高校「情報Ⅰ」単語帳 - 数研出版「高等学校 情報Ⅰ」 - 情報技術が果たす役割と望ましい情報社会の構築
IT 【Information Technology】 ⭐
情報を取得、加工、保存、伝送するための科学技術。特に、電気、電子、磁気、電磁波などの物理現象や法則を応用したコンピュータなどの機械や器具、および、その内部で動作するコンピュータプログラム(ソフトウェア)を用いて情報を扱う技術のこと。
ICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)もほぼ同義として用いられるが、ICTには通信を前提とする諸技術(インターネットなど)という意味合いをもたせる場合や、ITを含むより包括的な概念とする場合もある。
また、ITをコンピュータやデジタル通信などの原理的な側面など情報技術そのもの、ICTを社会や生活への情報技術の適用や応用、といったニュアンスで区別する場合もある。英語圏では「ICT」「IT」のいずれも用いるが、日本では「ICT」は馴染みがなく、もっぱら「IT」が使われる。
コンピュータやデータ通信に関する技術開発や応用は第二次大戦をまたいで軍事用途で始まり、1950年代からは主に産業用途で発展してきたが、個人の仕事や日常生活に深く浸透し始めたのはパソコンとインターネットが急激に普及し始めた1990年代後半からである。
ITという用語も2000年前後から一般に普及し始め、「IT業界」「IT活用」「IT戦略」「ITソリューション」「ITリテラシー」など多くの造語を生み出している。近年ではITを前提とした社会や経済、暮らしのありようなどを指す用語として「デジタル」が用いられるようになっている。
スマートフォン 【スマホ】 ⭐
個人用の携帯コンピュータの機能を併せ持った携帯電話。単に高機能というだけでなく、汎用のオペレーティングシステム(OS)を搭載し、利用者が後からソフトウェアなどを追加できるようになっている機種を指す。
「スマート」(smart)は「賢い」という意味で、アプリを導入して様々な用途に使用できることを表している。一般的なスマートフォンの持つ機能としては、パソコンと同じWebブラウザによるウェブ閲覧や、電子メールの送受信、文書ファイルの作成・閲覧、写真や音楽、ビデオの再生・閲覧、カレンダー機能、住所録、電卓、内蔵カメラによる写真や動画の撮影、テレビ電話などがある。
一般的な機種は、ほぼすべての操作を画面に指を触れるタッチパネルによって行う。筐体前面のほぼ全面が液晶(または有機EL)画面となっており、表示装置兼入力装置となっている。文字入力も画面に表示された文字盤(ソフトウェアキーボード)をタッチして行う。
通信機能としては無線LAN(Wi-Fi)と携帯電話事業者の移動体通信に対応し、屋内ではWi-Fi、屋外や移動中は移動体通信と使い分けることができる。Bluetoothに対応している機種ではイヤフォンなどを無線接続することができ、NFC(Near Field Communication)に対応している機種ではタッチ決済などを利用できる。
インターネットなどを通じて、その機種が搭載しているOSに対応したアプリケーションソフトを入手して追加することができる。スマートフォン向けのアプリケーションは「アプリ」(app)と略されることが多い。WebブラウザでWebアプリケーションを利用することもできる。
OSメーカーや通信キャリアなどが、自社の対応機種に追加できるアプリを探し出して入手することができるネット上の店舗「アプリストア」を運営している。SNSやメッセンジャー、ゲームソフト、オフィスソフトなど様々な追加ソフトが提供されている。販売されているものと無償配布されているものがある。
スマートフォン市場は米アップル社(Apple)社の「iOS」を搭載した「iPhone」と、米グーグル(Google)社が開発した「Android」を搭載した機種にほぼ二分されている。Android対応のスマートフォンは様々なメーカーが販売している。世界的には単一機種ではiPhoneが最も人気だが、OSとしてはAndroidの方が普及している。日本市場は世界と傾向が異なり、iPhoneが単体で過半のシェアを獲得している。
ICカード 【IC card】
プラスチック製カードに極めて薄い半導体集積回路を埋め込み、データの記録や処理、外部との入出力などをできるようにしたもの。外部との入出力方式の違いにより接触式と非接触式がある。
カード内に半導体メモリを内蔵し、数KB(キロバイト)から1MB(メガバイト)程度のデータを記録することができる。内蔵メモリ素子が読み出し専用のROMチップの場合は書き換えできないが、フラッシュメモリを採用したものは専用の装置で記憶内容の追加や上書き、消去ができる。簡易なCPU(処理装置)を内蔵して暗号化などの処理が可能なものもある。
記録や通信の暗号化、認証やアクセス制御によりデータの不正な読み取りや改ざんを防ぐことができるため、磁気ストライプ式などに比べ偽造や変造が困難で安全性が高いとされる。記憶容量が大きいため単純な識別番号などの他に様々な情報を記録・送受信することができ、一枚のカードに複数の機能を持たせる汎用カードを作ることもできる。
日本では「ICカード」の呼称が広く浸透しているが、英語圏では “IC card” という表記はほとんど用いられず、 “integrated circuit card” とICを略さずに記すか、“smart card” (スマートカード)あるいは “chip card” (チップカード)の呼称の方が一般的である。
接触式ICカード
接触式ICカードはカード表面に平たい金属端子を備え、読み取り装置側の端子に接触させることにより通電し、回路駆動用の電力供給と信号の送受信を行う。
端子の物理仕様などの基礎的な技術仕様はISO/IEC 7816として標準化されており、これに基づいて各業界がデータの記録や送受信などに関する個別の標準規格を定めている。主に従来の磁気ストライプカードに代わってクレジットカードやキャッシュカードなどに用いられるほか、携帯電話のSIMカード(UIMカード)や、日本ではETCカードやデジタル放送の受信者識別カード(B-CASカード)にも採用されている。
非接触ICカード
非接触ICカードはコイル状のアンテナを内蔵し、読み取り装置からの無線電波による電磁誘導で電力を発生させ、電波で無線通信を行う。
ソニーなどが推進する日本のFeliCa(フェリカ)、蘭フィリップス(Philips)社(現NXPセミコンダクターズ)などが推進する欧州のMifare(マイフェア)が早くから浸透しており、両者を併記したNFC(Near Field Communications)がISO/IEC 18092として標準化され、広く採用されている。
カードと機器を接触・固定する必要がないため、交通機関のICカード乗車券やカード型電子マネーなど、極めて短時間での処理や手続きが求められる用途でよく用いられる。日本では運転免許証(ICカード免許証)、個人番号カード(マイナンバーカード/接触式端子と併用)、パスポート(IC日本国旅券)などにも採用されている。
ジオタグ 【ジオタギング】 ⭐
画像や動画、SNSの投稿などのデータに付加される「データについてのデータ」(メタデータ)の一種で、撮影や投稿が行われた地球上の位置情報を表すもの。ジオタグを付加する操作や処理を「ジオタギング」という。GPSなどで観測した情報を緯度や経度で表すことが多い。
スマートフォンなどの携帯端末はGPSなどで現在地の緯度や経度を検知する機能があり、これを利用して、データをファイルに保存したりネットワークで送受信する際に付加情報として関連する位置情報を追加する。
写真や動画に撮影日時などと共に記録する際に利用され、ファイル形式の仕様に格納するデータの種類や形式についての規定がある。また、SNSなどのネットサービスで発言や画像を投稿する際に現在位置を追加できる場合があり、閲覧者に投稿内容と共に投稿場所が表示される。
ジオタグが付加される設定になっていることに気づかずに撮影や投稿を行うと、望まない相手に意図せず自分に関連する場所についての情報を知らせてしまう危険性がある。ファイルに埋め込まれている場合には単に画像などを表示しただけではジオタグの存在や内容を確認できないことが多いため、取り扱いに注意が必要である。
電子書籍
デジタルデータとして作成・記録された電子文書のうち、従来の(紙の)書籍や雑誌と同じ体裁にまとめられたもの。内容が決まった大きさと形のページに分かれ、表紙や裏表紙、目次、奥付など本としての形式に則って作られている。雑誌は「電子雑誌」、漫画は「電子コミック」とも呼ばれる。
パソコンやスマートフォン、タブレット端末などに専用の閲覧ソフトウェアを導入して閲覧する場合と、電子書籍の購入や保存、閲覧などの機能に特化した小型の携帯端末である電子書籍端末(電子書籍リーダー)で読む場合がある。
紙の本と同じように内容がページごとに整形され、ページを前後に繰って読むことができるほか、電子データの特性を生かしてWebページのようにページ間やWebコンテンツへハイパーリンクを設定したり、動画や音声、端末の振動などを内容に組み込んだものもある。
紙の本との違い
読者にとっては、物理的な保管スペースが不要な点や、一台の端末に何冊分でも入れて持ち歩ける点、オンラインで購入後、配送を待たずすぐにデータを受信して読める点などの利点がある。
一方、主に携帯端末で利用する場合に、画面の明るさやページをめくる動作(のもたつき)など基本的な操作感や閲覧体験が紙より劣る場合がある点や、電池切れで読めなくなる点、電子書店の閉店で購入済みの書籍データが開けなくなる点、著作権保護の仕組みのため家族や友人にも貸したり譲渡したりできない点、端末の画面サイズが決まっており大判の雑誌などが読みにくい場合がある点などの難点もある。
出版社にとっては製本や流通、在庫などのコストが省ける利点はあるが、データ形式や販売方法が電子書店ごとにばらばらなため、同じ物を取次を通して全国の書店に卸す紙の本に比べ販売管理にかかる手間やコストは却って増えることがある。また、既存の書店や印刷会社、出版取次会社にとっては、自ら電子書籍流通事業に参入しない限り紙の本の流通が減る分だけ事業は打撃を受ける。
電子書店 (電子書籍ストア)
一般的に電子書籍はオンライン上の電子書店(電子書籍ストア)でデータを購入して閲覧することができる。書店によって販売する電子書籍のデータ形式が異なり、対応する閲覧ソフトや端末を用意する必要がある。
販売方式には、無期限の閲覧権を一冊ずつ購入する買い切り型、一定期間の閲覧権を購入するレンタル型、毎月一定額の課金で指定された書籍の中からいくつでも閲覧できる読み放題型(定額課金型/サブスクリプション型)などがある。キャンペーンのため期間限定で特定の書籍を無償配信する書店も多い。
配信方式には、インターネットを通じて開いたページのデータだけを送り、端末側にデータを保存しないストリーミング型と、データ全体を端末に複製するダウンロード型がある。オフラインでも読めるダウンロード型が主流となっている。
ダウンロード型の多くは著作権保護のためにデータが暗号化されており、インターネットを通じて会員認証を行い閲覧権限を確認したり、端末に権限情報を格納することにより、購入者のみ復号して閲覧できるようにする。この仕組みのため、購入元の電子書店が閉店すると購入済みだったはずの書籍がすべて閲覧できなくなる問題が起きている。
世界的には、Andoird端末向けの米グーグル(Google)社「Google Playブックス」やiOS端末向けの米アップル(Apple)社「Apple Books」などプラットフォーム事業者によるものや、「楽天kobo」(コボ)や米アマゾン・ドットコム(Amazon.com)社「Kindleストア」など大手電子商取引サイト(ECサイト)による電子書店のシェアが大きい。
国内では、ソニーの「Reader Store」など端末メーカー系、「LINEマンガ」やヤフー系列の「eBookJapan」などネット企業系、大日本印刷「honto」や凸版印刷「BookLive!」など印刷会社系、書店系、家電量販店系、独立系などもある。日本の電子書籍市場の特徴として電子コミックのシェアが極めて高い点がよく指摘され、電子コミック販売に特化した電子書店も多い。
データ形式
電子書籍には様々なデータ形式(ファイル形式)があり、表題や文章などの文字情報、画像や図版、それらのレイアウトを指定する組版情報などを一つのファイルにまとめて保存する。
紙の書籍と同じようにページ内での要素の位置や大きさが固定されているものを「フィックス型」、閲覧者側で画面サイズの違いや文字サイズの変更などを反映して動的にレイアウトし直すものを「リフロー型」という。
多くの形式はDRM(著作権保護)機能が組み込まれており、端末には暗号化された書籍データが配信あるいは保存される。電子書店が発行した正規の暗号鍵がなければ閲覧できない仕組みになっており、海賊版がネットなどで流通することを防いでいる。
著名なデータ形式としては、HTMLやCSSなどWebページの記述形式を取り込んだXMLベースのEPUB(イーパブ)形式、Amazon Kindle(アマゾン・キンドル)で採用されているAZW形式やKindle形式、初期の日本の電子書籍でよく用いられたXMDF形式、日本の電子コミックで一般的な.book(ドットブック)形式などがある。
汎用の電子文書ファイル形式であるPDF(Portable Document Format)に整形済みの書籍データを保存して配信する方式も見られる。この場合は暗号化による保護はできない。
デジタルトランスフォーメーション 【DX】
企業や行政などの組織や活動、あるいは社会の仕組みや在り方、人々の暮らしなどがデジタル技術の導入と浸透により根本的に変革すること。従来型の「デジタル化」と違い、デジタルを前提として既存の仕組みを根本的に作り変えることを指す。
1950年代の商用コンピュータの発売以来、情報の蓄積や処理、伝送のデジタル化(digitization)が進められ、さらに1990年代以降の個人用コンピュータやインターネットの普及を通じて経済や社会、暮らしのデジタル化(digitalization)が進んできた。
こうした従前のデジタル化は既存の組織や仕組み、やり方といったものを前提に、コンピュータや通信ネットワークを導入してより効率的に物事を行うのが主眼であった。例えば、企業が会計業務にコンピュータを導入し、より少人数で短期間に会計事務を遂行するといった具合である。
デジタルトランスフォーメーションはこれを更に推し進め、デジタル技術の存在を前提として、既存の組織や仕組み、手順、モノや情報の流れといったものを根本的に変革することを意味する。例えば、企業であれば業務の効率化や省力化を超えて、事業や商流の在り方そのもの、また、業務の流れ、組織や人材などを「デジタルに合わせて」根本的に組み替える改革をデジタルトランスフォーメーションという。
ビジネスの文脈で取り上げられることが多いが、デジタルを前提とする根本的な変革は企業や経済活動だけでなく、公的機関や法制度、個人の行動や生活、社会全体の様々な側面に及び得る。
“digital transformation” という用語は2004年にスウェーデン・ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授(当時)らが発表した “Information Technology and the Good Life” という短い論文が初出とされる。“transformation” を “X” と略すのは日本人には馴染みにくいが、英語では接頭辞の “trans-” と “cross-” は多くの場合に可換であると考えられており、“trans-” の略字として “x-” を用いることがある(例:transfer→xfer)。
スマートシティ
IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)などの最先端の情報・通信技術(ICT)を活用し、管理の効率化や行政サービスの向上、新たな価値の創出に取り組む都市や地域のこと。
行政が中心となり、企業や民間機関、市民などと共同でデジタル技術の広範な導入・活用を進めることにより、行政の効率化、市民生活の向上、地域内の諸課題の解決や緩和、ビジネス環境の競争力強化、省エネや再生エネルギー利用の促進などを推進する政策である。
具体的な事例として、カーシェアリングや乗り合いタクシー、レンタサイクルなどの整備やこれらを連携させたMaaS(Mobility as a Service)の構築、自動運転バスやドローン配達など新技術の社会実装、駐車場や駐輪場の空き状況のリアルタイム配信などが知られている。
日本では、政府が2016年に発表した第5期科学技術基本計画の中で提示した未来社会の構想「Society 5.0」の一環として提唱され、内閣府、総務省、経済産業省、国土交通省などがスマートシティ推進に取り組む自治体への支援施策などを推進している。
IoT 【Internet of Things】 ⭐⭐⭐
コンピュータなどの情報・通信機器だけでなく、世の中に存在する様々な物体(モノ)に通信機能を持たせ、インターネットに接続したり相互に通信することにより、自動認識や自動制御、遠隔計測などを行うこと。
自動車の位置情報をリアルタイムに集約して渋滞情報を配信するシステムや、人間の検針員に代わって電力メーターが電力会社と通信して電力使用量を申告するスマートメーター、大型の機械などにセンサーと通信機能を内蔵して稼働状況や故障箇所、交換が必要な部品などを製造元がリアルタイムに把握できるシステムなどが考案されている。
これまでの情報システムとの違いとして、個々の機器の取り扱うデータ量や処理量、通信量は少ないが機器の数が桁違いに膨大であることや、従来のコンピュータ製品が人の周りや特定の場所(建物や部屋)に集中しているのに対しIoT機器は世の中の様々な場所に分散して配置される点などがある。
こうした特徴を反映し、低コストで生産でき低消費電力で稼働するICチップや、多数の機器からデータを集約して解析したり、同時に多数の機器を制御するソフトウェア技術、低消費電力で遠距離通信が可能な無線技術、環境中から微小なエネルギーを取り出す技術(エナジーハーベスティング)などの研究・開発が進められている。
LPWA (Low Power Wide Area)
IoTに必須の要素として、装置の消費電力が少なく、多数の機器を一つのネットワークに収容できる広域的な無線通信技術があり、これを「LPWA」(Low Power Wide Area)と総称する。そのような通信方式で構築されたネットワークは「LPWAN」(Low Power Wide Area Network)とも呼ばれる。
IoTを実現するには、携帯電話網など従来からある広域無線技術に比べ、十~数十kmといった遠距離や広い範囲をカバーでき、乾電池などの乏しい電源でも数か月から数年は稼働できることが求められる。一方、人間がスマートフォンなどの通信機器に求めるような高速なデータ伝送能力は必ずしも必要なく、数十~数百kbps(キロビット毎秒)程度あれば実用に供することができる。
このような特性を備えた新しい通信方式をLPWAと呼び、具体的な規格として「Sigfox」「LoRa」「Wi-Fi HaLow」「Wi-SUN」「LTE-M」「NB-IoT」「RPMA」などの方式が提唱されている。
M2M/センサネットワークとの違い
以前から、機器同士を直接繋いで自律的にシステムを運用する「M2M」(Machine to Machine)や、通信可能なセンサーを分散配置して高度な監視や制御を可能にする「センサネットワーク」(WSN:Wireless Sensor Network)などの概念が存在し、これらはかなりの部分がIoTと重複している。
ただし、IoTはインターネットへの接続を前提とするのに対し、これらの技術は閉じた専用ネットワークや独自プロトコル(通信規約)での運用を想定している場合が多い。また、M2Mやセンサネットワークは特定の目的のために機械同士が情報のやり取りすることで処理が完結する仕組みであることが多いのに対し、IoTは接続された機器と人や外部の情報システムとの相互関係がより重視される傾向がある。
IoE (Internet of Everything)
「ありとあらゆるものが接続されたインターネット」という意味で、モノのインターネットと、人やデータ、情報、ソフトウェアなどが中心の従来からあるインターネットが統合された姿を指す。
とはいえ、従来のインターネットとの違いは多数のモノが接続されている点であるため、実際上はIoTとほぼ同義として用いられることが多い。主に米シスコシステムズ(Cisco Systems)社が提唱している用語である。
ユビキタス
遍在する、至る所にある、どこにでもある、おなじみの、などの意味を持つ英単語。ITの分野では、世の中の至る所にコンピュータが埋め込まれ、通信ネットワークを介して互いに連携し、人々がコンピュータの存在を意識せずにその利便性を享受できるような社会や情報システムのあり方を表す。
1988年に米ゼロックス(Xerox)社のパロアルト研究所(PARC:Palo Alto Research Center)の主任研究員だったマーク・ワイザー(Mark Weiser)氏が、社会にコンピュータが溶け込み、いつでもどこでもその機能や能力を活用できるコンピュータの新しいあり方を提唱し、“ubiquitous computing” (ユビキタスコンピューティング)と名付けた。
日本では、1984年に東京大学助手(当時)の坂村健氏が新しいコンピュータの基本設計(アーキテクチャ)を構築するTRONプロジェクトを創始し、その目指す超分散型システムが実現する社会の姿を「どこでもコンピュータ」と表現した。概念的にはユビキタスコンピューティングとほぼ同様で、2000年頃からは氏も積極的にユビキタスコンピューティングの語を用いている。
2000年代前半には、携帯電話やインターネットの急激な普及、コンピュータ応用製品の小型軽量化・低価格化の進行などから、今後の社会の方向性としてユビキタスコンピューティングの概念が注目を浴びるようになった。
「ユビキタスネットワーク」(いつでもどこでもアクセス可能な通信ネットワーク)、「ユビキタス社会」(ユビキタスコンピューティングが実現した社会)などの派生語も用いられるようになった。2004年には日本政府内で「e-Japan戦略」の後継として、「ユビキタスネット社会の実現」を掲げる「u-Japan政策」が総務省の主導のもと開始された(2009年終了)。
もとより抽象的、総論的な概念なこともあり、ユビキタスコンピューティング的な製品やサービスが次々に実用化・普及していくのとは裏腹に、「ユビキタスコンピューティング」という語そのものは2010年代には次第に使われなくなっていった。
しかし、「コンピューティングが偏在し、生活や社会に溶け込む」というコンセプトは様々な分野で受け入れられ、スマートフォンをはじめ、「IoT」(Internet of Things:モノのインターネット)「センサネットワーク」「M2M」「ウェアラブルコンピュータ」「AR」(Augmented Reality:拡張現実感)「スマートハウス」「RFID」など、より具体的な技術や製品、サービスに形を変えて浸透している。
クラウドコンピューティング 【クラウドシステム】 ⭐
コンピュータの機能や処理能力、ソフトウェア、データなどをインターネットなどの通信ネットワークを通じてサービスとして呼び出して遠隔から利用すること。
「クラウド」(cloud)とは「雲」という意味で、IT業界ではシステム構成図などを描く際にネットワークの向こう側にある外部のコンピュータやシステムなどをまとめて雲の形の絵記号で記す慣例があることから、このように呼ばれるようになった。
従来のコンピュータ利用方式では、利用者が直接操作する端末や、同じ建物内にあるサーバなど、システム利用側が自ら保有、設置する機器上でソフトウェアやデータを管理していたが、クラウドコンピューティングではシステム本体は専門の管理施設に集約し、利用者はインターネット等の広域回線網を介してこれを使用する。
コンピュータや通信回線の性能が向上したことから実用的になった利用方式で、通常は機器を設置、運用する専門の事業者(クラウドプロバイダー)が契約者に機器やシステム、ソフトウェアの使用権を貸与するクラウドサービスの形で提供される。
インターネットから誰でも利用できるようなサービスやシステムを「パブリッククラウド」、大企業などが自社ネットワーク上で社員などが利用するために内部的に構築・運用するものを「プライベートクラウド」、両者を組み合わせたものを「ハイブリッドクラウド」という。クラウドと対比して従来型のシステムを指す場合は「オンプレミス」(on-premises)型という。
在宅勤務 【WFH】
テレワークの形態の一つで、企業などの組織に雇用されながら事業所に出勤せず自宅でコンピュータや通信回線を通して業務を行うこと。
会社員などがオフィス以外の場所から遠隔で働くことを「テレワーク」(telecommuting)あるいは「リモートワーク」(remote work)という。在宅勤務はこのうち、従業員が自宅で働くことを指す。フリーランスや自営業者、小規模事業者などが自宅を拠点に事業を行っている場合(work at home)や、住み込み従業員のように事業所の一部に居住している場合は含まない。
育児や介護などで自宅を離れることに困難を伴う状況にある従業員も在宅のまま就業を継続でき、柔軟な働き方を選択できる。雇用先にとっても離職率の低下が期待でき、一定の人数を常に在宅とすることでオフィスの規模を縮小してコストを削減することができる。
一方、他のテレワーク形態と同様、遠隔でのコミュニケーションやチーム内の連携、勤怠の管理などに困難や課題がある。常に自宅に居続けながら私生活と仕事を行き来する生活になるため、気持ちの切り替えや時間の管理、同居家族との軋轢など独特の難しさもある。
コロナ禍による急激な普及
2020年からの新型コロナウイルス禍で出勤が物理的に困難になったため、全世界的に在宅勤務が急速に普及した。「Zoom」「Microsoft Teams」に代表されるインターネット上のテレビ会議サービスやコラボレーションツールを導入し、在勤・在宅を問わずミーティングや業務が行える環境を整える職場が急増した。
2023年頃になると外出制限なども行われなくなったため、多くの企業は出勤を基本とする勤務体制に戻し、在宅勤務は育児中の従業員などに特例的に認める制度となった。一方で、IT系業種やベンチャーなどを中心に、全員在宅を基本とする企業や、恒久的に一定の割合を在宅勤務とすることに定めてオフィス規模を縮減し、全員が同時に出勤することはできない体制に移行する企業も現れている。
SOHO 【Small Office/Home Office】
自宅や小さな事務所を拠点に、個人あるいは少人数で運営される小規模な事業体。また、そのような働き方や、そのような事業者向けの賃貸オフィスや住居兼用オフィス物件のこと。
事業者や働き方について「SOHO」という場合は、個人や家族が住居を兼ねた職場で働く形態(home office)と、小さな物件で少人数の集団で働く形態(small office)の総称となる。大きな組織の勤務形態の一種である在宅勤務やサテライトオフィスなどは含めないことが多い。
不動産物件について「SOHO」という場合は、事業との兼用が可能な居住用賃貸物件のことを指す場合と、一般的なオフィス向け賃貸物件を小さく分割し、デスク一つなどの極めて小さな単位で借りられるようにした格安のレンタルオフィスやシェアオフィス、コワーキングスペースなどを指す場合、両者を含む個人事業主や小規模事業者向け賃貸物件の総称とする場合がある。
ETC 【Electronic Toll Collection】
有料道路の料金所などに設置された通信機と自動車に搭載した端末(車載器)で無線通信を行い、走行しながら自動的に料金の支払いなどを処理するシステム。
利用者は出入り口や本線料金所でETCに対応したゲート(ETCレーン)を速度を落として通り抜けるだけでよく、発券機や窓口を利用する必要がない。全国の高速道路、自動車専用道路で整備・導入が順次進められており、主要な有料道路のほとんどの出入り口には一つ以上のETC専用レーンあるいはETCゲート・有人窓口併設レーンが設けられている。
道路運営者側はETC普及により段階的に料金所の窓口・係員を削減して道路運用コスト低減が可能となり、料金所周辺の渋滞緩和の効果も期待できる。経路や混雑状況、時間帯などに応じて料金の割引などを行い、交通量の誘導・分散を行う試みも実施されている。
世界数十ヶ国で導入されているが、各国が独自の方式を規定しており、同じ国の中でも道路の運営主体によってシステムが異なる国もある。車載器ごとに支払者を固定する方式と、車載器にIDカードなどを差し込み、カードの持ち主を支払者にする方式がありる。
日本ではクレジットカード会社が発行する接触式ICカード(ETCカード)を専用の車載器に差し込む仕組みになっており、料金は紐付けられたクレジットカードの口座に請求される。機器の技術規格が統一されているため、利用者は一枚のカードがあれば(車載器のある)どの車でも、全国のどの道路でも同じように支払いを行うことができる。
ITS 【Intelligent Transport Systems】 ⭐
道路交通に情報技術や通信技術を応用し、交通問題の軽減、交通の効率化や高度化などをはかる技術や製品、サービスなどの総称。自動車や道路、標識や信号機などの道路設備、駐車場、公共交通、歩行者などに関連する、情報システムを応用した機器やサービス、制度などが含まれる。
日本では1995年に当時の警察庁、運輸省、建設省、郵政省、通産省が共同で全体構想を策定した。この中ではITS全体を、ナビゲーションシステムの高度化、自動料金収受システム、安全運転の支援、交通管理の最適化、道路管理の効率化、公共交通の支援、商用車の効率化、歩行者等の支援、緊急車両の運行支援の9分野に整理している。
現在までに、VICS(道路交通情報通信システム)やETC(電子料金収受システム)、バスロケーションシステム、自動ブレーキシステム、車線維持支援システム、事故自動通報システムのように実用化や普及が進んでいるものが数多くある一方、トラックの自動隊列走行のように実験段階のものや、構想段階で足踏み状態の技術や施策もある。
MOOC 【Massive Open Online Course】
大学などがインターネット上で提供する、大規模な公開講座。単数形の「MOOC」(ムーク)、複数形の「MOOCs」(ムークス)のいずれの表記も用いられる。大学などと提携してそのような講座を提供する、オンライン学習支援サービスを指すこともある。
Webサイト上に講義ビデオや講義資料などをまとまった形で公開し、ネット上で誰でも登録すれば講義を受講できる仕組みである。大学の講義と同じように、一学期分などある程度まとまった複数回の講義が連なったコースを単位に提供される。
講義映像や教材だけでなく、宿題や修了試験、講師との質疑応答や受講者間の議論などが提供される。すべての講義を受けて所定の課題や試験をクリアすると修了証が発行される。多くは無料で受講できるが、修了証の発行などが有料である場合もある。
大学などが単体で運営している講座もあるが、講義の配信や受講者の管理などの情報システムを提供する「MOOCプラットフォーム」を通じて提供されることが多い。米国を中心に企業や非営利団体が運営する多くのプラットフォームがあり、著名なものとして「Khan Academy」「Coursera」「edX」「Udacity」などがある。
日本では2013年に一般社団法人日本オープンオンライン教育推進協議会(JMOOC)が設立され、普及活動を行っている。公認プラットフォームの「gacco」「OpenLearning, Japan」「OUJ MOOC」、JMOOC自身が運営する「PlatJaM」を通じて大学や大学院、学会、高専、行政機関、企業などが様々な分野のコースを提供している。
検索エンジン 【サーチエンジン】 ⭐
あるシステムに存在するデータやファイルを取得して内容の索引付けを行い、利用者がキーワードや条件を入力して検索できるようにしたシステム。そのような機能に特化したソフトウェアなどのことを指す場合と、Web上の情報を検索するネットサービスやWebサイトを指す場合がある。
広義には、ある情報システムやストレージ(記憶装置)などに保管されたファイルやデータの集合を読み込んで、どのような情報がどこに存在するといった索引(インデックス)を作成し、利用者が入力したキーワードや検索条件に合致するデータを探し出して列挙するシステム全般を指す。
特に、外部のソフトウェアなどに組み込まれて検索機能を提供する、部品化されたソフトウェアのことをこのように呼ぶことが多い。企業内のデータベースなどを検索するシステムや、コンピュータ内に保存された文書ファイルなどを検索するシステムが存在する。
Web検索エンジン
狭義には、Web上で公開されているWebページや画像、動画、文書ファイルなどを対象に、ソフトウェアによって自動的に様々なサイトのデータを収集して索引付けし、様々な条件で検索できるようにしたインターネット上のサービスのことを検索サイトという。現代では単に検索サイトといった場合はこちらを指すのが一般的となっている。
検索サイトはWebクローラー(crawler)あるいはロボット(bot)と呼ばれる巡回ソフトを用いて日々Web上で公開されている情報を収集し、テキスト(文字)情報などを抽出して索引付け(インデクシング)している。
利用者は検索サイトのサイト上のフォームから検索したい語やフレーズなどを入力すると、それらが含まれるページの一覧を作成して返答する。このページはSERP(Search Engine Result Page)と呼ばれ、検索ソフトウェアによって検索条件との関連度が高いと判断されたページやサイトから順番に、ページのURLやタイトル、内容の要約などが表示される。
2000年前後のインターネット普及期にはアメリカを中心に様々な検索サイトサービスが勃興し覇を競ったが、2010年代には世界的には米グーグル(Google)社の「Google」が支配的な地位を確立し、二番手の米マイクロソフト(Microsoft)社「Bing」(ビング)を大きく引き離している。
日米Yahoo!(ヤフー)のようにかつては自前の検索サイトを開発・運用していたが、自社製システムは廃止してWeb検索機能をGoogleやBingに委託するようになったネット大手も多い。中国の「百度」(Baidu/バイドゥ)や韓国の「NAVER」(ネイバー)、ロシアの「Yandex」(ヤンデックス)のように、国内大手の方が強い国もある。
SNS 【Social Networking Service】 ⭐⭐⭐
人と人との社会的な繋がりを維持・促進する様々な機能を提供する、会員制のオンラインサービス。友人・知人間のコミュニケーションを円滑にする手段や場を提供したり、趣味や嗜好、居住地域、出身校、あるいは「友人の友人」といった共通点や繋がりを通じて新たな人間関係を構築する場を提供するサービスで、Webサイトや専用のスマートフォンアプリなどで閲覧・利用することができる。
主な特徴
サービスにより機能や特徴が大きく異なるが、多くのサービスに見られる典型的な機能としては、別の会員を「友人」や「購読者」「被購読者」などに登録する機能、自分のプロフィールや写真を公開する機能、同じサービス上の別の会員にメッセージを送る機能、自らのスペースに文章や写真、動画などを投稿して友人などに見せる機能がある。
サービスによっては、複数の会員でメッセージ交換や情報共有ができるコミュニティ機能、イベントの予定や友人の誕生日などを共有したり当日に知らせたりしてくれるカレンダーあるいはスケジュール機能などがある。
多くの商用サービスではサイト内に広告を掲載するなどして、登録や基本的なサービスの利用を無料としているが、一部の機能を有料で提供しているサービスもある。
SNSの種類
多くのサービスはメールアドレスなどがあれば誰でも登録できるが、普及し始めた当初は人の繋がりを重視して「既存の参加者からの招待がないと参加できない」というシステムになっているサービスが多かった。
現在でも、何らかの形で参加資格を限定し、登録時に紹介や審査などが必要なサービスがある。また、参加自体が自由でも、テーマや分野などがあらかじめ設定され、関係や関心のある人の参加を募っているサービスなどもある。
企業などが従業員を対象に運用する「社内SNS」や、大学が教職員や在学生、卒業生を対象に運用する「学内SNS」もあり、業務上の連絡や情報共有に使われたり、業務とは切り離して参加者間の交流の促進のために利用されたりする。「OpenPNE」や「Mastodon」など自らSNSを開設・運用することができるサーバ向けソフトウェアもあり、これを利用したプライベートな集団内のサービスも存在する。
歴史と著名なサービス
2003年頃アメリカを中心に相次いで誕生し、国内事業者によるサービスも2004年頃から普及し始めた。世界的には、初期に登録資格を有名大の学生に絞って人気を博し、後に世界最大のソーシャルネットワークに成長した「Facebook」(フェイスブック)や、短いつぶやきを投稿・共有するマイクロブログ型の「Twitter」(ツイッター:現X)、写真の投稿・共有を中心とする「Instagram」(インスタグラム)、ビジネス・職業上の繋がりに絞った「LinkedIn」(リンクトイン)などが有名である。
日本独自のサービスとしては一時会員数1000万人を超え社会現象ともなった「mixi」(ミクシィ)などが有名だが、近年ではFacebookなど海外事業者に押され利用が低迷しており、オンラインゲーム運営・提供に業態転換するなどしている。
SNS的なサービスの広がり
近年では様々なWebサイトやネットサービス、スマートフォンアプリなどに「ソーシャルな」機能が組み込まれる事例が増えており、何がSNSで何がそうでないか明確に区別することは難しくなりつつある。
例えば、料理レシピ投稿サイトの「クックパッド」(Cookpad)や、スマートフォン利用者間でチャットや音声通話などを提供する「LINE」(ライン)などにも、集団の形成を支援するコミュニティ機能や日記の投稿・共有機能などがあり、これらのサービスをSNSの一種に含める場合もある。
SNSの功罪
SNSによって、一度繋がりの途絶えた古い友人と交流を再開したり、現実に頻繁に会うことは難しい多人数と日常的な繋がりを保ったり、身の回りに同好の士がいなくてもSNSで発見してコミュニティを形成できるなど、SNSのおかげで人間関係が充実した利用者は数多くいる。
一方で、不用意に個人情報や顔写真などを公開してしまい悪意に晒されたり、素性のよくわからない人と交流を持ちトラブルに巻き込まれたり、自分の周囲では特に問題視されなかった話がネット上で拡散されるうちに非難の書き込みが殺到してしまう(「炎上」と呼ばれる現象)など、SNSによって新たに引き起こされる問題もある。
また、SNSが様々な人の間に普及し、継続して利用する期間が長くなるに連れ、上司や家族など「望まれざる」相手とのSNS上での関係や対応に苦慮したり、知り合いの(大抵は良いことしか書かれていない)書き込みを読んで自分の身上と比較してしまったり、興味が湧かない話題でも毎回反応を迫られているように感じて精神的に疲弊する「SNS疲れ」といった問題に直面し、SNSの利用を断って離れる人も増えている。
IT基本法 【高度情報通信ネットワーク社会形成基本法】
高度情報通信ネットワーク社会の形成に関する基本方針を定めた日本の法律。4章34条から成り、国としての方針や理念など、情報政策における基本方針を定めている。2000年(平成12年)に成立し、2001年初頭に施行された。
同法に基づいて2001年から内閣官房に「高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部」(当時の略称は「IT戦略本部」、2013年以降は「IT総合戦略本部」)が設置され、国としてのIT政策の取りまとめを行っている。
当初の重点分野として、高速なデータ通信を行うための通信インフラの構築や競争環境の整備、電子商取引の推進、電子政府・電子自治体の推進、IT人材の育成などがあり、「e-Japan」構想として展開された。
近年ではITの発展や社会への浸透に対応し、ビッグデータやパーソナルデータ利活用環境の整備、オープンデータ推進、マイナンバー導入と利活用の推進、シェアリングエコノミー推進などにも取り組んでいる。
オンラインショップ 【ECサイト】 ⭐
インターネットを通じて商品を販売するWebサイトなどのこと。狭義には物品の販売を行う通販サイトを指すが、広義にはサービスや金融商品などを販売するサイトも含まれる。
取扱い製品の紹介ページや購入手続きのページなどで構成され、利用者はほしい商品を選択して配送先や決済情報などを入力・送信することにより、購入の申し込みを行なうことができる。商品は宅配便などで購入者の元に届けられる。決済方法としてはクレジットカードや銀行振込、電子マネーなどによる事前入金のほか、運送事業者の代金引換配達などを利用できる場合がある。
インターネット上には様々な事業者の開設する多種多様なネットショッピングがあり、一般の商店で販売している大抵のものはオンラインで購入できる状態となっている。当初は書籍やコンピュータ、家電製品、CD/DVD、ゲームソフトなどを取り扱うネットショッピングが成長したが、次第に様々な製品分野に広まり、日用品や加工食品、衣料品、旅行商品などでも普及が進んでいる。
一方、高額な商品や、複雑な手続き、打ち合わせなどが必要な商品ではその特性上ネットショッピングはあまり利用されない。また、衛生管理の問題から生鮮食品を取り扱うネットショッピングの実現は難しかったが、近年では大手スーパーマーケットチェーンが実店舗の周囲に独自の配送網を築くなどの手法でネットショッピングを開設しており、「ネットスーパー」(オンラインスーパー)とも呼ばれる。
様々なネットショッピングを一つに集め、横断的に商品を検索・比較したり、共通の手続きや登録情報で購入できるようにするなどのサービスを提供するWebサイトもあり、現実世界のショッピングモールになぞらえて「オンラインモール」(電子商店街、サイバーモール)と呼ばれる。
エスクロー 【エスクロウ】 ⭐
第三者預託という意味の英単語。二者の契約について一方から他方への義務の履行が確認されるまで、対価として引き渡される金銭や証書、物品などを第三者が預かる仕組みのこと。
例えば、物品の売買について二者が合意に達すると、まず買い手が商品の代金を仲介者に預け、これを確認したら売り手は商品を引き渡す。買い手は商品を受け取り、確かに発注したとおりであると確認できれば、仲介者に連絡して代金を売り手に引き渡す。これにより、納品したのに代金が支払われない、あるいは、代金を支払ったのに納品されないといったトラブルを未然に防ぐことができる。仲介者は手数料として代金の一定の割合か固定額を受け取る。
古くから証券や不動産、企業間取引などの分野で金融サービスの一種として存在したが、インターネットを通じた取引が活発化するに連れ、eマーケットプレイス事業者が出店している小規模店舗と消費者の間で提供したり、ネットオークションやフリマアプリなど個人間の商取引を仲介する事業者が提供する例が増えている。日本では2009年の資金決済法により、事業会社が届け出により100万円以下の決済を取り次ぐ資金移動業者になることができるようになった。
なお、売買など金銭の受け渡しだけでなく、二者間の交換や契約の履行を第三者が仲介する様々な仕組みやサービスにエスクローサービスという名称が用いられている。
電子マネー 【電子通貨】 ⭐⭐⭐
貨幣価値の蓄積や移動を電子的な手段によって行う決済システムやサービス、装置などのうち、主に現実の貨幣や紙幣の代替として利用するために設計されたもの。また、そのための専用の装置などに蓄積され、店頭などで支払いに充当することができる貨幣価値のこと。
ストアドバリュー型
実店舗で利用される電子マネーとしては、非接触ICカードやスマートフォンなどで貨幣価値を表すデータを蓄積・管理し、店頭の端末と無線通信を行って支払いを行う方式がよく用いられる。カードや端末へは手持ちの現金や銀行口座、クレジットカードなどから繰り返し「入金」することができ、蓄積された残高の範囲内で現金の代わりに支払いに当てることができる。
この方式では、JR東日本の「Suica」や首都圏私鉄・バス事業者連合の「PASMO」をはじめとする交通系ICカードが大都市圏を中心で広く普及しているほか、楽天Edyやイオングループの「WAON」、セブン&アイグループの「nanaco」など流通系ICカードも普及している。
ポストペイ型
一般的には事前に入金が必要なプリペイド(前払い)方式のものを電子マネーというが、「iD」や「QUICPay」のように事前入金なしに利用できて、後日、銀行口座の引き落としやクレジットカードなどで支払いを行うポストペイ(後払い)方式のサービスもある。ポストペイ方式は実質的にはクレジットカードの付加サービスあるいはクレジット決済の一種とみなされる。
プリペイドカード型
また、事前に一定額を支払うと引き換えに発行されるコード番号などを入力することで、同額の決済を行えるサービス・システムもあり、ネットサービスやオンラインゲーム、オンラインショップなどでの支払いや、スマートフォンなどでのアプリやコンテンツの購入などでよく利用される。
コード番号の記載されたカードがコンビニエンスストアなどで販売されているほか、店頭で一定額を支払うとレジからコードの記載されたレシートが発行されたり、銀行振込やクレジット決済で一定額を入金すると事前に登録したメールアドレスなどにコードが送られてくる、といった仕組みを採用しているサービスもある。
「WebMoney」や「BitCoin」など専業の事業者が運営し、提携している各社のサービスで利用できるものと、米アップル(Apple)社の「Apple Gift Card」や米グーグル(Google)社の「Google Playギフトカード」、米アマゾンドットコム(Amazon.com)社の「Amazonギフトカード」のように、自社サービスの決済に利用するために販売されるものがある。
仮想通貨との違い
電子マネーは日本円など現実の通貨の価値をデジタルデータに置き換えて蓄積・交換するための仕組みだが、これとは別に、それ自体を独立した一つの通貨のように用いることのできる、デジタルデータで表された価値の蓄積・交換システムも存在し、「仮想通貨」(virtual currency)あるいは「暗号通貨」(cryptocurrency)と呼ばれる。
人工知能 【AI】 ⭐⭐⭐
人間にしかできなかったような高度に知的な作業や判断をコンピュータを中心とする人工的なシステムにより行えるようにしたもの。
人類は未だに人間の脳の振る舞いや知能の仕組みを完全には解明していないため、AIにも明快な定義は与えられていない。また、情報技術の進歩に伴って時代によってAIとされるシステムの具体的な内容は大きく変化してきている。
特に、前の時代にAIの一分野として研究・開発が進められていたものが、技術が成熟し実用化や普及が進むとAIとは呼ばれなくなり、より高度で研究途上のものが新たにAIとして注目される傾向がある。この現象は「AI効果」と呼ばれ、例として文字認識技術(OCR)や検索エンジン、かな漢字変換システム、ロボット掃除機などが挙げられる。
2000年代後半以降にAIとされるものは、大量のデータから規則性やルールなどを学習し、与えられた課題に対して推論や回答、情報の合成などを行う機械学習(ML:Machine Learning)を基礎とするものが主流となっている。
特に、人間の神経回路を模したニューラルネットワーク(NN:Neural Network)で深い階層のモデルを構築し、精度の高い推論を行うディープラーニング(深層学習)研究に大きな進展があり、これに基づく研究や開発が盛んになっている。
応用分野として、チェスや将棋、将棋など知的なゲームで対局するシステム、画像や映像に映る物体や人物を識別する画像認識システム(コンピュータビジョン)、人間の発話を聞き取って内容を理解する音声認識システム、言葉を組み立てて声として発する音声合成システム、ロボットや自動車など機械の高度で自律的な制御システム(自動運転など)、自動要約や質問応答システム、高度で自然な機械翻訳といった様々な自然言語処理などがよく知られる。
機械学習 【マシンラーニング】 ⭐
コンピュータプログラムにある分野のデータを繰り返し与えることで内在する規則性などを学習させ、未知のデータが与えられた際に学習結果に当てはめて予測や判断、分類などを行えるようにする仕組み。現代の人工知能(AI)研究における最も有力な手法の一つ。
例えば、数字を手書きした画像と、そこに写っている数字をペアにした学習データをたくさん用意し、一定のアルゴリズム(計算手順)に従って次々にこれを処理していくと、画像のパターンから写っている数字を予測する学習モデルを作ることができる。学習済みのシステムに未知の手書き数字の画像を与えると、そこに写っている数字を推論して回答できるようになる。
従来このような仕組みを作ろうとすると、各数字の画像に現れる特徴的なパターンを人間が整理して、判断基準としてプログラムに組み込む必要があるが、機械学習ではデータから特徴を抽出して特定の結果(答え)に紐付ける操作をコンピュータが自動的に行うため、人間は学習させたい内容を表すデータを与えるだけでよい。
教師あり学習 (supervised learning)
機械学習の手法のうち、「例題と答え」という形式に整理された「教師データ」に適合するようにモデルを構築していく方式を「教師あり学習」という。例題を入力すると対応する答えを出力するようにモデルを調整していく。
人間が既に答えを知っているような判断や作業を自動化したい場合に有効な手法で応用範囲も広いが、生のデータを「例題と答えのペア」という形式に(人手によって)整理しなければならない。学習データの質や潜在的な問題点がそのまま精度や結果に反映されてしまう難点もある。
教師なし学習 (unsupervised learning)
人間が基準や正解を与えずに学習データを分析させ、システムが自律的に何らかの規則性や傾向を見出す方式を「教師なし学習」という。与えられたデータ群を何らかの目的をもって解析し、特徴の似たデータのグループ分けなどを行えるようにする。
人間にも正解が分からない課題についての知見を得たい場合や、大量のデータから規則性を探索したい場合などに有効な手法で、データの前処理が少なく現実世界にある多様な大量のデータを素材にできる。ただし、結果が何を意味するかは人間による解釈が必要で、人間にとって有用な結果が得られるよう制御するのが難しく精度も安定させにくいなどの課題がある。
強化学習 (reinforcement learning)
システムの行動に対して評価(報酬)が与えられ、行動の試行錯誤を繰り返して評価を最大化するような行動パターンを学習させる方式を「強化学習」という。機械の制御や競技、ゲームなどを行うAIの訓練に適している。
他の学習手法と異なり、人間がまとまった形で学習データを与えることはせず、システムは現在の状況を入力として行動を選択する。行動の結果は評価(値)としてシステムに伝達され、どのような行動が好ましい結果に繋がるかを繰り返し試行錯誤しながら学習していく。
人工知能・深層学習との関係
「人工知能」(AI:Artificial Intelligence)とは人間の知的な営みの一部を何らかの形で模倣するITシステム全般を指す総称であり、初期のAI研究では対象についての知識やルール、判断基準などを人間がプログラムの一部として直に記述する手法が一般的だった。
しかし、このような手法では知識の記述に手間がかかり、特定の狭い分野であっても人間のような判断を下せるシステムを実現するには途方も無い時間とコストが必要になってしまう。この限界を打ち破るため、人間は学習の仕方だけをプログラムとして実装し、実際の知識の獲得はデータを大量に与えて自動処理するという機械学習の手法が考案された。
機械学習の具体的な方式にはSVM(サポートベクターマシン)やベイジアンネットワーク、決定木(デシジョンツリー)学習、データクラスタリングなど様々な手法があるが、人間の脳の神経回路の網状の繋がりに着想を得た「ニューラルネットワーク」(NN:Neural Network)が有力な方式として台頭した。
2010年代になると、ネットワークの階層を従来より深く設定(4層以上)した「ディープニューラルネットワーク」(DNN:Deep Nueral Network)が目覚ましい発展を遂げ、機械学習研究・開発の中核として注目されるようになった。このDNNに基づく機械学習のことを「深層学習」あるいは「ディープラーニング」(deep learning)という。
ディープラーニング 【深層学習】
ニューラルネットワーク(NN:Neural Network)を用いた機械学習システムのうち、中間層(隠れ層)が複数のシステムを利用するもの。広義にはこれをNN以外の手法に応用したもの(深層強化学習など)を含む。画像処理に強く精度が高いため近年急激に注目が高まっている。
ニューラルネットワークは動物の脳の仕組みを模した学習する機械の数学的なモデルで、データの入力、単純な計算、出力を連続して行うノードを脳神経(ニューロン)に見立て、これを大量に用意して網状に相互接続した構造となっている。
ノードは層状に配置され、外部から入力層のノード群がデータを受け取り、計算を行って結果を中間層に伝達し、中間層も同様に計算を行って出力層に伝達、出力層から結果が出力される。学習データを用いて計算や伝達に用いるパラメータを調整すると、推論や予測、分類などを行うシステムを構成することができる。
1950年代の研究初期に提唱されたニューラルネットワークはノード群を入力層・中間層・出力層の3層に配置した構造だったが、1990年代に複数の中間層を設けて全体を4層以上の深さにした「ディープニューラルネットワーク」(DNN:Deep Neural Network)が提唱された。これを用いて行う機械学習を深層学習という。
初期のDNNは性能がなかなか向上せずあまり注目されてこなかったが、2006年のジェフリー・ヒントン(Geoffrey E. Hinton)氏による「オートエンコーダ」の提案を突破口に劇的な飛躍を遂げた。2010年代以降は代表的な機械学習モデルとして活発に研究・開発が進み、有用なシステムの実用化や社会への実装も進展した。
深層学習は画像認識(画像に何が写ってるのか検知する)において顕著な高性能を示したため画像処理分野での研究や応用が最初に注目され、画像認識や画像生成、文字認識、自動運転のためのセンサー技術などへの適用が進んだ。深層学習を応用したコンピュータ囲碁やコンピュータ将棋のシステムがプロに勝利するなどのニュースを通じて一般への認知度も高まった。近年では機械翻訳や音声認識、音声合成、動画生成などへの応用も進んでいる。
シンギュラリティ 【技術的特異点】
人工知能(AI)の能力が人間の知性を超える歴史的転換点。コンピュータや人工知能の改良が現在のペースで続いていくと、数十年以内という近い将来に起きると予想する論者がいる。
何をもってシンギュラリティとするか、そのような事態が起きうるか、起きた後の世界はどうなるかについては百家争鳴の状態で、広く合意された予測や学説などは存在しないが、現在一般に論じられているシンギュラリティとは、人工知能が自らを改良する手段を獲得し、加速度的に進化した結果、人間の知性を大きく凌駕する知性体が誕生するというものである。
汎用AI
人間のような知性や知能と、意識や意志(に相当する自律的に行動する仕組み)を持つ人工知能は「強いAI」(strong AI)あるいは「汎用人工知能」(AGI:Artificial General Intelligence)と呼ばれる。
現在は存在しうるかどうかすら明らかになっていないが、もしそのような存在が生み出されると、人間の力に頼らず自らを改良するための研究や発明を行うことができるようになり、いずれ人間の理解できない方法で人間を大きく超える知性を獲得するというのがシンギュラリティの基本的な考え方である。
予想と批判
シンギュラリティによって生じる事態には様々な予想があり、全人類が労働から解放され裕福に暮らせるようになるといった楽観的なものから、映画「ターミネーター」のように人類に敵対して滅ぼそうとするのではないかといった悲観的なものまである。
実現可能性についても様々な考え方があり、そもそも現在のAI研究の延長線上に自らを人間の思いつかない方法で改良する自律的なAIが誕生すると想定するのは無理があるとする意見や、AIが依り代とする半導体チップの素子や配線の微細化が物理限界に近づいており、物理的な制約が足かせとなって近い将来の実現は無理ではないかといった意見などがある。
歴史
シンギュラリティの概念を最初に提唱したのはアメリカの数学者でSF作家のヴァーナー・ヴィンジ(Vernor Steffen Vinge)氏であると言われており、1980年代に発表されたSF作品の中で遠い未来の架空の概念として提示している。
これを現実に起きうるものとして紹介したのはアメリカの発明家で未来学者のレイ・カーツワイル(Ray Kurzweil)氏で、2005年の著書「The Singularity Is Near: When Humans Transcend Biology」(邦題:ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき)の中で、シンギュラリティの定義を「1000ドルのコンピュータが全人類の計算能力を足し合わせたより強力になる時点」として、それは2045年であると予想している。
2012年に人工知能の実装方式の一つである「ディープラーニング」(deep learning)の驚異的な性能が実証されて以降、人工知能の進歩と社会への普及が大きく進展しており、2010年代後半頃から、そう遠くない将来起こりうる事態としてシンギュラリティへの関心が高まっている。
データサイエンティスト ⭐
統計解析や数理解析、機械学習、プログラミングなどを駆使して大量のデータを解析し、有用な知見を得る職業あるいは職種。
企業の事業活動の電子化、コンピュータ化が進み、取得可能なデータや実際に蓄積されるデータの種類や量は飛躍的に増大したが、IT部門はデータの記録や管理のみ、ビジネス部門は表計算ソフトでの集計など定型的な利用のみの場合が多く、十分な利活用がされないまま死蔵される例が多かった。
データサイエンティストは様々な意思決定上の局面やビジネス上の課題を認識し、データによって立証可能な仮説やモデルを組み立て、蓄積された実際のデータ群に対して様々な処理手法や解析手法を適用することで、現実の課題解決に資する有用な知見を提供する。
具体的なスキルとして、対象領域への基本的な理解やビジネス部門との折衝、解析結果のドキュメンテーションやプレゼンテーションといったビジネス領域のスキル、統計や数理解析、線形代数、機械学習、データモデリングなどの数理科学やコンピュータ科学の知識、データベース操作やデータ形式の理解、プログラミング、データ加工・変換・処理の技法といったエンジニアリング領域の技能が総合的に求められる。
日本では2011年頃からビッグデータ活用の重要性が叫ばれるようになるなか、データ活用を推進する具体的な人材像として2013年頃から「データサイエンティスト」という職種が認識され始めた。十分な技能を持ったデータサイエンティストは常に人材不足であるとされ、今後もそのニーズは高まっていくと予想されている。
大学などが専門のコースやカリキュラムを編成する事例が見られるほか、日本数学検定協会の「データサイエンス数学ストラテジスト」やデータサイエンティスト協会の「データサイエンティスト検定」、統計質保証推進協会の「統計検定 データサイエンス基礎」など民間資格の認定制度も相次いで開始されている。
ビッグデータ ⭐⭐⭐
従来のデータベース管理システムなどでは記録や保管、解析が難しいような巨大なデータ群。明確な定義があるわけではなく、企業向け情報システムメーカーのマーケティング用語として多用されている。
多くの場合、ビッグデータとは単に量が多いだけでなく、様々な種類・形式が含まれる非構造化データ・非定型的データであり、さらに、日々膨大に生成・記録される時系列性・リアルタイム性のあるようなものを指すことが多い。
今までは管理しきれないため見過ごされてきたそのようなデータ群を記録・保管して即座に解析することで、ビジネスや社会に有用な知見を得たり、これまでにないような新たな仕組みやシステムを産み出す可能性が高まるとされている。
米大手IT調査会社ガートナー(Gartner)社では、ビッグデータを特徴づける要素として、データの大きさ(Volume)、入出力や処理の速度(Verocity)、データの種類や情報源の多様性(Variety)を挙げ、これら3つの「V」のいずれか、あるいは複数が極めて高いものがビッグデータであるとしている。これに価値(Value)や正確性(Veracity)を加える提案もある。
コンピュータやソフトウェアの技術の進歩は速く、具体的にどのような量や速度、多様さであればビッグデータと言えるかは時代により異なる。ビッグデータという用語がビジネスの文脈で広まった2010年代前半にはデータ量が数テラバイト程度のものも含まれたが、2010年代後半になるとペタバイト(1000テラバイト)級やそれ以上のものがこのように呼ばれることが多い。
近年ではスマートフォンやSNS、電子決済、オンライン通販の浸透により人間が日々の活動で生み出す情報のデータ化が進み、また、IoT(Internet of Things)やM2M、機器の制御の自動化などの進展により人工物から収集されるデータも爆発的に増大している。
また、人工知能(AI)の構築・運用手法として、膨大なデータから規則性やルールなどを見出し、予測や推論、分類、人間の作業の自動化などを行う機械学習(ML:Machine Learning)、中でも、多階層のニューラルネットワークで機械学習を行う深層学習(ディープラーニング)と呼ばれる手法が台頭している。
このような背景から、膨大なデータを的確、効率的に扱う技術上の要請はますます高まっており、統計やデータ分析、大容量データを扱う手法やアルゴリズムなどに精通した「データサイエンティスト」(data scientist)と呼ばれる専門職の育成が急務とされている。
ユニバーサルデザイン 【UD】 ⭐⭐⭐
すべての人が等しく使うことができる、あるいは使いやすいデザイン・設計のこと。より現実的には、なるべく多くの人が同じように使えることを目指すデザイン原則を表す。
言語や文化、人種、性別、年齢、体型、利き腕、障害の有無や程度といった違いによらず、できるだけ多くの人が同じものを同じように利用できるよう配慮されたデザインのことを意味する。
「バリアフリー」を始めとする従来の考え方では、「高齢者用」「左利き用」「車椅子用」のように特性に応じた専用のデザインを用意する発想が基本だったが、ユニバーサルデザインではこうした発想を極力排し、単一のデザインで万人が利用できることを目指している。
ユニバーサルデザインという用語は1985年に米ノースカロライナ州立大学のロナルド・メイス(Ronald Mace)教授によって提唱されたが、それ以前から実践されていた考え方を整理して名前をつけたものとされる。氏はユニバーサルデザインの7つの原則として「公平に使える」「柔軟性がある」「簡単で自明」「必要なことがすぐに理解できる」「間違いを許容する」「弱い力で使える」「十分な大きさと空間」を唱えている。
ユニバーサルデザインの具体例として、施設内の案内などを言葉ではなく絵文字で伝えるピクトグラム、様々な視覚特性を持つ人による調査・テストを経て開発された視認性の高いフォント、容器に刻まれた凹凸を触れば何が入っているか識別できるシャンプーやコンディショナー、手や指の状態によらず持ちやすく使いやすい文房具やカトラリーなどがある。
アクセシビリティ ⭐⭐⭐
近づきやすさ、利用しやすさ、などの意味を持つ英単語で、IT分野では、機器やソフトウェア、システム、情報、サービスなどが身体の状態や能力の違いによらず様々な人から同じように利用できる状態やその度合いのことを指す。
高齢や障害、病気、あるいは他の身体的・認知機能的な特性により運動や視聴覚機能に制約や偏りがあっても、機器やソフトウェアの操作、情報の入手、ネットサービスの利用などが可能である状態を意味する。
例えば、マウスなどによる画面上の位置指定が困難な場合に備え、キーボードやボタン型の入力装置、音声認識など他の入力機能のみで操作が行えるようにしたり、視力や視覚の状況に応じて、画面表示や文字の拡大、画面上の文字の読み上げなどの機能を選択できるといったように、様々な人が利用できるような備えが行われている状態を指す。
単にアクセシビリティといった場合はWebページについての「Webアクセシビリティ」のことを指すことが多い。また、IT分野以外でも、例えば建物や施設、設備などへの出入りや内部の移動のしやすさ、利用しやすさ(段差がない、スロープやエレベーターが整備されている等)のことをアクセシビリティということもあるが、これは日本語では「バリアフリー」(barrier free)という外来語で表現されることが多い(厳密にはバリアフリーはアクセシビリティより狭い概念を指すとする見解もある)。
UX 【User Experience】 ⭐
ある製品やサービスとの関わりを通じて利用者が得る体験およびその印象の総体。使いやすさのような個別の性質や要素だけでなく、利用者と対象物の出会いから別れまでの間に生まれる経験の全体が含まれる。
対象物の機能や性能、内容、使い勝手といった性質そのものよりも、それを通じて利用者が得られる経験がどのようなものであるかに着目する概念である。対象物の持つ特性だけでは決まらず、利用者側の属性や個性、利用者を取り巻く環境や利用時の状況などにも強く影響を受けるため、作り手側ですべてを制御することは難しい。
よく混同されるが、「ユーザーインターフェース」(UI:User Interface)は対象物の具体的な使用・操作の方法や様式を定めたもので、「ユーザビリティ」(usability)は対象物の使い勝手、使いやすさを指す。ユーザエクスペリエンスはこれらの要素を含むが、これらを通じて得られる最終的な体験、および体験を通じて惹起される感情が中心となる。
また、従来は製品の使用感をある一回(初回)の使い方や印象に限定して捉えることが多かったが、ユーザエクスペリエンスはこれを通時的に捉える。すなわち、製品やサービスと利用者との出会い(プロモーションや販売・加入など)、使用の開始(開封や初期設定など)、使用の継続や反復(様々な状況・環境を含む)、使用の終了(廃棄や買い替え、解約など)といった各場面における利用者の感じ方をそれぞれ検討する。
“user experience” という表現自体は以前から使われていたようだが、1990年代半ばに当時の米アップルコンピュータ(Apple Computer)社(現アップル)に勤務していた認知心理学者のドナルド・ノーマン(Donald A. Norman)博士により、コンピュータやソフトウェアなどの分野で現在の用法が広まったとされている。
現在ではITの分野に限らず工業製品や小売業など様々な分野で引用される概念となり、また、「対象者の体験の総体に着目する」という考え方から「カスタマーエクスペリエンス」(CX:Customer Experience)など様々な “~ experience” という派生概念を生み出している。
ユーザビリティ 【使用性】 ⭐⭐⭐
機器やソフトウェア、Webサイトなどの使いやすさ、使い勝手のこと。利用者が対象を操作して目的を達するまでの間に、迷ったり、間違えたり、ストレスを感じたりすることなく使用できる度合いを表す概念である。
国際規格のISO 9241-11では、ユーザビリティを「特定の利用状況において、特定の利用者によって、ある製品が、指定された目標を達成するために用いられる際の、有効さ、効率、利用者の満足度の度合い」と定義している。漠然とした「使いやすさ」よりは限定された概念で、ある人がある状況下である目的を達することがどれくらい容易であるかを表している。
ユーザビリティは利用者への情報やメッセージの提示の仕方やタイミング、言い回し、操作要素や選択肢の提示の仕方、操作の理解のしやすさや結果の想像しやすさ、操作のしやすさや誤りにくさ、誤操作に対する案内や回復過程の丁寧さ、利用者の操作に応じた表示や状況の変化(インタラクション)などの総体で構成される。
高いユーザビリティのために必要な実践は対象の種類(機器・ソフトウェア・Webページ等)や想定される利用者の属性、文脈や利用目的によって異なるため個別性が高く、ある状況では良い事例とされたものが別の文脈では悪い事例になる場合もある。
開発者が期待するユーザビリティが備わっているかどうか確かめるには、利用者(やそれに近い属性の人物)の協力を得て実際に使ってみてもらい、想定通りの操作が行われるか、利用者が不満や戸惑いを感じないかなどをテストするのが有効であるとされる。このような試験を「ユーザーテスト」(user testing)あるいは「ユーザビリティテスト」(usability testing)という。
デジタルデバイド 【情報格差】 ⭐⭐
パソコンやスマートフォン、インターネットなどのデジタル技術に触れたり使いこなしたりできる人と、そうでない人の間に生じる、貧富や機会、社会的地位などの格差。個人や集団の間に生じる格差と、地域間や国家間で生じる格差がある。
コンピュータや通信ネットワークが職場や日常生活に深く入り込み、それを活用できる者はより豊かで便利な生活や、高い職業的、社会的地位を獲得できる一方、何らかの理由により情報技術の恩恵を受けられない人々は社会から阻害され、より困難な状況に追い込まれてしまう。こうした状況をデジタルデバイドという。
主な要因
デジタルデバイドは様々な要因により発生し、拡大する。例えば、子どもや若者は技術や知識を比較的容易に習得し、進んで習慣的に利用するようになることが多いが、中高年や高齢者が新たにコンピュータの操作法などを覚えるのは困難で、生活習慣に取り入れることにも抵抗感があることが少なくない。
また、貧困のために情報機器やソフトウェア、サービスなどの購入が困難だったり、身体機能の障害や発達特性などから機器の操作が困難で情報技術の恩恵を受けられない場合もある。元々存在した様々な格差がデジタルデバイドにより拡大したり固定化してしまうという側面がある。
地域間の格差
地域や国家の単位でデジタルデバイドが生じることもある。通信インフラの普及度合いや、所得水準と情報機器の価格の関係、技術の習得・利用の前提となる十分な教育が受けられるか、インフラ整備や技術・機器の導入・教育を担う技術者などの人材が十分にいるか、といった点により、地域や国家ごとに格差が生じる。
ここでも、元々豊かな先進国やインフラがいち早く整備され人材豊富な大都市などが情報技術でさらに発展し豊かになる一方、情報技術に十分アクセスできない発展途上国や農村部などがデジタル環境でも取り残されるという、格差の拡大・固定化の問題がある。
ワンクリック詐欺 【ワンクリック料金請求】 ⭐⭐
インターネットを通じて行われる不当料金請求の手口の一つで、Webページを開くといきなり料金請求の画面が表示される方式。
無差別に大量に送信される勧誘メールなどからサイトにアクセスすると、ページを開いただけで「登録が完了しました」「料金をお支払いください」などのメッセージが突然表示され、金額や振込先などが表示される。
請求画面には、アクセスした人のIPアドレスや端末の機種名(スマートフォンなどの場合)、Webブラウザやオペレーティングシステム(OS)の種類、位置情報サービスなどから割り出した大まかな現在地の情報などが表示されることが多い。
これらの情報は普段からブラウザがサーバ側に提供しているものであり、これを元に氏名や住所、電話番号などの個人情報を割り出すことはできない。「個人情報を取得したので支払いが無い場合は法的措置を取る」といった恫喝的なメッセージが記載されることもある。
サイトにアクセスしただけで、あるいは十分な契約についての説明と明確な意思表示なしに契約が成立することはないので、このような請求は法的に無効であり、料金を支払う必要はない。また、自らサイト側に申告しない限り、個人情報が業者の手に渡ってしつこい督促に会うということもないので、このような画面に出くわしても無視してページを閉じて良い。
クラッキング 【クラック】 ⭐
コンピュータやソフトウェア、データなどを防護するための措置や仕組みを破壊あるいは回避、無効化し、本来許されていない操作などを行うこと。
“crack” には割る、押し入る、突破するといった意味があり、ドアを破って部屋に押し入ったり、鍵を破って金庫の中のものを盗んだりすることを指す。ITの分野でも同じように、著作物を記録したデータの複製を制限する措置を解除して不正コピーしたり、コンピュータを利用するためのパスワードを割り出して不正に操作権限を取得したりといった行為をクラッキングという。
コンピュータシステムへの攻撃や侵入は一般的には「ハッキング」(hacking)と呼ばれることが多いが、この言葉は元来、コンピュータの動作を解析したりソフトウェアの拡張や改造などを行うことを指し、必ずしも悪い意味ではなかった。
そのような技術や手法を悪用して不正や犯罪を働くことをクラッキングと呼び、ハッキング全般とは区別すべきだとする主張もあり、技術者コミュニティなどではそのような呼び分けが一定程度行われているが、マスメディアなど世間一般には浸透していない。
システムのクラッキング
コンピュータシステムの攻撃としてのクラッキングは意味が広く、システムの利用権限の奪取(侵入)や乗っ取り、秘密のデータの盗み取りや漏洩・公表、システムに保存されたデータやプログラムなどの改竄や破壊などを含む。
パスワードなどを不正に入手したりソフトウェアの脆弱性を攻撃して誤作動させるなどして、本来は許可されていない動作や操作を行う攻撃手法の総称であり、侵入行為を伴わないDoS攻撃などは含まれない。
ソフトウェアのクラッキング
商用ソフトウェアなどデータとして販売される著作物に施された複製の制限や利用者の確認・認証などを無力化し、不正にコピーしたり、これらの防護措置が機能しないよう改造したりすることをクラッキングという。
映像ソフトなどには内容を暗号化して複製を制限しているものがあり、ソフトウェア製品にはパッケージのシリアル番号の入力や利用者のオンライン登録、プロダクトアクティベーション、プロテクトドングルなどで購入者であることを確認してから導入や起動を行う仕組みになっているものがある。
クラッキングはこれらを無効化することを指し、暗号化が解除された状態のデータの複製を作成したり、ソフトウェア内のチェック機構を探し出して除去するなどして、無制限にコピーや使用ができるよう不正に改造することなどが含まれる。
架空請求メール 【架空請求詐欺】 ⭐
架空の料金請求を無作為に電子メールで送付し、不当な支払いを要求する詐欺。請求の内容は適当にでっち上げたでたらめで、請求元の組織名や請求対象の商品やサービス自体が創作である場合も多い。
何らかの方法で入手したメールアドレスのリストに無差別に架空の請求を送りつけ、騙された被害者に犯人の銀行口座などに料金を振り込ませるという手口である。請求の名目として有料アダルトサイトの利用料や出会い系サイトの登録料金、オンライン通販の商品代金などを挙げる事例が多い。
請求を行う事業者を名乗るパターンの他に、事業者から債権を買い取った回収業者を名乗ったり、IPアドレスなど適当な識別番号を記載して身元を把握しているように装ったり、文面に「期限までに支払いがない場合は法的措置を取る」などの脅しを入れて不安を煽るなど、手口は年々巧妙化している。
請求書を送りつけられた人の中には、過去に自分が使った別の事業者の請求と勘違いしたり、身に覚えがなくても「手切れ」のつもりで振り込んでしまったり、家族が使ったと思いこんで支払ってしまう例もある。
このような手口の詐欺メールは2002年頃から広く見られるようになり、ネット利用詐欺の定番の手口として定着している。電子メールだけでなく、携帯電話番号のリストを用いて架空請求のSMS(ショートメッセージ)を送信する手口や、郵便はがきを用いた同様の手口もよく知られている。
マルウェア 【悪意のあるソフトウェア】 ⭐⭐⭐
コンピュータの正常な動作を妨げたり、利用者やコンピュータに害を成す不正な動作を行うソフトウェアの総称。コンピュータウイルスやワーム、トロイの木馬などが含まれる。
“malicious software” (悪意のあるソフトウェア)を短縮した略語で、悪意に基づいて開発され、利用者やコンピュータに不正・有害な動作を行う様々なコンピュータプログラムを総称する。
コンピュータウイルスやワーム、トロイの木馬、スパイウェア、ランサムウェア、ボット、バックドア、一部の悪質なアドウェアなどが含まれる。キーロガーのように正規の用途で用いる場合もマルウェアとなる場合もあるものもある。
利用者の知らない間に、あるいは欺くような手法でコンピュータに侵入し、記憶装置に保存されたプログラムやデータを改変、消去したり、重要あるいは秘密のデータを通信ネットワークを通じて外部に漏洩したり、利用者の操作や入力を監視して攻撃者に報告したり、外部から遠隔操作できる窓口を開いたり、ネットワークを通じて他のコンピュータを攻撃したりする。
「マルウェア」という用語は専門家や技術者以外の一般的な認知度が低く、また、マルウェアに含まれるソフトウェアの分類や違いなどもあまり浸透していないため、マスメディアなどでは「コンピュータウイルス」という用語をマルウェアのような意味で総称的に用いることがある。
マルウェア対策
マルウェアに対抗するため、これを検知・駆除するソフトウェアを用いることがある。歴史的にウイルス対策から発展したため「アンチウイルスソフト」(anti-virus software)と呼ばれる。企業などでは伝送途上の通信内容からマルウェアを検知する「アンチウイルスゲートウェイ」なども用いられる。
マルウェアの検知には、ストレージ内のファイルなどを既知のマルウェアの特徴的なパターンと照合する「パターンマッチング法」や、マルウェアに特徴的な振る舞いを検知する「ヒューリスティック法」、隔離された実行環境で実際に実行してみる「ビヘイビア法」などの検知手法が用いられる。
マルウェアの中にはソフトウェアやハードウェアに存在する保安上の欠陥(脆弱性)を悪用して侵入・感染するものも多いため、セキュリティソフトなどに頼るだけでなく、老朽機材の入れ替え、ソフトウェアの適時の更新、不要な機能の停止などの対応も適切に行う必要がある。
炎上 ⭐⭐
ある人物や組織の行いや発言などについて、SNSやWebサイトのコメント欄などで不特定多数のネット利用者から批判や非難、中傷などが殺到する現象。
ある人物や組織の振る舞いやネット上で公表されたコンテンツなどに関連して、多くネット利用者が反感や不快感、嫌悪感、正義感に基づく怒りなどネガティブな感情を覚え、短時間の間に批判的な投稿が殺到する現象を指す。
喝采や応援など肯定的、好意的な反応が殺到する状態は炎上とは言わないが、人によって賛否や反応が大きく分かれ、肯定派と否定派に分かれて議論の応酬や非難合戦、喧嘩状態に発展したものはやはり炎上とされる。
多くの発言者は匿名であり、中には批判や非難の域を超えて暴言や誹謗中傷を行う者もいる。中傷発言は法律上の名誉毀損となり、言われた側が訴え出れば民事上の損害賠償請求や刑事上の名誉毀損罪や侮辱罪の対象となる。過去の炎上事件でも匿名の投稿者が法手続きに則って身元を調べられ、賠償や刑事罰に至った例が数多くある。
炎上の類型
報道などを起点としてニュースサイトのコメント欄や電子掲示板(BBS)、SNSなどに投稿が相次ぐ場合と、当事者のSNS投稿やブログ記事、動画のコメント欄など、本人に属する場に投稿が相次ぐ場合がある。後者のような本人に対して直接発言が殺到する状況を「コメントスクラム」と呼ぶこともある。
デマやでっち上げ、誤報、誤解など批判対象の事実自体が存在しない場合、当該事案と無関係な人物や組織が誤解や安易な推測などで当事者とされた場合にも、誤りを信じた利用者によって炎上状態に至る場合がある。誤った情報を流したり広めた利用者が刑事罰を受けるなどしているが、悲惨な事故や事件が起きる度に虚偽に基づく炎上が繰り返されており、社会問題となっている。
用語
日本における炎上現象は、ネット利用者の間で匿名掲示板やブログが広く普及・浸透した2000年代中頃に見られるようになったとされる。「炎上」という呼称の起源は明確ではないが、一説には、野球で投手が連打を浴びて大量失点する「炎上」になぞらえて匿名掲示板の利用者が用い始めたとされる。
俗に、炎上現象に関連して起きる状況を火事や燃焼に例えることがある。例えば、関連コメントの投稿が収束することを「鎮火」、コメントの勢いが増すような発言や行動を当事者や関係者が新たに起こすことを「燃料」あるいは「燃料投下」、直接の当事者ではない関係者や擁護者に批判の矛先が向くことを「類焼」あるいは「延焼」などということがある。
あえて物議を醸すような発言や行為、トラブルなどを公表し、狙って炎上を引き起こす者もいる。炎上によって知名度の向上、ネットサービス上での閲覧数や動画再生数などの増加を図り、金銭的な利益を得るために行われるもので、「炎上商法」「炎上マーケティング」と呼ばれる。
チェーンメール 【チェンメ】 ⭐
電子メールにおける迷惑行為の一つで、受信者に別の人への転送を促す文言が記載され、連鎖的に多数の人へ回覧されるメールのこと。流言の拡散に利用されたり、通信回線やメールサーバなどに過剰な負荷をかけることから忌避される。
特定の集団内だけでなく不特定多数の人々へ増殖しながら転送されていくことを目指し、受信者に対して友人・知人や参加するメーリングリストなどに転送することを勧める内容が記載されたメールのことを指す。そこで告知している内容の真偽や善悪、当否は問わない。
近年ではチャットやインスタントメッセンジャー、SNSなどのネットサービスのメッセージ機能を利用して無差別に転送を勧めるチェーンメール的なメッセージが流通することがあり、それらは電子メールではないが、便宜上「チェーンメール」と呼ぶことがある。
チェーンメールの内容
内容は、いわゆる不幸の手紙のように「転送しないと悪いことが起きる」と無根拠に宣言して転送を強要するものや、「このようなコンピュータウイルスが流行しているので対策法を広めて」「テレビ番組の企画でどこまでメッセージが広まるか試しているので協力してほしい」などともっともらしい作り話で拡散を呼びかけるものが多い。
他にも、儲け話を装った詐欺、無限連鎖講(ねずみ講)などの勧誘、噂話やデマ、特定の人物や集団の誹謗など、面白半分の悪戯や悪意・害意に基づいた攻撃的な内容も見られる。行方不明の人探しやペット探し、募金の呼びかけなど、それ自体は善意に基いた内容のチェーンメールもある。
チェーンメールの問題点
チェーンメールは発信元と無関係な第三者が受信しても責任の所在や信ぴょう性などを確認することが困難なことが多く、いったん広まり始めると発信元も含め誰にも制御することができなくなり、途中で改竄されたり発信当初とは状況が変わっても停止したり修正したりできない。
長くインターネットを利用している人々の間ではどのような内容でも転送せずに止めるのがマナーとされることが多いが、人助けのためならば積極的に広めるべきと考える人も少なくないため、そのような手段を用いることの是非をめぐってしばしば論争が起きる。
デジタルタトゥー
ある人物についてインターネット上に公表・拡散された情報が、複製を繰り返して半永久的に残存し、本人が容易に消せなくなること。
「タトゥー」(tattoo)とは入れ墨のことで、一度体に刻んだ入れ墨が自然には消えずに生涯残り続けるように、ネット上に現れた自分についての情報が消えずに残り続ける状態を表している。
SNSやブログなどの利用者が投稿した情報は本人の操作により消去することができるが、検索エンジンのキャッシュやWebアーカイブサービスに複製されたり、他の利用者の投稿に引用、複製された場合には容易に消去させることができなくなる。
これにより、ある人物について本人あるいは他人が過去に公開した情報が時間が経ってもネット上に残存し続け、本人に不都合があっても手続きが煩雑すぎてすべて消去するのは事実上不可能になる現象をデジタルタトゥーという。
デジタルタトゥーとなりうるのは、本人と識別できる情報(個人情報や芸名など)に紐付いた本人の過去の属性や行動、所属などに関する情報(SNSの書き込み、学歴・職歴など)、本人が写っている写真や動画、本人について他人が名指しで言及、指摘、暴露した情報などである。
特に問題となるのは本人についての悪い情報が残り続ける現象で、過去の犯罪やSNSへの悪ふざけ投稿などが「炎上」して多くのサイトに取り上げられ罰を受けた後も容易に検索できてしまう事例や、元恋人に逆恨みされ腹いせに暴露投稿されたセンシティブな写真が複製され続ける問題などがよく知られる。