高校「情報Ⅰ」単語帳 - 情報技術が果たす役割と望ましい情報社会の構築
IT 【Information Technology】 ⭐
情報を取得、加工、保存、伝送するための科学技術。特に、電気、電子、磁気、電磁波などの物理現象や法則を応用したコンピュータなどの機械や器具、および、その内部で動作するコンピュータプログラム(ソフトウェア)を用いて情報を扱う技術のこと。
ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)もほぼ同義として用いられるが、ICTには通信を前提とする諸技術(インターネットなど)という意味合いをもたせる場合や、ITを含むより包括的な概念とする場合もある。
また、ITをコンピュータやデジタル通信などの原理的な側面など情報技術そのもの、ICTを社会や生活への情報技術の適用や応用、といったニュアンスで区別する場合もある。英語圏では「ICT」「IT」のいずれも用いるが、日本では「ICT」は馴染みがなく、もっぱら「IT」が使われる。
コンピュータやデータ通信に関する技術開発や応用は第二次大戦をまたいで軍事用途で始まり、1950年代からは主に産業用途で発展してきたが、個人の仕事や日常生活に深く浸透し始めたのはパソコンとインターネットが急激に普及し始めた1990年代後半からである。
ITという用語も2000年前後から一般に普及し始め、「IT業界」「IT活用」「IT戦略」「ITソリューション」「ITリテラシー」など多くの造語を生み出している。近年ではITを前提とした社会や経済、暮らしのありようなどを指す用語として「デジタル」が用いられるようになっている。
ICT 【Information and Communication Technology】 ⭐
情報や通信に関連する科学技術の総称。特に、電気、電子、磁気、電磁波などの物理現象や法則を応用した機械や器具を用いて情報を保存、加工、伝送する技術のこと。
コンピュータなどのデジタル機器、その上で動作するソフトウェア、情報をデジタル化して送受信する通信ネットワーク、およびこれらを組み合わせた情報システムやインターネット上の情報サービスなどを総称する。
「IT」(Information Technology:情報技術)もほぼ同義として用いられ、日本ではITの方が定着しているが、英語圏など国際的にはICTの方が通りが良い。総務省の「IT政策大綱」が2004年から「ICT政策大綱」に名称を変更するなど、日本でも定着しつつある。
ICTには “Communication” が含まれることから、デジタル通信を前提とする諸技術(インターネットなど)という意味合いをもたせる場合もある。また、ITをコンピュータやデジタル通信などの原理的な側面など技術そのもの、ICTを社会や生活への情報技術の適用や応用、といったニュアンスで区別する場合もある。
スマートフォン 【スマホ】 ⭐
個人用の携帯コンピュータの機能を併せ持った携帯電話。単に高機能というだけでなく、汎用のオペレーティングシステム(OS)を搭載し、利用者が後からソフトウェアなどを追加できるようになっている機種を指す。
「スマート」(smart)は「賢い」という意味で、アプリを導入して様々な用途に使用できることを表している。一般的なスマートフォンの持つ機能としては、パソコンと同じWebブラウザによるウェブ閲覧や、電子メールの送受信、文書ファイルの作成・閲覧、写真や音楽、ビデオの再生・閲覧、カレンダー機能、住所録、電卓、内蔵カメラによる写真や動画の撮影、テレビ電話などがある。
一般的な機種は、ほぼすべての操作を画面に指を触れるタッチパネルによって行う。筐体前面のほぼ全面が液晶(または有機EL)画面となっており、表示装置兼入力装置となっている。文字入力も画面に表示された文字盤(ソフトウェアキーボード)をタッチして行う。
通信機能としては無線LAN(Wi-Fi)と携帯電話事業者の移動体通信に対応し、屋内ではWi-Fi、屋外や移動中は移動体通信と使い分けることができる。Bluetoothに対応している機種ではイヤフォンなどを無線接続することができ、NFC(Near Field Communication)に対応している機種ではタッチ決済などを利用できる。
インターネットなどを通じて、その機種が搭載しているOSに対応したアプリケーションソフトを入手して追加することができる。スマートフォン向けのアプリケーションは「アプリ」(app)と略されることが多い。WebブラウザでWebアプリケーションを利用することもできる。
OSメーカーや通信キャリアなどが、自社の対応機種に追加できるアプリを探し出して入手することができるネット上の店舗「アプリストア」を運営している。SNSやメッセンジャー、ゲームソフト、オフィスソフトなど様々な追加ソフトが提供されている。販売されているものと無償配布されているものがある。
スマートフォン市場は米アップル社(Apple)社の「iOS」を搭載した「iPhone」と、米グーグル(Google)社が開発した「Android」を搭載した機種にほぼ二分されている。Android対応のスマートフォンは様々なメーカーが販売している。世界的には単一機種ではiPhoneが最も人気だが、OSとしてはAndroidの方が普及している。日本市場は世界と傾向が異なり、iPhoneが単体で過半のシェアを獲得している。
ICカード 【IC card】
プラスチック製カードに極めて薄い半導体集積回路を埋め込み、データの記録や処理、外部との入出力などをできるようにしたもの。外部との入出力方式の違いにより接触式と非接触式がある。
カード内に半導体メモリを内蔵し、数KB(キロバイト)から1MB(メガバイト)程度のデータを記録することができる。内蔵メモリ素子が読み出し専用のROMチップの場合は書き換えできないが、フラッシュメモリを採用したものは専用の装置で記憶内容の追加や上書き、消去ができる。簡易なCPU(処理装置)を内蔵して暗号化などの処理が可能なものもある。
記録や通信の暗号化、認証やアクセス制御によりデータの不正な読み取りや改ざんを防ぐことができるため、磁気ストライプ式などに比べ偽造や変造が困難で安全性が高いとされる。記憶容量が大きいため単純な識別番号などの他に様々な情報を記録・送受信することができ、一枚のカードに複数の機能を持たせる汎用カードを作ることもできる。
日本では「ICカード」の呼称が広く浸透しているが、英語圏では “IC card” という表記はほとんど用いられず、 “integrated circuit card” とICを略さずに記すか、“smart card” (スマートカード)あるいは “chip card” (チップカード)の呼称の方が一般的である。
接触式ICカード
接触式ICカードはカード表面に平たい金属端子を備え、読み取り装置側の端子に接触させることにより通電し、回路駆動用の電力供給と信号の送受信を行う。
端子の物理仕様などの基礎的な技術仕様はISO/IEC 7816として標準化されており、これに基づいて各業界がデータの記録や送受信などに関する個別の標準規格を定めている。主に従来の磁気ストライプカードに代わってクレジットカードやキャッシュカードなどに用いられるほか、携帯電話のSIMカード(UIMカード)や、日本ではETCカードやデジタル放送の受信者識別カード(B-CASカード)にも採用されている。
非接触ICカード
非接触ICカードはコイル状のアンテナを内蔵し、読み取り装置からの無線電波による電磁誘導で電力を発生させ、電波で無線通信を行う。
ソニーなどが推進する日本のFeliCa(フェリカ)、蘭フィリップス(Philips)社(現NXPセミコンダクターズ)などが推進する欧州のMifare(マイフェア)が早くから浸透しており、両者を併記したNFC(Near Field Communications)がISO/IEC 18092として標準化され、広く採用されている。
カードと機器を接触・固定する必要がないため、交通機関のICカード乗車券やカード型電子マネーなど、極めて短時間での処理や手続きが求められる用途でよく用いられる。日本では運転免許証(ICカード免許証)、個人番号カード(マイナンバーカード/接触式端子と併用)、パスポート(IC日本国旅券)などにも採用されている。
3Dプリンタ 【3次元プリンタ】 ⭐
微細な材料を一層ずつ積み重ねて立体物を造形する装置。紙に印刷するプリンタのように、断面の形状に合わせて上から材料を吹き付けたり光線を照射したりすることからこのように呼ばれる。
材料には石膏や樹脂、金属の粉末や液体が使われ、熱やレーザー、紫外線、接着剤などの作用により固化させて層を形成する。積層面に均等に配置した材料に、断面形状に合わせて上部から光線などを当てて固化させる方式と、材料そのものを断面形状に合わせて上部から噴射する方式がある。
工業的な大量生産手法に比べると装置や原料が高額で製造に時間がかかるため、一般消費者向け製品の大量生産などには向かず、試作のような一品物、あるいは、多品種・少量をオンデマンドで素早く提供するような用途に適している。
精度を高めるほど装置が高額になり造形に時間がかかるが、3D設計データと原材料があれば即座に製作することができ、工具や工作機械、職人的な技能の熟達が不要という利点がある。従来の製造法が苦手とする様々な部材や材料の一体成型、複雑な内部構造の造形などは得意である。
データを伝送・配布すれば同じ物体をどこでも誰でも同じように作り出せる点も今までにない特徴で、模型などの分野では立体物のデータ販売(購入者が自らの3Dプリンタで造形する)など新たな試みも行われている。
1980年代初頭に発明され、当初は高額な製品がほとんどだったため一部の特殊な業務用途で用いられていたが、2010年頃から個人向けの低価格製品の登場などを受け様々な用途で使われるようになった。
製造業を中心に、製品や部品の試作、デザインモデルの製作、可動部の機構検討、治具・工具・交換部品の製造などに用いられている。建築分野で建築模型の製作に用いられたり、医療分野でCTスキャンやMRIの画像を元に患部を再現した医療用モデルの製作に用いられることもある。
ジオタグ 【ジオタギング】 ⭐
画像や動画、SNSの投稿などのデータに付加される「データについてのデータ」(メタデータ)の一種で、撮影や投稿が行われた地球上の位置情報を表すもの。ジオタグを付加する操作や処理を「ジオタギング」という。GPSなどで観測した情報を緯度や経度で表すことが多い。
スマートフォンなどの携帯端末はGPSなどで現在地の緯度や経度を検知する機能があり、これを利用して、データをファイルに保存したりネットワークで送受信する際に付加情報として関連する位置情報を追加する。
写真や動画に撮影日時などと共に記録する際に利用され、ファイル形式の仕様に格納するデータの種類や形式についての規定がある。また、SNSなどのネットサービスで発言や画像を投稿する際に現在位置を追加できる場合があり、閲覧者に投稿内容と共に投稿場所が表示される。
ジオタグが付加される設定になっていることに気づかずに撮影や投稿を行うと、望まない相手に意図せず自分に関連する場所についての情報を知らせてしまう危険性がある。ファイルに埋め込まれている場合には単に画像などを表示しただけではジオタグの存在や内容を確認できないことが多いため、取り扱いに注意が必要である。
QRコード 【Quick Response code】 ⭐
データを平面上の正方形の領域に表された図形パターンで表すことができる2次元コードの方式の一つ。現在のデンソーウェーブが1994年に開発したもので、「QRコード」は同社の登録商標。1999年にJIS X 0510、2000年にISO/IEC 18004として標準化され、様々な分野で広く普及している。
小さな正方形の点を縦横同じ数だけ並べたマトリックス型2次元コードで、一辺に21個並べた「バージョン1」から、177個並べた「バージョン40」まで、40通りの仕様が用意されている。点の数が多いほうがたくさんの情報を記録できるが、必要な面積は大きくなっていく。
コード領域の三方の角には、中心が黒く塗りつぶされた大きな「回」の字型の「切り出しシンボル」(ファインダパターン)が配置されており、360度どの向きから読み取っても正確に情報が読み出せるようになっている。
記録できる情報量はバージョン40の場合で最大23,648ビットである。文字は独自のコード体系および符号化方式で表され、カナや漢字を含む文字列は最長1,817文字、アルファベットと数字だけなら4,296文字、数字だけなら7,089文字まで記録できる。
データには冗長性を持たせてあり、一部が汚損して読み取れなくてもデータを復元することができる。誤り訂正率は5段階から選択でき、最も低いもので約7%、最も高いもので約50%までの汚損に対応できる。誤り訂正率は高いほどより多くの冗長なデータが必要となるため、記録できるデータ量はその分少なくなる。
同社では自動車工場のカンバン(現品札)の自動読み取り、倉庫や配送の管理の効率化など、産業機器の自動化推進の一環としてQRコードを開発したが、汎用性の高さ、データ密度の高さ、高度な誤り訂正機能、読み取り向きが自由であるなど使い勝手の良さ、関連特許を開放して利用料を求めなかったことなどから、IT分野を中心に広く浸透している。
携帯電話のカメラ機能と組み合わせてインターネット上のURLやメールアドレス、サービス上のID情報などの告知や伝達に使われたり、乗り物の乗車券や搭乗券、イベントや施設のチケットレス入場、キャッシュレス決済などでよく用いられる。
Society 5.0 【ソサエティ5.0】 ⭐
日本政府の科学技術政策の中で提唱された未来社会の構想。ITの高度化と社会への浸透によりサイバー空間と物理空間を高度に融合し、経済の発展と社会課題の解決を図るとされる。
2016年度に始まった第5期科学技術基本計画の中で提唱されたコンセプトで、これまでの人類社会の変遷について、狩猟社会を「Society 1.0」、農耕社会を「2.0」、工業社会を「3.0」、現在の情報社会を「4.0」と位置付け、その次に訪れる段階という意味で「Society 5.0」を提唱している。
サイバーフィジカルシステム(CPS:Cyber-Physical System)を念頭に、ITシステム上に築かれたサイバー空間(仮想空間)と、我々が実際に暮らす現実世界(物理空間)を高度に連携、融合させる。産業や社会、人々の生活に革新(イノベーション)をもたらし、経済発展と社会の諸課題の解決を両立させた人間中心の社会を目指すとされる。
こうした社会を実現するための鍵となる技術として、クラウドコンピューティング、IoT(Internet of Things)およびセンシング技術、機械学習システムなどの人工知能(AI)技術、ビッグデータやデータ解析・シミュレーション技術、ロボットや自動運転車などの自動化技術などが挙げられている。
IoT 【Internet of Things】 ⭐⭐⭐
コンピュータなどの情報・通信機器だけでなく、世の中に存在する様々な物体(モノ)に通信機能を持たせ、インターネットに接続したり相互に通信することにより、自動認識や自動制御、遠隔計測などを行うこと。
自動車の位置情報をリアルタイムに集約して渋滞情報を配信するシステムや、人間の検針員に代わって電力メーターが電力会社と通信して電力使用量を申告するスマートメーター、大型の機械などにセンサーと通信機能を内蔵して稼働状況や故障箇所、交換が必要な部品などを製造元がリアルタイムに把握できるシステムなどが考案されている。
これまでの情報システムとの違いとして、個々の機器の取り扱うデータ量や処理量、通信量は少ないが機器の数が桁違いに膨大であることや、従来のコンピュータ製品が人の周りや特定の場所(建物や部屋)に集中しているのに対しIoT機器は世の中の様々な場所に分散して配置される点などがある。
こうした特徴を反映し、低コストで生産でき低消費電力で稼働するICチップや、多数の機器からデータを集約して解析したり、同時に多数の機器を制御するソフトウェア技術、低消費電力で遠距離通信が可能な無線技術、環境中から微小なエネルギーを取り出す技術(エナジーハーベスティング)などの研究・開発が進められている。
LPWA (Low Power Wide Area)
IoTに必須の要素として、装置の消費電力が少なく、多数の機器を一つのネットワークに収容できる広域的な無線通信技術があり、これを「LPWA」(Low Power Wide Area)と総称する。そのような通信方式で構築されたネットワークは「LPWAN」(Low Power Wide Area Network)とも呼ばれる。
IoTを実現するには、携帯電話網など従来からある広域無線技術に比べ、十~数十kmといった遠距離や広い範囲をカバーでき、乾電池などの乏しい電源でも数か月から数年は稼働できることが求められる。一方、人間がスマートフォンなどの通信機器に求めるような高速なデータ伝送能力は必ずしも必要なく、数十~数百kbps(キロビット毎秒)程度あれば実用に供することができる。
このような特性を備えた新しい通信方式をLPWAと呼び、具体的な規格として「Sigfox」「LoRa」「Wi-Fi HaLow」「Wi-SUN」「LTE-M」「NB-IoT」「RPMA」などの方式が提唱されている。
M2M/センサネットワークとの違い
以前から、機器同士を直接繋いで自律的にシステムを運用する「M2M」(Machine to Machine)や、通信可能なセンサーを分散配置して高度な監視や制御を可能にする「センサネットワーク」(WSN:Wireless Sensor Network)などの概念が存在し、これらはかなりの部分がIoTと重複している。
ただし、IoTはインターネットへの接続を前提とするのに対し、これらの技術は閉じた専用ネットワークや独自プロトコル(通信規約)での運用を想定している場合が多い。また、M2Mやセンサネットワークは特定の目的のために機械同士が情報のやり取りすることで処理が完結する仕組みであることが多いのに対し、IoTは接続された機器と人や外部の情報システムとの相互関係がより重視される傾向がある。
IoE (Internet of Everything)
「ありとあらゆるものが接続されたインターネット」という意味で、モノのインターネットと、人やデータ、情報、ソフトウェアなどが中心の従来からあるインターネットが統合された姿を指す。
とはいえ、従来のインターネットとの違いは多数のモノが接続されている点であるため、実際上はIoTとほぼ同義として用いられることが多い。主に米シスコシステムズ(Cisco Systems)社が提唱している用語である。
クラウドコンピューティング 【クラウドシステム】 ⭐
コンピュータの機能や処理能力、ソフトウェア、データなどをインターネットなどの通信ネットワークを通じてサービスとして呼び出して遠隔から利用すること。
「クラウド」(cloud)とは「雲」という意味で、IT業界ではシステム構成図などを描く際にネットワークの向こう側にある外部のコンピュータやシステムなどをまとめて雲の形の絵記号で記す慣例があることから、このように呼ばれるようになった。
従来のコンピュータ利用方式では、利用者が直接操作する端末や、同じ建物内にあるサーバなど、システム利用側が自ら保有、設置する機器上でソフトウェアやデータを管理していたが、クラウドコンピューティングではシステム本体は専門の管理施設に集約し、利用者はインターネット等の広域回線網を介してこれを使用する。
コンピュータや通信回線の性能が向上したことから実用的になった利用方式で、通常は機器を設置、運用する専門の事業者(クラウドプロバイダー)が契約者に機器やシステム、ソフトウェアの使用権を貸与するクラウドサービスの形で提供される。
インターネットから誰でも利用できるようなサービスやシステムを「パブリッククラウド」、大企業などが自社ネットワーク上で社員などが利用するために内部的に構築・運用するものを「プライベートクラウド」、両者を組み合わせたものを「ハイブリッドクラウド」という。クラウドと対比して従来型のシステムを指す場合は「オンプレミス」(on-premises)型という。
マイナンバー 【個人番号】 ⭐
日本政府が発行・管理する、個人を識別するための12桁の番号。自治体に住民票を持つすべての国民と特別永住者など国内に居住する一部の外国人に発行される。主に社会保障や納税、本人確認などの手続きに利用される。
通称マイナンバー法として知られる「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」によって定められた制度で、2015年10月に番号の通知が開始され、2016年1月以降の行政手続きに番号の通知が必要となる。
主に年金、医療、福祉、納税、災害対策などについて個人の識別のために用いられる番号で、給付の申請など手続きの際には自分のマイナンバーを申告しなければならない。法律に定められた業務のために行政機関や関連する民間の事業者が取り扱い、目的外の使用や、他者のマイナンバーを含む情報を誰かに提供することなどは禁じられている。
マイナンバーは誕生時(出生届時)や外国からの帰国時など、初めて国内で住民票を作成するタイミングで発行され、原則として生涯その番号を使用する。個人の希望で自由に変更することはできないが、マイナンバーを含む個人情報が不正に流通するなどした場合には変更される。
マイナンバーカード
番号の発行時にはすべての対象者に個人情報とマイナンバーが記された個人番号通知書が配られるほか、希望者には公的身分証明書として使える写真入りの通称「マイナンバーカード」(正式名称は個人番号カード)が提供される。
カードにはICチップが内蔵され、券面に記載されたマイナンバーと、氏名、住所、生年月日、性別のいわゆる基本4情報がデジタルデータとして記録されているほか、各種の手続き時にデジタル署名を行うための電子証明書が保管される。
取得や携帯の義務はないが、国ではカードの普及率向上を目指しており、自治体ごとの取得率を公表して競わせたり、取得時に民間の電子決済サービスで利用できる「マイナポイント」を付与したり、健康保険証を原則廃止してマイナンバーカードの「マイナ保険証」機能で置き換えるといった施策を推進している。
テレビ会議 【ビデオ会議】
遠隔地にいる複数の人がリアルタイムに映像を伴う通話を行うことができるシステムやサービス。また、そのようなシステムを利用してオンラインで開催される会合。会議や講義、講演、社交などに広く利用されている。
カメラやマイクのあるコンピュータを用いて、それぞれ離れた別の場所にいる人達の間で映像と音声による通話を行うことができる。2人(2箇所)の間を繋ぐ「テレビ電話」(ビデオ電話)とは異なり、3人(3箇所)以上を同時に繋ぐことができる。2箇所を繋いでテレビ電話として使うこともできる。
画面上には自分の姿と共に、他の参加者の姿が映し出され、音声も各箇所のものが合成されて流れる。参加者が増えても一定の通話品質を保てるよう、端末同士を相互に相対接続するのではなく、サービス提供元のサーバで参加者から送られてくる映像や音声を統合して各端末に配信する方式のものが多い。
テレビ会議のシステムを基盤に、資料やデータを共有して共同作業を行ったり、操作画面を共有したり、文字メッセージを交換するチャットを行う機能などを統合したものは「Web会議」という。会議だけでなく離れた場所にいるメンバー同士が共同で作業や業務を進めることができる。
テレビ会議やWeb会議の仕組みは以前から存在したが、新型コロナウイルス感染症の突然の大流行で外出が大きく制限されたことをきっかけに2020年から一気に普及・浸透が進んだ。仕事上の会議や打ち合わせ、商談だけでなく「オンライン飲み会」など社交の場としても活用された。
著名な製品およびサービスとしては、米ズーム・ビデオコミュニケーションズ(Zoom Video Communications)社の「Zoom Meetings」、米マイクロソフト(Microsoft)社の「Microsoft Teams」および「Skype for Business」、米シスコシステムズ(Cisco Systems)社の「Cisco Webex」、米グーグル(Google)社の「Google Meet」(旧Hangouts Meet)などがある。これらの製品はいずれも仕事で使えるようにWeb会議の機能を備えている。
ETC 【Electronic Toll Collection】
有料道路の料金所などに設置された通信機と自動車に搭載した端末(車載器)で無線通信を行い、走行しながら自動的に料金の支払いなどを処理するシステム。
利用者は出入り口や本線料金所でETCに対応したゲート(ETCレーン)を速度を落として通り抜けるだけでよく、発券機や窓口を利用する必要がない。全国の高速道路、自動車専用道路で整備・導入が順次進められており、主要な有料道路のほとんどの出入り口には一つ以上のETC専用レーンあるいはETCゲート・有人窓口併設レーンが設けられている。
道路運営者側はETC普及により段階的に料金所の窓口・係員を削減して道路運用コスト低減が可能となり、料金所周辺の渋滞緩和の効果も期待できる。経路や混雑状況、時間帯などに応じて料金の割引などを行い、交通量の誘導・分散を行う試みも実施されている。
世界数十ヶ国で導入されているが、各国が独自の方式を規定しており、同じ国の中でも道路の運営主体によってシステムが異なる国もある。車載器ごとに支払者を固定する方式と、車載器にIDカードなどを差し込み、カードの持ち主を支払者にする方式がありる。
日本ではクレジットカード会社が発行する接触式ICカード(ETCカード)を専用の車載器に差し込む仕組みになっており、料金は紐付けられたクレジットカードの口座に請求される。機器の技術規格が統一されているため、利用者は一枚のカードがあれば(車載器のある)どの車でも、全国のどの道路でも同じように支払いを行うことができる。
ITS 【Intelligent Transport Systems】 ⭐
道路交通に情報技術や通信技術を応用し、交通問題の軽減、交通の効率化や高度化などをはかる技術や製品、サービスなどの総称。自動車や道路、標識や信号機などの道路設備、駐車場、公共交通、歩行者などに関連する、情報システムを応用した機器やサービス、制度などが含まれる。
日本では1995年に当時の警察庁、運輸省、建設省、郵政省、通産省が共同で全体構想を策定した。この中ではITS全体を、ナビゲーションシステムの高度化、自動料金収受システム、安全運転の支援、交通管理の最適化、道路管理の効率化、公共交通の支援、商用車の効率化、歩行者等の支援、緊急車両の運行支援の9分野に整理している。
現在までに、VICS(道路交通情報通信システム)やETC(電子料金収受システム)、バスロケーションシステム、自動ブレーキシステム、車線維持支援システム、事故自動通報システムのように実用化や普及が進んでいるものが数多くある一方、トラックの自動隊列走行のように実験段階のものや、構想段階で足踏み状態の技術や施策もある。
MOOC 【Massive Open Online Course】
大学などがインターネット上で提供する、大規模な公開講座。単数形の「MOOC」(ムーク)、複数形の「MOOCs」(ムークス)のいずれの表記も用いられる。大学などと提携してそのような講座を提供する、オンライン学習支援サービスを指すこともある。
Webサイト上に講義ビデオや講義資料などをまとまった形で公開し、ネット上で誰でも登録すれば講義を受講できる仕組みである。大学の講義と同じように、一学期分などある程度まとまった複数回の講義が連なったコースを単位に提供される。
講義映像や教材だけでなく、宿題や修了試験、講師との質疑応答や受講者間の議論などが提供される。すべての講義を受けて所定の課題や試験をクリアすると修了証が発行される。多くは無料で受講できるが、修了証の発行などが有料である場合もある。
大学などが単体で運営している講座もあるが、講義の配信や受講者の管理などの情報システムを提供する「MOOCプラットフォーム」を通じて提供されることが多い。米国を中心に企業や非営利団体が運営する多くのプラットフォームがあり、著名なものとして「Khan Academy」「Coursera」「edX」「Udacity」などがある。
日本では2013年に一般社団法人日本オープンオンライン教育推進協議会(JMOOC)が設立され、普及活動を行っている。公認プラットフォームの「gacco」「OpenLearning, Japan」「OUJ MOOC」、JMOOC自身が運営する「PlatJaM」を通じて大学や大学院、学会、高専、行政機関、企業などが様々な分野のコースを提供している。
検索エンジン 【サーチエンジン】 ⭐
あるシステムに存在するデータやファイルを取得して内容の索引付けを行い、利用者がキーワードや条件を入力して検索できるようにしたシステム。そのような機能に特化したソフトウェアなどのことを指す場合と、Web上の情報を検索するネットサービスやWebサイトを指す場合がある。
広義には、ある情報システムやストレージ(記憶装置)などに保管されたファイルやデータの集合を読み込んで、どのような情報がどこに存在するといった索引(インデックス)を作成し、利用者が入力したキーワードや検索条件に合致するデータを探し出して列挙するシステム全般を指す。
特に、外部のソフトウェアなどに組み込まれて検索機能を提供する、部品化されたソフトウェアのことをこのように呼ぶことが多い。企業内のデータベースなどを検索するシステムや、コンピュータ内に保存された文書ファイルなどを検索するシステムが存在する。
Web検索エンジン
狭義には、Web上で公開されているWebページや画像、動画、文書ファイルなどを対象に、ソフトウェアによって自動的に様々なサイトのデータを収集して索引付けし、様々な条件で検索できるようにしたインターネット上のサービスのことを検索サイトという。現代では単に検索サイトといった場合はこちらを指すのが一般的となっている。
検索サイトはWebクローラー(crawler)あるいはロボット(bot)と呼ばれる巡回ソフトを用いて日々Web上で公開されている情報を収集し、テキスト(文字)情報などを抽出して索引付け(インデクシング)している。
利用者は検索サイトのサイト上のフォームから検索したい語やフレーズなどを入力すると、それらが含まれるページの一覧を作成して返答する。このページはSERP(Search Engine Result Page)と呼ばれ、検索ソフトウェアによって検索条件との関連度が高いと判断されたページやサイトから順番に、ページのURLやタイトル、内容の要約などが表示される。
2000年前後のインターネット普及期にはアメリカを中心に様々な検索サイトサービスが勃興し覇を競ったが、2010年代には世界的には米グーグル(Google)社の「Google」が支配的な地位を確立し、二番手の米マイクロソフト(Microsoft)社「Bing」(ビング)を大きく引き離している。
日米Yahoo!(ヤフー)のようにかつては自前の検索サイトを開発・運用していたが、自社製システムは廃止してWeb検索機能をGoogleやBingに委託するようになったネット大手も多い。中国の「百度」(Baidu/バイドゥ)や韓国の「NAVER」(ネイバー)、ロシアの「Yandex」(ヤンデックス)のように、国内大手の方が強い国もある。
SNS 【Social Networking Service】 ⭐⭐⭐
人と人との社会的な繋がりを維持・促進する様々な機能を提供する、会員制のオンラインサービス。友人・知人間のコミュニケーションを円滑にする手段や場を提供したり、趣味や嗜好、居住地域、出身校、あるいは「友人の友人」といった共通点や繋がりを通じて新たな人間関係を構築する場を提供するサービスで、Webサイトや専用のスマートフォンアプリなどで閲覧・利用することができる。
主な特徴
サービスにより機能や特徴が大きく異なるが、多くのサービスに見られる典型的な機能としては、別の会員を「友人」や「購読者」「被購読者」などに登録する機能、自分のプロフィールや写真を公開する機能、同じサービス上の別の会員にメッセージを送る機能、自らのスペースに文章や写真、動画などを投稿して友人などに見せる機能がある。
サービスによっては、複数の会員でメッセージ交換や情報共有ができるコミュニティ機能、イベントの予定や友人の誕生日などを共有したり当日に知らせたりしてくれるカレンダーあるいはスケジュール機能などがある。
多くの商用サービスではサイト内に広告を掲載するなどして、登録や基本的なサービスの利用を無料としているが、一部の機能を有料で提供しているサービスもある。
SNSの種類
多くのサービスはメールアドレスなどがあれば誰でも登録できるが、普及し始めた当初は人の繋がりを重視して「既存の参加者からの招待がないと参加できない」というシステムになっているサービスが多かった。
現在でも、何らかの形で参加資格を限定し、登録時に紹介や審査などが必要なサービスがある。また、参加自体が自由でも、テーマや分野などがあらかじめ設定され、関係や関心のある人の参加を募っているサービスなどもある。
企業などが従業員を対象に運用する「社内SNS」や、大学が教職員や在学生、卒業生を対象に運用する「学内SNS」もあり、業務上の連絡や情報共有に使われたり、業務とは切り離して参加者間の交流の促進のために利用されたりする。「OpenPNE」や「Mastodon」など自らSNSを開設・運用することができるサーバ向けソフトウェアもあり、これを利用したプライベートな集団内のサービスも存在する。
歴史と著名なサービス
2003年頃アメリカを中心に相次いで誕生し、国内事業者によるサービスも2004年頃から普及し始めた。世界的には、初期に登録資格を有名大の学生に絞って人気を博し、後に世界最大のソーシャルネットワークに成長した「Facebook」(フェイスブック)や、短いつぶやきを投稿・共有するマイクロブログ型の「Twitter」(ツイッター:現X)、写真の投稿・共有を中心とする「Instagram」(インスタグラム)、ビジネス・職業上の繋がりに絞った「LinkedIn」(リンクトイン)などが有名である。
日本独自のサービスとしては一時会員数1000万人を超え社会現象ともなった「mixi」(ミクシィ)などが有名だが、近年ではFacebookなど海外事業者に押され利用が低迷しており、オンラインゲーム運営・提供に業態転換するなどしている。
SNS的なサービスの広がり
近年では様々なWebサイトやネットサービス、スマートフォンアプリなどに「ソーシャルな」機能が組み込まれる事例が増えており、何がSNSで何がそうでないか明確に区別することは難しくなりつつある。
例えば、料理レシピ投稿サイトの「クックパッド」(Cookpad)や、スマートフォン利用者間でチャットや音声通話などを提供する「LINE」(ライン)などにも、集団の形成を支援するコミュニティ機能や日記の投稿・共有機能などがあり、これらのサービスをSNSの一種に含める場合もある。
SNSの功罪
SNSによって、一度繋がりの途絶えた古い友人と交流を再開したり、現実に頻繁に会うことは難しい多人数と日常的な繋がりを保ったり、身の回りに同好の士がいなくてもSNSで発見してコミュニティを形成できるなど、SNSのおかげで人間関係が充実した利用者は数多くいる。
一方で、不用意に個人情報や顔写真などを公開してしまい悪意に晒されたり、素性のよくわからない人と交流を持ちトラブルに巻き込まれたり、自分の周囲では特に問題視されなかった話がネット上で拡散されるうちに非難の書き込みが殺到してしまう(「炎上」と呼ばれる現象)など、SNSによって新たに引き起こされる問題もある。
また、SNSが様々な人の間に普及し、継続して利用する期間が長くなるに連れ、上司や家族など「望まれざる」相手とのSNS上での関係や対応に苦慮したり、知り合いの(大抵は良いことしか書かれていない)書き込みを読んで自分の身上と比較してしまったり、興味が湧かない話題でも毎回反応を迫られているように感じて精神的に疲弊する「SNS疲れ」といった問題に直面し、SNSの利用を断って離れる人も増えている。
Twitter 【ツイッター】
今していること、感じたこと、他の利用者へのメッセージなどを「つぶやき」のような形式で280文字(日本語などは140文字)以内の短い文章にして投稿するスタイルのブログサービス。
短文を投稿していくスタイルのサイトは当初「ミニブログ」「マイクロブログ」などと分類されたが、現在ではFacebook(フェイスブック)などと同じSNSサービスの一種であるとみなされることが多い。“twitter”とは英語で、さえずる、ぺちゃくちゃ喋る、くすくす笑う、といった意味の英単語で、日本では「ツイッター」「トゥイッター」などと発音される。英語では “t” の音はあまり強調されず「トゥイラァ」に近い発音となる。
Twitterは2006年7月に米オブビアス(Obvious)社(現Twitter社)によって英語版のサービスが開始された。その後、日本国内での利用が米国内に次いで多かったことから、2008年4月に他言語版としては初となる日本語版のサービスが開始された。
2017年には全世界で3億2000万人以上、そのうち日本には4500万人以上のアクティブな利用者が存在すると発表されており、世界的に展開しているSNSサービスの中では日本で突出して人気の高いサービスとしても知られる。
Twitterはメールアドレスなどを登録すれば誰でも無料で利用できる。加入すると自分専用のWebページが作成され、そこに自分の発言を投稿する。Twitterにおける個々の発言は「ツイート」(tweet)と呼ばれる。
特定の他の利用者に向けて「あて先」を指定する書式も用意されており、文字通り「おしゃべり」に使うこともできる。公開アカウントの発言はWeb上に広く公開され、Twitter加入者以外も読むことができるが、アカウントを非公開設定にすれば、特別に関係を結んだ利用者以外は読むことができなくなる。
「フォロー」(follow)と呼ばれる機能で他の利用者を登録すると、その人の発言をリアルタイムに受信することができる。通常の操作画面では自分の発言とフォローした人の発言が(原則として)時系列に並んで次々に新しい発言が追加されていくようになっており、この発言の流れを「タイムライン」(TL:Time Line)という。他の利用者が自分をフォローして発言を受信することもあり、これを自分の「フォロワー」(follower)という。
他のSNSサービスの「友達」機能とは異なり、フォローは一方向の関係であり、フォローした相手が自分をフォローするとは限らない。友人・知人などの間柄では互いにフォローし合う「相互フォロー」の関係を結ぶことも多いが、有名人のアカウントなどは本人がフォローする人に比べフォロワーの方が桁違いに多い場合もある。
ツイート (tweet)
Twitterにおける一回分の書き込みを「ツイート」(tweet)と呼び、発言を投稿することを「ツイートする」(tweeting)という。日本語では「つぶやき」と呼ばれることもある。“tweet”の原義は「(小鳥の)さえずり」で、短い発言を頻繁に投稿する様子を鳥のさえずりになぞらえている。
当初はどの言語でも一回の発言は140文字以内に制限されていたが、現在では英語などは280文字までで、日本語や中国語、韓国語などの文字は2文字分にカウントされる(すべて日本語なら140文字まで)。発言内にいわゆるUnicode絵文字を混在させたり、画像や動画、GIFアニメーション、GPS位置情報などを添付して発言とともに表示させることもできる。
リツイート (RT/retweet)
Twitterで他の利用者の発言を転載すること。また、転載した発言。自分のフォロワーのタイムラインにその発言を知らせるために行なう。
当初は「RT @ユーザー名 当該発言」のような書式で、自分の発言としてつぶやく方式だったが、その後、Twitter社が公式の機能として実装し、自分の発言とは区別して元の発言をそのままフォロワーに流すことができるようになった。
また、単に発言をそのまま転載するだけでなく、自らの発言を添えてタイムラインに掲載することもでき、「引用リツイート」(引用RT)あるいは「QT」(Quoted Tweet)などと呼ばれる。
VR 【Virtual Reality】 ⭐
人間の感覚器官に働きかけ、現実ではないが実質的に現実のように感じられる環境を人工的に作り出す技術。3次元CGで現実のような光景を映し出す技術を指すことが多い。
身体に装着する機器や、コンピュータにより合成した映像・音響などの効果により、3次元空間内に利用者の身体を投影し、空間への没入感(immersion)を生じさせる。空間内では移動や行動が可能で、利用者の動作に応じてリアルタイムに変化や応答が得られる対話性、双方向性(interactivity)を備えている。
感覚器へのフィードバック(sensory feedback)はディスプレイ装置やスピーカー、ヘッドフォンを用いた視聴覚へのものが主になるが、身体に密着する装置で接触や圧迫を行い触覚に働きかけたり、味覚や嗅覚へ人工的に働きかける技術の研究も進められている。
具体的な方式には様々なものが提唱されており、頭部に装着してすっぽりと視界を覆う「ヘッドマウントディスプレイ」(HMD:Head-Mount Display)を用いた手法が特に有名となっているほか、手を包み込んで動きを入力したり力学的なフィードバックを与える手袋型の「データグローブ」(data glove)などの方式が有望と考えられている。
日本語では “virtual reality” の訳語として「仮想現実」という語が定着しているが、「仮想」には「仮に想定した」「偽の」「実際には存在しない」といったニュアンスがある一方、“virtual” は「名目上は異なるが実質的には同じである」という意味であり、訳語として不適切であるとする指摘もある。
様々な人工現実感
狭義のVRは完全に人工的に生成した非現実の空間を用いるものを指すが、広義には現実の光景や音声、過去の映像などをコンピュータに取り込んで、人工的に生成した要素と組み合わせる方式も含まれる。
後者のうち、離れた場所の様子をVRによって再現し、その中に実際にいるような感覚を生じさせるシステムを「テレイグジステンス」(telexistence)あるいは「テレプレゼンス」(telepresence)という。眼前の光景に人工的に生成した映像や情報を付加するシステムを「拡張現実感」(AR:Augmented Reality)あるいは「複合現実感」(MR:Mixed Reality)などと呼ぶ。
近年では、(狭義の)VRやAR、MRなどを含む総称としての広義の人工現実感のことを「XR」(X Reality/Cross Reality/Extended Reality)と呼ぶことが多い。
また、フィクションに登場したり将来開発されることが期待される、現実と区別がつかないほど進歩したVRシステムのことは「アーティフィシャルリアリティ」(AR:Artificial Reality)あるいは「シミュレーテッドリアリティ」(Simulated Reality)などと呼ばれることもある。
AR 【Augmented Reality】 ⭐
現実の環境から視覚や聴覚、触覚などの知覚に与えられる情報を、コンピュータによる処理で追加あるいは削減、変化させる技術の総称。
コンピュータがカメラやマイク、GPS、各種のセンサーなどで得たその場所や周囲の状況に関する情報を元に、現実世界から得られた画像や映像、音声などに加工を施して利用者に提供する。データグローブなど身体に装着する機器を用いて触覚に働きかけるシステムも研究されている。
実装例として、スマートフォンのカメラを通じて得た外界の映像に、リアルタイムにキャラクターの画像を重ね、あたかもその場所にキャラクターが出現したかのように演出するビデオゲームなどがある。
また、ゴーグルや眼鏡のように眼前に装着できる透過型のディスプレイに、装着者の見ている対象物に関連する文字や画像、映像などを重ね合わせて表示することで、肉眼では見えない部分を見えるようにしたり、関連情報を提供したりするシステムの研究開発も進んでいる。
こうした専用の装具を用いて、医師が手術の際に患部を見ながら一部分の拡大表示や患者の身体状態などを確認できるようにしたり、軍隊で兵士が装着して戦場の様子やセンサーが捕らえた敵の状態を重ね合わせて表示するといった応用が期待されている。
クラウドファンディング 【クラファン】 ⭐
資金を必要とする個人や団体、プロジェクトなどが不特定多数の相手から少額の資金を募る手法。特に、専門の仲介サイトで詳細を告知して資金提供者を募集すること。
資金を募って活動を行いたい場合、まとまった大口資金を少数から集める手法だと、限られた富裕な人や団体の好む事業しか実現できず、また、少数の大口出資者の都合や意向にプロジェクト運営が大きく左右される問題があった。
クラウドファンディングの “crowd” は「群衆」、“funding” は「資金調達」という意味で、ネットを通じて広く一般に資金提供を呼びかけ、数千円から数万円といった小口の資金を多数の賛同者から集める。多くの人が少額を拠出する形を取ることで個々の出資者の影響を小さく抑えることができる。
また、資金を募集する過程自体がある種の宣伝やアピールとして機能し、対象の事業に強い興味を持つ「ファン」や製品の潜在顧客を組織したり、その意見をプロジェクトに反映させることができる。出資者はプロジェクトに愛着を持ち成功を強く祈るようになり、口コミで他の出資者を探したりプロジェクトの存在を広めてくれることも多い。
種類と対象
見返りの有無や種類によって、特に見返りのない「寄付型」の募集と、通常の出資や貸付のように利益が出たらその一部を受け取れる「投資型」、開発した製品やサービスを無償または安価で受け取ったり利用したりできる「購入代金前払い型」に分類することができる。
クラウドファンディングの対象となるのはベンチャー企業への出資や、新しい工業製品やソフトウェアの開発プロジェクトなどが多いが、これに留まらず、政治運動や市民運動、映画やビデオゲームなどの作品制作、スポーツチームや芸能グループの活動継続、舞台や興行の開催、公的部門からの資金の乏しい学問研究、災害復興支援、街づくりや地域活性化などへの資金の募集にも用いられている。
問題点
資金提供の条件やプロジェクト運営の手法、情報開示などについて法規制等はなく、クラウドファンディングサイトが利用者にガイドラインを示すといった取り組みはしているものの、資金の払込後に連絡が取れなくなるといった詐欺まがいの事案が発生することがある。また、個人運営のプロジェクトを中心に見返りの内容や資金使途の公開などを巡ってトラブルになる事例が多く見られる。
オープンソースソフトウェア 【OSS】
開発者がプログラミング言語などで書かれたソースコードを公開し、自由に取り扱えることを宣言しているソフトウェア。誰でも制約なくソースコードを入手、利用、複製、再配布、改変などをすることができる。
ソフトウェア開発では人間に理解しやすいプログラミング言語などを用いて「ソースコード」(source code)というコンピュータプログラムを作成し、これをコンピュータが解釈・実行しやすい形式のプログラムに変換して実行する。
企業などが製品として開発するソフトウェアなどの場合、ソースコードは企業秘密として公開せず、実行可能プログラムのみを販売する方式が多い。このようなソフトウェアを「プロプライエタリソフトウェア」(proprietary software)と呼び、利用者はソースコードを入手できないか、できても契約により強い制約が課される。
一方、オープンソースソフトウェアではプログラムの著作権者である開発者が著作権の一部の行使を凍結し、誰でも自由にソースコードを入手して、使用だけでなく販売を含む再配布、動作の解析や一部の改変、自作ソフトウェアへの同梱や機能としての組み込みなどを行うことができる。これらは無償で行うことができ、開発者へ問い合わせたり許諾を得る必要もない。
ただし、著作権が放棄されたわけではなく、著作者や利用者の権利や制限などを定めた「オープンソースライセンス」(open source license)という利用許諾契約に基づいて配布される。利用者はソフトウェアの取り扱いに際して、このライセンスに書かれた条項を遵守する法的な義務を負う。
オープンソースソフトウェアは個人や小規模な開発者集団が自作のソフトウェアを善意で公開する例が多く、インターネット上にはボランティア開発者が集う「オープンソースコミュニティ」が数多く存在する。企業などが製品をオープンソース化して普及に努め、法人ユーザーとのサポート契約や関連ネットサービスの利用料などで利益を得るという「ビジネスとしてのオープンソース」も定着している。
EC 【Electronic Commerce】 ⭐⭐
データ通信やコンピュータなど電子的な手段を介して行う商取引の総称。狭義にはインターネットを通じて遠隔地間で行う商取引を指す。より狭義には、Webサイトなどを通じて企業が消費者に商品を販売するネット通販を指す場合もある。
取引主体の組み合わせにより、企業(法人)間のECを「B to B EC」(B2B/Business to Business)、企業と消費者のECを「B to C EC」(B2C/Business to Consumer)、消費者間のECを「C to C EC」(C2C/Consumer to Consumer)という。
最も一般的なB to C ECには、物品のオンラインショップ(電子商店)やオンラインモール(電子商店街)、交通機関や興行のオンラインチケット販売、宿泊施設や飲食店などのオンライン予約、動画・音声・ビデオゲーム・電子書籍などデジタルコンテンツのオンライン販売、金融商品のオンライントレード、オンラインバンキングなどが含まれる。
また、B to B ECには、eマーケットプレイス(電子市場)や電子調達(eプロキュアメント)、EDI(電子データ交換)、ネット広告(販売)などが含まれる。C to C ECとしてはネットオークションやフリマアプリ、フードデリバリー、民泊アプリ、ライドシェアなどがある。
実際の店舗を構える場合に比べ少ない費用や人員でビジネスを始めることができ、地理的な制約に縛られず離れた場所の顧客を相手に取引することができる。ただし、競合相手も同じ条件であるため、分野によっては実店舗より競争が激しく、全国や全世界といった大きな規模で寡占や「勝者総取り」現象が生じる場合がある。
オンラインショップ 【ECサイト】 ⭐
インターネットを通じて商品を販売するWebサイトなどのこと。狭義には物品の販売を行う通販サイトを指すが、広義にはサービスや金融商品などを販売するサイトも含まれる。
取扱い製品の紹介ページや購入手続きのページなどで構成され、利用者はほしい商品を選択して配送先や決済情報などを入力・送信することにより、購入の申し込みを行なうことができる。商品は宅配便などで購入者の元に届けられる。決済方法としてはクレジットカードや銀行振込、電子マネーなどによる事前入金のほか、運送事業者の代金引換配達などを利用できる場合がある。
インターネット上には様々な事業者の開設する多種多様なネットショッピングがあり、一般の商店で販売している大抵のものはオンラインで購入できる状態となっている。当初は書籍やコンピュータ、家電製品、CD/DVD、ゲームソフトなどを取り扱うネットショッピングが成長したが、次第に様々な製品分野に広まり、日用品や加工食品、衣料品、旅行商品などでも普及が進んでいる。
一方、高額な商品や、複雑な手続き、打ち合わせなどが必要な商品ではその特性上ネットショッピングはあまり利用されない。また、衛生管理の問題から生鮮食品を取り扱うネットショッピングの実現は難しかったが、近年では大手スーパーマーケットチェーンが実店舗の周囲に独自の配送網を築くなどの手法でネットショッピングを開設しており、「ネットスーパー」(オンラインスーパー)とも呼ばれる。
様々なネットショッピングを一つに集め、横断的に商品を検索・比較したり、共通の手続きや登録情報で購入できるようにするなどのサービスを提供するWebサイトもあり、現実世界のショッピングモールになぞらえて「オンラインモール」(電子商店街、サイバーモール)と呼ばれる。
ネットオークション 【オンラインオークション】
インターネット上で行われる競売。また、そのような取引の場を提供するネットサービス。電子商取引(EC)の一種で、一般消費者同士が直接取引を行う「C to C」(Consumer to Consumer)型の取引の代表的な形態の一つである。
出品者はサイト上に、商品の名称や写真、状態、最低価格、入札期限、配送方法、支払方法などの情報を掲載し、入札者が現れるのを待つ。期限内に最も高値を提示した入札者が商品を落札し、出品者と連絡を取り合い、商品と代金を交換する。
ネットオークション事業者は、これら一連の処理を行うためのシステムと「場」を提供し、出品者から手数料を徴収する。出品や落札を無料にして、サイト内に掲載する広告で収入を得る事業者や、オークションシステムを顧客企業のブランドで運営するアウトソーシング事業者なども存在する。ネットオークションの仕組みを応用して官公庁が物品の公売に用いる「インターネット公売」(官公庁オークション)も定着している。
オークション成立後の個人間売買のための決済、物流などの個人向けサービスも普及し、企業間の取引や、消費者への販売の新たな手法として用いられるケースも増えている。一方で、違法な物品が取引されたり、落札者が代金を支払ったのに商品が送られてこないなどのトラブルが問題となっている。
一般にネット上の個人間のやり取りでは相手が信用に足る人物か判断するのは難しい。ネットオークションでは取引上のトラブルを避けるため、相手方が確実に支払いや発送を履行するまで品物か代金(あるいは両方)を一旦事業者が預かる「エスクロー」(escrow)と呼ばれるサービスをオプションで提供する事業者もある。
エスクロー 【エスクロウ】 ⭐
第三者預託という意味の英単語。二者の契約について一方から他方への義務の履行が確認されるまで、対価として引き渡される金銭や証書、物品などを第三者が預かる仕組みのこと。
例えば、物品の売買について二者が合意に達すると、まず買い手が商品の代金を仲介者に預け、これを確認したら売り手は商品を引き渡す。買い手は商品を受け取り、確かに発注したとおりであると確認できれば、仲介者に連絡して代金を売り手に引き渡す。これにより、納品したのに代金が支払われない、あるいは、代金を支払ったのに納品されないといったトラブルを未然に防ぐことができる。仲介者は手数料として代金の一定の割合か固定額を受け取る。
古くから証券や不動産、企業間取引などの分野で金融サービスの一種として存在したが、インターネットを通じた取引が活発化するに連れ、eマーケットプレイス事業者が出店している小規模店舗と消費者の間で提供したり、ネットオークションやフリマアプリなど個人間の商取引を仲介する事業者が提供する例が増えている。日本では2009年の資金決済法により、事業会社が届け出により100万円以下の決済を取り次ぐ資金移動業者になることができるようになった。
なお、売買など金銭の受け渡しだけでなく、二者間の交換や契約の履行を第三者が仲介する様々な仕組みやサービスにエスクローサービスという名称が用いられている。
レコメンド 【リコメンド】 ⭐
推薦する、勧告する、などの意味を持つ英単語。店舗が来店客に特定の商品を薦める行為をこのように呼ぶことが多い。ITの分野では特に、電子商店(ECサイト)などが過去のデータなどに基づいて来訪客に自動的に商品を薦める仕組みを指す場合が多い。
例えば、ある商品に強く関連する別の商品を表示したり、顧客の過去の購買履歴やページ閲覧履歴を記録して興味を持ちそうな商品を表示したり、プロフィールや行動履歴などが類似している他の顧客が購入した商品を表示する機能などを指す。
実際にはこれらを組み合わせて一定のアルゴリズム(計算手順)に基づいて商品をリストアップする手法が使われ、そのような処理を専門に行うソフトウェアやシステムを「レコメンドエンジン」(recommendation engine)などと呼ぶことがある。
リアルタイムレコメンド (real-time recommendation)
利用者の現在の行動に合わせて推薦内容を決定したり変化させたりするレコメンド手法を「リアルタイムレコメンド」ということがある。
Webサイトの場合には、訪問者のページ間の遷移をリアルタイムに補足し、瞬時に関連度の高い商品を割り出してページ内の特定の領域に表示するといった手法が用いられる。訪問者の「今この瞬間」の関心事に基づいて商品を推薦することができる。
また、メールマガジンなどに配信側へ情報を問い合わせる特殊なHTMLタグなどを埋め込んでおき、受信者が開封・表示したタイミングで推薦商品の情報を提供するといった技術もある。本文で紹介した商品が開封時には在庫切れになっているといった事態を避けることができる。
標準規格の勧告
技術標準などを策定する標準化団体の中には、発行された標準規格のことを “recommendation” と呼ぶことがある。日本語では「勧告」と訳されることが多い。情報・通信の分野ではITU-T(国際電気通信連合・電気通信標準化セクタ)勧告やW3C(World Wide Web Consortium)勧告などが有名である。
インターネットバンキング 【Internet banking】 ⭐
パソコンやスマートフォンなどを用いてインターネット経由で銀行などの金融機関のサービスを利用すること。店舗や端末に出向くことなく振込などのサービスを利用できる。
預金の残高照会、入出金照会、口座振り込み、振り替えなど、ATMで対応しているサービスが利用可能なほか、複数口座の一括管理や電子メールによる相談の受付など、独自のサービスが利用可能な銀行もある。
振り込みなどの処理が実際に行われるのは営業時間中だが、手続き自体はいつでもどこからでも可能なため、平日の昼間に窓口やATMに赴くのが難しい人には特に便利なサービスである。
金融機関側でも手続きの電子化が進めば窓口やATMの削減が可能となるため、預金者に利用を促しており、紙の通帳を廃止したり、ネット経由の場合に手数料の優遇を行ったりしている。
サービスの利用方法で分類すると、Webブラウザを使うものと、専用のソフトウェアを使うものの2種類がある。パソコンから利用する場合はWebブラウザを用いる方式が、スマートフォンやタブレット端末から利用する場合は専用のアプリを導入する方式が主流となっている。
ネット銀行 (インターネット専業銀行)
インターネット上での営業活動に特化した銀行を「ネット銀行」と呼ぶことがある。一般的な店舗による対面の営業を実質的に行わず、すべての手続きやサービスをオンライン上で行う業態を指す。
自前の店舗網やATM網をほとんど持たず、紙の預金通帳も発行しないことで、通常の銀行などより預金金利を高めたり手数料を引き下げたりしている。
日本では2000年10月に当時のさくら銀行(現在の三井住友銀行)などが設立したジャパンネット銀行が先駆けで、ソニー銀行、住信SBIネット銀行などがよく知られる。
仮想通貨
コンピュータ上で価値を表す値を記録、移動する仕組みのうち、通貨のように財やサービスを受け取る対価として支払いに用いたり、富の蓄積や移動の手段として用いられるもの。広義にはゲーム内通貨などを含むが、一般的にはビットコインのような暗号通貨を指す。
コンピュータシステム内に個人や法人など現実世界の主体がそれぞれ所有する値が記録・管理されており、同意に基づいて主体間で値をやり取りできる仕組みである。値の移動は価値の移動を表しており、支払いや蓄財、投資などで通貨の代わりに用いることができる。
特定の企業などが発行・管理する中央集権的な仕組みとしてはゲーム内通貨やサービス内ポイント、電子クーポンなどがあり、広義の仮想通貨に含まれる。一方、暗号技術に基づく分散台帳(ブロックチェーン)を用いて、単一の管理主体を置かずに発行・流通を管理する分散型の仕組みは「暗号通貨」(cryptocurrency)と呼ばれ、単に仮想通貨という場合は通常はこちらを指す。
暗号通貨
暗号に関連する技術を応用して、中央集権的な発行主体や管理主体を置かず、個々の利用者によるデータ保管、利用者相互のデータのやり取りのみで安全に取引を完結させる分散型の仮想通貨システムを暗号通貨という。
暗号通貨の所有者の端末には、その通貨の過去の取引記録を蓄積した分散台帳(ブロックチェーン)の複製が保管される。ブロックチェーンは暗号技術で保護されており、所有者が自分に有利なように記録を改竄しようとしても、他の所有者が保管する台帳と整合性が取れず、書き換えは棄却される。
この仕組みにより、単一の管理主体を置かなくても所有者相互のやり取りだけで安全に受け渡しを行うことができる。ブロックチェーンには誰から誰に、いつ、いくら移転したかが記録されており、誰でも取引履歴を確かめることができるが、各利用者が現実世界の誰なのかを登録・照会する仕組みは無いため匿名性が高い。
通貨による電子決済と同じように商品やサービスの代金支払いの手段として受け入れるECサイトやネットサービスなどもあるにはあるが、取引完了に時間がかかることや、現実の通貨に対する価値が安定しないこと、所有者が少なくニーズが乏しいという「鶏と卵」の関係などから、広く普及するには至っていない。
ネット上に開設された交換所などを通じて実際の通貨と交換(既存の所有者に通貨を支払って購入)したり、他の暗号通貨と交換することもできる。交換レートは通貨間の為替取引のように時々刻々と変動しており、金融商品の一種として投資の対象ともなっている。
法制度が確立する前に急激に普及したため、各国とも後追いで法的な位置付けや規制などを整備している。中国のように全面禁止する国からエルサルバドルのように法定通貨の一つに採用する試みまで様々である。日本では2016年の資金決済法改正により「仮想通貨」に関する条項が追加され、2020年の金融商品取引法および資金決済法の改正で呼称が「暗号資産」に統一された。
暗号資産
暗号技術を用いて、コンピュータネットワーク上で単一の管理主体を置かなくても利用者間で安全に値を移転できる仕組みを構築し、この値に財産的な価値を見出したもの。通貨のように取引できる「暗号通貨」を指すことが多いが、他の応用例もある。
所有者の端末に、その暗号資産の取引履歴などを記録した分散台帳(ブロックチェーン)の複製が保管される。ブロックチェーンは暗号技術で保護されており、所有者が自分に有利なように記録を改竄しようとしても、他の所有者が保管する台帳と整合性が取れず、書き換えは棄却される。
この仕組みにより、現実の通貨のような中央集権的な発行主体や管理主体を置かなくても、個々の所有者によるデータ保管、所有者相互のデータのやり取りのみで安全に取引を完結させることができる。各所有者の保有高を改竄不可能な形でネットワーク上に保管し続けることができる。
ブロックチェーン上での値の移動を通貨の支払いとみなし、代金の決済などに利用できるようにしたものを「暗号通貨」(cryptocurrency)という。ビットコイン(Bitcoin)やイーサリアム(Ethereum)などがよく知られ、支払いや蓄財、投資などで通貨の代わりに用いられている。
為替取引のようにネット上の交換所で現実の通貨や他の暗号通貨と交換することもできる。中央銀行のような発行主体が存在しないため財産的な裏付けは無いが、企業などが発行し、法定通貨やコモディティに価値が連動するよう設計された「ステーブルコイン」も存在する。
一方、株式や債券、会員券、引換券などに類似する、通貨以外の何らかの財産的な権利の所有や移転をブロックチェーン上に記録するシステムもあり、広義の暗号資産に含まれる。セキュリティトークン(デジタル証券)、ユーティリティトークン、NFT(非代替性トークン)などが該当する。
日本では2016年の資金決済法改正により「仮想通貨」の名称で規定が追加されたが、2020年の金融商品取引法および資金決済法の改正で呼称が「暗号資産」に統一された。日本の法制度上の「暗号資産」は通貨性のあるもの(暗号通貨)に限定され、NFTなどは該当しないとされるため、一般的な概念の “crypto asset” に含まれる範囲とは必ずしも一致しない。
ブロックチェーン ⭐
一定の形式や内容のデータの塊を改竄困難な形で時系列に連結していく技術。内容が随時追加されていくデータ群を複数の独立した対等な主体の間で安全に共有することができる。仮想通貨(暗号通貨/暗号資産)の開発を通じて誕生し、他の用途へも応用されている。
ブロックチェーンを用いて記録されたデータはインターネットなどを通じて参加者間で複製、共有されるが、途中の一部を改竄しても全体を整合性のある状態にすることは困難な性質があり、特定の管理者や管理システムが存在しなくても真正なデータを共有することができる。
この性質を応用し、ネットワークに参加する二者間の取引を記録した台帳データを参加者間で共有しつつ、取引の発生に応じて追記していく分散型台帳を実現することができる。この台帳によって値の移動を追跡、検証可能な方法で記録したものを一種の通貨として利用する試みを暗号通貨という。
ハッシュ値とPoW(Proof of Work)
各ブロックには記録されるデータと共に、一つ前のブロックのデータから算出したハッシュ値が添付される。ハッシュ値はデータの長さによらず固定長の短いデータで、元になるデータが少しでも変化すると規則性なくまったく異なる値になるという性質がある。
これにより、チェーンの途中にあるブロックの内容を改変すると、次のブロックに記録されたハッシュ値と一致しなくなる。これを整合するように改変しても、今度はその次のブロックのハッシュ値と一致しなくなるため、後続のすべてのブロックを連結し直さなければならない。
単にハッシュ計算をやり直して連結し直すだけならばデータ量によってはすぐにできる場合もあるが、多くのブロックチェーン技術ではハッシュ値が特定の条件を満たすようブロックに短いデータ(nonce:ナンスという)を追加する。適切なナンス値を発見するには多数の候補値を用意して条件を満たすまで何度も繰り返しハッシュ値を算出し直す膨大な総当り計算が必要となる。
あるブロックのハッシュ値が条件を満たすことができるナンス値が発見されると、ようやくブロックを閉じて連結することができる。この工程を「PoW」(Proof of Work)と呼び、ビットコインなどのシステムではナンス値を算出した利用者に報酬として新たに暗号通貨を発行する仕組みになっている(コインのマイニングと呼ばれる)。
算出に時間がかかるナンス値が各ブロック毎に用意されていることにより、攻撃者が途中のブロックを改竄しても、後続のすべてのブロックのナンス値の割り出しをやり直さなければ正しいチェーンを得ることができず、改竄を極めて困難にすることができる。システムによってはPoWの代わりにPoS(Proof of State)など別の仕組みを用いる場合もある。
歴史
2008年に「Satoshi Nakamoto」(サトシ・ナカモト)という日本人風の名を名乗る匿名の人物(身元が分からず個人なのか集団や機関なのかも不明)が暗号通貨ネットワークの「ビットコイン」(Bitcoin)を立ち上げ、同時に公開された論文の中でその原理をブロックチェーンの語で紹介したのが最初である。
その後、ビットコインを模した暗号通貨が数多く作られ、インターネット上の交換所を通じて現金との間で、あるいは暗号通貨間で活発に取引が行われている。現在は主に投資用の資産として売買されており、通貨としての機能、すなわちモノやサービスの売買の決済、支払い手段としてはほとんど普及していない。
台帳に取引記録以外の情報を載せることで様々な仕組みを構築することもでき、ある種のプログラムを搭載して条件に応じて自動的に実行する「スマートコントラクト」などが提唱されている。2015年頃からブロックチェーンを金融取引などへ適用する試験的な取り組みなどが活発になっているが、今のところ暗号通貨のように既存の技術や制度では実現できない、あるいは決定的に優位性のある用途は見つかっていない。
電子マネー 【電子通貨】 ⭐⭐⭐
貨幣価値の蓄積や移動を電子的な手段によって行う決済システムやサービス、装置などのうち、主に現実の貨幣や紙幣の代替として利用するために設計されたもの。また、そのための専用の装置などに蓄積され、店頭などで支払いに充当することができる貨幣価値のこと。
ストアドバリュー型
実店舗で利用される電子マネーとしては、非接触ICカードやスマートフォンなどで貨幣価値を表すデータを蓄積・管理し、店頭の端末と無線通信を行って支払いを行う方式がよく用いられる。カードや端末へは手持ちの現金や銀行口座、クレジットカードなどから繰り返し「入金」することができ、蓄積された残高の範囲内で現金の代わりに支払いに当てることができる。
この方式では、JR東日本の「Suica」や首都圏私鉄・バス事業者連合の「PASMO」をはじめとする交通系ICカードが大都市圏を中心で広く普及しているほか、楽天Edyやイオングループの「WAON」、セブン&アイグループの「nanaco」など流通系ICカードも普及している。
ポストペイ型
一般的には事前に入金が必要なプリペイド(前払い)方式のものを電子マネーというが、「iD」や「QUICPay」のように事前入金なしに利用できて、後日、銀行口座の引き落としやクレジットカードなどで支払いを行うポストペイ(後払い)方式のサービスもある。ポストペイ方式は実質的にはクレジットカードの付加サービスあるいはクレジット決済の一種とみなされる。
プリペイドカード型
また、事前に一定額を支払うと引き換えに発行されるコード番号などを入力することで、同額の決済を行えるサービス・システムもあり、ネットサービスやオンラインゲーム、オンラインショップなどでの支払いや、スマートフォンなどでのアプリやコンテンツの購入などでよく利用される。
コード番号の記載されたカードがコンビニエンスストアなどで販売されているほか、店頭で一定額を支払うとレジからコードの記載されたレシートが発行されたり、銀行振込やクレジット決済で一定額を入金すると事前に登録したメールアドレスなどにコードが送られてくる、といった仕組みを採用しているサービスもある。
「WebMoney」や「BitCoin」など専業の事業者が運営し、提携している各社のサービスで利用できるものと、米アップル(Apple)社の「Apple Gift Card」や米グーグル(Google)社の「Google Playギフトカード」、米アマゾンドットコム(Amazon.com)社の「Amazonギフトカード」のように、自社サービスの決済に利用するために販売されるものがある。
仮想通貨との違い
電子マネーは日本円など現実の通貨の価値をデジタルデータに置き換えて蓄積・交換するための仕組みだが、これとは別に、それ自体を独立した一つの通貨のように用いることのできる、デジタルデータで表された価値の蓄積・交換システムも存在し、「仮想通貨」(virtual currency)あるいは「暗号通貨」(cryptocurrency)と呼ばれる。
キャッシュレス決済 【電子決済】 ⭐
商品やサービスの代金支払いなどを、現金の受け渡しや金融機関での手続きなどではなく、電子的なデータ交換によって行うこと。
銀行口座やクレジットカードなどを利用する電子決済方式として、インターネット上でのクレジットカード決済(カード番号などをオンラインで送信する)やインターネットバンキングによる相手口座への送金、キャッシュカードで店頭での支払いを行うデビットカード決済などがある。
事前に決済事業者に入金した額の範囲で支払いを行うことができる決済方式を「電子マネー」あるいは「ストアドバリュー型電子決済」という。利用者はカード購入や入金端末操作、銀行振り込み、クレジットカード決済などで決済サービス上での貨幣価値を入手し、提携店舗やネットサービスでの支払いに充てることができる。
これには交通系ICカードなどのICカード型電子マネー、店舗でカードを購入するうプリペイドカード型電子マネー、オンラインで入金や決済を行うネットワーク型電子マネー、スマートフォンの短距離無線通信を利用するモバイル決済、QRコードで決済情報を伝達するQRコード決済などが含まれる。
2000年代初頭のインターネット普及や非接触ICカード技術の進歩により広まった決済方式で、ECサイトやネットサービスでの支払いにオンラインのクレジット決済やネットバンキングがよく利用される。店舗での支払いなど現金を代替する用途は日本では大都市圏での交通系ICカード以外なかなか普及しなかったが、2010年代後半頃からモバイル決済やQRコード決済が急激に浸透しつつある。
人工知能 【AI】 ⭐⭐⭐
人間にしかできなかったような高度に知的な作業や判断をコンピュータを中心とする人工的なシステムにより行えるようにしたもの。
人類は未だに人間の脳の振る舞いや知能の仕組みを完全には解明していないため、AIにも明快な定義は与えられていない。また、情報技術の進歩に伴って時代によってAIとされるシステムの具体的な内容は大きく変化してきている。
特に、前の時代にAIの一分野として研究・開発が進められていたものが、技術が成熟し実用化や普及が進むとAIとは呼ばれなくなり、より高度で研究途上のものが新たにAIとして注目される傾向がある。この現象は「AI効果」と呼ばれ、例として文字認識技術(OCR)や検索エンジン、かな漢字変換システム、ロボット掃除機などが挙げられる。
2000年代後半以降にAIとされるものは、大量のデータから規則性やルールなどを学習し、与えられた課題に対して推論や回答、情報の合成などを行う機械学習(ML:Machine Learning)を基礎とするものが主流となっている。
特に、人間の神経回路を模したニューラルネットワーク(NN:Neural Network)で深い階層のモデルを構築し、精度の高い推論を行うディープラーニング(深層学習)研究に大きな進展があり、これに基づく研究や開発が盛んになっている。
応用分野として、チェスや将棋、将棋など知的なゲームで対局するシステム、画像や映像に映る物体や人物を識別する画像認識システム(コンピュータビジョン)、人間の発話を聞き取って内容を理解する音声認識システム、言葉を組み立てて声として発する音声合成システム、ロボットや自動車など機械の高度で自律的な制御システム(自動運転など)、自動要約や質問応答システム、高度で自然な機械翻訳といった様々な自然言語処理などがよく知られる。
機械学習 【マシンラーニング】 ⭐
コンピュータプログラムにある分野のデータを繰り返し与えることで内在する規則性などを学習させ、未知のデータが与えられた際に学習結果に当てはめて予測や判断、分類などを行えるようにする仕組み。現代の人工知能(AI)研究における最も有力な手法の一つ。
例えば、数字を手書きした画像と、そこに写っている数字をペアにした学習データをたくさん用意し、一定のアルゴリズム(計算手順)に従って次々にこれを処理していくと、画像のパターンから写っている数字を予測する学習モデルを作ることができる。学習済みのシステムに未知の手書き数字の画像を与えると、そこに写っている数字を推論して回答できるようになる。
従来このような仕組みを作ろうとすると、各数字の画像に現れる特徴的なパターンを人間が整理して、判断基準としてプログラムに組み込む必要があるが、機械学習ではデータから特徴を抽出して特定の結果(答え)に紐付ける操作をコンピュータが自動的に行うため、人間は学習させたい内容を表すデータを与えるだけでよい。
教師あり学習 (supervised learning)
機械学習の手法のうち、「例題と答え」という形式に整理された「教師データ」に適合するようにモデルを構築していく方式を「教師あり学習」という。例題を入力すると対応する答えを出力するようにモデルを調整していく。
人間が既に答えを知っているような判断や作業を自動化したい場合に有効な手法で応用範囲も広いが、生のデータを「例題と答えのペア」という形式に(人手によって)整理しなければならない。学習データの質や潜在的な問題点がそのまま精度や結果に反映されてしまう難点もある。
教師なし学習 (unsupervised learning)
人間が基準や正解を与えずに学習データを分析させ、システムが自律的に何らかの規則性や傾向を見出す方式を「教師なし学習」という。与えられたデータ群を何らかの目的をもって解析し、特徴の似たデータのグループ分けなどを行えるようにする。
人間にも正解が分からない課題についての知見を得たい場合や、大量のデータから規則性を探索したい場合などに有効な手法で、データの前処理が少なく現実世界にある多様な大量のデータを素材にできる。ただし、結果が何を意味するかは人間による解釈が必要で、人間にとって有用な結果が得られるよう制御するのが難しく精度も安定させにくいなどの課題がある。
強化学習 (reinforcement learning)
システムの行動に対して評価(報酬)が与えられ、行動の試行錯誤を繰り返して評価を最大化するような行動パターンを学習させる方式を「強化学習」という。機械の制御や競技、ゲームなどを行うAIの訓練に適している。
他の学習手法と異なり、人間がまとまった形で学習データを与えることはせず、システムは現在の状況を入力として行動を選択する。行動の結果は評価(値)としてシステムに伝達され、どのような行動が好ましい結果に繋がるかを繰り返し試行錯誤しながら学習していく。
人工知能・深層学習との関係
「人工知能」(AI:Artificial Intelligence)とは人間の知的な営みの一部を何らかの形で模倣するITシステム全般を指す総称であり、初期のAI研究では対象についての知識やルール、判断基準などを人間がプログラムの一部として直に記述する手法が一般的だった。
しかし、このような手法では知識の記述に手間がかかり、特定の狭い分野であっても人間のような判断を下せるシステムを実現するには途方も無い時間とコストが必要になってしまう。この限界を打ち破るため、人間は学習の仕方だけをプログラムとして実装し、実際の知識の獲得はデータを大量に与えて自動処理するという機械学習の手法が考案された。
機械学習の具体的な方式にはSVM(サポートベクターマシン)やベイジアンネットワーク、決定木(デシジョンツリー)学習、データクラスタリングなど様々な手法があるが、人間の脳の神経回路の網状の繋がりに着想を得た「ニューラルネットワーク」(NN:Neural Network)が有力な方式として台頭した。
2010年代になると、ネットワークの階層を従来より深く設定(4層以上)した「ディープニューラルネットワーク」(DNN:Deep Nueral Network)が目覚ましい発展を遂げ、機械学習研究・開発の中核として注目されるようになった。このDNNに基づく機械学習のことを「深層学習」あるいは「ディープラーニング」(deep learning)という。
ディープラーニング 【深層学習】
ニューラルネットワーク(NN:Neural Network)を用いた機械学習システムのうち、中間層(隠れ層)が複数のシステムを利用するもの。広義にはこれをNN以外の手法に応用したもの(深層強化学習など)を含む。画像処理に強く精度が高いため近年急激に注目が高まっている。
ニューラルネットワークは動物の脳の仕組みを模した学習する機械の数学的なモデルで、データの入力、単純な計算、出力を連続して行うノードを脳神経(ニューロン)に見立て、これを大量に用意して網状に相互接続した構造となっている。
ノードは層状に配置され、外部から入力層のノード群がデータを受け取り、計算を行って結果を中間層に伝達し、中間層も同様に計算を行って出力層に伝達、出力層から結果が出力される。学習データを用いて計算や伝達に用いるパラメータを調整すると、推論や予測、分類などを行うシステムを構成することができる。
1950年代の研究初期に提唱されたニューラルネットワークはノード群を入力層・中間層・出力層の3層に配置した構造だったが、1990年代に複数の中間層を設けて全体を4層以上の深さにした「ディープニューラルネットワーク」(DNN:Deep Neural Network)が提唱された。これを用いて行う機械学習を深層学習という。
初期のDNNは性能がなかなか向上せずあまり注目されてこなかったが、2006年のジェフリー・ヒントン(Geoffrey E. Hinton)氏による「オートエンコーダ」の提案を突破口に劇的な飛躍を遂げた。2010年代以降は代表的な機械学習モデルとして活発に研究・開発が進み、有用なシステムの実用化や社会への実装も進展した。
深層学習は画像認識(画像に何が写ってるのか検知する)において顕著な高性能を示したため画像処理分野での研究や応用が最初に注目され、画像認識や画像生成、文字認識、自動運転のためのセンサー技術などへの適用が進んだ。深層学習を応用したコンピュータ囲碁やコンピュータ将棋のシステムがプロに勝利するなどのニュースを通じて一般への認知度も高まった。近年では機械翻訳や音声認識、音声合成、動画生成などへの応用も進んでいる。
データマイニング ⭐
蓄積された大量のデータを統計学や数理解析などの技法を用いて分析し、これまで知られていなかった規則性や傾向など、何らかの未知の有用な知見を得ること。
「マイニング」(mining)とは「採掘」の意味で、膨大なデータの集積を鉱山に、そこから有用な知見を見出すことを資源の採掘になぞらえている。適用分野や目的、対象となるデータの種類は多種多様だが、ビジネスの分野では企業が業務に関連して記録したデータ(過去の取引記録、行動履歴など)を元に、意思決定や計画立案、販売促進などに有効な知見を得るために行われることが多い。
例えば、小売店の商品の売上データの履歴は、それ自体は会計上の手続きや監査などの業務にしか使われないが、データマイニングの手法で統計的に処理することで、これまで知られていなかった「商品Aと商品Bを一緒に購入する顧客が多い」といった傾向が分かる場合がある。これにより、AとBの売り場を統合するといった販売促進施策を行うことが可能となる。
商業分野だけでなく、自然言語処理やパターン認識、人工知能などの研究などでも利用される。分析・解析の手法も様々だが、代表的な手法としては、頻度の高いパターンの抽出や、相関関係にある項目の組の発見、データの特徴や共通点に基づく分類、過去の傾向に基づく将来の予測などがある。
近年では、一般的なシステムやソフトウェアでの解析が困難な巨大なデータセットである「ビッグデータ」を対象とした解析手法や、人工知能の一分野である機械学習、特に先進的な手法である「ディープラーニング」を応用したマイニング手法などが活発に研究・開発されている。
データサイエンス
統計解析や数理解析、コンピュータによる処理などを駆使して大量のデータを解析・分析し、有用な知見を導く手法を研究する学問領域。
現代ではコンピュータや通信技術の発達で大量のデータの記録や蓄積、伝送が可能となった。これを様々な手法を駆使して処理、解析し、学術研究やビジネスなど人間の社会的な活動にとって有用な知見を導き出す方法論を研究するのがデータサイエンスである。
人間の知的活動と機械によるデータ処理を橋渡しするという性質上、様々な既存の学問や技術を横断的に活用する学際的な側面を持っている。統計や数理解析、線形代数、機械学習、データモデリングなどの数理科学やコンピュータ科学の知見、データベース操作やデータ形式の理解、プログラミング、データ加工・変換・処理といったエンジニアリング領域の技法が総合的に求められる。
データサイエンスを修め、あるいは研究する人材を「データサイエンティスト」(data scientist)という。日本では2011年頃からビッグデータ活用の重要性が叫ばれるようになるなか、データ活用を推進する具体的な人材像として2013年頃からデータサイエンティストという職種が認識され始めた。十分な技能を持ったデータサイエンティストは常に人材不足であるとされ、今後もそのニーズは高まっていくと予想されている。
データサイエンティスト ⭐
統計解析や数理解析、機械学習、プログラミングなどを駆使して大量のデータを解析し、有用な知見を得る職業あるいは職種。
企業の事業活動の電子化、コンピュータ化が進み、取得可能なデータや実際に蓄積されるデータの種類や量は飛躍的に増大したが、IT部門はデータの記録や管理のみ、ビジネス部門は表計算ソフトでの集計など定型的な利用のみの場合が多く、十分な利活用がされないまま死蔵される例が多かった。
データサイエンティストは様々な意思決定上の局面やビジネス上の課題を認識し、データによって立証可能な仮説やモデルを組み立て、蓄積された実際のデータ群に対して様々な処理手法や解析手法を適用することで、現実の課題解決に資する有用な知見を提供する。
具体的なスキルとして、対象領域への基本的な理解やビジネス部門との折衝、解析結果のドキュメンテーションやプレゼンテーションといったビジネス領域のスキル、統計や数理解析、線形代数、機械学習、データモデリングなどの数理科学やコンピュータ科学の知識、データベース操作やデータ形式の理解、プログラミング、データ加工・変換・処理の技法といったエンジニアリング領域の技能が総合的に求められる。
日本では2011年頃からビッグデータ活用の重要性が叫ばれるようになるなか、データ活用を推進する具体的な人材像として2013年頃から「データサイエンティスト」という職種が認識され始めた。十分な技能を持ったデータサイエンティストは常に人材不足であるとされ、今後もそのニーズは高まっていくと予想されている。
大学などが専門のコースやカリキュラムを編成する事例が見られるほか、日本数学検定協会の「データサイエンス数学ストラテジスト」やデータサイエンティスト協会の「データサイエンティスト検定」、統計質保証推進協会の「統計検定 データサイエンス基礎」など民間資格の認定制度も相次いで開始されている。
ビッグデータ ⭐⭐⭐
従来のデータベース管理システムなどでは記録や保管、解析が難しいような巨大なデータ群。明確な定義があるわけではなく、企業向け情報システムメーカーのマーケティング用語として多用されている。
多くの場合、ビッグデータとは単に量が多いだけでなく、様々な種類・形式が含まれる非構造化データ・非定型的データであり、さらに、日々膨大に生成・記録される時系列性・リアルタイム性のあるようなものを指すことが多い。
今までは管理しきれないため見過ごされてきたそのようなデータ群を記録・保管して即座に解析することで、ビジネスや社会に有用な知見を得たり、これまでにないような新たな仕組みやシステムを産み出す可能性が高まるとされている。
米大手IT調査会社ガートナー(Gartner)社では、ビッグデータを特徴づける要素として、データの大きさ(Volume)、入出力や処理の速度(Verocity)、データの種類や情報源の多様性(Variety)を挙げ、これら3つの「V」のいずれか、あるいは複数が極めて高いものがビッグデータであるとしている。これに価値(Value)や正確性(Veracity)を加える提案もある。
コンピュータやソフトウェアの技術の進歩は速く、具体的にどのような量や速度、多様さであればビッグデータと言えるかは時代により異なる。ビッグデータという用語がビジネスの文脈で広まった2010年代前半にはデータ量が数テラバイト程度のものも含まれたが、2010年代後半になるとペタバイト(1000テラバイト)級やそれ以上のものがこのように呼ばれることが多い。
近年ではスマートフォンやSNS、電子決済、オンライン通販の浸透により人間が日々の活動で生み出す情報のデータ化が進み、また、IoT(Internet of Things)やM2M、機器の制御の自動化などの進展により人工物から収集されるデータも爆発的に増大している。
また、人工知能(AI)の構築・運用手法として、膨大なデータから規則性やルールなどを見出し、予測や推論、分類、人間の作業の自動化などを行う機械学習(ML:Machine Learning)、中でも、多階層のニューラルネットワークで機械学習を行う深層学習(ディープラーニング)と呼ばれる手法が台頭している。
このような背景から、膨大なデータを的確、効率的に扱う技術上の要請はますます高まっており、統計やデータ分析、大容量データを扱う手法やアルゴリズムなどに精通した「データサイエンティスト」(data scientist)と呼ばれる専門職の育成が急務とされている。
ユニバーサルデザイン 【UD】 ⭐⭐⭐
すべての人が等しく使うことができる、あるいは使いやすいデザイン・設計のこと。より現実的には、なるべく多くの人が同じように使えることを目指すデザイン原則を表す。
言語や文化、人種、性別、年齢、体型、利き腕、障害の有無や程度といった違いによらず、できるだけ多くの人が同じものを同じように利用できるよう配慮されたデザインのことを意味する。
「バリアフリー」を始めとする従来の考え方では、「高齢者用」「左利き用」「車椅子用」のように特性に応じた専用のデザインを用意する発想が基本だったが、ユニバーサルデザインではこうした発想を極力排し、単一のデザインで万人が利用できることを目指している。
ユニバーサルデザインという用語は1985年に米ノースカロライナ州立大学のロナルド・メイス(Ronald Mace)教授によって提唱されたが、それ以前から実践されていた考え方を整理して名前をつけたものとされる。氏はユニバーサルデザインの7つの原則として「公平に使える」「柔軟性がある」「簡単で自明」「必要なことがすぐに理解できる」「間違いを許容する」「弱い力で使える」「十分な大きさと空間」を唱えている。
ユニバーサルデザインの具体例として、施設内の案内などを言葉ではなく絵文字で伝えるピクトグラム、様々な視覚特性を持つ人による調査・テストを経て開発された視認性の高いフォント、容器に刻まれた凹凸を触れば何が入っているか識別できるシャンプーやコンディショナー、手や指の状態によらず持ちやすく使いやすい文房具やカトラリーなどがある。
カラーユニバーサルデザイン 【CUD】 ⭐
印刷物や映像、Webページなどをデザインする際に、色の見え方が多数派とは異なる人にも情報がきちんと伝わるよう配慮された配色や構成にすること。
どんな身体的な特性がある人も等しく使うことができる、あるいは使いやすいデザイン・設計のことを「ユニバーサルデザイン」(universal design)というが、これを表現物の配色に適用し、色覚の特性によらず認識することができる、あるいは見やすいデザインを目指す考え方である。
人間の色覚(色の感じ方)は一様ではなく個人差があり、先天的な色覚異常や、緑内障、白内障など目の病気によっても大きな影響を受ける。カラーユニバーサルデザインでは、色によって情報の認知に差が生じないよう「なるべく多くに人が見分けやすい配色を選ぶ」「色が見分けられなくても情報が伝わるようにする」「色の名前を併記するなど色を言葉で伝達できるようにする」という3つの原則に沿ってデザインを進める。
カラーユニバーサルデザインは生物学者の伊藤啓氏と医学者の岡部正隆氏が「カラーバリアフリー」(color barrier-free)として提唱し始めたもので、2004年に両氏が中心となってNPO法人カラーユニバーサルデザイン機構(CUDO)が設立された。以降は「カラーユニバーサルデザイン」の名称で普及活動が進められている。同法人では見分けやすい色の組み合わせを集めた推奨配色セットを公表したり、カラーユニバーサルデザインに配慮した製品などの認証制度の運用などを行っている。
アクセシビリティ ⭐⭐⭐
近づきやすさ、利用しやすさ、などの意味を持つ英単語で、IT分野では、機器やソフトウェア、システム、情報、サービスなどが身体の状態や能力の違いによらず様々な人から同じように利用できる状態やその度合いのことを指す。
高齢や障害、病気、あるいは他の身体的・認知機能的な特性により運動や視聴覚機能に制約や偏りがあっても、機器やソフトウェアの操作、情報の入手、ネットサービスの利用などが可能である状態を意味する。
例えば、マウスなどによる画面上の位置指定が困難な場合に備え、キーボードやボタン型の入力装置、音声認識など他の入力機能のみで操作が行えるようにしたり、視力や視覚の状況に応じて、画面表示や文字の拡大、画面上の文字の読み上げなどの機能を選択できるといったように、様々な人が利用できるような備えが行われている状態を指す。
単にアクセシビリティといった場合はWebページについての「Webアクセシビリティ」のことを指すことが多い。また、IT分野以外でも、例えば建物や施設、設備などへの出入りや内部の移動のしやすさ、利用しやすさ(段差がない、スロープやエレベーターが整備されている等)のことをアクセシビリティということもあるが、これは日本語では「バリアフリー」(barrier free)という外来語で表現されることが多い(厳密にはバリアフリーはアクセシビリティより狭い概念を指すとする見解もある)。
UX 【User Experience】 ⭐
ある製品やサービスとの関わりを通じて利用者が得る体験およびその印象の総体。使いやすさのような個別の性質や要素だけでなく、利用者と対象物の出会いから別れまでの間に生まれる経験の全体が含まれる。
対象物の機能や性能、内容、使い勝手といった性質そのものよりも、それを通じて利用者が得られる経験がどのようなものであるかに着目する概念である。対象物の持つ特性だけでは決まらず、利用者側の属性や個性、利用者を取り巻く環境や利用時の状況などにも強く影響を受けるため、作り手側ですべてを制御することは難しい。
よく混同されるが、「ユーザーインターフェース」(UI:User Interface)は対象物の具体的な使用・操作の方法や様式を定めたもので、「ユーザビリティ」(usability)は対象物の使い勝手、使いやすさを指す。ユーザエクスペリエンスはこれらの要素を含むが、これらを通じて得られる最終的な体験、および体験を通じて惹起される感情が中心となる。
また、従来は製品の使用感をある一回(初回)の使い方や印象に限定して捉えることが多かったが、ユーザエクスペリエンスはこれを通時的に捉える。すなわち、製品やサービスと利用者との出会い(プロモーションや販売・加入など)、使用の開始(開封や初期設定など)、使用の継続や反復(様々な状況・環境を含む)、使用の終了(廃棄や買い替え、解約など)といった各場面における利用者の感じ方をそれぞれ検討する。
“user experience” という表現自体は以前から使われていたようだが、1990年代半ばに当時の米アップルコンピュータ(Apple Computer)社(現アップル)に勤務していた認知心理学者のドナルド・ノーマン(Donald A. Norman)博士により、コンピュータやソフトウェアなどの分野で現在の用法が広まったとされている。
現在ではITの分野に限らず工業製品や小売業など様々な分野で引用される概念となり、また、「対象者の体験の総体に着目する」という考え方から「カスタマーエクスペリエンス」(CX:Customer Experience)など様々な “~ experience” という派生概念を生み出している。
ユーザビリティ 【使用性】 ⭐⭐⭐
機器やソフトウェア、Webサイトなどの使いやすさ、使い勝手のこと。利用者が対象を操作して目的を達するまでの間に、迷ったり、間違えたり、ストレスを感じたりすることなく使用できる度合いを表す概念である。
国際規格のISO 9241-11では、ユーザビリティを「特定の利用状況において、特定の利用者によって、ある製品が、指定された目標を達成するために用いられる際の、有効さ、効率、利用者の満足度の度合い」と定義している。漠然とした「使いやすさ」よりは限定された概念で、ある人がある状況下である目的を達することがどれくらい容易であるかを表している。
ユーザビリティは利用者への情報やメッセージの提示の仕方やタイミング、言い回し、操作要素や選択肢の提示の仕方、操作の理解のしやすさや結果の想像しやすさ、操作のしやすさや誤りにくさ、誤操作に対する案内や回復過程の丁寧さ、利用者の操作に応じた表示や状況の変化(インタラクション)などの総体で構成される。
高いユーザビリティのために必要な実践は対象の種類(機器・ソフトウェア・Webページ等)や想定される利用者の属性、文脈や利用目的によって異なるため個別性が高く、ある状況では良い事例とされたものが別の文脈では悪い事例になる場合もある。
開発者が期待するユーザビリティが備わっているかどうか確かめるには、利用者(やそれに近い属性の人物)の協力を得て実際に使ってみてもらい、想定通りの操作が行われるか、利用者が不満や戸惑いを感じないかなどをテストするのが有効であるとされる。このような試験を「ユーザーテスト」(user testing)あるいは「ユーザビリティテスト」(usability testing)という。
デジタルデバイド 【情報格差】 ⭐⭐
パソコンやスマートフォン、インターネットなどのデジタル技術に触れたり使いこなしたりできる人と、そうでない人の間に生じる、貧富や機会、社会的地位などの格差。個人や集団の間に生じる格差と、地域間や国家間で生じる格差がある。
コンピュータや通信ネットワークが職場や日常生活に深く入り込み、それを活用できる者はより豊かで便利な生活や、高い職業的、社会的地位を獲得できる一方、何らかの理由により情報技術の恩恵を受けられない人々は社会から阻害され、より困難な状況に追い込まれてしまう。こうした状況をデジタルデバイドという。
主な要因
デジタルデバイドは様々な要因により発生し、拡大する。例えば、子どもや若者は技術や知識を比較的容易に習得し、進んで習慣的に利用するようになることが多いが、中高年や高齢者が新たにコンピュータの操作法などを覚えるのは困難で、生活習慣に取り入れることにも抵抗感があることが少なくない。
また、貧困のために情報機器やソフトウェア、サービスなどの購入が困難だったり、身体機能の障害や発達特性などから機器の操作が困難で情報技術の恩恵を受けられない場合もある。元々存在した様々な格差がデジタルデバイドにより拡大したり固定化してしまうという側面がある。
地域間の格差
地域や国家の単位でデジタルデバイドが生じることもある。通信インフラの普及度合いや、所得水準と情報機器の価格の関係、技術の習得・利用の前提となる十分な教育が受けられるか、インフラ整備や技術・機器の導入・教育を担う技術者などの人材が十分にいるか、といった点により、地域や国家ごとに格差が生じる。
ここでも、元々豊かな先進国やインフラがいち早く整備され人材豊富な大都市などが情報技術でさらに発展し豊かになる一方、情報技術に十分アクセスできない発展途上国や農村部などがデジタル環境でも取り残されるという、格差の拡大・固定化の問題がある。
サイバー犯罪 【ハイテク犯罪】 ⭐⭐
コンピュータや通信ネットワークを用いて行われる犯罪の総称。主にインターネット上で行われる犯罪行為を指すことが多い。
どのような行為が該当するかは各国の法律によって異なるが、日本では不正アクセス、DoS攻撃、ネット詐欺(フィッシングや架空請求など)、オンライン不正送金、著作物の無断複製や配布、わいせつ物などの公開や譲渡、SNSなどにおける誹謗中傷や業務妨害などが罪に問われる。
関連する法律としては刑法や不正アクセス禁止法、著作権法、不正競争防止法などがあり、法律上の罪種としては電磁的記録不正作出(データ改竄など)、電子計算機損壊等業務妨害(遠隔操作によるデータ消去など)、電子計算機使用詐欺(クレジットカード番号窃取・不正使用など)、不正指令電磁的記録作成(コンピュータウイルスの開発・配布など)、偽計業務妨害(ネット上の犯罪予告など)、著作権侵害、名誉毀損、信用毀損(風説の流布など)、わいせつ物公然陳列・頒布などが該当する。
犯人がインターネットを通じて犯行を行ったり、犯行現場がネット上であるようなものを指すことが多いが、クレジットカードのスキミングのように、ネットとは無関係に電子的な手段を利用した犯罪も含まれる。
サイバー犯罪自体は各国の刑事司法制度で裁かれるが、国家をまたぐ不正アクセス事件などに対処するため、2001年にサイバー犯罪条約が成立(発効は2004年)し、加盟諸国が国内法を整備して捜査などで協力している(日本は2012年批准)。
サイバー犯罪のうち、何らかの政治的な示威などのために大規模に行われる不正アクセスやDoS攻撃などのことを「サイバーテロ」(cyberterrorism)という。また、敵対する国家間や国家に準じる勢力の間で互いに攻撃を加え合う行為は「サイバー戦争」(cyberwarfare)という。
ワンクリック詐欺 【ワンクリック料金請求】 ⭐⭐
インターネットを通じて行われる不当料金請求の手口の一つで、Webページを開くといきなり料金請求の画面が表示される方式。
無差別に大量に送信される勧誘メールなどからサイトにアクセスすると、ページを開いただけで「登録が完了しました」「料金をお支払いください」などのメッセージが突然表示され、金額や振込先などが表示される。
請求画面には、アクセスした人のIPアドレスや端末の機種名(スマートフォンなどの場合)、Webブラウザやオペレーティングシステム(OS)の種類、位置情報サービスなどから割り出した大まかな現在地の情報などが表示されることが多い。
これらの情報は普段からブラウザがサーバ側に提供しているものであり、これを元に氏名や住所、電話番号などの個人情報を割り出すことはできない。「個人情報を取得したので支払いが無い場合は法的措置を取る」といった恫喝的なメッセージが記載されることもある。
サイトにアクセスしただけで、あるいは十分な契約についての説明と明確な意思表示なしに契約が成立することはないので、このような請求は法的に無効であり、料金を支払う必要はない。また、自らサイト側に申告しない限り、個人情報が業者の手に渡ってしつこい督促に会うということもないので、このような画面に出くわしても無視してページを閉じて良い。
フィッシング 【フィッシング詐欺】
金融機関などからの正規のメールやWebサイトを装い、暗証番号やクレジットカード番号などを詐取する詐欺。利用者を騙して重要な情報を入力させることを狙う。
「釣り」を意味する “fishing” が語源で、釣り針の先に付けた餌やルアーに獲物が食いつく様子を釣りに例えた表現だが、偽装の手法が洗練されている(sophisticated)ことから “phishing” と綴るようになったとする説がある。
フィッシング詐欺の代表的な手口は以下のとおり。メールの送信者名を金融機関の窓口などのアドレスにしたメールを無差別に送りつけ、本文には個人情報を入力するよう促す案内文とWebページへのリンクが載っている。
リンクをクリックするとその金融機関の正規のWebサイトと、個人情報入力用のポップアップウィンドウが表示される。メインウィンドウに表示されるサイトは「本物」で、ポップアップページは「偽者」である。本物を見て安心した利用者がポップアップに表示された入力フォームに暗証番号やパスワード、クレジットカード番号などの秘密を入力・送信すると、犯人に情報が送信される。
フィッシング詐欺攻撃者は、URLに使用される特殊な書式を利用してあたかも本物のドメインにリンクしているかのように見せたり、ポップアップウィンドウのアドレスバーを非表示にするなど非常に巧妙な手口を利用しており、「釣られる」被害者が続出している。
フィッシング詐欺への対応策としては、送信者欄を信用しない、フォームの送受信にSSLが利用されているか確認する、メールに示された連絡方法(リンクなど)以外の正規のものと確認できている電話番号やURLなどから案内が本物かどうかを確認する、などが挙げられる。
スピアフィッシング (spear phishing)
特定の人物を狙い、偽のメールを送ったりウイルスを仕込んだりしてパスワードや個人情報などを詐取する詐欺。もとは魚釣りの用語で、銛(もり)や水中銃で魚を突き刺す釣り方のこと。
大手銀行のオンラインバンキングなど有名なサービスの不特定多数の利用者を狙う通常のフィッシングとは異なり、対象の素性を調査した上で、その個人に合わせた手法が個別に考案されるのが特徴である。
例えば、大企業の支店に勤務する社員に「本社の情報システム部の者だが調査に必要なのであなたのパスワードを教えてほしい」といったメールを送り、だまされた社員から聞き出したパスワードを使ってその企業のネットワークに不正侵入するといった手が使われる。他にも、上司や取引先に成りすまして業務上の機密情報や知的財産を詐取するといった事例が報告されている。
ファーミング詐欺 (pharming)
有名な金融機関やオンラインショップのサイトをそっくりに真似た偽のサイトを作り、DNSサーバの情報を書き換えることで利用者を誘導し、暗証番号やクレジットカード番号などを詐取する詐欺。フィッシング詐欺の手口の一つ。
通常、Webサイトにアクセスするにはドメイン名を含んだURLを入力するが、ドメイン名は通信事業者などが管理するDNSサーバによってIPアドレスに変換され、対応するIPアドレスを持ったサーバにアクセスすることになる。
ファーミングを行う攻撃者は、このDNSサーバの管理するドメインとアドレスの対応表を不正に書き換え(DNSキャッシュポイズニング)、利用者がドメインを問い合わせると偽のアドレスを返すよう細工する。
利用者は自分の利用している金融機関などの正しいURLにアクセスしているつもりで、攻撃者の運用するそっくりな偽のサイトに誘導され、不正に情報を詐取される。なお、パソコンの中にもドメインとアドレスを対応付けるhostsファイルというファイルが保存されており、ウイルスなどを使ってこれを書き換えることで偽のサイトに誘導する手法もある。
フィッシング詐欺は偽の案内メールなどで利用者を「一本釣り」にする手法だが、DNSサーバに不正な情報を流すことでそのサーバを利用する利用者を丸ごと偽のサイトに誘導する様子を農業(farming)に例え、ファーミングと名付けられた。綴りが本来の "farming" ではなく "pharming" なのはフィッシング詐欺を "phishing" と綴るのを踏襲したもので、"sophisticated" (洗練された) が語源と言われている。
サイバー攻撃 【サイバーアタック】
あるコンピュータシステムやネットワーク、電子機器などに対し、正規の利用権限を持たない悪意のある第三者が不正な手段で働きかけ、機能不全や停止に追い込んだり、データの改竄や詐取、遠隔操作などを行うこと。
特定の組織や集団、個人を狙ったものと、不特定多数を無差別に攻撃するものがある。政治的な示威行為として行われるものは「サイバーテロ」(cyberterrorism)、国家間などで行われるものは「サイバー戦争」(cyberwarfare)と呼ばれることもある。
具体的な活動として、Webサーバに侵入してサイトの内容を改竄したり、情報システムに侵入して機密情報や個人情報を盗み出したり、大量のアクセスを集中させてサーバや回線を機能不全に追い込んだり(DoS攻撃/DDoS攻撃)、アクセス権限を不正に取得して本人になりすましてシステムを操作したり、システムを使用不能にして回復手段の提供に身代金を要求したり(ランサムウェア)といった事例が挙げられる。
攻撃者がインターネットなどを通じて標的システムに直接働きかけて攻撃を実行する手法と、コンピュータウイルスやトロイの木馬などのマルウェアを感染させ、その働きにより攻撃する手法がある。両者を組み合わせ、送り込んだマルウェアに外部から指令を送って遠隔操作する手法もある。
サイバーテロ (cyberterrorism)
サイバー攻撃のうち、政治的な要求や脅迫、示威などを目的に行われるものを「サイバーテロリズム」(cyberterrorism)、略してサイバーテロという。
特定の個人や集団が政治的な意図や動機に基づいて行うインターネットやコンピュータシステムを利用した攻撃活動で、対象に打撃を与えて政治的な主張を宣伝したり、何らかの要求に従うよう求めたり、標的側の行いに対する報復であると称したりする。
官公庁や軍、マスメディア、社会インフラ、通信網、交通機関、金融機関、医療機関など、国家や社会、人命、財産にとって重要な機能に損害を与えることを狙った攻撃が典型的だが、Webサイトの改竄や活動妨害(DoS攻撃)のような攻撃では特定の国家や民族に属するというだけで広汎・無差別に対象が選択される場合もある。
クラッキング 【クラック】 ⭐
コンピュータやソフトウェア、データなどを防護するための措置や仕組みを破壊あるいは回避、無効化し、本来許されていない操作などを行うこと。
“crack” には割る、押し入る、突破するといった意味があり、ドアを破って部屋に押し入ったり、鍵を破って金庫の中のものを盗んだりすることを指す。ITの分野でも同じように、著作物を記録したデータの複製を制限する措置を解除して不正コピーしたり、コンピュータを利用するためのパスワードを割り出して不正に操作権限を取得したりといった行為をクラッキングという。
コンピュータシステムへの攻撃や侵入は一般的には「ハッキング」(hacking)と呼ばれることが多いが、この言葉は元来、コンピュータの動作を解析したりソフトウェアの拡張や改造などを行うことを指し、必ずしも悪い意味ではなかった。
そのような技術や手法を悪用して不正や犯罪を働くことをクラッキングと呼び、ハッキング全般とは区別すべきだとする主張もあり、技術者コミュニティなどではそのような呼び分けが一定程度行われているが、マスメディアなど世間一般には浸透していない。
システムのクラッキング
コンピュータシステムの攻撃としてのクラッキングは意味が広く、システムの利用権限の奪取(侵入)や乗っ取り、秘密のデータの盗み取りや漏洩・公表、システムに保存されたデータやプログラムなどの改竄や破壊などを含む。
パスワードなどを不正に入手したりソフトウェアの脆弱性を攻撃して誤作動させるなどして、本来は許可されていない動作や操作を行う攻撃手法の総称であり、侵入行為を伴わないDoS攻撃などは含まれない。
ソフトウェアのクラッキング
商用ソフトウェアなどデータとして販売される著作物に施された複製の制限や利用者の確認・認証などを無力化し、不正にコピーしたり、これらの防護措置が機能しないよう改造したりすることをクラッキングという。
映像ソフトなどには内容を暗号化して複製を制限しているものがあり、ソフトウェア製品にはパッケージのシリアル番号の入力や利用者のオンライン登録、プロダクトアクティベーション、プロテクトドングルなどで購入者であることを確認してから導入や起動を行う仕組みになっているものがある。
クラッキングはこれらを無効化することを指し、暗号化が解除された状態のデータの複製を作成したり、ソフトウェア内のチェック機構を探し出して除去するなどして、無制限にコピーや使用ができるよう不正に改造することなどが含まれる。
架空請求メール 【架空請求詐欺】 ⭐
架空の料金請求を無作為に電子メールで送付し、不当な支払いを要求する詐欺。請求の内容は適当にでっち上げたでたらめで、請求元の組織名や請求対象の商品やサービス自体が創作である場合も多い。
何らかの方法で入手したメールアドレスのリストに無差別に架空の請求を送りつけ、騙された被害者に犯人の銀行口座などに料金を振り込ませるという手口である。請求の名目として有料アダルトサイトの利用料や出会い系サイトの登録料金、オンライン通販の商品代金などを挙げる事例が多い。
請求を行う事業者を名乗るパターンの他に、事業者から債権を買い取った回収業者を名乗ったり、IPアドレスなど適当な識別番号を記載して身元を把握しているように装ったり、文面に「期限までに支払いがない場合は法的措置を取る」などの脅しを入れて不安を煽るなど、手口は年々巧妙化している。
請求書を送りつけられた人の中には、過去に自分が使った別の事業者の請求と勘違いしたり、身に覚えがなくても「手切れ」のつもりで振り込んでしまったり、家族が使ったと思いこんで支払ってしまう例もある。
このような手口の詐欺メールは2002年頃から広く見られるようになり、ネット利用詐欺の定番の手口として定着している。電子メールだけでなく、携帯電話番号のリストを用いて架空請求のSMS(ショートメッセージ)を送信する手口や、郵便はがきを用いた同様の手口もよく知られている。
マルウェア 【悪意のあるソフトウェア】 ⭐⭐⭐
コンピュータの正常な動作を妨げたり、利用者やコンピュータに害を成す不正な動作を行うソフトウェアの総称。コンピュータウイルスやワーム、トロイの木馬などが含まれる。
“malicious software” (悪意のあるソフトウェア)を短縮した略語で、悪意に基づいて開発され、利用者やコンピュータに不正・有害な動作を行う様々なコンピュータプログラムを総称する。
コンピュータウイルスやワーム、トロイの木馬、スパイウェア、ランサムウェア、ボット、バックドア、一部の悪質なアドウェアなどが含まれる。キーロガーのように正規の用途で用いる場合もマルウェアとなる場合もあるものもある。
利用者の知らない間に、あるいは欺くような手法でコンピュータに侵入し、記憶装置に保存されたプログラムやデータを改変、消去したり、重要あるいは秘密のデータを通信ネットワークを通じて外部に漏洩したり、利用者の操作や入力を監視して攻撃者に報告したり、外部から遠隔操作できる窓口を開いたり、ネットワークを通じて他のコンピュータを攻撃したりする。
「マルウェア」という用語は専門家や技術者以外の一般的な認知度が低く、また、マルウェアに含まれるソフトウェアの分類や違いなどもあまり浸透していないため、マスメディアなどでは「コンピュータウイルス」という用語をマルウェアのような意味で総称的に用いることがある。
マルウェア対策
マルウェアに対抗するため、これを検知・駆除するソフトウェアを用いることがある。歴史的にウイルス対策から発展したため「アンチウイルスソフト」(anti-virus software)と呼ばれる。企業などでは伝送途上の通信内容からマルウェアを検知する「アンチウイルスゲートウェイ」なども用いられる。
マルウェアの検知には、ストレージ内のファイルなどを既知のマルウェアの特徴的なパターンと照合する「パターンマッチング法」や、マルウェアに特徴的な振る舞いを検知する「ヒューリスティック法」、隔離された実行環境で実際に実行してみる「ビヘイビア法」などの検知手法が用いられる。
マルウェアの中にはソフトウェアやハードウェアに存在する保安上の欠陥(脆弱性)を悪用して侵入・感染するものも多いため、セキュリティソフトなどに頼るだけでなく、老朽機材の入れ替え、ソフトウェアの適時の更新、不要な機能の停止などの対応も適切に行う必要がある。
テクノストレス ⭐
コンピュータを扱うことが原因で起きる失調症状の総称。コンピュータに適応できないために生じるテクノ不安症や、過剰に適応したために生じるテクノ依存症などの種類がある。「テクノストレス」という名称は、1984年にアメリカの臨床心理学者クレイグ・ブロード(Craig Brod)氏が名づけた。
テクノ不安症 (techno-anxiety)
コンピュータに適応できないことが原因で生じる精神的な失調症状をテクノ不安症という。具体的な症状は、動悸、息切れ、肩こり、めまいなどの自律神経の失調や、鬱などである。
社会の隅々までコンピュータが普及しつつある現在、会社の業務などで好むと好まざるとに関わらずコンピュータを使う必要に迫られる人が増えている。そのうち、コンピュータになじめず、操作を苦痛に感じる人は、そのことで強いストレスを感じ、体調を崩してしまうことがある。
テクノ依存症 (techno-addiction)
コンピュータに過剰に適応し、あるいは没頭しすぎることが原因で生じる精神的な失調症状をテクノ依存症という。コンピュータがないと不安に感じたり、人付き合いを煩わしいと感じるようになる。
具体的な症状としては、自分の限界が分からなくなる、時間の感覚がなくなる、邪魔されるのが我慢できなくなる、あいまいさを受け入れられなくなる、「はい/いいえ」「正解/不正解」式のやり取りや思考を好むようになる、人と接することを嫌うようになる、人を見下すようになる、などがある。
パソコンやゲーム機、インターネットなどのデジタル技術が短期間のうちに急激に普及した先進国や経済新興国では、主に若者の間で、ゲームやネット(最近ではネットゲーム)にのめりこんでしまい、実社会の生活に支障をきたしたり、正常な対人関係を結べなくなったりする「中毒」症状が目立つようになり、社会問題化している。
VDT症候群 (IT眼症/テクノストレス眼症/VDT障害)
パソコンのディスプレイなどのVDTを長時間見続けながら作業を行うことによって発生する、身体的・精神的疾患の総称。直接的な身体的疾患の例としては眼精疲労や視力低下、目のかすみ、目の痛み、ドライアイ、めまいなどが挙げられる。これらの症状の原因は、VDTの輝度やコントラストが強すぎることや、長時間VDTを注視するさいにまばたきの回数が減ることなどである。
このほかにも、VDTの前で長時間姿勢を固定して作業することによる肩こりや腰痛など体の痛み、キーボード操作によって起こる腱鞘炎などの身体的症状もVDT障害に含まれる。精神的疾患の例としては単調なデータ入力作業などを長時間行うことによって起こる情緒不安定や不眠などがある。
厚生労働省では、2002年に「VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン」を策定し、その中でVDT障害を防ぐための作業管理のしかたや、VDT障害を起こさない適切なVDT機器の基準、健康管理の方針などをまとめている。
ドライアイ (dry eyes)
目の疾患の一つで、涙液の減少により眼球の表面が乾燥し、傷や障害が生じるもの。
目が疲れる、目に痛みを感じる、目が乾いた感じがする、目が重たい、10秒以上目を開けていられないなどの症状が現れる。短時間で回復することが多いため軽視されがちだが、症状が頻発したり長引いたりすると角膜などを損傷して視力の低下を招く恐れもあるので、慢性的に症状を感じる場合は早めに受診したほうがよい。予防や症状の軽減のためには、一定の間隔をおいて目を休ませる。意識的にまばたきの回数を増やす、部屋の湿度を高めに保つ、眼科医の処方する目薬などで目の潤いを保つ、などの方法がある。
本来、眼球はまばたき動作により適量の涙が提供され、ゴミや細菌から守られているが、集中して一点を見つめ続けるとまばたきの回数が減り、涙量が減ってしまう。そのため眼球の十分な保護ができなくなって、眼球が乾燥し、傷つきやすくなってしまう。先天的にまばたきの少ない人、コンタクトレンズを常用している人は特にドライアイにかかりやすい。
空気の乾燥した季節や、エアコンの運転などで乾燥した空間で起こりやすく、コンピュータでの作業やテレビの視聴、ビデオゲームの操作など、同じ場所を長時間凝視し続けることで起こることが多い。電子機器の普及により発症が顕著になった現代病のひとつとされる。
ペアレンタルコントロール 【ペアレンタルロック】
保護者が子どもの情報機器の使用やコンテンツの視聴の一部を制限するための機能やサービス。主に成人向けに提供されているコンテンツやサービスに子どもがみだりに接触しないようにするために用いられる。
パソコンやゲーム機、スマートフォン、タブレット端末などの機器や、それらの上で利用されるソフトウェアやオンラインサービスなどで提供される使用制限機能で、親があらかじめ設定した条件に従って、子どもが使用・視聴する際に一部の機能や内容を制限・封鎖する。子どもが自分で解除できないよう、親がパスワードや暗証番号を設定することができるようになっていることが多い。
制限の具体的な内容や方式は機器やサービスなどによって異なるが、成人向けに制作された性描写や暴力表現などを含む映像やゲームなどを利用できないようにしたり、機器を使用可能な時間(連続使用時間や時間帯)を制限することが多い。子どもが使っている時の操作や利用の記録を取り、親が後から確認できるようにするシステムもある。
携帯機器やネット接続された機器では、オンラインでの料金の支払いや、写真や位置情報などプライバシーに繋がる情報の送信、SNSなど特定のアプリの使用、アカウント情報の変更など、特定の機能や操作をブロックすることができるようになっている場合もある。
ゲーム作品や映像作品などでは業界団体などが作品の審査を行い、「成人向け」「15歳以上向け」「全年齢可」などいくつかの段階を設けて視聴・プレイ可能な年齢の格付け(レーティング)を行っていることがある。DVDプレーヤーや家庭用ゲーム機などでは、この情報をコンテンツの一部として記録しておき、機器側の制限情報と照らし合わせて自動的に再生や起動を制限する仕組みも提供されている。
なお、“parental” は本来「パレンタル」に近い発音だが、日本では “parent” (ペアレント)の発音に引きずられて「ペアレンタル」という表記が定着している。
炎上 ⭐⭐
ある人物や組織の行いや発言などについて、SNSやWebサイトのコメント欄などで不特定多数のネット利用者から批判や非難、中傷などが殺到する現象。
ある人物や組織の振る舞いやネット上で公表されたコンテンツなどに関連して、多くネット利用者が反感や不快感、嫌悪感、正義感に基づく怒りなどネガティブな感情を覚え、短時間の間に批判的な投稿が殺到する現象を指す。
喝采や応援など肯定的、好意的な反応が殺到する状態は炎上とは言わないが、人によって賛否や反応が大きく分かれ、肯定派と否定派に分かれて議論の応酬や非難合戦、喧嘩状態に発展したものはやはり炎上とされる。
多くの発言者は匿名であり、中には批判や非難の域を超えて暴言や誹謗中傷を行う者もいる。中傷発言は法律上の名誉毀損となり、言われた側が訴え出れば民事上の損害賠償請求や刑事上の名誉毀損罪や侮辱罪の対象となる。過去の炎上事件でも匿名の投稿者が法手続きに則って身元を調べられ、賠償や刑事罰に至った例が数多くある。
炎上の類型
報道などを起点としてニュースサイトのコメント欄や電子掲示板(BBS)、SNSなどに投稿が相次ぐ場合と、当事者のSNS投稿やブログ記事、動画のコメント欄など、本人に属する場に投稿が相次ぐ場合がある。後者のような本人に対して直接発言が殺到する状況を「コメントスクラム」と呼ぶこともある。
デマやでっち上げ、誤報、誤解など批判対象の事実自体が存在しない場合、当該事案と無関係な人物や組織が誤解や安易な推測などで当事者とされた場合にも、誤りを信じた利用者によって炎上状態に至る場合がある。誤った情報を流したり広めた利用者が刑事罰を受けるなどしているが、悲惨な事故や事件が起きる度に虚偽に基づく炎上が繰り返されており、社会問題となっている。
用語
日本における炎上現象は、ネット利用者の間で匿名掲示板やブログが広く普及・浸透した2000年代中頃に見られるようになったとされる。「炎上」という呼称の起源は明確ではないが、一説には、野球で投手が連打を浴びて大量失点する「炎上」になぞらえて匿名掲示板の利用者が用い始めたとされる。
俗に、炎上現象に関連して起きる状況を火事や燃焼に例えることがある。例えば、関連コメントの投稿が収束することを「鎮火」、コメントの勢いが増すような発言や行動を当事者や関係者が新たに起こすことを「燃料」あるいは「燃料投下」、直接の当事者ではない関係者や擁護者に批判の矛先が向くことを「類焼」あるいは「延焼」などということがある。
あえて物議を醸すような発言や行為、トラブルなどを公表し、狙って炎上を引き起こす者もいる。炎上によって知名度の向上、ネットサービス上での閲覧数や動画再生数などの増加を図り、金銭的な利益を得るために行われるもので、「炎上商法」「炎上マーケティング」と呼ばれる。
チェーンメール 【チェンメ】 ⭐
電子メールにおける迷惑行為の一つで、受信者に別の人への転送を促す文言が記載され、連鎖的に多数の人へ回覧されるメールのこと。流言の拡散に利用されたり、通信回線やメールサーバなどに過剰な負荷をかけることから忌避される。
特定の集団内だけでなく不特定多数の人々へ増殖しながら転送されていくことを目指し、受信者に対して友人・知人や参加するメーリングリストなどに転送することを勧める内容が記載されたメールのことを指す。そこで告知している内容の真偽や善悪、当否は問わない。
近年ではチャットやインスタントメッセンジャー、SNSなどのネットサービスのメッセージ機能を利用して無差別に転送を勧めるチェーンメール的なメッセージが流通することがあり、それらは電子メールではないが、便宜上「チェーンメール」と呼ぶことがある。
チェーンメールの内容
内容は、いわゆる不幸の手紙のように「転送しないと悪いことが起きる」と無根拠に宣言して転送を強要するものや、「このようなコンピュータウイルスが流行しているので対策法を広めて」「テレビ番組の企画でどこまでメッセージが広まるか試しているので協力してほしい」などともっともらしい作り話で拡散を呼びかけるものが多い。
他にも、儲け話を装った詐欺、無限連鎖講(ねずみ講)などの勧誘、噂話やデマ、特定の人物や集団の誹謗など、面白半分の悪戯や悪意・害意に基づいた攻撃的な内容も見られる。行方不明の人探しやペット探し、募金の呼びかけなど、それ自体は善意に基いた内容のチェーンメールもある。
チェーンメールの問題点
チェーンメールは発信元と無関係な第三者が受信しても責任の所在や信ぴょう性などを確認することが困難なことが多く、いったん広まり始めると発信元も含め誰にも制御することができなくなり、途中で改竄されたり発信当初とは状況が変わっても停止したり修正したりできない。
長くインターネットを利用している人々の間ではどのような内容でも転送せずに止めるのがマナーとされることが多いが、人助けのためならば積極的に広めるべきと考える人も少なくないため、そのような手段を用いることの是非をめぐってしばしば論争が起きる。
デジタルタトゥー
ある人物についてインターネット上に公表・拡散された情報が、複製を繰り返して半永久的に残存し、本人が容易に消せなくなること。
「タトゥー」(tattoo)とは入れ墨のことで、一度体に刻んだ入れ墨が自然には消えずに生涯残り続けるように、ネット上に現れた自分についての情報が消えずに残り続ける状態を表している。
SNSやブログなどの利用者が投稿した情報は本人の操作により消去することができるが、検索エンジンのキャッシュやWebアーカイブサービスに複製されたり、他の利用者の投稿に引用、複製された場合には容易に消去させることができなくなる。
これにより、ある人物について本人あるいは他人が過去に公開した情報が時間が経ってもネット上に残存し続け、本人に不都合があっても手続きが煩雑すぎてすべて消去するのは事実上不可能になる現象をデジタルタトゥーという。
デジタルタトゥーとなりうるのは、本人と識別できる情報(個人情報や芸名など)に紐付いた本人の過去の属性や行動、所属などに関する情報(SNSの書き込み、学歴・職歴など)、本人が写っている写真や動画、本人について他人が名指しで言及、指摘、暴露した情報などである。
特に問題となるのは本人についての悪い情報が残り続ける現象で、過去の犯罪やSNSへの悪ふざけ投稿などが「炎上」して多くのサイトに取り上げられ罰を受けた後も容易に検索できてしまう事例や、元恋人に逆恨みされ腹いせに暴露投稿されたセンシティブな写真が複製され続ける問題などがよく知られる。