伝送損失【transmission loss】
伝送損失とは?

電波は送信アンテナから放射されると、電球の光が四方に広がるように空間へ拡散していく。エネルギーは距離の二乗に反比例して薄まっていくため、距離が二倍になると受信側の信号強度はおよそ四分の一になる。遮蔽物のない環境でもこの拡散による減衰は避けられず、「自由空間損失」と呼ばれる。また、周波数が高いほど同じ距離での損失が大きくなるため、5GHz帯のWi-Fiは2.4GHz帯より到達距離が短くなりやすい。ミリ波など極めて高い周波数を使う通信では、この傾向がさらに顕著になる。
実際の環境では、障害物による減衰が自由空間損失に上乗せされる。電波がコンクリートや木材を通過する際には一部が熱エネルギーに変換されて弱まり、金属面では強く反射される。空気中の水蒸気や雨滴も特定の周波数帯の電波を吸収する。また、反射によって複数の経路を通った電波が受信機で重なり合うと、位相のずれから信号が打ち消し合う「マルチパスフェージング」現象が起きる。屋内や都市部では建物による遮蔽や反射が重なるため、見通しのよい屋外に比べて損失が著しく大きくなる。
このような損失の度合いを表すのが伝送損失、単位は「dB」(デシベル)である。送信電力と受信電力の差を対数で示した値で、損失が3dBであれば受信電力が送信電力のおよそ半分になることを意味する。損失が大きいほど、より強い送信出力か、より高感度な受信機が必要になる。通信システムの設計では、送信出力、アンテナ性能、伝送損失、受信感度をまとめて「リンクバジェット」として計算し、通信が成立するための電力余裕を事前に見積もる。
有線通信でも同様の現象は生じる。光ファイバーでは光の吸収や散乱でエネルギーが失われ、長距離の伝送では中継器を設けて信号を増幅する必要がある。銅線ケーブルでも電気抵抗や静電容量の影響で距離が伸びるほど信号は弱まり、高い周波数ほど損失が増す傾向は有線でも変わらない。いずれの媒体でも、信号が受信に必要な水準を下回る前に増幅や中継で補うことが長距離通信の前提となる。