形式知【explicit knowledge】
概要

組織内で形式知はマニュアルや設計書、仕様書、手順書、データベースなどの形で記録される。特定の人の頭の中だけにある過去の経験や物事のコツなどとは異なり、第三者が参照して新たな知識として吸収したり、同じ品質の作業を再現することが可能となる。
形式知として記録された知識は、検索や分類がしやすく、情報システムや文書管理システムに蓄積して必要な場面で取り出せる。担当者の異動や退職があっても知識を組織内に残しやすく、教育や引き継ぎにも利用できる。同じ手順や基準に基づいて作業を進められることから、品質のばらつきを抑える効果も期待できる。
一方、熟練者の判断の勘所や微妙な力加減、状況に応じた対応方法などは、言葉や数値などで表現しにくく、形式知として他者に伝えたり記録に残すことが難しい。このような知識は「暗黙知」(implicit knowledge)と呼ばれ、実際の業務では形式知と暗黙知の両方が用いられることになる。企業などの組織では、個人が持つ暗黙知をいかに形式知へ変換し、共有可能な状態にするかが課題となる。
この考え方は、哲学者マイケル・ポランニー(Michael Polanyi)が提示した暗黙知の概念との対比から知られるようになり、経営学者の野中郁次郎らによる「知識創造理論」や、情報システムにおける「ナレッジマネジメント」の発展を通じて定着した。企業経営だけでなく行政機関や教育機関、研究開発、ソフトウェア開発など様々な分野で利用されている。
情報システムの開発や運用でも、各工程の検討内容や決定内容を要件定義書や設計書、テスト仕様書、運用手順書などとして形式知化することで、開発担当者や運用担当者が共通の認識を持ちやすくなり、保守や機能追加も進めやすくなる。近年ではナレッジベースや社内Wiki、生成AIを活用した検索環境の普及により、蓄積された形式知を業務へ活用する取り組みが広がっている。