量子ゲート【quantum gate】
概要

現在のコンピュータが扱う情報の単位である「ビット」(bit)は「0」または「1」のいずれかの値を取るが、量子コンピュータが扱う「量子ビット」(qubit)は0と1が重なり合った状態を取ることができる。量子ゲートはこの重ね合わせ状態や、「位相」(phase)と呼ばれる量子的な性質を変換する操作であり、量子計算における最小の処理単位となる。
量子ゲートによる演算は数学的には行列の積として記述される。量子ビットの状態を表すベクトルにゲートに対応する行列を作用させることで新たな状態が得られる。このとき演算は可逆であり、任意のゲートには逆演算が存在する。これは演算後に元の状態を復元できない不可逆な論理ゲートを多く含む従来のコンピュータとは異なる性質である。
代表的な量子ゲートとして、量子ビットを反転させる「Xゲート」、確定した状態を均等な重ね合わせ状態に変換する「Hゲート」(アダマールゲート)、位相を変化させる「Zゲート」などがある。XゲートはNOTゲートに相当する最も基本的なゲートであり、Hゲートは量子アルゴリズムの初期化処理で広く用いられる。
複数の量子ビットに作用するゲートとして、「CNOTゲート」がある。制御ビットの値が「1」のときだけターゲットビットを反転させるもので、Hゲートと組み合わせることで量子もつれ状態を生成できる。量子もつれは量子テレポーテーションや量子誤り訂正など、様々な量子プロトコルで利用される。
量子ゲートを特定の順序で接続したものを「量子回路」(quantum circuit)と言い、これが量子コンピュータのプログラムに相当する。量子フーリエ変換や素因数分解などの量子アルゴリズムも、多数の量子ゲートを組み合わせた量子回路として表現される。量子ゲートの実現方法は量子コンピュータの方式によって異なる。超伝導回路方式ではマイクロ波パルス、イオントラップ方式ではレーザー光を照射して量子状態を制御する。演算の精度は「ゲート忠実度」と呼ばれる指標で評価され、ノイズや環境の影響によって精度が低下しやすいことが主要な課題となっている。