高校「情報Ⅰ」単語帳 - 東京書籍「新編情報Ⅰ」 - 情報技術が果たす役割と望ましい情報社会の構築
集積回路 【IC】
高度な機能を持つ電子部品の一つで、トランジスタ、抵抗、コンデンサ、ダイオードなど、多数の微細な電子部品を一つの基板の上で連結し、全体として複雑な処理を行ったり、大量のデータの記憶を行ったりできるもの。形態が数cm角程度の小片であるため「チップ」(chip)と呼ばれる。
マイクロプロセッサ(MPU/CPU)やマイクロコントローラ(MCU)、メモリ、センサー、電源回路など様々な種類があり、電子機器の中枢部品として広く利用されている。回路の集積度の高いものをLSI(Large Scale Integration)、VLSI(Very LSI)、ULSI(Ultra-LSI)などと分類していた時代もあったが、現代ではLSI以外の呼称はほぼ廃れている。
一般的なICチップはシリコン(Si:ケイ素)などの半導体でできた数mmから数cm角のチップの表面に、数十万個から多いもので10億個以上の微細な半導体素子と、それらを結ぶ金属配線が実装されている。素子や配線は印刷や写真の手法に由来する光学的な焼付処理(フォトリソグラフィ)によっていっぺんにまとめて形成されるため大量生産に適している。
チップは樹脂などでできた外殻(ICパッケージ)に封入され、その周囲や裏面などに規則正しく並んだ金属端子で外部と接続される。用途に応じて電子基板(プリント基板)の所定の位置に組み付け、あるいははんだ付けされ、電子機器の一部として機能する。
主なICの種類
ICチップには大きく分けてデジタル信号を扱うデジタルICとアナログ信号を扱うアナログICがあり、デジタルICにはデータや信号の処理を行うためのロジック系ICと、データの記録に用いられるメモリICがある。
アナログICには各種のセンサーや変換回路、増幅器、無線信号処理といったアナログ信号処理用のICと、電源・電力制御を行うための電源ICなどがある。デジタルとアナログの両方の信号用の回路を内蔵したミックスドシグナルICもある。
ロジックとメモリ、デジタルとアナログなど複数の異なる種類の回路を混載し、単体でひとまとまりの大きな機能(機器の制御など)を提供するよう設計されたICを「システムLSI」あるいは「SoC」(System-on-a-Chip)などという。
また、汎用品(汎用IC)か特注品(カスタムIC)かによる分類、一枚のチップで完結した構造(モノリシックIC)か複数のチップや電子部品の複合構造(ハイブリッドIC)かによる分類など、いくつかの分類法がある。
ロジックIC
ロジック系のICは主にデータの演算や変換、処理、伝送、別の装置の制御などの機能を論理回路として実装したIC製品である。MPUやASSP(特定用途向け標準品)のようにメーカーが機能や仕様を決めて設計する汎用品(既製品)と、用途や組み込み対象ごとに個別に設計されるASIC(特定用途向けIC)に分かれる。
コンピュータの心臓部に当たるマイクロプロセッサ(MPU:Micro-Processing Unit)やデジタル機器の制御装置であるマイクロコントローラ(MCU:Micro-Control Unit)、デジタル信号処理に特化したDSP(Digital Signal Processor)、コンピュータグラフィックス関連の演算処理に特化したGPU(Graphics Processing Unit)などの種類がある。
MPUやMCUなどは内部に一時的なデータ保管のための記憶素子を内蔵した構成が一般的で、I/O制御といった従来は別のチップに分かれていた様々な機能や役割が統合されるようになってきているため、単純なロジック系ではなくシステムLSI/SoCに分類されることもある。
チップ製造時には特定の機能は与えられておらず、開発者が内部の論理回路の構成をデータとして与えることで機能するようになる「プログラマブル」(programmable)なICもある。方式や回路規模によってPLD(Programmable Logic Device)、CPLD(Complexed PLD)、FPGA(Field Programmable Gate Array)などの種類がある。
ちなみに、「汎用ロジックIC」といった場合は、MPUなど規格や設計があらかじめ決まっている汎用製品という意味ではなく、NANDゲート、フリップフロップ回路といった単機能の論理回路を単体のICチップとして実装した製品のことを指す。
メモリIC
メモリ系のICは主にデータの記録に用いられるもので、コンピュータやデジタル機器の主記憶装置(メインメモリ)や内蔵プログラム(ファームウェアなど)の記録、永続的なデータ記憶装置(ストレージ)などとして用いられる。
大きく分けて、任意に読み書きが可能な「RAM」(Random Access Memory)と、使用時には記録済みデータの読み出ししかできない「ROM」(Read Only Memory)に分かれる。前者は電源を落とすと内容が失われる「揮発性メモリ」、後者は通電状態に左右されず常に記録内容が維持され続ける「不揮発性メモリ」である。
RAMは記憶素子の内容を維持するために一定間隔で再書き込み動作(リフレッシュ)を行う必要がある「DRAM」(Dynamic RAM)と、リフレッシュしなくても記憶が失われない「SRAM」(Static RAM)に分類される。前者は消費電力は大きいが低コストで高密度化(大容量化)しやすいためコンピュータのメインメモリに使われる。後者は高速性や省電力性が必要な組み込み用途などで使われる。
ROMは製造時に内部の回路に固定的に信号を記録し、以降は内容を変更することができない(現在ではこれをマスクROMと呼ぶ)。しかし、技術の進展でチップ製造時にはデータを記録せず、開発者が特殊な装置でデータを記録する「PROM」(Programmable ROM)が発明された。PROMがさらに発展し、内容の消去と再書き込みを繰り返し行うことができる「EPROM」(Erasable Programmable ROM)が生まれた。
さらに、すべての処理をコンピュータなど(読み出しを行う)機器に装着した状態のまま実行できる「EEPROM」(Electrically Erasable Programmable ROM)に改良され、さらに制御方式や書き換え性能などを向上させた「フラッシュメモリ」となった。フラッシュメモリはUSBメモリやメモリーカード、SSDなどの形で、従来の磁気ディスクや光学ディスクに代わって主流のストレージ装置として急速に普及している。
3Dプリンタ 【3次元プリンタ】 ⭐
微細な材料を一層ずつ積み重ねて立体物を造形する装置。紙に印刷するプリンタのように、断面の形状に合わせて上から材料を吹き付けたり光線を照射したりすることからこのように呼ばれる。
材料には石膏や樹脂、金属の粉末や液体が使われ、熱やレーザー、紫外線、接着剤などの作用により固化させて層を形成する。積層面に均等に配置した材料に、断面形状に合わせて上部から光線などを当てて固化させる方式と、材料そのものを断面形状に合わせて上部から噴射する方式がある。
工業的な大量生産手法に比べると装置や原料が高額で製造に時間がかかるため、一般消費者向け製品の大量生産などには向かず、試作のような一品物、あるいは、多品種・少量をオンデマンドで素早く提供するような用途に適している。
精度を高めるほど装置が高額になり造形に時間がかかるが、3D設計データと原材料があれば即座に製作することができ、工具や工作機械、職人的な技能の熟達が不要という利点がある。従来の製造法が苦手とする様々な部材や材料の一体成型、複雑な内部構造の造形などは得意である。
データを伝送・配布すれば同じ物体をどこでも誰でも同じように作り出せる点も今までにない特徴で、模型などの分野では立体物のデータ販売(購入者が自らの3Dプリンタで造形する)など新たな試みも行われている。
1980年代初頭に発明され、当初は高額な製品がほとんどだったため一部の特殊な業務用途で用いられていたが、2010年頃から個人向けの低価格製品の登場などを受け様々な用途で使われるようになった。
製造業を中心に、製品や部品の試作、デザインモデルの製作、可動部の機構検討、治具・工具・交換部品の製造などに用いられている。建築分野で建築模型の製作に用いられたり、医療分野でCTスキャンやMRIの画像を元に患部を再現した医療用モデルの製作に用いられることもある。
ジオタグ 【ジオタギング】 ⭐
画像や動画、SNSの投稿などのデータに付加される「データについてのデータ」(メタデータ)の一種で、撮影や投稿が行われた地球上の位置情報を表すもの。ジオタグを付加する操作や処理を「ジオタギング」という。GPSなどで観測した情報を緯度や経度で表すことが多い。
スマートフォンなどの携帯端末はGPSなどで現在地の緯度や経度を検知する機能があり、これを利用して、データをファイルに保存したりネットワークで送受信する際に付加情報として関連する位置情報を追加する。
写真や動画に撮影日時などと共に記録する際に利用され、ファイル形式の仕様に格納するデータの種類や形式についての規定がある。また、SNSなどのネットサービスで発言や画像を投稿する際に現在位置を追加できる場合があり、閲覧者に投稿内容と共に投稿場所が表示される。
ジオタグが付加される設定になっていることに気づかずに撮影や投稿を行うと、望まない相手に意図せず自分に関連する場所についての情報を知らせてしまう危険性がある。ファイルに埋め込まれている場合には単に画像などを表示しただけではジオタグの存在や内容を確認できないことが多いため、取り扱いに注意が必要である。
QRコード 【Quick Response code】 ⭐
データを平面上の正方形の領域に表された図形パターンで表すことができる2次元コードの方式の一つ。現在のデンソーウェーブが1994年に開発したもので、「QRコード」は同社の登録商標。1999年にJIS X 0510、2000年にISO/IEC 18004として標準化され、様々な分野で広く普及している。
小さな正方形の点を縦横同じ数だけ並べたマトリックス型2次元コードで、一辺に21個並べた「バージョン1」から、177個並べた「バージョン40」まで、40通りの仕様が用意されている。点の数が多いほうがたくさんの情報を記録できるが、必要な面積は大きくなっていく。
コード領域の三方の角には、中心が黒く塗りつぶされた大きな「回」の字型の「切り出しシンボル」(ファインダパターン)が配置されており、360度どの向きから読み取っても正確に情報が読み出せるようになっている。
記録できる情報量はバージョン40の場合で最大23,648ビットである。文字は独自のコード体系および符号化方式で表され、カナや漢字を含む文字列は最長1,817文字、アルファベットと数字だけなら4,296文字、数字だけなら7,089文字まで記録できる。
データには冗長性を持たせてあり、一部が汚損して読み取れなくてもデータを復元することができる。誤り訂正率は5段階から選択でき、最も低いもので約7%、最も高いもので約50%までの汚損に対応できる。誤り訂正率は高いほどより多くの冗長なデータが必要となるため、記録できるデータ量はその分少なくなる。
同社では自動車工場のカンバン(現品札)の自動読み取り、倉庫や配送の管理の効率化など、産業機器の自動化推進の一環としてQRコードを開発したが、汎用性の高さ、データ密度の高さ、高度な誤り訂正機能、読み取り向きが自由であるなど使い勝手の良さ、関連特許を開放して利用料を求めなかったことなどから、IT分野を中心に広く浸透している。
携帯電話のカメラ機能と組み合わせてインターネット上のURLやメールアドレス、サービス上のID情報などの告知や伝達に使われたり、乗り物の乗車券や搭乗券、イベントや施設のチケットレス入場、キャッシュレス決済などでよく用いられる。
IoT 【Internet of Things】 ⭐⭐⭐
コンピュータなどの情報・通信機器だけでなく、世の中に存在する様々な物体(モノ)に通信機能を持たせ、インターネットに接続したり相互に通信することにより、自動認識や自動制御、遠隔計測などを行うこと。
自動車の位置情報をリアルタイムに集約して渋滞情報を配信するシステムや、人間の検針員に代わって電力メーターが電力会社と通信して電力使用量を申告するスマートメーター、大型の機械などにセンサーと通信機能を内蔵して稼働状況や故障箇所、交換が必要な部品などを製造元がリアルタイムに把握できるシステムなどが考案されている。
これまでの情報システムとの違いとして、個々の機器の取り扱うデータ量や処理量、通信量は少ないが機器の数が桁違いに膨大であることや、従来のコンピュータ製品が人の周りや特定の場所(建物や部屋)に集中しているのに対しIoT機器は世の中の様々な場所に分散して配置される点などがある。
こうした特徴を反映し、低コストで生産でき低消費電力で稼働するICチップや、多数の機器からデータを集約して解析したり、同時に多数の機器を制御するソフトウェア技術、低消費電力で遠距離通信が可能な無線技術、環境中から微小なエネルギーを取り出す技術(エナジーハーベスティング)などの研究・開発が進められている。
LPWA (Low Power Wide Area)
IoTに必須の要素として、装置の消費電力が少なく、多数の機器を一つのネットワークに収容できる広域的な無線通信技術があり、これを「LPWA」(Low Power Wide Area)と総称する。そのような通信方式で構築されたネットワークは「LPWAN」(Low Power Wide Area Network)とも呼ばれる。
IoTを実現するには、携帯電話網など従来からある広域無線技術に比べ、十~数十kmといった遠距離や広い範囲をカバーでき、乾電池などの乏しい電源でも数か月から数年は稼働できることが求められる。一方、人間がスマートフォンなどの通信機器に求めるような高速なデータ伝送能力は必ずしも必要なく、数十~数百kbps(キロビット毎秒)程度あれば実用に供することができる。
このような特性を備えた新しい通信方式をLPWAと呼び、具体的な規格として「Sigfox」「LoRa」「Wi-Fi HaLow」「Wi-SUN」「LTE-M」「NB-IoT」「RPMA」などの方式が提唱されている。
M2M/センサネットワークとの違い
以前から、機器同士を直接繋いで自律的にシステムを運用する「M2M」(Machine to Machine)や、通信可能なセンサーを分散配置して高度な監視や制御を可能にする「センサネットワーク」(WSN:Wireless Sensor Network)などの概念が存在し、これらはかなりの部分がIoTと重複している。
ただし、IoTはインターネットへの接続を前提とするのに対し、これらの技術は閉じた専用ネットワークや独自プロトコル(通信規約)での運用を想定している場合が多い。また、M2Mやセンサネットワークは特定の目的のために機械同士が情報のやり取りすることで処理が完結する仕組みであることが多いのに対し、IoTは接続された機器と人や外部の情報システムとの相互関係がより重視される傾向がある。
IoE (Internet of Everything)
「ありとあらゆるものが接続されたインターネット」という意味で、モノのインターネットと、人やデータ、情報、ソフトウェアなどが中心の従来からあるインターネットが統合された姿を指す。
とはいえ、従来のインターネットとの違いは多数のモノが接続されている点であるため、実際上はIoTとほぼ同義として用いられることが多い。主に米シスコシステムズ(Cisco Systems)社が提唱している用語である。
SNS 【Social Networking Service】 ⭐⭐⭐
人と人との社会的な繋がりを維持・促進する様々な機能を提供する、会員制のオンラインサービス。友人・知人間のコミュニケーションを円滑にする手段や場を提供したり、趣味や嗜好、居住地域、出身校、あるいは「友人の友人」といった共通点や繋がりを通じて新たな人間関係を構築する場を提供するサービスで、Webサイトや専用のスマートフォンアプリなどで閲覧・利用することができる。
主な特徴
サービスにより機能や特徴が大きく異なるが、多くのサービスに見られる典型的な機能としては、別の会員を「友人」や「購読者」「被購読者」などに登録する機能、自分のプロフィールや写真を公開する機能、同じサービス上の別の会員にメッセージを送る機能、自らのスペースに文章や写真、動画などを投稿して友人などに見せる機能がある。
サービスによっては、複数の会員でメッセージ交換や情報共有ができるコミュニティ機能、イベントの予定や友人の誕生日などを共有したり当日に知らせたりしてくれるカレンダーあるいはスケジュール機能などがある。
多くの商用サービスではサイト内に広告を掲載するなどして、登録や基本的なサービスの利用を無料としているが、一部の機能を有料で提供しているサービスもある。
SNSの種類
多くのサービスはメールアドレスなどがあれば誰でも登録できるが、普及し始めた当初は人の繋がりを重視して「既存の参加者からの招待がないと参加できない」というシステムになっているサービスが多かった。
現在でも、何らかの形で参加資格を限定し、登録時に紹介や審査などが必要なサービスがある。また、参加自体が自由でも、テーマや分野などがあらかじめ設定され、関係や関心のある人の参加を募っているサービスなどもある。
企業などが従業員を対象に運用する「社内SNS」や、大学が教職員や在学生、卒業生を対象に運用する「学内SNS」もあり、業務上の連絡や情報共有に使われたり、業務とは切り離して参加者間の交流の促進のために利用されたりする。「OpenPNE」や「Mastodon」など自らSNSを開設・運用することができるサーバ向けソフトウェアもあり、これを利用したプライベートな集団内のサービスも存在する。
歴史と著名なサービス
2003年頃アメリカを中心に相次いで誕生し、国内事業者によるサービスも2004年頃から普及し始めた。世界的には、初期に登録資格を有名大の学生に絞って人気を博し、後に世界最大のソーシャルネットワークに成長した「Facebook」(フェイスブック)や、短いつぶやきを投稿・共有するマイクロブログ型の「Twitter」(ツイッター:現X)、写真の投稿・共有を中心とする「Instagram」(インスタグラム)、ビジネス・職業上の繋がりに絞った「LinkedIn」(リンクトイン)などが有名である。
日本独自のサービスとしては一時会員数1000万人を超え社会現象ともなった「mixi」(ミクシィ)などが有名だが、近年ではFacebookなど海外事業者に押され利用が低迷しており、オンラインゲーム運営・提供に業態転換するなどしている。
SNS的なサービスの広がり
近年では様々なWebサイトやネットサービス、スマートフォンアプリなどに「ソーシャルな」機能が組み込まれる事例が増えており、何がSNSで何がそうでないか明確に区別することは難しくなりつつある。
例えば、料理レシピ投稿サイトの「クックパッド」(Cookpad)や、スマートフォン利用者間でチャットや音声通話などを提供する「LINE」(ライン)などにも、集団の形成を支援するコミュニティ機能や日記の投稿・共有機能などがあり、これらのサービスをSNSの一種に含める場合もある。
SNSの功罪
SNSによって、一度繋がりの途絶えた古い友人と交流を再開したり、現実に頻繁に会うことは難しい多人数と日常的な繋がりを保ったり、身の回りに同好の士がいなくてもSNSで発見してコミュニティを形成できるなど、SNSのおかげで人間関係が充実した利用者は数多くいる。
一方で、不用意に個人情報や顔写真などを公開してしまい悪意に晒されたり、素性のよくわからない人と交流を持ちトラブルに巻き込まれたり、自分の周囲では特に問題視されなかった話がネット上で拡散されるうちに非難の書き込みが殺到してしまう(「炎上」と呼ばれる現象)など、SNSによって新たに引き起こされる問題もある。
また、SNSが様々な人の間に普及し、継続して利用する期間が長くなるに連れ、上司や家族など「望まれざる」相手とのSNS上での関係や対応に苦慮したり、知り合いの(大抵は良いことしか書かれていない)書き込みを読んで自分の身上と比較してしまったり、興味が湧かない話題でも毎回反応を迫られているように感じて精神的に疲弊する「SNS疲れ」といった問題に直面し、SNSの利用を断って離れる人も増えている。
VR 【Virtual Reality】 ⭐
人間の感覚器官に働きかけ、現実ではないが実質的に現実のように感じられる環境を人工的に作り出す技術。3次元CGで現実のような光景を映し出す技術を指すことが多い。
身体に装着する機器や、コンピュータにより合成した映像・音響などの効果により、3次元空間内に利用者の身体を投影し、空間への没入感(immersion)を生じさせる。空間内では移動や行動が可能で、利用者の動作に応じてリアルタイムに変化や応答が得られる対話性、双方向性(interactivity)を備えている。
感覚器へのフィードバック(sensory feedback)はディスプレイ装置やスピーカー、ヘッドフォンを用いた視聴覚へのものが主になるが、身体に密着する装置で接触や圧迫を行い触覚に働きかけたり、味覚や嗅覚へ人工的に働きかける技術の研究も進められている。
具体的な方式には様々なものが提唱されており、頭部に装着してすっぽりと視界を覆う「ヘッドマウントディスプレイ」(HMD:Head-Mount Display)を用いた手法が特に有名となっているほか、手を包み込んで動きを入力したり力学的なフィードバックを与える手袋型の「データグローブ」(data glove)などの方式が有望と考えられている。
日本語では “virtual reality” の訳語として「仮想現実」という語が定着しているが、「仮想」には「仮に想定した」「偽の」「実際には存在しない」といったニュアンスがある一方、“virtual” は「名目上は異なるが実質的には同じである」という意味であり、訳語として不適切であるとする指摘もある。
様々な人工現実感
狭義のVRは完全に人工的に生成した非現実の空間を用いるものを指すが、広義には現実の光景や音声、過去の映像などをコンピュータに取り込んで、人工的に生成した要素と組み合わせる方式も含まれる。
後者のうち、離れた場所の様子をVRによって再現し、その中に実際にいるような感覚を生じさせるシステムを「テレイグジステンス」(telexistence)あるいは「テレプレゼンス」(telepresence)という。眼前の光景に人工的に生成した映像や情報を付加するシステムを「拡張現実感」(AR:Augmented Reality)あるいは「複合現実感」(MR:Mixed Reality)などと呼ぶ。
近年では、(狭義の)VRやAR、MRなどを含む総称としての広義の人工現実感のことを「XR」(X Reality/Cross Reality/Extended Reality)と呼ぶことが多い。
また、フィクションに登場したり将来開発されることが期待される、現実と区別がつかないほど進歩したVRシステムのことは「アーティフィシャルリアリティ」(AR:Artificial Reality)あるいは「シミュレーテッドリアリティ」(Simulated Reality)などと呼ばれることもある。
AR 【Augmented Reality】 ⭐
現実の環境から視覚や聴覚、触覚などの知覚に与えられる情報を、コンピュータによる処理で追加あるいは削減、変化させる技術の総称。
コンピュータがカメラやマイク、GPS、各種のセンサーなどで得たその場所や周囲の状況に関する情報を元に、現実世界から得られた画像や映像、音声などに加工を施して利用者に提供する。データグローブなど身体に装着する機器を用いて触覚に働きかけるシステムも研究されている。
実装例として、スマートフォンのカメラを通じて得た外界の映像に、リアルタイムにキャラクターの画像を重ね、あたかもその場所にキャラクターが出現したかのように演出するビデオゲームなどがある。
また、ゴーグルや眼鏡のように眼前に装着できる透過型のディスプレイに、装着者の見ている対象物に関連する文字や画像、映像などを重ね合わせて表示することで、肉眼では見えない部分を見えるようにしたり、関連情報を提供したりするシステムの研究開発も進んでいる。
こうした専用の装具を用いて、医師が手術の際に患部を見ながら一部分の拡大表示や患者の身体状態などを確認できるようにしたり、軍隊で兵士が装着して戦場の様子やセンサーが捕らえた敵の状態を重ね合わせて表示するといった応用が期待されている。
クラウドファンディング 【クラファン】 ⭐
資金を必要とする個人や団体、プロジェクトなどが不特定多数の相手から少額の資金を募る手法。特に、専門の仲介サイトで詳細を告知して資金提供者を募集すること。
資金を募って活動を行いたい場合、まとまった大口資金を少数から集める手法だと、限られた富裕な人や団体の好む事業しか実現できず、また、少数の大口出資者の都合や意向にプロジェクト運営が大きく左右される問題があった。
クラウドファンディングの “crowd” は「群衆」、“funding” は「資金調達」という意味で、ネットを通じて広く一般に資金提供を呼びかけ、数千円から数万円といった小口の資金を多数の賛同者から集める。多くの人が少額を拠出する形を取ることで個々の出資者の影響を小さく抑えることができる。
また、資金を募集する過程自体がある種の宣伝やアピールとして機能し、対象の事業に強い興味を持つ「ファン」や製品の潜在顧客を組織したり、その意見をプロジェクトに反映させることができる。出資者はプロジェクトに愛着を持ち成功を強く祈るようになり、口コミで他の出資者を探したりプロジェクトの存在を広めてくれることも多い。
種類と対象
見返りの有無や種類によって、特に見返りのない「寄付型」の募集と、通常の出資や貸付のように利益が出たらその一部を受け取れる「投資型」、開発した製品やサービスを無償または安価で受け取ったり利用したりできる「購入代金前払い型」に分類することができる。
クラウドファンディングの対象となるのはベンチャー企業への出資や、新しい工業製品やソフトウェアの開発プロジェクトなどが多いが、これに留まらず、政治運動や市民運動、映画やビデオゲームなどの作品制作、スポーツチームや芸能グループの活動継続、舞台や興行の開催、公的部門からの資金の乏しい学問研究、災害復興支援、街づくりや地域活性化などへの資金の募集にも用いられている。
問題点
資金提供の条件やプロジェクト運営の手法、情報開示などについて法規制等はなく、クラウドファンディングサイトが利用者にガイドラインを示すといった取り組みはしているものの、資金の払込後に連絡が取れなくなるといった詐欺まがいの事案が発生することがある。また、個人運営のプロジェクトを中心に見返りの内容や資金使途の公開などを巡ってトラブルになる事例が多く見られる。
エスクロー 【エスクロウ】 ⭐
第三者預託という意味の英単語。二者の契約について一方から他方への義務の履行が確認されるまで、対価として引き渡される金銭や証書、物品などを第三者が預かる仕組みのこと。
例えば、物品の売買について二者が合意に達すると、まず買い手が商品の代金を仲介者に預け、これを確認したら売り手は商品を引き渡す。買い手は商品を受け取り、確かに発注したとおりであると確認できれば、仲介者に連絡して代金を売り手に引き渡す。これにより、納品したのに代金が支払われない、あるいは、代金を支払ったのに納品されないといったトラブルを未然に防ぐことができる。仲介者は手数料として代金の一定の割合か固定額を受け取る。
古くから証券や不動産、企業間取引などの分野で金融サービスの一種として存在したが、インターネットを通じた取引が活発化するに連れ、eマーケットプレイス事業者が出店している小規模店舗と消費者の間で提供したり、ネットオークションやフリマアプリなど個人間の商取引を仲介する事業者が提供する例が増えている。日本では2009年の資金決済法により、事業会社が届け出により100万円以下の決済を取り次ぐ資金移動業者になることができるようになった。
なお、売買など金銭の受け渡しだけでなく、二者間の交換や契約の履行を第三者が仲介する様々な仕組みやサービスにエスクローサービスという名称が用いられている。
電子マネー 【電子通貨】 ⭐⭐⭐
貨幣価値の蓄積や移動を電子的な手段によって行う決済システムやサービス、装置などのうち、主に現実の貨幣や紙幣の代替として利用するために設計されたもの。また、そのための専用の装置などに蓄積され、店頭などで支払いに充当することができる貨幣価値のこと。
ストアドバリュー型
実店舗で利用される電子マネーとしては、非接触ICカードやスマートフォンなどで貨幣価値を表すデータを蓄積・管理し、店頭の端末と無線通信を行って支払いを行う方式がよく用いられる。カードや端末へは手持ちの現金や銀行口座、クレジットカードなどから繰り返し「入金」することができ、蓄積された残高の範囲内で現金の代わりに支払いに当てることができる。
この方式では、JR東日本の「Suica」や首都圏私鉄・バス事業者連合の「PASMO」をはじめとする交通系ICカードが大都市圏を中心で広く普及しているほか、楽天Edyやイオングループの「WAON」、セブン&アイグループの「nanaco」など流通系ICカードも普及している。
ポストペイ型
一般的には事前に入金が必要なプリペイド(前払い)方式のものを電子マネーというが、「iD」や「QUICPay」のように事前入金なしに利用できて、後日、銀行口座の引き落としやクレジットカードなどで支払いを行うポストペイ(後払い)方式のサービスもある。ポストペイ方式は実質的にはクレジットカードの付加サービスあるいはクレジット決済の一種とみなされる。
プリペイドカード型
また、事前に一定額を支払うと引き換えに発行されるコード番号などを入力することで、同額の決済を行えるサービス・システムもあり、ネットサービスやオンラインゲーム、オンラインショップなどでの支払いや、スマートフォンなどでのアプリやコンテンツの購入などでよく利用される。
コード番号の記載されたカードがコンビニエンスストアなどで販売されているほか、店頭で一定額を支払うとレジからコードの記載されたレシートが発行されたり、銀行振込やクレジット決済で一定額を入金すると事前に登録したメールアドレスなどにコードが送られてくる、といった仕組みを採用しているサービスもある。
「WebMoney」や「BitCoin」など専業の事業者が運営し、提携している各社のサービスで利用できるものと、米アップル(Apple)社の「Apple Gift Card」や米グーグル(Google)社の「Google Playギフトカード」、米アマゾンドットコム(Amazon.com)社の「Amazonギフトカード」のように、自社サービスの決済に利用するために販売されるものがある。
仮想通貨との違い
電子マネーは日本円など現実の通貨の価値をデジタルデータに置き換えて蓄積・交換するための仕組みだが、これとは別に、それ自体を独立した一つの通貨のように用いることのできる、デジタルデータで表された価値の蓄積・交換システムも存在し、「仮想通貨」(virtual currency)あるいは「暗号通貨」(cryptocurrency)と呼ばれる。
人工知能 【AI】 ⭐⭐⭐
人間にしかできなかったような高度に知的な作業や判断をコンピュータを中心とする人工的なシステムにより行えるようにしたもの。
人類は未だに人間の脳の振る舞いや知能の仕組みを完全には解明していないため、AIにも明快な定義は与えられていない。また、情報技術の進歩に伴って時代によってAIとされるシステムの具体的な内容は大きく変化してきている。
特に、前の時代にAIの一分野として研究・開発が進められていたものが、技術が成熟し実用化や普及が進むとAIとは呼ばれなくなり、より高度で研究途上のものが新たにAIとして注目される傾向がある。この現象は「AI効果」と呼ばれ、例として文字認識技術(OCR)や検索エンジン、かな漢字変換システム、ロボット掃除機などが挙げられる。
2000年代後半以降にAIとされるものは、大量のデータから規則性やルールなどを学習し、与えられた課題に対して推論や回答、情報の合成などを行う機械学習(ML:Machine Learning)を基礎とするものが主流となっている。
特に、人間の神経回路を模したニューラルネットワーク(NN:Neural Network)で深い階層のモデルを構築し、精度の高い推論を行うディープラーニング(深層学習)研究に大きな進展があり、これに基づく研究や開発が盛んになっている。
応用分野として、チェスや将棋、将棋など知的なゲームで対局するシステム、画像や映像に映る物体や人物を識別する画像認識システム(コンピュータビジョン)、人間の発話を聞き取って内容を理解する音声認識システム、言葉を組み立てて声として発する音声合成システム、ロボットや自動車など機械の高度で自律的な制御システム(自動運転など)、自動要約や質問応答システム、高度で自然な機械翻訳といった様々な自然言語処理などがよく知られる。
データマイニング ⭐
蓄積された大量のデータを統計学や数理解析などの技法を用いて分析し、これまで知られていなかった規則性や傾向など、何らかの未知の有用な知見を得ること。
「マイニング」(mining)とは「採掘」の意味で、膨大なデータの集積を鉱山に、そこから有用な知見を見出すことを資源の採掘になぞらえている。適用分野や目的、対象となるデータの種類は多種多様だが、ビジネスの分野では企業が業務に関連して記録したデータ(過去の取引記録、行動履歴など)を元に、意思決定や計画立案、販売促進などに有効な知見を得るために行われることが多い。
例えば、小売店の商品の売上データの履歴は、それ自体は会計上の手続きや監査などの業務にしか使われないが、データマイニングの手法で統計的に処理することで、これまで知られていなかった「商品Aと商品Bを一緒に購入する顧客が多い」といった傾向が分かる場合がある。これにより、AとBの売り場を統合するといった販売促進施策を行うことが可能となる。
商業分野だけでなく、自然言語処理やパターン認識、人工知能などの研究などでも利用される。分析・解析の手法も様々だが、代表的な手法としては、頻度の高いパターンの抽出や、相関関係にある項目の組の発見、データの特徴や共通点に基づく分類、過去の傾向に基づく将来の予測などがある。
近年では、一般的なシステムやソフトウェアでの解析が困難な巨大なデータセットである「ビッグデータ」を対象とした解析手法や、人工知能の一分野である機械学習、特に先進的な手法である「ディープラーニング」を応用したマイニング手法などが活発に研究・開発されている。
ユニバーサルデザイン 【UD】 ⭐⭐⭐
すべての人が等しく使うことができる、あるいは使いやすいデザイン・設計のこと。より現実的には、なるべく多くの人が同じように使えることを目指すデザイン原則を表す。
言語や文化、人種、性別、年齢、体型、利き腕、障害の有無や程度といった違いによらず、できるだけ多くの人が同じものを同じように利用できるよう配慮されたデザインのことを意味する。
「バリアフリー」を始めとする従来の考え方では、「高齢者用」「左利き用」「車椅子用」のように特性に応じた専用のデザインを用意する発想が基本だったが、ユニバーサルデザインではこうした発想を極力排し、単一のデザインで万人が利用できることを目指している。
ユニバーサルデザインという用語は1985年に米ノースカロライナ州立大学のロナルド・メイス(Ronald Mace)教授によって提唱されたが、それ以前から実践されていた考え方を整理して名前をつけたものとされる。氏はユニバーサルデザインの7つの原則として「公平に使える」「柔軟性がある」「簡単で自明」「必要なことがすぐに理解できる」「間違いを許容する」「弱い力で使える」「十分な大きさと空間」を唱えている。
ユニバーサルデザインの具体例として、施設内の案内などを言葉ではなく絵文字で伝えるピクトグラム、様々な視覚特性を持つ人による調査・テストを経て開発された視認性の高いフォント、容器に刻まれた凹凸を触れば何が入っているか識別できるシャンプーやコンディショナー、手や指の状態によらず持ちやすく使いやすい文房具やカトラリーなどがある。
カラーユニバーサルデザイン 【CUD】 ⭐
印刷物や映像、Webページなどをデザインする際に、色の見え方が多数派とは異なる人にも情報がきちんと伝わるよう配慮された配色や構成にすること。
どんな身体的な特性がある人も等しく使うことができる、あるいは使いやすいデザイン・設計のことを「ユニバーサルデザイン」(universal design)というが、これを表現物の配色に適用し、色覚の特性によらず認識することができる、あるいは見やすいデザインを目指す考え方である。
人間の色覚(色の感じ方)は一様ではなく個人差があり、先天的な色覚異常や、緑内障、白内障など目の病気によっても大きな影響を受ける。カラーユニバーサルデザインでは、色によって情報の認知に差が生じないよう「なるべく多くに人が見分けやすい配色を選ぶ」「色が見分けられなくても情報が伝わるようにする」「色の名前を併記するなど色を言葉で伝達できるようにする」という3つの原則に沿ってデザインを進める。
カラーユニバーサルデザインは生物学者の伊藤啓氏と医学者の岡部正隆氏が「カラーバリアフリー」(color barrier-free)として提唱し始めたもので、2004年に両氏が中心となってNPO法人カラーユニバーサルデザイン機構(CUDO)が設立された。以降は「カラーユニバーサルデザイン」の名称で普及活動が進められている。同法人では見分けやすい色の組み合わせを集めた推奨配色セットを公表したり、カラーユニバーサルデザインに配慮した製品などの認証制度の運用などを行っている。
アクセシビリティ ⭐⭐⭐
近づきやすさ、利用しやすさ、などの意味を持つ英単語で、IT分野では、機器やソフトウェア、システム、情報、サービスなどが身体の状態や能力の違いによらず様々な人から同じように利用できる状態やその度合いのことを指す。
高齢や障害、病気、あるいは他の身体的・認知機能的な特性により運動や視聴覚機能に制約や偏りがあっても、機器やソフトウェアの操作、情報の入手、ネットサービスの利用などが可能である状態を意味する。
例えば、マウスなどによる画面上の位置指定が困難な場合に備え、キーボードやボタン型の入力装置、音声認識など他の入力機能のみで操作が行えるようにしたり、視力や視覚の状況に応じて、画面表示や文字の拡大、画面上の文字の読み上げなどの機能を選択できるといったように、様々な人が利用できるような備えが行われている状態を指す。
単にアクセシビリティといった場合はWebページについての「Webアクセシビリティ」のことを指すことが多い。また、IT分野以外でも、例えば建物や施設、設備などへの出入りや内部の移動のしやすさ、利用しやすさ(段差がない、スロープやエレベーターが整備されている等)のことをアクセシビリティということもあるが、これは日本語では「バリアフリー」(barrier free)という外来語で表現されることが多い(厳密にはバリアフリーはアクセシビリティより狭い概念を指すとする見解もある)。
UX 【User Experience】 ⭐
ある製品やサービスとの関わりを通じて利用者が得る体験およびその印象の総体。使いやすさのような個別の性質や要素だけでなく、利用者と対象物の出会いから別れまでの間に生まれる経験の全体が含まれる。
対象物の機能や性能、内容、使い勝手といった性質そのものよりも、それを通じて利用者が得られる経験がどのようなものであるかに着目する概念である。対象物の持つ特性だけでは決まらず、利用者側の属性や個性、利用者を取り巻く環境や利用時の状況などにも強く影響を受けるため、作り手側ですべてを制御することは難しい。
よく混同されるが、「ユーザーインターフェース」(UI:User Interface)は対象物の具体的な使用・操作の方法や様式を定めたもので、「ユーザビリティ」(usability)は対象物の使い勝手、使いやすさを指す。ユーザエクスペリエンスはこれらの要素を含むが、これらを通じて得られる最終的な体験、および体験を通じて惹起される感情が中心となる。
また、従来は製品の使用感をある一回(初回)の使い方や印象に限定して捉えることが多かったが、ユーザエクスペリエンスはこれを通時的に捉える。すなわち、製品やサービスと利用者との出会い(プロモーションや販売・加入など)、使用の開始(開封や初期設定など)、使用の継続や反復(様々な状況・環境を含む)、使用の終了(廃棄や買い替え、解約など)といった各場面における利用者の感じ方をそれぞれ検討する。
“user experience” という表現自体は以前から使われていたようだが、1990年代半ばに当時の米アップルコンピュータ(Apple Computer)社(現アップル)に勤務していた認知心理学者のドナルド・ノーマン(Donald A. Norman)博士により、コンピュータやソフトウェアなどの分野で現在の用法が広まったとされている。
現在ではITの分野に限らず工業製品や小売業など様々な分野で引用される概念となり、また、「対象者の体験の総体に着目する」という考え方から「カスタマーエクスペリエンス」(CX:Customer Experience)など様々な “~ experience” という派生概念を生み出している。
ユーザビリティ 【使用性】 ⭐⭐⭐
機器やソフトウェア、Webサイトなどの使いやすさ、使い勝手のこと。利用者が対象を操作して目的を達するまでの間に、迷ったり、間違えたり、ストレスを感じたりすることなく使用できる度合いを表す概念である。
国際規格のISO 9241-11では、ユーザビリティを「特定の利用状況において、特定の利用者によって、ある製品が、指定された目標を達成するために用いられる際の、有効さ、効率、利用者の満足度の度合い」と定義している。漠然とした「使いやすさ」よりは限定された概念で、ある人がある状況下である目的を達することがどれくらい容易であるかを表している。
ユーザビリティは利用者への情報やメッセージの提示の仕方やタイミング、言い回し、操作要素や選択肢の提示の仕方、操作の理解のしやすさや結果の想像しやすさ、操作のしやすさや誤りにくさ、誤操作に対する案内や回復過程の丁寧さ、利用者の操作に応じた表示や状況の変化(インタラクション)などの総体で構成される。
高いユーザビリティのために必要な実践は対象の種類(機器・ソフトウェア・Webページ等)や想定される利用者の属性、文脈や利用目的によって異なるため個別性が高く、ある状況では良い事例とされたものが別の文脈では悪い事例になる場合もある。
開発者が期待するユーザビリティが備わっているかどうか確かめるには、利用者(やそれに近い属性の人物)の協力を得て実際に使ってみてもらい、想定通りの操作が行われるか、利用者が不満や戸惑いを感じないかなどをテストするのが有効であるとされる。このような試験を「ユーザーテスト」(user testing)あるいは「ユーザビリティテスト」(usability testing)という。
デジタルデバイド 【情報格差】 ⭐⭐
パソコンやスマートフォン、インターネットなどのデジタル技術に触れたり使いこなしたりできる人と、そうでない人の間に生じる、貧富や機会、社会的地位などの格差。個人や集団の間に生じる格差と、地域間や国家間で生じる格差がある。
コンピュータや通信ネットワークが職場や日常生活に深く入り込み、それを活用できる者はより豊かで便利な生活や、高い職業的、社会的地位を獲得できる一方、何らかの理由により情報技術の恩恵を受けられない人々は社会から阻害され、より困難な状況に追い込まれてしまう。こうした状況をデジタルデバイドという。
主な要因
デジタルデバイドは様々な要因により発生し、拡大する。例えば、子どもや若者は技術や知識を比較的容易に習得し、進んで習慣的に利用するようになることが多いが、中高年や高齢者が新たにコンピュータの操作法などを覚えるのは困難で、生活習慣に取り入れることにも抵抗感があることが少なくない。
また、貧困のために情報機器やソフトウェア、サービスなどの購入が困難だったり、身体機能の障害や発達特性などから機器の操作が困難で情報技術の恩恵を受けられない場合もある。元々存在した様々な格差がデジタルデバイドにより拡大したり固定化してしまうという側面がある。
地域間の格差
地域や国家の単位でデジタルデバイドが生じることもある。通信インフラの普及度合いや、所得水準と情報機器の価格の関係、技術の習得・利用の前提となる十分な教育が受けられるか、インフラ整備や技術・機器の導入・教育を担う技術者などの人材が十分にいるか、といった点により、地域や国家ごとに格差が生じる。
ここでも、元々豊かな先進国やインフラがいち早く整備され人材豊富な大都市などが情報技術でさらに発展し豊かになる一方、情報技術に十分アクセスできない発展途上国や農村部などがデジタル環境でも取り残されるという、格差の拡大・固定化の問題がある。
サイバー犯罪 【ハイテク犯罪】 ⭐⭐
コンピュータや通信ネットワークを用いて行われる犯罪の総称。主にインターネット上で行われる犯罪行為を指すことが多い。
どのような行為が該当するかは各国の法律によって異なるが、日本では不正アクセス、DoS攻撃、ネット詐欺(フィッシングや架空請求など)、オンライン不正送金、著作物の無断複製や配布、わいせつ物などの公開や譲渡、SNSなどにおける誹謗中傷や業務妨害などが罪に問われる。
関連する法律としては刑法や不正アクセス禁止法、著作権法、不正競争防止法などがあり、法律上の罪種としては電磁的記録不正作出(データ改竄など)、電子計算機損壊等業務妨害(遠隔操作によるデータ消去など)、電子計算機使用詐欺(クレジットカード番号窃取・不正使用など)、不正指令電磁的記録作成(コンピュータウイルスの開発・配布など)、偽計業務妨害(ネット上の犯罪予告など)、著作権侵害、名誉毀損、信用毀損(風説の流布など)、わいせつ物公然陳列・頒布などが該当する。
犯人がインターネットを通じて犯行を行ったり、犯行現場がネット上であるようなものを指すことが多いが、クレジットカードのスキミングのように、ネットとは無関係に電子的な手段を利用した犯罪も含まれる。
サイバー犯罪自体は各国の刑事司法制度で裁かれるが、国家をまたぐ不正アクセス事件などに対処するため、2001年にサイバー犯罪条約が成立(発効は2004年)し、加盟諸国が国内法を整備して捜査などで協力している(日本は2012年批准)。
サイバー犯罪のうち、何らかの政治的な示威などのために大規模に行われる不正アクセスやDoS攻撃などのことを「サイバーテロ」(cyberterrorism)という。また、敵対する国家間や国家に準じる勢力の間で互いに攻撃を加え合う行為は「サイバー戦争」(cyberwarfare)という。
テクノストレス ⭐
コンピュータを扱うことが原因で起きる失調症状の総称。コンピュータに適応できないために生じるテクノ不安症や、過剰に適応したために生じるテクノ依存症などの種類がある。「テクノストレス」という名称は、1984年にアメリカの臨床心理学者クレイグ・ブロード(Craig Brod)氏が名づけた。
テクノ不安症 (techno-anxiety)
コンピュータに適応できないことが原因で生じる精神的な失調症状をテクノ不安症という。具体的な症状は、動悸、息切れ、肩こり、めまいなどの自律神経の失調や、鬱などである。
社会の隅々までコンピュータが普及しつつある現在、会社の業務などで好むと好まざるとに関わらずコンピュータを使う必要に迫られる人が増えている。そのうち、コンピュータになじめず、操作を苦痛に感じる人は、そのことで強いストレスを感じ、体調を崩してしまうことがある。
テクノ依存症 (techno-addiction)
コンピュータに過剰に適応し、あるいは没頭しすぎることが原因で生じる精神的な失調症状をテクノ依存症という。コンピュータがないと不安に感じたり、人付き合いを煩わしいと感じるようになる。
具体的な症状としては、自分の限界が分からなくなる、時間の感覚がなくなる、邪魔されるのが我慢できなくなる、あいまいさを受け入れられなくなる、「はい/いいえ」「正解/不正解」式のやり取りや思考を好むようになる、人と接することを嫌うようになる、人を見下すようになる、などがある。
パソコンやゲーム機、インターネットなどのデジタル技術が短期間のうちに急激に普及した先進国や経済新興国では、主に若者の間で、ゲームやネット(最近ではネットゲーム)にのめりこんでしまい、実社会の生活に支障をきたしたり、正常な対人関係を結べなくなったりする「中毒」症状が目立つようになり、社会問題化している。
VDT症候群 (IT眼症/テクノストレス眼症/VDT障害)
パソコンのディスプレイなどのVDTを長時間見続けながら作業を行うことによって発生する、身体的・精神的疾患の総称。直接的な身体的疾患の例としては眼精疲労や視力低下、目のかすみ、目の痛み、ドライアイ、めまいなどが挙げられる。これらの症状の原因は、VDTの輝度やコントラストが強すぎることや、長時間VDTを注視するさいにまばたきの回数が減ることなどである。
このほかにも、VDTの前で長時間姿勢を固定して作業することによる肩こりや腰痛など体の痛み、キーボード操作によって起こる腱鞘炎などの身体的症状もVDT障害に含まれる。精神的疾患の例としては単調なデータ入力作業などを長時間行うことによって起こる情緒不安定や不眠などがある。
厚生労働省では、2002年に「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」を策定し、その中でVDT障害を防ぐための作業管理のしかたや、VDT障害を起こさない適切なVDT機器の基準、健康管理の方針などをまとめている。
ドライアイ (dry eyes)
目の疾患の一つで、涙液の減少により眼球の表面が乾燥し、傷や障害が生じるもの。
目が疲れる、目に痛みを感じる、目が乾いた感じがする、目が重たい、10秒以上目を開けていられないなどの症状が現れる。短時間で回復することが多いため軽視されがちだが、症状が頻発したり長引いたりすると角膜などを損傷して視力の低下を招く恐れもあるので、慢性的に症状を感じる場合は早めに受診したほうがよい。予防や症状の軽減のためには、一定の間隔をおいて目を休ませる。意識的にまばたきの回数を増やす、部屋の湿度を高めに保つ、眼科医の処方する目薬などで目の潤いを保つ、などの方法がある。
本来、眼球はまばたき動作により適量の涙が提供され、ゴミや細菌から守られているが、集中して一点を見つめ続けるとまばたきの回数が減り、涙量が減ってしまう。そのため眼球の十分な保護ができなくなって、眼球が乾燥し、傷つきやすくなってしまう。先天的にまばたきの少ない人、コンタクトレンズを常用している人は特にドライアイにかかりやすい。
空気の乾燥した季節や、エアコンの運転などで乾燥した空間で起こりやすく、コンピュータでの作業やテレビの視聴、ビデオゲームの操作など、同じ場所を長時間凝視し続けることで起こることが多い。電子機器の普及により発症が顕著になった現代病のひとつとされる。
テクノストレス
コンピュータを扱うことが原因で起きる失調症状の総称。コンピュータに適応できないために生じるテクノ不安症や、過剰に適応したために生じるテクノ依存症などの種類がある。「テクノストレス」という名称は、1984年にアメリカの臨床心理学者クレイグ・ブロード(Craig Brod)氏が名づけた。
テクノ不安症 (techno-anxiety)
コンピュータに適応できないことが原因で生じる精神的な失調症状をテクノ不安症という。具体的な症状は、動悸、息切れ、肩こり、めまいなどの自律神経の失調や、鬱などである。
社会の隅々までコンピュータが普及しつつある現在、会社の業務などで好むと好まざるとに関わらずコンピュータを使う必要に迫られる人が増えている。そのうち、コンピュータになじめず、操作を苦痛に感じる人は、そのことで強いストレスを感じ、体調を崩してしまうことがある。
テクノ依存症 (techno-addiction)
コンピュータに過剰に適応し、あるいは没頭しすぎることが原因で生じる精神的な失調症状をテクノ依存症という。コンピュータがないと不安に感じたり、人付き合いを煩わしいと感じるようになる。
具体的な症状としては、自分の限界が分からなくなる、時間の感覚がなくなる、邪魔されるのが我慢できなくなる、あいまいさを受け入れられなくなる、「はい/いいえ」「正解/不正解」式のやり取りや思考を好むようになる、人と接することを嫌うようになる、人を見下すようになる、などがある。
パソコンやゲーム機、インターネットなどのデジタル技術が短期間のうちに急激に普及した先進国や経済新興国では、主に若者の間で、ゲームやネット(最近ではネットゲーム)にのめりこんでしまい、実社会の生活に支障をきたしたり、正常な対人関係を結べなくなったりする「中毒」症状が目立つようになり、社会問題化している。
VDT症候群 (IT眼症/テクノストレス眼症/VDT障害)
パソコンのディスプレイなどのVDTを長時間見続けながら作業を行うことによって発生する、身体的・精神的疾患の総称。直接的な身体的疾患の例としては眼精疲労や視力低下、目のかすみ、目の痛み、ドライアイ、めまいなどが挙げられる。これらの症状の原因は、VDTの輝度やコントラストが強すぎることや、長時間VDTを注視するさいにまばたきの回数が減ることなどである。
このほかにも、VDTの前で長時間姿勢を固定して作業することによる肩こりや腰痛など体の痛み、キーボード操作によって起こる腱鞘炎などの身体的症状もVDT障害に含まれる。精神的疾患の例としては単調なデータ入力作業などを長時間行うことによって起こる情緒不安定や不眠などがある。
厚生労働省では、2002年に「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」を策定し、その中でVDT障害を防ぐための作業管理のしかたや、VDT障害を起こさない適切なVDT機器の基準、健康管理の方針などをまとめている。
ドライアイ (dry eyes)
目の疾患の一つで、涙液の減少により眼球の表面が乾燥し、傷や障害が生じるもの。
目が疲れる、目に痛みを感じる、目が乾いた感じがする、目が重たい、10秒以上目を開けていられないなどの症状が現れる。短時間で回復することが多いため軽視されがちだが、症状が頻発したり長引いたりすると角膜などを損傷して視力の低下を招く恐れもあるので、慢性的に症状を感じる場合は早めに受診したほうがよい。予防や症状の軽減のためには、一定の間隔をおいて目を休ませる。意識的にまばたきの回数を増やす、部屋の湿度を高めに保つ、眼科医の処方する目薬などで目の潤いを保つ、などの方法がある。
本来、眼球はまばたき動作により適量の涙が提供され、ゴミや細菌から守られているが、集中して一点を見つめ続けるとまばたきの回数が減り、涙量が減ってしまう。そのため眼球の十分な保護ができなくなって、眼球が乾燥し、傷つきやすくなってしまう。先天的にまばたきの少ない人、コンタクトレンズを常用している人は特にドライアイにかかりやすい。
空気の乾燥した季節や、エアコンの運転などで乾燥した空間で起こりやすく、コンピュータでの作業やテレビの視聴、ビデオゲームの操作など、同じ場所を長時間凝視し続けることで起こることが多い。電子機器の普及により発症が顕著になった現代病のひとつとされる。
炎上 ⭐⭐
ある人物や組織の行いや発言などについて、SNSやWebサイトのコメント欄などで不特定多数のネット利用者から批判や非難、中傷などが殺到する現象。
ある人物や組織の振る舞いやネット上で公表されたコンテンツなどに関連して、多くネット利用者が反感や不快感、嫌悪感、正義感に基づく怒りなどネガティブな感情を覚え、短時間の間に批判的な投稿が殺到する現象を指す。
喝采や応援など肯定的、好意的な反応が殺到する状態は炎上とは言わないが、人によって賛否や反応が大きく分かれ、肯定派と否定派に分かれて議論の応酬や非難合戦、喧嘩状態に発展したものはやはり炎上とされる。
多くの発言者は匿名であり、中には批判や非難の域を超えて暴言や誹謗中傷を行う者もいる。中傷発言は法律上の名誉毀損となり、言われた側が訴え出れば民事上の損害賠償請求や刑事上の名誉毀損罪や侮辱罪の対象となる。過去の炎上事件でも匿名の投稿者が法手続きに則って身元を調べられ、賠償や刑事罰に至った例が数多くある。
炎上の類型
報道などを起点としてニュースサイトのコメント欄や電子掲示板(BBS)、SNSなどに投稿が相次ぐ場合と、当事者のSNS投稿やブログ記事、動画のコメント欄など、本人に属する場に投稿が相次ぐ場合がある。後者のような本人に対して直接発言が殺到する状況を「コメントスクラム」と呼ぶこともある。
デマやでっち上げ、誤報、誤解など批判対象の事実自体が存在しない場合、当該事案と無関係な人物や組織が誤解や安易な推測などで当事者とされた場合にも、誤りを信じた利用者によって炎上状態に至る場合がある。誤った情報を流したり広めた利用者が刑事罰を受けるなどしているが、悲惨な事故や事件が起きる度に虚偽に基づく炎上が繰り返されており、社会問題となっている。
用語
日本における炎上現象は、ネット利用者の間で匿名掲示板やブログが広く普及・浸透した2000年代中頃に見られるようになったとされる。「炎上」という呼称の起源は明確ではないが、一説には、野球で投手が連打を浴びて大量失点する「炎上」になぞらえて匿名掲示板の利用者が用い始めたとされる。
俗に、炎上現象に関連して起きる状況を火事や燃焼に例えることがある。例えば、関連コメントの投稿が収束することを「鎮火」、コメントの勢いが増すような発言や行動を当事者や関係者が新たに起こすことを「燃料」あるいは「燃料投下」、直接の当事者ではない関係者や擁護者に批判の矛先が向くことを「類焼」あるいは「延焼」などということがある。
あえて物議を醸すような発言や行為、トラブルなどを公表し、狙って炎上を引き起こす者もいる。炎上によって知名度の向上、ネットサービス上での閲覧数や動画再生数などの増加を図り、金銭的な利益を得るために行われるもので、「炎上商法」「炎上マーケティング」と呼ばれる。