ITパスポート単語帳 - 経営戦略マネジメント
SWOT分析 【Strengths-Weaknesses-Opportunities-Threats analysis】 ⭐⭐⭐
組織や個人が目標達成に向けて行動するうえで支援または障害となる要因を整理する手法の一つ。要因を「外的」か「内的」か、「ポジティブ」か「ネガティブ」かによって4領域に分類する方式。
要因がその組織や個人に内在するか環境によるものか、目標達成の助けになるか妨げになるかによって、“Strengths”(強み:内的・支援)、“Weaknesses”(弱み:内的・障害)、“Opportunities”(機会:外的・支援)、“Threats”(脅威:外的・障害)の4種類に分類する。
外部環境は自らの意思や努力では変えられない前提条件であり、先に外的要因(機会・驚異)から分析を始め、続いて内的要因(強み・弱み)へと進むのが一般的であるとされる。外的要因の分析にはPEST分析やファイブフォース分析、3C分析など他のフレームワークを併用する場合もある。
各要因のリストアップが終わったら、外的要因と内的要因を掛け合わせた4通りの組み合わせのそれぞれのについて、どのような施策が考えられるか検討する「クロスSWOT分析」(単にクロス分析とも)を行う。
「強み×機会」について、強みを活かして機会を最大限に活用する方策を、「強み×驚異」について、強みを活かして驚異に対抗する方策を、「弱み×機会」について、弱みによって機会を逃さないようにする方策を、「弱み×驚異」について、弱みが驚異に晒され最悪の事態に至ることを避ける方策を、それぞれ検討していく。
ページ毎分 ⭐
プリンタやイメージスキャナなどの性能指標の一つで、1分間に入力あるいは出力できる紙面の枚数のこと。
プリンタの場合は1分間に印刷できる枚数を、イメージスキャナの場合は1分間に読み取り可能な枚数を表し、この値が大きいほど高速に処理することができる。用紙のサイズや向き、カラーかモノクロかなどによって枚数は変化するため、「A4縦カラー10ppm」のように計測条件を併記するのが一般的である。
ほぼ同様の意味の単位として「ipm」(images per minute、イメージ毎秒)もある。プリンタが1分間に印刷可能な面数を指し、計測基準はISO(国際標準化機構)によって標準化されている。ppmはメーカーごとに計測基準が異なるため「10ppm(当社計測値)」等の注意書きがあるが、ipmは標準に基づいて計測されるためメーカー間の比較も可能である。
VRIO分析 【Value, Rarity, Imitability, and Organization】
企業や事業についての分析を行う枠組み(フレームワーク)の一つで、企業などの保有する資源や能力を「価値」「希少性」「模倣可能性」「組織」の4つの観点から分析する手法。
ある企業やその事業の競争力を分析するためのフレームワークの一つで、1991年に米経営学者ジェイ・バーニー(Jay Barney)氏が考案した。企業の保有するヒトやモノ、ノウハウ、ブランド、知的財産といった経営資源と能力を4つの観点から総合的に評価する。
価値(V:Value)についての観点は、企業の持つ資源や能力が、市場で機会を得たり脅威を軽減するための役に立つかどうかを問う。技術革新や経済情勢といった機会を活かして収益を得ることができるか、ライバル企業や代替製品といった脅威に対抗し得るかという観点で評価する。
希少性(R:Rarity)についての観点は、資源や能力にどれだけ独自性があるか、市場で希少性を持つか、競合他社が獲得することは困難かを問う。希少な独自の資源や能力は他社に対抗する力の源泉となり得る。希少性がある場合、それが今後どのくらい続きそうかといった評価も行う。
模倣可能性(I:Imitability)についての観点は、自社の持つ希少な資源や能力を持たない競合他社は、どの程度のコストでこれを模倣することができるかを問う。希少な資源を持っていても低コストで複製、模倣、代替が可能では競争上の優位には繋がらないため、模倣の困難さについて評価を行う。
組織(O:Organization)についての観点は、自社の持つ資源や能力を活用して事業展開できる組織が構築されているかを問う。希少で価値のある資源や能力が実際に利益を生んだり製品として競争力を発揮するには、製品開発や生産、販売などの業務を遂行する組織的な体制が整備されていなければならない。これには部署や人員の整備だけでなく、適切なインセンティブが働く給与体系といった要素も含まれる。
3C分析 ⭐
企業がマーケティングなどを行う際に用いる分析手法の一つで、「顧客」(市場)、「競合」、「自社」の3つの要素に着目して事業環境を調べること。
「顧客」(Customer)は想定顧客や市場環境の分析で、市場の規模や成長性、想定する顧客層のニーズや行動特性を検討する。「競合」(Competitor)は市場で競合する他社の分析で、各社の現在の市場シェアやポジション、戦略や特性、強みや弱みなどを明らかにする。
「自社」(Company)は自社の経営理念や経営戦略、事業の現況、強みや弱み、動員できる経営資源などをまとめる。自社の分析ではSWOT分析やVRIO分析などを併用する場合もある。これら3つの「C」を合わせた分析手法であるため「3C分析」と呼ばれる。
1982年に大手経営コンサルティング会社、マッキンゼー・アンド・カンパニーに在籍していた大前研一氏が提唱した手法である。3Cに加えて「協力者」(Cooperator)や 「流通チャネル」(Channel:販売代理店など)を加えた「4C分析」、さらに「コミュニティ」(Community:地域社会など)を加えた「5C」、自社の3Cと顧客の3Cを分析する「6C分析」などのバリエーションがある。
イノベーション ⭐
まったく新しい発想、革新的な手段・方法(の創造)、新機軸、などの意味を持つ英単語。画期的な新技術やまったく新しい物事の仕組みを創造し、世の中に変革を促すこと。
日本では技術分野におけるイノベーションを指して「技術革新」の訳語が当てられることもあったが、近年では技術に限らず様々な仕組みの変革や創造を含む概念としてイノベーションの語を外来語としてそのまま使うのが一般的となっている。
企業が宣伝文句に使う場合などには単に新技術の開発、新しい仕組みの導入などの意味で用いられることが多いが、本来はその結果引き起こされる社会の不可逆的な変化を含む概念であるとされる。
何を変革・刷新するかによって分類する場合がある。例えば、まったく新しい製品を創造することを「プロダクトイノベーション」、まったく新しいやり方や作り方、方法などを考案することを「プロセスイノベーション」、まったく新しい市場や販路を生み出すことを「マーケットイノベーション」などという。
デジタルディスラプション ⭐
ITや通信を利用した新しい形態のビジネスが興隆することで、既存の企業やサービスなどが致命的な打撃を受けること。デジタル技術による破壊的なイノベーション。
スマートフォンやインターネットなどのデジタル技術により革新的なサービスや取引市場が生み出され、既存市場の業界秩序、産業構造、商習慣などを根底から覆す破壊的な影響を与える現象を指す。
単なる効率化などに留まらず、デジタルにより製品やサービス、商取引、市場などのあり方そのものが従来とは異なるものに不可逆に急激に変化するような革新が起きる。既存企業の事業モデルは立ち行かなくなり、市場からの退出を余儀なくされることも多い。
よく挙げられる例として、オンライン書籍販売の普及による「街の本屋さん」の大量廃業、ネットオークションやフリマアプリの普及による子供服買取・販売店やリサイクルショップの衰退、音楽・映像コンテンツのネット配信の普及によるCD/DVD販売やレンタル業の衰退などがある。
新興デジタル企業が伝統的な市場で起こす例だけでなく、定額利用し放題のサブスクリプションサービスが普及することで従来の個別買い切り型のオンライン販売サービスが零落するなど、デジタル企業間でデジタルディスラプションが起きることもある。
コアコンピタンス ⭐⭐
企業が事業を推進するために保有している能力や経営資源のうち、競合他社より圧倒的に優れている、あるいは、他社では真似できない独自の要素のこと。
その企業の競争力の中核となる「強み」のことで、そのような強みを持つ事業分野や部門、人材などのことを指すこともある。具体的に何をコアコンピタンスとするかは企業により様々であり、ノウハウや技術、技能、人的コネクション、ブランド、企業文化など様々な形を取る。
1990年にゲイリー・ハメル(Gary P. Hamel)氏とコインバトール・プラハラード(Coimbatore K. Prahalad)氏がハーバード・ビジネス・レビュー誌に寄稿した “The Core Competence of the Corporation” という論文で発表した概念で、コアコンピタンスとなる能力の条件として「様々な市場に適用できる」「顧客の利益になる」「競合に真似されにくい」の3つを挙げている。
日本では元の論文の表題どおりコアコンピタンス(core competence)の表記が定着しているが、英語では“core comepetency” (コアコンピテンシー)の表記が一般的となっている。どちらでも意味や用法は変わらない。
ニッチャー戦略 【マーケットニッチャー】 ⭐
企業の市場における競争上の地位(ポジション)および戦略の類型の一つで、規模の小さい特殊な製品の「すきま市場」で独占的あるいは寡占的な地位を築いた企業およびその取るべき戦略のこと。
「ニッチ」(niche)とは「隙間」という意味で、大きな市場の中に存在する、製品や顧客が特殊で規模の小さいサブ市場のことである。ここに特化した中小規模の企業を「ニッチャー」(nicher)と呼び、市場規模が小さいため大きな売上(の拡大)は見込めないが、上位カテゴリー市場の大手が本格参入しにくいため安定して高い利益をあげることができる。
取るべき戦略としては、独自の技術やブランド、流通チャネルといった専門性、独自性を徹底的に磨き上げ、隣接領域や上位カテゴリーの大手企業が参入してこないよう高い参入障壁を築く戦略や、ニッチ市場が衰退・消滅することに備えて強みを活かせる別のニッチ市場を創出する戦略などが挙げられる。
アメリカの経営学者フィリップ・コトラー(Philip Kotler)氏が提唱した競争地位戦略で定義されている類型の一つで、氏は他の類型として、大きな市場で最大のシェアを持つトップ企業の「リーダー戦略」(leader strategy)、トップ争いに参加する2番手企業の「チャレンジャー戦略」(challenger strategy)、トップを狙う位置にない下位企業の「フォロワー戦略」(follower strategy)の3つを挙げている。
ブルーオーシャン戦略 ⭐
企業の経営戦略の一つで、競争の激しい既存の市場を避け、それまでになかった価値を提示する独自の製品やサービスにより、それまで知られていなかった新たな市場を開拓するというもの。
一つの製品カテゴリー内で多数の企業が競合し、低コスト化や高付加価値化による激しい競争を繰り広げる既存の市場を、血で血を洗う死屍累々の「レッドオーシャン」とし、その争いに巻き込まれない新たな市場である「ブルーオーシャン」を作り出すことを目指す戦略である。
そのためには、自社の製品やサービスに対し、既成概念に囚われず大胆に何かを「取り除く」「減らす」「付け加える」「増やす」という決断を行い、既存の他社製品と比較されにくい新しい製品カテゴリーとして認識させることが重要となる。
2005年にフランスの経営大学院(ビジネススクール)であるINSEADの教授、W・チャン・キム(W. Chan Kim)氏とレネ・モボルニュ(Renee Mauborgne)氏が共著「Blue Ocean Strategy」(ブルーオーシャン戦略)で提唱した。
氏らは具体例として、性能競争が過熱していた家庭用ゲーム機市場において新たな操作機器および操作方法により今までにないゲーム体験を提供し、既存の熱心な「ゲーム好き」以外の新たな顧客層を開拓した任天堂の「Wii」や、洗髪やひげ剃りを省略し、カットのみ10分1000円で安く素早く散髪できる理容店チェーン「QBハウス」などを挙げている。
エコシステム
「生態系」という意味の英単語。ビジネス分野では、互いに独立した企業や事業、製品、サービスなどが相互に依存しあって一つのビジネス環境を構成する様子を生物の生態系になぞらえてこのように呼ぶことがある。
ビジネス上の繋がりとしては受注-発注、販売-購入といった直接的な取引関係が一般によく知られるが、エコシステムという場合は、このような直接的な商取引関係が無いにも関わらず、複数の事業者や製品などが互いに関連・依存し合い、総体としてある種の経済圏を形成する様子を表している。
IT分野では間接的な繋がりを介したビジネス環境が現れやすい。例えば、あるメーカーのスマートフォン製品向けに、そのメーカーとは別の企業がアプリケーションソフトを発売し、これが人気を博すと、そのアプリ目当てにその機種を求める消費者が増える。
これを見た他のソフトウェア企業も人気機種の利用者を目当てにアプリを提供するようになり、豊富な対応アプリを見てますます消費者が集まり…という循環的なプロセスが発生し、スマートフォンとアプリが互いに相手の普及を促進し合う関係となる。
この環境の中核にあるのはスマートフォンだが、人気のきっかけは他社の対応ソフトであり、それは必ずしも直接的な取引関係によって生み出されるとは限らない。このような、形式的には互いに独立している事業者や製品同士が組み合わされることで循環的に経済が駆動する様子を、食物連鎖などを通じて相互に結びついて繁栄する生物群になぞらえてエコシステムと呼ぶようになった。
IT分野でエコシステムを形成する中核となる製品やサービスの例として、パソコン、家庭用ゲーム機、オペレーティングシステム(OS)、スマートフォン、Webブラウザ、SNS、ECサイト、クラウドサービスなどが挙げられる。
インターネットやデジタル経済におけるエコシステムの基盤(プラットフォーム)を握る事業者は絶大な影響力を持ち、「プラットフォーマー」(和製英語)と呼称される。米グーグル(Google)社、米アップル(Apple)社、米フェイスブック(Facebook)社、米アマゾンドットコム(Amazon.com)社が特に有力とされ、4社の頭文字を繋げて「GAFA」(ガーファ)と呼ばれる。
アライアンス ⭐⭐⭐
同盟、連合、提携、縁故などの意味を持つ英単語。などに関しても用いるが、日本語の外来語としては企業間の提携、合弁、協業など(および、そのような関係にある企業グループ)のことを意味することが多い。英語の原義では国家や政党の同盟関係なども表す。
企業間のアライアンスという場合、資本関係や受発注関係のような力関係に差のあるグループではなく、互いに独立した企業同士の対等な提携関係や共同事業を表すことが多い。主従関係に至らない範囲で株式の持ち合い等の資本提携を行う例はある。
異業種間で互いに必要な機能や役割を提供し合う提携関係を指すことが多いが、同業種や事業に共通点のある企業間で共通の制度を運用したり、同じ技術規格を推進したりする連合体の名称として用いられることもある。
著名な例として、航空業界で共通のマイレージプログラムや共同運行などを推進する各国航空会社の連合体や、消費者向け事業を営む企業間で顧客に発行したポイントを相互に利用できるようにする提携プログラム、IT業界に多く見られる特定の標準技術を支持する企業連合などがある。
アウトソーシング
企業などが業務の一部を別の企業などに委託すること。外部委託、外注、外製、業務委託、社外調達などもほぼ同義。自社で人員を確保するのが困難な高度に専門的な業務や、専業の事業者の方が低コストで処理できるような業務で行われることが多い。
委託側は専門的な業務や周辺的な業務などをアウトソーシングすることで、自らの本業や強みを持つ業務や事業、部門に資源を集中できる。また、業務量の変動が大きい場合、仕事があるときだけ必要に応じて外部に発注することで、ピーク時に合わせて設備や人員を固定的に保有する必要がなくなる。
受託側は様々な企業から同種の業務のアウトソーシングを請け負うことで規模を拡大して固定費を節減でき、各企業が内部で行うよりも低コストで業務を遂行することができる。一企業では大きな繁閑差がある場合も、多数の企業から同じ業務を請け負うことで平準化することができる。
特に、コストの低さなどを見込んで海外の事業者へ業務を委託することを「オフショアアウトソーシング」(offshore outsourcing)あるいは「オフショアリング」(offshoring)、近隣国や国内の別の地方の事業者へ委託することを「ニアショアアウトソーシング」(nearshore outsourcing)あるいは「ニアショアリング」(nearshoring)という。一方、アウトソーシングと対比する文脈で、社内で行う業務や社内で抱える人員や部門などを指す場合は「インハウス」(inhouse)という。
M&A 【Mergers and Acquisitions】 ⭐⭐
ある企業が合併や買収により他の企業と統合して一体になること。合併・吸収、子会社化、事業売却・譲渡などの総称。広義には、合弁(共同出資)や資本提携(マイナー出資)、会社分割などを含む場合もある。
ある企業が他の企業の株式を買い占めて買収(acquisition)したり、複数の企業が合併(merger)して一つの企業になることを指す。買収では子会社化する場合と本体へ吸収する場合に分かれ、合併では法人自体が合併して一体となる場合と共同持株会社を設立して企業グループとして統合する場合に分かれる。
M&Aは自社にない製品や人材、技術、ノウハウ、販路などを持つ企業を丸ごと取得して自社の経営資源に加えたり、同業他社と合併して事業規模や市場シェアを高めたり、他分野の企業を買収して自社にとっての新規事業としたり、他国の企業を買い取って新市場に進出したりするために行われる。
OEM 【Original Equipment Manufacturing】
他社の名義やブランド名で販売される製品を製造すること。また、そのような受託製造業者。販売者が製品の製造を全面的に他社に委託する契約形態。
OEMメーカーは発注元企業から製品の製造を受託し、指定の仕様や数量で生産、納品する。発注元が製品の販売元となり、製品を自社のブランドや製品名、型番などで販売する。発注元が小売業などの場合は「プライベートブランド」(PB)とも呼ばれる。
営業力やブランド力、販売網などを持つ企業が、工場など生産手段のあるメーカーに製造を委託することによって行われる。OEMメーカーは(当該市場において)自ら販路を持たない製造専門の企業(中小企業や外国企業に多い)の場合と、自らも市場で自社ブランド製品を販売している企業の場合がある。
また、発注元が販売する製品の全量をOEMとして委託する場合と、自らも一部を生産する場合(需要が急増して自社生産が追いつかない場合など)がある。受注元や委託先も一社とは限らず、一社が複数社からOEM供給を受ける場合や、逆に、一社が複数社にOEM提供する場合もある。
かつては、市場で仕入れた製品に独自の機能などを付加して顧客に再販するメーカーという意味で使われていたこともあるが、このような業態は「VAR」(Value Added Reseller)などと呼ばれることが多く、現在ではOEMをこの意味で用いるのはあまり一般的ではない。
なお、製造だけでなく企画や設計、開発、デザインなどの段階から請け負う場合は「ODM」(Original Design Manufacturer/Manufacturing)と呼ぶことがある。
ファブレス 【ファブレス企業】 ⭐
製造業(メーカー)として事業を行う企業のうち、工場などの製造設備を所有せず、生産工程を丸ごと外部の企業に委託する事業者のこと。また、そのような事業モデル。生産以外の工程は原則として自社で行う。
自らは製品の企画、開発、設計、販売、サポートなどを行い、部材や原材料の調達、製造、組み立てといった工程は外部の提携先の工場に委託する。製造設備や施設などの資産および人員を固定的に抱えず、固定費や償却コストを気にせず事業計画を立てられるため、市場の変化に対応して素早く製品を投入したり切り替えたりすることができる。
原則として製造した製品はすべて自社の資産(在庫)として所有し、自社ブランドの製品として出荷するため、他社製品を仕入れて販売する販売代理店や商社、問屋、卸売業者とは区別されるが、統計上の産業分類などでは卸売業などに分類されることもある。
もともとアパレルなど流行の移り変わりの速い業種で一般的な業態だったが、1980年代以降はそれまで自社生産が一般的だった電子機器や家電製品、半導体製品などIT関連の業種でも広まった。ファブレスの興隆に伴って、委託先となる(自社製品を持たない)生産専門のメーカーも台頭しており、電子機器の受託生産メーカーを「EMS」(Electronics Manufacturing Service)、半導体製品の受託生産メーカーを「ファウンドリ」(foundry)という。
フランチャイズチェーン ⭐
事業を多店舗展開する手法の一つで、本部企業が資本関係などを持たない外部の事業主と加盟店契約を結んで店舗運営を委託する手法。加盟店は自社で店舗運営を行い、本部にはブランド使用料などを収める。
本部は店名や商標、商品、ノウハウなどを提供し、加盟店側はロイヤルティなどの対価を支払って店舗の営業を行う。本部企業を「フランチャイザー」(franchiser)、加盟店を「フランチャイジー」(franchisee)という。小売や外食などの産業に多い事業形態である。
フランチャイズチェーンにおける本部と加盟店(企業や個人事業主)は資本関係(親会社・子会社)や雇用関係(雇用主・従業員)にはなく、それぞれ独立した事業主体である。本部側は自ら直営店を増やす場合に比べ、外部の資本や人材を利用してスピーディーに事業展開できる。
加盟店側は資本の調達、施設や設備の手配、従業員の採用や雇用などを独力で行わなければならないが、本部のブランドや商品力を利用して早期に事業を軌道に乗せることができる。また、契約の範囲内で事業運営に裁量権を持つことができ、契約上定められた対価(ロイヤルティ)を支払えば事業主として収益を自らのものとすることができる。
本部企業が何を提供するかは企業や事業形態によって異なるが、一般的には商号やロゴマーク、商品やサービス、営業ノウハウ、業務マニュアル、原材料、情報システムなど、その店舗の事業運営上必要となる様々な要素が対象となる。加盟店が収める対価には、売上や利益に一定の割合で課されるロイヤルティやブランド使用料、商品や原材料などの仕入れ代金などがある。
MBO 【Management Buyout】 ⭐⭐
企業買収の類型の一つで、その企業の役員などの経営陣が株式の過半を取得して買収すること。また、子会社や事業部門の幹部が本社からその事業を買い取って独立すること。
上場企業などで時価総額が大きい場合、創業社長などが巨額の個人資産から買収資金を捻出することもあるが、サラリーマン社長などの場合は個人では賄えない額であることが多い。その場合、銀行や投資ファンドなどが本人(たち)や本人の設立した特定目的会社(SPC)に買収資金を融資したり、本人と組んだ投資ファンドや投資組合が株式の買い付けを実施し、そのファンドなどが大株主となる場合が多い。
本人が自己資金で買収した場合はそのまま本人がオーナーとして安定的に所有し続けることもあるが、投資ファンドなどは投資事業として資金を拠出するため、企業価値向上の施策を実施して、ある程度の期間を経た後、再び株式市場に上場したり、別の企業など第三者に売却するなどして資金回収を行う。
なお、創業者や役員など経営側ではない一般の従業員が資金を調達して株式を買い取る形の企業買収もあり、「EBO」(Employee Buyout)と呼ばれる。中小企業の創業者が高齢で引退し、親族が引き継ぐつもりがない場合に古株社員が共同で買い取るといった事例が多く見られる。
TOB 【Takeover Bid】 ⭐⭐
上場企業の株式を、買い取り条件を公表して不特定多数の株主から株式市場外で買い付けること。企業買収などの際に行われる。経営陣の賛同を得て行う「友好的TOB」と、反対を押し切って行う「敵対的TOB」がある。
TOBを実施する側は、株式の買い取り期間、買い取り価格、買い取り予定株数を広く告知し、既存株主に買い付けへの応募を呼びかける。呼びかけに応じた株主から市場外の相対取引で株式を買い取る。
期間内に予定株数を買い付けることができればTOBは成功、できなければ失敗となる。完全子会社化を目指すTOBが成功した場合は上場廃止となり、買い付けに応じなかった株主からも強制買い取りが可能となる。日本を含む多くの国では、一定の割合以上の株式を市場外で買い付ける場合には所定の手続きに基づいてTOBを行うよう義務付けている。
規模の経済 ⭐
経済活動において、規模の大小によって有利、不利が生じる状況のこと。生産量を増やすと一単位あたりの固定費が減少していく現象などがよく知られる。
一般に、企業活動では製品やサービスを一単位生み出したり提供するたびに必要となる変動費(原材料費など)と、生産量に直接的には比例しない固定費(製造機械の購入代金、事業所の賃貸料など)が必要となる。
固定費が同じ環境で比較すると、製品やサービスをより多く生産・提供した方が一単位あたりの固定費を減少させることができ、利益を増やしたり価格を引き下げて競争力を向上させることができる。規模の拡大で生じる優位性や利益を「スケールメリット」と呼ぶことがある。
経験曲線 【エクスペリエンスカーブ】
ある活動についての経験と効率の関係を図示したもの。経験が蓄積されるに連れて初期は急激に、次第に緩やかに効率が改善する右下がりの曲線となる。
ある個人の作業や課題に関して、経験と習熟度の関係を図示したものを学習曲線というが、この概念を拡張し、工場での生産など組織的な活動についても経験と効率の間に見られる関連性を表したものが経験曲線である。
多くの活動に普遍的に見られる傾向として、活動を開始した序盤には急激に効率が向上するが、時間の経過と共に改善度合いは次第に緩やかになり、ある一定の値に近づいていくという法則性がある。これを「経験曲線効果」(experience curve effect)という。
例えば、企業がある製品を製造し続けると、単位生産コストや完成までの作業時間は初期に急激に低下していき、次第に低下のペースが緩やかになり一定の値に近づいていく。縦軸をコスト、横軸を累積生産量として図示すると下に凸の曲線を描く。
垂直統合 【垂直統合モデル】 ⭐
前後や上下に並んだ異なる階層や役割の要素を統合すること。ITの分野では、ハードウェアとOS、アプリケーションなどシステム中の異なる要素を一社が手掛けて一体として提供することを指すことが多い。
垂直統合型システム
情報システムの構成で、コンピュータ本体や内部の装置、オペレーティングシステム(OS)、ミドルウェア、アプリケーションソフトなど、一つのシステムとして機能する様々な構成要素を一社が手掛け、全体としてパッケージ化した製品を垂直統合型システムという。
例えば、コンピュータメーカーがそのコンピュータ用のOSを開発して内部に組み込んで販売したり、OSメーカーがミドルウェアやアプリケーションソフトを開発して統合パッケージとして販売することなどを意味する。
事業や企業の垂直統合
経済や経営の分野では、ある分野の商品や取引の流れに沿って異なる領域に事業を拡大したり企業を合併・統合していくことを垂直統合という。
例えば、完成品メーカーが部品メーカーや原材料メーカーを買収したり、メーカーが直営店を設けて自社製品を販売したり、小売店が製品の製造や原材料の調達などの事業に進出することなどを意味する。
コモディティ化 ⭐
各生産者ごとの製品の特徴の違いが次第に失われ、均質化・均等化していくこと。価格など製品の性質以外の要素のみで競争が行われるようになる。
工業製品などでよく見られる現象で、当初は各社が製品の機能や性能、特徴の違いを積極的に打ち出して競争していたが、様々な要因によりメーカーごとの違いが失われ、どこも同じような製品を生産・販売するようになる状況を意味する。生産者による違いが見られない商品のことを「コモディティ」(commodity)という。
コモディティ化した商品の市場では消費者・需要者側にとっては商品そのものは「どこから買ってもほとんど同じ」で、違うのは価格や納期ぐらいであるため、激しい価格競争が起こり利益率が低下することが知られている。
コモディティ化が起こるのは、技術が成熟して機能や性能、品質の大幅な向上・改良が見込めなくなった場合や、製品や要素技術の規格化が進んで独自の仕様や技術の採用が難しくなった場合、法律や制度、基準、規制などが厳しくなり、これに適合するように設計すると独自性を盛り込む余地がほとんどない場合などがある。
IT業界でよく知られる事例にはパソコンがある。1980年代の初期の市場では各メーカーが個別仕様の機種を開発し、機能や性能、特色を競い合っていたが、ハードウェアが「PC/AT互換機」に、OSが「MS-DOS」や「Windows」に収束すると、各社は標準仕様から逸脱した製品を開発しにくくなり、独自路線を貫き続ける米アップル(Apple)社の「Mac」シリーズを除いてほぼコモディティ化した。
ベンチマーキング ⭐⭐
企業などが自らの製品や事業、組織、プロセスなどを他社の優れた事例を指標として比較・分析し、改善すべき点を見出す手法。同業他社との相対評価。
改善対象となる分野や関心領域について、既存の優れた実践事例(ベストプラクティス)、自らより優れている競合他社の事例などを比較対象として選択し、同じ基準に揃えたデータなどを用いて比較・対照し、改善のために行うべき施策を検討・実施する。比較対象とする相手やその実績などを「ベンチマーク」(benchmark)という。
具体的な手法は様々だが、対象とする領域や主題を明確にすること、比較のために必要なデータや情報は彼我で同じ基準や参照元、調査手法により得ること、分析に終わらず具体的な施策に落とし込み、実施結果を評価することなどが重要であるとされる。
選択した主題によっては、比較対象として同じ業界内の競合ではなく、他分野・異業種でその主題について優れた実践を行っている組織などを選択する方が良い場合もある。航空会社が給油手順の改善のため自動車レースのプロチームに学んだ事例などが知られている。
ロジスティクス ⭐
物流、兵站、資材調達、後方支援などの意味を持つ英単語。活動に必要となる原材料や物品、資器材の調達や手配、輸送、備蓄、配備などを管理すること。
もとは軍事用語の「兵站」を意味し、兵器や物資など軍が活動するのに必要な資源の調達や確保、備蓄や管理、輸送や配備、補給などを行う工程を指す。後にビジネス分野などでも同種の業務をロジスティクスと呼ぶようになった。俗に「ロジ」と略されることもある。
産業におけるロジスティクスという場合は、主に製造業などで原材料や部品の購買や生産現場への供給、仕掛品の管理、完成品の在庫管理と店舗や顧客への配送などの業務や工程を指す。単にこれらの活動を実施するに留まらず、原料から消費までのサプライチェーン全体に渡る連携、関連する情報の収集や管理、予測や計画策定、効率化や最適化などを含む。業種や事業を指す場合は、やや狭義の「物流」に近い意味となり、物資や製品の梱包や保管、輸送や配達を表すことが多い。
カニバリゼーション 【カニバる】
「共食い」という意味の英単語で、ビジネスにおいて自社の製品や店舗間で同じ顧客や市場を巡って競合、奪い合いが発生する状況を指す。
同じ企業や同一企業グループの中で、複数の製品やブランド、販路などが同じ顧客や売り場、商圏などで競合し、売上や利益、市場シェアを奪い合う現象を指す。俗に「カニバる」「カニバっている」のように動詞化した表現が用いられることもある。
例えば、同一カテゴリーの同一価格帯に別ブランドの似たような製品を投入する状況や、既存店舗のすぐ近くに同じチェーンの別の店舗を展開するような状況、同一の商品を店舗とオンラインショップの両方で販売するような状況などが該当する。
カニバリゼーションは経営の失敗の結果、意図せず発生する場合と、戦略上あえて引き起こす場合がある。意図せず起きるカニバリゼーションは、社内の統制が取れずに別の部署が似たような製品をぶつけ合ってしまう場合や、新しい製品カテゴリーやブランドを開拓したつもりが、既存製品のシェアを奪うだけに終わってしまった場合などが該当する。
一方、意図的にカニバリゼーションを引き起こす場合として、圧倒的なトップ企業が社内の部署同士を互いにライバルとして同じ市場内で競争させる場合や、市場や商圏から他社を追い出すために自社競合を承知で高密度の展開をする場合(ドミナント戦略)などがある。
ESG投資 【Environmental, Social and Governance investing】
企業への投資を検討する際、「環境」「社会」「企業統治」の3つの要素を判断材料として用いること。年金基金などの機関投資家を中心に世界的に広まりつつある。
従来の投資判断は企業が生み出す利益に着目し、売上高や経常利益、利益率、キャッシュフローといった金銭的な指標(財務指標)によって企業価値や投資可否を検討するのが一般的だった。
ESG投資ではこれらの指標に加えて、地球環境(E:Environment)の保護に対する取り組みや実績、国際社会や地域社会(S:Society)への貢献や負の影響の軽減、不正や専横の防止といった経営陣による企業統治(G:Governance)に関する状況を勘案する。
こうした側面は必ずしも短期的な収益や企業成長に直接的に寄与するとは限らないが、これらに真剣に取り組む企業に資金が集まり安定的に成長することで、持続可能で安定した経済・社会を築き、長期的な投資リスクの軽減に繋がることが期待される。
国連責任投資原則 (PRI:Principles for Responsible Investment)
国連が2006年に世界の金融業界に向けて提唱した投資活動に関する原則で、ESG投資のガイドラインとして用いられている。投資家としての6つの原則と、これに基づく35の具体的な行動で構成される。
各原則の内容は「投資判断にESGを採用する」「株主としてESGの観点から行動する」「投資先にESGについて情報開示を求める」「資産運用業界にPRIの採用を働きかける」「PRIの効力を高めるために互いに協力する」「投資家としてのPRIへの取り組み状況を開示する」となっている。
2006年に国連環境計画(UNEP)および国連グローバル・コンパクト(UNGC)が中心となって策定したもので、以降は同名の国連外郭団体(The PRIあるいはUNPRIと呼ばれる)が設立され、引き続き推進している。日本では2015年に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が署名したことで注目を集め、資産運用会社や保険会社など数十の機関が署名している。
広告 【アド】
ある事業主体が自らの存在やブランド、製品、サービスなどについての情報を人々に広く知らせるため、情報媒体(インターネットの場合はWebページなど)の一部を買い取り、自らの宣伝であることを明示した上で情報を提示すること。
広告を実施する主体のことを「広告主」、広告として掲示される表現を「広告物」あるいは「広告クリエイティブ」(和製英語)、広告表現が掲示される場を「広告媒体」(広告メディア)、広告主と広告物の制作者、広告媒体などの間を取り次いで広告プロジェクト全体を取り仕切る事業者を「広告代理店」という。
広告は媒体の種類によって対象や内容、効果などが大きく異なるため、媒体ごとに分類することが多い。テレビ、ラジオ、新聞、雑誌のマスメディア(マス4媒体)を媒体とするものを「マス広告」(マスメディア広告/マス4媒体広告)という。
インターネットを流通経路としてWebサイトやスマホアプリなど電子メディアを媒体とするものを「インターネット広告」(オンライン広告/デジタル広告)、屋外の看板や交通機関の車内ポスター、折込みチラシ、ダイレクトメール、フリーペーパー、店頭ディスプレイ(POP)、イベントなどを媒体とするものを「プロモーショメディア広告」という。
一方、広告と混同されがちだが、新製品発表などの告知文をメディアに送ったり、イベントを開くなどして話題を作ることでメディアに取材してもらい、記事などの形で自社について報じるよう促す活動(および、その結果報じられた内容)のことは、広報、PR(Public Relations)、パブリシティなどと呼び、広告とは区別される。
ダイレクトレスポンス広告
広告手法の類型のうち、購買やサービス加入など具体的な行動を起こしてもらうことを狙ったものを「ダイレクトレスポンス広告」あるいは「レスポンス広告」という。
広告対象の特徴や価格など「ウリ」となる要素を直接的、説明的に訴求し、来店・来場や資料請求、購入申し込みなど、直接的な反応(レスポンス)を惹起することを目的に制作・公開される。Web広告をはじめとするネット広告は広告主へのリンクが含まれるためほとんどがこの方式で、他にダイレクトメール、テレビやラジオの通販番組などが該当する。
イメージ広告 (ブランディング広告)
広告手法の類型のうち、製品やブランド、あるいは企業そのものの知名度やイメージの向上を狙ったものを「イメージ広告」「ブランディング広告」(ブランド広告)「企業広告」(企業自体が対象の場合)などという。
消費者に企業や製品ブランド、あるいは個別の製品の認知度やイメージの向上を促し、小売店への来訪など購入機会が訪れた際に想起されることを目指して制作・公開される。テレビCMのようなマスメディア広告の多くがこの方式で、ネット広告でも一部のディスプレイ広告やビデオ広告がブランディングを目的に行わる場合がある。
UX 【User Experience】 ⭐
ある製品やサービスとの関わりを通じて利用者が得る体験およびその印象の総体。使いやすさのような個別の性質や要素だけでなく、利用者と対象物の出会いから別れまでの間に生まれる経験の全体が含まれる。
対象物の機能や性能、内容、使い勝手といった性質そのものよりも、それを通じて利用者が得られる経験がどのようなものであるかに着目する概念である。対象物の持つ特性だけでは決まらず、利用者側の属性や個性、利用者を取り巻く環境や利用時の状況などにも強く影響を受けるため、作り手側ですべてを制御することは難しい。
よく混同されるが、「ユーザーインターフェース」(UI:User Interface)は対象物の具体的な使用・操作の方法や様式を定めたもので、「ユーザビリティ」(usability)は対象物の使い勝手、使いやすさを指す。UXはこれらの要素を含むが、これらを通じて得られる最終的な体験、および体験を通じて惹起される感情が中心となる。
また、従来は製品の使用感をある一回(初回)の使い方や印象に限定して捉えることが多かったが、UXはこれを通時的に捉える。すなわち、製品やサービスと利用者との出会い(プロモーションや販売・加入など)、使用の開始(開封や初期設定など)、使用の継続や反復(様々な状況・環境を含む)、使用の終了(廃棄や買い替え、解約など)といった各場面における利用者の感じ方をそれぞれ検討する。
“user experience” という表現自体は以前から使われていたようだが、1990年代半ばに当時の米アップルコンピュータ(Apple Computer)社(現アップル)に勤務していた認知心理学者のドナルド・ノーマン(Donald A. Norman)博士により、コンピュータやソフトウェアなどの分野で現在の用法が広まったとされている。
現在ではITの分野に限らず工業製品や小売業など様々な分野で引用される概念となり、また、「対象者の体験の総体に着目する」という考え方から「カスタマーエクスペリエンス」(CX:Customer Experience)など様々な “~ experience” という派生概念を生み出している。
カスタマーエクスペリエンス 【CX】
顧客が事業者との一連の接触を通じて得る体験の総体。その体験により顧客が得た認識や、受けた印象、認めた価値などを指すこともある。
顧客から見て、ある事業者を認知して接点を持ち、顧客として商品やサービスを購入し、アフターサービスを受けたり再び何かを購入する、こうした一連の接触機会を通じて形成される体験の総体を顧客体験という。
体験の内容には、接客や購入手続き、サポートやメンテナンス、商品の外観や包装、商品やサービス自体の使用や消費といった直接的な接触から得られるものと、広告やメディアで事業者や商品を目にしたり、第三者による口コミを見聞きするなど間接的な接触から得られるものがある。
マーケティング分野でよく用いられる概念で、従来のように事業者側の都合で商品や売り方などを個別に検討し改善しようとするのではなく、顧客側から見て企業や商品との接触の流れが全体としてスムーズで心地よいものでなければならないという意図が込められている。
4P 【マーケティングの4P】 ⭐⭐⭐
企業や事業の競争力を分析する際の考え方の枠組みの一つで、企業側から見て重要な点として「製品」「価格」「宣伝」「立地」(流通)の4つの要素に着目する手法。
これらは製品のマーケティングなどを行う際に、企業側、売り手の視点から重視すべき要素・要因とされる。製品(Product)には製品やサービスの品質や特徴、付加価値、デザイン、機能、性能などが含まれ、価格(Price)には価格、割引条件、支払い条件などが含まれる。
宣伝(Promotion)は告知や広報、広告、宣伝、販売促進策などを表し、立地(Place)は販売店(舗)、代理店、流通経路、店頭の品揃え、在庫量などを意味する。これら4つの “P” の組み合わせであるため「4P」と呼ばれる。
一方、顧客側、消費者側、買い手側から見て重要な点として、“Customer value” (顧客にとっての価値)あるいは “Consumer needs and wants” (消費者の求めるもの)、“Cost” (価格)、“Convenience” (買いやすさ)、“Communication” (コミュニケーション)の4つの “C” に着目する手法を「マーケティングの4C」、あるいは単に4C、4C分析などという。
4C 【マーケティングの4C】 ⭐
企業や事業の競争力を分析する際の考え方の枠組みの一つで、顧客側から見て重要な点として「顧客にとっての価値」「価格」「買いやすさ」「コミュニケーション」の4つの要素に着目する手法。一つ目は「消費者の求めるもの」とする場合もある。
これらは製品のマーケティングなどを行う際に、顧客側、消費者側、買い手の視点から重視すべき要素・要因とされる。顧客にとっての価値(Customer value)あるいは消費者の求めるもの(Consumer needs and wants)は顧客や消費者にとっての製品の価値、製品に求めるものを表す。価格(Cost)は製品の価格政策を表し、買い手にとって価格は負担すべきコストであるという意味合いが込められている。
買いやすさ(Convenience)は入手の容易性、消費者にとっての手に入れやすさを表し、コミュニケーション(Communication)は広告や顧客からのフィードバックなど、企業側と顧客側/消費者側とのコミュニケーションの手段や質を意味する。これら4つの “C” の組み合わせであるため「4C」と呼ばれる。
一方、企業側、売り手側から見て重要な点として、“Product” (製品)、“Price” (価格)、“Promotion” (宣伝)、“Place” (立地、流通)の4つの “P” に着目する手法を「マーケティングの4P」、あるいは単に「4P」「4P分析」などという。
RFM分析 【Recency Frequency Monetary analysis】 ⭐⭐
顧客の購買履歴の分析手法の一つで、「最終購入日」「購入頻度」「購入額」の3つの要素に着目する方式。同じ特徴を持つ顧客をグループ化する手法としてよく用いられる。
この三点についてそれぞれスコアやランクを付け、それらの組み合わせにより顧客を分類する。同じグループの顧客の地理的な分布を分析して各店舗の立地に即した販売施策を考えたり、グループごとにダイレクトメールやクーポン発行などの頻度や内容を最適化したりといった施策に結びつける。
例えば、最終購入日(R:Recency)と購入頻度(F:Frequency)が高く、購入額(M:Monetary)が低い顧客は得意客だが少額しか購入しないため、合わせ買いや上位の製品を勧める、FとMが高くRが低い顧客は以前は優良顧客だったが何らかの理由で足が遠のいているため、来店の動機となるようなアプローチを考える、などといった細かい対応が可能となる。
また、各スコアやランクに重み付けして合計するなどして、優良度の指標(RFMスコア)とする場合もある。指標が上位の優良顧客のみを対象とした販促プログラムの考案などが可能となる。
アンゾフの成長マトリクス 【Ansoff matrix】 ⭐⭐
企業の成長戦略を、市場の新規性の有無、製品の新規性の有無の組み合わせで4つに分類し、格子状に図示したもの。市場と製品の特徴から、取るべき戦略を類型化している。
1957年にアメリカの経営学者イゴール・アンゾフ(Igor Ansoff)氏が考案した。縦軸を当該企業にとっての市場の新規性(新規/既存)で2分割し、横軸を製品やサービスの新規性(新規/既存)で2分割することにより、平面を4つの象限に分割する。
<$Fig:ansoffmatrix|center|false>これら4つの象限はそれぞれ、現在の市場で既存製品の売上を拡大する「市場浸透」戦略、現在の市場へ新規に開発した製品を投入する「新製品開発」戦略、未経験の市場へ既存製品を売り込む「市場拡大」戦略、未経験の市場へ新規に開発した製品を売り込む「多角化」戦略に対応する。
オピニオンリーダー ⭐⭐
周囲の人や所属する集団の意見や意思決定、選好などに強い影響を及ぼしている人物。影響を受ける側の人は「フォロワー」(follower)ということがある。
一般的には、何らかの社会集団の中で、周囲の人と地位や立場、役割、権限などに明確な違いがないのに、その意見や行動が大きな注目を集め、集団内の他のメンバーの意見や行動、集団全体の意思決定などに実質的に強い影響力を持つ人物を指すことが多い。制度上のリーダーと異なり集団やフォロワーへの明確な権限は無く、責任も負わない。
また、芸能人や政治家、ジャーナリスト、専門家のように、マスメディアや公的な機関・制度などを通じて不特定多数の人に自らの意見や行動を伝達することができ、社会全体や国全体の世論や流行などの形成に強い影響力を持つ人物を指す場合もある。
オピニオンリーダーは能力や資質、実績などに秀でた点があったり、ある分野の知識や技能に通じていたり、常に周囲に先んじて新しいものを取り入れるなど、周囲から尊敬や憧れの対象となる魅力的な人物であることが多い。近年ではインターネット上のコミュニティにおけるオピニオンリーダー的な存在を「インフルエンサー」(influencer)と呼ぶこともある。
イノベーター理論 ⭐
新しいアイデアや技術、およびそれらに基づく製品やサービスなどが世の中に普及する際に、どのような性質の集団から受け入れられていくのかを採用順にカテゴリー分けした理論。
革新的なアイデアや技術(イノベーション)が社会に普及していく過程では、最も初期に受け入れる人、最後まで頑なに受け入れようとしない人など個人によって態度や受け入れ時期に違いが生じるが、これを採用時期によって5段階に分類し、それぞれがどのような属性や性質を持つ社会集団であるかを定義付けている。
アメリカの社会学者、エベレット・ロジャース(Everett M. Rogers)氏が1962年に著した “Diffusion of Innovations” (イノベーション普及学)の中で論じた理論の一部で、氏は経済現象に限らず従来にない目新しいもの全般について適用可能な理論として提唱したが、現代では新製品や新技術のマーケティングに関する理論として受容されている。
5つの集団の人数は均等ではなく、先頭と末尾が少数で中間が多い分布となっている。このため、経過時間に対する普及率を図示すると、初期はなだらかに普及率が上昇していき、途中で急激に普及率が上昇し、普及が一定以上進むと減速し最終的に停滞する「S」字型の曲線を描く。
イノベーター (innovators)
イノベーターは最初にイノベーションを採用するグループで、全体に対する構成は2.5%。多くに共通する性質として、社会的地位が高く、裕福で社交的であり、年齢は若く、技術的な知識への造詣があり、進取の気性に富み、リスクを取ることを厭わず、イノベーター同士の横の繋がりが強い。
地元の繋がり、同窓生といった狭い人間関係から飛び出し、都会的なライフスタイルを好む。リスクや損失、失敗を恐れず周囲に先駆けて新しいものを試すため、この層が飛びついたものは普及せず失敗に終わるものも多い。
アーリーアダプター (early adopters)
アーリーアダプターはイノベーターに次いで2番目にイノベーションを受け入れるグループで構成比は13.5%。社会的な地位の高さや裕福さなどはイノベーター層に近いものの、大きな違いとして、地元社会や長年の付き合いといったローカルな人間関係や社会を重視する。周囲の人物から尊敬され、お手本として参照されるオピニオンリーダー的な存在であり、新しいアイデアや製品を取り入れて成功した体験を周囲に伝えて広める宣教師のような役割を果たす。
アーリーアダプター自身も新しい良いものをいち早く周囲に広めることが自身の集団内での地位の向上や維持に繋がることを心得ているため、イノベーターのように「自身の興味の赴くままに何でもすぐに試す」ことはせず、効果や価値、普及の見込みなどを吟味する傾向がある。
アーリーマジョリティ (early majority)
アーリーマジョリティは3番目にイノベーションを採用する集団で、構成比は34%。大衆的な人々の中で普及の前半の段階で採用する集団で、イノベーターからアーリーマジョリティまでを累積すると構成比(普及率)が50%となる。
この層の人々は近い立場の人々と頻繁に交流するが、先導的な立場に立つことは稀である。自らの意思で進んで新しいアイデアを採用するものの、周囲に対してリードすることは無い。初期の採用者達と平均より遅れて採用する残りの人々の間に挟まる形で存在し、階層間を結びつける役割を果たす。
レイトマジョリティ (late majority)
レイトマジョリティは4番目にイノベーションを採用する集団で、構成比は34%。大衆的な人々の中で普及の後半(普及率50%以降)になってから採用する集団である。基本的に新しいアイデアには懐疑的で、他の人々が採用するまで様子見する。社会的な立場や経済面などの余裕の無さから、不確実性が取り除かれ安全であると確信できるまで採用を見送る傾向が強く、経済的な必要性や周囲からの心理的な圧力などに後押しされる形で採用を決断する。
ラガード (laggards)
ラガードは最も最後にイノベーションを受け入れる集団で、構成比は16%。社会の残りの人々がほとんど採用しても頑なに新しいアイデアに背を向ける人々である。地元社会などの狭い付き合いの中で生きるか、ほとんど社会的に孤立している人が多く、周囲にオピニオンリーダー的な存在がいない。
経済的にも不安定な立場に追い込まれている人が多い。伝統や過去にこだわり、前の世代や(中高年や老人の場合は)若い頃の発想や習慣を変えたくないという思いが強い。新しいアイデアの存在を認識してからも採用するまでに長い時間がかかり、自身の中での合理的な判断として採用を拒絶している場合がある。
オムニチャネル
流通・小売業の戦略の一つで、複数の販売経路や顧客接点を有機的に連携させ、顧客の利便性を高めたり、多様な購買機会を創出すること。一人の顧客と複数の経路(チャネル)で接点を持つことを重視する。
“omni-” は「すべての」を意味する接頭辞である。実店舗やオンライン店舗(ECサイト)、通販カタログ、ダイレクトメール、マスメディア広告、モバイルサイト、SNS、コールセンターなどといったチャネル間の垣根を取り払い、一人の消費者や顧客と多様なチャネルを通じて接触を持ち、販売や顧客満足に繋げていく手法を指す。
例えば、各店舗とECサイトの在庫管理を統合し、顧客が実店舗に来店した際に探している商品の在庫がない場合に、即座に自社のECサイトへ注文を転送して自宅へ届けたり、ネットで注文を受けて実店舗で現物を確認してから購入できるサービスなどが該当する。
複数の販売チャネルを活用する考え方には従来から「マルチチャネル」(multi-channel)があるが、これは「主婦層にはテレビ通販」「若者層にはSNSとECサイト」といったように顧客セグメントごとに異なるチャネルでアプローチすることを意味する。
製品ライフサイクル 【PLC】 ⭐
ある製品の発売から終売までの販売状況の時系列の変化。または、ある製品の個体がたどる、製造から廃棄までの物理的な過程。どちらを指しているかは文脈から判断する必要がある。
製品の販売状況のライフサイクルは一般的に、導入期(発売)→成長期(販売急増)→成熟期(飽和、頭打ち)→衰退期(販売減)という過程をたどる。製品カテゴリー全体や産業全体がこのような過程をたどることも多い。
衰退期に入っても、名称やパッケージ、内容などのリニューアル、新たな用途や顧客の開拓などによって新たに導入期や成長期を迎える場合もある。定番化したロングセラー製品は成熟期のまま長期間安定的に推移することがある。
製品個体の物理的なライフサイクルは一般的に、(企画→設計・開発→)製造・生産→販売→保守・運用・サポート→廃棄・回収(→リユース・リサイクル)、といった過程をたどる。この過程の全体に渡って最適化や効率化を図るため、各部門が連携して包括的に管理することを「製品ライフサイクル管理」(PLM:Product Life-cycle Management)という。
ダイレクトマーケティング 【DM】
企業のマーケティング手法の類型の一つで、顧客や見込み顧客などとの間にメディアや別の事業者を介さず、直に働きかけたり長期的な関係を築く手法。
ビジネス対象となる消費者や法人、既存顧客などに対して直接何らかの働きかけや関係構築を行い、問い合わせや会員登録、商品購入などに結びつける手法を指す。マスメディアなどを介して不特定多数に広告・宣伝を行ったり、小売店や販売代理店などを通じて営業・販売を行う間接的なマーケティングモデルと対比される。
典型的には通信販売(カタログ販売やインターネット販売)やテレマーケティング(電話セールス)、ダイレクトメール(郵便、FAX、電子メール)などを指すことが多いが、航空会社のマイレージプログラムや、ポイントカードなどの会員サービスを含む場合もある。また、マスメディアを利用した広告でも、Webサイト閲覧を促すメッセージを告知するなど、消費者側から直に反応を返す仕組みが組み込まれている場合にはダイレクトマーケティングに含めることがある。
プッシュ戦略
メーカーなどの販売促進戦略の類型の一つで、小売店や卸売業者などの流通事業者に働きかけて顧客への売り込みを促す手法。
メーカーが流通事業者に販売奨励金(リベート)や販売支援員の派遣などのインセンティブを提供したり、製品の詳細や販売手法などについての説明や指導を行い、自社の製品を消費者に積極的に売り込むよう促す手法である。
メーカーから卸売業者へ、卸売業者から小売店へ、小売店から消費者へ押し出すように売り込みが行われる様子を指して「プッシュ」(push:押す)と呼んでいる。小売店などと長期的な協力関係を結んで系列化する手法などもこれに含まれる。
これに対し、メーカーが広告やPR活動、販促イベント、試供品提供などを通じて消費者に直接訴えかけ、需要を喚起して指名買いを促す手法を「プル戦略」(pull strategy)という。プッシュ戦略とは補完的な関係であり、両者を組み合わせて販促戦略を組み立てるのが一般的である。
プル戦略 ⭐
メーカーなどの販売促進戦略の類型の一つで、広告やイベントなどで消費者や製品の既存顧客に働きかけ、製品への需要を喚起する手法。
メーカーが広告・宣伝、販促イベント、試供品提供、SNS等を通じた情報発信や口コミの促進などの活動を通じて消費者に直接訴えかけ、自社製品の「指名買い」を促す手法である。
顧客が小売店で製品を求め、小売店が求めに応じて卸売業者から仕入れ、卸売業者が求めに応じてメーカーに発注するという形で、製品が引き出されるように流通する様子を「プル」(pull:引く)と呼んでいる。
これに対し、メーカーが販売奨励金などで卸売業者や小売店に働きかけ、消費者へ積極的に売り込むよう促す手法を「プッシュ戦略」(push strategy)という。プル戦略とは補完的な関係であり、両者を組み合わせて販促戦略を組み立てるのが一般的である。
マーケティングオートメーション ⭐
潜在顧客への告知や宣伝、接触を持った見込み顧客との関係構築といった一連のマーケティング業務をソフトウェアやネットサービスを利用して自動化、効率化すること。
インターネット広告や自社Webサイトなどを通じた潜在顧客の集客(リードジェネレーション)、メールマガジンなどによる見込み顧客への転換と購入機運の醸成(リードナーチャリング)、特に有望な見込み客(ホットリード)の抽出といった、直接的な売り込み、営業活動に入る前のマーケティングを自動化、効率化する。
マーケティングオートメーションを行うための専門的なソフトウェアやネットサービスを「MAツールという。広告配信の最適化、見込み顧客の属性や状態の管理、接触履歴の記録、メールマガジンなどのメッセージ配信、見込み度合いの評価、施策の記録と分析などの機能があり、見込み顧客の獲得から各種施策の計画と遂行、効果の検証までを組織的に仕組み化して行うことができるようになる。
MAツールの多くはクラウドサービス(SaaS)として提供されており、システムについて専門的な知識や技能がなくても契約後するに使い始められるようになっている。MAは施策や媒体が多種多様であり、ツールによって得意な機能や分野(商材がB to B向けかB to C向けかなど)が異なる。広告配信サービスやSNSといった外部サービス、および営業段階以降に使用するSFAやCRMなど他のシステムとの連携や顧客データの引き継ぎといった機能が利用できる製品もある。
Webマーケティング
企業などのマーケティング活動にWebサイトやWeb上のサービス、Web技術などを応用する手法の総称。オンラインマーケティング(インターネットマーケティング)の一分野だが、ネット上の商業活動はWebに偏っているため、ほとんど同義のように扱われることが多い。
狭義にはWeb上での広告・宣伝活動の総称のように用いられることもあるが、広義にはWebを用いるマーケティング活動全般を意味し、広告関連に加えて市場調査や商品企画、消費者テスト、集客、販売促進、顧客との関係構築などが含まれる。
具体的には、Webページやオンライン動画などへの広告出稿、提携サイト上でのPR記事掲載(アフィリエイト)、ブログや自社Webサイトなどによる情報発信、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)などを通じた顧客や消費者との関係構築(ソーシャルメディアマーケティング)、自社サイトの検索エンジンでの露出の最適化(SEM:検索エンジンマーケティング)、Webサービスによるアンケート調査、会員制サイトなどによる顧客サポートや優待の提供、ECサイトにおける閲覧者・訪問者の顧客転換(CROやEFO、LPOなど)などが挙げられる。
従来手法との比較
マスメディア等を用いる既存のマーケティング手法に比べ、短期間に多数の消費者に告知するような目的には向かないが、製品に関連する特定の分野に自ら興味・関心を持ち、詳細な情報を求める層(既存顧客であれば自社や製品に愛着や興味がある層)へ選択的にアプローチしやすいという特徴がある。
ソーシャルメディアや登録サイトを利用する手法のように、企業側からの一方通行の情報提供だけでなく双方向的なコミュニケーションや消費者間の情報伝達(口コミ、レビュー等)を含んだ施策が可能で、企業側のコントロールが及びにくく難易度は高いが、うまく活用できれば愛着やロイヤリティを深めて長期的に繰り返し収益を得られる優良顧客の育成に繋げることができる。
また、既存メディアや店舗などで問題となる地理的制約や時間的な制約(タイミング、スピード、期間等)、情報量の制約などが緩やかで、事業者の所在地や規模に縛られず豊富な選択肢から施策を検討・実施することができる。これらの要素の柔軟性が高いことにより、小規模な施策を迅速に繰り返し、ノウハウを磨いたり蓄積したりしやすいという利点もある。
インターネット広告 【Internet advertisement】
インターネットを通じて視聴・閲覧される情報媒体に掲載される、企業や製品などの広告・宣伝。また、企業などがインターネットを通じて消費者などに向けて行う広告・宣伝活動。
掲載されるメディアとしては、Webサイト(Webページ)や、ネットを通じて配信される動画や音声、電子メール、アプリケーションソフト(アプリ)の操作画面などがある。最も普及しており市場規模が大きいのはWebページの一部に広告を掲載するWeb広告である。
従来のマスメディアなどを利用した広告に比べ、閲覧者の属性や嗜好、行動などに基づいて対象をきめ細かく分類して配信を制御できる点や、広告にリンクを設定しておくことで広告主側のサイトへ誘導したり、製品の購入を促したりすることができる双方向性などに優れており、効果を詳細に計測したり、費用対効果を高めやすい。
一方、市場が極めて多数のメディアに細分化されており、年齢や性別、興味・関心などの違いで接触頻度・時間も大きく異なるため、新製品を多くの消費者に一斉に告知して認知度を高めたい場合などには不向きとされる。
広告形態は動画メディアや音声メディアの場合はテレビCMやラジオCMのように動画や音声の広告が挿入される形が多く、電子メールの場合はメール全体が広告メッセージになっているものや、本文の端にテキスト(文字)広告を挿入する方式が多い。
Webページの広告形態は多彩で、テキストや画像、動画、CGアニメーションや簡易なゲーム、およびこれらの組み合わせなど様々な種類のものが掲載される。動画やアニメーションなどを利用した動きや仕組みのある広告形態は「リッチメディア広告」(rich media ads)とも呼ばれる。記事の体裁の広告ページをサイト内に掲載するタイアップ広告(記事広告、PR記事)が用いられることもある。
課金方式にもいくつかの種類があり、一定の掲載期間ごとに課金する掲載期間課金(掲載期間保証)型、表示(閲覧)回数ごとに課金する「インプレッション課金型」、閲覧者が広告をクリック、タップするなどして広告主のサイトへ訪問した回数を基準とする「クリック課金型」、閲覧者が広告主のサイトで実際に製品の購入やサービスへの加入などをすると一定額や購入額の一定割合を支払う「成果報酬型」(アフィリエイト広告)などがある。
電子メール広告 (email advertising/eメール広告)
電子メールの本文中に掲載される広告。メールの内容全体が広告メッセージとなっているものと、本文の一部に広告が挿入されているものがある。後者は無料のメールマガジンやメーリングリスト、フリーメールサービスから送信されるメールなどでよく見られる。
また、前者について、受信者の承諾を得て送信されるものと、無許諾で一方的に送りつけられるものがあり、後者はスパムメール(spam mail)、迷惑メールなどとも呼ばれる。近年ではメール受信サーバやメールソフト側に広告メールを識別して通常の受信フォルダとは別の保管スペースに隔離する機能が一般的になり、無差別に配信されるメール広告の効果は以前ほどはないと考えられている。
アプリ広告 (in-app advertising/アプリ内広告/モバイルアプリ広告)
アプリケーションソフトの操作画面内に表示される広告。Web広告などと同じようにインターネットを通じて配信され、無料のソフトウェアで収益を得るために用いられることが多い。主にスマートフォンやタブレット端末向けのアプリケーションで利用される。
アプリケーションを利用者に無料で提供する代わりに操作中に広告を表示し、開発者が広告主から広告料を受け取る。広告をタップ(またはクリック)すると広告主のWebサイトが表示されたり、広告主のアプリケーションがインストールされたりするよう設定されていることが多く、閲覧数やタップ数(クリック数)などを元に広告料が算出される。アプリケーションの利用者が一定の金額を支払ってアプリケーションを購入すると広告表示が停止されるようになっていることもある。
オプトインメール広告 ⭐
電子メールの形で送信される広告のうち、受信者に許諾を得てから配信を行うもの。特定電子メール法および特定商取引法で認められている配信形式である。
電子メールによるダイレクトメールだが、無差別に送信するのではなく、受信することを許諾した利用者のメールアドレスにのみ配信を行う。この許諾の手順を「オプトイン」という。ECサイトなどで登録会員や過去に取引のあった既存顧客へのメールマガジンなどの形で送信されることが多い。
特定電子メール法および特定商取引法では、広告メールの送信について受信者のオプトインを義務付けており、現在ではオプトインメール広告以外の許諾のない広告メールの送信は原則禁止となっている。特定電子メール法はメールの送信者に対する規制を、特定商取引法は広告主に対する規制を定めている。
バナー広告 ⭐
インターネット広告の形状の一種で、横幅が縦に対して長い帯状の長方形の広告(枠)のこと。形状によらず、ページ内の固定された枠に画像などを表示する広告手法全般を指す場合もある。
Webページやアプリ操作画面の上部や下部などに表示枠が設けられることが多い。インターネットが一般に普及し始めた1990年代末から存在する最も基本的な広告形態の一つである。
クリエイティブ(掲載内容)として画像や動画、アニメーションなどが用いられることが多い。広告主のサイトへのリンクが設定され、閲覧者が枠内をクリックあるいはタッチすると広告主のサイトが開くようになっている。
サイズと名称
業界団体のIAB(Interactive Advertising Bureau)ではバナー広告の標準サイズとして、横468×縦60ピクセルの “Full Banner”(フルバナー)、234×60の “Half Banner”(ハーフバナー)、728×90の “Leaderboard”(リーダーボード)、120×240の “Virtical Banner”(垂直バナー)を定義している。
矩形の広告枠でも、長辺が120ピクセル程度かそれ以下のものは「ボタン広告」、縦横の長さが同じか近いものは「レクタングル広告」(正方形のものは「スクエア広告」とも)、極めて縦に長い(縦が概ね600ピクセル程度かそれ以上)ものは「スカイスクレイパー広告」と呼ばれることが多い。
以前は横長タイプも含めたこれら矩形の広告枠すべての総称を「バナー広告」と呼ぶことも多かったが、現在は「ディスプレイ広告」を総称とすることが多い。また、バナー広告をディスプレイ広告のうち固定的な画像で構成された表示形式の広告とし、テキスト広告や画像・テキスト複合型、動画広告など他の表示形式と対比させる考え方もある。
リスティング広告 【検索連動型広告】
検索エンジンなどの検索結果ページに掲載される広告。特に、検索語と関連性の高い広告を選択して表示する広告。検索結果の表示に合わせ、テキスト広告となっていることが多い。
広告主は掲載したい広告内容と共に、掲載したい検索キーワードを指定する。検索エンジンの利用者がそのキーワードで検索すると、結果を表示するページの一部に当該広告が表示される。
掲載料は掲載回数に比例するインプレッション課金が用いられる場合もあるが、多くのサービスでは掲載された広告リンクのクリック・タップ回数に比例するクリック課金が採用されている。
掲載希望が多いキーワードでは表示枠のオークションが行われ、高い掲載単価を提示した広告主の広告が優先的に表示される。クリック課金の場合はわざとクリックされにくい掲載内容を高単価で出稿し、低い掲載料で露出効果だけを得ようとする広告主もいるため、掲載内容の品質など他の指標も用いて総合的に優先度を決める場合もある。
日本におけるWeb検索サービスは米グーグル(Google)社のGoogle検索とYahoo!JAPANのYahoo!検索(検索結果の大半はGoogle社が提供)による寡占状況にあり、リスティング広告もGoogle検索に表示されるGoogle広告(Google Ads/旧Google AdWords)とYahoo!検索に表示されるYahoo!広告(の検索広告/旧スポンサードサーチ・旧オーバーチュア)が市場の大半を占めている。
SEO 【Search Engine Optimization】 ⭐⭐⭐
Webサイト運営者が行うサイト改善策の一つで、Web検索サイト(検索エンジン)の検索結果リストの上位に表示させるために様々な工夫を行うこと。
検索エンジンはWeb上のリンクをたどって様々なWebサイトを巡回し、各ページの内容を解析して索引付け(インデクシング)する。利用者が検索したい語句を入力すると、その語句に関連性が高いと思われるページを検索結果リストとして表示する。
このリストは検索エンジン内部で様々な指標を元に算出した関連性の高さに基づいて順位付けされており、上位に掲載されるほど利用者の目に付きやすく、サイトを訪れてもらえる可能性が高まる。例えば、多くの検索サイトは初期設定では1ページ目に1位から10位までの結果しか掲載しないため、10位以内と11位以降では訪問される確率に大きな差がつく。
企業などが自らのサイトへの訪問者を増やしたい場合、関連する語句が検索された際に少しでもリストの上位に表示されるよう、サイトの構成や掲載内容、外部からのリンク状況などをより好ましい状態に最適化することがある。そのための一連の施策をSEOと総称する。
最適化を行うためには検索エンジンが各ページをどのように評価しているかを知る必要があるが、インターネット上で運営されている検索サイトのほとんどは順位の計算手順(アルゴリズム)の詳細を公開しておらず、また、頻繁に評価の仕方を変更することが知られている。
このため、公式あるいは確実に正しいと確認され、効果の程度が正確に算出できるような具体的な手法はほとんど存在せず、過去の経験則や検索サイト事業者が公表しているWebサイト運営者向けガイドラインなどを分析し、現在有効であると推測される手法を試していくしかない。
ただし、大まかな指針としてどのようなサイトやページが好ましいかはある程度分かっている。検索者の検索意図(どんな問題を解決しようとしているのか)を満たし、内容が最新かつ詳細で充実しており、当該分野の知識や経験が豊富な専門家によって記述され、外部の人気の高いサイトから多数のリンクを集めているページは比較的上位を獲得・維持しやすいとされる。
検索最大手の米グーグル(Google)社では、これを「E-A-Tの原則」としてまとめている。Eは “Expertise” の略で「専門性」を、Aは “Authoritativeness” の略で「権威性」を、Tは “Trustworthiness” の略で「信頼性」を、それぞれ表している。
内部SEOと外部SEO
<$Img:HTML-Code.jpg|right|by Tunarus from pixabay|https://pixabay.com/photos/website-htlm-code-program-2341973/>Webサイト内の改善によって最適化を行うことを「内部SEO」(on-site SEO/on-page SEO)あるいは内部対策という。各ページがターゲットとする検索キーワードやフレーズの選定、キーワードに見合った適切なテーマ設定や内容の記述、質や量の充実、サイト内のリンク構造の最適化、見出しや段落、画像の代替テキストといったHTML要素の文書構造に沿った適切な使用、図表や画像など補助的なコンテンツの充実などが含まれる。
一方、Webサイト外の状況が自サイトにとって有利になるよう働きかける手法を「外部SEO」(off-site SEO/off-page SEO)あるいは外部対策という。主に外部から自サイトへのリンク(被リンク/バックリンク)を獲得するための諸活動を指すが、外部のサイトの内容や構成は自由に編集することはできないため、直接できることは限られる。サイト運営者に報酬を支払ってリンクを記述してもらう行為(有料リンク/リンク購入)は多くの検索サイトで違反行為とされている。
また、各種SNSへの投稿ボタンをページ内に設置したり、SNS上で公式アカウントを運用して情報発信を行い、自サイトの認知度を高めたり来訪を促すといった施策も外部SEOの一環として行われる場合がある。
ホワイトハットSEOとブラックハットSEO
<$Img:White-Hat.png|right|[PD]|https://www.clker.com/clipart-white-hat-2.html>検索サイトの発行するサイト運営者向けガイドラインなどを遵守し、訪問者の利益に適うまっとうなサイト改善手法を「ホワイトハットSEO」(white hat SEO)という。オリジナルで正確なコンテンツの充実や、読みやすく目的の情報にたどり着きやすいページデザインやサイト構造などが該当する。
これとは逆に、検索サイト側が禁じている行為を行ったり、検索サイトのソフトウェアや訪問者を欺いて不当に順位を向上させようとする施策を「ブラックハットSEO」という。検索サイトの巡回システム(クローラー)と人間の閲覧者にそれぞれ異なる内容を見せる「クローキング」(cloaking)や、同じ語句や関連語句を何度も繰り返し無意味に詰め込む「キーワードスタッフィング」(keyword stuffing)などがよく知られる。
他にも、背景色と同じ文字色にするなどして訪問者のWebブラウザには表示されないがクローラーには掲載内容として認識させる「隠しテキスト」(hidden text)、他のサイトや著作物からの剽窃、意図的な虚偽の内容の掲載、外部サイトからの「リンク購入」(リンク売買)などが該当する。
検索サイトによってブラックハット的な手法が用いられていると認定されたページやサイトは「検索スパム」「スパムサイト」などと呼ばれ、順位の大幅な低下や検索結果ページからの排除といったペナルティが課されることがある。一部の手法はランキングに影響せず単に無視される場合もある。
A/Bテスト 【A/B testing】 ⭐
複数の案のどれが優れているかを、何度も試行して定量的に決定するテスト手法。各案をそれぞれ実際に一定の回数ずつ実践してみて結果を比較する。WebページやWeb広告のデザインなどでよく利用される。
複数の案のいずれか一つをランダムに選んで実際の利用者に提示し、その際の効果の有無や高低を記録する。これを何度も繰り返し、最も効果の高かったものを最も優れた案として採用する。既存の選択肢の中から目的に照らして優れたものを選ぶことができ、短期間に何度も繰り返し試行できるようなものであれば何にでも適用できる。
「A/Bテスト」の名称は「A案とB案のどちらが優れているかを決定する」という意味合いだが、三つ以上(場合によっては非常に多数)を比較こともできる。複数の要素のパターンのあらゆる組み合わせを自動的に試行する手法は「多変量テスト」とも呼ばれる。例えば、広告のキャッチコピーが3案、背景画像が3案あるときに、3×3の9通りを試すような手法である。
A/Bテストはすでに複数の(完成された)案が存在していることが前提であり、「どのような案を作り出せば最も効果が高まるか」とか「どこをどう変えればどのように効果が変化するか」といったようなことは調べることができない。また、テスト対象の作成にコストがかかるような分野では、結果的に採用されないいくつもの「没案」を作成することになるためコストが嵩むという問題もある。
アフィリエイト 【成果報酬型広告】 ⭐
ネット広告の課金方式の一つで、Webページなどの広告媒体から広告主のWebサイトなどへリンクを張り、閲覧者がそのリンクを経由して広告主のサイトで会員登録したり商品を購入したりすると、媒体運営者に一定の料率に従って報酬が支払われる方式。
掲載回数やクリック数などに対して報酬が支払われる他の広告手法に比べ、広告主にとっては、売上などの成果が挙がってから初めて広告料(の請求)が発生する「成功報酬」型の契約であるため、極めて費用対効果の高い広告を展開することができる。
媒体運営者にとっては、他の広告プログラムよりも加入・登録の門戸が広く、個人でも容易に開始できる点や、商品選択や掲載方法の自由度が高く、自分のサイトのテーマやデザインに馴染んだ広告にしやすいというメリットがある。
アフィリエイトプログラムには、広告主となるオンラインショップやオンラインモールなどの事業者が独自に媒体運営者を集めて展開しているものと、広告主と媒体運営者の双方を募集して両者を引き合わせるサービスがある。後者のようなサービスやその運営事業者のことを「アフィリエイトサービスプロバイダ」(ASP:Affiliate Service Provider)と呼ぶことがある。
レコメンド 【リコメンド】 ⭐
推薦する、勧告する、などの意味を持つ英単語。店舗が来店客に特定の商品を薦める行為をこのように呼ぶことが多い。ITの分野では特に、電子商店(ECサイト)などが過去のデータなどに基づいて来訪客に自動的に商品を薦める仕組みを指す場合が多い。
例えば、ある商品に強く関連する別の商品を表示したり、顧客の過去の購買履歴やページ閲覧履歴を記録して興味を持ちそうな商品を表示したり、プロフィールや行動履歴などが類似している他の顧客が購入した商品を表示する機能などを指す。
実際にはこれらを組み合わせて一定のアルゴリズム(計算手順)に基づいて商品をリストアップする手法が使われ、そのような処理を専門に行うソフトウェアやシステムを「レコメンドエンジン」(recommendation engine)などと呼ぶことがある。
リアルタイムレコメンド (real-time recommendation)
利用者の現在の行動に合わせて推薦内容を決定したり変化させたりするレコメンド手法を「リアルタイムレコメンド」ということがある。
Webサイトの場合には、訪問者のページ間の遷移をリアルタイムに補足し、瞬時に関連度の高い商品を割り出してページ内の特定の領域に表示するといった手法が用いられる。訪問者の「今この瞬間」の関心事に基づいて商品を推薦することができる。
また、メールマガジンなどに配信側へ情報を問い合わせる特殊なHTMLタグなどを埋め込んでおき、受信者が開封・表示したタイミングで推薦商品の情報を提供するといった技術もある。本文で紹介した商品が開封時には在庫切れになっているといった事態を避けることができる。
標準規格の勧告
技術標準などを策定する標準化団体の中には、発行された標準規格のことを “recommendation” と呼ぶことがある。日本語では「勧告」と訳されることが多い。情報・通信の分野ではITU-T(国際電気通信連合・電気通信標準化セクタ)勧告やW3C(World Wide Web Consortium)勧告などが有名である。
デジタルサイネージ 【電子看板】 ⭐
屋外や店頭などに設置された液晶ディスプレイなどの映像表示装置。近くにいる人や通りすがりの人に案内情報や広告などを表示する装置で、看板やポスターなどを電子化したもの。
店頭や公共施設、交通機関、建物の壁面や屋上などに設置され、利用客への案内や通行人への広告などが表示される。広告媒体としては、特定の時間と場所を指定して表示でき、ポスターのように入れ替えの手間がかからず、動画や音声を組み合わせたコマーシャルフィルムのような内容を表示できる点が注目されている。
機器や乗り物に埋め込まれた小窓サイズのものから、ビル壁面などの街頭ビジョン(大型ビジョン)まで様々なサイズ・形態のものがある。小型・中型のものは液晶ディスプレイが多いが、数m以上の大型のものはプロジェクタやLEDビジョン(電光掲示板)などが用いられる。
コンピュータを内蔵あるいは接続して動画やWebページなど様々な内容を映し出すことができるものを指し、内容が固定されているLEDサインボードや文字しか表示できないLEDメッセージボードようなものは含まれない。
スキミングプライシング 【上澄み吸収価格戦略】
製品の価格戦略の一つで、新製品の市場投入の初期に高価格を設定し、迅速な投資回収を目指す戦略。他社との競争が激しくなる前に用いられることが多い。
競合他社が未だ参入を果たしておらず「一番乗り」を実現できた場合などに用いられる戦略で、機能や品質が高い製品を高価格で投入し、限られた顧客に販売することで高収益を挙げ、後発が追いつく前に開発費用などを回収する。
製品や市場の特性として、価格の需要に対する影響(価格弾力性)が小さく、「新しければ高くても買ってくれる」富裕な顧客層(イノベーター)が存在することが前提となる。2番手以降の競合は同等品を低価格で投入して対抗してくることが多く恒久的な施策とはなりにくいが、初期に高いブランドイメージが確立できれば上位の顧客層で高価格帯を維持できる場合もある。
これとは逆に、市場参入の初期に原価を割り込むような極端な低価格を設定して一気に市場シェアを獲得し、競合の放逐、生産拡大によるコスト低減などを目指す価格戦略を「ペネトレーションプライシング」(市場浸透価格戦略)という。
ペネトレーションプライシング 【市場浸透価格戦略】
製品の価格戦略の一つで、新製品の市場投入の初期に利益度外視の低価格を設定し、市場シェアの獲得を狙う戦略。市場シェアの高さ自体が競争力をもたらすような製品で行われることが多い。
赤字も厭わない極端な低価格で製品を大量に供給し、競合の追随を断念させ大きな市場シェアの占有を試みる。消費者にブランドを浸透させ「○○といえば××」という第一想起の地位を獲得し、大量販売によって後から徐々に収益を上げていく。
前提条件として、供給を増やすほど単位コストが低下(規模の経済、購買交渉力、経験曲線効果など)すること、価格次第で需要が大きく変動する(価格弾力性が大きい)こと、市場シェアが競争力を大きく左右することなどが必要となる。初期の投資や損失が膨大になることがあり、大きなリスクを伴う。
これとは逆に、市場参入の初期に高価格を設定し、限られた上位の顧客層のみをターゲットとすることで早期に投資回収を狙う価格戦略を「スキミングプライシング」(上澄吸収価格戦略/上層吸収価格戦略)という。新しい市場や製品に「一番乗り」を果たした企業によく見られる。
ダイナミックプライシング 【動的価格設定】
製品の価格戦略の一つで、同じ商品でも状況に合わせて時々刻々を価格を変化させて販売する方式。購入時期や適用時期(サービスの利用時期)によって価格が大きく異なることがある。
商品の仕様やグレードなどに応じて標準的な価格帯は設定しつつ、実際の売価は市場の需要や供給に応じて日単位や曜日単位、週単位、月単位、あるいは一定の期間ごと(繁忙期・閑散期など)で刻々に変化させる。需要が多い時期には高く、少ない時期は安く販売する。早期に購入するほど割り引く方式を採用あるいは併用する場合もある。
主に宿泊施設や交通機関、施設の入場券、スポーツ観戦や観劇、コンサートなどのイベントで用いられる。これらは商品の性質としてサービス提供が特定の日時や場所に紐付けられており、供給量を短期間で大きく変動させることが難しいという特徴がある。
ダイナミックプライシングを導入することで、提供側は閑散期の割引により機会損失を回避しつつ、繁忙期の値上げで固定費の回収と収益の最大化を図ることができる。購入側は繁忙期に商品を入手しにくくなるが、閑散期に日程を空ければ同じ商品を割安に購入できるチャンスも生まれる。
昔からダイナミックプライシングを採用する業界として有名なものに航空業界(航空券)やホテル業界(宿泊料金)がある。近年では鉄道の指定券や遊園地の入場券、プロスポーツの観戦チケット(人気の対戦カードと不人気カードで価格が異なる)などでも一般的に行われるようになってきている。小売店における消費期限の迫った食品などの値引き販売も一種のダイナミックプライシングに分類されることがある。
バランススコアカード 【Balanced Scorecard】 ⭐⭐⭐
企業や事業、プロジェクトなどの業績を「財務」「顧客」「業務プロセス」「学習と成長」の4つの視点から総合的に評価する手法。1992年にロバート・カプラン(Robert S. Kaplan)氏とデービッド・ノートン(David P. Norton)氏が考案した。
従来の業績評価は数値で表しやすい売上や利益といった財務的な指標に偏っていたが、BSCではこれに加え、顧客の視点、業務プロセスの視点、学習と成長の視点から評価を行う。各視点について数個の指標(通常は5~6個程度)を選択して総合的に評価する。
BSCでは組織や事業のビジョンや戦略が策定されていることを前提に、これを各側面における具体的な目標(KGI:Key Goal Indicator)に落とし込む。各KGIを達成するための鍵となる要因(CSF:Critical Success Factor)を見極め、そのそれぞれについて進捗の指標となる尺度(KPI:Key Performance Indicator)を選択する。
カードの構成が決まったら行動計画の策定と実行に移り、一定の期間や節目ごとに評価やフィードバックを実施、場合によっては戦略や計画、カード構成の修正を行う。
KSF 【Key Success Factor】 ⭐⭐⭐
目標達成のために決定的に重要となる要因のこと。また、目標達成のために最も力を入れて取り組むべき活動や課題のこと。資源配分の優先順位を決めるために必要となる。
組織や個人が目標達成に向けて行動するにあたり、限られた資源を最も効率よく活用するために設定するもので、目標の成否を左右する様々な要因や活動の中からCSFとして選択されたものには優先的・集中的に資源が投下される。
一般的には、まず組織や事業の長期的あるいは最終的な目標を表す「KGI」(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)と呼ばれる尺度が設定され、これに決定的な影響を及ぼすと想定される要因や活動、施策などを見定め、これをCSFとして選択する。
CSFに基づく施策の進捗状況を継続的に計測・監視するため「KPI」(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)と呼ばれる定量的な指標が設定されることもある。
KGI 【Key Goal Indicator】 ⭐
組織やプロジェクトが達成すべき目標を指し示す定量的な指標。抽象的な理念や目的のようなものではなく、数値や客観的な状態として測定や認識が可能なものを用いる。
企業などの組織が事業やプロジェクトなどの最終的な目標を設定するために用いる物差しの役割を果たす指標を意味する。「年間売上高」のように単に指標自体のことを指すこともあるが、一般的には「3年後の年間売上高を今年度比+50%にする」といったように、期限と具体的な目標値を合わせて設定したものを指すことが多い。
KGIを決定したら、そのために日々の業務や活動で何を目指すべきかを表す指標としてKPI(Key Performance Indicator)を定義する。例えば、「売上を50%増やす」というKGIに対して、「営業課員一人あたり毎月20件以上顧客を訪問する」といったKPIを設定する。一つのKGIに複数のKPIを定める場合もある。
KGIは一つの組織やプロジェクトについて原則として一つを設定するが、全社のKGIとは別にそれぞれの部門やチームが個別にKGIを定める場合もある。その場合は両者の目指す方向が矛盾しないよう、全体のKGIに資する部門別KGIを検討する必要がある。
KPI 【Key Performance Indicator】 ⭐⭐⭐
目標の達成度合いを計るために継続的に計測・監視される定量的な指標。組織や個人が日々活動、業務を進めていくにあたり、「何をもって進捗とするのか」を定義するために用いられる尺度のこと。
すでに定義されている具体的な目標を達成するために、現在の状況を表す様々な数値などの中から進捗を表現するのに最も適していると思われるものが選択される。短い周期で繰り返し計測・記録され、時系列の推移から現況や進捗を把握したり、問題解決や活動の改善点を検討するための最も重要な材料の一つとして扱われる。
なるべく具体的で、努力や改善によって直接的に働きかけて変化させられる値であることが望ましく、抽象的だったり、活動と結果に因果関係が薄かったり、制御不能な要因によって大きく変化するような指標は好ましくないとされる。
一般的には「顧客への訪問回数」「受注件数」のように指標そのもののことを意味するが、これを「3月末までに顧客を30回訪問」「月に10件受注」のように、ある期限や期間に達成すべき目標の形で示し、これをKPIと呼ぶ場合もある。
組織の規模や業務の内容などによっても異なるが、あまりに指標が多いと集中すべき点がぼやけて形骸化しまうため、一つあるいは数個程度が設定されることが多い。全社KPI、営業部KPIといったように組織階層ごとに異なるKPIを設定する場合もある。
KGI・KSFとの関係
これに対し、組織や事業の長期的あるいは最終的な目標を表す尺度は「KGI」(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)と呼ばれる。KPIはKGIで示された目標を達成するために、これを日々の活動のレベルに分解したものと解することができる。
また、KGIやKPIに決定的な影響を及ぼす重要な要因や活動、施策などのことを「KSF」(Key Success Factor:主要成功要因)あるいは「CSF」(Critical Success Factor:重要成功要因)という。KPI向上のために最も影響があるとみなされたKSFには最優先で資源が投入される。
バリューエンジニアリング 【VE】 ⭐⭐⭐
製品やサービスの提供コストあたりの機能を「価値」と考え、これを最大化することを目指す方法論。コスト度外視の機能向上や機能を犠牲にしたコスト削減一辺倒を戒め、顧客満足度向上と収益改善の両立を目指すことができる。
製品やサービスが利用者に提供すべき機能を明確にし、その製造や提供にかかるコストで割ったものを価値とみなす。この価値を向上させるための組織的な活動の総体がバリューエンジニアリングである。顧客に提供する商品だけでなく、製造工程や業務手続き、物流といったプロセスにも適用可能である。
価値向上のためには同じ機能でコストを下げるか、同じコストで機能を上げるか、少ない追加コストで大きく機能を向上させるかのいずれかの方策が必要となる。わずかな機能向上のために大きなコストをかけたり、機能を削って極端な低コストを目指す手法は価値向上とはみなされない。
また、正しく活動を進めるために、「価値の向上」以外にも「使用者優先」「機能本位」「創造による変更」「チームデザイン」といった基本原則を定めている。
1947年に米ゼネラル・エレクトリック(GE:General Electric)社のローレンス・マイルズ(Lawrence D. Miles)氏が考案したもので、同社や米国防総省などが導入したことで広く普及した。日本では公益社団法人日本バリューエンジニアリング協会が「VEリーダー」「VEスペシャリスト」などの資格試験を行っている。
CRM 【Customer Relationship Management】 ⭐⭐⭐
顧客の属性や接触履歴を記録・管理し、それぞれの顧客に応じたきめ細かい対応を行うことで長期的に良好な関係を築き、顧客満足度の向上や取引関係の継続に繋げる取り組み。また、そのために利用される情報システム。
データベースなどを用いて各顧客の詳細な属性情報や購買履歴、問い合わせやクレームの内容などを記録・管理し、問い合わせに速やかに対応したり、買い替えやメンテナンスなどの提案を行なったり、その顧客に合った新製品を紹介したりといった活動が中心となる。
顧客と良好な関係を継続することで、次回の買い替えや追加購入、別の商品の購入などで他社よりも優先的に検討してもらうことが期待でき、また、顧客の周囲の人々や各種の調査などで自社(製品)の評価やイメージの向上を図ることができる。
広義には、見込み顧客に対する売り込み(セールス)活動の管理や支援も含まれる。個々の見込み顧客ごとに接触履歴(担当者との面会履歴、ダイレクトメール等の送付状況、セミナーなどの参加履歴など)や案件や商談の進捗などを記録・管理し、組織的・効率的に成約に向けた販売活動を展開する。そのための情報システムは「SFA」(Sales Force Automation/営業支援システム)とも呼ばれる。
CRMを展開するためのシステムは単体のパッケージソフトやネットサービスなどの形で提供されることもあるが、ERPパッケージの一部(SAP CRMやOracle CRM、Microsoft Dynamics 365 CRMなど)やSFAシステムの一部(Salesforce CRMなど)として提供されるものの市場シェアが高い。SugarCRMのようにオープンソースとして無償で利用可能なソフトウェアもある。
SECIモデル 【SECI model】
組織における知識の創造過程を、「共同化」「表出化」「連結化」「内面化」の4つのプロセスの循環として表したモデル。野中郁次郎氏らが考案したもので、ナレッジマネジメントの基礎となる理論として知られる。
従業員など個人が暗黙的に蓄えている「暗黙知」を出発点として、共同化(S:Socialization)、表出化(E:Externalization)、連結化(C:Combination)、内面化(I:Internalization)の4つの過程を経ることで、知識を形式知化して組織的に蓄積し、他の個人が暗黙知として体得できるようになるとする。「SECI」は4つのプロセスを表す英単語の頭文字を順に繋げたものである。
「共同化」は暗黙知を暗黙知のまま他の個人に移転、共有するプロセスで、先輩と後輩が一緒に同じ業務を行うなど共通の経験、体験を経ることで、暗黙的な知識や技能が共有される。「表出化」は暗黙知を形式知として記述するプロセスで、共通の暗黙知を持つ集団による対話や議論を経て、言語や図表などの形で形式知として記録する。
「連結化」は表出した形式知を組み合わせて新たな形式知を創造するプロセスで、データベースなどの形で整理された形式知を繋ぎ合わせて体系化したり、新しい知を生み出す。「内面化」は連結化された総合的な知の体系を個人が暗黙知として体得するプロセスで、行動や実践、経験を通じて身体化することが重要であるとされる。
このプロセスは一度行って終わりではなく、循環的に継続して行うことで、組織的な知識の創造、蓄積、発展が進み、同時に集団内での伝達、共有が滞りなく行われる。集団内でそれぞれのプロセスが実践される「場」のデザインが重要であるとされる。
SECIモデルは野中氏が一橋大学教授だった1990年に著書「知識創造の経営」で初めて提唱したもので、1991年には世界的に有名なハーバード・ビジネス・レビュー誌に “The Knowledge-Creating Company” として寄稿された。1995年には同名の英書が出版され、世界で知られるところとなった。
SCM 【Supply Chain Management】 ⭐⭐⭐
自社内あるいは取引先との間で受発注や在庫、販売、物流などの情報を共有し、原材料や部材、製品の流通の全体最適を図る管理手法。また、そのための情報システム。
原料・材料が部品や半製品に加工され、最終製品が生産されて顧客に販売されるまでのモノの流れ、および付随するお金や情報の流れのことを「サプライチェーン」(supply chain:供給連鎖)という。
この流れの端から端までの間には原料メーカー、部品メーカー、完成品メーカー、物流企業、卸売店、小売店、販売代理店など通常たくさんの企業が関わっている。情報システムなどを通じて企業間で情報を共有し、需要変動などに素早く対応することにより流通の効率化を進めることをSCMという。
SCMを推進することにより、正確な需要予測や適時の供給が可能となり、企業ごとの個別最適化を超えたチェーンの全体最適化を図ることができる。売りたいのにモノが無い機会損失や、逆に売れるより多く作りすぎてしまう過剰在庫を避け、経営資源の効率的な利用、売上や利益の最大化を追求することができる。
SCMのうち、製品の需要予測などを元に生産計画を立て、各段階の計画を策定、最適化する工程およびシステムを「SCP」(Supply Chain Planning:サプライチェーンプランニング)という。また、SCPの立案した計画に基づいて実際のモノの流れの管理し、現場での業務を管理・支援する工程およびシステムを「SCE」(Supply Chain Execution:サプライチェーン実行管理)という。
TQC 【Total Quality Control】 ⭐
企業などが製品の品質向上や品質水準の維持・管理を行うための品質管理活動を、製造部門だけでなく全社的に取り組むようにしたもの。すべての部門で業務の品質向上を目指す。
QC(Quality Control:品質管理)は製品の質について何らかの基準や要件を定義し、これを満たすために行われる組織的な活動を意味する。主に製造業で行われ、設備や人員、原料などを適切に管理する「工程管理」、計測や検査で不良がないことを確かめる「品質検証」、製造工程の改善を行う「品質改善」などの活動で構成される。
TQCはこの活動を企画、開発、設計、購買、営業、物流、マーケティング、アフターサービスなど製造以外に製品に関わる部門や業務、さらには財務、人事などの間接部門にも広め、全社的に品質の管理、改善に取り組むことを指す。
QCの活動はQCサークル活動など現場の自主的な取り組みが主体となるが、TQCの概念を発展させ、現場主導のボトムアップの活動だけでなく、経営管理の一環としてトップダウンで取り組むようにすることを「TQM」(Total Quality Management)という。
ERPパッケージ 【Enterprise Resource Planning package】 ⭐
企業の経営資源を有効に活用し経営を効率化するために、基幹業務を部門ごとではなく統合的に管理するためのソフトウェアパッケージ。典型的な企業活動全般をカバーする機能が揃っている。
各部門ごとに別々に構築されていたシステムを統合し、相互に参照・連携できるようにするもので、調達・購買、製造・生産、物流・在庫管理、販売・受発注管理、人事・給与、財務・会計などの機能が共通のシステム基盤のもとに提供される。
部門をまたぐ情報の流通や業務の連携などが容易になり、業務の迅速化に資する。パッケージの仕様や機能に合わせて業務プロセスやデータ形式などの標準化が必要になるため、業務効率の向上や属人化の排除が進む。
経営層にとっても各部門の状況をリアルタイムに把握しやすくなり、部門ごとの最適化による非効率を排して全体最適化を促したり、意思決定の精度向上などを期待できる。
全社のシステムを統一された基盤で運用できるため、設備や人材の集約・集中化による効率化、機材やソフトウェア、データ形式などの種類の削減による個別対応コストの低減などが期待できる場合もある。
ERPパッケージは仕様の決まった既成品であるため、導入時には原則として現場の業務手順をパッケージ側に合わせる形となるが、国や業界による商習慣の違いや企業ごとの事情に合わせて一部の動作を変更・修正したり、追加の機能(アドオン)を個別に開発して導入できるようになっている。
ただし、このような個別のカスタマイズを行いすぎると自社向けシステムをゼロから個別開発(スクラッチ開発)するのと変わらなくなり、ERPパッケージのメリットが損なわれてしまう。
ERPパッケージは1990年代から本格的な普及が始まり、当初は社内に個別システムが乱立しやすい大企業や中堅企業向けの大規模な製品が主流だったが、近年では中小企業の業務システムをパッケージ化してオンラインで提供するクラウド型のサービスなども登場している。
著名な製品としては独SAP社の「SAP S/4HANA」(旧SAP R/3)や「SAP Business One」(中小企業向け)、米オラクル(Oracle)社の「Oracle E-Business Suite」(Oracle EBS/旧Oracle Applications)や「NetSuite」(クラウド特化型)、米マイクロソフト(Microsoft)社の「Microsoft Dynamics AX」や「Dynamics NAV」などがある。日本ではワークスアプリケーションズの「COMPANY」や「HUE」の人気も高い。
シックスシグマ 【Six Sigma】 ⭐
主に製造業の品質管理などに用いられる管理手法の一つで、数値の測定や統計的な分析を重視する方式。1980年代に米通信機器大手のモトローラ(Motorola)社(当時)が提唱した手法で、米ゼネラル・エレクトリック(GE:General Electric)社が発展・普及に努めたことでよく知られる。
名称に含まれる「シグマ」(σ)は統計学における標準偏差(平均との差の二乗の総和の平方根)を表す記号のことである。誤差を伴う事象が正規分布に従って分布する場合、平均値から±σの範囲に約68.26%、±2σの範囲に約95.44%の標本が収まる。具体的な分布の形に依らず、σで表された範囲に収まる標本の割合は決まっている。
ある作業を行う場合に、結果が平均から一定以上外れたものは不良であるとする。ある工程で作業結果の分布を調べたところ、正常と判定される上限のラインが+σの位置に、下限のラインが-σの位置に来たとすると、約68%が正常、約32%が不良となる。工程を改善して上限・下限が±2σの位置に来るよう分布を狭めることができれば、約95%が正常、約5%が不良となる。
「シックスシグマ」は工程の改善を繰り返して正常な範囲が±6σに収まるようにすることを目指している。ただし、長期的に繰り返される工程では平均自体の変動が1.5σ程度存在するという前提に立つため、実際には±4.5σの範囲に収めることを目指す。これは不良率では「100万回あたり3.4回」となる。
シックスシグマの改善プロセスは、「測定」(Measurement)、「分析」(Analysis)、「改善」(Improvement)、「管理」(Control)の4つの過程で構成され、これを循環的に繰り返し漸進的に改善を進める。この4つのプロセスの頭文字を合わせて「MAIC」の標語で表される。
このプロセスは製造工程など着目すべき数値があらかじめ決まっている場合に適用されるが、様々な経営課題に応用する場合は、測定すべき項目を検討・決定する「定義」(Definition)の過程が必要となる。これを追加した5つの過程を「DMAIC」と表す。
ナレッジマネジメント 【KM】 ⭐
一人ひとりの従業員の持つ業務上有用な知識を部門内や組織全体で蓄積・共有し、従業員の能力の向上や業務の効率向上に繋げる手法。単なる情報共有・伝達ではなく、各自が持つ暗黙知の形式化と共有を推進する。
特に、データや情報などの形で表出しやすい形式知だけでなく、経験則やノウハウ、知恵、コツ、工夫、アイデアなどといった言葉や数値などの形に表しにくく、従来は個人が経験によって積み上げる形で獲得してきた「暗黙知」と呼ばれる種類の知識を組織的に活用しようとする試みのことを指す。
歴史的には製造業における改善活動のようなチーム内での業務改善のためのディスカッションなどの活動を含むが、現代では様々な職場で汎用的に利用されるコンピュータシステムを用いた知識活用の仕組みのことを指すのが一般的である。
典型的な事例としては、従業員の営業日報や業務上の気付きのような文章をデータベースシステムに入力・蓄積していき、経営層や管理職が特に有用と認めたものを他の従業員へ共有したり、部門横断的に閲覧や検索ができるようにするといった手法が挙げられる。
単にシステムを形だけ整えても従業員の間に意味のある形で定着させることは難しく、何が有用な知識なのか判断ができず活用しようのない無駄なデータの蓄積に終わったり、業務としての位置づけや意義の共有などが曖昧で取り組みへの不満や徒労感が募ったり、自らの地位や業績のために知識の共有に消極的な社員が現れたりといった問題が起きやすい。適切なインセンティブの付与など社内の制度や文化、仕組みを含めた改革が必要となる。
TOC 【Theory Of Constraints】 ⭐
作業工程の能率を向上させる手法の一つで、一連の工程全体の中で隘路(ボトルネック)になっている箇所を探し出し、集中的に改善する方式。制約の特定、改善、新たな制約の特定というサイクルを繰り返す。
複数の要素や工程で構成される活動で、工程間に能力のバラつきがある場合、活動全体の成果は最も能力の弱い要素の成果を超えることはできない。この工程全体で最も能力が劣っている箇所を「制約」(constraint)と呼び、その改善に集中することで全体の成果を増大させるのがTOCの考え方である。
TOCに基づく全体最適化では、まず工程ごとの能力を測定して制約を特定する。制約以外の工程や要素(「非制約」と呼ぶ)は、制約の能力を超える仕事をしても無駄にコストを浪費するだけ(部品在庫が増えてゆくなど)なので、制約に合わせて活動を抑える。その後、制約の改善に資源を集中し、その能力を底上げする。
制約の改善が進むと非制約の能力を超え、別の箇所が新たな制約になる場合がある。その場合は再び最適化を実施し、新たな制約の能力を引き上げることに集中する。実用上は、各工程のスループットを継続的な監視し、定期的に制約箇所を調査して見直す反復的なプロセスの導入が必要となる。
TOCはイスラエルの物理学者、エリヤフ・ゴールドラット(Eliyahu M. Goldratt)氏が小説 “The Goal” (邦題:ザ・ゴール - 企業の究極の目的とは何か)で提唱したもので、主に企業の生産活動の効率化などに応用された。