ADSL 【Asymmetric Digital Subscriber Line】 非対称デジタル加入者線

概要

ADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line)とは、アナログ電話回線を用いて高速なデータ通信xDSL(デジタル加入者線)技術のうち、インターネット接続サービスなどで最も広く利用されたもの。光ファイバー回線が普及する以前は家庭から利用できる唯一の高速な常時接続回線だった。

“asymmetric” (非対称)の名称の通り、通信事業者の局舎から加入者への方向(下り)と逆方向(上り)の通信速度が大きく異なるのが特徴で、初期の一般的なサービスでは下りが1.5Mbpsメガビット毎秒)程度なのに対し、上りは500kbsキロビット毎秒)程度だった。一般のインターネット利用者ダウンロード下り)するデータ量のほうが圧倒的に多いため、安価に高速なデータ通信を実現する手法として広く受け入れられた。

ADSLは音声通話用に世界各国で敷設済みだった、いわゆるアナログ電話回線を利用する。これは2本の銅線を撚り合わせた「より対線」(ツイストペアケーブル)で、音声信号(最高数キロヘルツ)よりはるかに高周波(数メガヘルツ)の電気信号を流すことでデジタル信号を送受信する。

加入者側では「スプリッタ」と呼ばれる装置でデータ信号と音声信号の分離(受信時)および合流(送信時)がわれるが、両信号は互いに干渉しないため、電話機で通話しながら同時にコンピュータデータ通信うことができる。

ADSLは既設の電話回線を流用するため機材を揃えて契約すればすぐに利用を開始でき、月額固定料金常時接続が可能で、下り1Mbps以上のアナログ方式では不可能な高速なインターネット通信が可能たった。

インターネットが普及し始めて間もない2000年代初頭に日本でのサービスが開始されると利用者はすぐに急増し、しばらくの間家庭におけるインターネット接続の事実上の標準となった。通信方式や装置の改良により、2000年代半ばには下り10Mbps前後、上りMbps程度とLAN構内ネットワーク)に劣らない接続サービスも登場した。

ただし、ADSLは電話回線が想定していなかった高い周波数の信号を用いるため、音声信号より減衰が激しく、局舎と加入者宅の距離が長すぎると回線が通じていても信号が到達できない(あるいは実用的な通信速度にならない)という問題があった。

良好な速度が得られるのは局舎から線路長で数キロメートル程度とされており、大都市部など人口密集地ではほぼ問題にはならなかったが、線路長が10km以上になることもある過疎地や中山間部では満足にADSLサービスを受けられない地域もあった。

また、NTT地域会社では通信網の幹線部分の光ファイバー化を推進していたため、加入者側の末端がメタル回線でも局舎と分岐器の間の幹線部分が光回線となっている「光収容」の場合にはADSLを利用できず、メタル線への「収容替え」を申請しなければならなかった。

歴史

1980年代のパソコン通信から1990年代半ばのインターネット普及の初期に主流だったアナログモデムによるダイヤルアップ接続は、接続事業者の拠点に発呼して通話状態を確立し、データを音声信号に変換してモデム同士で「通話」するというもので、通信速度は数十kbpsキロビット毎秒)程度が限界で、回線を占有するため通話と同時に通信できず、通話と同じように通信時間に応じて従量課金されるという代物だった。

ADSLの実用化はアメリカが先行し、日本では1990年代終わりに導入機運が高まったものの、電話回線を所有・運営するNTT東日本NTT西日本は当時推進していたISDNINSネット)との信号の干渉などを理由に当初は難色を示した。

2000年初頭に東京めたりっく通信(当時)が東京23区の一部で商用ADSLサービスを開始すると開通待ちとなるほどの人気を博し、アッカ・ネットワークスやイー・アクセスなど新興事業者の参入も相次いだ。ついにはNTT地域会社でも「フレッツサービスの一環として「フレッツ・ADSL」を開始するに至った。

2000年代半ばになると次第にNTT地域会社による光ファイバー回線の敷設が進み、Bフレッツフレッツ光など100Mbps以上の超高速なFTTHサービスがADSLと遜色ない料金で提供されるようになった。ADSL加入者数は2006年初め頃をピークに減少し始め、光ファイバーによるインターネット接続サービスへの乗り換えが進行していった。

(2018.9.5更新)

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この記事の著者 : (株)インセプト IT用語辞典 e-Words 編集部
1997年8月より「IT用語辞典 e-Words」を執筆・編集しています。累計公開記事数は1万ページ以上、累計サイト訪問者数は1億人以上です。学術論文や官公庁の資料などへも多数の記事が引用・参照されています。
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