高校「情報Ⅰ」単語帳 - 開隆堂「実践 情報Ⅰ」 - 情報技術が果たす役割と望ましい情報社会の構築
QRコード 【Quick Response code】 ⭐
データを平面上の正方形の領域に表された図形パターンで表すことができる2次元コードの方式の一つ。現在のデンソーウェーブが1994年に開発したもので、「QRコード」は同社の登録商標。1999年にJIS X 0510、2000年にISO/IEC 18004として標準化され、様々な分野で広く普及している。
小さな正方形の点を縦横同じ数だけ並べたマトリックス型2次元コードで、一辺に21個並べた「バージョン1」から、177個並べた「バージョン40」まで、40通りの仕様が用意されている。点の数が多いほうがたくさんの情報を記録できるが、必要な面積は大きくなっていく。
コード領域の三方の角には、中心が黒く塗りつぶされた大きな「回」の字型の「切り出しシンボル」(ファインダパターン)が配置されており、360度どの向きから読み取っても正確に情報が読み出せるようになっている。
記録できる情報量はバージョン40の場合で最大23,648ビットである。文字は独自のコード体系および符号化方式で表され、カナや漢字を含む文字列は最長1,817文字、アルファベットと数字だけなら4,296文字、数字だけなら7,089文字まで記録できる。
データには冗長性を持たせてあり、一部が汚損して読み取れなくてもデータを復元することができる。誤り訂正率は5段階から選択でき、最も低いもので約7%、最も高いもので約50%までの汚損に対応できる。誤り訂正率は高いほどより多くの冗長なデータが必要となるため、記録できるデータ量はその分少なくなる。
同社では自動車工場のカンバン(現品札)の自動読み取り、倉庫や配送の管理の効率化など、産業機器の自動化推進の一環としてQRコードを開発したが、汎用性の高さ、データ密度の高さ、高度な誤り訂正機能、読み取り向きが自由であるなど使い勝手の良さ、関連特許を開放して利用料を求めなかったことなどから、IT分野を中心に広く浸透している。
携帯電話のカメラ機能と組み合わせてインターネット上のURLやメールアドレス、サービス上のID情報などの告知や伝達に使われたり、乗り物の乗車券や搭乗券、イベントや施設のチケットレス入場、キャッシュレス決済などでよく用いられる。
IoT 【Internet of Things】 ⭐⭐⭐
コンピュータなどの情報・通信機器だけでなく、世の中に存在する様々な物体(モノ)に通信機能を持たせ、インターネットに接続したり相互に通信することにより、自動認識や自動制御、遠隔計測などを行うこと。
自動車の位置情報をリアルタイムに集約して渋滞情報を配信するシステムや、人間の検針員に代わって電力メーターが電力会社と通信して電力使用量を申告するスマートメーター、大型の機械などにセンサーと通信機能を内蔵して稼働状況や故障箇所、交換が必要な部品などを製造元がリアルタイムに把握できるシステムなどが考案されている。
これまでの情報システムとの違いとして、個々の機器の取り扱うデータ量や処理量、通信量は少ないが機器の数が桁違いに膨大であることや、従来のコンピュータ製品が人の周りや特定の場所(建物や部屋)に集中しているのに対しIoT機器は世の中の様々な場所に分散して配置される点などがある。
こうした特徴を反映し、低コストで生産でき低消費電力で稼働するICチップや、多数の機器からデータを集約して解析したり、同時に多数の機器を制御するソフトウェア技術、低消費電力で遠距離通信が可能な無線技術、環境中から微小なエネルギーを取り出す技術(エナジーハーベスティング)などの研究・開発が進められている。
LPWA (Low Power Wide Area)
IoTに必須の要素として、装置の消費電力が少なく、多数の機器を一つのネットワークに収容できる広域的な無線通信技術があり、これを「LPWA」(Low Power Wide Area)と総称する。そのような通信方式で構築されたネットワークは「LPWAN」(Low Power Wide Area Network)とも呼ばれる。
IoTを実現するには、携帯電話網など従来からある広域無線技術に比べ、十~数十kmといった遠距離や広い範囲をカバーでき、乾電池などの乏しい電源でも数か月から数年は稼働できることが求められる。一方、人間がスマートフォンなどの通信機器に求めるような高速なデータ伝送能力は必ずしも必要なく、数十~数百kbps(キロビット毎秒)程度あれば実用に供することができる。
このような特性を備えた新しい通信方式をLPWAと呼び、具体的な規格として「Sigfox」「LoRa」「Wi-Fi HaLow」「Wi-SUN」「LTE-M」「NB-IoT」「RPMA」などの方式が提唱されている。
M2M/センサネットワークとの違い
以前から、機器同士を直接繋いで自律的にシステムを運用する「M2M」(Machine to Machine)や、通信可能なセンサーを分散配置して高度な監視や制御を可能にする「センサネットワーク」(WSN:Wireless Sensor Network)などの概念が存在し、これらはかなりの部分がIoTと重複している。
ただし、IoTはインターネットへの接続を前提とするのに対し、これらの技術は閉じた専用ネットワークや独自プロトコル(通信規約)での運用を想定している場合が多い。また、M2Mやセンサネットワークは特定の目的のために機械同士が情報のやり取りすることで処理が完結する仕組みであることが多いのに対し、IoTは接続された機器と人や外部の情報システムとの相互関係がより重視される傾向がある。
IoE (Internet of Everything)
「ありとあらゆるものが接続されたインターネット」という意味で、モノのインターネットと、人やデータ、情報、ソフトウェアなどが中心の従来からあるインターネットが統合された姿を指す。
とはいえ、従来のインターネットとの違いは多数のモノが接続されている点であるため、実際上はIoTとほぼ同義として用いられることが多い。主に米シスコシステムズ(Cisco Systems)社が提唱している用語である。
SNS 【Social Networking Service】 ⭐⭐⭐
人と人との社会的な繋がりを維持・促進する様々な機能を提供する、会員制のオンラインサービス。友人・知人間のコミュニケーションを円滑にする手段や場を提供したり、趣味や嗜好、居住地域、出身校、あるいは「友人の友人」といった共通点や繋がりを通じて新たな人間関係を構築する場を提供するサービスで、Webサイトや専用のスマートフォンアプリなどで閲覧・利用することができる。
主な特徴
サービスにより機能や特徴が大きく異なるが、多くのサービスに見られる典型的な機能としては、別の会員を「友人」や「購読者」「被購読者」などに登録する機能、自分のプロフィールや写真を公開する機能、同じサービス上の別の会員にメッセージを送る機能、自らのスペースに文章や写真、動画などを投稿して友人などに見せる機能がある。
サービスによっては、複数の会員でメッセージ交換や情報共有ができるコミュニティ機能、イベントの予定や友人の誕生日などを共有したり当日に知らせたりしてくれるカレンダーあるいはスケジュール機能などがある。
多くの商用サービスではサイト内に広告を掲載するなどして、登録や基本的なサービスの利用を無料としているが、一部の機能を有料で提供しているサービスもある。
SNSの種類
多くのサービスはメールアドレスなどがあれば誰でも登録できるが、普及し始めた当初は人の繋がりを重視して「既存の参加者からの招待がないと参加できない」というシステムになっているサービスが多かった。
現在でも、何らかの形で参加資格を限定し、登録時に紹介や審査などが必要なサービスがある。また、参加自体が自由でも、テーマや分野などがあらかじめ設定され、関係や関心のある人の参加を募っているサービスなどもある。
企業などが従業員を対象に運用する「社内SNS」や、大学が教職員や在学生、卒業生を対象に運用する「学内SNS」もあり、業務上の連絡や情報共有に使われたり、業務とは切り離して参加者間の交流の促進のために利用されたりする。「OpenPNE」や「Mastodon」など自らSNSを開設・運用することができるサーバ向けソフトウェアもあり、これを利用したプライベートな集団内のサービスも存在する。
歴史と著名なサービス
2003年頃アメリカを中心に相次いで誕生し、国内事業者によるサービスも2004年頃から普及し始めた。世界的には、初期に登録資格を有名大の学生に絞って人気を博し、後に世界最大のソーシャルネットワークに成長した「Facebook」(フェイスブック)や、短いつぶやきを投稿・共有するマイクロブログ型の「Twitter」(ツイッター:現X)、写真の投稿・共有を中心とする「Instagram」(インスタグラム)、ビジネス・職業上の繋がりに絞った「LinkedIn」(リンクトイン)などが有名である。
日本独自のサービスとしては一時会員数1000万人を超え社会現象ともなった「mixi」(ミクシィ)などが有名だが、近年ではFacebookなど海外事業者に押され利用が低迷しており、オンラインゲーム運営・提供に業態転換するなどしている。
SNS的なサービスの広がり
近年では様々なWebサイトやネットサービス、スマートフォンアプリなどに「ソーシャルな」機能が組み込まれる事例が増えており、何がSNSで何がそうでないか明確に区別することは難しくなりつつある。
例えば、料理レシピ投稿サイトの「クックパッド」(Cookpad)や、スマートフォン利用者間でチャットや音声通話などを提供する「LINE」(ライン)などにも、集団の形成を支援するコミュニティ機能や日記の投稿・共有機能などがあり、これらのサービスをSNSの一種に含める場合もある。
SNSの功罪
SNSによって、一度繋がりの途絶えた古い友人と交流を再開したり、現実に頻繁に会うことは難しい多人数と日常的な繋がりを保ったり、身の回りに同好の士がいなくてもSNSで発見してコミュニティを形成できるなど、SNSのおかげで人間関係が充実した利用者は数多くいる。
一方で、不用意に個人情報や顔写真などを公開してしまい悪意に晒されたり、素性のよくわからない人と交流を持ちトラブルに巻き込まれたり、自分の周囲では特に問題視されなかった話がネット上で拡散されるうちに非難の書き込みが殺到してしまう(「炎上」と呼ばれる現象)など、SNSによって新たに引き起こされる問題もある。
また、SNSが様々な人の間に普及し、継続して利用する期間が長くなるに連れ、上司や家族など「望まれざる」相手とのSNS上での関係や対応に苦慮したり、知り合いの(大抵は良いことしか書かれていない)書き込みを読んで自分の身上と比較してしまったり、興味が湧かない話題でも毎回反応を迫られているように感じて精神的に疲弊する「SNS疲れ」といった問題に直面し、SNSの利用を断って離れる人も増えている。
AR 【Augmented Reality】 ⭐
現実の環境から視覚や聴覚、触覚などの知覚に与えられる情報を、コンピュータによる処理で追加あるいは削減、変化させる技術の総称。
コンピュータがカメラやマイク、GPS、各種のセンサーなどで得たその場所や周囲の状況に関する情報を元に、現実世界から得られた画像や映像、音声などに加工を施して利用者に提供する。データグローブなど身体に装着する機器を用いて触覚に働きかけるシステムも研究されている。
実装例として、スマートフォンのカメラを通じて得た外界の映像に、リアルタイムにキャラクターの画像を重ね、あたかもその場所にキャラクターが出現したかのように演出するビデオゲームなどがある。
また、ゴーグルや眼鏡のように眼前に装着できる透過型のディスプレイに、装着者の見ている対象物に関連する文字や画像、映像などを重ね合わせて表示することで、肉眼では見えない部分を見えるようにしたり、関連情報を提供したりするシステムの研究開発も進んでいる。
こうした専用の装具を用いて、医師が手術の際に患部を見ながら一部分の拡大表示や患者の身体状態などを確認できるようにしたり、軍隊で兵士が装着して戦場の様子やセンサーが捕らえた敵の状態を重ね合わせて表示するといった応用が期待されている。
人工知能 【AI】 ⭐⭐⭐
人間にしかできなかったような高度に知的な作業や判断をコンピュータを中心とする人工的なシステムにより行えるようにしたもの。
人類は未だに人間の脳の振る舞いや知能の仕組みを完全には解明していないため、AIにも明快な定義は与えられていない。また、情報技術の進歩に伴って時代によってAIとされるシステムの具体的な内容は大きく変化してきている。
特に、前の時代にAIの一分野として研究・開発が進められていたものが、技術が成熟し実用化や普及が進むとAIとは呼ばれなくなり、より高度で研究途上のものが新たにAIとして注目される傾向がある。この現象は「AI効果」と呼ばれ、例として文字認識技術(OCR)や検索エンジン、かな漢字変換システム、ロボット掃除機などが挙げられる。
2000年代後半以降にAIとされるものは、大量のデータから規則性やルールなどを学習し、与えられた課題に対して推論や回答、情報の合成などを行う機械学習(ML:Machine Learning)を基礎とするものが主流となっている。
特に、人間の神経回路を模したニューラルネットワーク(NN:Neural Network)で深い階層のモデルを構築し、精度の高い推論を行うディープラーニング(深層学習)研究に大きな進展があり、これに基づく研究や開発が盛んになっている。
応用分野として、チェスや将棋、将棋など知的なゲームで対局するシステム、画像や映像に映る物体や人物を識別する画像認識システム(コンピュータビジョン)、人間の発話を聞き取って内容を理解する音声認識システム、言葉を組み立てて声として発する音声合成システム、ロボットや自動車など機械の高度で自律的な制御システム(自動運転など)、自動要約や質問応答システム、高度で自然な機械翻訳といった様々な自然言語処理などがよく知られる。
ビッグデータ ⭐⭐⭐
従来のデータベース管理システムなどでは記録や保管、解析が難しいような巨大なデータ群。明確な定義があるわけではなく、企業向け情報システムメーカーのマーケティング用語として多用されている。
多くの場合、ビッグデータとは単に量が多いだけでなく、様々な種類・形式が含まれる非構造化データ・非定型的データであり、さらに、日々膨大に生成・記録される時系列性・リアルタイム性のあるようなものを指すことが多い。
今までは管理しきれないため見過ごされてきたそのようなデータ群を記録・保管して即座に解析することで、ビジネスや社会に有用な知見を得たり、これまでにないような新たな仕組みやシステムを産み出す可能性が高まるとされている。
米大手IT調査会社ガートナー(Gartner)社では、ビッグデータを特徴づける要素として、データの大きさ(Volume)、入出力や処理の速度(Verocity)、データの種類や情報源の多様性(Variety)を挙げ、これら3つの「V」のいずれか、あるいは複数が極めて高いものがビッグデータであるとしている。これに価値(Value)や正確性(Veracity)を加える提案もある。
コンピュータやソフトウェアの技術の進歩は速く、具体的にどのような量や速度、多様さであればビッグデータと言えるかは時代により異なる。ビッグデータという用語がビジネスの文脈で広まった2010年代前半にはデータ量が数テラバイト程度のものも含まれたが、2010年代後半になるとペタバイト(1000テラバイト)級やそれ以上のものがこのように呼ばれることが多い。
近年ではスマートフォンやSNS、電子決済、オンライン通販の浸透により人間が日々の活動で生み出す情報のデータ化が進み、また、IoT(Internet of Things)やM2M、機器の制御の自動化などの進展により人工物から収集されるデータも爆発的に増大している。
また、人工知能(AI)の構築・運用手法として、膨大なデータから規則性やルールなどを見出し、予測や推論、分類、人間の作業の自動化などを行う機械学習(ML:Machine Learning)、中でも、多階層のニューラルネットワークで機械学習を行う深層学習(ディープラーニング)と呼ばれる手法が台頭している。
このような背景から、膨大なデータを的確、効率的に扱う技術上の要請はますます高まっており、統計やデータ分析、大容量データを扱う手法やアルゴリズムなどに精通した「データサイエンティスト」(data scientist)と呼ばれる専門職の育成が急務とされている。
ユニバーサルデザイン 【UD】 ⭐⭐⭐
すべての人が等しく使うことができる、あるいは使いやすいデザイン・設計のこと。より現実的には、なるべく多くの人が同じように使えることを目指すデザイン原則を表す。
言語や文化、人種、性別、年齢、体型、利き腕、障害の有無や程度といった違いによらず、できるだけ多くの人が同じものを同じように利用できるよう配慮されたデザインのことを意味する。
「バリアフリー」を始めとする従来の考え方では、「高齢者用」「左利き用」「車椅子用」のように特性に応じた専用のデザインを用意する発想が基本だったが、ユニバーサルデザインではこうした発想を極力排し、単一のデザインで万人が利用できることを目指している。
ユニバーサルデザインという用語は1985年に米ノースカロライナ州立大学のロナルド・メイス(Ronald Mace)教授によって提唱されたが、それ以前から実践されていた考え方を整理して名前をつけたものとされる。氏はユニバーサルデザインの7つの原則として「公平に使える」「柔軟性がある」「簡単で自明」「必要なことがすぐに理解できる」「間違いを許容する」「弱い力で使える」「十分な大きさと空間」を唱えている。
ユニバーサルデザインの具体例として、施設内の案内などを言葉ではなく絵文字で伝えるピクトグラム、様々な視覚特性を持つ人による調査・テストを経て開発された視認性の高いフォント、容器に刻まれた凹凸を触れば何が入っているか識別できるシャンプーやコンディショナー、手や指の状態によらず持ちやすく使いやすい文房具やカトラリーなどがある。
カラーユニバーサルデザイン 【CUD】 ⭐
印刷物や映像、Webページなどをデザインする際に、色の見え方が多数派とは異なる人にも情報がきちんと伝わるよう配慮された配色や構成にすること。
どんな身体的な特性がある人も等しく使うことができる、あるいは使いやすいデザイン・設計のことを「ユニバーサルデザイン」(universal design)というが、これを表現物の配色に適用し、色覚の特性によらず認識することができる、あるいは見やすいデザインを目指す考え方である。
人間の色覚(色の感じ方)は一様ではなく個人差があり、先天的な色覚異常や、緑内障、白内障など目の病気によっても大きな影響を受ける。カラーユニバーサルデザインでは、色によって情報の認知に差が生じないよう「なるべく多くに人が見分けやすい配色を選ぶ」「色が見分けられなくても情報が伝わるようにする」「色の名前を併記するなど色を言葉で伝達できるようにする」という3つの原則に沿ってデザインを進める。
カラーユニバーサルデザインは生物学者の伊藤啓氏と医学者の岡部正隆氏が「カラーバリアフリー」(color barrier-free)として提唱し始めたもので、2004年に両氏が中心となってNPO法人カラーユニバーサルデザイン機構(CUDO)が設立された。以降は「カラーユニバーサルデザイン」の名称で普及活動が進められている。同法人では見分けやすい色の組み合わせを集めた推奨配色セットを公表したり、カラーユニバーサルデザインに配慮した製品などの認証制度の運用などを行っている。
アクセシビリティ ⭐⭐⭐
近づきやすさ、利用しやすさ、などの意味を持つ英単語で、IT分野では、機器やソフトウェア、システム、情報、サービスなどが身体の状態や能力の違いによらず様々な人から同じように利用できる状態やその度合いのことを指す。
高齢や障害、病気、あるいは他の身体的・認知機能的な特性により運動や視聴覚機能に制約や偏りがあっても、機器やソフトウェアの操作、情報の入手、ネットサービスの利用などが可能である状態を意味する。
例えば、マウスなどによる画面上の位置指定が困難な場合に備え、キーボードやボタン型の入力装置、音声認識など他の入力機能のみで操作が行えるようにしたり、視力や視覚の状況に応じて、画面表示や文字の拡大、画面上の文字の読み上げなどの機能を選択できるといったように、様々な人が利用できるような備えが行われている状態を指す。
単にアクセシビリティといった場合はWebページについての「Webアクセシビリティ」のことを指すことが多い。また、IT分野以外でも、例えば建物や施設、設備などへの出入りや内部の移動のしやすさ、利用しやすさ(段差がない、スロープやエレベーターが整備されている等)のことをアクセシビリティということもあるが、これは日本語では「バリアフリー」(barrier free)という外来語で表現されることが多い(厳密にはバリアフリーはアクセシビリティより狭い概念を指すとする見解もある)。
ユーザビリティ 【使用性】 ⭐⭐⭐
機器やソフトウェア、Webサイトなどの使いやすさ、使い勝手のこと。利用者が対象を操作して目的を達するまでの間に、迷ったり、間違えたり、ストレスを感じたりすることなく使用できる度合いを表す概念である。
国際規格のISO 9241-11では、ユーザビリティを「特定の利用状況において、特定の利用者によって、ある製品が、指定された目標を達成するために用いられる際の、有効さ、効率、利用者の満足度の度合い」と定義している。漠然とした「使いやすさ」よりは限定された概念で、ある人がある状況下である目的を達することがどれくらい容易であるかを表している。
ユーザビリティは利用者への情報やメッセージの提示の仕方やタイミング、言い回し、操作要素や選択肢の提示の仕方、操作の理解のしやすさや結果の想像しやすさ、操作のしやすさや誤りにくさ、誤操作に対する案内や回復過程の丁寧さ、利用者の操作に応じた表示や状況の変化(インタラクション)などの総体で構成される。
高いユーザビリティのために必要な実践は対象の種類(機器・ソフトウェア・Webページ等)や想定される利用者の属性、文脈や利用目的によって異なるため個別性が高く、ある状況では良い事例とされたものが別の文脈では悪い事例になる場合もある。
開発者が期待するユーザビリティが備わっているかどうか確かめるには、利用者(やそれに近い属性の人物)の協力を得て実際に使ってみてもらい、想定通りの操作が行われるか、利用者が不満や戸惑いを感じないかなどをテストするのが有効であるとされる。このような試験を「ユーザーテスト」(user testing)あるいは「ユーザビリティテスト」(usability testing)という。
フィッシング 【フィッシング詐欺】
金融機関などからの正規のメールやWebサイトを装い、暗証番号やクレジットカード番号などを詐取する詐欺。利用者を騙して重要な情報を入力させることを狙う。
「釣り」を意味する “fishing” が語源で、釣り針の先に付けた餌やルアーに獲物が食いつく様子を釣りに例えた表現だが、偽装の手法が洗練されている(sophisticated)ことから “phishing” と綴るようになったとする説がある。
フィッシング詐欺の代表的な手口は以下のとおり。メールの送信者名を金融機関の窓口などのアドレスにしたメールを無差別に送りつけ、本文には個人情報を入力するよう促す案内文とWebページへのリンクが載っている。
リンクをクリックするとその金融機関の正規のWebサイトと、個人情報入力用のポップアップウィンドウが表示される。メインウィンドウに表示されるサイトは「本物」で、ポップアップページは「偽者」である。本物を見て安心した利用者がポップアップに表示された入力フォームに暗証番号やパスワード、クレジットカード番号などの秘密を入力・送信すると、犯人に情報が送信される。
フィッシング詐欺攻撃者は、URLに使用される特殊な書式を利用してあたかも本物のドメインにリンクしているかのように見せたり、ポップアップウィンドウのアドレスバーを非表示にするなど非常に巧妙な手口を利用しており、「釣られる」被害者が続出している。
フィッシング詐欺への対応策としては、送信者欄を信用しない、フォームの送受信にSSLが利用されているか確認する、メールに示された連絡方法(リンクなど)以外の正規のものと確認できている電話番号やURLなどから案内が本物かどうかを確認する、などが挙げられる。
スピアフィッシング (spear phishing)
特定の人物を狙い、偽のメールを送ったりウイルスを仕込んだりしてパスワードや個人情報などを詐取する詐欺。もとは魚釣りの用語で、銛(もり)や水中銃で魚を突き刺す釣り方のこと。
大手銀行のオンラインバンキングなど有名なサービスの不特定多数の利用者を狙う通常のフィッシングとは異なり、対象の素性を調査した上で、その個人に合わせた手法が個別に考案されるのが特徴である。
例えば、大企業の支店に勤務する社員に「本社の情報システム部の者だが調査に必要なのであなたのパスワードを教えてほしい」といったメールを送り、だまされた社員から聞き出したパスワードを使ってその企業のネットワークに不正侵入するといった手が使われる。他にも、上司や取引先に成りすまして業務上の機密情報や知的財産を詐取するといった事例が報告されている。
ファーミング詐欺 (pharming)
有名な金融機関やオンラインショップのサイトをそっくりに真似た偽のサイトを作り、DNSサーバの情報を書き換えることで利用者を誘導し、暗証番号やクレジットカード番号などを詐取する詐欺。フィッシング詐欺の手口の一つ。
通常、Webサイトにアクセスするにはドメイン名を含んだURLを入力するが、ドメイン名は通信事業者などが管理するDNSサーバによってIPアドレスに変換され、対応するIPアドレスを持ったサーバにアクセスすることになる。
ファーミングを行う攻撃者は、このDNSサーバの管理するドメインとアドレスの対応表を不正に書き換え(DNSキャッシュポイズニング)、利用者がドメインを問い合わせると偽のアドレスを返すよう細工する。
利用者は自分の利用している金融機関などの正しいURLにアクセスしているつもりで、攻撃者の運用するそっくりな偽のサイトに誘導され、不正に情報を詐取される。なお、パソコンの中にもドメインとアドレスを対応付けるhostsファイルというファイルが保存されており、ウイルスなどを使ってこれを書き換えることで偽のサイトに誘導する手法もある。
フィッシング詐欺は偽の案内メールなどで利用者を「一本釣り」にする手法だが、DNSサーバに不正な情報を流すことでそのサーバを利用する利用者を丸ごと偽のサイトに誘導する様子を農業(farming)に例え、ファーミングと名付けられた。綴りが本来の "farming" ではなく "pharming" なのはフィッシング詐欺を "phishing" と綴るのを踏襲したもので、"sophisticated" (洗練された) が語源と言われている。
テクノストレス ⭐
コンピュータを扱うことが原因で起きる失調症状の総称。コンピュータに適応できないために生じるテクノ不安症や、過剰に適応したために生じるテクノ依存症などの種類がある。「テクノストレス」という名称は、1984年にアメリカの臨床心理学者クレイグ・ブロード(Craig Brod)氏が名づけた。
テクノ不安症 (techno-anxiety)
コンピュータに適応できないことが原因で生じる精神的な失調症状をテクノ不安症という。具体的な症状は、動悸、息切れ、肩こり、めまいなどの自律神経の失調や、鬱などである。
社会の隅々までコンピュータが普及しつつある現在、会社の業務などで好むと好まざるとに関わらずコンピュータを使う必要に迫られる人が増えている。そのうち、コンピュータになじめず、操作を苦痛に感じる人は、そのことで強いストレスを感じ、体調を崩してしまうことがある。
テクノ依存症 (techno-addiction)
コンピュータに過剰に適応し、あるいは没頭しすぎることが原因で生じる精神的な失調症状をテクノ依存症という。コンピュータがないと不安に感じたり、人付き合いを煩わしいと感じるようになる。
具体的な症状としては、自分の限界が分からなくなる、時間の感覚がなくなる、邪魔されるのが我慢できなくなる、あいまいさを受け入れられなくなる、「はい/いいえ」「正解/不正解」式のやり取りや思考を好むようになる、人と接することを嫌うようになる、人を見下すようになる、などがある。
パソコンやゲーム機、インターネットなどのデジタル技術が短期間のうちに急激に普及した先進国や経済新興国では、主に若者の間で、ゲームやネット(最近ではネットゲーム)にのめりこんでしまい、実社会の生活に支障をきたしたり、正常な対人関係を結べなくなったりする「中毒」症状が目立つようになり、社会問題化している。
VDT症候群 (IT眼症/テクノストレス眼症/VDT障害)
パソコンのディスプレイなどのVDTを長時間見続けながら作業を行うことによって発生する、身体的・精神的疾患の総称。直接的な身体的疾患の例としては眼精疲労や視力低下、目のかすみ、目の痛み、ドライアイ、めまいなどが挙げられる。これらの症状の原因は、VDTの輝度やコントラストが強すぎることや、長時間VDTを注視するさいにまばたきの回数が減ることなどである。
このほかにも、VDTの前で長時間姿勢を固定して作業することによる肩こりや腰痛など体の痛み、キーボード操作によって起こる腱鞘炎などの身体的症状もVDT障害に含まれる。精神的疾患の例としては単調なデータ入力作業などを長時間行うことによって起こる情緒不安定や不眠などがある。
厚生労働省では、2002年に「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」を策定し、その中でVDT障害を防ぐための作業管理のしかたや、VDT障害を起こさない適切なVDT機器の基準、健康管理の方針などをまとめている。
ドライアイ (dry eyes)
目の疾患の一つで、涙液の減少により眼球の表面が乾燥し、傷や障害が生じるもの。
目が疲れる、目に痛みを感じる、目が乾いた感じがする、目が重たい、10秒以上目を開けていられないなどの症状が現れる。短時間で回復することが多いため軽視されがちだが、症状が頻発したり長引いたりすると角膜などを損傷して視力の低下を招く恐れもあるので、慢性的に症状を感じる場合は早めに受診したほうがよい。予防や症状の軽減のためには、一定の間隔をおいて目を休ませる。意識的にまばたきの回数を増やす、部屋の湿度を高めに保つ、眼科医の処方する目薬などで目の潤いを保つ、などの方法がある。
本来、眼球はまばたき動作により適量の涙が提供され、ゴミや細菌から守られているが、集中して一点を見つめ続けるとまばたきの回数が減り、涙量が減ってしまう。そのため眼球の十分な保護ができなくなって、眼球が乾燥し、傷つきやすくなってしまう。先天的にまばたきの少ない人、コンタクトレンズを常用している人は特にドライアイにかかりやすい。
空気の乾燥した季節や、エアコンの運転などで乾燥した空間で起こりやすく、コンピュータでの作業やテレビの視聴、ビデオゲームの操作など、同じ場所を長時間凝視し続けることで起こることが多い。電子機器の普及により発症が顕著になった現代病のひとつとされる。