インセプションデッキ【inception deck】

概要

インセプションデッキとは、プロジェクトの開始時にチーム全員で共通の目的や期待値をすり合わせるために作成される、十個の質問への回答を簡潔にまとめた文書。主にアジャイル開発で用いられる技法で、開発の方向性を明確にし、関係者間の認識のズレを防ぐための羅針盤として機能する。
インセプションデッキのイメージ画像

アジャイル開発においては、状況の変化に応じて計画を柔軟に変更することが求められるが、その前提として「なぜこのプロジェクトを行うのか」という根本的な合意が不可欠である。インセプションデッキは、単なる要件の羅列ではなく、プロジェクトの背景や価値、トレードオフなどを視覚化することでメンバー間の認識を揃える。

具体的には、次の「10の質問」をメンバー全員で討議し、答えを簡潔にまとめる。結果はメンバーで共有し、プロジェクトの基本方針として随時参照する。

  1. 我々はなぜここにいるのか (目的・背景)
  2. エレベーターピッチ (何をする製品かを簡潔に)
  3. 製品パッケージ (製品の魅力を表すデザイン案)
  4. やらないことリスト (範囲外を明確にする)
  5. 「ご近所さん」を探せ (関係者の特定)
  6. 解決策を描く (技術的な構成の検討)
  7. 夜も眠れない問題は? (課題やリスクと対策)
  8. サイズを測る (期間の目安を決める)
  9. トレードオフスライダー (何を諦めるのか決める)
  10. 何がどれだけ必要か (必要な資源の定義)

なお、「エレベーターピッチ」(elevator pitch)とは、エレベーターに乗っている数十秒の短い時間でも簡潔に内容を伝えることができるプレゼンテーション技法を指す。また、「トレードオフスライダー」(trade-off slider)は、「あちらを立てればこちらが立たず」の二律背反な関係の二項目について、スライダーバーを動かすようにどちらをどの程度優先するか決めておくことを表している。

これらの質問の答えをチーム全員や顧客と共に作成するプロセスそのものが、相互理解を深め、一丸となって目標に向かうため共通意識の醸成に繋がるとされる。完成したデッキは一度作って終わりではなく、プロジェクトが進む中で常に参照され、必要に応じて更新される生きた文書として扱われる。

この記事の著者 : (株)インセプト IT用語辞典 e-Words 編集部
1997年8月より「IT用語辞典 e-Words」を執筆・編集しています。累計公開記事数は1万ページ以上、累計サイト訪問者数は1億人以上です。学術論文や官公庁の資料などへも多数の記事が引用・参照されています。