ワンタイムパッド【OTP】One-Time Pad
別名 :バーナム暗号/Vernam cipher

1917年に当時のAT&T社のエンジニアだったギルバート・バーナム(Gilbert S. Vernam)がテレタイプ通信向けに考案した暗号方式である。仕組みはシンプルで、送信したいメッセージ(平文)の各文字と、それと同じ長さのランダムな文字列(鍵)を1文字ずつ対応させ、XOR演算などの論理演算によって暗号文を生成する。受信者は同じ鍵を持っていれば、同じ演算を施すだけで元のメッセージを復元できる。
この暗号が「解読不可能」とされる根拠は、1949年にクロード・シャノンが情報理論の観点から数学的に証明した。鍵が真にランダムであり、平文と同じ長さで、かつ一度しか使用されない場合、暗号文からは平文に関する一切の情報が得られない。攻撃者がどれだけ計算資源を投じても、理論上は解読の手がかりが存在しないのである。
歴史的には、コンピュータの普及以前から紙と鉛筆で復号計算を行うワンタイムパッドが外交やスパイ活動などに用いられていた記録がある。冷戦期には、アメリカ合衆国とソビエト連邦の首脳間でホットラインを開設する際、双方とも相手に自国の高度な暗号技術を開示したくないという思惑から、大使館を経由して乱数列を交換し、ワンタイムパッドで暗号通信していたとされる。
一方、実用上には大きな制約がある。鍵の長さが平文と同じでなければならないため、大量のデータを送る場合には膨大な鍵を事前に安全な方法で共有しておく必要がある。また、同じ鍵を二度使用した瞬間に安全性は崩れ、解読の足がかりを与えてしまう。鍵の管理と配送のコストが現実的な運用の壁となっており、実際の適用場面は極めて限られる。