEが普及し始めた。近年では、蓄積された情報の加工や分析を通じて何らかの有用な洞察を得ることを主目的とする「SoI」(System of Insight)も現れている。
バックエンド
後部(の)、後端(の)、後置(の)、後工程(の)、最終段階(の)、などの意味を持つ英単語。ソフトウェアやシステムの構成要素のうち、利用者や他のシステム、ソフトウェアなどから見えないところでデータの処理や保存などを行う要素のことをこのように呼ぶ。
ソフトウェアの場合は主に利用者が直接触れない機能や処理を担当するプログラムやモジュール(部品)などをバックエンドという。一方、利用者への表示や操作の受け付け、外部の別の機器やシステムとの入出力などを担当する要素は「フロントエンド」(front end)という。
バックエンドはフロントエンド側からデータや指示を受け付け、計算や変換などの処理を行ったり、ストレージ(外部記憶装置)やデータベースなどでデータの保存や読み出しを行う。
クライアントサーバ型のシステムではサーバ側のソフトウェアを指す。Webアプリケーションでは、Webサーバや、その背後で連携して動作するアプリケーションサーバやデータベース管理システム(DBMS)などのミドルウェア、フレームワークなどが該当する。これらの上で稼働する個別に開発されたプログラムなども含まれる。この部分を開発・運用する技術者を「バックエンドエンジニア」(back-end engineer)という。
また、機能が何段階かの階層構造に分かれているようなシステムで、下位側や最終的な出力を行う側のことをバックエンドということがある。例えば、コンパイラバックエンドは、ソースコードを解析するフロントエンドから中間形式のプログラムを受け取り、最終的なネイティブコードのプログラムに変換して出力する。
フロントエンド
前部(の)、前端(の)、前置(の)、前工程(の)、初期段階(の)、などを意味する英語表現。ソフトウェアやシステムの構成要素のうち、利用者に対する表示や操作の受け付け、他のシステムとの連携など、外部と直接やり取りを行う要素のことをこのように呼ぶ。
ソフトウェアの構造や役割についてフロントエンドという場合は、画面表示や入力・操作の受け付けなど、主に利用者が直接触れる部分を指すことが多い。対照的に、フロントエンドから受け取ったデータを処理・保存したり、フロントエンドの要求に応じてデータや機能を提供する構成要素は「バックエンド」(back end)という。
文字による表示・操作機能(CUI/CLI)しか用意されていないコマンドラインツールや、利用者が直接操作することがないライブラリなどのプログラムに、グラフィック表示やマウス操作・タッチ操作で使用できるようにする操作画面(GUI)を提供するソフトウェアをフロントエンドと呼ぶことが多い。
また、機能が何段階かの階層構造に分かれているようなシステムで、上位側や入力を受け取る側のことをフロントエンドということがある。例えば、コンパイラフロントエンドはソースコードを解釈して中間形式に変換する役割を果たし、中間コードからネイティブコードを生成するのはバックエンドの役割となる。
Webフロントエンド
クライアントサーバ型のシステムでは、クライアント側のソフトウェアやシステムを指す。特に、WebアプリケーションにおいてWebブラウザに表示されるWebページやその構成要素、クライアント側のスクリプトなどを指すことが多い。
HTML(Hypertext Markup Language)やCSS(Cascading Style Sheet)、画像ファイルなどのコンテンツ、JavaScriptで記述されたスクリプトなどを組み合わせ、利用者への表示や操作の受け付けなどの機能を実装した部分である。Webサーバ側で機能の提供やデータの保管などを行うバックエンドと組み合わせて一つのシステムを構成する。
フロントエンドエンジニア
Webアプリケーションのフロントエンド側を開発・運用する技術者のことを「フロントエンドエンジニア」(front-end engineer)という。Webデザイナーなどと連携してユーザーインターフェースとしてのWebページを制作し、サーバとの通信を行うプログラムを開発する。
JavaScriptやTypeScriptなどのプログラミング技能に加え、開発に用いるJavaScriptフレームワークやライブラリなどの知識、Webページを構成するHTMLやCSSの基本的な知識が必要となる。開発手法によってはサーバ側でWebページを動的に生成するため、PHPなどによるサーバ側プログラムの開発や、CMSなどによるサーバ構築・運用の技能が要求されることもある。
モデリング 【モデル化】 ⭐
ある物体や事象について、着目している特徴や同種の複数の対象に共通する重要な性質を抽出し、些末な細部は省略あるいは簡略化した抽象的な模型を作成すること。
科学や工学、ビジネス、IT関連では特にシステム設計やシミュレーションなどの分野において、取り扱う対象から目的に照らして不要な側面を捨象して、その構造や構成要素、対象間の関係や互いに及ぼす作用などを模式的に表した模型(モデル)を作り、図表や数式、データ集合、データ構造、人工言語(モデリング言語)などを用いて定義することをモデリングという。
モデルを作成することで、対象をデータや情報の集合としてコンピュータシステム内で取り扱ったり、シミュレーションなどを通じてその振る舞いや状態を解析し、現実に起きている現象を説明したり、特定の条件下での振る舞いを予測することができるようになる。様々な分野で一般的に行われる営みであり、具体的な手法や手順なども分野ごとに異なる。
3DCGにおけるモデリング
3次元コンピュータグラフィックス(3DCG)の制作・編集過程の一つで、点や線、平面や曲面、単純な形の立体(の全体や一部分)などを組み合わせ、望みの立体物の外形(3Dモデル)を形作る工程をモデリングという。
立体物の表現方式として最も一般的な「サーフェスモデル」では、空間上に定義した点と点を結ぶ線分を組み合わせて多角形(ポリゴン)を構成し、これを貼り合わせて立体を構成する。外から見える表面だけを整える「ハリボテ」のような構成法で、ゲームなどでは内部の質量などの情報が不要であるため多用される。
一方、3次元CADなどでは、このような直線的な図形に加えて、球や楕円体、円柱、円錐、特定の方程式で表される曲面などを組み合わせ、表面の一部が滑らかな曲面の立体を定義できるものもある。工業製品の設計やシミュレーションなどに用いるシステムでは、立体を中身の詰まった物体のように扱う「ソリッドモデル」が用いられることもある。
ER図 【Entity Relationship Diagram】 ⭐⭐⭐
情報システムの扱う対象を、実体、関連、属性の三要素でモデル化し、これを図示したもの。データベースの設計などでよく用いられる。属性を持つ実体を矩形で表し、実体間の関連を矢印で表す。
システムが取り扱う対象とする現実世界の要素を抽象化し、名詞として表すことができるものを「実体」(エンティティ)として矩形で表す。実体は必ずしも物理的な存在とは限らず、情報や行為などでも構わない。
実体間の関係性を表す要素は「関連」あるいは「関係」(リレーションシップ)と呼ばれ、動詞として表すことができるものが該当する。図中では菱形もしくは矩形の間を結ぶ線分として表記される。
実体と関連は共にその性質を表す「属性」(アトリビュート)を複数持つことができる。属性は楕円で表し実体や関連と線分で紐付ける記法と、実体の矩形の中に列挙する記法がある。
多重度
また、記法によっては関連に多重度(cardinality/カーディナリティ)を設定することができるものがある。二つの実体の関連が一対一、一対多、多対多といった対応関係になっていることを表す。
例えば、ER図の表記法の一つであるIE記法では、関連の末端部分に「○」(0を表す)「|」(1を表す)、鳥の足のような三股の枝分かれ(任意の複数を表す)の3つの記号の組み合わせで数を表記する。「|」のみならば「必ず一つ」、「○」と三股ならば「0を含む任意個」を表す。
記法の種類
ER図は1975年にマサチューセッツ工科大学(MIT)のピーター・チェン(Peter Chen)氏がERモデルと共に考案した。氏の提唱したオリジナルの記法は現在ではPeter Chen記法とも呼ばれる。
用途などに応じて微妙に表記法の異なる10以上の記法が考案され、様々な用途に使用されている。中でも有名なものとして、米国立標準技術研究所(NIST)が規格化したIDEF1x記法(IDEF:ICAM Definition Language)、ジェームズ・マーティン(James Martin)氏が考案したIE記法(IE:Information Engineering)がよく利用される。
DFD 【Data Flow Diagram】 ⭐⭐⭐
情報システムの設計などで作成される図の一つで、要素間のデータの流れを表した図。データがどこで発生し、どこからどこへ運ばれ、どこへ出力・保管されるのかを図示することができる。
システムが扱うデータの流れを整理するための図法で、対象となるシステムと利用者や外部のシステムなどのデータの流れを図示する場合と、システム内の構成要素(データストアやプロセスなど)間の流れを図示する場合がある。
データは発生源から様々な処理(プロセス)を経て出力先へ収まる。一つの図にあまり多くの要素を図示すべきではないとされ、。全体的で抽象的なレベルから作図し、段階的に詳細化した図を描いていくという手法が用いられることが多い。
DFDでは、データの保管や取り出しを行う「データストア」を平行な上下二本線で、データを処理するソフトウェアなどの「プロセス」を丸で、データの発生源や出力先である「外部実体」(ターミネータ)を長方形あるいは楕円で示す。これらの要素の間をデータの流れ(フロー)を表す矢印で結んでいく。
プロセスには入力と出力を表す「フロー」がそれぞれ一つ以上必要で、データストアや外部実体は入力または出力のいずれか一方のフローが必要となる。また、各フローの一方の端は必ずプロセスでなければならない。
BPMN 【Business Process Model and Notation】 ⭐
業務の手順や流れを体系的に図示する記法の標準の一つ。業務プロセスを構成する手順を視覚的なモデルとして表現することができ、プロセスの分析や設計、改善、共有などのために用いられる。
ある業務の開始から終了までの間に必要な手続きや生じるイベント、条件による流れの分岐や合流などを図に表すことができる。コンピュータプログラムの設計などで用いられるフローチャートに似ている。
表記法
BPMNでは、業務を構成する基本的な要素を、長方形で表される「アクティビティ」(人物やシステムが遂行する作業や活動)、丸で表される「イベント」(プロセス中に生じる出来事)、ひし形で表される「ゲートウェイ」(意思決定のタイミング)として表記する。
各要素の繋がりは「フロー」と呼ばれ、矢印や直線で表される。実線の矢印はアクティビティなどの順序を表す「シーケンスフロー」、破線の矢印は組織(プール)をまたいで伝達されるメッセージである「メッセージフロー」、点線は必要なデータや得られる出力物などを活動に関連付ける「関連」(association)である。
プロセスが誰によって、あるいはどの部門によって処理されるべきかを表すのが「プール」で、アクティビティやフローを長方形で囲って表現する。部門内を担当者やチームなどに分けたい場合は、プールを直線によって必要な数に分割する。これを「スイムレーン」という。
歴史
初版(BPMN 1.0)の仕様はBPMI(Business Process Management Initiative)という団体が2004年に発行した。同団体は2005年にOMG(Object Management Group)に吸収合併されている。2011年には第2版(BPMN 2.0)が策定され、これを元に国際標準化機構(ISO)と国際電気標準会議(IEC)による合同部会が2013年に標準規格「ISO/IEC 19510」を発行している。
BPR 【Business Process Re-engineering】 ⭐⭐
企業などで既存の業務の構造を抜本的に見直し、業務の流れを最適化する観点から再構築すること。事業や顧客にとって真に価値のある工程のみを残し、本質的には無駄な工程を排除することを主眼とする。
企業内の業務プロセスを、顧客に対する価値を生み出すための活動の積み重ねとして再設計し、それに合わせて職務や組織、業務手順、規則などを刷新する。組織内部の都合によって生じている本質的には無意味な業務や、歴史的経緯などにより重複している組織や業務は抜本的に取り除かれ、合理化、効率化が図られる。
現代の大企業などの組織は事業が高度に分業化され、部門ごとに部分最適に陥りがちである。顧客が求める価値や組織の目的に何ら貢献しない内部的な書類や作業が産み出され、惰性で放置され続けることで、事業の効率やスピードを毀損している。
業務改善などの手法は既存の組織や業務を前提に、その効率化や省力化、自動化などを企図するが、BPRの発想では、無価値な作業は効率化しても無価値であることに変わりはないため、組織や業務プロセス全体を再考して取り除く必要があると考える。
BPRを成功させるには、経営トップと組織全体のコミットメント、徹底的なビジネスニーズ分析と業務プロセスの練り込み、適切なITインフラの導入とITを前提とした業務設計、変革を妨げる組織文化や従業員の抵抗意識など「人」の要因に対する丁寧な対応、継続的な改善などが鍵となる。
BPRは1990年にマサチューセッツ工科大学(MIT)のマイケル・ハマー(Michael M. Hammer)教授が提唱し、1993年に同氏とジェームス・チャンピー(James A. Champy)氏の共著「リエンジニアリング革命: 企業を根本から変える業務革新」(原題『Reengineering the Corporation: A Manifesto for Business Revolution』)で注目を集めた。
BPM 【Business Process Management】 ⭐⭐⭐
企業などで業務の流れを把握・分析し、継続的に改善・最適化していくこと。また、専用の情報システムを用いてそのような改善活動を実施すること。
BPMではまず、対象となる業務の手順や流れを設計・定義し、専用の記述言語やモデリングソフトなどを用いて形式化・可視化する。続いて、設計したプロセスに従って実際に業務を運用し、実際に実施されたプロセスの統計情報を記録して効率などを把握する。
最後に、得られた情報を元に現状のプロセスの問題点や改善可能な点などを分析し、設計手順に戻り新たに定義するプロセスに反映させる。ソフトウェアによる統計分析やシミュレーションなどの機能が活用される。
BPMは「BPMツール」あるいは「BPMS」(BPM Software/BPM Suite)などと呼ばれる専用の支援ソフトウェアを用いて行われることが多い。業務手順をコンピュータ上のデータとして可視化するためのモデリング機能や、最適なプロセスを探るためのシミュレーション機能、既存の業務システムやソフトウェア間を接続してプロセスを自動化したり監視する機能などが提供される。
BPR(Business Process Reengineering)などの業務改革手法は以前からあったが、BPMではプロセスの把握・実施・再設計の循環(PDCAサイクル)を継続的に繰り返し、常に改善・最適化を進めていく点が特徴的である。
ワークフローシステム ⭐⭐
組織内の特定の業務の流れを情報化し、コンピュータシステムで状態の管理を行えるようにしたもの。主に書類の作成や回覧など情報の流れを扱う業務で導入される。
従来は主に紙の書類を担当者間や部署間で回覧したり、決済者が押印するなどして行っていた起票、申請、決裁、稟議などの手続きを情報システム上にソフトウェアの機能として再現し、電子的な手段で実施できるようにする。
システム上に業務を構成する手順を定義し、これに沿ってそれぞれの担当者が必要な情報の入力を行うと、各工程で適切な管理者への回覧や手続きの要求が行われ、承認が入力されると次のプロセスへ自動的に進行する。
各段階の決裁権者への問い合わせ業務が自動化されるため業務の迅速化が見込めるほか、各業務に関与すべき役職や部署および役割の明確化、進捗や現況の可視化、検索性や保存性の向上、記録保全による法令遵守や内部統制の強化、ペーパーレス化によるコスト削減や省資源化などが期待できる。
RPA 【Robotic Process Automation】 ⭐⭐⭐
人間がコンピュータを操作して行う作業を、ソフトウェアによる自動的な操作によって代替すること。主に企業などのデスクワークにおけるパソコンを使った業務の自動化・省力化を行うもので、業務の効率化や低コスト化を進めることができる。
業務などに伴うコンピュータ操作の自動化で、ソフトウェアが人間の代わりに人間向けに作られたソフトウェアやシステムを操作して作業を進める。システム側で自動化の仕組み(マクロやスクリプト、外部開放APIなど)が用意されていない場合や、複数のシステムをまたいだ作業なども、人間が操作可能であればそのまま自動化することができる。
従来の自動化手法のほとんどは自動化ソフトウェアの開発であり、ソフトウェア開発環境を導入してプログラミング言語を用いて人間の代わりに処理を行うプログラムを記述する。その場合、操作対象のソフトウェア側が外部からの要求を受け付けるための呼び出し規約(API)を提供している必要がある。
一方、RPAでは専用のツールを用いてコンピュータに作業手順を教えることができるようになっており、操作対象ソフトウェア側の対応は必要ない。ツールはプログラミングなどの知識がなくても使用でき、IT技術者・開発者が専従で携わらなくても現場の作業者のみで自動化を進めることができる。
RPAはオフィスで従業員がパソコンなどを操作して行っている業務のうち、複雑な条件判断や意志決定などの介在しない定形業務やルーチンワークに適用できる。データの入力や複製、形式の決まっている書類や帳票の作成、手順の決まっている作業や手続きなどである。
人間が操作するコンピュータシステムであれば軒並み導入可能であるため、業種や職種を問わず幅広く導入できる。専門の開発者に頼らず低コストに導入できることもあって2010年代半ば以降急速に普及している。
RPAツール
RPAを行うための専用のソフトウェアを「RPAツール」「RPAソフトウェア」などという。自動化の対象となる一般的なWindowsパソコンなどで動作する。
そのコンピュータで動作するソフトウェアの操作を自動化するが、Webブラウザを通じてクラウドシステムを利用しているような場合には、ブラウザの操作を自動化することによってクラウドシステムの処理を自動化することができる。
RPAツールはグラフィック表示や位置指定などを多用するGUIを操作体系の基本としており、技術者でなくても画面の案内に従って操作できるようになっている。作業手順は自動化の対象となるソフトウェアを起動して人間が実際に操作して見せ、これをRPAツール側が記録する。
記録した手順を「再生」すれば、同じ作業が画面上で自動的に繰り返される。記録された作業手順はフローチャートなどの図や表にまとめて表示され、確認や修正を行うことができる場合もある。こうした手順はアプリケーションの操作を自動化する「マクロ」に類似しており、様々なアプリケーションにマクロ機能を追加するツールと見ることもできる。
グループウェア ⭐⭐⭐
組織や集団の内部で情報共有やコミュニケーション、共同作業などを行うことができるソフトウェア。ネットワークを通じて一つのシステムに集団内の情報を集約し、連携して働けるようにする。
企業などの部署内で所属メンバーが効率的に連携して働くことができるように設計されたシステムで、複数の機能を組み合わせたものが一般的である。どのような機能があるかは製品などにより異なるが、
- 電子メールやチャット、メッセンジャーなどのコミュニケーション機能
- 離れた場所にいるメンバー同士が動画や音声で話し合うことができるビデオ会議やWeb会議
- 特定のテーマや対象について情報を交換したり話し合う電子掲示板(BBS)
- 業務に関連する文書ファイルなどを共有できるファイル共有(ドキュメント共有/ライブラリ)
- メンバー間で日程の告知や調整を行うスケジュール管理
- 決済や作業の進行状況を管理するワークフローシステム
- メンバー間やチーム間で社内の設備利用の調整ができる会議室予約
- 計画の進捗などを管理するプロジェクト管理システム
などを備えていることが多い。
クライアントサーバ型のシステムが一般的で、サーバが情報の管理やメッセージの交換などの機能を提供し、参加者は手元の端末に導入したクライアントからサーバにアクセスして機能を利用する。近年ではクライアントにWebブラウザを利用するシステムも一般的となり、端末や場所を選ばずどこからでも利用できる。
オフィスソフト 【オフィススイート】
ワープロソフトや表計算ソフトなど、主にオフィスで利用されるアプリケーションソフトを一つにまとめたパッケージのこと。個々のソフトウェアはそれぞれ単体でも提供され、個別に導入して利用することもできることが多い。
どのようなソフトウェアが含まれるかは製品やバージョンによって異なるが、最も典型的な構成はワープロソフト、表計算ソフト、プレゼンテーションソフトの3つで、これに作図ソフトやデータベースソフト、フォトレタッチソフト、メールソフト、グループウェアクライアント、DTPソフト、Web制作ソフト、メモソフト、工程管理ソフト、データ共有ソフトなどが含まれる場合がある。
1980年代からパソコン向けの人気ソフトウェア製品であり、パソコン本体にバンドル販売されることも多い。その名に反して家庭においても広く利用されている。
マイクロソフト(Microsoft)社の「Microsoft Office」(マイクロソフト・オフィス)シリーズは同社の看板商品の一つとして世界的に広く普及しており、他社製品の多くは同社ソフトのファイル形式と互換性を持たせている。
2000年代にはApache OpenOffice(旧OpenOffice.org)などのオープンソースソフトウェアや、GoogleドキュメントなどのWebアプリケーション型(SaaS/クラウド型)のソフトウェアなども登場し、選択肢が多様化している。
BYOD 【Bring Your Own Device】 ⭐⭐
企業などで従業員が私物の情報端末などを持ち込んで業務で利用すること。私物のスマートフォンを使って出先で社用のメールアドレスのメッセージを確認するといった行為が該当する。
私用のスマートフォンやタブレット端末、ノートパソコンなどに業務で利用するソフトウェアの導入や設定を行い、外出先から社内システムにアクセスして業務に必要な情報の閲覧や入力を行うことを意味する。パーティーなどで「飲み物は各自持ち寄り」を意味する “BYOB”(Bring Your Own Booze/Bottle)という英語表現をもじった表現である。
これまで業務で利用する情報機器は会社側が一括で調達して支給するのが一般的だったが、BYODを導入することで企業側は端末購入費や通信費の一部などのコストを削減することができる。従業員側は同種の機器を私物と支給品で「2台持ち」する必要がなくなり、普段から使い慣れた端末で仕事ができる。
かかった経費が従業員の持ち出しになってしまわないように、通信事業者の公私分計サービスで費用を分担したり、通信料金の一部を会社が補助するといった運用が行われることが多い。
会社が支給する端末と異なり、端末の設定や導入するソフトウェアの種類などを会社側が完全にコントロールするのは難しいため、情報漏洩やマルウェア感染などへの対策や、紛失・盗難時の対応などが複雑になることが多い。
また、業務中に利用できる機能やアクセスできるサイトを制限するといった対応も難しくなる。本来私用の端末であるため、通信履歴や保存したデータなどをどこまで会社側が取得・把握するかといったプライバシーとの両立の問題もある。
機器に限らず、個人で購入したソフトウェア製品や個人契約のネットサービスなど、個人に属する様々なIT資産を業務に持ち込んで使用することを総称して「BYOX」(Bring Your Own X)あるいは「BYO」という。
COPE (Corporate Owned, Personally Enabled)
企業などが従業員に支給した情報端末などで、一定の条件や制限のもと私的な利用を許可することを「COPE」(Corporate Owned, Personally Enabled)という。
BYODとちょうど逆の方式で、機器は組織に属するが、これを所持・利用する従業員の個人的な使用を一定の範囲で認める。端末について何種類かの選択肢を提示し、従業員が希望する製品を選べる方式は「CYOD」(Choose Your Own Device)という。
企業にとっては端末の購入代金などはかさむが、端末の種類を揃えることで導入・運用のコストを抑えたり、共通のソフトウェア運用やセキュリティ設定によりリスクを軽減することができる。従業員にとっては、私的利用に制限はあるものの、自己負担なく一台の端末を仕事とプライベートの両方で利用することができる。
IoT 【Internet of Things】 ⭐⭐⭐
コンピュータなどの情報・通信機器だけでなく、世の中に存在する様々な物体(モノ)に通信機能を持たせ、インターネットに接続したり相互に通信することにより、自動認識や自動制御、遠隔計測などを行うこと。
自動車の位置情報をリアルタイムに集約して渋滞情報を配信するシステムや、人間の検針員に代わって電力メーターが電力会社と通信して電力使用量を申告するスマートメーター、大型の機械などにセンサーと通信機能を内蔵して稼働状況や故障箇所、交換が必要な部品などを製造元がリアルタイムに把握できるシステムなどが考案されている。
これまでの情報システムとの違いとして、個々の機器の取り扱うデータ量や処理量、通信量は少ないが機器の数が桁違いに膨大であることや、従来のコンピュータ製品が人の周りや特定の場所(建物や部屋)に集中しているのに対しIoT機器は世の中の様々な場所に分散して配置される点などがある。
こうした特徴を反映し、低コストで生産でき低消費電力で稼働するICチップや、多数の機器からデータを集約して解析したり、同時に多数の機器を制御するソフトウェア技術、低消費電力で遠距離通信が可能な無線技術、環境中から微小なエネルギーを取り出す技術(エナジーハーベスティング)などの研究・開発が進められている。
LPWA (Low Power Wide Area)
IoTに必須の要素として、装置の消費電力が少なく、多数の機器を一つのネットワークに収容できる広域的な無線通信技術があり、これを「LPWA」(Low Power Wide Area)と総称する。そのような通信方式で構築されたネットワークは「LPWAN」(Low Power Wide Area Network)とも呼ばれる。
IoTを実現するには、携帯電話網など従来からある広域無線技術に比べ、十~数十kmといった遠距離や広い範囲をカバーでき、乾電池などの乏しい電源でも数か月から数年は稼働できることが求められる。一方、人間がスマートフォンなどの通信機器に求めるような高速なデータ伝送能力は必ずしも必要なく、数十~数百kbps(キロビット毎秒)程度あれば実用に供することができる。
このような特性を備えた新しい通信方式をLPWAと呼び、具体的な規格として「Sigfox」「LoRa」「Wi-Fi HaLow」「Wi-SUN」「LTE-M」「NB-IoT」「RPMA」などの方式が提唱されている。
M2M/センサネットワークとの違い
以前から、機器同士を直接繋いで自律的にシステムを運用する「M2M」(Machine to Machine)や、通信可能なセンサーを分散配置して高度な監視や制御を可能にする「センサネットワーク」(WSN:Wireless Sensor Network)などの概念が存在し、これらはかなりの部分がIoTと重複している。
ただし、IoTはインターネットへの接続を前提とするのに対し、これらの技術は閉じた専用ネットワークや独自プロトコル(通信規約)での運用を想定している場合が多い。また、M2Mやセンサネットワークは特定の目的のために機械同士が情報のやり取りすることで処理が完結する仕組みであることが多いのに対し、IoTは接続された機器と人や外部の情報システムとの相互関係がより重視される傾向がある。
IoE (Internet of Everything)
「ありとあらゆるものが接続されたインターネット」という意味で、モノのインターネットと、人やデータ、情報、ソフトウェアなどが中心の従来からあるインターネットが統合された姿を指す。
とはいえ、従来のインターネットとの違いは多数のモノが接続されている点であるため、実際上はIoTとほぼ同義として用いられることが多い。主に米シスコシステムズ(Cisco Systems)社が提唱している用語である。
M2M 【Machine to Machine】 ⭐
機械と機械が通信ネットワークを介して互いに情報をやり取りすることにより、自律的に高度な制御や動作を行うこと。工場の自動化や電力網の効率化などに応用されている。
コンピュータや通信装置などの情報機器以外の機械に、センサーや処理装置、通信装置などを組み込んで、データ収集や遠隔監視・制御、自動制御、自律的な機器間の連携などを行う仕組みを意味する。
具体例として、工場内での工作機械の集中制御や、自動販売機の在庫状況の遠隔監視、様々な建物に設置されたエレベーターの稼働状況の監視、実際の自動車の走行状況を集約したリアルタイムの渋滞情報、電力網を構成する施設や設備を結んで細かな電力使用量の監視や供給制御を行なうスマートグリッドなどが挙げられる。
無線機能を内蔵した小型のセンサー装置を分散して設置し、それら協調して動作させることで施設や設備の監視・制御や、環境や空間の観測などを行なう通信網は「センサネットワーク」(sensor network)とも呼ばれる。
IoTとの違い
似た概念として、機械をはじめとする様々なモノに通信装置を組み込み、インターネットを通じて相互に、あるいは外部のシステムなどに接続して情報の伝達や監視・制御などを行う仕組みをIoT(Internet of Things)という。
IoTが通信基盤としてインターネットの利用や接続を前提とする一方、M2MはインターネットやTCP/IPネットワークに限らず独自仕様の有線・無線ネットワークを基盤とする場合があり、また、運用組織内で完結した閉域網とすることもある。
また、IoTは機器だけでなくクラウドシステムや人間など外部の主体との連携を重視するが、M2Mはネットワークに参加する機器相互の接続や連携に主眼を置くという違いもある。
ともあれ、IoTとM2Mがそこまで厳密に定義付けられて区別されているわけでもなく、「IoT/M2M」のような総称的な表記が用いられたり、同じ技術や製品でも文脈や開発元の意図などを反映して場面に応じて両者を使い分けるといった事例も見られる。
テレワーク 【リモートワーク】 ⭐⭐
コンピュータや通信回線などを利用して、勤務先のオフィス以外の場所で仕事をすること。広義には、出勤すべき決まった事業所がなく常に自宅や外出先で仕事をすることを含む。
企業などの従業員についてテレワークという場合は、出勤すべき事務所などの施設とは異なる場所で働くことを指す。自宅で働く「在宅勤務」、外出先や移動中に働く「モバイルワーク」、小規模な出先施設(サテライトオフィス)に出勤する「サテライト勤務」などの類型がある。自営業者(個人事業主)などについては、決まったオフィスなどを持たずに自宅や外出先などで働くことをテレワークということが多い。英語では “telecommuting” (テレコミューティング)と呼ぶのが一般的。
場所に縛られず働けるようにすることで、育児や介護など様々な事情を抱える従業員が自分に合った柔軟な働き方を選択できる。企業側でもオフィスの規模を縮小したり統廃合するなどしてコストを節減することができる。遠隔でも業務が可能な環境を整えることで出張や転勤を減らす効果が見込める場合もある。
社会的にも、大都市都心部の人口過密や交通混雑の緩和、働き方の多様化による多様な人の社会参加、労働力化の促進などが期待される。パソコンやスマートフォンなどの高性能化、インターネットや高速な通信回線の普及により、技術的には以前よりもテレワークを実現しやすい環境が整っている。
一方、管理職による仕事の割り振りや進捗管理、適正な人事評価が対面の場合より難しい点や、技術が進んだとはいえ同じ空間にいるのと同じ密度で連携やコミュニケーションを取ることは困難なことなどが長年に渡って未解決の課題となっており、全面的にテレワークに切り替える事例は少数に留まる。
テレビ会議 【ビデオ会議】
遠隔地にいる複数の人がリアルタイムに映像を伴う通話を行うことができるシステムやサービス。また、そのようなシステムを利用してオンラインで開催される会合。会議や講義、講演、社交などに広く利用されている。
カメラやマイクのあるコンピュータを用いて、それぞれ離れた別の場所にいる人達の間で映像と音声による通話を行うことができる。2人(2箇所)の間を繋ぐ「テレビ電話」(ビデオ電話)とは異なり、3人(3箇所)以上を同時に繋ぐことができる。2箇所を繋いでテレビ電話として使うこともできる。
画面上には自分の姿と共に、他の参加者の姿が映し出され、音声も各箇所のものが合成されて流れる。参加者が増えても一定の通話品質を保てるよう、端末同士を相互に相対接続するのではなく、サービス提供元のサーバで参加者から送られてくる映像や音声を統合して各端末に配信する方式のものが多い。
テレビ会議のシステムを基盤に、資料やデータを共有して共同作業を行ったり、操作画面を共有したり、文字メッセージを交換するチャットを行う機能などを統合したものは「Web会議」という。会議だけでなく離れた場所にいるメンバー同士が共同で作業や業務を進めることができる。
テレビ会議やWeb会議の仕組みは以前から存在したが、新型コロナウイルス感染症の突然の大流行で外出が大きく制限されたことをきっかけに2020年から一気に普及・浸透が進んだ。仕事上の会議や打ち合わせ、商談だけでなく「オンライン飲み会」など社交の場としても活用された。
著名な製品およびサービスとしては、米ズーム・ビデオコミュニケーションズ(Zoom Video Communications)社の「Zoom Meetings」、米マイクロソフト(Microsoft)社の「Microsoft Teams」および「Skype for Business」、米シスコシステムズ(Cisco Systems)社の「Cisco Webex」、米グーグル(Google)社の「Google Meet」(旧Hangouts Meet)などがある。これらの製品はいずれも仕事で使えるようにWeb会議の機能を備えている。
Web会議 【Web conferencing】
Webブラウザで利用できるアプリケーションおよびネットサービスの一種で、離れた場所にいる人同士が資料やデータを共有して共同作業を行ったり、音声や動画をリアルタイムに交換して会議を開くことができるもの。
それぞれ離れた別の場所にいる人たちの間で文書などのファイルやソフトウェアの操作画面を共有し、共同で資料の編集などを進めることができる。カメラやマイクのあるコンピュータを使えば簡易なテレビ会議/ビデオ会議を開催することができる。
専用のテレビ会議システムなどに比べ音声や動画の品質では劣るが、専用の部屋や機材、回線が不要なため低コストで導入できる。WebブラウザやHTTPなどWeb関連のソフトウェアや技術の組み合わせで構築されているため導入や運用も容易である。パソコンやスマートフォン、タブレット端末など様々な端末に対応している製品も多い。
著名な製品およびサービスとしては、米ズーム・ビデオコミュニケーションズ(Zoom Video Communications)社の「Zoom Meetings」、米マイクロソフト(Microsoft)社の「Microsoft Teams」および「Skype for Business」、米シスコシステムズ(Cisco Systems)社の「Cisco Webex」、米グーグル(Google)社の「Google Meet」(旧Hangouts Meet)などがある。
電子メール 【eメール】 ⭐⭐⭐
通信ネットワークを介してコンピュータなどの機器の間で文字を中心とするメッセージを送受信するシステム。郵便に似た仕組みを電子的な手段で実現したものであることからこのように呼ばれる。
広義には、電子的な手段でメッセージを交換するシステムやサービス、ソフトウェア全般を指し、携帯電話のSMSや、各種のネットサービスやアプリ内で提供される利用者間のメッセージ交換機能などを含む。
狭義には、SMTPやPOP3、IMAP4、MIMEなどインターネット標準の様々なプロトコル(通信規約)やデータ形式を組み合わせて構築されたメッセージ交換システムを指し、現代では単に電子メールといえば一般にこちらを表すことが多い。
メールアドレス
電子メールの送信元や宛先は住所や氏名の代わりに「メールアドレス」(email address)と呼ばれる統一された書式の文字列が用いられる。これは「JohnDoe@example.com」のように「アカウント名@ドメイン名」の形式で表され、ドメイン名の部分が利用者が所属・加入している組織の管理するネットワークの識別名を表し、アカウント名がその中での個人の識別名となる。
企業や行政機関、大学などがメールサーバを運用して所属者にメールアドレスを発行しているほか、インターネットサービスプロバイダ(ISP)や携帯電話事業者などがインターネット接続サービスの一環として加入者にメールアドレスを発行している。
また、ネットサービス事業者などが誰でも自由に無料でメールアドレスを取得して利用できる「フリーメール」(free email)サービスを提供している。一人の人物が立場ごとに複数のアドレスを使い分けたり、企業の代表アドレスのように特定の個人に紐付けられず組織や集団などで共有されるアドレスもある。
メールサーバとメールクライアント
インターネットに接続されたネットワークには「メールサーバ」(mail server)と呼ばれるコンピュータが設置され、利用者からの要請により外部のネットワークに向けてメールを送信したり、外部から利用者に宛てて送られてきたメールを受信し、本人の使うコンピュータに送り届ける。利用者や他のサーバに対する窓口であり、郵便制度における郵便局のような役割を果たす。
メールサーバ内には利用者ごとに私書箱に相当する受信メールの保管領域(メールボックス)が用意され、外部から着信したメールを一時的に保管する。利用者が手元で操作するメールソフト(メールクライアント、メーラーなどと呼ばれる)は通信回線を介してメールサーバに問い合わせ、メールボックス内のメールを受信して画面に表示する。
Webメール
利用者の操作画面をWebアプリケーションとして実装し、Webブラウザからアクセスしてメールの作成や送信、受信、閲覧、添付ファイルのダウンロードなどをできるようにしたシステムを「Webメール」(webmail)という。
フリーメールサービスの多くは標準の操作画面をWebメールの形で提供しており、メールクライアントなどを導入・設定しなくてもWebブラウザのみでメールの送受信を行うことができるようになっている。企業などの組織で運用されるメールシステムでもWebメールを提供する場合があり、自宅や出先のコンピュータなどからアクセスできるようになっている。
メッセージの形式
電子メールには原則として文字(テキスト)データのみを記載することができる。特別な記法や書式を用いずに素の状態の文字データのみが記されたメールを「テキストメール」という。WebページのようにHTMLやCSSなどの言語を用いて書式や装飾、レイアウトなどの指定が埋め込まれたものは「HTMLメール」という。
また、画像や音声、動画、データファイル、プログラムファイルなどテキスト形式ではないデータ(バイナリデータ)を一定の手順でテキストデータに変換して文字メッセージと一緒に送ることができる。こうしたデータをメッセージ中に埋め込む方式の標準として「MIME」(Multipurpose Internet Mail Extension/マイム)が規定されており、これを利用してメールに埋め込んだファイルを「添付ファイル」(attachment file)という。
電子メールの普及と応用
電子メールはWeb(WWW)と共にインターネットの主要な応用サービスとして広く普及し、情報機器間でメッセージを伝達する社会インフラとして機能している。現在ではパソコンやスマートフォン、タブレット端末などのオペレーティングシステム(OS)の多くは標準でメールクライアントを内蔵しており、誰でもすぐに利用できるようになっている。
電子メールシステムでは一通のメールを複数の宛先へ同時に送信する同報送信・一斉配信も容易なため、グループ共通のアドレスを用意してメンバー間の連絡や議論などに用いる「メーリングリスト」(mailing list)や、発行者が購読者に定期的にメールで情報を届ける「メールマガジン」(mail magazine)などの応用システムも活発に利用されている。
一方、広告メールを多数のメールアドレスに宛て無差別に送信する「スパムメール」(spam mail)や、添付ファイルの仕組みをコンピュータウイルスの感染経路に悪用する「ウイルスメール」(virus mail)、送信元を偽って受信者を騙し秘密の情報を詐取する「フィッシング」(phishing)など、電子メールを悪用した迷惑行為や犯罪なども起きており、社会問題ともなっている。
BBS 【Bulletin Board System】
ネットワーク上で運用されるシステムの一つで、閲覧者が文字メッセージなどを書き込んだり、他の閲覧者の投稿を読むことができるシステム。現代ではWebサイト上で構築・運用されることが多い。
主な機能
Web上の掲示板は、Webサイトに動的に実行可能なプログラム(スクリプト)を設置し、訪問者がこれを起動して記事の投稿や表示を行う。単純なテキスト(文字)のみが投稿可能なものと、画像ファイルなどを添付できるもの、アバターやアイコン、顔文字、絵文字、文字飾りなどが利用できるものなどの種類がある。
投稿の一覧は新しいものから順に時系列に表示されることが多いが、記事間に参照関係を設定して、互いに関連する記事同士をまとめて表示できるようにしたものもある。一つの掲示板の中に作成された複数の投稿の流れを「スレッド」(thread)、「トピック」(topic)などという。
各投稿には投稿者名やタイトル、本文、投稿日時などが表示され、これに加えて投稿者のIPアドレスやホスト名などが表示されたり、投稿者のなりすましを防ぐ固有の符号などが表示されることもある。簡易なシステムではタイトル欄がなく本文のみの場合もある。
実名と匿名
企業内の情報システムやイントラネット上のWebサイトなどに構築されたものはアクセス可能な参加者が限られており、身分や氏名を明かして連絡や情報交換などが行われる。一方、インターネット上に開設する場合はパスワードなどでアクセス制限などを設けて同じように特定の集団内で利用する場合と、誰でも投稿や閲覧が可能なオープンな形で運営される場合がある。
オープンな掲示板ではプライバシー保護などのため実名を名乗らず、代わりに投稿者が自分で決めたあだ名のような名前を名乗ることが多く、これを「ハンドル」(handle)あるいはハンドルネームなどという。ハンドルを設定する必要がなく、また、実際にほとんどの投稿者が特定のハンドルを名乗らず「名無し」状態で投稿するのが慣習となっている掲示板サイトもあり、「匿名掲示板」と呼ばれる。
歴史
電子掲示板はインターネットの一般への本格的な普及が始まる以前の1980年代から、パソコン通信の主要な機能として一部の人々の間で利用されていた。掲示板以外の電子メールやチャット、ファイルライブラリなどの機能を含め、「草の根BBS」などのようにパソコン通信サービス自体のことを「BBS」と呼ぶこともあった。
ブログ ⭐⭐⭐
投稿された記事を時系列に表示する日記的なWebサイトの総称。もとは個人や数人のグループが私的に運営するものが主だったが、現在では企業などの組織が事業や業務の一環として運営するものも多く見られる。
個人の私的な行動記録や身辺雑記などの日記的な内容を掲載する場合と、自らの社会的地位や専門分野などに根ざして時事の事柄などについてコメントしたり分析したりする内容を掲載する場合がある。
企業や公的機関などが情報の告知手段として利用することもあり(公式ブログ)、その場合はその機関が広く周知したい情報や公式見解などが掲載内容となる。「ブログ」という名称は “web” と “log” (日誌)を一語に綴った“weblog” (ウェブログ)を略したもので、運営者のことは「ブロガー」(blogger)という。
主な機能
開設・運営は専門のソフトウェアやネットサービス(ブログサービス)によって行なうことが多い。記事を執筆・編集・投稿するための機能や、投稿された文章や画像などを雛形(テンプレート)に流し込んでWebページとして生成・公開する機能、時系列や分類ごとに記事一覧を自動生成する機能、記事に一意の永続的なURL(パーマリンク)を割り当てる機能などを提供する。
また、多くのブログには読者が記事にコメントを投稿して掲載できる掲示板的な機能が用意されており、読者との対話や読者間の交流が可能となっている。別のブログの関連記事へリンクして相手の記事に自分の記事への逆リンクを掲載する「トラックバック」(trackback)という機能もあり、興味や話題ごとに著者同士や著者と読者によるコミュニティが形成されている。
主な内容
芸能人や著名人のブログは従来の日記のように個人の行動の記録や仕事に関する告知や宣伝、日々感じたことなどが掲載されることが多いが、無名の一般人が時事問題や専門的な話題に関して独自の情報や分析、議論などを掲載するブログもある。トラックバックなどの機能を利用してブログ間で特定の話題で議論や論争が生じることもある。
また、身の回りで見つけた珍しい物や、自身や周囲に起こった珍しいできごと、体験談を紹介するといった記事も多い。大きな事件や事故が起こった際に、地元の人や関係者、目撃者などが自分のブログに知っている情報を掲載することで、メディアを介さずに「生の」情報が流通するという事例も見られる。
派生システム
携帯電話などから利用するものを「モブログ」(moblog/mobile blog)、主に写真などの画像を投稿するものを「フォトログ」(photo blog)、主に動画を投稿するものを「ブイログ」(vlog/videolog)などと呼ぶこともあったが、現在ではこうした細かい区分はほとんど用いられていない。
また、X(旧Twitter)のように数十文字から百数十文字程度の短い文章を頻繁に投稿するスタイルのサービスを「ミニブログ」あるいは「マイクロブログ」(microblog)と呼んでいたが、こうしたサービスは現在ではSNSの一種に分類されるようになっている。
チャット
雑談(する)、おしゃべり(する)などの意味を持つ英単語で、コンピュータネットワークを通じてリアルタイムにメッセージのやり取りをするシステムのこと。通常は文字による会話を行う「テキストチャット」のことを単にチャットという。
ある程度まとまった内容を非同期にやり取りする電子メールや電子掲示板(BBS)などとは異なり、電話や相対で会話するように短い文章をリアルタイムにやり取りしてコミュニケーションを行うシステムやサービス指す。
主に文字によるやり取りを行うものをテキストチャット、音声通話を行うものをボイスチャット、ビデオ通話を行うものをビデオチャットという。単にチャットという場合は文字ベースのものを指すことが多いが、複数の方式に対応し選択できるシステムも増えている。
メッセンジャーとの違い
一般的なチャットシステムはインターネット上に設けられた仮想的な会議室であるチャットルームに参加者が集まり、主に三人以上の集団でメッセージ交換する。主に二者間の連絡や対話のために用いられるものはメッセンジャー(インスタントメッセージング)と呼ばれ、チャットの一種とする場合と、チャットとは異なるシステムに分類する場合がある。
近年では、チャットシステムにチャットルームの別の参加者と二人で話す秘話機能(ダイレクトメッセージ)が設けられたり、メッセンジャーに三人以上で会話するグループチャット機能が設けられるようになり、両者の区別は曖昧になっている。
主な機能
チャットルームにログインすると、参加者の発言が発言者名、発言内容、発言時刻などとともに流れてくる。掲示板などと異なり、誰かが発言すると他の参加者の画面に即座に反映され、リアルタイムにやり取りが行われる。
顔文字や絵文字を付け加えたり、発言が吹き出し型の図形に括られたり、それぞれの参加者が選んだ代理キャラクター(アバター)が発言者名と一緒に表示されるといった工夫を凝らしたサービスもある。
インターネット上のチャットルームは誰でも入れるオープンなものと、パスワードなどでアクセスが制限され、限られた顔見知りの仲間だけで利用するものがある。オープンな場では発言者名にハンドル(あだ名)を用いるのが慣習となっている。
SNS 【Social Networking Service】 ⭐⭐⭐
人と人との社会的な繋がりを維持・促進する様々な機能を提供する、会員制のオンラインサービス。友人・知人間のコミュニケーションを円滑にする手段や場を提供したり、趣味や嗜好、居住地域、出身校、あるいは「友人の友人」といった共通点や繋がりを通じて新たな人間関係を構築する場を提供するサービスで、Webサイトや専用のスマートフォンアプリなどで閲覧・利用することができる。
主な特徴
サービスにより機能や特徴が大きく異なるが、多くのサービスに見られる典型的な機能としては、別の会員を「友人」や「購読者」「被購読者」などに登録する機能、自分のプロフィールや写真を公開する機能、同じサービス上の別の会員にメッセージを送る機能、自らのスペースに文章や写真、動画などを投稿して友人などに見せる機能がある。
サービスによっては、複数の会員でメッセージ交換や情報共有ができるコミュニティ機能、イベントの予定や友人の誕生日などを共有したり当日に知らせたりしてくれるカレンダーあるいはスケジュール機能などがある。
多くの商用サービスではサイト内に広告を掲載するなどして、登録や基本的なサービスの利用を無料としているが、一部の機能を有料で提供しているサービスもある。
SNSの種類
多くのサービスはメールアドレスなどがあれば誰でも登録できるが、普及し始めた当初は人の繋がりを重視して「既存の参加者からの招待がないと参加できない」というシステムになっているサービスが多かった。
現在でも、何らかの形で参加資格を限定し、登録時に紹介や審査などが必要なサービスがある。また、参加自体が自由でも、テーマや分野などがあらかじめ設定され、関係や関心のある人の参加を募っているサービスなどもある。
企業などが従業員を対象に運用する「社内SNS」や、大学が教職員や在学生、卒業生を対象に運用する「学内SNS」もあり、業務上の連絡や情報共有に使われたり、業務とは切り離して参加者間の交流の促進のために利用されたりする。「OpenPNE」や「Mastodon」など自らSNSを開設・運用することができるサーバ向けソフトウェアもあり、これを利用したプライベートな集団内のサービスも存在する。
歴史と著名なサービス
2003年頃アメリカを中心に相次いで誕生し、国内事業者によるサービスも2004年頃から普及し始めた。世界的には、初期に登録資格を有名大の学生に絞って人気を博し、後に世界最大のソーシャルネットワークに成長した「Facebook」(フェイスブック)や、短いつぶやきを投稿・共有するマイクロブログ型の「Twitter」(ツイッター:現X)、写真の投稿・共有を中心とする「Instagram」(インスタグラム)、ビジネス・職業上の繋がりに絞った「LinkedIn」(リンクトイン)などが有名である。
日本独自のサービスとしては一時会員数1000万人を超え社会現象ともなった「mixi」(ミクシィ)などが有名だが、近年ではFacebookなど海外事業者に押され利用が低迷しており、オンラインゲーム運営・提供に業態転換するなどしている。
SNS的なサービスの広がり
近年では様々なWebサイトやネットサービス、スマートフォンアプリなどに「ソーシャルな」機能が組み込まれる事例が増えており、何がSNSで何がそうでないか明確に区別することは難しくなりつつある。
例えば、料理レシピ投稿サイトの「クックパッド」(Cookpad)や、スマートフォン利用者間でチャットや音声通話などを提供する「LINE」(ライン)などにも、集団の形成を支援するコミュニティ機能や日記の投稿・共有機能などがあり、これらのサービスをSNSの一種に含める場合もある。
SNSの功罪
SNSによって、一度繋がりの途絶えた古い友人と交流を再開したり、現実に頻繁に会うことは難しい多人数と日常的な繋がりを保ったり、身の回りに同好の士がいなくてもSNSで発見してコミュニティを形成できるなど、SNSのおかげで人間関係が充実した利用者は数多くいる。
一方で、不用意に個人情報や顔写真などを公開してしまい悪意に晒されたり、素性のよくわからない人と交流を持ちトラブルに巻き込まれたり、自分の周囲では特に問題視されなかった話がネット上で拡散されるうちに非難の書き込みが殺到してしまう(「炎上」と呼ばれる現象)など、SNSによって新たに引き起こされる問題もある。
また、SNSが様々な人の間に普及し、継続して利用する期間が長くなるに連れ、上司や家族など「望まれざる」相手とのSNS上での関係や対応に苦慮したり、知り合いの(大抵は良いことしか書かれていない)書き込みを読んで自分の身上と比較してしまったり、興味が湧かない話題でも毎回反応を迫られているように感じて精神的に疲弊する「SNS疲れ」といった問題に直面し、SNSの利用を断って離れる人も増えている。
シェアリングエコノミー ⭐⭐
インターネットを介して個人間で財産の貸し借りや共有、能力の提供などが容易になることで創出される新たな経済。狭義には個人間の財やサービスのやり取りを仲介するビジネスを指し、広義には(個人所有せず共同利用するという意味で)事業者の用意した物品などを貸与するビジネスも含まれる。
従来、個人間でのモノやサービスの融通は知り合いなどの狭い範囲で行われてきたが、インターネットの普及により低コストで不特定多数に呼びかけることができるようになり、金銭を介する経済活動として成立するようになってきた。
ネット上には分野や対象ごとに様々な仲介業者が存在し、個人の持つ物品や不動産、遊休時間、専門的な能力などを、それを必要とする他の個人に有償で販売、貸与、提供する橋渡し(マッチングサービス)をしている。
提供者は今までは遊ばせておくしかなかった資産を有効活用して副業的な報酬を得ることができ、利用者は固定的な所有(購入)や契約を行わなくても必要な時に必要なだけスポット利用できる利点がある。
やり取りする対象により、物品の売買や貸与など「モノ」のシェア、駐車場や会議室、空き部屋(民泊)などを貸し出す「空間」のシェア、人の移動や物品の配達、移動手段など「移動」のシェア、家事や育児、料理など「スキル」のシェア、少額の貸し借りや投資、寄付など「お金」のシェアに分類される。
個人間のやり取りでは信用や品質の担保が大きな課題で、不心得な提供者あるいは利用者によるトラブルがたびたび報告されており、仲介事業者側では利用者によるレビュー(評価)制度などの対策を講じている。また、日本では対価を取って客を自動車で輸送する行為は道路運送法の、所有施設に宿泊させる行為は旅館業法の規制対象となっており、既存の法律や規制などとの整合性を取ることも重要となる。
パブリックドメインソフトウェア 【PDS】 ⭐
開発者が著作権の放棄を宣言したソフトウェアのこと。誰でも自由に利用や改変、再配布が可能で、元の開発者はソフトウェアの取り扱いについて関与することができない。
コンピュータプログラムは法律上は著作物とみなされ、開発者はその著作権を保有する。PDSは著作権が消滅した状態のプログラムで、開発者が放棄を宣言した場合、著作権保護期間が満了した場合、政府機関による開発など法の規定により著作権が発生しない場合などが該当する。
PDSは誰でも自由に入手して使用することができ、ソースコードにより配布されている場合には改変や他機種への移植、自作ソフトウェアへの組み込みなどの制約なく行うことができる。複製や再配布、販売も自由である。放棄された著作権が復活することはないため、原著作者や他の主体が自らの著作物として再び著作権の保護を求めることはできない。
無料で入手・使用できる点はフリーソフトウェアと共通するが、フリーソフトウェアの著作権は放棄されておらず、改変や再配布などが許諾されているとは限らない。オープンソースソフトウェアとも似ているが、こちらも著作権は放棄されておらず、再配布時などに著作者やライセンスの表示を求めたり、自作プログラムへの組み込みに条件を課したりする場合がある。
ソリューション
解答、解決策、解決、解法、溶解、溶液などの意味を持つ英単語。IT業界では、顧客の抱える問題・課題を解決したり、要望・要求を満たすことができる製品やサービス、あるいはそれらの組み合わせのことをこのように呼ぶ。
企業などの事業者が顧客に販売・提供するものは(サービスなども含めた広い意味で)製品だが、そもそも顧客が求めているものは製品自体ではなく、課題を解決する手段であるという考え方から、顧客に合わせた製品の開発や調整、業務への効果的な活用法の提案などの側面を含む製品提供をソリューションと呼ぶようになった。
より狭義には、企業や官公庁などの組織が業務に導入する情報システム(コンピュータシステム/ITシステム)のことを指す。中でも、顧客の課題や要求、現況に合わせて既存の製品を組み合わせたり、ソフトウェアなどを新たに開発するといった個別対応によって提供されるものを意味することが多い。
そのようなシステムを販売したり開発を請け負ったりする事業者のことを「システムインテグレータ」(SIer)「システムプロバイダ」「ソリューションプロバイダ」「ソリューションベンダ」などと呼ぶ。
システムインテグレーション 【SI】 ⭐
顧客の使用する情報システムの企画、設計、開発、構築、導入、保守、運用などを一貫して請け負うサービス。これらの工程のうちのいくつかを請け負う場合もある。
顧客からシステム開発や関連業務を一括して受託するサービスをシステムインテグレーション呼び、そのような業務を請け負う事業者を「システムインテグレータ」(SIer:System Integrator)という。
日本で大規模な情報システムを利用する大企業や官公庁などでは、伝統的にパッケージ製品の利用や自社開発(内製)よりも、専門的な事業者にシステム関連業務全般をまとめて発注することが好まれる。
SI事業者は顧客の要望の聞き取りや業務の分析、既存システムの調査、予算とスケジュールの交渉などを行い、必要な情報システムの企画や要件定義、設計などを行う。仕様や設計が決まったら、特注で個別に開発が必要なソフトウェアについてプログラム設計や実装を行う。
その後、機材やパッケージソフトなどの調達を行い、独自開発のソフトウェアや既存のデータなどと組み合わせてシステムを構築、業務への導入を行う。システムの稼働開始後は保守・運用や利用者へのサポート、障害時の対応などを行う。
大手コンピュータメーカーやその系列企業などが自社グループ製品を中心に組み合わせて構築するシングルベンダ方式と、インテグレーション事業専門の事業者が様々な企業の製品を組み合わせて構築するマルチベンダ方式がある。近年ではメーカー系でも他社製品を柔軟に取り込んでマルチベンダ体制とする事例が増えている。
ある程度以上の規模のインテグレータは営業や企画、設計などのいわゆる上流工程や、顧客窓口やプロジェクトの進捗管理、下請け企業との受発注管理など管理・調整業務に特化しており、プログラミングなど現場での作業工程の多くを下請け企業(協力企業)へ外注している。
クラウドコンピューティング 【クラウドシステム】 ⭐⭐
コンピュータの機能や処理能力、ソフトウェア、データなどをインターネットなどの通信ネットワークを通じてサービスとして呼び出して遠隔から利用すること。
「クラウド」(cloud)とは「雲」という意味で、IT業界ではシステム構成図などを描く際にネットワークの向こう側にある外部のコンピュータやシステムなどをまとめて雲の形の絵記号で記す慣例があることから、このように呼ばれるようになった。
従来のコンピュータ利用方式では、利用者が直接操作する端末や、同じ建物内にあるサーバなど、システム利用側が自ら保有、設置する機器上でソフトウェアやデータを管理していたが、クラウドコンピューティングではシステム本体は専門の管理施設に集約し、利用者はインターネット等の広域回線網を介してこれを使用する。
コンピュータや通信回線の性能が向上したことから実用的になった利用方式で、通常は機器を設置、運用する専門の事業者(クラウドプロバイダー)が契約者に機器やシステム、ソフトウェアの使用権を貸与するクラウドサービスの形で提供される。
インターネットから誰でも利用できるようなサービスやシステムを「パブリッククラウド」、大企業などが自社ネットワーク上で社員などが利用するために内部的に構築・運用するものを「プライベートクラウド」、両者を組み合わせたものを「ハイブリッドクラウド」という。クラウドと対比して従来型のシステムを指す場合は「オンプレミス」(on-premises)型という。
SaaS 【Software as a Service】 ⭐⭐⭐
ソフトウェアをインターネットを通じて遠隔から利用者に提供する方式。利用者はWebブラウザなどの汎用クライアントソフトを用いて事業者の運用するサーバへアクセスし、ソフトウェアを操作・使用する。従来「ASPサービス」と呼ばれていたものとほぼ同じもの。
従来、ソフトウェアを使用するには利用者がパッケージなどを入手して手元のコンピュータにプログラムを複製、導入し、これを起動して操作する方式が一般的だった。SaaSではソフトウェアの中核部分は事業者の運用するサーバコンピュータ上で実行され、利用者はネットワークを通じてその機能を遠隔から利用する。
利用者側には表示・操作(ユーザーインターフェース)のために最低限必要な機能のみを実装した簡易なクライアントソフトが提供される。専用のクライアントを導入する場合もあるが、一般的には全体をWebアプリケーションとして設計し、利用者はWebブラウザを通じてWebページとして実装されたクライアントを都度ダウンロードして起動する形を取ることが多い。
SaaS方式のソフトウェア提供は2000年代中頃からSFA(営業支援システム)やグループウェアなど業務用ソフトウェアを中心に広まり始め、2010年代以降はERPなどの大規模システム、あるいはオフィスソフト、ゲーム、メッセージソフト(Webメールなど)といった個人向けを含む様々な種類のソフトウェアで一般的になっている。
利用者側の特徴
利用者はサービスへ登録・加入するだけで、ソフトウェアの入手や導入を行わなくてもすぐに使い始めることができる。データも原則としてサーバ側に保管されるため、ソフトウェアやデータの入ったコンピュータを持ち歩かなくても、移動先などで普段とは別の端末からログインして前回の作業の続きを行うことができる。
料金もパッケージソフトのように最初に一度だけ所定の金額を支払う「買い切り」型ではなく、契約期間に基づく月額課金や、何らかの使用実績に応じた従量課金が一般的となっている。登録や利用は原則無料で高度な機能や容量などに課金する方式や、広告を表示するなどして完全に無償で提供されるサービスもある。
ただし、利用のためにはインターネット環境が必須で、回線状況によっては操作に対する応答に時間がかかる場合もある。また、サービスを脱退したりサービスが終了してしまうとソフトウェアを使用できなくなり、サーバ側に保存したデータにもアクセスできなくなる。データについては特定の形式でまとめて利用者側にダウンロードできる機能が提供されている場合もある。
事業者側の特徴
提供者側から見ると、システムの中核部分はサーバ側で実行され、Webブラウザなどをクライアントとするため、機種やオペレーティングシステム(OS)ごとに個別にソフトウェアを開発・提供する場合に比べ様々な環境に対応しやすい。
また、サーバ側でソフトウェアを常に最新の状態に保つことができ、機能追加や不具合の修正などを利用者側へ迅速に反映できる。機能を細かく分けて利用者が自分に必要なものだけを選んで契約するといった柔軟な提供方式にも対応しやすい。
ただし、処理の多くをサーバ側で行う必要があるため、利用者数や利用頻度などに応じてサーバの台数や性能、データ保管容量などを適切に用意し、必要に応じて増強しなければならない。インターネットを通じてサービスを提供するため回線容量なども提供規模に応じて必要で、単にソフトウェアを販売するより事業者側の投資やコストは重くなりがちである。
PaaS/IaaSとの違い
インターネットを通じて様々な資源や機能をサービスとして遠隔の顧客へ提供する事業形態はSaaS以外にも存在し、総称して「XaaS」(X as a Service:サービスとしての○○)と呼ぶ。
このうち、導入・設定済みのOSやサーバソフト、言語処理系など、アプリケーション実行環境一式(プラットフォーム)をサービスとして遠隔から自由に利用できるようにしたものを「PaaS」(Platform as a Service:サービスとしてのプラットフォーム)という。
また、情報システムの稼動に必要な機材や回線などのIT基盤(インフラ)をサービスとして提供するものを「IaaS」(Infrastructure as a Service:サービスとしてのインフラ)という。これらは主に企業などの情報システム部門やネットサービス事業者などが自らのアプリケーションの実行環境として使用するために提供される。
PaaS 【Platform as a Service】
ソフトウェアの実行環境をインターネット上のサービスとして遠隔から利用できるようにしたもの。また、そのようなサービスや事業モデル。コンピュータシステムをOS導入済みの状態で貸与するものが一般的。
通常の場合、企業などで業務用システムなどを運用するには、コンピュータなどの機器にオペレーティングシステム(OS)、プログラミング言語処理系、ライブラリ、ミドルウェア、フレームワークなどを導入・設定し、実行環境を構築しなければならない。
PaaSは専門の事業者がデータセンターに設置したサーバにこのようなソフトウェア環境を構築したもので、これをインターネットを経由して契約者に貸し出して利用させる。顧客は実行したいアプリケーションを持ち込んで実行するだけですぐにシステムを運用でき、メンテナンスや障害対応なども事業者に任せることができる。
PaaSでは利用者が操作・設定可能なのはOSよりも上の階層であり、ハードウェアや仮想マシンの動作に直に介入することはできないが、逆に、これらの設定や運用などを自ら行う必要がなく、事業者側にすべて任せることができると捉えることもできる。
提供されるコンピュータは仮想化されており、利用者が必要に応じて性能などを指定することができる場合が多い。設備が固定されている自社運用(オンプレミス)とは異なり、突発的な負荷の増大に合わせて一時的に性能や容量を割り当てたり、負荷に応じて柔軟に性能の伸縮や契約の切り替えを行える点が大きな特徴である。
料金は契約期間に応じた月額基本料金にシステムの使用量(CPU実行時間や外部への送信データ量など)に応じた従量課金を加えた課金体系になっていることが多い。契約者は固定的に人員や設備を抱えることなく必要な分だけサービス料を支払って利用する形となる。
よく知られるPaaSとしては、米アマゾンドットコム(Amazon.com)がAmazon Web Services(AWS)の一部として提供している「Amazon Lambda」や「Elastic Beanstalk」などのサービス、米グーグル(Google)社がGoogle Cloud Platform(GCP)の一部として提供している「Google App Engine」(GAE)、米マイクロソフト(Microsoft)社がMicrosoft Azureの一部として提供している「Azure Cloud Services」、米セーフルフォース・ドットコム(Salesforce.com)社の「Force.com」や「Heroku」、などがよく知られる。
一方、仮想化されたハードウェア環境を遠隔からサービスとして操作・利用できるようにしたものを「IaaS」(Infrastructure as a Service)、具体的な特定のアプリケーションをインターネットを通じてサービスとして利用できるようにしたものを「SaaS」(Software as a Service)という。
IaaS 【Infrastructure as a Service】
情報システムの稼動に必要なコンピュータや通信回線などの基盤(インフラ)を、インターネット上のサービスとして遠隔から利用できるようにしたもの。また、そのようなサービスや事業モデル。
専門の事業者がデータセンター施設に設置・運用しているコンピュータやネットワーク環境などを契約者が借り受け、遠隔から操作して自分の必要なソフトウェアを組み込んで稼働させることができる。事業者のコンピュータなどを借り受けて使用するレンタルサーバやホスティングサービスは従来からあり、IaaSもその延長にあるが、より柔軟で包括的なサービスを指すことが多い。
IaaSの場合、一台単位で物理的に固定されたコンピュータ自体を貸し出すのではなく、物理コンピュータ上に仮想化技術で作り出された特定の仕様を持つ仮想サーバ(サーバインスタンス)を単位に契約が行われることが多い。これにより、メンテナンスや障害発生時などに速やかに別の機材に移転して稼働を続行したり、処理の負荷の増減に合わせて柔軟に資源の追加・削減(スケーリング)ができるといった利点がある。
料金は月額固定制の場合もあるが、基本料金に加えて一ヶ月の資源の使用量(外部へのデータ送信量など)の実績に応じた従量制を取るサービスが多い。企業などでシステムを運用する場合、自社内設置(オンプレミス)だと固定的に設備(その多くは税法上の資産)や人員を抱えることになるが、金額が同水準でもサービス料の形で支払う方が財務・会計の都合上好ましい場合も多い。
IaaSで提供されるのはコンピュータのハードウェア環境であるため、使用するオペレーティングシステム(OS)やミドルウェア、アプリケーションソフトなどは契約者側で用意して導入・設定する必要がある。OSなど特定の環境がある程度導入済みのコンピュータをサービスとして提供する形態は「PaaS」(Platform as a Service)という。
代表的なサービスとして、米アマゾンドットコム(Amazon.com)がAmazon Web Services(AWS)の一部として提供している「Amazon Elastic Compute Cloud」(Amazon EC2)や、米グーグル(Google)社がGoogle Cloud Platform(GCP)の一部として提供している「Google Compute Engine」(GCE)、米マイクロソフト(Microsoft)社がMicrosoft Azureの一部として提供している「Azure IaaS」などがよく知られる。
DaaS 【Desktop-as-a-Service】
コンピュータのデスクトップ操作画面をネットワークを通じて遠隔の端末へ提供するサービス。利用者ごとにフル機能のコンピュータ一式を揃えなくても簡易な端末などを通じてデスクトップ環境を利用できる。
専門の事業者などが契約者に計算資源をサービスとして提供するクラウドサービスの一つで、パソコンなどのデスクトップ環境をサーバ上に構築・運用し、画面出力を利用者の手元の端末に転送する。利用者は端末のディスプレイやキーボード、マウスなどを用いて入力や操作を行うことができる。
いわゆる仮想デスクトップ環境をサービスとして提供するもので、企業や大学などで同じ仕様や構成のコンピュータを大量に使用する場合などに、安価な簡易端末で高機能なソフトウェア環境を利用でき、また環境をサーバ側で管理者が集中的に管理・運用することができる。
専門の事業者がデータセンターなどに既に導入済みの環境を借り受けるため、自前で機材などを購入・配備するのに比べ迅速に利用を開始することができる。操作に用いるシンクライアント端末は同時利用数の分だけ必要だが、サーバ側の機材は購入する必要がなく、台数や契約期間、利用環境の種類などに応じて利用料金を支払う。
一方、利用者側が自前で仮想デスクトップ環境を構築・運用する方式はVDI(Virtual Desktop Infrastructure)という。
パブリッククラウド 【パブクラ】
情報システムのインフラをサービスとして遠隔から利用できるようにしたクラウド環境のうち、利用者がインターネットを通じてアクセスできるもの。
データセンター事業者などが広く一般の法人や個人に提供するクラウドコンピューティング環境で、契約者はインターネットを通じて借り受けたサーバ環境を操作し、ソフトウェアを稼働させて利用者にサービスを提供する。Webサービス運営などによく用いられる。
一方、企業などが自社の業務システムなどを運用するために用意する、限られた環境からのみアクセス可能なクラウドシステムを「プライベートクラウド」(private cloud)と呼び、これとパブリッククラウドを組み合わせたシステムを「ハイブリッドクラウド」(hybrid cloud)という。
パブリッククラウドは専門の事業者が大規模に運用するサーバコンピュータや記憶装置などの資源を仮想化し、各顧客が必要なときに必要なだけ割り当てるため、自前で機材を用意するよりも低コストで迅速にシステムを展開することができる。
また、運用するサービスの利用規模や需要の変動に柔軟に対応して性能や容量を増強したり縮減することできるため、固定的に設備を用意する場合に生じがちな過剰投資による損失や過小投資による機会損失を防ぐことができる。
パブリッククラウドサービスは国内外の様々な事業者が提供しているが、スケールメリットによる低コスト化や対応する技術者の多さなどから世界的な大手ネット事業者が強く、米アマゾン・ドット・コム(Amazon.com)社の「Amazon Web Services」(AWS)や、米グーグル(Google)社の「Google Cloud Platform」(GCP)、米マイクロソフト(Microsoft)社の「Microsoft Azure」などがよく知られる。
プライベートクラウド
情報システムのインフラをサービスとして遠隔から利用できるようにしたクラウド環境のうち、企業などが自社システムでの利用のために内部的に用意したもの。
クラウドはコンピュータや記憶装置、ソフトウェアなどの資源を通信ネットワークを通じて遠隔から必要なときに必要なだけ利用できるようしたシステム環境である。このうち、企業などが自社の業務システムなどを運用するために構築し、従業員や関連会社、取引先など限られた関係者のみがアクセスできるものをプライベートクラウドという。
一方、Webサービスの提供などのため、インターネットなどを通じて広く一般からアクセスできるクラウド環境は「パブリッククラウド」(public cloud)と呼ばれ、これとプライベートクラウドを組み合わせた環境は「ハイブリッドクラウド」(hybrid cloud)という。
プライベートクラウドのうち、従来の社内システムのように自社のデータセンターなどにクラウド環境を構築したものを「オンプレミスプライベートクラウド」(on-premises private cloud)、パブリッククラウド事業者からクラウド環境を借り受けて外部からのアクセスを遮断し、自社専用として使用するようにしたものを「仮想プライベートクラウド」あるいは「ホステッドプライベートクラウド」という
仮想プライベートクラウド (VPC:Virtual Private Cloud/ホステッドプライベートクラウド)
プライベートクラウド環境のうち、専門のクラウド事業者などが運用するデータセンター内に自社専用の区画や機材を用意してもらい、これを借り受けて運用する方式。
必要な設備や人員を自社で調達・運用するオンプレミス型のプライベートクラウドは従来型システムと形態がほとんど変わらず、クラウド化による恩恵を受けにくいと言われる。
一方、仮想プライベートクラウドの場合には、すでに運用されているパブリッククラウドのシステムの一部に自社専用の区画を借り受け、専用回線やVPNで接続して操作・使用する。導入スピードやコスト面で有利であり、当該クラウド向けに提供されている対応ソフトウェアや運用ツールなどを活用することもできる。
多数のグループ企業を抱える大企業などではオンプレミス型でも稼働率の平準化やスケールメリットなどを享受できるが、中小・中堅企業などでは仮想プライベートクラウドの人気が高い。
ハイブリッドクラウド
クラウドコンピューティングの実現形態の一つで、パブリッククラウドとプライベートクラウドを組み合わせたもの。また、仮想化システム上で実行されている仮想マシン(VM:Virtual Machine)を、プライベートクラウドとパブリッククラウドをまたいで移行できるような運用形態のこと。
企業などがクラウド環境を構築する際、自社で用意したサーバ群でソフトウェアを動作させる「プライベートクラウド」(private cloud)を利用する場合と、データセンター事業者などが運用する「パブリッククラウド」(public cloud)をインターネットなどを通じて遠隔から利用する場合の二通りがある。
ハイブリッドクラウドはシステムの特性に応じてこの二つを組み合わせた方式である。例えば、機密データや個人情報などを扱うシステムはプライベートクラウドで運用し、繁閑の差が大きく処理量が時期によって大きく変動するシステムや、一時的に必要となるシステムをパブリッククラウドで運用するといったように両者を使い分ける。両者の特性を活かして、一定のセキュリティレベルを確保しながら固定費を削減することができる。
また、クラウドサービスの多くが従量課金であることを利用して、同じシステムを通常はプライベートクラウドで運用し、突発的に処理量が増大した時だけパブリッククラウドへアクセスを転送して機会損失を防ぐといった手法もハイブリッドクラウドに含まれる。
仮想化技術の分野では、パブリッククラウド上で実行されている仮想マシンをプライベートクラウド上のコンピュータに移行させたり、その逆を行ったりするソフトウェアや機能のことを指して「ハイブリッドクラウド」と呼んでいる場合もある。
マルチクラウド
企業の情報システムなどで、複数の異なる事業者のクラウドサービスを併用すること。用途やシステムごとに使い分けたり、連携させて一体的に運用したりする。
例えば、Amazon Web ServicesとMicrosoft Azureを組み合わせて運用することなどをこのように呼ぶ。各社の提供しているクラウドサービスは品目や機能、料金体系、運用体制などに違いがあるため、マルチクラウド体制ならばシステムの特徴に応じて適したサービスを利用することができる。
また、一社のインフラに依存しきってしまうと他社製品・サービスの利用や他社環境への移転が困難になったり(ベンダーロックイン)、トラブルの発生時にシステムが全面的に停止してしまう危険があるが、複数のクラウドサービスに分散してシステムを配置することで依存性やリスクの軽減・分散を図ることができる。
ただし、サービスごとに異なる管理方式や管理ツールなどを使い分けねばならず運用が煩雑になり、契約が重複することも合わせて高コストになりがちである。また、サービスをまたがる機能の連携やデータの移動は利用者側に高度な知見や技術が求められ、サービス側のサポートは得られにくい。
一方、自社施設内に構築したプライベートクラウドと、専門の事業者が運営するクラウドサービス(パブリッククラウド)を併用する方式のことは「ハイブリッドクラウド」(hybrid cloud)という。
ASP 【Application Service Provider】 ⭐⭐⭐
ソフトウェアをインターネットなどを通じて利用者に提供するサービス事業者のこと。そのようなサービスを「ASPサービス」あるいは「SaaS」(Software as a Service:サービスとしてのソフトウェア)という。事業者ではなくサービスを指して「ASP」と呼ぶこともある。
ASPは利用者に提供するソフトウェアを、インターネットなどのネットワークに接続されたサーバコンピュータに展開する。利用者はWebブラウザや専用のクライアントソフトなどを通じてサーバに接続し、これを利用する。
誰でも自由にすぐ使えるサービスもあるが、多くは会員制となっており、登録や契約が必要となる。有料のものと無料のもの、一部が有料のものに分かれ、無料のものは広告が表示され広告料などで運営されることが多い。
有料の場合、期間ごとに一定の料金(日額、月額、年額など)を課す方式が多いが、利用回数や何らかの使用量に応じて都度課金・従量課金する場合や、基本機能が無料で便利な機能や追加のデータ保管容量などに課金する場合がある。
従来からパッケージやライセンスの管理に悩んでいた企業や官庁などに向けて業務用ソフトウェアでいち早く広まった業態だが、近年ではWeb技術やインターネット回線の高度化により消費者向けのソフトウェア製品でもネットサービス化が進んでいる。
利用者にとっての利点・欠点
<$Img:ASP-2.jpg|right|geralt|https://pixabay.com/illustrations/house-app-technology-smart-home-6332129/>利用者にとっては、手元のコンピュータにソフトウェアを導入したり、最新版に更新したりする手間が省け、また、特定の一台のコンピュータに限らずいつでもどこでもインターネットを通じて自分のソフトウェアやデータにアクセスできる利点がある。
また、従来は固定的に購入・導入してきたパッケージソフトに比べ、必要なときに必要なだけ使うといった柔軟な使用方法を選ぶことができ、分野によっては無料あるいは廉価でパッケージ版に近い機能を利用できる場合もある。
ただし、利用のためにはインターネットなどを通じて事業者のサーバにアクセス可能でなければならず、オフライン環境では利用できないか、機能が大幅に制限される。また、有料の場合は月額固定料金か利用実績に応じた従量課金となるが、利用期間や使用法によっては買い切り型のパッケージ製品より割高となる場合もある。
事業者にとっての利点・欠点
<$Img:ASP-3.jpg|right|mohamed_hassan|https://pixabay.com/illustrations/seo-data-big-data-analytics-site-3559564/>事業者にとっては、顧客が操作するソフトウェアを手元のサーバで集中的に管理・提供する形となるため、顧客にソフトウェアを配布するよりバージョンアップや不具合対応などに素早く取り組むことができる。有料版の不正利用や海賊版の流通なども防止することができる。
ただし、アプリケーションを配備して顧客に提供するためのサーバ群や通信回線などを整備・運用しなければならず、アプリケーションを提供し続ける限り設備や人員など固定的に運営費用がかかる。また、ソフトウェア自体に問題がなくてもサーバ運用上の事故でサービス提供が中断することもあり、機会損失やクレームの原因となる。
一方、買い切り型のパッケージは一度販売してしまえば同じ顧客から追加で収入を得ることは難しいが、サービスとして月額料金や従量課金などで提供すれば定期的・継続的に売上を得ることができる。無償で提供して多くの利用者を集め、広告や別の有償サービスへ誘導して収益化するなど、ビジネスモデルの柔軟性が高い。
アフィリエイトサービスプロバイダ
「ASP」という略語は、成果報酬型広告(アフィリエイト広告)の配信事業者である「アフィリエイトサービスプロバイダ」(Affiliate Service Provider)を指すことがある。広告主から委託を受けて契約するWebサイトなどに広告を配信し、購入実績などの成果に応じてサイトに報酬を支払う。
アフィリエイト広告とは成果報酬型のネット広告で、サイト運営者は商品を推薦するページなどを作成し、広告主のサイトへリンクを張り閲覧者を誘導する。そのリンクを経由して訪れた閲覧者が製品購入や会員登録などを行うと、サイト運営者に所定の報酬が支払われる。
ASPは広告主とメディア運営者を仲介するサービスで、広告主となるオンラインショップやネットサービス事業者などがASPに商材のプロモーションを依頼し、ASPは契約するWebサイトやメールマガジンなどのメディア運営者に広告料の支払い条件などとともに案件を紹介する。
案件を受託したサイトには広告が掲載され、ASPは表示回数やクリック数、そのサイト経由の利用者の購買実績などを調べて集計する。製品が売れた数やユーザー登録の件数など、事前に定めた条件に応じて、メディア側に広告料が支払われる。
<$Fig:asp|center|true>アウトソーシング
企業などが業務の一部を別の企業などに委託すること。外部委託、外注、外製、業務委託、社外調達などもほぼ同義。自社で人員を確保するのが困難な高度に専門的な業務や、専業の事業者の方が低コストで処理できるような業務で行われることが多い。
委託側は専門的な業務や周辺的な業務などをアウトソーシングすることで、自らの本業や強みを持つ業務や事業、部門に資源を集中できる。また、業務量の変動が大きい場合、仕事があるときだけ必要に応じて外部に発注することで、ピーク時に合わせて設備や人員を固定的に保有する必要がなくなる。
受託側は様々な企業から同種の業務のアウトソーシングを請け負うことで規模を拡大して固定費を節減でき、各企業が内部で行うよりも低コストで業務を遂行することができる。一企業では大きな繁閑差がある場合も、多数の企業から同じ業務を請け負うことで平準化することができる。
特に、コストの低さなどを見込んで海外の事業者へ業務を委託することを「オフショアアウトソーシング」(offshore outsourcing)あるいは「オフショアリング」(offshoring)、近隣国や国内の別の地方の事業者へ委託することを「ニアショアアウトソーシング」(nearshore outsourcing)あるいは「ニアショアリング」(nearshoring)という。一方、アウトソーシングと対比する文脈で、社内で行う業務や社内で抱える人員や部門などを指す場合は「インハウス」(inhouse)という。
ホスティングサービス 【レンタルサーバ】 ⭐⭐
大規模コンピュータシステム運用に特化した専用施設内に設置されたサーバコンピュータなどの設備をインターネットを通じて顧客に貸与するサービス。顧客は借り受けたコンピュータに必要なソフトウェアやデータを導入して運用する。
高速なインターネット回線や大容量の配電設備を備え、コンピュータの設置・運用に特化した「データセンター」(IDC:Internet Data Center)と呼ばれる施設で提供される。施設内には大量のサーバが設置され、これをインターネットを通じて遠隔から自由に操作する権限を契約者に一定の月額料金で提供する。
利用者はサーバにプログラムやコンテンツなどを転送し、インターネットを通じて情報やサービスを提供することができる。Webサーバやメールサーバなどとして使用されることが多いが、業務システムなどを導入してデータ処理などを行わせる場合もある。
一台のコンピュータを複数の契約者が使用する「共有サーバ」方式と、一台丸ごと貸し出す「専用サーバ」方式があり、前者の方が安価だが後者は管理者権限が得られ自由度が高い。近年では仮想化技術などを用いて物理的な一台のコンピュータを独立した複数の仮想マシンに分割し、あたかも専用サーバのように貸し出す「仮想専用サーバ」(VPS:Virtual Private Server)方式が一般的になっている。
一方、事業者の用意したサーバではなく、施設内に用意されたスペースに顧客が機材を持ち込んで設置・運用するサービスは「ハウジングサービス」(housing service)あるいは「コロケーションサービス」(colocation service)という。
VPS方式から発展して、大規模なコンピュータシステムを仮想化し、仮想サーバ単位や機能単位で顧客に従量制で貸し出すサービスを「クラウドサービス」(cloud service)という。VPSと異なりアクセスの増減などに応じて柔軟に性能や容量の拡張や縮小が可能で、CPU時間やデータ転送量などの利用実績に応じて課金される。
ハウジングサービス 【コロケーションサービス】 ⭐⭐⭐
大規模コンピュータシステム運用のための大容量電源や通信回線、什器などの設備が整った施設で、通信機器やコンピュータなどの設置場所を顧客に貸与するサービス。顧客は自ら利用する機器を持ち込んでネットワークに接続し、システムを運用する。
コンピュータの設置・運用に特化した「データセンター」と呼ばれる施設で提供され、高速なインターネット回線、大容量の配電設備やバックアップ電源、耐震・免震設備、空調・冷却設備、入退室管理システムなどのセキュリティ設備を利用できる。
付加サービスとして、機器やソフトウェアの稼働状態の監視や異常時の通知、バックアップなど定型的な管理作業の代行などが提供される場合もある。ネットワーク機器などの貸し出し、機器の購入や導入の代行などを受け付けている事業者もある。
顧客は自らのシステムの運用に必要な分の区画のみ借り受けて使用することで、こうした施設そのものや、運用に必要な人員などを自前で固定的に保有することなく、安価に充実した運用環境を手に入れることができる。
顧客は施設内の機器の設置場所を決まった月額料金で借り受け、自らの所有する機器を持ち込んで運用する。機器の日常的な操作や管理は通信回線を介した遠隔操作により施設外から行うことが多いが、機器のメンテナンスや障害対応などのために入室して操作することもできる。
貸し出しはサーバラック(平たい機器を縦に並べる棚型の什器)の段数を単位とすることが多く、ラックマウント型の機器を設置できる。床面の一定面積の区画を単位とする場合もあり、様々な形状の筐体を設置することができる。「コロケーションサービス」を後者の方式の名称とする場合もある。
一方、顧客が機器を持ち込むのではなく、施設内にあらかじめ事業者側が設置した通信機器やサーバコンピュータなどを顧客に貸し出すサービスは「ホスティングサービス」(hosting service)「レンタルサーバ」(rental server)などと呼ばれる。
SOA 【Service Oriented Architecture】 ⭐⭐
企業の業務システムなどの設計様式の一つで、システム全体を利用者側から見たソフトウェアの機能単位である「サービス」(service)の組み合わせによって構築すること。
部品化されたソフトウェアを結合してシステムを構築する設計手法は従来から存在したが、どちらかというとコンピュータ寄りの視点で機能の分割や実装が検討されることが多かった。
SOAではサービスと呼ばれる構成単位でソフトウェアを開発・導入するが、例えば「請求書を発行する」といったように利用者側の視点から見た作業単位に対応するように個々のサービスの内容が決められる。
また、サービスを提供するソフトウェアは独立性が高く、互いに依存性が低くなるよう設計され、柔軟に入れ替えや部分的な修正などに対応できる。単体で動作するアプリケーションとして開発されたものをサービスとして取り込んで他のサービスと連携させるといった方法が用いられることもある。
汎用性や共通性の高いサービスは複数のシステムやアプリケーションから参照することもでき、大きな組織の情報システムにありがちな同じような機能が部署やアプリケーションごとに重複して開発される事態を防ぐことができる。
サービス間の連携にはSOAPやXMLといった標準化されたデータ形式やプロトコル(通信規約)が用いられ、特定のソフトウェア実行基盤などに縛られることなく自由に様々な製品を結合して情報システム全体を組み立てられるとされる。
オンプレミス 【自社運用】 ⭐
企業などの組織における情報システムの設置形態の分類で、自社施設の構内に機器を設置してシステムを導入・運用すること。外部の事業者が用意した機材やソフトウェアを通信回線を経由して利用する「クラウド」型(システム/サービス)の対義語。
元来このような方式が一般的だったため特に名称はなかったが、2000年代半ば頃から通信ネットワークを通じて外部の事業者の設備を借用する、いわゆる「クラウドコンピューティング」が普及したため、これと区別するために従来方式に後から付けられた呼称(レトロニム)である。
2009年頃から広く使われるようになった。“premise” には「構内」「施設」などの意味がある。クラウドサービスのような外部の資源を利用する形態は「オフプレミス」(off-premises)や「オンデマンド」(on-demand)と呼ぶこともある。
コスト・納期
クラウド型とオンプレミス型を同じ規模や機能のシステムで比較した場合、オンプレミス型のシステムは設備を自社で用意するため、初期投資(イニシャルコスト)が大きくなりがちで、稼働開始までにかかる時間も長くなりがちである。保守や管理、設備の更新も自前で行わなければならない。
一方、クラウド型は事業者がすでに所有している設備を利用するため、初期にまとまった費用は必要なく、申し込めばすぐに利用を開始することができる。利用規模に合わせて徐々に増強していったり、あるいは突発的なピークに一時的に大量の資源を借り受けるといった柔軟な対応が可能なため、利用規模に見合った費用で運用することができる。ただし、利用実績に応じて後から精算するため、固定的な費用が中心のオンプレミスに比べ、コストが大きく変動する可能性がある。
オンプレミス型ではある程度以上高額な設備やソフトウェアは資産に計上して減価償却しなければならないが、クラウド型は支払った額がすべて費用として計上できるため、会計上はリースやレンタルに似た効果を得ることができる。
機能・性能
オンプレミス型では機器やソフトウェアに何を利用するか自由に選択でき、制約なく必要な構成にすることができるが、クラウド型は事業者側で仕様や構成があらかじめ決まっていたり、いくつかの選択肢から選ぶ形態であることが多い。
性能や規模については、オンプレミス型では設置した機材の能力がそのまま上限となるため、あらかじめ見積もったピーク時の負荷に耐えられるように用意する必要があり、平常時に活用できない無駄が大きくなる。クラウド型では事業者の許容量の限り必要なだけ性能や規模を随時拡張させられる。
利用者と同じ施設内にオンプレミス型のシステムを設置した場合、構内ネットワーク(LAN)経由で高速にアクセスできるため体感速度などの点は有利である。クラウド型は遠隔地の設備を広域回線を経由して利用するため応答の遅延やデータ伝送の待ち時間が生じやすい。ただし、オンプレミスでもデータセンターなどに設備を集約し、遠隔地の事業所から利用する場合には事情は同様である。
信頼性
オンプレミスでシステム障害や災害へ備え信頼性を高めようとすると自社で緊急時以外は使用しない余剰の設備を用意したり、遠隔地に拠点を設けて設備の導入や運用を行うなど大きな負担がかかる。
一方、大規模事業者のクラウドサービスでは新規顧客などのために常にスタンバイ状態の機材を豊富に抱えており、全国あるいは全世界の複数拠点が互いにカバーし合う運用とすることもできるため、低い費用で高い信頼性を提供することができる。
セキュリティ
クラウド型ではデータが物理的に事業者側に保管され、設備や回線の一部は他の利用者と共用であり、自社とのやり取りはインターネットのような広域回線を介する必要がある。これらの点から、機密情報の漏洩や盗難、システムへの侵入、破壊などが起こりやすいのではないかとセキュリティ上の懸念を抱く人が少なくない。
一方、オンプレミスならデータ、設備、人員が自社施設内で完結しているため外部要因による危険に晒されず安全を確保しやすいと考えられがちだが、大手のクラウド事業者は自社が原因の問題を起こさぬよう専門のセキュリティ技術者やシステムへの投資を惜しまず、民間では最高レベルのセキュリティ体制を敷いている場合が少なくない。自社でこれに匹敵する対応を取れる企業は限られており、単純にオンプレミスの方が安全とは言い難い。
PoC 【Proof of Concept】 ⭐⭐
新しい概念や理論、原理などが実現可能であることを示すための簡易な試行。一通り全体を作り上げる試作(プロトタイプ)の前段階で、要となる新しいアイデアなどの実現可能性を示すためだけに行われる、不完全あるいは部分的なデモンストレーションなどを意味する。
新たな発見や技術、今までにないアイデアや手法、あるいは既知の要素についての試されたことのない組み合わせについて、机上の理論や構想に留まらず、具現化や実用化、応用、導入などが可能であることを実地で検証するプロセスを指す。
PoCは原理が実装可能であることを示し、計画の次の段階への進行や投資の可否を関係者が判断することを目的に行われる。成果物は核心部分のみのシンプルな構成であり、それ自体を元に実際の製品の試作品や完成品が作られることは少ない。
ビジネス上のプロジェクトの場合、コストや費用対効果、現状や他社との比較といった商業的な価値の検討はPoVなど別の工程に分けて行うことが多いが、これも含めてPoCとして実施する場合もある。
PoCは先端的な科学技術研究や工業製品の研究開発、大規模な商業プロジェクトで行われ、特に、基礎とする理論や構成要素が複雑、巨大で机上の検証では不十分なもの(航空機開発など)、実地での試行以外で効果や影響などを確かめるのが難しいもの(新薬など)、現物には多大なコストと期間が必要なため小規模な実証で出資者や関係者の理解を得る必要があるもの(映画製作など)で行われる。
ITの分野では、業務への新しい機器やシステムの導入、システム開発への新技術や新手法の適用、コンピュータセキュリティにおいて新たに発見された攻撃手法が実地で機能することを示す実証プログラム(PoCコード)などでよく知られる。
マネージドサービス
通信サービスやITサービスなどのうち、サービスの利用に必要な機器やソフトウェアの導入や管理、運用などの業務も一体的に請け負うサービスのこと。利用者が事業者に「お任せ」できるサービス。
VPNサービスやホスティングサービス、クラウドサービスなどでよく用いられる分類で、本来のサービスに付随して発生する業務をまとめて請け負う一種のアウトソーシングサービスである。
例えば、データセンターに設置したサーバを貸し出すホスティングサービスの場合、一般的なサービスでは貸与した機材へのソフトウェアの導入や設定、システムの運用や監視などは顧客側で行うが、マネージドサービスではこうした業務も請け負い、その分だけ利用料金が上乗せされる。
サービス本体の事業者が付加サービスとして提供する場合もあるが、他社のサービスの導入や運用、管理などを専門に請け負う事業者もあり、「MSP」(Managed Service Provider)と呼ばれる。
フルマネージドサービス (fully managed service)
一般的なマネージドサービスよりもさらに請け負う業務の範囲が広く、顧客がサービスに関して技術的な対応をほぼ全くしなくてよいサービスを「フルマネージドサービス」ということがある。
マネージドとフルマネージドの区別は事業者によって異なり、厳密な定義などは無いが、一般的には顧客ごとに個別に運用されているアプリケーションまで含めた24時間365日のシステム監視や障害発生時の復旧作業などを提供するものをこのように呼ぶことが多い。
一度サービスの利用を開始すれば、顧客が当該システムに関して直接何かをする必要がない状態を実現するという意味でこのように呼ばれる。
ITリテラシー 【IT literacy】
コンピュータやインターネットをはじめとする情報技術を適切に活用するための基礎的な知識や技能のこと。高度な専門知識・技能ではなく、読み書きに相当する基本的な能力を意味する。
コンピュータやスマートフォンなどの情報機器や、インターネットなどの通信ネットワーク、ネット上のサイトやサービスなどを活用し、自らの目的を達するための情報の取得や評価、加工、作成、公開、伝達などができる能力を指す。
機器やネットワークの基礎的な概念や動作原理、構造や特性、基本的な操作方法、適切な使用場面や使い分け、危険の回避方法、データや情報の処理や制作の方法、他者への伝達や公開の適切な方法などに対する理解が含まれる。
「デジタルリテラシー講習」などと言った場合にはキー入力の仕方やワープロソフトによる文書の作成方法など、特定の装置やソフトウェア、システムなどの操作方法や使用方法に焦点があたりがちだが、本来的には様々な状況や対象に共通する基礎的な知識を指す概念である。
現代における情報技術活用には通信・インターネットが不可欠となっており、デジタルリテラシーの中に「ネットワークリテラシー」(インターネットリテラシー)が含まれるようになっている。一方、「情報リテラシー」や「メディアリテラシー」とは重複する部分が多く存在するものの、これらは情報技術によらない情報やメディアも取り扱うため、一方が他方を包含するという関係にはならない。
ゲーミフィケーション ⭐
社会的な活動のルールや仕組みの一部として、ビデオゲームで特徴的に用いられる手法や要素を取り入れること。企業などで顧客のサービス利用の促進、従業員の動機付けなどに応用されている。
課題を達成するごとにポイントを付与したり、活動を繰り返すことでランクやレベルが上昇したり、一定の基準をクリアすると称号やバッジを授与するといった仕組みが該当する。参加者ごとの達成状況や順位を公表して競争を促す場合もある。
一般消費者向けのネットサービスなどでは、マーケティングや顧客ロイヤリティの向上のために応用されている。利用する毎にポイントが貰えて他の利用者とランキング形式で比較できたり、特定の活動を行うと称号を得られたりといった仕組みが多くのサービスで取り入れられている。
また、企業などで業務や学習への従業員のモチベーションを高めるための工夫としてゲーミフィケーションを取り入れる動きもある。指定された活動を実行する度にポイントを付与し、一定ポイントが貯まると記念品や商品券と交換できるといった取り組みを導入している例がある。
デジタルデバイド 【情報格差】 ⭐⭐
パソコンやスマートフォン、インターネットなどのデジタル技術に触れたり使いこなしたりできる人と、そうでない人の間に生じる、貧富や機会、社会的地位などの格差。個人や集団の間に生じる格差と、地域間や国家間で生じる格差がある。
コンピュータや通信ネットワークが職場や日常生活に深く入り込み、それを活用できる者はより豊かで便利な生活や、高い職業的、社会的地位を獲得できる一方、何らかの理由により情報技術の恩恵を受けられない人々は社会から阻害され、より困難な状況に追い込まれてしまう。こうした状況をデジタルディバイドという。
主な要因
デジタルディバイドは様々な要因により発生し、拡大する。例えば、子どもや若者は技術や知識を比較的容易に習得し、進んで習慣的に利用するようになることが多いが、中高年や高齢者が新たにコンピュータの操作法などを覚えるのは困難で、生活習慣に取り入れることにも抵抗感があることが少なくない。
また、貧困のために情報機器やソフトウェア、サービスなどの購入が困難だったり、身体機能の障害や発達特性などから機器の操作が困難で情報技術の恩恵を受けられない場合もある。元々存在した様々な格差がデジタルディバイドにより拡大したり固定化してしまうという側面がある。
地域間の格差
地域や国家の単位でデジタルディバイドが生じることもある。通信インフラの普及度合いや、所得水準と情報機器の価格の関係、技術の習得・利用の前提となる十分な教育が受けられるか、インフラ整備や技術・機器の導入・教育を担う技術者などの人材が十分にいるか、といった点により、地域や国家ごとに格差が生じる。
ここでも、元々豊かな先進国やインフラがいち早く整備され人材豊富な大都市などが情報技術でさらに発展し豊かになる一方、情報技術に十分アクセスできない発展途上国や農村部などがデジタル環境でも取り残されるという、格差の拡大・固定化の問題がある。
レガシーシステム
最新の技術や製品を用いた情報システムと対比して、相対的に時代遅れとなった古いシステムのこと。実績や安定性に優れる反面、機能や性能、拡張性などで劣ることが多い。
「レガシー」(legacy)とは遺産という意味で、それまで長年に渡り使用されてきたが、時代が変わり設計や構造、稼働するソフトウェアなどが古くなり最新のものに見劣りする状態を表す。
どのようなシステムがレガシーであるかは具体的な状況に応じて相対的に決まるものであり、変化の激しい新興の分野では最新の技術が数年で陳腐化してしまう場合もあるが、成熟して変化が乏しい分野では10年や20年を経ても最新のものとさほど変わらない場合もある。
システム開発の分野でレガシーシステムといった場合によく槍玉に挙げられるのは大企業などで数十年に渡り使われてきたメインフレームシステムが多い。これらは補修や小さな改良、機能追加などを繰り返し長年に渡り同じシステムを使い続けることが多いが、処理要求の増大や、Webなど新たな外部システムとの連携・接続の必要性、機器の老朽化、製造元の交換部品供給や製品サポートの打ち切りなどにより、どこかの時点で新規システムの開発、切り替えを余儀なくされる。
その際、既存システムのデータや機能は残しながら古い設計や製品を捨て、最新の技術によってシステムを刷新することを「レガシーマイグレーション」(legacy migration)あるいは「ITモダナイゼーション」(IT modernization)などという。