ムーアの法則 【Moore’s law】

概要

ムーアの法則(Moore’s law)とは、半導体業界において、一つの集積回路(ICチップ)に実装される素子の数は18ヶ月ごとに倍増する、という経験則。米大手半導体メーカー、インテル(Intel)社の創業者の一人であるゴードン・ムーア(Gordon E. Moore)氏が1965年に発表した見解を元に、カリフォルニア工科大学(Caltech)教授だったカーバー・ミード(Carver A. Mead)氏が提唱したもの。

半導体技術の研究・開発期間と半導体製品の集積密度の関係を定式化したもので、経験則から導いた技術開発の長期的な傾向を示している。技術開発の進展により回路の微細化とチップ面積の増大が進むと加速度的に素子数が増大することを表しており、この関係が続けば5年で約10倍、10年で約100倍のペースで集積度が向上する。

実際、2000年頃まではこれに近いペースで素子数が増大し、これに伴い半導体メモリの大容量化、CPUマイクロプロセッサ)などの性能向上も加速度的に進んだ。しかし、2010年代には回路の微細化やチップの大型化のペースが鈍化し、素子数の増加が頭打ちになりつつある。

2020年代にはチップ内部の配線の幅が数ナノメートル(nm)と原子数十個分まで微細化が進んでいる。原子サイズにまで微細化が進んでしまえば物理的にそれ以上微細な構造を作り出すことは不可能となるため、ムーアの法則の物理的な限界も近づきつつある。

性能向上への寄与

CPUなど演算や処理をチップでは、当初は素子数の増加がそのまま演算性能の向上に寄与していたが、2010年代以降は集積度が向上してもクロック周波数シングルスレッド性能(単体のプログラムの実行速度)が向上しにくくなっている。

代わって、マルチコア化やベクトル演算回路(SIMD)の搭載・拡張など、演算回路の並列化が劇的に進んでいる。これを性能向上に結びつけるにはソフトウェアの構造を並列演算に適したものに改める必要があるため、分野によっては恩恵を受けにくくなっている。

成立までの経緯

ムーア氏は1965年に「今後10年は毎年2倍のペースで素子数が増加するであろう」と予測し、10年後の1975年には「2年で2倍」と修正した。この発言を受けて、当時のインテル社幹部デービッド・ハウス(David House)氏は「これによりコンピュータの性能は18ヶ月で2倍になるだろう」と予測した。

これらを元に、この規則性に「ムーアの法則」と名付け、1970年代に世に広めたのがミード氏であるとされる。ムーア氏の見解の初出が業界誌に発表した論文であることは分かっているが、「ムーアの法則」の名称の初出がいつどこであったのかは現在もはっきりとは分かっていない。

(2024.3.29更新)

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この記事の著者 : (株)インセプト IT用語辞典 e-Words 編集部
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