読み方 : あんもくち

暗黙知【implicit knowledge】

概要

暗黙知とは経験や勘、直感を通じて個人の内側に蓄積された知識のうち、言葉や数式、図などで明確に表現することが難しいもの。本人が実際に使いこなしていても、その内容を体系的に説明できるとは限らない知識のことで、文書などの形で記録された「形式知」と対比される。
暗黙知のイメージ画像

自転車の乗り方や、職人が工具を扱う際の力加減、熟練した営業担当者が商談相手の反応から提案のタイミングを見極める感覚などが典型例である。意識しなくても体が動く状態や、結果は出せても理由をうまく説明できない状態で、明示的に他者に伝えることは容易ではない。

これに対し、文章や図、数式、数値データなどの形で表現できる知識は「形式知」(explicit knowledge)と呼ばれる。業務手順書や設計書、操作マニュアルなどが代表例で、複製や共有が容易である。暗黙知は個人の経験や身体感覚と結び付いているため外部化が難しく、人から人への指導や反復練習を通じて習得されることが多い。

この概念は、哲学者マイケル・ポランニー(Michael Polanyi)が1966年の著作『The Tacit Dimension』(邦題:暗黙知の次元)で提唱した。人間が言葉で説明できる事象は認識している内容の一部に過ぎず、その他に表現できない知識が存在することを説いた。その後、経営学者の野中郁次郎らが1990年代に企業経営や組織論の文脈へ取り入れ、「知識創造理論」として発展させたことで広く知られるようになった。

知識を性質に基づいて段階的に整理したモデルとして「SECIモデル」がよく知られている。組織においては、個人が持つ暗黙知を対話や図解、文書化などによって形式知へ変換し、それを組織全体で共有しながら新たな知識を生み出す過程が示されている。新人教育や技術継承の場面では文書だけでは不十分であり、実演や観察、対話を組み合わせることが重要とされる。

ITの分野でも、ベテラン技術者のノウハウやサポート担当者が経験的に得たトラブル対処のコツは属人化しやすく、これをいかに組織内で共有・継承するかがナレッジマネジメントの中心的な課題となっている。近年では生成AIの発展により、大量のデータから明文化されていないパターンを捉える技術が、暗黙知の一部を形式知に近づける手段として注目されている。

(2026.7.19更新)
 
この記事の著者 : (株)インセプト IT用語辞典 e-Words 編集部
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