基本情報技術者単語帳 - 経営戦略マネジメント

規模の経済

経済活動において、規模の大小によって有利、不利が生じる状況のこと。生産量を増やすと一単位あたりの固定費が減少していく現象などがよく知られる。

一般に、企業活動では製品やサービスを一単位生み出したり提供するたびに必要となる変動費(原材料費など)と、生産量に直接的には比例しない固定費(製造機械の購入代金、事業所の賃貸料など)が必要となる。

固定費が同じ環境で比較すると、製品やサービスをより多く生産・提供した方が一単位あたりの固定費を減少させることができ、利益を増やしたり価格を引き下げて競争力を向上させることができる。規模の拡大で生じる優位性や利益を「スケールメリット」と呼ぶことがある。

スケールメリット

規模を大きくすることで得られる効果や利益、優位性などのこと。和製英語であり、英語では “advantage(s) of scale” のように表現することが多い。

一般には、企業の事業などの経済活動において、生産や販売、購買などの規模などを拡大させていくことで生じる、主にコスト上の優位性を指すことが多い。

例えば、製品の生産量を増やすことで単位生産量あたりの固定費が下がって製造単価が安くなったり、資材を一か所から一度に大量に買い付けることで売り手に対する価格交渉力が高まり、同じ量を複数(の相手や回数)に分けて購入するより価格を下げられることなどが該当する。

規模の経済 (economy of scale)

経済活動において規模の大小によって有利、不利が生じる状況のことを「規模の経済」(economy of scale)という。同じ製品をより多く生産・販売することによって単位あたりのコストが減少し競争力が向上する現象などを指し、範囲の経済は一般的にはこちらを意味することが多い。

範囲の経済 (economy of scope)

一方、経済活動において事業の範囲の広さによって有利、不利が生じる状況のことを「範囲の経済」(economy of scope)という。同じ企業が複数の事業を運営すると一部の業務や設備、人員、間接費が共有されて専業の競合より優位になる場合があることなどを指す。水平方向の範囲の経済と考えることができる。

イノベーション

まったく新しい発想、革新的な手段・方法(の創造)、新機軸、などの意味を持つ英単語。画期的な新技術やまったく新しい物事の仕組みを創造し、世の中に変革を促すこと。

日本では技術分野におけるイノベーションを指して「技術革新」の訳語が当てられることもあったが、近年では技術に限らず様々な仕組みの変革や創造を含む概念としてイノベーションの語を外来語としてそのまま使うのが一般的となっている。

企業が宣伝文句に使う場合などには単に新技術の開発、新しい仕組みの導入などの意味で用いられることが多いが、本来はその結果引き起こされる社会の不可逆的な変化を含む概念であるとされる。

何を変革・刷新するかによって分類する場合がある。例えば、まったく新しい製品を創造することを「プロダクトイノベーション」、まったく新しいやり方や作り方、方法などを考案することを「プロセスイノベーション」、まったく新しい市場や販路を生み出すことを「マーケットイノベーション」などという。

変更管理

情報システムの運用などでシステムの構成要素に変更を加える際、その過程を事前に定めた手順に従って体系立てて管理すること。変更の計画作成、影響の評価や予測、承認、適用、結果の評価と記録といった一連のプロセスで構成される。

システムへの変更が野放図に行われることでサービスの提供に支障が生じたり、無計画なサービスの中断が起きることを防ぎ、停止時間(ダウンタイム)の最小化、サービス品質の安定、変更に伴うリスクの管理を可能とする。

チェンジマネジメントの対象は分野や業務により様々だが、ITシステムの場合にはオペレーティングシステム(OS)やアプリケーションソフトの新規導入やアップデート、機器や配線などの増設や交換、撤去、移動、組織体制の変更や担当者の異動、担当業務の変更、業務運用の見直しなどがある。ソフトウェアやシステムの導入については「リリース管理」「デプロイ管理」などとして別に管理することもある。

ベンチマーキング

企業などが自らの製品や事業、組織、プロセスなどを他社の優れた事例を指標として比較・分析し、改善すべき点を見出す手法。同業他社との相対評価。

改善対象となる分野や関心領域について、既存の優れた実践事例(ベストプラクティス)、自らより優れている競合他社の事例などを比較対象として選択し、同じ基準に揃えたデータなどを用いて比較・対照し、改善のために行うべき施策を検討・実施する。比較対象とする相手やその実績などを「ベンチマーク」(benchmark)という。

具体的な手法は様々だが、対象とする領域や主題を明確にすること、比較のために必要なデータや情報は彼我で同じ基準や参照元、調査手法により得ること、分析に終わらず具体的な施策に落とし込み、実施結果を評価することなどが重要であるとされる。

選択した主題によっては、比較対象として同じ業界内の競合ではなく、他分野・異業種でその主題について優れた実践を行っている組織などを選択する方が良い場合もある。航空会社が給油手順の改善のため自動車レースのプロチームに学んだ事例などが知られている。

ベストプラクティス

最善の方法、最良の事例、などの意味を持つ英語表現。何かを行う方法や工程、その実践例の中で、ある基準にしたがって最も優れていると評価されたもののこと。

ベストプラクティスとして評価された事例は、目指す(あるいは、超える)べき目標として競合相手などから比較対象とされたり、模範や標準として詳細な手法が紹介され、推奨されたり普及の促進が図られたりする。

意図しない偶然が作用した結果、たまたまうまくいった事例や、他では模倣や実践のしようのない要素や前提が含まれる事例は結果が最良であってもベストプラクティスとはみなされない。例えば、ある特定の人物の能力に依存している、法令違反が避けられないなどの要素があるなら、それがある観点から最善の結果を残した事例であっても参照すべきではない。

なお、ベストプラクティスは常にある時点における最良かつ再現可能な実践例であって、新技術が開発されるなど前提条件が変化して従来の手法が通用しなくなったり、それを超える新たな最善の事例が現れることがある。理論上の上限値のような固定的な存在ではなく、流動的で常に変化するものであることに留意する必要がある。

SDGs 【Sustainable Development Goals】

シラバス:Ver.9.0 (2023年)

国際連合で2015年に採択された国際的な開発目標。人類社会の持続可能性と開発の両立を目指すための17の目標から成る。

2000年に採択された前身のMDGs(ミレニアム開発目標)が2015年に期限を迎えたため、これに代わる開発目標として2015年に採択された。2030年までに達成すべき17の目標を示し、169の達成基準、232の指標が定められている。

17の目標は「貧困をなくそう」「飢餓をゼロに」「すべての人に健康と福祉を」「質の高い教育をみんなに」「ジェンダー平等を実現しよう」「安全な水とトイレを世界中に」「エネルギーをみんなに。そしてクリーンに」「働きがいも経済成長も」「産業と技術革新の基盤を作ろう」「人や国の不平等をなくそう」「住み続けられるまちづくりを」「つくる責任、つかう責任」「気候変動に具体的な対策を」「海の豊かさを守ろう」「陸の豊かさも守ろう」「平和と公正をすべての人に」「パートナーシップで目標を達成しよう」で、優先順位などは特に設定されていない。

経験曲線 【エクスペリエンスカーブ】

ある活動についての経験と効率の関係を図示したもの。経験が蓄積されるに連れて初期は急激に、次第に緩やかに効率が改善する右下がりの曲線となる。

ある個人の作業や課題に関して、経験と習熟度の関係を図示したものを学習曲線というが、この概念を拡張し、工場での生産など組織的な活動についても経験と効率の間に見られる関連性を表したものが経験曲線である。

多くの活動に普遍的に見られる傾向として、活動を開始した序盤には急激に効率が向上するが、時間の経過と共に改善度合いは次第に緩やかになり、ある一定の値に近づいていくという法則性がある。これを「経験曲線効果」(experience curve effect)という。

例えば、企業がある製品を製造し続けると、単位生産コストや完成までの作業時間は初期に急激に低下していき、次第に低下のペースが緩やかになり一定の値に近づいていく。縦軸をコスト、横軸を累積生産量として図示すると下に凸の曲線を描く。

コアコンピタンス

企業が事業を推進するために保有している能力や経営資源のうち、競合他社より圧倒的に優れている、あるいは、他社では真似できない独自の要素のこと。

その企業の競争力の中核となる「強み」のことで、そのような強みを持つ事業分野や部門、人材などのことを指すこともある。具体的に何をコアコンピタンスとするかは企業により様々であり、ノウハウや技術、技能、人的コネクション、ブランド、企業文化など様々な形を取る。

1990年にゲイリー・ハメル(Gary P. Hamel)氏とコインバトール・プラハラード(Coimbatore K. Prahalad)氏がハーバード・ビジネス・レビュー誌に寄稿した “The Core Competence of the Corporation” という論文で発表した概念で、コアコンピタンスとなる能力の条件として「様々な市場に適用できる」「顧客の利益になる」「競合に真似されにくい」の3つを挙げている。

日本では元の論文の表題どおりコアコンピタンス(core competence)の表記が定着しているが、英語では“core comepetency” (コアコンピテンシー)の表記が一般的となっている。どちらでも意味や用法は変わらない。

アウトソーシング

企業などが業務の一部を別の企業などに委託すること。外部委託、外注、外製、業務委託、社外調達などもほぼ同義。自社で人員を確保するのが困難な高度に専門的な業務や、専業の事業者の方が低コストで処理できるような業務で行われることが多い。

委託側は専門的な業務や周辺的な業務などをアウトソーシングすることで、自らの本業や強みを持つ業務や事業、部門に資源を集中できる。また、業務量の変動が大きい場合、仕事があるときだけ必要に応じて外部に発注することで、ピーク時に合わせて設備や人員を固定的に保有する必要がなくなる。

受託側は様々な企業から同種の業務のアウトソーシングを請け負うことで規模を拡大して固定費を節減でき、各企業が内部で行うよりも低コストで業務を遂行することができる。一企業では大きな繁閑差がある場合も、多数の企業から同じ業務を請け負うことで平準化することができる。

特に、コストの低さなどを見込んで海外の事業者へ業務を委託することを「オフショアアウトソーシング」(offshore outsourcing)あるいは「オフショアリング」(offshoring)、近隣国や国内の別の地方の事業者へ委託することを「ニアショアアウトソーシング」(nearshore outsourcing)あるいは「ニアショアリング」(nearshoring)という。一方、アウトソーシングと対比する文脈で、社内で行う業務や社内で抱える人員や部門などを指す場合は「インハウス」(inhouse)という。

M&A 【Mergers and Acquisitions】

ある企業が合併や買収により他の企業と統合して一体になること。合併・吸収、子会社化、事業売却・譲渡などの総称。広義には、合弁(共同出資)や資本提携(マイナー出資)、会社分割などを含む場合もある。

ある企業が他の企業の株式を買い占めて買収(acquisition)したり、複数の企業が合併(merger)して一つの企業になることを指す。買収では子会社化する場合と本体へ吸収する場合に分かれ、合併では法人自体が合併して一体となる場合と共同持株会社を設立して企業グループとして統合する場合に分かれる。

M&Aは自社にない製品や人材、技術、ノウハウ、販路などを持つ企業を丸ごと取得して自社の経営資源に加えたり、同業他社と合併して事業規模や市場シェアを高めたり、他分野の企業を買収して自社にとっての新規事業としたり、他国の企業を買い取って新市場に進出したりするために行われる。

エコシステム

シラバス:Ver.9.0 (2023年)

「生態系」という意味の英単語。ビジネス分野では、互いに独立した企業や事業、製品、サービスなどが相互に依存しあって一つのビジネス環境を構成する様子を生物の生態系になぞらえてこのように呼ぶことがある。

ビジネス上の繋がりとしては受注-発注、販売-購入といった直接的な取引関係が一般によく知られるが、エコシステムという場合は、このような直接的な商取引関係が無いにも関わらず、複数の事業者や製品などが互いに関連・依存し合い、総体としてある種の経済圏を形成する様子を表している。

IT分野では間接的な繋がりを介したビジネス環境が現れやすい。例えば、あるメーカーのスマートフォン製品向けに、そのメーカーとは別の企業がアプリケーションソフトを発売し、これが人気を博すと、そのアプリ目当てにその機種を求める消費者が増える。

これを見た他のソフトウェア企業も人気機種の利用者を目当てにアプリを提供するようになり、豊富な対応アプリを見てますます消費者が集まり…という循環的なプロセスが発生し、スマートフォンとアプリが互いに相手の普及を促進し合う関係となる。

この環境の中核にあるのはスマートフォンだが、人気のきっかけは他社の対応ソフトであり、それは必ずしも直接的な取引関係によって生み出されるとは限らない。このような、形式的には互いに独立している事業者や製品同士が組み合わされることで循環的に経済が駆動する様子を、食物連鎖などを通じて相互に結びついて繁栄する生物群になぞらえてエコシステムと呼ぶようになった。

IT分野でエコシステムを形成する中核となる製品やサービスの例として、パソコン、家庭用ゲーム機、オペレーティングシステム(OS)、スマートフォン、Webブラウザ、SNS、ECサイト、クラウドサービスなどが挙げられる。

インターネットやデジタル経済におけるエコシステムの基盤(プラットフォーム)を握る事業者は絶大な影響力を持ち、「プラットフォーマー」(和製英語)と呼称される。米グーグル(Google)社、米アップル(Apple)社、米フェイスブック(Facebook)社、米アマゾンドットコム(Amazon.com)社が特に有力とされ、4社の頭文字を繋げて「GAFA」(ガーファ)と呼ばれる。

アライアンス

同盟、連合、提携、縁故などの意味を持つ英単語。などに関しても用いるが、日本語の外来語としては企業間の提携、合弁、協業など(および、そのような関係にある企業グループ)のことを意味することが多い。英語の原義では国家や政党の同盟関係なども表す。

企業間のアライアンスという場合、資本関係や受発注関係のような力関係に差のあるグループではなく、互いに独立した企業同士の対等な提携関係や共同事業を表すことが多い。主従関係に至らない範囲で株式の持ち合い等の資本提携を行う例はある。

異業種間で互いに必要な機能や役割を提供し合う提携関係を指すことが多いが、同業種や事業に共通点のある企業間で共通の制度を運用したり、同じ技術規格を推進したりする連合体の名称として用いられることもある。

著名な例として、航空業界で共通のマイレージプログラムや共同運行などを推進する各国航空会社の連合体や、消費者向け事業を営む企業間で顧客に発行したポイントを相互に利用できるようにする提携プログラム、IT業界に多く見られる特定の標準技術を支持する企業連合などがある。

プロダクトポートフォリオマネジメント 【PPM】

複数の異なる分野の製品や事業を抱える企業で、経営資源の最適な配分比率を分析・決定するための手法。製品・事業分野を市場の成長性と自社の市場占有率(マーケットシェア)に基いて分類する。

代表的な分類法では、市場の成長性の高低と自社の市場シェアの高低により、事業や製品を4つの類型に分類する。この分類に基づいて、より多くの投資をすべきか、現状を維持すべきか、撤退を考えるべきかを決めていく。

負け犬 (dog)

成長率が低くシェアも低い分野は「負け犬」と呼ばれる。投資を増やしても今後も利益が見込めないことが予想され、撤退や売却、縮小により経営資源を他に振り向けることを考えるべき分野とされる。

金のなる木 (cash cow)

成長性は低いがシェアが高い分野は「金のなる木」と呼ばれる。市場が成熟しているため今後の高い成長は見込めないが、シェアが高いため当面は多くの利益が見込める。追加投資が少なくて済み現状を維持することが望ましいと考えられる。

花形 (star)

成長性もシェアも高い分野は「花形」と呼ばれる。市場自体の高い成長率のため競争が激しく多くの追加投資が必要となるが、シェアを維持できれば将来的に「金のなる木」に移行する可能性を秘めている。

問題児 (question mark)

成長性は高いがシェアが低い分野は「問題児」と呼ばれる。投資を加速して競合に打ち勝てば「花形」に、さらには「金のなる木」に成長する可能性があるが、逆転できなければそのまま「負け犬」となる。

シェアードサービス

大企業や企業グループなどで、どの会社・部門にも共通するような業務や部署を一つの組織に集約し、共同で運営するようにしたもの。総務、人事、経理などの間接部門や、メーカーにとっての物流など中核業務以外の部門について行われることが多い。

共通する業務を手がける部署を各企業・部門から分離し、本社直属の子会社などの形に集約する。シェアードサービス会社(共通機能子会社)はグループ内の各社・各部門を顧客としてサービスを提供し、手数料などを徴収して運営される。

社内の傍流部門ではなく専業の会社にすることで、スタッフの士気向上、人材交流やノウハウの共有による専門性やサービス品質の向上、コストの低減や平準化などを目指す。専門性やコスト競争力を高めることでグループ外の企業から同種の業務を受注し、業容を拡大し独自に収益を上げている事例もある。

クラウドファンディング 【クラファン】

資金を必要とする個人や団体、プロジェクトなどが不特定多数の相手から少額の資金を募る手法。特に、専門の仲介サイトで詳細を告知して資金提供者を募集すること。

資金を募って活動を行いたい場合、まとまった大口資金を少数から集める手法だと、限られた富裕な人や団体の好む事業しか実現できず、また、少数の大口出資者の都合や意向にプロジェクト運営が大きく左右される問題があった。

クラウドファンディングの “crowd” は「群衆」、“funding” は「資金調達」という意味で、ネットを通じて広く一般に資金提供を呼びかけ、数千円から数万円といった小口の資金を多数の賛同者から集める。多くの人が少額を拠出する形を取ることで個々の出資者の影響を小さく抑えることができる。

また、資金を募集する過程自体がある種の宣伝やアピールとして機能し、対象の事業に強い興味を持つ「ファン」や製品の潜在顧客を組織したり、その意見をプロジェクトに反映させることができる。出資者はプロジェクトに愛着を持ち成功を強く祈るようになり、口コミで他の出資者を探したりプロジェクトの存在を広めてくれることも多い。

種類と対象

見返りの有無や種類によって、特に見返りのない「寄付型」の募集と、通常の出資や貸付のように利益が出たらその一部を受け取れる「投資型」、開発した製品やサービスを無償または安価で受け取ったり利用したりできる「購入代金前払い型」に分類することができる。

クラウドファンディングの対象となるのはベンチャー企業への出資や、新しい工業製品やソフトウェアの開発プロジェクトなどが多いが、これに留まらず、政治運動や市民運動、映画やビデオゲームなどの作品制作、スポーツチームや芸能グループの活動継続、舞台や興行の開催、公的部門からの資金の乏しい学問研究、災害復興支援、街づくりや地域活性化などへの資金の募集にも用いられている。

問題点

資金提供の条件やプロジェクト運営の手法、情報開示などについて法規制等はなく、クラウドファンディングサイトが利用者にガイドラインを示すといった取り組みはしているものの、資金の払込後に連絡が取れなくなるといった詐欺まがいの事案が発生することがある。また、個人運営のプロジェクトを中心に見返りの内容や資金使途の公開などを巡ってトラブルになる事例が多く見られる。

ブルーオーシャン戦略

企業の経営戦略の一つで、競争の激しい既存の市場を避け、それまでになかった価値を提示する独自の製品やサービスにより、それまで知られていなかった新たな市場を開拓するというもの。

一つの製品カテゴリー内で多数の企業が競合し、低コスト化や高付加価値化による激しい競争を繰り広げる既存の市場を、血で血を洗う死屍累々の「レッドオーシャン」とし、その争いに巻き込まれない新たな市場である「ブルーオーシャン」を作り出すことを目指す戦略である。

そのためには、自社の製品やサービスに対し、既成概念に囚われず大胆に何かを「取り除く」「減らす」「付け加える」「増やす」という決断を行い、既存の他社製品と比較されにくい新しい製品カテゴリーとして認識させることが重要となる。

2005年にフランスの経営大学院(ビジネススクール)であるINSEADの教授、W・チャン・キム(W. Chan Kim)氏とレネ・モボルニュ(Renee Mauborgne)氏が共著「Blue Ocean Strategy」(ブルーオーシャン戦略)で提唱した。

氏らは具体例として、性能競争が過熱していた家庭用ゲーム機市場において新たな操作機器および操作方法により今までにないゲーム体験を提供し、既存の熱心な「ゲーム好き」以外の新たな顧客層を開拓した任天堂の「Wii」や、洗髪やひげ剃りを省略し、カットのみ10分1000円で安く素早く散髪できる理容店チェーン「QBハウス」などを挙げている。

ESG投資 【Environmental, Social and Governance investing】

シラバス:Ver.9.0 (2023年)

企業への投資を検討する際、「環境」「社会」「企業統治」の3つの要素を判断材料として用いること。年金基金などの機関投資家を中心に世界的に広まりつつある。

従来の投資判断は企業が生み出す利益に着目し、売上高や経常利益、利益率、キャッシュフローといった金銭的な指標(財務指標)によって企業価値や投資可否を検討するのが一般的だった。

ESG投資ではこれらの指標に加えて、地球環境(E:Environment)の保護に対する取り組みや実績、国際社会や地域社会(S:Society)への貢献や負の影響の軽減、不正や専横の防止といった経営陣による企業統治(G:Governance)に関する状況を勘案する。

こうした側面は必ずしも短期的な収益や企業成長に直接的に寄与するとは限らないが、これらに真剣に取り組む企業に資金が集まり安定的に成長することで、持続可能で安定した経済・社会を築き、長期的な投資リスクの軽減に繋がることが期待される。

国連責任投資原則 (PRI:Principles for Responsible Investment)

国連が2006年に世界の金融業界に向けて提唱した投資活動に関する原則で、ESG投資のガイドラインとして用いられている。投資家としての6つの原則と、これに基づく35の具体的な行動で構成される。

各原則の内容は「投資判断にESGを採用する」「株主としてESGの観点から行動する」「投資先にESGについて情報開示を求める」「資産運用業界にPRIの採用を働きかける」「PRIの効力を高めるために互いに協力する」「投資家としてのPRIへの取り組み状況を開示する」となっている。

2006年に国連環境計画(UNEP)および国連グローバル・コンパクト(UNGC)が中心となって策定したもので、以降は同名の国連外郭団体(The PRIあるいはUNPRIと呼ばれる)が設立され、引き続き推進している。日本では2015年に年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が署名したことで注目を集め、資産運用会社や保険会社など数十の機関が署名している。

SWOT分析 【Strengths-Weaknesses-Opportunities-Threats analysis】

組織や個人が目標達成に向けて行動するうえで支援または障害となる要因を整理する手法の一つ。要因を「外的」か「内的」か、「ポジティブ」か「ネガティブ」かによって4領域に分類する方式。

要因がその組織や個人に内在するか環境によるものか、目標達成の助けになるか妨げになるかによって、“Strengths”(強み:内的・支援)、“Weaknesses”(弱み:内的・障害)、“Opportunities”(機会:外的・支援)、“Threats”(脅威:外的・障害)の4種類に分類する。

外部環境は自らの意思や努力では変えられない前提条件であり、先に外的要因(機会・驚異)から分析を始め、続いて内的要因(強み・弱み)へと進むのが一般的であるとされる。外的要因の分析にはPEST分析やファイブフォース分析、3C分析など他のフレームワークを併用する場合もある。

各要因のリストアップが終わったら、外的要因と内的要因を掛け合わせた4通りの組み合わせのそれぞれのについて、どのような施策が考えられるか検討する「クロスSWOT分析」(単にクロス分析とも)を行う。

「強み×機会」について、強みを活かして機会を最大限に活用する方策を、「強み×驚異」について、強みを活かして驚異に対抗する方策を、「弱み×機会」について、弱みによって機会を逃さないようにする方策を、「弱み×驚異」について、弱みが驚異に晒され最悪の事態に至ることを避ける方策を、それぞれ検討していく。

VRIO分析 【Value, Rarity, Imitability, and Organization】

シラバス:Ver.9.0 (2023年)

企業や事業についての分析を行う枠組み(フレームワーク)の一つで、企業などの保有する資源や能力を「価値」「希少性」「模倣可能性」「組織」の4つの観点から分析する手法。

ある企業やその事業の競争力を分析するためのフレームワークの一つで、1991年に米経営学者ジェイ・バーニー(Jay Barney)氏が考案した。企業の保有するヒトやモノ、ノウハウ、ブランド、知的財産といった経営資源と能力を4つの観点から総合的に評価する。

価値(V:Value)についての観点は、企業の持つ資源や能力が、市場で機会を得たり脅威を軽減するための役に立つかどうかを問う。技術革新や経済情勢といった機会を活かして収益を得ることができるか、ライバル企業や代替製品といった脅威に対抗し得るかという観点で評価する。

希少性(R:Rarity)についての観点は、資源や能力にどれだけ独自性があるか、市場で希少性を持つか、競合他社が獲得することは困難かを問う。希少な独自の資源や能力は他社に対抗する力の源泉となり得る。希少性がある場合、それが今後どのくらい続きそうかといった評価も行う。

模倣可能性(I:Imitability)についての観点は、自社の持つ希少な資源や能力を持たない競合他社は、どの程度のコストでこれを模倣することができるかを問う。希少な資源を持っていても低コストで複製、模倣、代替が可能では競争上の優位には繋がらないため、模倣の困難さについて評価を行う。

組織(O:Organization)についての観点は、自社の持つ資源や能力を活用して事業展開できる組織が構築されているかを問う。希少で価値のある資源や能力が実際に利益を生んだり製品として競争力を発揮するには、製品開発や生産、販売などの業務を遂行する組織的な体制が整備されていなければならない。これには部署や人員の整備だけでなく、適切なインセンティブが働く給与体系といった要素も含まれる。

バリューチェーン分析

製品やサービスを提供する過程のどこでどれだけ付加価値が与えられていくかを分析し、経営資源の配分を最適化したり、競合他社と比較した強みや弱みを明らかにすること。

「バリューチェーン」(value chain)とは1985年にハーバード大学のマイケル・ポーター(Michael E. Porter)教授が提唱した概念で、企業が製品を顧客に届けるまでの各段階を、コストを支払って価値を付け加える活動(価値活動)の積み重ねであるとする考え方である。

バリューチェーン分析では企業活動を製造、販売といった工程に分解し、各工程のコストと付加された価値を分析する。その際、製品の提供に直接関わる購買や製造、流通、販売、マーケティングなどの工程を「主活動」、会計や人事、研究開発などの間接的な業務を「支援活動」としてそれぞれ分析する。

コストと付加価値に基づいて各工程の分析を行うことで、価値提供に貢献していない工程に多くのコストがかかっていたり、大きな価値を付け加えているのに投資が不十分な部門があるといった状況が把握できる。また、競合他社についても同じように分析し、比較を行うことで、自社の強みや弱みを把握することができる。

アンゾフの成長マトリクス 【Ansoff matrix】

企業の成長戦略を、市場の新規性の有無、製品の新規性の有無の組み合わせで4つに分類し、格子状に図示したもの。市場と製品の特徴から、取るべき戦略を類型化している。

1957年にアメリカの経営学者イゴール・アンゾフ(Igor Ansoff)氏が考案した。縦軸を当該企業にとっての市場の新規性(新規/既存)で2分割し、横軸を製品やサービスの新規性(新規/既存)で2分割することにより、平面を4つの象限に分割する。

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これら4つの象限はそれぞれ、現在の市場で既存製品の売上を拡大する「市場浸透」戦略、現在の市場へ新規に開発した製品を投入する「新製品開発」戦略、未経験の市場へ既存製品を売り込む「市場拡大」戦略、未経験の市場へ新規に開発した製品を売り込む「多角化」戦略に対応する。

3C分析

企業がマーケティングなどを行う際に用いる分析手法の一つで、「顧客」(市場)、「競合」、「自社」の3つの要素に着目して事業環境を調べること。

「顧客」(Customer)は想定顧客や市場環境の分析で、市場の規模や成長性、想定する顧客層のニーズや行動特性を検討する。「競合」(Competitor)は市場で競合する他社の分析で、各社の現在の市場シェアやポジション、戦略や特性、強みや弱みなどを明らかにする。

「自社」(Company)は自社の経営理念や経営戦略、事業の現況、強みや弱み、動員できる経営資源などをまとめる。自社の分析ではSWOT分析やVRIO分析などを併用する場合もある。これら3つの「C」を合わせた分析手法であるため「3C分析」と呼ばれる。

1982年に大手経営コンサルティング会社、マッキンゼー・アンド・カンパニーに在籍していた大前研一氏が提唱した手法である。3Cに加えて「協力者」(Cooperator)や 「流通チャネル」(Channel:販売代理店など)を加えた「4C分析」、さらに「コミュニティ」(Community:地域社会など)を加えた「5C」、自社の3Cと顧客の3Cを分析する「6C分析」などのバリエーションがある。

コンジョイント分析

シラバス:Ver.9.0 (2023年)

マーケティング調査・分析手法の一つで、製品やサービスについて消費者がどの属性をどの程度重視して選択しているかを明らかにする手法。

製品は様々な属性で成り立っており、「性能を上げれば上げるほど、価格は高くなる」といった互いにトレードオフの関係になっているものもある。各属性の水準をどのように組み合わせれば消費者に受け入れられるかを調べるのがコンジョイント分析の目的である。

調査を行うために、まず対象となる属性と、各属性の水準を明らかにする。これらを組み合わせて具体的な製品のプロファイルをいくつか作成し、消費者に評価してもらう。回答は好ましい順に順位を付けてもらったり、それぞれに得点を付けてもらうなどの方法を用いる。

属性や水準の数が多いと、すべての組み合わせを用意するのが現実的ではなくなることがある。例えば、属性が4つあり、それぞれ水準が3段階なら34=81通りとなってしまう。実際のプロファイル作成では、直交表という整理法を用いて少ない組み合わせで各水準を公平に評価できるようにすることが多い。

得られた回答群を統計的に処理することで、属性ごとに各水準がどの程度消費者の判断に影響を与えているかを表すグラフが得られる。横軸は水準、縦軸は効用値と呼ばれる-1.0~1.0の範囲に正規化された値で、1.0に近いほど高い購買意欲を喚起し、-1.0に近いほど敬遠されることを表している。

グラフが斜めに大きく傾いており、水準ごとの効用値の変化が大きい場合は、消費者はその属性の水準の違いに敏感であることを表しており、効用値の低い水準の採用は避けた方が無難であると判断できる。水準ごとの効用値の変化が小さい場合は消費者はその水準にあまり関心を払っておらず、あまり重視する必要がないことが分かる。

サンプリング 【標本化】

対象全体の中から何らかの基準や規則に基いて一部を取り出すこと。統計調査などで少数の調査対象を選び出すことや、信号のデジタル化などで一定周期で強度を測定することなどを指す。

アナログ信号のサンプリング

信号処理の手法の一つで、アナログ信号などの連続量の強度を一定の時間間隔で測定し、観測された値(標本値)の列として離散的に記録することをサンプリングということが多い。デジタルデータとして記録したい場合は、値を整数などの離散値で表す「量子化」(quantization)処理が連続して行われる。

測定の間隔を「サンプリング周期」(sampling cycle:標本化周期)、その逆数である測定の頻度(単位時間あたりの回数)を「サンプリング周波数」(sampling frequency:標本化周波数)という。頻度の多寡は通常サンプリング周波数で表現され、単位として1秒あたりの回数を表す「Hz」(ヘルツ)が用いられる。

例えば、音声を44.1kHz(キロヘルツ:Hzの1000倍)でサンプリングする場合、音声信号の強度を毎秒4万4100回記録し、音声データを1秒あたり4万4100個の数値の列として表現する。44.1kHzは人間の可聴音をほぼカバーする周波数とされ、CD(コンパクトディスク)などの音声記録に用いられている。

統計・調査におけるサンプリング

統計や調査などの分野では、調査したい母集団全体を対象とすることが困難な場合に、集団を代表する少数の標本を抽出して対象とし、その結果から統計的に母集団の性質を推計する手法をサンプリングという。製品の出荷時検査や社会調査などで広く用いられ、標本から母集団の推定値を算出する方法や偏りのない標本の抽出方法などについて様々な手法が提唱されている。

音楽におけるサンプリング

音楽の分野では、楽曲の制作手法の一つで、既存の楽曲や何らかの音源からメロディや歌詞、あるいは音声そのものの断片を抽出し、引用したり繋ぎ合わせる技法をサンプリングという。また、録音した楽器の音や環境音、人や動物の声などを短い単位に分解し、再構成して楽曲に仕上げる手法のことをサンプリングということもある。

デザイン思考 【デザインシンキング】

シラバス:Ver.9.0 (2023年)

デザイナーがデザインを行う際に見られる認知パターンや思考過程のこと。また、これを体系化し、デザイン以外の様々な問題解決プロセスに応用する方法論。

何かをデザインする際に共通して見られる過程を考察・整理したもので、人々が求めているものに対する理解、課題を解決する創造的なアイデアの考案、試作や試験の繰り返しなどで構成される。問題に対するこのようなアプローチは、明確に定義されていない、または未知の複雑な問題に取り組む場合に特に有用となる。

5つのステップ

2005年にスタンフォード大学ハッソー・プラットナー・デザインスクール(d.school)がまとめた、「共感」(emphasize)、「定義」(define)、「アイデア出し」(Ideate)、「試作」(Prototype)、「試験」(Test)の5段階からなる過程がよく知られる。

「共感」は製品の利用者など、人々が求めているものを探る段階で、行動の観察や聞き取りなどを通じて理解を深める。「定義」は集めた情報を整理・分析する段階で、取り組むべき中心的な課題を導き出す。自社にとってのではなく人々にとっての課題である。

「アイデア出し」では、ブレーンストーミングなどの手法を活用して、思い込みに囚われない自由な発想で解決策に繋がるアイデアを生み出していく。多数のアイデアを分類してパターンを見出したり、統合や選択を繰り返して解決策へ落とし込んでいく。

「試作」は実際に新製品の試作品(プロトタイプ)を制作するなど、解決策を実装、具現化していく過程である。「試験」は試作品など得られた実装をテストして評価する過程で、実際に対象ユーザーに試作品を使ってもらうユーザーテストなどが活用される。

これらの過程は直線的に一度ずつ行われるとは限らず、後戻りや繰り返しが何度も行われることもある。例えば、テスト結果を受けて改良版を試作したり、試作品制作の過程で得られた知見から新しいアイデアが生み出され、試作をやり直すといったことが起き得る。

マーケティングミックス

企業が製品の企画・開発や売り出しを行なう際に用いられるマーケティング施策の組み合わせ。どのような製品を作り、誰にどのように売り込むのか、といった内容を一貫性を持って定めたもので、「4つのP」あるいは「4つのC」に着目して定義されることが多い。

企業などがマーケティングを実施する一般的な流れとして、まず市場の調査や分析(マーケティングリサーチ)を行い、市場のセグメンテーションや自社のポジショニング、顧客のターゲティングなどを行う(STP分析)。その後、具体的な実行計画としてマーケティングミックスの策定を行い、これに沿ってマーケティング施策を実行に移す。

マーケティングミックスの枠組みとしてよく「4つのP」(マーケティングの4P)が参照される。これは “Product” (製品)、 “Price” (価格)、 “Promotion” (宣伝)、 “Place” (立地・流通)の4つの頭文字を繋いだもので、これらの観点から施策を具体化していく。

これに替えて、「4つのC」(マーケティングの4C)を参照する場合もある。これは “Consumer” (消費者の要求)あるいは “Customer Value” (顧客にとっての価値)、 “Cost” (顧客にとってのコスト)、 “Convenience” (手に入れやすさ)、 “Communication” (顧客との対話)の4つの要素を用いる枠組みである。

ロイヤリティ 【ロイヤルティ】

英単語の “loyalty” あるいは “royalty” を音写した外来語。前者は忠誠(心)などの意味で、組織の構成員の忠誠心や、顧客が企業や製品に抱く親近感や愛着心などのことを指す。後者は権利料や王権といった意味で、知的財産権などの使用者が権利者に支払う対価などのことを指す。いずれの場合も「ロイヤ “リ” ティ」「ロイヤ “ル” ティ」と後ろのL音について二通りの表記の揺れがある。

loyalty

忠誠(心)、忠義、忠実、誠実、愛情、愛着などの意味を持つ英単語。原義は国家や組織、主君への忠誠心、忠実さいった意味で、ビジネスの分野では、従業員の愛社精神や、顧客や消費者の企業や製品、ブランドなどへの愛着、信奉、親しみなどのことを指すことが多い。

顧客顧客ロイヤルティあるいはブランド顧客ロイヤルティという場合、複数の製品やブランドが競合している市場で、消費者が好んである製品やブランドを選択・購入したり、顧客が好んで繰り返し特定の製品やブランドを購入することや、その度合いの強さを意味する。セールスやマーケティングの分野では顧客ロイヤルティの形成や維持、強化が大きなテーマの一つとなっている。

royalty

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使用料、印税、許諾料、権利料、王族、王権、王位などの意味を持つ英単語。ある知的財産などの権利を持つ者が、その権利を利用する者から徴収する料金などのことを顧客ロイヤルティという。著作権や商標権、特許権などについて実施されることが多い。

例えば、ある発明について特許権を得た人に対し、その発明を応用した製品を製造・販売する事業者が支払う特許使用料を顧客ロイヤルティという。算定基準や金額などは当事者間で交渉して契約として取り決めることが多いが、音楽著作権のように特定の団体などが一律の基準や方法で徴収を行なう方式が確立している業界もある。

ロイヤリティフリー (royalty-free)

著作物や知的財産の利用に関し、あらかじめ決められた契約や規約の範囲内ならば無償で自由に使用してよいとする方式。写真や画像、イラストなどの販売でよく用いられる。

ロイヤリティフリーを宣言する著作物などには、販売パッケージに付属する契約書などに一定の使用許諾条件が記載されており、条件を満たす枠内であれば改めて権利者に許諾の申請や使用料の支払いをしなくても複製や加工、再配布、自らの著作物への組み込みなどを行なうことができる。何をどこまでできるのかについて一般的には取り決めはなく、個別の事例により大きく異なるため、必ず規約に示された条件を確認する必要がある。

パブリックドメイン(public domain)など類似の概念と異なり、権利者は著作権や知的財産権などを放棄したわけではなく、購入者・使用者へ何らかの権利が譲渡されるわけでもない。すべての権利は原権利者や販売者が留保したままであり、規約の範囲を越えて、あるいは製品の購入者やサービスの契約者以外が無断で使用すれば、権利侵害として使用差し止めや損害賠償請求を求められる場合がある。

UX 【User Experience】

ある製品やサービスとの関わりを通じて利用者が得る体験およびその印象の総体。使いやすさのような個別の性質や要素だけでなく、利用者と対象物の出会いから別れまでの間に生まれる経験の全体が含まれる。

対象物の機能や性能、内容、使い勝手といった性質そのものよりも、それを通じて利用者が得られる経験がどのようなものであるかに着目する概念である。対象物の持つ特性だけでは決まらず、利用者側の属性や個性、利用者を取り巻く環境や利用時の状況などにも強く影響を受けるため、作り手側ですべてを制御することは難しい。

よく混同されるが、「ユーザーインターフェース」(UI:User Interface)は対象物の具体的な使用・操作の方法や様式を定めたもので、「ユーザビリティ」(usability)は対象物の使い勝手、使いやすさを指す。UXはこれらの要素を含むが、これらを通じて得られる最終的な体験、および体験を通じて惹起される感情が中心となる。

また、従来は製品の使用感をある一回(初回)の使い方や印象に限定して捉えることが多かったが、UXはこれを通時的に捉える。すなわち、製品やサービスと利用者との出会い(プロモーションや販売・加入など)、使用の開始(開封や初期設定など)、使用の継続や反復(様々な状況・環境を含む)、使用の終了(廃棄や買い替え、解約など)といった各場面における利用者の感じ方をそれぞれ検討する。

“user experience” という表現自体は以前から使われていたようだが、1990年代半ばに当時の米アップルコンピュータ(Apple Computer)社(現アップル)に勤務していた認知心理学者のドナルド・ノーマン(Donald A. Norman)博士により、コンピュータやソフトウェアなどの分野で現在の用法が広まったとされている。

現在ではITの分野に限らず工業製品や小売業など様々な分野で引用される概念となり、また、「対象者の体験の総体に着目する」という考え方から「カスタマーエクスペリエンス」(CX:Customer Experience)など様々な “~ experience” という派生概念を生み出している。

コンバージョンレート 【CVR】

企業と何らかの接触を持った見込み顧客のうち、実際に顧客やサービス会員に転換(conversion)した人の割合。例えば、オンラインストアの来訪者のうち商品を購入した人の割合をこのように呼ぶ。

通常はECサイトやネットサービスなどのWebサイトについて用いられる指標で、サイトへの訪問者のうち、成約や会員登録、資料請求など、サイト側にとって「成果」となる行動を起こした人の割合を意味する。

コンバージョン率が0%ならば来訪者が誰も商品を購入しない状態を状態を表し、100%ならばすべての来訪者が商品を購入したことを表す。この値が高いほど、見込み顧客を少ないコストで効率よく顧客に転換できていることになる。

サイト訪問者数に対する割合だけでなく、流入経路ごとに算出する場合もある。例えば、外部の様々なサイトに様々なパターンの広告を出稿している場合に、流入元のサイトや表示内容(クリエイティブ)ごとにコンバージョン率を算出し、最も効果の高かった出稿方法を割り出すといった手法が用いられることもある。

CRO (コンバージョンレート最適化/CVR最適化)

オンラインショップなどのWebサイトの改善手法の一つで、コンバージョン率を向上させる施策を行うことをコンバージョン率最適化(CRO:Conversion Rate Optimization)という。

来訪者が購入や申し込みなどの手続きを行わず離脱するのを防ぐための施策を指し、サイト内で外部からの流入から成約へ至るまでの動線の見直し、入力フォームの改善、購入案内などへの誘導の仕方の改善などが行われる。

具体的にどのような手法が効果的かは分野や個別のサイトによっても異なるため、ユーザーインタビューなどの定性的な調査や、複数のパターンを試して効果の高い方を確かめるA/Bテストなどの定量的な調査を繰り返して徐々に改善していくことが多い。

製品ライフサイクル 【PLC】

ある製品の発売から終売までの販売状況の時系列の変化。または、ある製品の個体がたどる、製造から廃棄までの物理的な過程。どちらを指しているかは文脈から判断する必要がある。

製品の販売状況のライフサイクルは一般的に、導入期(発売)→成長期(販売急増)→成熟期(飽和、頭打ち)→衰退期(販売減)という過程をたどる。製品カテゴリー全体や産業全体がこのような過程をたどることも多い。

衰退期に入っても、名称やパッケージ、内容などのリニューアル、新たな用途や顧客の開拓などによって新たに導入期や成長期を迎える場合もある。定番化したロングセラー製品は成熟期のまま長期間安定的に推移することがある。

製品個体の物理的なライフサイクルは一般的に、(企画→設計・開発→)製造・生産→販売→保守・運用・サポート→廃棄・回収(→リユース・リサイクル)、といった過程をたどる。この過程の全体に渡って最適化や効率化を図るため、各部門が連携して包括的に管理することを「製品ライフサイクル管理」(PLM:Product Life-cycle Management)という。

コモディティ化

各生産者ごとの製品の特徴の違いが次第に失われ、均質化・均等化していくこと。価格など製品の性質以外の要素のみで競争が行われるようになる。

工業製品などでよく見られる現象で、当初は各社が製品の機能や性能、特徴の違いを積極的に打ち出して競争していたが、様々な要因によりメーカーごとの違いが失われ、どこも同じような製品を生産・販売するようになる状況を意味する。生産者による違いが見られない商品のことを「コモディティ」(commodity)という。

コモディティ化した商品の市場では消費者・需要者側にとっては商品そのものは「どこから買ってもほとんど同じ」で、違うのは価格や納期ぐらいであるため、激しい価格競争が起こり利益率が低下することが知られている。

コモディティ化が起こるのは、技術が成熟して機能や性能、品質の大幅な向上・改良が見込めなくなった場合や、製品や要素技術の規格化が進んで独自の仕様や技術の採用が難しくなった場合、法律や制度、基準、規制などが厳しくなり、これに適合するように設計すると独自性を盛り込む余地がほとんどない場合などがある。

IT業界でよく知られる事例にはパソコンがある。1980年代の初期の市場では各メーカーが個別仕様の機種を開発し、機能や性能、特色を競い合っていたが、ハードウェアが「PC/AT互換機」に、OSが「MS-DOS」や「Windows」に収束すると、各社は標準仕様から逸脱した製品を開発しにくくなり、独自路線を貫き続ける米アップル(Apple)社の「Mac」シリーズを除いてほぼコモディティ化した。

カニバリゼーション 【カニバる】

「共食い」という意味の英単語で、ビジネスにおいて自社の製品や店舗間で同じ顧客や市場を巡って競合、奪い合いが発生する状況を指す。

同じ企業や同一企業グループの中で、複数の製品やブランド、販路などが同じ顧客や売り場、商圏などで競合し、売上や利益、市場シェアを奪い合う現象を指す。俗に「カニバる」「カニバっている」のように動詞化した表現が用いられることもある。

例えば、同一カテゴリーの同一価格帯に別ブランドの似たような製品を投入する状況や、既存店舗のすぐ近くに同じチェーンの別の店舗を展開するような状況、同一の商品を店舗とオンラインショップの両方で販売するような状況などが該当する。

カニバリゼーションは経営の失敗の結果、意図せず発生する場合と、戦略上あえて引き起こす場合がある。意図せず起きるカニバリゼーションは、社内の統制が取れずに別の部署が似たような製品をぶつけ合ってしまう場合や、新しい製品カテゴリーやブランドを開拓したつもりが、既存製品のシェアを奪うだけに終わってしまった場合などが該当する。

一方、意図的にカニバリゼーションを引き起こす場合として、圧倒的なトップ企業が社内の部署同士を互いにライバルとして同じ市場内で競争させる場合や、市場や商圏から他社を追い出すために自社競合を承知で高密度の展開をする場合(ドミナント戦略)などがある。

コストプラス法 【CP法】

製品の価格を決定する方法の一つで、かかったコストに一定の利幅を加えた金額を価格とするもの。

コスト志向(原価志向)の価格決定法の一つで、製品を製造・販売するのにかかった直接費に、企業の維持・運営などにかかる間接費、一定の利益を加えて製品価格とする。

売れれば確実に利益が出るものの、需要や競合の要素を勘案しないため、売り手の交渉力が強い独占・寡占的な市場や公共サービスなどでよく用いられる。また、契約締結時にはコストがはっきり分からないシステム開発や建設などの業界で、買い手側から一定の上限や制約を課された上でコストプラス法による価格決定が行われることがある。

コスト志向の価格決定法としては他に、主に流通業で仕入れ値に一定のマージンを乗せて販売価格とする「マークアップ法」や、総費用に対して目標とする投資収益率(ROI)を実現できるよう価格を設定する「目標利益法」(目標収益法/損益分岐点法)がある。

スキミングプライシング 【上澄み吸収価格戦略】

製品の価格戦略の一つで、新製品の市場投入の初期に高価格を設定し、迅速な投資回収を目指す戦略。他社との競争が激しくなる前に用いられることが多い。

競合他社が未だ参入を果たしておらず「一番乗り」を実現できた場合などに用いられる戦略で、機能や品質が高い製品を高価格で投入し、限られた顧客に販売することで高収益を挙げ、後発が追いつく前に開発費用などを回収する。

製品や市場の特性として、価格の需要に対する影響(価格弾力性)が小さく、「新しければ高くても買ってくれる」富裕な顧客層(イノベーター)が存在することが前提となる。2番手以降の競合は同等品を低価格で投入して対抗してくることが多く恒久的な施策とはなりにくいが、初期に高いブランドイメージが確立できれば上位の顧客層で高価格帯を維持できる場合もある。

これとは逆に、市場参入の初期に原価を割り込むような極端な低価格を設定して一気に市場シェアを獲得し、競合の放逐、生産拡大によるコスト低減などを目指す価格戦略を「ペネトレーションプライシング」(市場浸透価格戦略)という。

ペネトレーションプライシング 【市場浸透価格戦略】

シラバス:Ver.9.0 (2023年)

製品の価格戦略の一つで、新製品の市場投入の初期に利益度外視の低価格を設定し、市場シェアの獲得を狙う戦略。市場シェアの高さ自体が競争力をもたらすような製品で行われることが多い。

赤字も厭わない極端な低価格で製品を大量に供給し、競合の追随を断念させ大きな市場シェアの占有を試みる。消費者にブランドを浸透させ「○○といえば××」という第一想起の地位を獲得し、大量販売によって後から徐々に収益を上げていく。

前提条件として、供給を増やすほど単位コストが低下(規模の経済、購買交渉力、経験曲線効果など)すること、価格次第で需要が大きく変動する(価格弾力性が大きい)こと、市場シェアが競争力を大きく左右することなどが必要となる。初期の投資や損失が膨大になることがあり、大きなリスクを伴う。

これとは逆に、市場参入の初期に高価格を設定し、限られた上位の顧客層のみをターゲットとすることで早期に投資回収を狙う価格戦略を「スキミングプライシング」(上澄吸収価格戦略/上層吸収価格戦略)という。新しい市場や製品に「一番乗り」を果たした企業によく見られる。

ダイナミックプライシング 【動的価格設定】

シラバス:Ver.9.0 (2023年)

製品の価格戦略の一つで、同じ商品でも状況に合わせて時々刻々を価格を変化させて販売する方式。購入時期や適用時期(サービスの利用時期)によって価格が大きく異なることがある。

商品の仕様やグレードなどに応じて標準的な価格帯は設定しつつ、実際の売価は市場の需要や供給に応じて日単位や曜日単位、週単位、月単位、あるいは一定の期間ごと(繁忙期・閑散期など)で刻々に変化させる。需要が多い時期には高く、少ない時期は安く販売する。早期に購入するほど割り引く方式を採用あるいは併用する場合もある。

主に宿泊施設や交通機関、施設の入場券、スポーツ観戦や観劇、コンサートなどのイベントで用いられる。これらは商品の性質としてサービス提供が特定の日時や場所に紐付けられており、供給量を短期間で大きく変動させることが難しいという特徴がある。

ダイナミックプライシングを導入することで、提供側は閑散期の割引により機会損失を回避しつつ、繁忙期の値上げで固定費の回収と収益の最大化を図ることができる。購入側は繁忙期に商品を入手しにくくなるが、閑散期に日程を空ければ同じ商品を割安に購入できるチャンスも生まれる。

昔からダイナミックプライシングを採用する業界として有名なものに航空業界(航空券)やホテル業界(宿泊料金)がある。近年では鉄道の指定券や遊園地の入場券、プロスポーツの観戦チケット(人気の対戦カードと不人気カードで価格が異なる)などでも一般的に行われるようになってきている。小売店における消費期限の迫った食品などの値引き販売も一種のダイナミックプライシングに分類されることがある。

コストプラス法 【CP法】

製品の価格を決定する方法の一つで、かかったコストに一定の利幅を加えた金額を価格とするもの。

コスト志向(原価志向)の価格決定法の一つで、製品を製造・販売するのにかかった直接費に、企業の維持・運営などにかかる間接費、一定の利益を加えて製品価格とする。

売れれば確実に利益が出るものの、需要や競合の要素を勘案しないため、売り手の交渉力が強い独占・寡占的な市場や公共サービスなどでよく用いられる。また、契約締結時にはコストがはっきり分からないシステム開発や建設などの業界で、買い手側から一定の上限や制約を課された上でコストプラス法による価格決定が行われることがある。

コスト志向の価格決定法としては他に、主に流通業で仕入れ値に一定のマージンを乗せて販売価格とする「マークアップ法」や、総費用に対して目標とする投資収益率(ROI)を実現できるよう価格を設定する「目標利益法」(目標収益法/損益分岐点法)がある。

フランチャイズチェーン

事業を多店舗展開する手法の一つで、本部企業が資本関係などを持たない外部の事業主と加盟店契約を結んで店舗運営を委託する手法。加盟店は自社で店舗運営を行い、本部にはブランド使用料などを収める。

本部は店名や商標、商品、ノウハウなどを提供し、加盟店側はロイヤルティなどの対価を支払って店舗の営業を行う。本部企業を「フランチャイザー」(franchiser)、加盟店を「フランチャイジー」(franchisee)という。小売や外食などの産業に多い事業形態である。

フランチャイズチェーンにおける本部と加盟店(企業や個人事業主)は資本関係(親会社・子会社)や雇用関係(雇用主・従業員)にはなく、それぞれ独立した事業主体である。本部側は自ら直営店を増やす場合に比べ、外部の資本や人材を利用してスピーディーに事業展開できる。

加盟店側は資本の調達、施設や設備の手配、従業員の採用や雇用などを独力で行わなければならないが、本部のブランドや商品力を利用して早期に事業を軌道に乗せることができる。また、契約の範囲内で事業運営に裁量権を持つことができ、契約上定められた対価(ロイヤルティ)を支払えば事業主として収益を自らのものとすることができる。

本部企業が何を提供するかは企業や事業形態によって異なるが、一般的には商号やロゴマーク、商品やサービス、営業ノウハウ、業務マニュアル、原材料、情報システムなど、その店舗の事業運営上必要となる様々な要素が対象となる。加盟店が収める対価には、売上や利益に一定の割合で課されるロイヤルティやブランド使用料、商品や原材料などの仕入れ代金などがある。

オムニチャネル

流通・小売業の戦略の一つで、複数の販売経路や顧客接点を有機的に連携させ、顧客の利便性を高めたり、多様な購買機会を創出すること。一人の顧客と複数の経路(チャネル)で接点を持つことを重視する。

“omni-” は「すべての」を意味する接頭辞である。実店舗やオンライン店舗(ECサイト)、通販カタログ、ダイレクトメール、マスメディア広告、モバイルサイト、SNS、コールセンターなどといったチャネル間の垣根を取り払い、一人の消費者や顧客と多様なチャネルを通じて接触を持ち、販売や顧客満足に繋げていく手法を指す。

例えば、各店舗とECサイトの在庫管理を統合し、顧客が実店舗に来店した際に探している商品の在庫がない場合に、即座に自社のECサイトへ注文を転送して自宅へ届けたり、ネットで注文を受けて実店舗で現物を確認してから購入できるサービスなどが該当する。

複数の販売チャネルを活用する考え方には従来から「マルチチャネル」(multi-channel)があるが、これは「主婦層にはテレビ通販」「若者層にはSNSとECサイト」といったように顧客セグメントごとに異なるチャネルでアプローチすることを意味する。

広告 【アド】

ある事業主体が自らの存在やブランド、製品、サービスなどについての情報を人々に広く知らせるため、情報媒体(インターネットの場合はWebページなど)の一部を買い取り、自らの宣伝であることを明示した上で情報を提示すること。

広告を実施する主体のことを「広告主」、広告として掲示される表現を「広告物」あるいは「広告クリエイティブ」(和製英語)、広告表現が掲示される場を「広告媒体」(広告メディア)、広告主と広告物の制作者、広告媒体などの間を取り次いで広告プロジェクト全体を取り仕切る事業者を「広告代理店」という。

広告は媒体の種類によって対象や内容、効果などが大きく異なるため、媒体ごとに分類することが多い。テレビ、ラジオ、新聞、雑誌のマスメディア(マス4媒体)を媒体とするものを「マス広告」(マスメディア広告/マス4媒体広告)という。

インターネットを流通経路としてWebサイトやスマホアプリなど電子メディアを媒体とするものを「インターネット広告」(オンライン広告/デジタル広告)、屋外の看板や交通機関の車内ポスター、折込みチラシ、ダイレクトメール、フリーペーパー、店頭ディスプレイ(POP)、イベントなどを媒体とするものを「プロモーショメディア広告」という。

一方、広告と混同されがちだが、新製品発表などの告知文をメディアに送ったり、イベントを開くなどして話題を作ることでメディアに取材してもらい、記事などの形で自社について報じるよう促す活動(および、その結果報じられた内容)のことは、広報、PR(Public Relations)、パブリシティなどと呼び、広告とは区別される。

ダイレクトレスポンス広告

広告手法の類型のうち、購買やサービス加入など具体的な行動を起こしてもらうことを狙ったものを「ダイレクトレスポンス広告」あるいは「レスポンス広告」という。

広告対象の特徴や価格など「ウリ」となる要素を直接的、説明的に訴求し、来店・来場や資料請求、購入申し込みなど、直接的な反応(レスポンス)を惹起することを目的に制作・公開される。Web広告をはじめとするネット広告は広告主へのリンクが含まれるためほとんどがこの方式で、他にダイレクトメール、テレビやラジオの通販番組などが該当する。

イメージ広告 (ブランディング広告)

広告手法の類型のうち、製品やブランド、あるいは企業そのものの知名度やイメージの向上を狙ったものを「イメージ広告」「ブランディング広告」(ブランド広告)「企業広告」(企業自体が対象の場合)などという。

消費者に企業や製品ブランド、あるいは個別の製品の認知度やイメージの向上を促し、小売店への来訪など購入機会が訪れた際に想起されることを目指して制作・公開される。テレビCMのようなマスメディア広告の多くがこの方式で、ネット広告でも一部のディスプレイ広告やビデオ広告がブランディングを目的に行わる場合がある。

Webマーケティング

シラバス:Ver.9.0 (2023年)

企業などのマーケティング活動にWebサイトやWeb上のサービス、Web技術などを応用する手法の総称。オンラインマーケティング(インターネットマーケティング)の一分野だが、ネット上の商業活動はWebに偏っているため、ほとんど同義のように扱われることが多い。

狭義にはWeb上での広告・宣伝活動の総称のように用いられることもあるが、広義にはWebを用いるマーケティング活動全般を意味し、広告関連に加えて市場調査や商品企画、消費者テスト、集客、販売促進、顧客との関係構築などが含まれる。

具体的には、Webページやオンライン動画などへの広告出稿、提携サイト上でのPR記事掲載(アフィリエイト)、ブログや自社Webサイトなどによる情報発信、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)などを通じた顧客や消費者との関係構築(ソーシャルメディアマーケティング)、自社サイトの検索エンジンでの露出の最適化(SEM:検索エンジンマーケティング)、Webサービスによるアンケート調査、会員制サイトなどによる顧客サポートや優待の提供、ECサイトにおける閲覧者・訪問者の顧客転換(CROやEFO、LPOなど)などが挙げられる。

従来手法との比較

マスメディア等を用いる既存のマーケティング手法に比べ、短期間に多数の消費者に告知するような目的には向かないが、製品に関連する特定の分野に自ら興味・関心を持ち、詳細な情報を求める層(既存顧客であれば自社や製品に愛着や興味がある層)へ選択的にアプローチしやすいという特徴がある。

ソーシャルメディアや登録サイトを利用する手法のように、企業側からの一方通行の情報提供だけでなく双方向的なコミュニケーションや消費者間の情報伝達(口コミ、レビュー等)を含んだ施策が可能で、企業側のコントロールが及びにくく難易度は高いが、うまく活用できれば愛着やロイヤリティを深めて長期的に繰り返し収益を得られる優良顧客の育成に繋げることができる。

また、既存メディアや店舗などで問題となる地理的制約や時間的な制約(タイミング、スピード、期間等)、情報量の制約などが緩やかで、事業者の所在地や規模に縛られず豊富な選択肢から施策を検討・実施することができる。これらの要素の柔軟性が高いことにより、小規模な施策を迅速に繰り返し、ノウハウを磨いたり蓄積したりしやすいという利点もある。

インターネット広告 【Internet advertisement】

シラバス:Ver.9.0 (2023年)

インターネットを通じて視聴・閲覧される情報媒体に掲載される、企業や製品などの広告・宣伝。また、企業などがインターネットを通じて消費者などに向けて行う広告・宣伝活動。

掲載されるメディアとしては、Webサイト(Webページ)や、ネットを通じて配信される動画や音声、電子メール、アプリケーションソフト(アプリ)の操作画面などがある。最も普及しており市場規模が大きいのはWebページの一部に広告を掲載するWeb広告である。

従来のマスメディアなどを利用した広告に比べ、閲覧者の属性や嗜好、行動などに基づいて対象をきめ細かく分類して配信を制御できる点や、広告にリンクを設定しておくことで広告主側のサイトへ誘導したり、製品の購入を促したりすることができる双方向性などに優れており、効果を詳細に計測したり、費用対効果を高めやすい。

一方、市場が極めて多数のメディアに細分化されており、年齢や性別、興味・関心などの違いで接触頻度・時間も大きく異なるため、新製品を多くの消費者に一斉に告知して認知度を高めたい場合などには不向きとされる。

広告形態は動画メディアや音声メディアの場合はテレビCMやラジオCMのように動画や音声の広告が挿入される形が多く、電子メールの場合はメール全体が広告メッセージになっているものや、本文の端にテキスト(文字)広告を挿入する方式が多い。

Webページの広告形態は多彩で、テキストや画像、動画、CGアニメーションや簡易なゲーム、およびこれらの組み合わせなど様々な種類のものが掲載される。動画やアニメーションなどを利用した動きや仕組みのある広告形態は「リッチメディア広告」(rich media ads)とも呼ばれる。記事の体裁の広告ページをサイト内に掲載するタイアップ広告(記事広告、PR記事)が用いられることもある。

課金方式にもいくつかの種類があり、一定の掲載期間ごとに課金する掲載期間課金(掲載期間保証)型、表示(閲覧)回数ごとに課金する「インプレッション課金型」、閲覧者が広告をクリック、タップするなどして広告主のサイトへ訪問した回数を基準とする「クリック課金型」、閲覧者が広告主のサイトで実際に製品の購入やサービスへの加入などをすると一定額や購入額の一定割合を支払う「成果報酬型」(アフィリエイト広告)などがある。

電子メール広告 (email advertising/eメール広告)

電子メールの本文中に掲載される広告。メールの内容全体が広告メッセージとなっているものと、本文の一部に広告が挿入されているものがある。後者は無料のメールマガジンやメーリングリスト、フリーメールサービスから送信されるメールなどでよく見られる。

また、前者について、受信者の承諾を得て送信されるものと、無許諾で一方的に送りつけられるものがあり、後者はスパムメール(spam mail)、迷惑メールなどとも呼ばれる。近年ではメール受信サーバやメールソフト側に広告メールを識別して通常の受信フォルダとは別の保管スペースに隔離する機能が一般的になり、無差別に配信されるメール広告の効果は以前ほどはないと考えられている。

アプリ広告 (in-app advertising/アプリ内広告/モバイルアプリ広告)

アプリケーションソフトの操作画面内に表示される広告。Web広告などと同じようにインターネットを通じて配信され、無料のソフトウェアで収益を得るために用いられることが多い。主にスマートフォンやタブレット端末向けのアプリケーションで利用される。

アプリケーションを利用者に無料で提供する代わりに操作中に広告を表示し、開発者が広告主から広告料を受け取る。広告をタップ(またはクリック)すると広告主のWebサイトが表示されたり、広告主のアプリケーションがインストールされたりするよう設定されていることが多く、閲覧数やタップ数(クリック数)などを元に広告料が算出される。アプリケーションの利用者が一定の金額を支払ってアプリケーションを購入すると広告表示が停止されるようになっていることもある。

オプトインメール広告

シラバス:Ver.9.0 (2023年)

電子メールの形で送信される広告のうち、受信者に許諾を得てから配信を行うもの。特定電子メール法および特定商取引法で認められている配信形式である。

電子メールによるダイレクトメールだが、無差別に送信するのではなく、受信することを許諾した利用者のメールアドレスにのみ配信を行う。この許諾の手順を「オプトイン」という。ECサイトなどで登録会員や過去に取引のあった既存顧客へのメールマガジンなどの形で送信されることが多い。

特定電子メール法および特定商取引法では、広告メールの送信について受信者のオプトインを義務付けており、現在ではオプトインメール広告以外の許諾のない広告メールの送信は原則禁止となっている。特定電子メール法はメールの送信者に対する規制を、特定商取引法は広告主に対する規制を定めている。

バナー広告

シラバス:Ver.9.0 (2023年)

インターネット広告の形状の一種で、横幅が縦に対して長い帯状の長方形の広告(枠)のこと。形状によらず、ページ内の固定された枠に画像などを表示する広告手法全般を指す場合もある。

Webページやアプリ操作画面の上部や下部などに表示枠が設けられることが多い。インターネットが一般に普及し始めた1990年代末から存在する最も基本的な広告形態の一つである。

クリエイティブ(掲載内容)として画像や動画、アニメーションなどが用いられることが多い。広告主のサイトへのリンクが設定され、閲覧者が枠内をクリックあるいはタッチすると広告主のサイトが開くようになっている。

サイズと名称

業界団体のIAB(Interactive Advertising Bureau)ではバナー広告の標準サイズとして、横468×縦60ピクセルの “Full Banner”(フルバナー)、234×60の “Half Banner”(ハーフバナー)、728×90の “Leaderboard”(リーダーボード)、120×240の “Virtical Banner”(垂直バナー)を定義している。

矩形の広告枠でも、長辺が120ピクセル程度かそれ以下のものは「ボタン広告」、縦横の長さが同じか近いものは「レクタングル広告」(正方形のものは「スクエア広告」とも)、極めて縦に長い(縦が概ね600ピクセル程度かそれ以上)ものは「スカイスクレイパー広告」と呼ばれることが多い。

以前は横長タイプも含めたこれら矩形の広告枠すべての総称を「バナー広告」と呼ぶことも多かったが、現在は「ディスプレイ広告」を総称とすることが多い。また、バナー広告をディスプレイ広告のうち固定的な画像で構成された表示形式の広告とし、テキスト広告や画像・テキスト複合型、動画広告など他の表示形式と対比させる考え方もある。

リスティング広告 【検索連動型広告】

検索エンジンなどの検索結果ページに掲載される広告。特に、検索語と関連性の高い広告を選択して表示する広告。検索結果の表示に合わせ、テキスト広告となっていることが多い。

広告主は掲載したい広告内容と共に、掲載したい検索キーワードを指定する。検索エンジンの利用者がそのキーワードで検索すると、結果を表示するページの一部に当該広告が表示される。

掲載料は掲載回数に比例するインプレッション課金が用いられる場合もあるが、多くのサービスでは掲載された広告リンクのクリック・タップ回数に比例するクリック課金が採用されている。

掲載希望が多いキーワードでは表示枠のオークションが行われ、高い掲載単価を提示した広告主の広告が優先的に表示される。クリック課金の場合はわざとクリックされにくい掲載内容を高単価で出稿し、低い掲載料で露出効果だけを得ようとする広告主もいるため、掲載内容の品質など他の指標も用いて総合的に優先度を決める場合もある。

日本におけるWeb検索サービスは米グーグル(Google)社のGoogle検索とYahoo!JAPANのYahoo!検索(検索結果の大半はGoogle社が提供)による寡占状況にあり、リスティング広告もGoogle検索に表示されるGoogle広告(Google Ads/旧Google AdWords)とYahoo!検索に表示されるYahoo!広告(の検索広告/旧スポンサードサーチ・旧オーバーチュア)が市場の大半を占めている。

アフィリエイト 【成果報酬型広告】

ネット広告の課金方式の一つで、Webページなどの広告媒体から広告主のWebサイトなどへリンクを張り、閲覧者がそのリンクを経由して広告主のサイトで会員登録したり商品を購入したりすると、媒体運営者に一定の料率に従って報酬が支払われる方式。

掲載回数やクリック数などに対して報酬が支払われる他の広告手法に比べ、広告主にとっては、売上などの成果が挙がってから初めて広告料(の請求)が発生する「成功報酬」型の契約であるため、極めて費用対効果の高い広告を展開することができる。

媒体運営者にとっては、他の広告プログラムよりも加入・登録の門戸が広く、個人でも容易に開始できる点や、商品選択や掲載方法の自由度が高く、自分のサイトのテーマやデザインに馴染んだ広告にしやすいというメリットがある。

成功報酬型広告プログラムには、広告主となるオンラインショップやオンラインモールなどの事業者が独自に媒体運営者を集めて展開しているものと、広告主と媒体運営者の双方を募集して両者を引き合わせるサービスがある。後者のようなサービスやその運営事業者のことを「アフィリエイトサービスプロバイダ」(ASP:Affiliate Service Provider)と呼ぶことがある。

SEO 【Search Engine Optimization】

Webサイト運営者が行うサイト改善策の一つで、Web検索サイト(検索エンジン)の検索結果リストの上位に表示させるために様々な工夫を行うこと。

検索エンジンはWeb上のリンクをたどって様々なWebサイトを巡回し、各ページの内容を解析して索引付け(インデクシング)する。利用者が検索したい語句を入力すると、その語句に関連性が高いと思われるページを検索結果リストとして表示する。

このリストは検索エンジン内部で様々な指標を元に算出した関連性の高さに基づいて順位付けされており、上位に掲載されるほど利用者の目に付きやすく、サイトを訪れてもらえる可能性が高まる。例えば、多くの検索サイトは初期設定では1ページ目に1位から10位までの結果しか掲載しないため、10位以内と11位以降では訪問される確率に大きな差がつく。

企業などが自らのサイトへの訪問者を増やしたい場合、関連する語句が検索された際に少しでもリストの上位に表示されるよう、サイトの構成や掲載内容、外部からのリンク状況などをより好ましい状態に最適化することがある。そのための一連の施策をSEOと総称する。

最適化を行うためには検索エンジンが各ページをどのように評価しているかを知る必要があるが、インターネット上で運営されている検索サイトのほとんどは順位の計算手順(アルゴリズム)の詳細を公開しておらず、また、頻繁に評価の仕方を変更することが知られている。

このため、公式あるいは確実に正しいと確認され、効果の程度が正確に算出できるような具体的な手法はほとんど存在せず、過去の経験則や検索サイト事業者が公表しているWebサイト運営者向けガイドラインなどを分析し、現在有効であると推測される手法を試していくしかない。

ただし、大まかな指針としてどのようなサイトやページが好ましいかはある程度分かっている。検索者の検索意図(どんな問題を解決しようとしているのか)を満たし、内容が最新かつ詳細で充実しており、当該分野の知識や経験が豊富な専門家によって記述され、外部の人気の高いサイトから多数のリンクを集めているページは比較的上位を獲得・維持しやすいとされる。

検索最大手の米グーグル(Google)社では、これを「E-A-Tの原則」としてまとめている。Eは “Expertise” の略で「専門性」を、Aは “Authoritativeness” の略で「権威性」を、Tは “Trustworthiness” の略で「信頼性」を、それぞれ表している。

内部SEOと外部SEO

<$Img:HTML-Code.jpg|right|by Tunarus from pixabay|https://pixabay.com/photos/website-htlm-code-program-2341973/>

Webサイト内の改善によって最適化を行うことを「内部SEO」(on-site SEO/on-page SEO)あるいは内部対策という。各ページがターゲットとする検索キーワードやフレーズの選定、キーワードに見合った適切なテーマ設定や内容の記述、質や量の充実、サイト内のリンク構造の最適化、見出しや段落、画像の代替テキストといったHTML要素の文書構造に沿った適切な使用、図表や画像など補助的なコンテンツの充実などが含まれる。

一方、Webサイト外の状況が自サイトにとって有利になるよう働きかける手法を「外部SEO」(off-site SEO/off-page SEO)あるいは外部対策という。主に外部から自サイトへのリンク(被リンク/バックリンク)を獲得するための諸活動を指すが、外部のサイトの内容や構成は自由に編集することはできないため、直接できることは限られる。サイト運営者に報酬を支払ってリンクを記述してもらう行為(有料リンク/リンク購入)は多くの検索サイトで違反行為とされている。

また、各種SNSへの投稿ボタンをページ内に設置したり、SNS上で公式アカウントを運用して情報発信を行い、自サイトの認知度を高めたり来訪を促すといった施策も外部SEOの一環として行われる場合がある。

ホワイトハットSEOとブラックハットSEO

<$Img:White-Hat.png|right|[PD]|https://www.clker.com/clipart-white-hat-2.html>

検索サイトの発行するサイト運営者向けガイドラインなどを遵守し、訪問者の利益に適うまっとうなサイト改善手法を「ホワイトハットSEO」(white hat SEO)という。オリジナルで正確なコンテンツの充実や、読みやすく目的の情報にたどり着きやすいページデザインやサイト構造などが該当する。

これとは逆に、検索サイト側が禁じている行為を行ったり、検索サイトのソフトウェアや訪問者を欺いて不当に順位を向上させようとする施策を「ブラックハットSEO」という。検索サイトの巡回システム(クローラー)と人間の閲覧者にそれぞれ異なる内容を見せる「クローキング」(cloaking)や、同じ語句や関連語句を何度も繰り返し無意味に詰め込む「キーワードスタッフィング」(keyword stuffing)などがよく知られる。

他にも、背景色と同じ文字色にするなどして訪問者のWebブラウザには表示されないがクローラーには掲載内容として認識させる「隠しテキスト」(hidden text)、他のサイトや著作物からの剽窃、意図的な虚偽の内容の掲載、外部サイトからの「リンク購入」(リンク売買)などが該当する。

検索サイトによってブラックハット的な手法が用いられていると認定されたページやサイトは「検索スパム」「スパムサイト」などと呼ばれ、順位の大幅な低下や検索結果ページからの排除といったペナルティが課されることがある。一部の手法はランキングに影響せず単に無視される場合もある。

LPO 【Landing Page Optimization】

Webサイトの改善施策の一つで、外部サイトから最初に訪れるページの構成やデザインを改良すること。訪問者が参照元サイトへ直帰するのを防ぎ、訪問を具体的な成果に結びつけるために行われる。

Webサイトへの訪問者が外部のサイトからリンクを辿るなどして最初に訪れることが多いページをランディングページ(landing:着地)と呼ぶ。トップページにランディングが集中するサイトもあるが、検索エンジンの検索結果ページから訪問する場合や、Web広告のリンク先として特定のページを指定する場合など、トップページ以外へのランディングが主体となるサイトも多い。

ランディングページの内容が訪問者の意図と大きく外れていたり、デザインや構成が分かりにくいと、ブラウザの戻るボタンなどの操作で直前に見ていたサイトへすぐに帰ってしまう割合(直帰率)が高くなる。これではいくらSEOや広告出稿などでサイトへの訪問自体を増やしても、商品購入などの成果には繋がらない。

LPOでは、訪問者がランディングページへ至る主要な経路を分析し、訪問者の求めている内容に沿ったページ構成としたり、サイト内の別のページへのリンクの配置や見た目を工夫するなどして、訪問からサイト内の回遊、あるいは具体的なアクション(会員登録や資料請求、購入など)へ至る動線を確保する。

具体的にどのような修正によって指標が改善されるかはサイトや手法によって大きく異なり一般化することは難しいため、一部が異なる様々なパターンのランディングページを用意して、それぞれを訪れた閲覧者の行動を記録して効果の高かったものを残す「A/Bテスト」がよく行われる。

コンバージョンレート 【CVR】

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企業と何らかの接触を持った見込み顧客のうち、実際に顧客やサービス会員に転換(conversion)した人の割合。例えば、オンラインストアの来訪者のうち商品を購入した人の割合をこのように呼ぶ。

通常はECサイトやネットサービスなどのWebサイトについて用いられる指標で、サイトへの訪問者のうち、成約や会員登録、資料請求など、サイト側にとって「成果」となる行動を起こした人の割合を意味する。

CVRが0%ならば来訪者が誰も商品を購入しない状態を状態を表し、100%ならばすべての来訪者が商品を購入したことを表す。この値が高いほど、見込み顧客を少ないコストで効率よく顧客に転換できていることになる。

サイト訪問者数に対する割合だけでなく、流入経路ごとに算出する場合もある。例えば、外部の様々なサイトに様々なパターンの広告を出稿している場合に、流入元のサイトや表示内容(クリエイティブ)ごとにCVRを算出し、最も効果の高かった出稿方法を割り出すといった手法が用いられることもある。

CRO (コンバージョンレート最適化/CVR最適化)

オンラインショップなどのWebサイトの改善手法の一つで、CVRを向上させる施策を行うことをCVR最適化(CRO:Conversion Rate Optimization)という。

来訪者が購入や申し込みなどの手続きを行わず離脱するのを防ぐための施策を指し、サイト内で外部からの流入から成約へ至るまでの動線の見直し、入力フォームの改善、購入案内などへの誘導の仕方の改善などが行われる。

具体的にどのような手法が効果的かは分野や個別のサイトによっても異なるため、ユーザーインタビューなどの定性的な調査や、複数のパターンを試して効果の高い方を確かめるA/Bテストなどの定量的な調査を繰り返して徐々に改善していくことが多い。

アフィリエイト 【成果報酬型広告】

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ネット広告の課金方式の一つで、Webページなどの広告媒体から広告主のWebサイトなどへリンクを張り、閲覧者がそのリンクを経由して広告主のサイトで会員登録したり商品を購入したりすると、媒体運営者に一定の料率に従って報酬が支払われる方式。

掲載回数やクリック数などに対して報酬が支払われる他の広告手法に比べ、広告主にとっては、売上などの成果が挙がってから初めて広告料(の請求)が発生する「成功報酬」型の契約であるため、極めて費用対効果の高い広告を展開することができる。

媒体運営者にとっては、他の広告プログラムよりも加入・登録の門戸が広く、個人でも容易に開始できる点や、商品選択や掲載方法の自由度が高く、自分のサイトのテーマやデザインに馴染んだ広告にしやすいというメリットがある。

アフィリエイトプログラムには、広告主となるオンラインショップやオンラインモールなどの事業者が独自に媒体運営者を集めて展開しているものと、広告主と媒体運営者の双方を募集して両者を引き合わせるサービスがある。後者のようなサービスやその運営事業者のことを「アフィリエイトサービスプロバイダ」(ASP:Affiliate Service Provider)と呼ぶことがある。

レコメンド 【リコメンド】

推薦する、勧告する、などの意味を持つ英単語。店舗が来店客に特定の商品を薦める行為をこのように呼ぶことが多い。ITの分野では特に、電子商店(ECサイト)などが過去のデータなどに基づいて来訪客に自動的に商品を薦める仕組みを指す場合が多い。

例えば、ある商品に強く関連する別の商品を表示したり、顧客の過去の購買履歴やページ閲覧履歴を記録して興味を持ちそうな商品を表示したり、プロフィールや行動履歴などが類似している他の顧客が購入した商品を表示する機能などを指す。

実際にはこれらを組み合わせて一定のアルゴリズム(計算手順)に基づいて商品をリストアップする手法が使われ、そのような処理を専門に行うソフトウェアやシステムを「レコメンドエンジン」(recommendation engine)などと呼ぶことがある。

リアルタイムレコメンド (real-time recommendation)

利用者の現在の行動に合わせて推薦内容を決定したり変化させたりするレコメンド手法を「リアルタイムレコメンド」ということがある。

Webサイトの場合には、訪問者のページ間の遷移をリアルタイムに補足し、瞬時に関連度の高い商品を割り出してページ内の特定の領域に表示するといった手法が用いられる。訪問者の「今この瞬間」の関心事に基づいて商品を推薦することができる。

また、メールマガジンなどに配信側へ情報を問い合わせる特殊なHTMLタグなどを埋め込んでおき、受信者が開封・表示したタイミングで推薦商品の情報を提供するといった技術もある。本文で紹介した商品が開封時には在庫切れになっているといった事態を避けることができる。

標準規格の勧告

技術標準などを策定する標準化団体の中には、発行された標準規格のことを “recommendation” と呼ぶことがある。日本語では「勧告」と訳されることが多い。情報・通信の分野ではITU-T(国際電気通信連合・電気通信標準化セクタ)勧告やW3C(World Wide Web Consortium)勧告などが有名である。

デジタルサイネージ 【電子看板】

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屋外や店頭などに設置された液晶ディスプレイなどの映像表示装置。近くにいる人や通りすがりの人に案内情報や広告などを表示する装置で、看板やポスターなどを電子化したもの。

店頭や公共施設、交通機関、建物の壁面や屋上などに設置され、利用客への案内や通行人への広告などが表示される。広告媒体としては、特定の時間と場所を指定して表示でき、ポスターのように入れ替えの手間がかからず、動画や音声を組み合わせたコマーシャルフィルムのような内容を表示できる点が注目されている。

機器や乗り物に埋め込まれた小窓サイズのものから、ビル壁面などの街頭ビジョン(大型ビジョン)まで様々なサイズ・形態のものがある。小型・中型のものは液晶ディスプレイが多いが、数m以上の大型のものはプロジェクタやLEDビジョン(電光掲示板)などが用いられる。

コンピュータを内蔵あるいは接続して動画やWebページなど様々な内容を映し出すことができるものを指し、内容が固定されているLEDサインボードや文字しか表示できないLEDメッセージボードようなものは含まれない。

A/Bテスト 【A/B testing】

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複数の案のどれが優れているかを、何度も試行して定量的に決定するテスト手法。各案をそれぞれ実際に一定の回数ずつ実践してみて結果を比較する。WebページやWeb広告のデザインなどでよく利用される。

複数の案のいずれか一つをランダムに選んで実際の利用者に提示し、その際の効果の有無や高低を記録する。これを何度も繰り返し、最も効果の高かったものを最も優れた案として採用する。既存の選択肢の中から目的に照らして優れたものを選ぶことができ、短期間に何度も繰り返し試行できるようなものであれば何にでも適用できる。

「A/Bテスト」の名称は「A案とB案のどちらが優れているかを決定する」という意味合いだが、三つ以上(場合によっては非常に多数)を比較こともできる。複数の要素のパターンのあらゆる組み合わせを自動的に試行する手法は「多変量テスト」とも呼ばれる。例えば、広告のキャッチコピーが3案、背景画像が3案あるときに、3×3の9通りを試すような手法である。

A/Bテストはすでに複数の(完成された)案が存在していることが前提であり、「どのような案を作り出せば最も効果が高まるか」とか「どこをどう変えればどのように効果が変化するか」といったようなことは調べることができない。また、テスト対象の作成にコストがかかるような分野では、結果的に採用されないいくつもの「没案」を作成することになるためコストが嵩むという問題もある。

ワントゥワンマーケティング 【One to One marketing】

企業のマーケティング活動の手法の一つで、個々の消費者や顧客の嗜好やニーズ、購買履歴などに合わせて、一人一人個別に展開されるもの。

提供する情報や対応を個々に変化させることにより、企業との間で一対一の関係を築いているように感じさせることを狙って行われる。新しい顧客の開拓よりも、既存顧客のロイヤリティ(愛着)を高めるのに有効とされ、契約や取引の継続や繰り返し購入が期待される。

従来の企業活動でも、例えば店舗で従業員が顧客を認識して対話するといった一対一の活動は行われてきたが、ワントゥワンマーケティングという場合には個々の従業員の属人的な活動ではなく、インターネットやITシステムなどを駆使して大規模な消費者集団や顧客集団の一人一人に個別的な関係性を生み出す手法を指す。

例えば、ECサイトやネットサービスで、各顧客の過去の取引記録や閲覧ページなどを元に表示する情報や推薦商品を変化させるパーソナライゼーションやリコメンデーション、ネット上でのサイト閲覧履歴を元に広告内容を変化させる行動ターゲティング広告、自社サイトへの訪問者に再訪を促す広告を配信するリターゲティング広告、顧客の属性や購買履歴に基づいて発行される電子クーポンなどの手法が該当する。

リレーションシップマーケティング

顧客と良好な関係を構築・維持し、長期間繰り返し取引を行うことにより、一人あるいは一社あたりの売上や収益を最大化するマーケティング手法。

新しい顧客の獲得や一回の売上や利益の極大化よりも、同じ顧客と長期的な関係を築くことで、関係が継続している間に得られる利益の合計(LTV:Life Time Value/顧客生涯価値)の最大化を目指す。

製品やサービスを購入した顧客へ丁寧なアフターケアや優待、対話の機会などを提供することにより顧客の満足度、ロイヤリティ(愛着/信頼)を高める。「売りっぱなし」にするより関連商品への取引の拡大や次回の取引の獲得(リピート購入)、サービスであれば解約率の減少を期待でき、安定した収益の基盤とすることができる。

リレーションシップマーケティングは顧客を共通の属性や取引頻度などでまとめた集団に対して働きかける手法(FSPなど)と、個別の顧客と双方向の関係を構築したり顧客に応じた対応を行うワントゥワンマーケティング(One to One marketing)のような手法に分かれる。

ダイレクトマーケティング 【DM】

企業のマーケティング手法の類型の一つで、顧客や見込み顧客などとの間にメディアや別の事業者を介さず、直に働きかけたり長期的な関係を築く手法。

ビジネス対象となる消費者や法人、既存顧客などに対して直接何らかの働きかけや関係構築を行い、問い合わせや会員登録、商品購入などに結びつける手法を指す。マスメディアなどを介して不特定多数に広告・宣伝を行ったり、小売店や販売代理店などを通じて営業・販売を行う間接的なマーケティングモデルと対比される。

典型的には通信販売(カタログ販売やインターネット販売)やテレマーケティング(電話セールス)、ダイレクトメール(郵便、FAX、電子メール)などを指すことが多いが、航空会社のマイレージプログラムや、ポイントカードなどの会員サービスを含む場合もある。また、マスメディアを利用した広告でも、Webサイト閲覧を促すメッセージを告知するなど、消費者側から直に反応を返す仕組みが組み込まれている場合にはダイレクトマーケティングに含めることがある。

プッシュ戦略

メーカーなどの販売促進戦略の類型の一つで、小売店や卸売業者などの流通事業者に働きかけて顧客への売り込みを促す手法。

メーカーが流通事業者に販売奨励金(リベート)や販売支援員の派遣などのインセンティブを提供したり、製品の詳細や販売手法などについての説明や指導を行い、自社の製品を消費者に積極的に売り込むよう促す手法である。

メーカーから卸売業者へ、卸売業者から小売店へ、小売店から消費者へ押し出すように売り込みが行われる様子を指して「プッシュ」(push:押す)と呼んでいる。小売店などと長期的な協力関係を結んで系列化する手法などもこれに含まれる。

これに対し、メーカーが広告やPR活動、販促イベント、試供品提供などを通じて消費者に直接訴えかけ、需要を喚起して指名買いを促す手法を「プル戦略」(pull strategy)という。プッシュ戦略とは補完的な関係であり、両者を組み合わせて販促戦略を組み立てるのが一般的である。

プル戦略

メーカーなどの販売促進戦略の類型の一つで、広告やイベントなどで消費者や製品の既存顧客に働きかけ、製品への需要を喚起する手法。

メーカーが広告・宣伝、販促イベント、試供品提供、SNS等を通じた情報発信や口コミの促進などの活動を通じて消費者に直接訴えかけ、自社製品の「指名買い」を促す手法である。

顧客が小売店で製品を求め、小売店が求めに応じて卸売業者から仕入れ、卸売業者が求めに応じてメーカーに発注するという形で、製品が引き出されるように流通する様子を「プル」(pull:引く)と呼んでいる。

これに対し、メーカーが販売奨励金などで卸売業者や小売店に働きかけ、消費者へ積極的に売り込むよう促す手法を「プッシュ戦略」(push strategy)という。プル戦略とは補完的な関係であり、両者を組み合わせて販促戦略を組み立てるのが一般的である。

KSF 【Key Success Factor】

目標達成のために決定的に重要となる要因のこと。また、目標達成のために最も力を入れて取り組むべき活動や課題のこと。資源配分の優先順位を決めるために必要となる。

組織や個人が目標達成に向けて行動するにあたり、限られた資源を最も効率よく活用するために設定するもので、目標の成否を左右する様々な要因や活動の中からCSFとして選択されたものには優先的・集中的に資源が投下される。

一般的には、まず組織や事業の長期的あるいは最終的な目標を表す「KGI」(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)と呼ばれる尺度が設定され、これに決定的な影響を及ぼすと想定される要因や活動、施策などを見定め、これをCSFとして選択する。

CSFに基づく施策の進捗状況を継続的に計測・監視するため「KPI」(Key Performance Indicator:重要業績評価指標)と呼ばれる定量的な指標が設定されることもある。

KGI 【Key Goal Indicator】

組織やプロジェクトが達成すべき目標を指し示す定量的な指標。抽象的な理念や目的のようなものではなく、数値や客観的な状態として測定や認識が可能なものを用いる。

企業などの組織が事業やプロジェクトなどの最終的な目標を設定するために用いる物差しの役割を果たす指標を意味する。「年間売上高」のように単に指標自体のことを指すこともあるが、一般的には「3年後の年間売上高を今年度比+50%にする」といったように、期限と具体的な目標値を合わせて設定したものを指すことが多い。

KGIを決定したら、そのために日々の業務や活動で何を目指すべきかを表す指標としてKPI(Key Performance Indicator)を定義する。例えば、「売上を50%増やす」というKGIに対して、「営業課員一人あたり毎月20件以上顧客を訪問する」といったKPIを設定する。一つのKGIに複数のKPIを定める場合もある。

KGIは一つの組織やプロジェクトについて原則として一つを設定するが、全社のKGIとは別にそれぞれの部門やチームが個別にKGIを定める場合もある。その場合は両者の目指す方向が矛盾しないよう、全体のKGIに資する部門別KGIを検討する必要がある。

KPI 【Key Performance Indicator】

目標の達成度合いを計るために継続的に計測・監視される定量的な指標。組織や個人が日々活動、業務を進めていくにあたり、「何をもって進捗とするのか」を定義するために用いられる尺度のこと。

すでに定義されている具体的な目標を達成するために、現在の状況を表す様々な数値などの中から進捗を表現するのに最も適していると思われるものが選択される。短い周期で繰り返し計測・記録され、時系列の推移から現況や進捗を把握したり、問題解決や活動の改善点を検討するための最も重要な材料の一つとして扱われる。

なるべく具体的で、努力や改善によって直接的に働きかけて変化させられる値であることが望ましく、抽象的だったり、活動と結果に因果関係が薄かったり、制御不能な要因によって大きく変化するような指標は好ましくないとされる。

一般的には「顧客への訪問回数」「受注件数」のように指標そのもののことを意味するが、これを「3月末までに顧客を30回訪問」「月に10件受注」のように、ある期限や期間に達成すべき目標の形で示し、これをKPIと呼ぶ場合もある。

組織の規模や業務の内容などによっても異なるが、あまりに指標が多いと集中すべき点がぼやけて形骸化しまうため、一つあるいは数個程度が設定されることが多い。全社KPI、営業部KPIといったように組織階層ごとに異なるKPIを設定する場合もある。

KGI・KSFとの関係

これに対し、組織や事業の長期的あるいは最終的な目標を表す尺度は「KGI」(Key Goal Indicator:重要目標達成指標)と呼ばれる。KPIはKGIで示された目標を達成するために、これを日々の活動のレベルに分解したものと解することができる。

また、KGIやKPIに決定的な影響を及ぼす重要な要因や活動、施策などのことを「KSF」(Key Success Factor:主要成功要因)あるいは「CSF」(Critical Success Factor:重要成功要因)という。KPI向上のために最も影響があるとみなされたKSFには最優先で資源が投入される。

モニタリング

監視、観察、観測、測定、検査、傍受、追跡などの意味を持つ英単語。対象の状態を連続的あるいは定期的に観察・記録し、継続的に監視し続けるという意味で用いられる。

ITの分野では、コンピュータシステムや通信機器などの状態をソフトウェアなどによって自動的、定期的に調べ、結果を時系列に記録する活動をモニタリングということが多い。記録は問題発生時の詳細や原因の調査、性能改善、システム監査などのために利用される。

具体的な測定・監視内容は対象や目的により様々だが、資源の占有・利用状況(メモリ使用率やCPU使用率、回線利用率など)、性能や応答時間、実行中のプログラムやその状態、内部の各装置が正常に稼働しているか、そもそも機器が応答するか否か(死活監視)、などを調べることが多い。

ネットワーク上で多数の機器を管理する場合は、SNMP(Simple Network Management Protocol)などの標準規格や専用の管理ソフトを用いて、遠隔から複数の機器をリアルタイムにモニタリングするシステムを構築する場合もある。

映像の表示装置のように、観察や測定に用いる機材のことを「モニター」(monitor)という。分野によっては、「消費者モニター」のように人員や組織を指したり、「トランザクションモニター」のように状態監視の機能を実装したソフトウェアを指すこともある。

バランススコアカード 【Balanced Scorecard】

企業や事業、プロジェクトなどの業績を「財務」「顧客」「業務プロセス」「学習と成長」の4つの視点から総合的に評価する手法。1992年にロバート・カプラン(Robert S. Kaplan)氏とデービッド・ノートン(David P. Norton)氏が考案した。

従来の業績評価は数値で表しやすい売上や利益といった財務的な指標に偏っていたが、BSCではこれに加え、顧客の視点、業務プロセスの視点、学習と成長の視点から評価を行う。各視点について数個の指標(通常は5~6個程度)を選択して総合的に評価する。

BSCでは組織や事業のビジョンや戦略が策定されていることを前提に、これを各側面における具体的な目標(KGI:Key Goal Indicator)に落とし込む。各KGIを達成するための鍵となる要因(CSF:Critical Success Factor)を見極め、そのそれぞれについて進捗の指標となる尺度(KPI:Key Performance Indicator)を選択する。

カードの構成が決まったら行動計画の策定と実行に移り、一定の期間や節目ごとに評価やフィードバックを実施、場合によっては戦略や計画、カード構成の修正を行う。

バリューエンジニアリング 【VE】

製品やサービスの提供コストあたりの機能を「価値」と考え、これを最大化することを目指す方法論。コスト度外視の機能向上や機能を犠牲にしたコスト削減一辺倒を戒め、顧客満足度向上と収益改善の両立を目指すことができる。

製品やサービスが利用者に提供すべき機能を明確にし、その製造や提供にかかるコストで割ったものを価値とみなす。この価値を向上させるための組織的な活動の総体がバリューエンジニアリングである。顧客に提供する商品だけでなく、製造工程や業務手続き、物流といったプロセスにも適用可能である。

価値向上のためには同じ機能でコストを下げるか、同じコストで機能を上げるか、少ない追加コストで大きく機能を向上させるかのいずれかの方策が必要となる。わずかな機能向上のために大きなコストをかけたり、機能を削って極端な低コストを目指す手法は価値向上とはみなされない。

また、正しく活動を進めるために、「価値の向上」以外にも「使用者優先」「機能本位」「創造による変更」「チームデザイン」といった基本原則を定めている。

1947年に米ゼネラル・エレクトリック(GE:General Electric)社のローレンス・マイルズ(Lawrence D. Miles)氏が考案したもので、同社や米国防総省などが導入したことで広く普及した。日本では公益社団法人日本バリューエンジニアリング協会が「VEリーダー」「VEスペシャリスト」などの資格試験を行っている。

シックスシグマ 【Six Sigma】

主に製造業の品質管理などに用いられる管理手法の一つで、数値の測定や統計的な分析を重視する方式。1980年代に米通信機器大手のモトローラ(Motorola)社(当時)が提唱した手法で、米ゼネラル・エレクトリック(GE:General Electric)社が発展・普及に努めたことでよく知られる。

名称に含まれる「シグマ」(σ)は統計学における標準偏差(平均との差の二乗の総和の平方根)を表す記号のことである。誤差を伴う事象が正規分布に従って分布する場合、平均値から±σの範囲に約68.26%、±2σの範囲に約95.44%の標本が収まる。具体的な分布の形に依らず、σで表された範囲に収まる標本の割合は決まっている。

ある作業を行う場合に、結果が平均から一定以上外れたものは不良であるとする。ある工程で作業結果の分布を調べたところ、正常と判定される上限のラインが+σの位置に、下限のラインが-σの位置に来たとすると、約68%が正常、約32%が不良となる。工程を改善して上限・下限が±2σの位置に来るよう分布を狭めることができれば、約95%が正常、約5%が不良となる。

「シックスシグマ」は工程の改善を繰り返して正常な範囲が±6σに収まるようにすることを目指している。ただし、長期的に繰り返される工程では平均自体の変動が1.5σ程度存在するという前提に立つため、実際には±4.5σの範囲に収めることを目指す。これは不良率では「100万回あたり3.4回」となる。

シックスシグマの改善プロセスは、「測定」(Measurement)、「分析」(Analysis)、「改善」(Improvement)、「管理」(Control)の4つの過程で構成され、これを循環的に繰り返し漸進的に改善を進める。この4つのプロセスの頭文字を合わせて「MAIC」の標語で表される。

このプロセスは製造工程など着目すべき数値があらかじめ決まっている場合に適用されるが、様々な経営課題に応用する場合は、測定すべき項目を検討・決定する「定義」(Definition)の過程が必要となる。これを追加した5つの過程を「DMAIC」と表す。

ERP 【Enterprise Resource Planning】

企業の持つ資金や人材、設備、資材、情報など様々な資源を統合的に管理・配分し、業務の効率化や経営の全体最適を目指す手法。また、そのために導入・利用される業務横断型の業務ソフトウェアパッケージ(ERPパッケージ)のこと。

調達・購買、製造・生産、物流・在庫管理、販売、人事・給与、財務・会計など、企業を構成する様々な部門・業務の扱うデータや資源を統一的・一元的に管理することで、部門ごとの部分最適化による非効率を排除したり、調達と生産、生産と販売など互いに関連する各業務を円滑に連携・連結したりする。

1960年代に提唱された、製造業の生産管理を情報システムで効率化する「MRP」(Material Requirements Planning)、および、1970年代に対象を人材管理や資金計画に広げた「MRP II」(Manufacturing Resource Planning)の流れを汲む経営管理手法で、1990年代にコンピュータシステムの高度化と歩調を合わせて広まっていった。

ERPパッケージ

ERPは通常、個別に開発された情報システムではなく、大手ソフトウェア企業などが開発・販売するERPパッケージの導入により実現される。

ERPパッケージは前掲の様々な業務に対応したシステムが共通のデータベースや基盤システムのもとに統合された大規模なソフトウェアで、全社的に導入することにより、部門間の即時の情報共有や密な連携が可能となる。

導入時には原則として現場の業務手順をパッケージ側に合わせる形で全社的な業務の標準化を行うが、国や業界による商習慣の違いや企業や事業ごとの事情に合わせて一部の動作を変更・修正したり、追加の機能(アドオン)を個別に開発する場合もある。ただし、各業務部門の都合に合わせたカスタマイズを行いすぎるとERP導入のメリットも薄れていく。

1990年代に欧米大企業から導入が始まったシステムで、当初は社内に個別システムが乱立しやすい大企業や中堅企業向けの大規模な製品が主流だったが、近年では中小企業の業務システムをパッケージ化してオンラインで提供するクラウド型のサービスなども登場している。

著名な製品としては独SAP社の「SAP S/4HANA」(旧SAP R/3)や「SAP Business One」(中小企業向け)、米オラクル(Oracle)社の「Oracle E-Business Suite」(旧Oracle Applications)や「NetSuite」(クラウド特化型)、米マイクロソフト(Microsoft)社の「Microsoft Dynamics AX」や「Dynamics NAV」などがある。

SFA 【Sales Force Automation】

企業で利用される情報システムやソフトウェアの一種で、営業活動を支援して効率化するもの。顧客や見込み客を登録し、それぞれについての情報や接触履歴を記録して営業活動に役立てる。

既存顧客や見込顧客のそれぞれについて、営業活動に関連する情報を記録・管理することができ、過去の商談の履歴や、現在進行中の案件の進捗状況、営業活動を通じて入手した重要な情報、アポイントメントや期限といったスケジュールなどを一覧したり編集することができる。

SFAをチームで利用することによりチーム内で常に最新の状況を共有することができ、属人性を排して組織として効率的に営業業務を進めることができる。

既存顧客との関係を管理する情報システムやソフトウェアをCRM(Customer Relationship Management)というが、多くの企業では既存顧客への営業も重要な営業活動であるため、CRMがSFAの機能を取り込んだり、SFAにCRMとしての機能が追加される事例が増えており、両者の融合が進みつつある。

コンタクト管理 (contact management)

顧客の要望や取引相手との交渉内容などを整理し、データベース化して管理することをコンタクト管理(contact management)という。顧客ごとに詳細な情報を持つことで、それぞれに応じた最適のサービスを提供することを目的とする。

営業担当者の間では以前から個人レベルで行われていたことだが、これを一元的に管理して社内で共有することで、後のサポートや新製品のセールス、マーケティング分析などに応用することが可能になる。SFAの重要な一環として様々な企業で整備が進められており、専用のソフトウェアも販売されている。

チームセリング (team selling)

営業担当者が個々に営業活動を行うのではなく、営業部門全体として戦略的に活動を行うことをチームセリングという。グループ単位で一つの企業に売り込みをかける、などの行動を指す。

個々人の受注成績ではなく、営業部門全体の生産性を上げようという考え方に基づいた行動であり、顧客を企業全体の資産とする観点が背景にある。実現のために必要な要素として、スキルや情報を共有することによる営業プロセスの標準化や、営業活動の経過や結果の共有が挙げられる。SFAの一環と言うことができ、それを援助するソフトウェアも開発されている。

ナレッジマネジメント 【KM】

一人ひとりの従業員の持つ業務上有用な知識を部門内や組織全体で蓄積・共有し、従業員の能力の向上や業務の効率向上に繋げる手法。単なる情報共有・伝達ではなく、各自が持つ暗黙知の形式化と共有を推進する。

特に、データや情報などの形で表出しやすい形式知だけでなく、経験則やノウハウ、知恵、コツ、工夫、アイデアなどといった言葉や数値などの形に表しにくく、従来は個人が経験によって積み上げる形で獲得してきた「暗黙知」と呼ばれる種類の知識を組織的に活用しようとする試みのことを指す。

歴史的には製造業における改善活動のようなチーム内での業務改善のためのディスカッションなどの活動を含むが、現代では様々な職場で汎用的に利用されるコンピュータシステムを用いた知識活用の仕組みのことを指すのが一般的である。

典型的な事例としては、従業員の営業日報や業務上の気付きのような文章をデータベースシステムに入力・蓄積していき、経営層や管理職が特に有用と認めたものを他の従業員へ共有したり、部門横断的に閲覧や検索ができるようにするといった手法が挙げられる。

単にシステムを形だけ整えても従業員の間に意味のある形で定着させることは難しく、何が有用な知識なのか判断ができず活用しようのない無駄なデータの蓄積に終わったり、業務としての位置づけや意義の共有などが曖昧で取り組みへの不満や徒労感が募ったり、自らの地位や業績のために知識の共有に消極的な社員が現れたりといった問題が起きやすい。適切なインセンティブの付与など社内の制度や文化、仕組みを含めた改革が必要となる。

CRM 【Customer Relationship Management】

顧客の属性や接触履歴を記録・管理し、それぞれの顧客に応じたきめ細かい対応を行うことで長期的に良好な関係を築き、顧客満足度の向上や取引関係の継続に繋げる取り組み。また、そのために利用される情報システム。

データベースなどを用いて各顧客の詳細な属性情報や購買履歴、問い合わせやクレームの内容などを記録・管理し、問い合わせに速やかに対応したり、買い替えやメンテナンスなどの提案を行なったり、その顧客に合った新製品を紹介したりといった活動が中心となる。

顧客と良好な関係を継続することで、次回の買い替えや追加購入、別の商品の購入などで他社よりも優先的に検討してもらうことが期待でき、また、顧客の周囲の人々や各種の調査などで自社(製品)の評価やイメージの向上を図ることができる。

広義には、見込み顧客に対する売り込み(セールス)活動の管理や支援も含まれる。個々の見込み顧客ごとに接触履歴(担当者との面会履歴、ダイレクトメール等の送付状況、セミナーなどの参加履歴など)や案件や商談の進捗などを記録・管理し、組織的・効率的に成約に向けた販売活動を展開する。そのための情報システムは「SFA」(Sales Force Automation/営業支援システム)とも呼ばれる。

CRMを展開するためのシステムは単体のパッケージソフトやネットサービスなどの形で提供されることもあるが、ERPパッケージの一部(SAP CRMやOracle CRM、Microsoft Dynamics 365 CRMなど)やSFAシステムの一部(Salesforce CRMなど)として提供されるものの市場シェアが高い。SugarCRMのようにオープンソースとして無償で利用可能なソフトウェアもある。

SCM 【Supply Chain Management】

自社内あるいは取引先との間で受発注や在庫、販売、物流などの情報を共有し、原材料や部材、製品の流通の全体最適を図る管理手法。また、そのための情報システム。

原料・材料が部品や半製品に加工され、最終製品が生産されて顧客に販売されるまでのモノの流れ、および付随するお金や情報の流れのことを「サプライチェーン」(supply chain:供給連鎖)という。

この流れの端から端までの間には原料メーカー、部品メーカー、完成品メーカー、物流企業、卸売店、小売店、販売代理店など通常たくさんの企業が関わっている。情報システムなどを通じて企業間で情報を共有し、需要変動などに素早く対応することにより流通の効率化を進めることをSCMという。

SCMを推進することにより、正確な需要予測や適時の供給が可能となり、企業ごとの個別最適化を超えたチェーンの全体最適化を図ることができる。売りたいのにモノが無い機会損失や、逆に売れるより多く作りすぎてしまう過剰在庫を避け、経営資源の効率的な利用、売上や利益の最大化を追求することができる。

SCMのうち、製品の需要予測などを元に生産計画を立て、各段階の計画を策定、最適化する工程およびシステムを「SCP」(Supply Chain Planning:サプライチェーンプランニング)という。また、SCPの立案した計画に基づいて実際のモノの流れの管理し、現場での業務を管理・支援する工程およびシステムを「SCE」(Supply Chain Execution:サプライチェーン実行管理)という。

社内ポータル 【EIP】

企業などの組織内のネットワークに設けられた、従業員専用のポータルサイト。業務に必要な情報やサービスを一覧することができる。

社内ネットワーク(イントラネット)上に置かれたWebサーバを用意して運用されるサイトで、業務に関連する文書やデータ、社内外と連絡を取るためのメッセージシステム、各部署からの社内広報、各種の業務システムなどの入り口となるサイトである。

ファイル共有システムやデータベースシステム、文書管理システムなど複数の業務システムと連携し、一元的に各種の資源や機能にアクセスできる。従業員は自分のアカウント情報を用いてログインし、部署や職位に応じてカスタマイズされた操作画面を使用することができる。

サイト構築にはCMS(コンテンツ管理システム)やグループウェア、専用のパッケージソフトなどが用いられることが多い。外部のクラウドサービスなどを利用したり、モバイル環境やリモート環境からインターネットを通じて利用する接続窓口が設けられることもある。

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